今日は暑いのだ
●
今日は最高気温36度なのだ。水分補給はこまめにやるといいのだ。
五麟学園のプールも一般開放されているようなのだ。
今日は最高気温36度なのだ。水分補給はこまめにやるといいのだ。
五麟学園のプールも一般開放されているようなのだ。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.イベシナで遊ぶ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●状況
日常パート、7月中旬にして猛暑日
●このイベシナでは何ができるの?
日常イベシナなので、割と自由です
●その他
タグや相手指定するほどでもなく、
適当な誰かと絡んでもいいよっていう方のみ、EXプレで【絡みOK】と書いてください
それが鉢会える状況で、絡めそうであれば描写します。ご縁が無いときもあります
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
それではご縁がありましたら、よろしくお願いします
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
8日
8日
参加費
50LP
50LP
参加人数
24/∞
24/∞
公開日
2017年07月30日
2017年07月30日
■メイン参加者 24人■

●
菊坂 結鹿(CL2000432)は樹神枢と一緒にプールへ来た。
一年ぶり、という感じか。久々の大きな水たまり(?)の前に二人の瞳はきらきらと輝いているのである。
結鹿はふと枢の水着を見た。どんな水着で来るかと思っていたが、今年はワンピース型の年齢相応という感じか。
思えば大人になってビキニを着て来る枢も想像していたのだが、なんとなく結鹿はほっと胸をなでおろした。
「ボクもそこまで大人の姿は使わないのだ」
「今心読んだよね、枢ちゃん!?」
「読んでないのだ」
ちゃぷ、と枢が結鹿の手を引いてプールの中に入る。最初はかなり冷たく感じるのだが、一度頭まで浸かってしまえば、平気平気。
二人で水をかけ合いながら遊んでいたのだが、ふと枢の身体が西園寺 海(CL2001607)とぶつかった。
「すまないのだ。夢中になっていて人がいたのを気づかなかったのだ」
「あ、……大丈夫です。実は泳げなくて、ここら辺なら浅いからと、下ばかり見ていたので……」
そこへ結鹿もずずいと身を乗り出す。
「ほほう」
結鹿が指さすのは、海が持ってきたのであろうイルカやアヒルの玩具や、おはじきやビー玉がぷかぷか。
まるで一体が、海の作った浴場というかなんというか。テリトリーが出来上がっていた。
「きらきらで凄いのだ!」
「うん! どうせなら一緒に遊ぼうよ!」
「あ……えっと、いいの……?」
誰かと遊ぶのは来年のお楽しみと思っていたが、海はここぞと、ぼんやりと笑みを浮かべた。
「まずはウォータースライダー、行かなきゃ!」
「結鹿、それは」
「な、難易度が高いですぅ……」
という会話を隣に、田場 義高(CL2001151)は奥様とお嬢様とご一緒に来ていた。
ほんとは奥様の水着が見たかった――げふんげふんとのことで、幸せな一家が出来上がっていることに、爆発しろという言葉さえ憚られる程にうらやましい限りである。
義高ははじめ、娘の泳ぐ練習に付き合いつつ、場所取りをしたところから奥さんが手を振っていることに気づくと、どことなく鼻の下が伸びるというものだ。
そんな彼の隣では椿屋 ツバメ(CL2001351)がトレーニングも兼ねてのプールに来ている。
ビキニなど肌の露出が多いこのプールにしては、ツバメはガチ泳ぎようのスイムウェアという形で、逆にそれは周囲の目線を引いているようにも思える。
ストレッチをしながら、今日はどれくらい泳いでみるか……虚空を見つめながら思うのだが。
「よし、1kmにしよう」
ツバメは競泳用のプールで、一人、自分との闘いに奔走(この場合は奔泳か)するのであった。
「ほら、あのお姉さんも頑張っているんだから。もうちょっと泳いでみよう」
義高がそう言いながら、娘の手を引くのであった。パパとしての使命を果たすのも、偉大なことなのだ。
天乃 カナタ(CL2001451)は、布団から飛び上がりあまりの暑さにテレビをつけてみると、36度とか死ぬと思い、即時水分補給してからプールまでダッシュした。
遙かに自分の体温より高い温度である外は、じりじりとカナタの肌を焼いていたのだが。
「は~生き返る」
大きな浮輪に乗りながら、ただ流れるプールを周回するだけでこんなにも気持ちが良くなる。
何周かしたころに、ふとプールサイドを見てみれば、守護使役がぐったりと横になっていた。うわ、と飛びあがったカナタは即座に駆け寄ってから。
「ちょっとまってろー!」
水に触れて、それを形を保ったまま守護使役を包むベールにする。それでもなかなかぐったりが治らない守護使役。
これは熱中症というやつなのだろうか、それとも単なる疲れか。
「よし! ジェットスクリューごっこしようぜ!」
「元気ですねえ……」
水行の力を酷使して遊ぶカナタの声が響く中、ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は太陽光を避けて、パラソルの下でカットされたオレンジがグラスに突き刺さるジュースを飲んでいた。
思い立ってジュースを置き、足先からプールに少しずつ浸かっていく。最初はひんやりとしていて、びくっとする水面だが入ってしまえば心地よい冷涼。
ふと隣をみれば守護使役のペスカが、水面をついては距離を取り、それを何度か繰り返して遊んでいた。そんな愛らしい姿に、日頃のストレスやらなにやら全てを忘れて許してしまいそうになる。
そんな時、ちょうどラーラの近くを流れていくツバメ。
このまま魚にでもなってしまおうか――という気分で、浮輪に身をゆだねてただ流れていく。ぼーっと天井だけを見ていたものだから、釣られてラーラも天井を見てみた。
「空が青いですねえ」
「そうだな……」
なんとなく空の白い雲がかき氷に見えたので、ラーラは守護使役を連れてかき氷を買いに行ったのであった。
それとすれ違うようにして、結鹿と海と枢がお昼ご飯を終えて、水面に飛び込んでいく。遠くから飛び込みはいけないと、ピピーッと笛の音が聞こえたが三人は顔を見合わせてからごめんなさいと言ってから笑い合った。
海は福と呼ばれた守護使役を抱えつつ、ふとさっきのおはじきなどがキラキラした水面を撮ればよかったと思った。
西園寺、今迄生きていた中で一生の不覚―――もし、それをきっかけに、友達ができたかもしれなかったのに。
プールの中で拳を握りしめて、酸っぱい表情を浮かべつつも、それから三人は日が暮れるまで遊びつくした訳だが、突然の
「ぽ、ぽいふるーーー!!」
という声に、海はびくっと身体を揺らす。
カナタが酷使していた力で遊んでいた中、どこかへ守護使役が飛んで行ってしまったようであった。
海が自分の足元をみると、彼の守護使役らしきものがぶくぶくぶく……と沈んでいく。
せっせと準備体操をしながら、工藤 奏空さん(CL2000955)は隣にいる賀茂 たまき(CL2000994)に笑いかけた。
たまきはやっと泳げるようになったということで、競泳用のプールで競争――というくだりだ。
早速、よーいドンで飛び出した両選手。
奏空は、男としても余裕で勝てるもの――と思っていたが、そうではないようだ。昨年よりパワーアップしたたまきは、かっぱに習ったとの事で、潜水。その泳ぎはプロのようだ。
これは負けられないと思い奏空も、クロールで水をかく力を強める。
現実的な考えにはなってしまうが、矢張りクロールで泳ぐ奏空のほうがいくらか早い。それについて行こうとするたまきも流石の力なのだが。
先にゴールにタッチしたのは奏空のほうであった。
「ふふ、奏空さん。やっぱり早いですね」
「ううん! たまきちゃんも、すごかったよ!!」
お互いを認め合い、褒め合った。
くたくたになるまで泳ぎ、日が傾く前にプールをあとにした二人。
氷と書かれた布がぶら下がり、ゆらゆらと揺れるそれに引き付けられて、結果そこで休憩していく事となった。
「はわわわ……」
たまきが頼んだイチゴミルクが、溶けて喉の奥から冷たさを感じていく。
奏空は抹茶を頼み、キーーンと頭痛をつつくそれに瞳をぎゅっと閉じた。
「ふふ、奏空さん可笑しい……!」
「あはは、キンキンしちゃった! あ、そうそう、たまきちゃん、古文で分かんないとこあるんだけど……」
「どちらでしょうか……」
テーブルに広げる古文のプリント。
「ここ、分かるかな? 教えてー!」
プール前の補習で学校に行っていたからか、いつの間にか勉強道具が広げられていく。
たまきが教えていく中、二人の距離は段々と近づき。真剣な彼の表情に、たまきの頬は少し紅潮した。
そして、消しゴムを取ろうとした奏空の指先がたまきとぶつかった。
●
向日葵 御菓子(CL2000429)は夏休みであろうと、出勤である。流石教師、大変であるということか。
しかし教師をやりながらも、奏者として色々な場所に呼ばれて、夏休みだけど休めぬ御菓子。
校長と相談して、「学校関係者や生徒を招待すること」なんて約束の下、色々な場所でその技術を披露することも許されているとか。
今日は五麟近くの会場で、演奏である。招待した生徒や教諭の顔も見える中、妹やよく知る和装の少女が手を振っている。
これは下手な演奏は出来ぬと、いつも以上の力を発揮する御菓子であった。
「今日も馬鹿みたいに暑い。早く帰って涼みたい」
香月 凜音(CL2000495)は買い物を終えた後のビニール袋を吊り下げながら、歩くのさえ億劫になる世間の陽気に酷く項垂れていた。
「冷やさないと死ぬ……」
そう思い、露店に売っていたアイスを齧り始めていたころ。
新堂・明日香(CL2001534)は同じように、かんかん照りの太陽の下で、死にそうになっていた。歩くスピードが、道端を元気に歩く子供たちに抜かされていく程に重い。
「新堂か。ちょっと久しぶりか?」
「あれ、香月くん……? おひさ~」
へら、と笑う明日香の表情に全くとしていつもの気迫というか感情というか明るさが、欠けている。重傷なのだろう、暑さという敵が相手なら気待ちは大いに同意というところ。
「あ、アイスいいねえー」
なんて言いながら通り過ぎていく――明日香であるが、ここでこのまま別れてしまうと途中で倒れるのでは、それに薄情な気もする……と思った凜音。
「お前さんもアイス食うか? バイト代入ったばっかりだし奢るぜ」
「えっ、くれるの?」
今度は、花が咲いたように笑顔になった明日香。女子、かなりの女子。色とりどり多種多様なアイスのなかから、ひとつ選んだ明日香は。
殺人的な暑さのなかでやっと水を得た植物のようにみずみずしくなり、美味しい美味しいと言いながら齧っていく。
「折角の夏休みなんだし、家でのんびり過ごしたいんだが、課題やらなにやらで、中々そうもいかねーよな」
「課題かー……あまり考えたくないなあ。だからこそ外に逃げてきた訳だし」
「この暑さのなかに逃げるほうが、俺は凄いと思うがな」
「この時期はどこに行っても、救われないということかなー」
ベンチに二人、並びつつ。他愛のない話が続いていく。
暑すぎてべたついた胸元の服を引っ張りながら、そこをぱたぱたさせた明日香。凜音も男であるから、その行為にびくっと身体を揺らす。目線は泳ぎ、泳ぎながらもたまに明日香を見つめては、距離をとる。
「年頃の女子なんだからそういうのはほどほどにな?」
「……あー、えっちー」
くすくす笑う明日香の隣で、凜音はこういうときはガン見するのと目を背けるのどっちがいいのだろうかと頭のなかぐるぐるし始めていく。
「ひーーーーまーーーーーーーー!!」
鐡之蔵 禊(CL2000029)は虚空にそう言い放った。これは、この暑さは、涼しい場所を探さなければいけない。
夏だから仕方ないと言えば、仕方ないのだが……それにしたって、真昼の空の直上でコンクリを焼くあの光の球体が恨めしくさえ思う。
「よし」
禊は決心して喫茶店へと入る。扉を開けば、カランと鳴り。ひんやりとした空気に全身を浸し、額の汗を拭う。
「かき氷ください」
たったその一言を言うだけでも、段々と声がかすれていった。それくらい疲れてしまっていたものか。
頼んだかき氷の上に乗っかっているマンゴーの果肉をつっつきながら、外で陽炎がゆらゆらとしているのを見ると「う……っ」とさえ思う。
休みなのに寂しいなあ、次こそは誰かと一緒に来れることを願いながら。かき氷のキーンとした冷たさに、瞳を閉じた。
時任・千陽(CL2000014)は、ひんやりと快適な室温を保つ自室で本を開く。
が。
背に感じる熱視線に振り返れば、部屋の角で隠す気も無い不機嫌さを訴えて膝を抱えていた切裂 ジャック(CL2001403)が、窓の外を指さした。
其の時、網戸に蝉が一匹張りつき、強烈な暑さと湿気の鬱陶しさを伝えるように鳴き出す。
外で遊ぶか、家で遊ぶかの議論の攻防である。
「魁斗、たまには文学を嗜むのも悪くはないとは思いますよ。意味をそこに見出さなくてもいいんです。
文字の羅列の流れを目でなぞって、気になる語句が出てきたら、意味を見い出せばいい。読書なんてそんな気軽なものでいいんですよ」
千陽が彼へお勧めする本を机に並べてそれを軽く二度叩くと、ジャックがゆったりのったり立ち上がって、向かいに座った。
「それより、外! なあ、釣り! 釣りいく?! なあってば!」
本が眼中に無い。
彼の事だから古妖とかを探しに行きたいのだろうが、その手は何冊かの本を手に取って指で弄びはじめ。
「釣りに行くも今日は今年最高に暑い日ですし、熱中症になりかねないでしょう」
「俺はならんし」
これは絶対熱中症になるフラグ。彼の体躯の細さと驚きの肌の白さ、完全に駄目なフラグだ、と思う千陽の手前、当のジャックは本をぺらぺら捲っている。
千陽が読んだこともあるだろうミステリーよりも、遥かに彼の表情や行動は読み解きやすく分かりやすい。これはもうひと押しでインドアを勝ち取れる確信。
文章は人が思いを未来に託そうとするもの。
その一片でも伝われば、それは素晴らしい事だと解く千陽の話を、ジャックは目線さえ合わせず、相槌のみ。
「俺はそんな、過去の誰かが未来に送った言葉を読むのが好きなんです」
伏し目がちに話す千陽。手前、本をぱたんと閉じたジャック。
本にはあまり興味がないのかもしれないと思ったのだが。つんつん、と剃刀のように冷たく細い指が千陽の読んでいる本をつついた。
「ときちかが読んでいる本のほうが面白そうだ! やって、ときちかが楽しそうに読んでいるから、そうに違いない!」
どうやら書物に興味がありふれていたらしい。親友が楽しそうにしているのを共有したくて堪らないようで。
「俺のがよければどうぞ。一通り読破済みですから」
姫神 桃(CL2001376)は月歌 浅葱(CL2000915)と水着を買いに来ていた。色とりどりの水着が並ぶのだが、あり過ぎてどれにすれば分からなくなるものだ。ここはもうフィーリングでいくしかあるまい。桃はひとつの水着を手に取る。
「あ、可愛いわね、これ」
「あ、似合いそうなのありますねっ! こっちですよっ」
桃が手に取った水着と一緒に、浅葱はずいずい奥へと彼女を連れていく。ビュンビュン。浅葱が辿り着いた瞬間、水着を取り。ゼェハァしている桃へくるんと向き直った。
浅葱が選んだ水着はフリルいっぱいの、まさにキュート満載という形の水着。サイズは確かこれ! と桃のを選ぶ浅葱の、その理解の度合いがとてつもない愛があるような。というわけで試着。
「可愛いんだけど…………きついわ。これ、おかしいわね! 去年はこれで良かったのに!」
「あれ? 小さかったですか??」
浅葱は桃のおむねをじいっとみてみる。確かに、前よりも――
「大きくなってますね」
「ふ、太ってなんかないわ……!」
「そうじゃないですよっ、成長してますね……! ふっ、元気な子は育つものですしねっ」
浅葱は桃をの身体を持ち上げて投げるような動作をした。なんとなく桃の脳裏に、海やプールに投げ落とされるイメージよりも、敵にぶつけられるイメージが湧いた。
「ダメージも上がらないわよ!」
今度は桃が浅葱の水着を選ぶ番。彼女はよくばりばり動く性質があるので、動きやすいものがいいだろう。布面積は無くとも、ズレ上がったりズレ落ちたりしなさそうなものが良いだろうか。
「これとかどうかしら?」
「ふっ、似合いますかっ?」
一度くるっと回った浅葱。しかし桃は不安げに浅葱を見つめていた。自分の選んだものが必ずしも浅葱の好みではないかもしれないからだ。けれど。
「桃さんのセンス、いいですねっ」
「うん。可愛いわよ、浅葱。普段の倍増しくらい素敵じゃない?」
「むむ、そう言われると照れちゃいますよっ」
ぎゅっと抱き着く浅葱。ホッと胸を撫で下ろした桃は、からかい過ぎたかなと思ったが、可愛いので許すと彼女の頭を撫でて、こんな休日もいいなと思ったとか。
兎耳がへにょった飛騨・直斗(CL2001570)。こんな暑いんだもの、耳を立てる微力さえ面倒に感じる。そんな中、孤児院まできた。
来訪者が玄関先で、夏場の太陽に文句を訴えているそんなとき、引きこもっていた獅子神・玲(CL2001261)。しかしだらけててはいけない、と顔を上げた。だって試練するって決めたんだもの。いつか、試練を与えるシスターに、誓ったそれを。
何かしなければと、しかし何をすればいいものか……そうだと頭を上げた玲。かき氷でも作ってみようか!
そんなときに直斗が訪ねて来て、精力的な玲の姿を見て先ほどまで垂れていた兎耳が驚きにピンと立った。無き姉の友人の意外な姿だ、一寸、別人かと思ったほどに。
「あっ、直君も来てたんだね? はい、一口どうぞ。美味しいよ?」
突然のアーンに、直斗は目線を横にして後頭部を掻いた。なんだろうかこの状況は、恥ずかしい。なんだこれなんだこれ。でもまあ、彼がにっこりしているからいいか、いいのか?
玲は玲で再び作業に戻り、施設中の孤児たちのためにかき氷を作らんと大量の氷を作りながらも、かき氷機を回していく。シャリシャリ、シャリシャリ。
イチゴのかき氷をつついていた直斗はそんな玲の姿を見つつ、ふと気配を感じていた存在の方へ振り返った。葛野 泰葉(CL2001242)だ。彼が、話しかけてきた。今日も怪しい仮面である。
「唐突だが……」
かくかくしかじか。死兆星の見える、そんな死ぬだろうという話。この暑さで頭が呆けてしまったのではと直斗は薄く笑って流した。
「馬鹿いえ。この暑さのなかで冗談も程ほどにしな」
「ふざけてはないよ? 予感がするんだ……最近魂の発動回数が増えていてね。もう自分では抑えられないのかもしれない」
君のいう通り、暑さでおかしいのかもしれないが、と付け足しつつ。しかし泰葉の視線は真剣そのものであった。そんな真剣さ、嘘であって欲しかったものだが。
シャリシャリ、シャリシャリ。そんな会話さえ知らず、かき氷機は回る。玲が活発に動き始めていることに、泰葉は彼らしかな声色で、わっ、と一瞬声を出して驚いた。しかしあんな姿みたら、もう誰かにこんな事を頼まないと死に切れない。
親友がいなくなり、塞ぎこんでいた玲だが。実際支えたのは直斗だ。だから彼に託そう。彼女を。
「君にとって玲くんはどういう存在なんだい?」
多少は好意がある直斗は、矢張り目線を横にしたまま。小さな声で、その事を伝えた。
「うん、それだけ想ってくれるなら……彼女の事を、頼んだよ、支えてやってくれ」
泰葉は何事もなかったように玲へと歩いていく。もうひとつ、問わねばならぬものがある。
「玲くん、直斗くんはどう思う?」
「うーん? 好きだよ、大事な弟分だし……勿論施設の皆も大好きだよ」
それだけ聞ければ、文句はない。
直斗が見ていた泰葉の背中が段々と薄れて影に消えていくように思えた。
天堂・フィオナ(CL2001421)は学校帰りで、夏用の制服のまま扉を開く。
「こんにちはだ! 今日は暑いな!」
クーラーが効いている――と思いきや、扉を開けた瞬間、フィオナを襲ったのは熱風の風。つまり室温は思っていた温度とはかけ離れている。八重霞 頼蔵(CL2000693)は難しい顔をしながら、エアコンを修理に出してそこだけ何もなくなってしまった場所を指さした。嗚呼、そういうことか。この時期はそういったトラブルが絶えない。
「ご、ご愁傷様だぞ……」
こんな状態で仕事はしていられる訳はない。休みである事務所も珍しく思えるが。
普段はかしこまった格好をしていた頼蔵も、今日はラフな格好をしているのがフィオナにとっては珍しくも見える。
「もう今日は店仕舞いだ……嗚呼、君。水羊羹は好きかね。」
「羊羹は勿論好きだけど……え!?」
一度彼が席を立ち、奥へと消えていくと、すぐに戻ってきた。高そうな水ようかんが席に着いたフィオナの前に出され、恐る恐る確認。
「い、頂いてもいいのか?」
「ああ、他にどうしろというのだね」
それからフィオナは、崩したら勿体無いくらいに嫌いな球体を描く羊羹を、小さく切り分け口に運ぶ。甘い、甘くて溶けるようなそれが喉を流れていく。ふと。
「あ、そうだ! 持ってた水筒の中身、水出しの緑茶……まだ2人分ある! バッチリ冷たいままだ、これで少し涼もう!」
どうやら、とても風流な感じになってきた。水出しの緑茶は水羊羹にはよく合う。頼蔵にしては珍しくフィオナを誉めた声色で感謝の言葉を述べた。
そういえばと、フィオナが此処に夏服で来るのは初めてだ。頼蔵はそれを珍しく思い、視線を送っている。頼蔵は自分の羊羹を見つめ返し、それをフィオナの方へと寄せる。フィオナは顔を傾けて、不思議な彼の行動にハテナ?を思い浮かべた。
「似合っているね。……何でもない、気に入ったならこれも如何だ」
ほめられたことに、フィオナはなんだか体がむずかゆく思えた。今日はお互いに珍しいものが重なっていく日である。そんな1日。
蘇我島 恭司(CL2001015)は急ぎ足で来てから、チャイムを鳴らす。鳴らしてから腕の時計を見て、額の汗を拭った。
もう少し早く来る予定であったのだが、どうしてこうして、こんなギリギリの時間に。とはいえ、時間ぴったりなのだが。
柳燐花(CL2000695)が玄関を開けて、頭を一度だけ軽く下げて挨拶した。いつも見ていた顔を見ると、ほっとしたように強張った表情を自然に戻しながら。
「燐ちゃん、迎えに来たよ」
「お迎えと、今日はお誘いありがとうございます」
「いやいや、僕も夏服が欲しかったし、燐ちゃんの夏服姿を見るのも楽しみだからね」
時期も季節の変わり目。夏本番に向けて服を選んでくれるということで――本当はそういう名目のデ、デ、デ、デートなの? だが。
「これは、デートというものなのでしょうか。一緒にお出かけ自体はいつもの事、ではありますが……」
恭司は手汗握るような思いだ。何故。そう思う。一緒に住んでいた頃はこんなにも意識しなかった気待ちだ。常に隣にいた彼女が、途端に遠くへいってしまってから、また探し出して会えたような。その嬉しさというか、満たされていく気持ちというか。
「うん、僕はデートだと思ってるよ。今までと同じお出掛けだけれど、そう意識をすることで少し違う感じがしないかな?」
つまりいつの間にか関係性が発展していたということで。普段通りの買い物では無く、今日は全てが手探り状態の一日なのだ。初々しくも、何処か手慣れたように喋りながら二人の時間は繋がれていく。
「今まで通りだけれど、今までとは少し違う……。関係に名前があるのって、幸せなものです。……まだまだ慣れませんが」
何はともあれ、燐花は支度をして家を出て、鍵を閉めた。
「さて、それじゃあ服を見に行こうか」
「はい。……よろしく、お願いしますね……」
恭司が手を出し、エスコートするように。燐花はその手に守られ安心するように、重ねていく。
少しだけ気恥ずかしさがあって、普段よりも鼓動が早くなっていく感覚は、恐らく悪くないものなのだが。慣れるまでにはお互い、時間が必要なようだ。
菊坂 結鹿(CL2000432)は樹神枢と一緒にプールへ来た。
一年ぶり、という感じか。久々の大きな水たまり(?)の前に二人の瞳はきらきらと輝いているのである。
結鹿はふと枢の水着を見た。どんな水着で来るかと思っていたが、今年はワンピース型の年齢相応という感じか。
思えば大人になってビキニを着て来る枢も想像していたのだが、なんとなく結鹿はほっと胸をなでおろした。
「ボクもそこまで大人の姿は使わないのだ」
「今心読んだよね、枢ちゃん!?」
「読んでないのだ」
ちゃぷ、と枢が結鹿の手を引いてプールの中に入る。最初はかなり冷たく感じるのだが、一度頭まで浸かってしまえば、平気平気。
二人で水をかけ合いながら遊んでいたのだが、ふと枢の身体が西園寺 海(CL2001607)とぶつかった。
「すまないのだ。夢中になっていて人がいたのを気づかなかったのだ」
「あ、……大丈夫です。実は泳げなくて、ここら辺なら浅いからと、下ばかり見ていたので……」
そこへ結鹿もずずいと身を乗り出す。
「ほほう」
結鹿が指さすのは、海が持ってきたのであろうイルカやアヒルの玩具や、おはじきやビー玉がぷかぷか。
まるで一体が、海の作った浴場というかなんというか。テリトリーが出来上がっていた。
「きらきらで凄いのだ!」
「うん! どうせなら一緒に遊ぼうよ!」
「あ……えっと、いいの……?」
誰かと遊ぶのは来年のお楽しみと思っていたが、海はここぞと、ぼんやりと笑みを浮かべた。
「まずはウォータースライダー、行かなきゃ!」
「結鹿、それは」
「な、難易度が高いですぅ……」
という会話を隣に、田場 義高(CL2001151)は奥様とお嬢様とご一緒に来ていた。
ほんとは奥様の水着が見たかった――げふんげふんとのことで、幸せな一家が出来上がっていることに、爆発しろという言葉さえ憚られる程にうらやましい限りである。
義高ははじめ、娘の泳ぐ練習に付き合いつつ、場所取りをしたところから奥さんが手を振っていることに気づくと、どことなく鼻の下が伸びるというものだ。
そんな彼の隣では椿屋 ツバメ(CL2001351)がトレーニングも兼ねてのプールに来ている。
ビキニなど肌の露出が多いこのプールにしては、ツバメはガチ泳ぎようのスイムウェアという形で、逆にそれは周囲の目線を引いているようにも思える。
ストレッチをしながら、今日はどれくらい泳いでみるか……虚空を見つめながら思うのだが。
「よし、1kmにしよう」
ツバメは競泳用のプールで、一人、自分との闘いに奔走(この場合は奔泳か)するのであった。
「ほら、あのお姉さんも頑張っているんだから。もうちょっと泳いでみよう」
義高がそう言いながら、娘の手を引くのであった。パパとしての使命を果たすのも、偉大なことなのだ。
天乃 カナタ(CL2001451)は、布団から飛び上がりあまりの暑さにテレビをつけてみると、36度とか死ぬと思い、即時水分補給してからプールまでダッシュした。
遙かに自分の体温より高い温度である外は、じりじりとカナタの肌を焼いていたのだが。
「は~生き返る」
大きな浮輪に乗りながら、ただ流れるプールを周回するだけでこんなにも気持ちが良くなる。
何周かしたころに、ふとプールサイドを見てみれば、守護使役がぐったりと横になっていた。うわ、と飛びあがったカナタは即座に駆け寄ってから。
「ちょっとまってろー!」
水に触れて、それを形を保ったまま守護使役を包むベールにする。それでもなかなかぐったりが治らない守護使役。
これは熱中症というやつなのだろうか、それとも単なる疲れか。
「よし! ジェットスクリューごっこしようぜ!」
「元気ですねえ……」
水行の力を酷使して遊ぶカナタの声が響く中、ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は太陽光を避けて、パラソルの下でカットされたオレンジがグラスに突き刺さるジュースを飲んでいた。
思い立ってジュースを置き、足先からプールに少しずつ浸かっていく。最初はひんやりとしていて、びくっとする水面だが入ってしまえば心地よい冷涼。
ふと隣をみれば守護使役のペスカが、水面をついては距離を取り、それを何度か繰り返して遊んでいた。そんな愛らしい姿に、日頃のストレスやらなにやら全てを忘れて許してしまいそうになる。
そんな時、ちょうどラーラの近くを流れていくツバメ。
このまま魚にでもなってしまおうか――という気分で、浮輪に身をゆだねてただ流れていく。ぼーっと天井だけを見ていたものだから、釣られてラーラも天井を見てみた。
「空が青いですねえ」
「そうだな……」
なんとなく空の白い雲がかき氷に見えたので、ラーラは守護使役を連れてかき氷を買いに行ったのであった。
それとすれ違うようにして、結鹿と海と枢がお昼ご飯を終えて、水面に飛び込んでいく。遠くから飛び込みはいけないと、ピピーッと笛の音が聞こえたが三人は顔を見合わせてからごめんなさいと言ってから笑い合った。
海は福と呼ばれた守護使役を抱えつつ、ふとさっきのおはじきなどがキラキラした水面を撮ればよかったと思った。
西園寺、今迄生きていた中で一生の不覚―――もし、それをきっかけに、友達ができたかもしれなかったのに。
プールの中で拳を握りしめて、酸っぱい表情を浮かべつつも、それから三人は日が暮れるまで遊びつくした訳だが、突然の
「ぽ、ぽいふるーーー!!」
という声に、海はびくっと身体を揺らす。
カナタが酷使していた力で遊んでいた中、どこかへ守護使役が飛んで行ってしまったようであった。
海が自分の足元をみると、彼の守護使役らしきものがぶくぶくぶく……と沈んでいく。
せっせと準備体操をしながら、工藤 奏空さん(CL2000955)は隣にいる賀茂 たまき(CL2000994)に笑いかけた。
たまきはやっと泳げるようになったということで、競泳用のプールで競争――というくだりだ。
早速、よーいドンで飛び出した両選手。
奏空は、男としても余裕で勝てるもの――と思っていたが、そうではないようだ。昨年よりパワーアップしたたまきは、かっぱに習ったとの事で、潜水。その泳ぎはプロのようだ。
これは負けられないと思い奏空も、クロールで水をかく力を強める。
現実的な考えにはなってしまうが、矢張りクロールで泳ぐ奏空のほうがいくらか早い。それについて行こうとするたまきも流石の力なのだが。
先にゴールにタッチしたのは奏空のほうであった。
「ふふ、奏空さん。やっぱり早いですね」
「ううん! たまきちゃんも、すごかったよ!!」
お互いを認め合い、褒め合った。
くたくたになるまで泳ぎ、日が傾く前にプールをあとにした二人。
氷と書かれた布がぶら下がり、ゆらゆらと揺れるそれに引き付けられて、結果そこで休憩していく事となった。
「はわわわ……」
たまきが頼んだイチゴミルクが、溶けて喉の奥から冷たさを感じていく。
奏空は抹茶を頼み、キーーンと頭痛をつつくそれに瞳をぎゅっと閉じた。
「ふふ、奏空さん可笑しい……!」
「あはは、キンキンしちゃった! あ、そうそう、たまきちゃん、古文で分かんないとこあるんだけど……」
「どちらでしょうか……」
テーブルに広げる古文のプリント。
「ここ、分かるかな? 教えてー!」
プール前の補習で学校に行っていたからか、いつの間にか勉強道具が広げられていく。
たまきが教えていく中、二人の距離は段々と近づき。真剣な彼の表情に、たまきの頬は少し紅潮した。
そして、消しゴムを取ろうとした奏空の指先がたまきとぶつかった。
●
向日葵 御菓子(CL2000429)は夏休みであろうと、出勤である。流石教師、大変であるということか。
しかし教師をやりながらも、奏者として色々な場所に呼ばれて、夏休みだけど休めぬ御菓子。
校長と相談して、「学校関係者や生徒を招待すること」なんて約束の下、色々な場所でその技術を披露することも許されているとか。
今日は五麟近くの会場で、演奏である。招待した生徒や教諭の顔も見える中、妹やよく知る和装の少女が手を振っている。
これは下手な演奏は出来ぬと、いつも以上の力を発揮する御菓子であった。
「今日も馬鹿みたいに暑い。早く帰って涼みたい」
香月 凜音(CL2000495)は買い物を終えた後のビニール袋を吊り下げながら、歩くのさえ億劫になる世間の陽気に酷く項垂れていた。
「冷やさないと死ぬ……」
そう思い、露店に売っていたアイスを齧り始めていたころ。
新堂・明日香(CL2001534)は同じように、かんかん照りの太陽の下で、死にそうになっていた。歩くスピードが、道端を元気に歩く子供たちに抜かされていく程に重い。
「新堂か。ちょっと久しぶりか?」
「あれ、香月くん……? おひさ~」
へら、と笑う明日香の表情に全くとしていつもの気迫というか感情というか明るさが、欠けている。重傷なのだろう、暑さという敵が相手なら気待ちは大いに同意というところ。
「あ、アイスいいねえー」
なんて言いながら通り過ぎていく――明日香であるが、ここでこのまま別れてしまうと途中で倒れるのでは、それに薄情な気もする……と思った凜音。
「お前さんもアイス食うか? バイト代入ったばっかりだし奢るぜ」
「えっ、くれるの?」
今度は、花が咲いたように笑顔になった明日香。女子、かなりの女子。色とりどり多種多様なアイスのなかから、ひとつ選んだ明日香は。
殺人的な暑さのなかでやっと水を得た植物のようにみずみずしくなり、美味しい美味しいと言いながら齧っていく。
「折角の夏休みなんだし、家でのんびり過ごしたいんだが、課題やらなにやらで、中々そうもいかねーよな」
「課題かー……あまり考えたくないなあ。だからこそ外に逃げてきた訳だし」
「この暑さのなかに逃げるほうが、俺は凄いと思うがな」
「この時期はどこに行っても、救われないということかなー」
ベンチに二人、並びつつ。他愛のない話が続いていく。
暑すぎてべたついた胸元の服を引っ張りながら、そこをぱたぱたさせた明日香。凜音も男であるから、その行為にびくっと身体を揺らす。目線は泳ぎ、泳ぎながらもたまに明日香を見つめては、距離をとる。
「年頃の女子なんだからそういうのはほどほどにな?」
「……あー、えっちー」
くすくす笑う明日香の隣で、凜音はこういうときはガン見するのと目を背けるのどっちがいいのだろうかと頭のなかぐるぐるし始めていく。
「ひーーーーまーーーーーーーー!!」
鐡之蔵 禊(CL2000029)は虚空にそう言い放った。これは、この暑さは、涼しい場所を探さなければいけない。
夏だから仕方ないと言えば、仕方ないのだが……それにしたって、真昼の空の直上でコンクリを焼くあの光の球体が恨めしくさえ思う。
「よし」
禊は決心して喫茶店へと入る。扉を開けば、カランと鳴り。ひんやりとした空気に全身を浸し、額の汗を拭う。
「かき氷ください」
たったその一言を言うだけでも、段々と声がかすれていった。それくらい疲れてしまっていたものか。
頼んだかき氷の上に乗っかっているマンゴーの果肉をつっつきながら、外で陽炎がゆらゆらとしているのを見ると「う……っ」とさえ思う。
休みなのに寂しいなあ、次こそは誰かと一緒に来れることを願いながら。かき氷のキーンとした冷たさに、瞳を閉じた。
時任・千陽(CL2000014)は、ひんやりと快適な室温を保つ自室で本を開く。
が。
背に感じる熱視線に振り返れば、部屋の角で隠す気も無い不機嫌さを訴えて膝を抱えていた切裂 ジャック(CL2001403)が、窓の外を指さした。
其の時、網戸に蝉が一匹張りつき、強烈な暑さと湿気の鬱陶しさを伝えるように鳴き出す。
外で遊ぶか、家で遊ぶかの議論の攻防である。
「魁斗、たまには文学を嗜むのも悪くはないとは思いますよ。意味をそこに見出さなくてもいいんです。
文字の羅列の流れを目でなぞって、気になる語句が出てきたら、意味を見い出せばいい。読書なんてそんな気軽なものでいいんですよ」
千陽が彼へお勧めする本を机に並べてそれを軽く二度叩くと、ジャックがゆったりのったり立ち上がって、向かいに座った。
「それより、外! なあ、釣り! 釣りいく?! なあってば!」
本が眼中に無い。
彼の事だから古妖とかを探しに行きたいのだろうが、その手は何冊かの本を手に取って指で弄びはじめ。
「釣りに行くも今日は今年最高に暑い日ですし、熱中症になりかねないでしょう」
「俺はならんし」
これは絶対熱中症になるフラグ。彼の体躯の細さと驚きの肌の白さ、完全に駄目なフラグだ、と思う千陽の手前、当のジャックは本をぺらぺら捲っている。
千陽が読んだこともあるだろうミステリーよりも、遥かに彼の表情や行動は読み解きやすく分かりやすい。これはもうひと押しでインドアを勝ち取れる確信。
文章は人が思いを未来に託そうとするもの。
その一片でも伝われば、それは素晴らしい事だと解く千陽の話を、ジャックは目線さえ合わせず、相槌のみ。
「俺はそんな、過去の誰かが未来に送った言葉を読むのが好きなんです」
伏し目がちに話す千陽。手前、本をぱたんと閉じたジャック。
本にはあまり興味がないのかもしれないと思ったのだが。つんつん、と剃刀のように冷たく細い指が千陽の読んでいる本をつついた。
「ときちかが読んでいる本のほうが面白そうだ! やって、ときちかが楽しそうに読んでいるから、そうに違いない!」
どうやら書物に興味がありふれていたらしい。親友が楽しそうにしているのを共有したくて堪らないようで。
「俺のがよければどうぞ。一通り読破済みですから」
姫神 桃(CL2001376)は月歌 浅葱(CL2000915)と水着を買いに来ていた。色とりどりの水着が並ぶのだが、あり過ぎてどれにすれば分からなくなるものだ。ここはもうフィーリングでいくしかあるまい。桃はひとつの水着を手に取る。
「あ、可愛いわね、これ」
「あ、似合いそうなのありますねっ! こっちですよっ」
桃が手に取った水着と一緒に、浅葱はずいずい奥へと彼女を連れていく。ビュンビュン。浅葱が辿り着いた瞬間、水着を取り。ゼェハァしている桃へくるんと向き直った。
浅葱が選んだ水着はフリルいっぱいの、まさにキュート満載という形の水着。サイズは確かこれ! と桃のを選ぶ浅葱の、その理解の度合いがとてつもない愛があるような。というわけで試着。
「可愛いんだけど…………きついわ。これ、おかしいわね! 去年はこれで良かったのに!」
「あれ? 小さかったですか??」
浅葱は桃のおむねをじいっとみてみる。確かに、前よりも――
「大きくなってますね」
「ふ、太ってなんかないわ……!」
「そうじゃないですよっ、成長してますね……! ふっ、元気な子は育つものですしねっ」
浅葱は桃をの身体を持ち上げて投げるような動作をした。なんとなく桃の脳裏に、海やプールに投げ落とされるイメージよりも、敵にぶつけられるイメージが湧いた。
「ダメージも上がらないわよ!」
今度は桃が浅葱の水着を選ぶ番。彼女はよくばりばり動く性質があるので、動きやすいものがいいだろう。布面積は無くとも、ズレ上がったりズレ落ちたりしなさそうなものが良いだろうか。
「これとかどうかしら?」
「ふっ、似合いますかっ?」
一度くるっと回った浅葱。しかし桃は不安げに浅葱を見つめていた。自分の選んだものが必ずしも浅葱の好みではないかもしれないからだ。けれど。
「桃さんのセンス、いいですねっ」
「うん。可愛いわよ、浅葱。普段の倍増しくらい素敵じゃない?」
「むむ、そう言われると照れちゃいますよっ」
ぎゅっと抱き着く浅葱。ホッと胸を撫で下ろした桃は、からかい過ぎたかなと思ったが、可愛いので許すと彼女の頭を撫でて、こんな休日もいいなと思ったとか。
兎耳がへにょった飛騨・直斗(CL2001570)。こんな暑いんだもの、耳を立てる微力さえ面倒に感じる。そんな中、孤児院まできた。
来訪者が玄関先で、夏場の太陽に文句を訴えているそんなとき、引きこもっていた獅子神・玲(CL2001261)。しかしだらけててはいけない、と顔を上げた。だって試練するって決めたんだもの。いつか、試練を与えるシスターに、誓ったそれを。
何かしなければと、しかし何をすればいいものか……そうだと頭を上げた玲。かき氷でも作ってみようか!
そんなときに直斗が訪ねて来て、精力的な玲の姿を見て先ほどまで垂れていた兎耳が驚きにピンと立った。無き姉の友人の意外な姿だ、一寸、別人かと思ったほどに。
「あっ、直君も来てたんだね? はい、一口どうぞ。美味しいよ?」
突然のアーンに、直斗は目線を横にして後頭部を掻いた。なんだろうかこの状況は、恥ずかしい。なんだこれなんだこれ。でもまあ、彼がにっこりしているからいいか、いいのか?
玲は玲で再び作業に戻り、施設中の孤児たちのためにかき氷を作らんと大量の氷を作りながらも、かき氷機を回していく。シャリシャリ、シャリシャリ。
イチゴのかき氷をつついていた直斗はそんな玲の姿を見つつ、ふと気配を感じていた存在の方へ振り返った。葛野 泰葉(CL2001242)だ。彼が、話しかけてきた。今日も怪しい仮面である。
「唐突だが……」
かくかくしかじか。死兆星の見える、そんな死ぬだろうという話。この暑さで頭が呆けてしまったのではと直斗は薄く笑って流した。
「馬鹿いえ。この暑さのなかで冗談も程ほどにしな」
「ふざけてはないよ? 予感がするんだ……最近魂の発動回数が増えていてね。もう自分では抑えられないのかもしれない」
君のいう通り、暑さでおかしいのかもしれないが、と付け足しつつ。しかし泰葉の視線は真剣そのものであった。そんな真剣さ、嘘であって欲しかったものだが。
シャリシャリ、シャリシャリ。そんな会話さえ知らず、かき氷機は回る。玲が活発に動き始めていることに、泰葉は彼らしかな声色で、わっ、と一瞬声を出して驚いた。しかしあんな姿みたら、もう誰かにこんな事を頼まないと死に切れない。
親友がいなくなり、塞ぎこんでいた玲だが。実際支えたのは直斗だ。だから彼に託そう。彼女を。
「君にとって玲くんはどういう存在なんだい?」
多少は好意がある直斗は、矢張り目線を横にしたまま。小さな声で、その事を伝えた。
「うん、それだけ想ってくれるなら……彼女の事を、頼んだよ、支えてやってくれ」
泰葉は何事もなかったように玲へと歩いていく。もうひとつ、問わねばならぬものがある。
「玲くん、直斗くんはどう思う?」
「うーん? 好きだよ、大事な弟分だし……勿論施設の皆も大好きだよ」
それだけ聞ければ、文句はない。
直斗が見ていた泰葉の背中が段々と薄れて影に消えていくように思えた。
天堂・フィオナ(CL2001421)は学校帰りで、夏用の制服のまま扉を開く。
「こんにちはだ! 今日は暑いな!」
クーラーが効いている――と思いきや、扉を開けた瞬間、フィオナを襲ったのは熱風の風。つまり室温は思っていた温度とはかけ離れている。八重霞 頼蔵(CL2000693)は難しい顔をしながら、エアコンを修理に出してそこだけ何もなくなってしまった場所を指さした。嗚呼、そういうことか。この時期はそういったトラブルが絶えない。
「ご、ご愁傷様だぞ……」
こんな状態で仕事はしていられる訳はない。休みである事務所も珍しく思えるが。
普段はかしこまった格好をしていた頼蔵も、今日はラフな格好をしているのがフィオナにとっては珍しくも見える。
「もう今日は店仕舞いだ……嗚呼、君。水羊羹は好きかね。」
「羊羹は勿論好きだけど……え!?」
一度彼が席を立ち、奥へと消えていくと、すぐに戻ってきた。高そうな水ようかんが席に着いたフィオナの前に出され、恐る恐る確認。
「い、頂いてもいいのか?」
「ああ、他にどうしろというのだね」
それからフィオナは、崩したら勿体無いくらいに嫌いな球体を描く羊羹を、小さく切り分け口に運ぶ。甘い、甘くて溶けるようなそれが喉を流れていく。ふと。
「あ、そうだ! 持ってた水筒の中身、水出しの緑茶……まだ2人分ある! バッチリ冷たいままだ、これで少し涼もう!」
どうやら、とても風流な感じになってきた。水出しの緑茶は水羊羹にはよく合う。頼蔵にしては珍しくフィオナを誉めた声色で感謝の言葉を述べた。
そういえばと、フィオナが此処に夏服で来るのは初めてだ。頼蔵はそれを珍しく思い、視線を送っている。頼蔵は自分の羊羹を見つめ返し、それをフィオナの方へと寄せる。フィオナは顔を傾けて、不思議な彼の行動にハテナ?を思い浮かべた。
「似合っているね。……何でもない、気に入ったならこれも如何だ」
ほめられたことに、フィオナはなんだか体がむずかゆく思えた。今日はお互いに珍しいものが重なっていく日である。そんな1日。
蘇我島 恭司(CL2001015)は急ぎ足で来てから、チャイムを鳴らす。鳴らしてから腕の時計を見て、額の汗を拭った。
もう少し早く来る予定であったのだが、どうしてこうして、こんなギリギリの時間に。とはいえ、時間ぴったりなのだが。
柳燐花(CL2000695)が玄関を開けて、頭を一度だけ軽く下げて挨拶した。いつも見ていた顔を見ると、ほっとしたように強張った表情を自然に戻しながら。
「燐ちゃん、迎えに来たよ」
「お迎えと、今日はお誘いありがとうございます」
「いやいや、僕も夏服が欲しかったし、燐ちゃんの夏服姿を見るのも楽しみだからね」
時期も季節の変わり目。夏本番に向けて服を選んでくれるということで――本当はそういう名目のデ、デ、デ、デートなの? だが。
「これは、デートというものなのでしょうか。一緒にお出かけ自体はいつもの事、ではありますが……」
恭司は手汗握るような思いだ。何故。そう思う。一緒に住んでいた頃はこんなにも意識しなかった気待ちだ。常に隣にいた彼女が、途端に遠くへいってしまってから、また探し出して会えたような。その嬉しさというか、満たされていく気持ちというか。
「うん、僕はデートだと思ってるよ。今までと同じお出掛けだけれど、そう意識をすることで少し違う感じがしないかな?」
つまりいつの間にか関係性が発展していたということで。普段通りの買い物では無く、今日は全てが手探り状態の一日なのだ。初々しくも、何処か手慣れたように喋りながら二人の時間は繋がれていく。
「今まで通りだけれど、今までとは少し違う……。関係に名前があるのって、幸せなものです。……まだまだ慣れませんが」
何はともあれ、燐花は支度をして家を出て、鍵を閉めた。
「さて、それじゃあ服を見に行こうか」
「はい。……よろしく、お願いしますね……」
恭司が手を出し、エスコートするように。燐花はその手に守られ安心するように、重ねていく。
少しだけ気恥ずかしさがあって、普段よりも鼓動が早くなっていく感覚は、恐らく悪くないものなのだが。慣れるまでにはお互い、時間が必要なようだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
