XI秘密兵器戦・大轟天
XI秘密兵器戦・大轟天


●鋤島マシン一号『大轟天』 -XI vs Ayakashi-
「『妖』なんぞ、この鋤島マシン一号で音を上げさせてくれるわぁぁぁ!」
 XI傘下! 鋤島研究所! 代表! 鋤島世朗《すきしま せろう》!
 ピンクの髪をして細身、白衣、典型的なる物理学者45歳!
 物理学者が自ら駆る鉄の要塞、それは炊飯器の如きフォルムである。
 下部から、昆虫の如く多脚が生えていて、あわせて5mほどの多脚型歩行戦車だ!
 これがドシンドシンと繁華街を闊歩する。
 XIがここまで大がかりな兵器を出した理由はただ一つ。此度の敵は『妖』なのだ。
「ブモオオオオオオ!」
 咆吼を上げたものは2mはあろう、斧を持つ牛の鬼。
 ランク2上位に位置する牛鬼の化け物だ。
 牛鬼が斧を振りかざして突っ込む。迎えうつ科学の力。
 周囲に通行人はいない。一般人の避難およびKEEP OUTテープはばっちりだ。
「受けよ! 見さらせ! 大陸弾道ドリルバンカーーーーッ!」
 炊飯器の側面から、左右にロボ腕が生える。
 ロボ腕の上腕部分に搭載された砲塔、砲塔の側面からタケノコの如きドリルが、銃帯のごとく連なって生えている。
 場に金切り声のごとき音が響く。これはドリルの回転音!
 装填される火薬。これはパイルバンカーの射出装置!
「これが物理学なのだッ!」
 左右のドリルバンカーから発射されたドリル。ドリルをパイルバンカーのごとく発射するという仰天発想。
 牛鬼は、射出されたタケノコのごときものを一瞬だけ斧で受け止めた。
 受け止めたが、ドリルの螺旋、火花を上げて斧刃を貫通す。
 図体の真ん中に、ぽっかりと2つの穴が開き――たちまち牛鬼は雄叫びを上げて憤死した。
「大・轟・天! ワッハッハッハッハッハッハ! 次はにょっき助手を助けにいくか!」
 威力は絶大。
 大笑いをして勝利の余韻を噛みしめる鋤島世朗。
 しかし、撤収だという段階で異変が生じた。
「む!? なんだ? 歩行が止まらん!?」
 鋤島はガチャガチャとレバーを操作する。鉄の要塞は真っ直ぐに歩行を続ける。
 意図に反して、多脚型の炊飯器の上部ハッチが開き、対空火炎放射器がごおおおおと空へ火炎放射する。
「これはまさか『妖』化か!? にょっき助手! 助けてくれ! ――って、F.i.V.E.に捕まったんだったあぁぁぁ!」
 対空火炎放射器が搭載された上部ハッチから、ボビンのような物がげろりと吐き出される。


●物質系『妖』鋤島マシン一号! -Hell-raiser-
「敵は物質型『妖』ランク3。識別名『大轟天』。XIが秘密兵器の開発を委託していた『鋤島研究所』の多脚型の歩行戦車」
 樒・飴色(nCL2000110)がモニタに映し出した映像は、炊飯器の如きフォルムから昆虫の如く多脚が生えている。5mほどの鉄の塊。
 かくて、歩行戦車という単語が飛びだした。
 現実として脚を持つ戦車の利点は、市街戦や山岳戦での機動力。
 そして障害物を乗り越えられる部分において無限機動《キャタピラ》より踏破能力が高いことが挙げられる。
 この一方、車高が高くなることや、メンテナンス性に難ありなどデメリットのほうが大きい。
 多脚型は、二脚型よりはまだ現実的であるのだが、コストを鑑みたとき『あると便利だが無くてもよい』という分類なのだ。
「XIは何故こんなものを?」
 と、覚者の一人が質問する。
「対大型『妖』兵器ね。山中でも市街地でも、どこでも踏破できて『妖』を倒しに行ける。そういうコンセプトらしいわ。派手なもので世間にアピールするのも兼ねて」
 XIが世間の目から冷ややかに見られ始めた経緯は、AAAの崩壊が全国に知らされた事に起因している。
 そもそも『妖』を疎かにして、覚者ばかりを狙っていた活動背景からして、自業自得である。
 一応、この『鋤島研究所』なるXIの木っ端組織は、その辺りの優先順位は弁えているらしい。
「鹵獲したいところだけど『妖』だから、破壊して解体ね。中にいる鋤島の生死は問わない。多脚型戦車がもし爆発したら――身柄の確保が間に合わないかもしれない」
 そこは出来る限り、と話しを切った飴色は、悪そうな顔のまま端末を操作する。
「今回、XIからの押収品を貸し出すわ。薫くん(nCL2000092)が研究中だから個人所有にはできないけれど、良かったら活用して頂戴」
 画面には、良く分からない機器の写真が並んでいた。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:難
担当ST:そうすけ
■成功条件
1.鋤島マシン一号『大轟天』の撃破
2.なし
3.なし
 Celloskiiです。
 XI傘下、鋤島研究所。鋤島(が作った多脚戦車)戦。
 前回を知らなくても問題ありません。
 貸与品がありますので、よろしければご利用ください。
 以下詳細。


●ロケーション
・夜。
・明るい繁華街。
・戦うには十分な広さがあります。
・人払いの必要はありません。
・牛鬼の妖は倒されています。


●エネミーデータ・妖
鋤島マシン一号『大轟天』
 XIの秘密兵器。物質系『妖』ランク3。
 巨大な炊飯器に多脚をはやしたような多脚型歩行戦車。
 人間では装備できないような、非現実的な武装をもりもり搭載。お察し兵器。
 無尽蔵に『横回転式空中浮遊ボビン』を製造することや、手番消費無しの攻撃も有するため、通常のランク3より遥かに強力です。
A:
 ・対空火炎放射器             神近列  異:[火傷]  中ダメージ
 ・二連装88mm大陸弾道ドリルバンカー   物遠貫3  異:[致命] 大ダメージ 追:[解除]
P:
 ・ボビン・プラント
  毎ターン、上部ハッチより後述『横回転式空中浮遊ボビン』が2機出てきます。
  また『横回転式空中浮遊ボビン』が1機以上いると、状態異常を受け付けません。
  特定の部位狙いで、無効化出来る可能性があります。

 ・オートマチックアンカー
  鋤島マシン一号『大轟天』の行動時、任意対象一人を前衛位置に引き寄せます。固定値の小ダメージ。
  命中度判定は都度行い、100%ヒット以上で引き寄せられます。


横回転式空中浮遊ボビン
 直径50cmほどの可愛いパンジャンドラム。物質系『妖』。最初に『大轟天』の近くに2体います。
 耐久力は低めです。ランク2相当の攻撃力を持ちます。
 車輪のように突っ込むではなく、ジェットエンジンでフリスビーのように横回転しながらスロウリィに突っ込んできます。
A:
 ・自爆特攻        物近列 中ダメージ 反動で消滅します
P:
 ・高度飛行
  『飛行』を持たないとブロックできません。
   3m以上高くあがっても、マイナス効果を受けません。


●貸与品
・プレイングの最初に下記アルファベットを記載して頂ければ読み取ります
・現在装備している得物と、任意タイミングで切り替えて使用可能とします。
・どれか一つだけ指定してください。

A.戦術手榴弾
 IXからの押収品。ボビンを列で狙える、爆発範囲をおさえた手榴弾です。
 性能:物攻+100 物遠列 異:[火傷] 使用回数制限:なし

B.火炎放射器
 IXからの押収品。ボビンを貫通で狙える、汚物消毒用の火炎放射器です。
 性能:物攻+90 神攻+90 物近貫2 異:[火傷] 使用回数制限:なし

C.三次元殺法装置
 IX『鋤島研究所』からの押収品。6ターンの間、限定的に「技能:飛行」に近い機動力を得ます。
 大型の敵やオブジェにワイヤー付きのアンカーを撃ち込み、強力な巻き取り機で、三次元的な動きを可能とする装置です。
 性能:自付与扱い。『飛行』 使用回数制限:2


●飛行しながらの戦闘について(マニュアル抜粋)
 翼の因子持ちなど飛行可能なキャラクターは戦闘中も飛行する事が可能です。
 また3メートル未満の範囲での飛行は通常と同じ判定が行われます。

 3メートルを超える高さでの飛行を行う場合
 ・何らかの方法で近接しない限りは近接攻撃は自身も敵も行う事が出来ません。
 ・防御力に大きなマイナス修正を受けます。
 (物理防御力-50%、特殊防御力-50%)

状態
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年10月01日

■メイン参加者 8人■



 丸く突き出た白い腹部が、赤や黄色の電飾が映えて紅葉したかのように染まる霧の中からぬっと現れた。無人の繁華街を、異形にして巨躯の妖――大轟天がアスファルトを震わせながら行く。頭上に糸巻き、もとい下部のライトを青く光らせた横回転式空中浮遊ボビンを二機引き連れて。
「あ、いたた! ライライさん、違う、違うよ」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は守護使役のライライさんのくちばしから頭をかばった。
「妖を格好良く演出するために術を――『迷霧』を使ったんじゃないから!」
 その言葉を裏付けるように、靴底に感じる揺れが弱くなった。
 大轟天自身も力の弱まりを感じたらしく、戸惑いながら多足の歩みを止める。
 ライライさんは奏空の頭から一本、二本、金色の毛を引き抜いてから、霧の中、黄色い線を引くようにして妖の上へ飛んで行った。
 出力低下の原因が足元にあるとでも思ったのか、母体の異変を察した二機のボビンが霧の中を滑るように空から降りて来た。
「返り討ちされに来ていればよかったものを……いらん手間を増やしてくれる」
 『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019) が放つ怒りと苛立ちの波動に磨かれて、手にした沙門叢雲の刀身から青緑が剥がれ落ち、真昼の太陽のように白くまぶしく輝く。
 連続して振りぬかれた沙門叢雲から閃光が放たれた。
 アスファルトを裂きながら走った閃光が、地上すれすれまで降りてきていたボビンの底で跳ね上がる。
 強力な突きあげをくらった二機のホビンは、機体を揺らしながら上昇を始めた。
(「アレを利用させてもらいましょう」)
 『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は定位置に戻ろうとしているホビンの底にアンカーを打ち込こんだ。すかさず三次元殺法装置の巻き取り機を駆動させて、地を蹴る。
 ほどほどの高さに達しすると、重石をつけられたことで失速したホビンからアンカーを離し、その上を飛んでいたもう一機のホビンへ打ち込み直した。
 直後、真下で小さな爆発が起こった。
 見ると、槍をもった『烏山椒』榊原 時雨(CL2000418)が大轟天の上部側面にアンカーを打ち込んだところだった。
 今度は頭の上で小爆発が起こった。
 アンカーごとゆるんだワイヤーが火の粉とともに落ちてくる。
 あ、と思う間もなく、ラーラ自身も地上に向かって落ち始めた。
「大丈夫や」
「榊原さん!」
 アンカーに手繰り寄せられるを利用して上昇した時雨が、すれ違いざま、落ちるラーラの手を取った。二人で妖の上に降り立つ。
「ありがとうございます。助かりました」
「あー……なんというか、アレや。有名な失敗……もとい、トンデモ兵器やね」
 それにしても、と時雨がため息をこぼす。
「パンジャンドラムつーか、ただの糸巻きちゅーか。これかてキモイ炊飯器のバケモンやし。まぁ、傍迷惑極まりないんのは間違いないから、頑張って壊してこか!」
 ですね、と至極真面目に返事しつつ、ラーラはエナミースキャンを発動させた。
「ランク3ということは知性も持っている可能性があると言うこと、速やかに止めないといけませんね」
 大轟天は妖化した効果で、己の頭に乗った敵の存在を直に感じていた。ウザい――と思ったかどうかは分からないが、異物を排除すべく直ちに行動を起こす。上部ハッチを開いて対空火炎放射器をあらわにし、火炎を放射したのだ。
 ゴーと音を轟かせて、オレンジ色の火炎が夜空へ伸びていく。発射口から大量に吹き溢れた熱い白い煙がラーラと時雨をのみ込んだ。
 地上では桂木・日那乃(CL2000941)が、降り注ぐ火雨の中を大轟天の足元まで引き寄せられていた。
<「ごめん……下がる、ね。誰か、みんなの、回復、お願い」>
 日那乃は、一旦は回復支援のために広げた魔道書を閉じながら、仲間たちに向けて攻撃を受けたことを報告した。
 事前に打ち合わせていたとおり、元のポジションへの復帰を最優先しつつも、ものは試しと、大轟天の腹の中にいる鋤島世朗(すきしま せろう)にも念波を送ってみる。
(「……反応、ない。妖の中に、いる、から……声が、届かない?」)
 自らハッチを開いて出てきてくれたなら、飛んで助けに行ってあげるのに。
(「死んだら……助手のひとが、哀しむ、かも。だし??」)
 だが、そんな日那乃の思いは通じずに、大轟天の上から飛び出て来たのは、またしてもあのパンジャンドラムもどき二機であった。
 なおも上部に留まり続けていた覚者二名に向かって、新たに出現したホビンが滑空する。清廉珀香の香りが火傷を軽くしていたが、二人はまだ受けたダメージから立ち直っていない。身動きできない彼女たちにぶつかって自爆する気だ。
 上空で偵察していたライライさんが、鋭い鳴き声を上げて二人の危機を奏空に知らせた。
「ダメだ、いまから飛んでも間に合わない!」
 その時、楠瀬 ことこ(CL2000498)が名乗りを上げた。
「ことこちゃん参上☆いぇいっ!」
 ことこの体の回りで渦巻く神秘の葉が、きらめく電飾の明かりを受けてミラーボールのごとく七色の光を飛ばし、大轟天の腹の上に色とりどりの水玉模様を浮かびあがらせる。
 空中ステージで白いエレキギターの弦を派手にかき鳴らして、ホビンの気を引いた。
 果たして、ホビン二機は軌道を変えた。上空から落ちるようにしてことこに突っ込む。
 ホビンの一機がことこの周りを囲っていた木の葉に突っ込み、光の破片に変えて落とす。のこりの一機が翼を翻して逃げようとしていたことこを捉え、爆発した。
「い、いた~い……でも。あいどるだもん! 笑顔でしっかりやる事やるよーっ!」
 晴れていく黒煙の中で気丈にも笑顔を見せる。がすぐに痛みに顔をしかめた。
『恋結びの少女』白詰・小百合(CL2001552)は、迷うことなくことこに大樹の息吹をかけた。その一方で、
 大轟天の上へ戻っていくホビンを、鷹のように鋭い目で追いかける。が、追撃を仕掛けるには離れすぎていた。
(「しかし……何とも大きい戦車……ですね」)
 これほど大きなものは見たことがない。いや、戦車自体、実際に目にするのは初めてなのだが……昆虫のような足を生やしたこれは戦車と呼んでいいのだろうか?
 ぶるん、と機体を震わせて、大轟天が再び歩きだした。複数の足が一度に踏み出された衝撃で、色づき始めたばかりのイチョウの葉がバサリバサリと落ちる。
「大・轟・天―!」
 妖は背面から蒸気を下に向けて拭き出しながら、いかにもデジタルな合成声音で吼えた。
(「……やはり外の世界は……凄いです!」)
 これを作った博士を尊敬します。小百合は無邪気に感激したものの、妖の足が葉とともに落ちた青い実を踏み潰したとたん、顔をしかめてしまった。袖の先で急いで鼻を覆う。
 普通、街路樹などには雄の木のみが植えられるものだが、ここはそうではなかったらしい。銀杏独特の悪臭があたりに広がった。
「アア、赤貴君たちプリティボーイズが悪臭に苦しんでいるデス! いま、リーネお姉さんが助けに行きマスですヨ!!」
 『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)はビルの壁に打ち込んだアンカーを外すと、空中で半回転。二枚の戦盾で体の前に角を作り、ホビンの真上から追突した。爆風と煙を破って木っ端になった残骸とともに落ち、着地すると同時に戦盾を力強く左右に広げる。風を起こして悪臭を吹き払った。
「いまのうちに口と鼻を覆ってクダサイ」
 ちなみに、奏空や赤貴とともに日那乃も銀杏の悪臭に襲われていたが、こちらは守護使役マリンの力で無呼吸行動――つまり、悪臭を嗅がずにすんでいる。
「……って、何デスカ、この臭い!? ウウウ……ク、クサイ」
 潰れた銀杏の臭いが、再び濃く辺りを漂いだした。
 悪臭によろめいたリーネのすぐ真横に、昆虫のような妖の足が降ろされる。
「リーネさん、危ない!」 
 赤貴は咄嗟に腕を伸ばしてリーネの手を取った。そのまま強く引っ張り寄せると、勢いづいたリーネがぶつかってきて、倒れてしまった。
「うわぁ!」
「こ、これはラッキー? ……デスネ♪」
「ラッキーとか言ってる場合か、早く降りてくれ!」
 日那乃は重なりあったふたりの上にも、潤しの雨を降り注いだ。


 リーネを体の上から降ろして、赤貴は立ち上がった。
「まだか?!」
 このまま大轟天が進めば繁華街を抜けて駅前に出てしまう。先の戦い――妖の牛鬼とまだ鋤島の制御下にあったマシン一号『大轟天』との戦いで、人々はすっかりいなくなっていたが、電車が新たに運んでくる人たちまでは排除できない。なんとか、ここで進撃をくい止めねばならないのだが――。
「まだ、解析は終わらないのか!」
 赤貴はたくさんある足の一本に切りかかりながら、再び声を上げた。
 三次元殺法装置を使って飛び上がった奏空は、下から上にかけて妖をじっくりとスキャンした。
 ライライさんとラーラ、時雨によってすでにホビンの発射口は特定されているが、依然として憤怒者の鋤島が座る操縦席の位置が判明していない。もしもいま、大轟天を攻撃して爆発させてしまえば、中にいる鋤島も一緒に燃えてしまうだろう。
「何とか殺さない様に皆さん、お願いシマスネ?」
「もちろん! 助けるつもりだよ」
 奏空は落下し始めた体を回して、着地の体勢を取った。
 これだけのものを作るすごい技術があるのだ、人類共通の敵である妖をともに倒していくことができれば……。いつか分かり合う日が来るかもしれない。そのためにも、奏空は鋤島を助け出すと決意していた。
「赤貴くんも、ネ?」
「ああ、わかっている」
 体の芯から発した憤りで、赤貴の銀髪は逆立っていた。
(「前回の、助手への同意なし投薬は看過しえぬものがあったからな」)
 やつには助手のにょっきに仕掛けたものを解かせねばならぬ。何があっても死なせるものか。子供の未来を理不尽に奪おうとした外道には、この世できっちり罪を償ってもらう。
 リーネと並んで防衛ラインを築き、多脚への切り込みで進行を阻害しながら、心の中で毒づく。
 赤貴に危ういものを感じたリーネは、不安げなまなざしを向けた。
(「鋤島サンは元凶デスケド……赤貴君も一言いいたいみたいデスシ」)
 このまま操縦席の位置が特定されずにやむなく攻撃、爆発を起こしたら? リーネは我が身の安全を顧みずに炎の中に飛び込んで、鋤島を助けようと決めた。
(「こんなことを考えているなんてバレたら、赤貴君に怒られソウデスネ。フフ……」)
 微かに漏れた笑い声を聞きとって、赤貴が振り向いた。
「なんでもアリマセーン。ほら、戦いに集中しないとデス!」
 ――と、その時、妖の異変を察した奏空が声を上げた。
 警告の声にかぶさるようにしてパカン、パカンと間の抜けた音がたち、炊飯器のような妖のボディ左右から腕が伸び出てきた。ゴウンという爆発音を発してタケノコのような形をした回転ドリルが、地上に向けて複数放たれた。
 ドリルは着弾するなりアスファルトを溶かし抉りながら地面にもぐりこみ、覚者たちの足元まで進んでで爆発した。
 大小無数の燃えるアスファルト片が猛烈な勢いで空に吹き上がる。
 オートマチックアンカーで引き寄せたことこと、彼女の手を取って引きとどめようとした小百合も吹き上がった人工マグマに巻き込まれた。
「ことこー、みんなー!!」
 時雨は眼下の惨状に歯を食いしばった。
 ぐったりとしたライバルの小さなシルエットから無理やり視線を剥がすと、ハッチから打ちあげられた二機のホビンに殺意を向けた。
「ちょっと可愛い感じもするけど、ようはアンタら爆弾やろ。邪魔や、鬱陶しい! さっさと爆発して」
 怒りとともにホビンにむけて突きあげた槍の先から波動弾を飛ばす。
 時雨の攻撃は前にいたホビンの真ん中を打ちぬいて貫いて爆発させたが、後ろに隠れたホビンは上部回転盤の一部を吹き飛ばすにとどまった。
 上手く浮かんでいられなくなったホビンが、日那乃が降らせる癒しの雨の中を、へろへろと落ちて行く。
「……ことこ、あかんわ。『ぱんじゃんどらむ』もどき、やっぱりインテリアには向けへんで」
「解析が終わりました!」
 日那乃はラーラの言葉をキャッチすると、やはり送受心・改を使ってなんとか息を吹き返した仲間たち全員に伝えた。
<「鋤島博士は大轟天の上部前面部に。妖化の際に搭乗ハッチのフタが変形したのでしょうか? ゆがんで、体にくついてしまっています」>
 しかも、操縦席を包むように燃料タンクが配置されており、うかつに近辺で火花を散らせば大爆発が起こる可能性が高かった。そのため、妖上部からの博士救出は困難だと、ラーラは結論を出した。
「こっちも解析が終わったよ。底の真ん中にメンテナンス用のハッチがある。操縦席の真後ろまで梯子がかかっているから、そこから博士に脱出してもらおう!」
 奏空の言葉をやや遅れて日那乃が中継する。
 奏空は二振りの刀を羅刹のごとく振るって斬撃波を飛ばした。落ちて来たホビンとともに大轟天の後脚を数本刈り取る。
 妖の体が後ろに大きく傾いた。
<「では、私はいまより燃料タンクを爆発させないように、ボビン・プラントの無効化を試みます」>
<「うちは操縦席のハッチがなんとか開けられへんか、ちょっと頑張ってみるわ」>
 尻を上げようともがく妖の前脚が、意図せずして覚者たちに襲い掛かった。
 リーネが二枚の戦盾を体の前に立ててブロックする。
「このままやられっぱなしじゃアイドル失格だね! 楠瀬ことこ――いっくよー!!」
 元気いっぱい、翼を広げてことこが飛び立つ。リーネの盾に弾かれて横へ流れた脚に次々と、歌いながらエアブリッドを叩き込んだ。
「さて、私も頑張らねばなりませんね。解析も済んだようですし、プラントの無効化に尽力しましょう」
 小百合は純白の袖からガンナイフを取りだした。気弾を装填すると、あえて狙いを定めずに細い指で引き金を引き絞った。ことこに切離されてうねり、のたうち回っていた脚に次々と被弾させ、吹き飛ばしていく。
 脚の大部分を失った大轟天が、両腕を地面に突きたてて体を起こし始めた。
「赤貴君、奏空君、早く行ってクダサイ! 完全に起き上がられると面倒デス!」
 奏空が見つけたメンテナンスハッチは炊飯器のようなボディの底、真ん中にある。立ちあがられると手が届かない。三次元殺法装置を使って近づくことはできるだろうが、ハッチの開閉作業中に尻を落とされたら、いかに覚者といえども押し潰れてしまうだろう。ミンチから魂を使って復活――その過程を想像するだけでも身震いする。
 赤貴と奏空は走った。
 妖の下に潜り込み、メンテナンス用ハッチのレバーに飛びつく。開いたハッチの奥を覗き込むと、人一人が登るのがやっとという感じの細い梯子が斜め上に伸びていた。これでは二人同時に上がることはおろか、鋤島を降ろしてくるのも大変だ。
「でも、行くしかないね」
「……ここはオマエに任せた。オレは万が一に備えて炊飯器の前を切り開く」
 赤貴は一旦、妖の下から出ると三次元殺法装置を使って、傾斜のきつい大轟天の前面を登り始めた。
翼を持つことこと小百合のふたりも、翼を使って時雨の手助けに上部へ向かう。
「時雨ぴょん、ことこたちも手伝うよ」
 三人がなんとか搭乗ハッチをこじ開けようと苦戦しているその後ろで、ラーラもまたボビン・プラントの無効化にてこずっていた。
 煌炎の書の封印を解き、高火力でプラントを破壊できればいいのだが、鋤島救出の報が聞こえてこない以上はできない。少しずつ、燃料タンクに影響を及ぼさない範囲でコツコツとダメージを加えていくしか手がないのだ。
(「駄目、間に合わない。また浮遊ホビンが上がってくる。それに――!!?」)
 体の下で複数のシャフトが駆動し始めた。振動が鉄板につけた掌から伝わってくる。妖は浮遊ホビンと一緒に、対空火炎放射器を出すつもりだ。
「逃げて!!」
 ラーラの絶叫を掻き消す大轟音とともに、対空火炎放射器から火炎が吹きだした。
 直後、突然降りだした豪雨が大轟天の上部全体を舐めるように広がろうとしていた炎の舌を掻き消した。
 雨といってもただの雨ではない。
 日那乃が降らせた潤しの雨だ。
<「工藤さん、から、伝言。鋤島さん、気絶してて、降ろせない……って」>
 ガンガンと、中から金属を叩く音が聞こえてきた。鳴らしているのは奏空だろう。
「位置を特定、把握した。桂木、工藤にできるだけ鋤島が座っているシートを後ろに下げろと伝えてくれ」
「わかった」
 赤貴は沙門叢雲を振るって大轟天の前を切り落とした。現れた操縦席からぐったりとした鋤島の体をひっぱり出す。そのままリーネが腕を伸ばして待つ下へ無造作に落とした。
「ご無事で何より……」
 下に降りて鋤島の無事を確認した小百合は、ほっと息をついた。
「安心するのはまだ早いデスヨ」
 リーネとともに急いで、妖から遠ざける。逃げられないように両手足を縛ってビルの影に転がした。
「これで何の心配もなくなりましたね。ペスカ、鍵を!」
「ほな、うちらは『ぱんじゃんどらむ』もどきを叩こうか」
「いえーい☆ことこの本気攻撃、見せてあげる」
 奏空の脱出を待って、覚者たちが一斉攻撃を仕掛ける。
 妖たちに反撃する隙を与えぬ猛攻で、みごと妖化したXI秘密兵器戦・大轟天を撃破。
 鋤島研究所の代表、憤怒者の鋤島世朗を無傷で逮捕した。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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