XI秘密兵器戦
●XIの凋落 -The rise and fall-
世論が変化しつつあった。
かの大妖の夜、AAAが滅びた日が境である。
一名でも多く助けようと奮戦したF.i.V.E.の覚者たちの姿が、電波にのせられ、人々の心を打ったのである。
ただ――この一方、覚者も隔者もひっくるめて悪と断じるXI。
特に「覚者滅ぼすべし」を標榜する武闘派勢力に対する世間の視線は、冷ややかなものに変わりつつあった。……
――これは、戦局を巻き戻さんと「一発逆転」に賭ける夢と、最後まであきらめぬ漢たちの、苛烈にて波乱なる珍兵器の浪漫譚である。
●三次元殺法装置 -British sense-
「いくぜー! FoOoOOo!」
月下に、イカれた野郎どもが乱舞する。
背負った謎の装置、そこから射出されるワイヤー。ワイヤーの先端にはアンカー。アンカーが廃ビルの壁に突き刺さる! 強力に巻き取る装置、次に射出される別のワイヤー!
この繰り返しで、廃ビルの谷間を忍者のごとく縦横無尽に駆け回る!
「ヒャッ――さて、にょっき助手! そろそろ『妖』ポイントだ!」
イカれた野郎どもの中の一人が真顔の紳士になる。
紳士は、ニュースボーイとスチームパンクの間のような装いのにょっき助手に熱視線。
中性的な顔立ちの助手は、苦笑いを浮かべながら。
「にょつきです。如月《にょつき》です――っと、『妖』発見! 各自攻撃してください」
イカれた野郎どもは火炎放射器を構えて猛る!
「ヒャハー! 妖はぶっころせー!!!」
たちまち、サーカスの空中ブランコがごとく、すれ違い様に『妖』を焼くイカれた野郎ども!
「チェエエエストオオオオ!!!」
その次に、にょっき助手の咆吼!
メキャゴシャと得物でぶっ叩き、生物型の『妖』を血味噌に変えたのだった。
やがて、この一行は、血風吹きすさぶビルとビルの間、地上へと降り立つ。
戦果を確認する全員の腕にはXIの腕章。
力を表わす印が月光に煌めく。
「にょっききゅんお疲れ様!」
「にょつきです。お疲れ様でした!」
うおおおおっすと猛る紳士の声。
一緒に勝利に喜ぶボーイソプラノ。勝利の余韻――そこへ闇から現れる男が一人。
「――ふむ、中々の戦果だ」
いい年してド派手なピンクの髪をして、スチームパンクめいたゴーグルをつけたガリの中年男だ。鼻から得体の知れないコードを生やして、後頭部のほうに行っている。
イカれた野郎どもは、規律正しき軍人のような顔となり、敬礼をした。
派手な中年はつーっと行って、戦果をうんうんと確かめてから振り返る。
「覚者は空からの攻撃に弱い! だろう!? にょっき助手!?」
「如月《にょつき》です。鋤島博士」
派手な中年こと鋤島は、くふふふと笑う。
イカれた野郎どもは直立で礼の姿勢。紳士に徹している。
「無敵の『三次元殺法装置』のテストをガンガン実施する! 相手は『妖』か? 覚者でもいいぞ! 出来れば覚者がいいな!」
「はあ……一応、『妖』の出現情報はXIからもらってます。……ただ、今のこの景色、既視感がありまして、ちょっと嫌な感じです。逃走の用意はしておいたほうが良いかと」
「にょっき助手の悪い予感は良く当たるからな! ハハハハハハ! OK! よきにはからえよ! 我々は覚者に勝たねばならん! 科学の力でな! 『覚者だけに効く毒』だってある!」
「そうですか――にょつきです」
にょっき助手はため息をついた。
●押収だ -Bereave-
「先日、ちょっとした『妖』事件で、XIの押収品を貸し出したら『そういうの増やしてほしい』って要望をもらったの。数がほしいわ」
樒・飴色(nCL2000110)が、悪そうな顔をしてほほえんでいた。
今日は電子煙草ではない。鳩の文様が施された煙草だ。
部屋には、何故か用意されているバーカウンター。要するに『悪どい依頼』という事を演出しているらしい。
「落ち目のXIで、変な兵器をやたら作っている人物を見つけたから、押収して来てほしいわ」
差し出されたレポートは、飴色が個人で調べてきたものを、夢見が裏付けたという経緯のものだった。
隔者にも通ずる様な、いかがわしい情報網を利用したらしい。
「敵はXIの末端組織『鋤島研究所』。XI内部での担当は、XIに武器を卸している武器商人――というより、科学の力で覚者に迫ろうと頑張っている芸人集団といったところね」
飴色がピッとリモコンを操作する。
酒が並んでいたはずの背景が、ディスプレイ・モニタに変わった。映し出された人物は二名。
「中心人物は二人。鋤島 世朗《すきしま せろう》博士。せらとぅす・W・にょっき助手。敵戦力の中で一番強いのは、この助手。鋤島の都合の良い小間使い兼、人間兵器兼、実験台みたいなものね」
飴色が「詳しくは調査結果を」とレポートを指し示す。
「覚者と見たら問答無用で襲いかかってくるみたいだから、遠慮なく身ぐるみ剥いで良いわ。何もしていない覚者が襲われる前に」
世論が変化しつつあった。
かの大妖の夜、AAAが滅びた日が境である。
一名でも多く助けようと奮戦したF.i.V.E.の覚者たちの姿が、電波にのせられ、人々の心を打ったのである。
ただ――この一方、覚者も隔者もひっくるめて悪と断じるXI。
特に「覚者滅ぼすべし」を標榜する武闘派勢力に対する世間の視線は、冷ややかなものに変わりつつあった。……
――これは、戦局を巻き戻さんと「一発逆転」に賭ける夢と、最後まであきらめぬ漢たちの、苛烈にて波乱なる珍兵器の浪漫譚である。
●三次元殺法装置 -British sense-
「いくぜー! FoOoOOo!」
月下に、イカれた野郎どもが乱舞する。
背負った謎の装置、そこから射出されるワイヤー。ワイヤーの先端にはアンカー。アンカーが廃ビルの壁に突き刺さる! 強力に巻き取る装置、次に射出される別のワイヤー!
この繰り返しで、廃ビルの谷間を忍者のごとく縦横無尽に駆け回る!
「ヒャッ――さて、にょっき助手! そろそろ『妖』ポイントだ!」
イカれた野郎どもの中の一人が真顔の紳士になる。
紳士は、ニュースボーイとスチームパンクの間のような装いのにょっき助手に熱視線。
中性的な顔立ちの助手は、苦笑いを浮かべながら。
「にょつきです。如月《にょつき》です――っと、『妖』発見! 各自攻撃してください」
イカれた野郎どもは火炎放射器を構えて猛る!
「ヒャハー! 妖はぶっころせー!!!」
たちまち、サーカスの空中ブランコがごとく、すれ違い様に『妖』を焼くイカれた野郎ども!
「チェエエエストオオオオ!!!」
その次に、にょっき助手の咆吼!
メキャゴシャと得物でぶっ叩き、生物型の『妖』を血味噌に変えたのだった。
やがて、この一行は、血風吹きすさぶビルとビルの間、地上へと降り立つ。
戦果を確認する全員の腕にはXIの腕章。
力を表わす印が月光に煌めく。
「にょっききゅんお疲れ様!」
「にょつきです。お疲れ様でした!」
うおおおおっすと猛る紳士の声。
一緒に勝利に喜ぶボーイソプラノ。勝利の余韻――そこへ闇から現れる男が一人。
「――ふむ、中々の戦果だ」
いい年してド派手なピンクの髪をして、スチームパンクめいたゴーグルをつけたガリの中年男だ。鼻から得体の知れないコードを生やして、後頭部のほうに行っている。
イカれた野郎どもは、規律正しき軍人のような顔となり、敬礼をした。
派手な中年はつーっと行って、戦果をうんうんと確かめてから振り返る。
「覚者は空からの攻撃に弱い! だろう!? にょっき助手!?」
「如月《にょつき》です。鋤島博士」
派手な中年こと鋤島は、くふふふと笑う。
イカれた野郎どもは直立で礼の姿勢。紳士に徹している。
「無敵の『三次元殺法装置』のテストをガンガン実施する! 相手は『妖』か? 覚者でもいいぞ! 出来れば覚者がいいな!」
「はあ……一応、『妖』の出現情報はXIからもらってます。……ただ、今のこの景色、既視感がありまして、ちょっと嫌な感じです。逃走の用意はしておいたほうが良いかと」
「にょっき助手の悪い予感は良く当たるからな! ハハハハハハ! OK! よきにはからえよ! 我々は覚者に勝たねばならん! 科学の力でな! 『覚者だけに効く毒』だってある!」
「そうですか――にょつきです」
にょっき助手はため息をついた。
●押収だ -Bereave-
「先日、ちょっとした『妖』事件で、XIの押収品を貸し出したら『そういうの増やしてほしい』って要望をもらったの。数がほしいわ」
樒・飴色(nCL2000110)が、悪そうな顔をしてほほえんでいた。
今日は電子煙草ではない。鳩の文様が施された煙草だ。
部屋には、何故か用意されているバーカウンター。要するに『悪どい依頼』という事を演出しているらしい。
「落ち目のXIで、変な兵器をやたら作っている人物を見つけたから、押収して来てほしいわ」
差し出されたレポートは、飴色が個人で調べてきたものを、夢見が裏付けたという経緯のものだった。
隔者にも通ずる様な、いかがわしい情報網を利用したらしい。
「敵はXIの末端組織『鋤島研究所』。XI内部での担当は、XIに武器を卸している武器商人――というより、科学の力で覚者に迫ろうと頑張っている芸人集団といったところね」
飴色がピッとリモコンを操作する。
酒が並んでいたはずの背景が、ディスプレイ・モニタに変わった。映し出された人物は二名。
「中心人物は二人。鋤島 世朗《すきしま せろう》博士。せらとぅす・W・にょっき助手。敵戦力の中で一番強いのは、この助手。鋤島の都合の良い小間使い兼、人間兵器兼、実験台みたいなものね」
飴色が「詳しくは調査結果を」とレポートを指し示す。
「覚者と見たら問答無用で襲いかかってくるみたいだから、遠慮なく身ぐるみ剥いで良いわ。何もしていない覚者が襲われる前に」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『三次元殺法装置』を最低4つ押収する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
趣旨としては略奪です。
しかし、神具庫における新しい装備については今のところ予定していません。
当方のクエストにおける貸与品の種類が増えるかもしれない、という位置です。
以下詳細。
●ロケーション
・寂れたオフィス街(廃ビル多数)
・夜。視界は悪め。街灯程度はあります。
・戦うには十分な広さがあります
・鋤島研究所の連中が、名も無き妖を倒した後に接触
●エネミーデータ・XI
鋤島 世朗《すきしま せろう》
XIの科学者。憤怒者。ロクでもない(現実的ではない)兵装ばかり作るので、他のXI関連組織から呆れられていました。
世論の変化により追い詰められつつあるXIが「一発逆転の秘密兵器をどうにか作れ」と資金提供が増えた結果、表に出てきてしまった45才。
XI入りのきっかけは、隔者によって妻子を亡くした事ですが、既にそんなのもいたなぁ程度の扱い。
A:
・戦術手榴弾 物遠列 [火傷] 5回まで使用
・覚者だけに効く毒 物遠列 [猛毒][麻痺] 2回まで使用
・注射器をなげる 物遠単 特に効果ありません
・頑張って逃げる 自己付与 頑張ります
『百の白呪』せらとぅす・W・にょっき
鋤島が作った兵装を必ず試す羽目になっている実験台兼助手。憤怒者。
過去、隔者による事件で家族が全員死亡。当人も注射器と薬物による苛みでアルビノのように色素が抜けています。
助けてくれたXIに恩を感じてはいますが、近況、良い覚者も倒す方向性に疑問を持ち始めている13才。ジェットエンジンつけた戦鎚を愛用しています。
A:
・胸部指向性爆薬ジャケット 物近列 [火傷] 自分が後ろにノックバック 1回まで使用
・フラッシュグレネード 物遠列 [麻痺] 5回まで使用
・『白の百呪《Centum》』 自付与 戦闘力絶大強化。解除不可
・三次元殺法装置 自付与 2回まで使用
鋤島研究所職員×8
鋤島研究所の荒くれ紳士たちです。憤怒者。
A:
・火炎放射器 近貫2 [火傷]
・三次元殺法装置 自付与 2回まで使用
●三次元殺法装置について
6ターンの間、限定的に「技能:飛行」に近い機動力を得ます。
大型の敵やオブジェにワイヤー付きのアンカーを撃ち込み、強力な巻き取り機で、三次元的な動きを可能とする装置です。
飛んでいる訳ではないため、移動先を予測しやすいこと、敵が小型である場合、またはオブジェが何もない地形では使えません(翼の因子の飛行ほど便利ではありません)
使用回数制限があることや、訓練を要する類のため、略奪してすぐに使いこなす事は難しいですが、技能で何か有用なものがあれば、うまくいくかもしれません。
●飛行しながらの戦闘について(マニュアル抜粋)
翼の因子持ちなど飛行可能なキャラクターは戦闘中も飛行する事が可能です。
また3メートル未満の範囲での飛行は通常と同じ判定が行われます。
3メートルを超える高さでの飛行を行う場合
・何らかの方法で近接しない限りは近接攻撃は自身も敵も行う事が出来ません。
・防御力に大きなマイナス修正を受けます。
(物理防御力-50%、特殊防御力-50%)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2017年07月26日
2017年07月26日
■メイン参加者 4人■

●困ちょろ作戦 -Edesse-
蒸し暑き夜、蒸し暑き空気は、オフィス街のビルのふきぬけに飛ばされて、いずこかへ。
風涼し。
「押収。とか略奪。とかだとちょーっと言葉からくるイメージがよろしくないかなって!」
楠瀬 ことこ(CL2000498)は、視線を正面に戻して人差し指を立てた。
この部分が引っかかっていて、色々考えてきたのだ。
「なので、ことこちゃん考えましたっ!」
夜空を指さして唱える作戦名!
「『困った人たちの使っているものを、いい感じにちょろまかしてしまえ作戦』」
たちまち、空白のような静寂が場を支配した。
「だめかー。やっぱりだめかー」
ことこは、(-3-)こんな顔をしながら、かくんと頭を垂らして自己完結す。
『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)が軽く応答する。
「相手は憤怒者組織に武装供給をしている組織だ。言い様はあるさ」
ことこは垂らした頭が正す。
「それなら良かったよ! あいどることこちゃんはどんなお仕事でも笑顔で頑張るよっ!」
赤貴も、憤怒者に何を言うべきかは考えてきた。正当性があまりなさそうな、あくどい本件、『覚者が襲い掛かってきた』などと吹聴されては良くない。
「使用機会が限られるとはいえ、こういった技術を得ていくのは悪くない。それに、時勢に合わせて考え方が変わる者も出てくれるなら、なお良いが」
思い描くのはこれまで戦ってきた数々の憤怒者。
思えば、飴色と遭遇したのもXI絡み――覚者並の戦闘力の『新顔』というやつもいた。
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が、此度の敵について思うところとしては、愛しの彼がもしも、この場に居た場合についてだ。
「(憤怒者からの略奪デスカ。愛しの彼が居たら、クールな顔しつつも内心絶対燃え上ってマシタネ! 今回は私が来て正解だったカモシレマセン!)」
彼は、家庭事情が複雑で憤怒者相手だと、まず容赦しないと思われた。自分が来て正解だったと胸裏に反芻す。
桂木・日那乃(CL2000941)は首を傾げる。
「今日の……憤怒者、変わった道具、持ってる、の、ね」
憤怒者と言えば、菊本准教授絡みで、ラプラスの魔なるXIの者の話を教わったことがある。
覚者だけに効く毒。それはラプラスの魔の作だが、今回の相手は化学というより物理学(物理)と推測された。
「ええと、憤怒者、だから。消したらダメ、ね。捕まえ、る?」
おとなしく捕まらないなら、せめて路線変更してみてはどうかと話しかける腹づもりである。
覚者一行、オフィス街をつーっと行く。
街路樹が並び、街路灯の明かりが仄かな光源となっている。やがて向こう側から声がしてくる。
かまわず行くと、例の集団と遭遇した。
先頭はピンク髪の鋤島だ。のんきにドーナッツを食っている。助手は研究所職員にドーナッツをあーんされている。
赤貴が問う。
「鋤島研究所だな?」
「なんだね諸君等は? もっしゃもっしゃ、ずずず」
鋤島。コーヒーをすする。赤貴は声を張り上げた。
「鋤島研究所各位! こちらはFiVE! 憤怒者組織への武装供給を停止させたく、訪れた!」
リーネも名乗る。
「ハーイ! そこの何か掛け声が世紀末的なやられ役の方々! F.i.V.E所属の覚者のリーネがお相手シマスネ!」
ことこは後方に引っ込む。
「打たれ強くないから、後ろから頑張るねー」
日那乃は中衛に。
「(わたしは、飛べる、けど。みんな、近接攻撃する、なら。最初は、飛行スキル、つかわないほうが、いい、かも?)」
覚者一斉に戦闘態勢。対する鋤島研究所の一行は。
「ははあ! 覚者か! 飛んで火に入る夏の虫!! かかれ! いまこそ覚者を超えるとき!」
「FOOOOOOOOOOooooooooooooooooooo!」
いかれた野郎ども、一斉に飛び立つ!
●XI兵装担当、鋤島研究所 -Strong Physics -
「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」
XI! 憤怒者! 空中を疾走す! 彼らの得物は火炎放射器だ。
サーカスやら雑伎団めいた動きで炎を浴びせてくる。
「負けフラグの武器(火炎放射器)を持っていた事を恨むのデース!」
リーネが、身体を張って、空中火炎放射器アタックをドーンと止める。
「ヒャ!? ぐはあ」
リーネの紫鋼塞。勢いよくコンボイとかコンクリの壁に正面衝突した格好だ。
覚者ならともかく、憤怒者は一般人。研究員は顔面と股間をおさえて崩れ落ちた。
「あれ?」
「ひょっとして、ことこちゃんより柔らかい?」
日那乃考える。
その後ろから、ことこがひょっこり顔をだしながらストレートに曰った。
「ええい、何をやっておる! ならば、私自ら秘策その1をお見舞いしてやる!!」
鋤島が笑いながら瓶を投擲する。
それは覚者だけに効く毒。瓶が割れて猛毒の霧が炸裂す。
この炸裂する寸前、ことこが後の先のように、清廉珀香で状態異常への耐性を全員に付与した。
毒にかかったのはリーネ。そのリーネを日那乃が頷いて治療する。
「ん、深想、水もある」
「助かりマース」
毒や麻痺対策はしっかりたてているのだ。
「いくぞ! 覚者! かかってこい」
せらとぅす・W・にょっき助手がかかって来る。
ジェットエンジンを伴った戦鎚は、前衛、赤貴に振り下ろされた。
毒から復活したリーネ。割って入る。
「赤貴君、守りは私にドーンと任せて、バーンと攻めちゃうのデス♪」
がきり、と戦鎚と二枚の盾が接触。紫鋼塞の衝撃で助手に反撃。衝撃波は腹に刺さったか、助手は口中から液を吐く。
「卑劣な」
「ヒレツだなんて、心外デース!」
研究員はこれ一発で落ちたが、これで落ちない辺りで、やはり一般研究員よりはタフらしい。
赤貴が両刃剣を振るう。
「この機動力は実際大したものだ……が」
にょっき助手をはじき飛ばしながら、召炎波を放った。
「数で劣る戦場なぞ、茶飯事だ。そちらは、面制圧に対応できるか?」
「っ!」
にょっき助手、舌を打ち得物のジェットと三次元殺法装置を駆使して、空中へ逃れて回避。
「あわー!」「ぐわー!」「えろば」
一方、研究員がこれで戦闘不能になった。
開戦して程なく、一気に4人の研究員が落ちた。
装置の訓練をしているとはいえ、研究員――戦闘はあまり得意ではないとみられた。
「くっそぉ! フォーメーションZ! 垂直から攻めるぞ!」「ひゃは!」
研究員は一斉に上空へ飛ぶ。Z軸に距離をとった。垂直落下戦法に切り替えたようだ。
「憤怒者の、移動先、予測しやすい、みたい、だから」
日那乃はエアブリットを狙いすます。
ワイヤーとアンカー。アンカーが射出された先が、移動先。
三次元殺法の軌道はアンカーが教えてくれる。
発射先に予め置いておくように撃つと、当たりに来てくれるはず――。
「ぐわー!」
「うん、当たった」
5人目。
予想通りだ。手加減しているので多分、大丈夫だ。
ことこも加わる。エアブリット。
「ぎゃああああ」
6人目。形容するなら、空中の虫を落とす感覚に近い。
ついでに、にょっき助手が投げてきたフラッシュグレネードを得物の楽器でホームラン。
「……読まれている? だが負けない!」
にょっき助手は歯を噛みしめる。
研究員があっさり落ちていく状況や、フラッシュグレネードがあっさり防がれたことなど悔しさがあるようだ。
かくて戦闘は、覚者の圧倒的優勢。
ランク3の『妖』が、すでに『普通』という水準に至った覚者達だ。ちょっとしぶとい研究員(2ターン耐えた)もいるが、戦況は変わらずに進む。
「道具は、戦闘不能に、して。回収?」
日那乃がリーネを回復しながら言うと、ことこはしっかり戦闘不能者から三次元殺法装置を外して押収していた。
「数、揃ったよ!」
目的としては達成。
前衛に、にょっき助手の戦鎚が飛来する。リーネが受け止める。
「赤貴君、揃ったみたいデスヨ?」
数が揃ったらしいが。
「もう少しやることがある」
と赤貴は応答しながら、剣を地に突き刺して隆神槍。
助手は、地面から突き出る槍をステップで避けていく。助手との距離が開いたところで、語りかけた。
「驚異的な戦闘能力だ……経験も豊富なのだろう」
「――何です?」
にょっき助手は、握る戦鎚を少し下げる。
敵と断定できる関係になれば、容赦する謂われはない。ないが、これまで戦ってきた連中よりは話が通じそうだという想いである。
「その力、未来に向けてみる気はないか?」
「未来……? 何が言いたい!?」
日那乃も同様の想いが胸中にある。
「憤怒者のひとたち、妖とか、隔者とか、と、戦うだけじゃ、ダメ?」
大妖一夜。そのとき日那乃は『斬鉄』の前に立った。
共私利私欲ばかり追求する隔者、善悪関係なしに異能を排除せしめんとする度し難き憤怒者よりは、共通の敵として妖、隔者を認識してくれそうだから。
ことこも説得を重ねる。
「うさんくさい武器作ってないで、普通に生活する人の役に立つもの作ろうよ。で、特許とって億万長者とか☆」
うさんくさい(失礼)であるものの、コンクリートの壁をぶち破るアンカー、小型で強力な巻取機、こんな技術力あるなら、特許間違いなし!
畳むように赤貴。
「過去は背負い続けるしかないが、別の大切なものを得る生き方もあるはずだ」
一方リーネはふと気がついた。
「(なんでしょうネ、鋤島の余裕そうな表情は?)」
鋤島だ。
あっさり手勢が7人悶絶している状況なのに、まだ余裕の笑みを崩していない。
「……これは仕方ないなぁ」
と、言いながら、鋤島が自らの白衣をまさぐっている。
この状況、すでに追い詰められている中で何か出来るのか。
にょっき助手が言う。
「大妖の時のF.i.V.E.の活躍は見ていました……あなた達は、たぶん良い人です。エグゾルツィーズムの話は聞いていますし、僕の仲間を殺さないように手加減している」
にょっき助手が戦鎚をすっと下ろして戦闘態勢を解いた。
「XIの上層部は、あの事件をみても、まだ良い覚者も悪い覚者も狙っています。僕にはそれが、とてもじゃないけど正義には見えな――」
言葉が止まった。
「すとーーーぷっ! はいはい! ぷすっとな!」
鋤島だ。注射器を投擲。
それは助手のうなじに刺さり、次にからりと助手の足下に落ちる。中身は無い。
「さあ行け! セントゥムくん! 覚者をぶちのめすのだー」
にょっき助手は目を大きく見開き、頭を抱えて苦しみだした。
「痛い痛い痛い。覚者! 殺さなきゃ。痛い痛い痛い。殺さなきゃ殺される。痛い痛い痛い痛い痛い! アアアアアアアAAAAhhh」
「どうした!?」
と赤貴。
「様子、おか、しい?」
日那乃は暗視にて、にょっき助手――白目が黒く濁り、黒白目になっていく――の様子を視認する。
「何をマシタ?」
リーネが問うと鋤島は盛大に笑う。
「我が研究所の最高戦力に出てきてもらったのよん。ワハハハハ!」
鋤島は踵をかえす。残りの職員とともに気合いの入った駆け足で逃走。
助手の悲鳴がピタりと止まる。黒い眼光、覚者を射貫く。
「……未来、大切なものを得る生き方――明日を必ず見る事ができると思い上がっているのか。覚者?」
助手は目血《めぢ》を流しながら、戦鎚を引きずって歩いてくる。
「――俺が、やられたように、皮膚を剥がしてやる。爪を毟ってやる。指を一本ずつ折って――」
「本当にいっぱんじんなのかなぁ?」
ことこが疑問を述べた。
●セントゥム -XI Maximum strength-
機械仕掛けの戦鎚が、静謐を引き裂いた。
「リーネお姉さんに任せるのデース! 絶対守り切ってミセマスカラ、ネ!」
赤貴を狙った鎚。二枚の盾が受け止める。
たちまち戦鎚のジェット加速の連射。衝撃と重圧に、全身の関節と筋肉が悲鳴を上げる。
盾のガードが左右に割られ、鎖骨に戦鎚、つき刺さる。
「――ッ」
日那乃がすぐに治療する。
「ん、どうし、よう?」
油断していた訳では無い。最も耐久力が高いリーネの体力を、ガードごしにごっそり持って行った事実に、場から余裕が消える。
ことこがエアブリットを放つ。
先の意趣返しか、明後日の方向へ蹴り上げられた。
相棒――嫁がここにいたならば「アカン!」と漏らしそうだと考えた。
「無理に戦わなくていいよっ」
と呼びかけると。
「逃、がすと思っているのか」
助手は横のビルにアンカーを射出。
赤貴が、剣の腹部分をぶつける。
「解離性の多重人格か……お前は変わるつもりはないのか?」
助手はワイヤーを巻き戻して衝撃を逃がし、戦鎚のジェットエンジンで前進。たちまち目の前だ。
「生憎だが、俺は心無くただ敵を倒す兵器だ」
爆裂。
指向性爆薬ジャケットで、助手は向こう側へと吹き飛んで着地。距離が開いた。
リーネがこの爆裂からも、赤貴を庇っている。
「それは嘘デスネ」
口角から血を滴らせつつも、朗らかに言ってのける。「ネ?」と赤貴に同意を求めた。
「オレも、最近変わってきた」
と、赤貴は隆神槍を助手の足下に隆起させる。助手を上に跳ね上げる。
助手が空中でアンカーを射出。ワイヤーを巻き取りながら閃光弾を掴む。
「言葉に、だす、そう、なりたいと、ねがっているだけ?」
日那乃が空中で回り込み、助手の閃光弾を持つ手を掴む。翼人の因子は飛べるのだ。
そしてことこも――。
「知ってる? 高く飛ぶのって、色々大変なんだよ?」
アンカーに手をやる。
「や、めろ」
「姿勢の制御とか、下からぱんつ見えないようにするとか――」
落とすとみせかけてのエアブリット。
回避能力などが並ではなかったが、一般人は一般人。一回の直撃で失神す。
「勝った☆」
その後、街路樹がクッションになるように、そっと降ろす優しさがあった。
●三次元殺法装置6つ -to be continued?-
目的は果たした。三次元殺法装置8つ。
量産できるかは、神具庫の祠堂 薫に話をしてみねばなるまいが。
「困った人たちの使っているものを、いい感じにちょろまかしてしまえ作戦! 大成功! いぇいっ☆」
ことこ、いぇいする。
倒した助手を含め、研究員も捕縛して連行――飴色が首尾良く回収していった。
「私はあんなもの使わなくても飛べマスネ!」
リーネの守護使役『ヴァル』は、浮遊系だ。
「ちょっとだけですけど! ヴァル、見せてアゲマショー!」
何故か対抗心を燃やしてちょっとだけ浮く。赤貴はふわふわしているのをスルー気味に呟く。
「鋤島には逃げられたが、助手を失ったからな。テストできる奴がいなければ、長くはないだろう」
覚者4人を相手に、かつリーネの装甲をぶち破る助手を、穏便に返すことはできない、と思う。
日那乃が首を傾げて呟く。
「ん、……関係ない、覚者、おそわなかったら。わたしたちの、ほうが、悪者、ね」
首を正してふと空をみると、月光が廃ビルの窓硝子に反射して、幾万の月が落ちてきたように見えた。
夢の如き光景である。
夢見は夢を見るが、この月の数のように、未来は分からない。
夏の月の下、ふきぬけは風涼し。
蒸し暑き夜、蒸し暑き空気は、オフィス街のビルのふきぬけに飛ばされて、いずこかへ。
風涼し。
「押収。とか略奪。とかだとちょーっと言葉からくるイメージがよろしくないかなって!」
楠瀬 ことこ(CL2000498)は、視線を正面に戻して人差し指を立てた。
この部分が引っかかっていて、色々考えてきたのだ。
「なので、ことこちゃん考えましたっ!」
夜空を指さして唱える作戦名!
「『困った人たちの使っているものを、いい感じにちょろまかしてしまえ作戦』」
たちまち、空白のような静寂が場を支配した。
「だめかー。やっぱりだめかー」
ことこは、(-3-)こんな顔をしながら、かくんと頭を垂らして自己完結す。
『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)が軽く応答する。
「相手は憤怒者組織に武装供給をしている組織だ。言い様はあるさ」
ことこは垂らした頭が正す。
「それなら良かったよ! あいどることこちゃんはどんなお仕事でも笑顔で頑張るよっ!」
赤貴も、憤怒者に何を言うべきかは考えてきた。正当性があまりなさそうな、あくどい本件、『覚者が襲い掛かってきた』などと吹聴されては良くない。
「使用機会が限られるとはいえ、こういった技術を得ていくのは悪くない。それに、時勢に合わせて考え方が変わる者も出てくれるなら、なお良いが」
思い描くのはこれまで戦ってきた数々の憤怒者。
思えば、飴色と遭遇したのもXI絡み――覚者並の戦闘力の『新顔』というやつもいた。
『『恋路の守護者』』リーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が、此度の敵について思うところとしては、愛しの彼がもしも、この場に居た場合についてだ。
「(憤怒者からの略奪デスカ。愛しの彼が居たら、クールな顔しつつも内心絶対燃え上ってマシタネ! 今回は私が来て正解だったカモシレマセン!)」
彼は、家庭事情が複雑で憤怒者相手だと、まず容赦しないと思われた。自分が来て正解だったと胸裏に反芻す。
桂木・日那乃(CL2000941)は首を傾げる。
「今日の……憤怒者、変わった道具、持ってる、の、ね」
憤怒者と言えば、菊本准教授絡みで、ラプラスの魔なるXIの者の話を教わったことがある。
覚者だけに効く毒。それはラプラスの魔の作だが、今回の相手は化学というより物理学(物理)と推測された。
「ええと、憤怒者、だから。消したらダメ、ね。捕まえ、る?」
おとなしく捕まらないなら、せめて路線変更してみてはどうかと話しかける腹づもりである。
覚者一行、オフィス街をつーっと行く。
街路樹が並び、街路灯の明かりが仄かな光源となっている。やがて向こう側から声がしてくる。
かまわず行くと、例の集団と遭遇した。
先頭はピンク髪の鋤島だ。のんきにドーナッツを食っている。助手は研究所職員にドーナッツをあーんされている。
赤貴が問う。
「鋤島研究所だな?」
「なんだね諸君等は? もっしゃもっしゃ、ずずず」
鋤島。コーヒーをすする。赤貴は声を張り上げた。
「鋤島研究所各位! こちらはFiVE! 憤怒者組織への武装供給を停止させたく、訪れた!」
リーネも名乗る。
「ハーイ! そこの何か掛け声が世紀末的なやられ役の方々! F.i.V.E所属の覚者のリーネがお相手シマスネ!」
ことこは後方に引っ込む。
「打たれ強くないから、後ろから頑張るねー」
日那乃は中衛に。
「(わたしは、飛べる、けど。みんな、近接攻撃する、なら。最初は、飛行スキル、つかわないほうが、いい、かも?)」
覚者一斉に戦闘態勢。対する鋤島研究所の一行は。
「ははあ! 覚者か! 飛んで火に入る夏の虫!! かかれ! いまこそ覚者を超えるとき!」
「FOOOOOOOOOOooooooooooooooooooo!」
いかれた野郎ども、一斉に飛び立つ!
●XI兵装担当、鋤島研究所 -Strong Physics -
「ヒャッハー!」「ヒャッハー!」
XI! 憤怒者! 空中を疾走す! 彼らの得物は火炎放射器だ。
サーカスやら雑伎団めいた動きで炎を浴びせてくる。
「負けフラグの武器(火炎放射器)を持っていた事を恨むのデース!」
リーネが、身体を張って、空中火炎放射器アタックをドーンと止める。
「ヒャ!? ぐはあ」
リーネの紫鋼塞。勢いよくコンボイとかコンクリの壁に正面衝突した格好だ。
覚者ならともかく、憤怒者は一般人。研究員は顔面と股間をおさえて崩れ落ちた。
「あれ?」
「ひょっとして、ことこちゃんより柔らかい?」
日那乃考える。
その後ろから、ことこがひょっこり顔をだしながらストレートに曰った。
「ええい、何をやっておる! ならば、私自ら秘策その1をお見舞いしてやる!!」
鋤島が笑いながら瓶を投擲する。
それは覚者だけに効く毒。瓶が割れて猛毒の霧が炸裂す。
この炸裂する寸前、ことこが後の先のように、清廉珀香で状態異常への耐性を全員に付与した。
毒にかかったのはリーネ。そのリーネを日那乃が頷いて治療する。
「ん、深想、水もある」
「助かりマース」
毒や麻痺対策はしっかりたてているのだ。
「いくぞ! 覚者! かかってこい」
せらとぅす・W・にょっき助手がかかって来る。
ジェットエンジンを伴った戦鎚は、前衛、赤貴に振り下ろされた。
毒から復活したリーネ。割って入る。
「赤貴君、守りは私にドーンと任せて、バーンと攻めちゃうのデス♪」
がきり、と戦鎚と二枚の盾が接触。紫鋼塞の衝撃で助手に反撃。衝撃波は腹に刺さったか、助手は口中から液を吐く。
「卑劣な」
「ヒレツだなんて、心外デース!」
研究員はこれ一発で落ちたが、これで落ちない辺りで、やはり一般研究員よりはタフらしい。
赤貴が両刃剣を振るう。
「この機動力は実際大したものだ……が」
にょっき助手をはじき飛ばしながら、召炎波を放った。
「数で劣る戦場なぞ、茶飯事だ。そちらは、面制圧に対応できるか?」
「っ!」
にょっき助手、舌を打ち得物のジェットと三次元殺法装置を駆使して、空中へ逃れて回避。
「あわー!」「ぐわー!」「えろば」
一方、研究員がこれで戦闘不能になった。
開戦して程なく、一気に4人の研究員が落ちた。
装置の訓練をしているとはいえ、研究員――戦闘はあまり得意ではないとみられた。
「くっそぉ! フォーメーションZ! 垂直から攻めるぞ!」「ひゃは!」
研究員は一斉に上空へ飛ぶ。Z軸に距離をとった。垂直落下戦法に切り替えたようだ。
「憤怒者の、移動先、予測しやすい、みたい、だから」
日那乃はエアブリットを狙いすます。
ワイヤーとアンカー。アンカーが射出された先が、移動先。
三次元殺法の軌道はアンカーが教えてくれる。
発射先に予め置いておくように撃つと、当たりに来てくれるはず――。
「ぐわー!」
「うん、当たった」
5人目。
予想通りだ。手加減しているので多分、大丈夫だ。
ことこも加わる。エアブリット。
「ぎゃああああ」
6人目。形容するなら、空中の虫を落とす感覚に近い。
ついでに、にょっき助手が投げてきたフラッシュグレネードを得物の楽器でホームラン。
「……読まれている? だが負けない!」
にょっき助手は歯を噛みしめる。
研究員があっさり落ちていく状況や、フラッシュグレネードがあっさり防がれたことなど悔しさがあるようだ。
かくて戦闘は、覚者の圧倒的優勢。
ランク3の『妖』が、すでに『普通』という水準に至った覚者達だ。ちょっとしぶとい研究員(2ターン耐えた)もいるが、戦況は変わらずに進む。
「道具は、戦闘不能に、して。回収?」
日那乃がリーネを回復しながら言うと、ことこはしっかり戦闘不能者から三次元殺法装置を外して押収していた。
「数、揃ったよ!」
目的としては達成。
前衛に、にょっき助手の戦鎚が飛来する。リーネが受け止める。
「赤貴君、揃ったみたいデスヨ?」
数が揃ったらしいが。
「もう少しやることがある」
と赤貴は応答しながら、剣を地に突き刺して隆神槍。
助手は、地面から突き出る槍をステップで避けていく。助手との距離が開いたところで、語りかけた。
「驚異的な戦闘能力だ……経験も豊富なのだろう」
「――何です?」
にょっき助手は、握る戦鎚を少し下げる。
敵と断定できる関係になれば、容赦する謂われはない。ないが、これまで戦ってきた連中よりは話が通じそうだという想いである。
「その力、未来に向けてみる気はないか?」
「未来……? 何が言いたい!?」
日那乃も同様の想いが胸中にある。
「憤怒者のひとたち、妖とか、隔者とか、と、戦うだけじゃ、ダメ?」
大妖一夜。そのとき日那乃は『斬鉄』の前に立った。
共私利私欲ばかり追求する隔者、善悪関係なしに異能を排除せしめんとする度し難き憤怒者よりは、共通の敵として妖、隔者を認識してくれそうだから。
ことこも説得を重ねる。
「うさんくさい武器作ってないで、普通に生活する人の役に立つもの作ろうよ。で、特許とって億万長者とか☆」
うさんくさい(失礼)であるものの、コンクリートの壁をぶち破るアンカー、小型で強力な巻取機、こんな技術力あるなら、特許間違いなし!
畳むように赤貴。
「過去は背負い続けるしかないが、別の大切なものを得る生き方もあるはずだ」
一方リーネはふと気がついた。
「(なんでしょうネ、鋤島の余裕そうな表情は?)」
鋤島だ。
あっさり手勢が7人悶絶している状況なのに、まだ余裕の笑みを崩していない。
「……これは仕方ないなぁ」
と、言いながら、鋤島が自らの白衣をまさぐっている。
この状況、すでに追い詰められている中で何か出来るのか。
にょっき助手が言う。
「大妖の時のF.i.V.E.の活躍は見ていました……あなた達は、たぶん良い人です。エグゾルツィーズムの話は聞いていますし、僕の仲間を殺さないように手加減している」
にょっき助手が戦鎚をすっと下ろして戦闘態勢を解いた。
「XIの上層部は、あの事件をみても、まだ良い覚者も悪い覚者も狙っています。僕にはそれが、とてもじゃないけど正義には見えな――」
言葉が止まった。
「すとーーーぷっ! はいはい! ぷすっとな!」
鋤島だ。注射器を投擲。
それは助手のうなじに刺さり、次にからりと助手の足下に落ちる。中身は無い。
「さあ行け! セントゥムくん! 覚者をぶちのめすのだー」
にょっき助手は目を大きく見開き、頭を抱えて苦しみだした。
「痛い痛い痛い。覚者! 殺さなきゃ。痛い痛い痛い。殺さなきゃ殺される。痛い痛い痛い痛い痛い! アアアアアアアAAAAhhh」
「どうした!?」
と赤貴。
「様子、おか、しい?」
日那乃は暗視にて、にょっき助手――白目が黒く濁り、黒白目になっていく――の様子を視認する。
「何をマシタ?」
リーネが問うと鋤島は盛大に笑う。
「我が研究所の最高戦力に出てきてもらったのよん。ワハハハハ!」
鋤島は踵をかえす。残りの職員とともに気合いの入った駆け足で逃走。
助手の悲鳴がピタりと止まる。黒い眼光、覚者を射貫く。
「……未来、大切なものを得る生き方――明日を必ず見る事ができると思い上がっているのか。覚者?」
助手は目血《めぢ》を流しながら、戦鎚を引きずって歩いてくる。
「――俺が、やられたように、皮膚を剥がしてやる。爪を毟ってやる。指を一本ずつ折って――」
「本当にいっぱんじんなのかなぁ?」
ことこが疑問を述べた。
●セントゥム -XI Maximum strength-
機械仕掛けの戦鎚が、静謐を引き裂いた。
「リーネお姉さんに任せるのデース! 絶対守り切ってミセマスカラ、ネ!」
赤貴を狙った鎚。二枚の盾が受け止める。
たちまち戦鎚のジェット加速の連射。衝撃と重圧に、全身の関節と筋肉が悲鳴を上げる。
盾のガードが左右に割られ、鎖骨に戦鎚、つき刺さる。
「――ッ」
日那乃がすぐに治療する。
「ん、どうし、よう?」
油断していた訳では無い。最も耐久力が高いリーネの体力を、ガードごしにごっそり持って行った事実に、場から余裕が消える。
ことこがエアブリットを放つ。
先の意趣返しか、明後日の方向へ蹴り上げられた。
相棒――嫁がここにいたならば「アカン!」と漏らしそうだと考えた。
「無理に戦わなくていいよっ」
と呼びかけると。
「逃、がすと思っているのか」
助手は横のビルにアンカーを射出。
赤貴が、剣の腹部分をぶつける。
「解離性の多重人格か……お前は変わるつもりはないのか?」
助手はワイヤーを巻き戻して衝撃を逃がし、戦鎚のジェットエンジンで前進。たちまち目の前だ。
「生憎だが、俺は心無くただ敵を倒す兵器だ」
爆裂。
指向性爆薬ジャケットで、助手は向こう側へと吹き飛んで着地。距離が開いた。
リーネがこの爆裂からも、赤貴を庇っている。
「それは嘘デスネ」
口角から血を滴らせつつも、朗らかに言ってのける。「ネ?」と赤貴に同意を求めた。
「オレも、最近変わってきた」
と、赤貴は隆神槍を助手の足下に隆起させる。助手を上に跳ね上げる。
助手が空中でアンカーを射出。ワイヤーを巻き取りながら閃光弾を掴む。
「言葉に、だす、そう、なりたいと、ねがっているだけ?」
日那乃が空中で回り込み、助手の閃光弾を持つ手を掴む。翼人の因子は飛べるのだ。
そしてことこも――。
「知ってる? 高く飛ぶのって、色々大変なんだよ?」
アンカーに手をやる。
「や、めろ」
「姿勢の制御とか、下からぱんつ見えないようにするとか――」
落とすとみせかけてのエアブリット。
回避能力などが並ではなかったが、一般人は一般人。一回の直撃で失神す。
「勝った☆」
その後、街路樹がクッションになるように、そっと降ろす優しさがあった。
●三次元殺法装置6つ -to be continued?-
目的は果たした。三次元殺法装置8つ。
量産できるかは、神具庫の祠堂 薫に話をしてみねばなるまいが。
「困った人たちの使っているものを、いい感じにちょろまかしてしまえ作戦! 大成功! いぇいっ☆」
ことこ、いぇいする。
倒した助手を含め、研究員も捕縛して連行――飴色が首尾良く回収していった。
「私はあんなもの使わなくても飛べマスネ!」
リーネの守護使役『ヴァル』は、浮遊系だ。
「ちょっとだけですけど! ヴァル、見せてアゲマショー!」
何故か対抗心を燃やしてちょっとだけ浮く。赤貴はふわふわしているのをスルー気味に呟く。
「鋤島には逃げられたが、助手を失ったからな。テストできる奴がいなければ、長くはないだろう」
覚者4人を相手に、かつリーネの装甲をぶち破る助手を、穏便に返すことはできない、と思う。
日那乃が首を傾げて呟く。
「ん、……関係ない、覚者、おそわなかったら。わたしたちの、ほうが、悪者、ね」
首を正してふと空をみると、月光が廃ビルの窓硝子に反射して、幾万の月が落ちてきたように見えた。
夢の如き光景である。
夢見は夢を見るが、この月の数のように、未来は分からない。
夏の月の下、ふきぬけは風涼し。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
