七星剣直系団体『ヒノマル陸軍』
●戦争のための戦争のための戦争
近畿地方、某山中。
四式自動小銃の弾が右から左に薙いでいく。
人間がかようなまでにもろかったのかと思わせるほど簡単に、刀を携えた戦士たちははじき飛ばされていった。
木製グリップの古めかしい銃でありながら、その威力は現代のそれに勝るとも劣らぬ。なぜならそれが『彼』専用に誂えられた神具だからだ。
「我こそは『ヒノマル陸軍』中将、伊賀上野・唯忠(いがうえの・ただただ)である! 貴殿らは江戸より続く剣術道場を基板とした力ある覚者組織とお見受けした! いざ尋常に戦争をせよ!」
小銃を肩にかついで高らかに宣言する見た目50代前後の男、伊賀上野。
彼は70年以上前の軍服に身を包み、片目は眼帯に覆われていた。
そんな彼の左右を固めるように、装剣した三八式歩兵銃を構えた兵隊たちがずらりと並んでいる。
有無を言わさぬ、生死も問わぬ。
言ったが最後の戦道である。
道場主と思しき覚者は刀を抜いた。
「たしかにワシらは覚者の集いじゃ。しかし日々剣術稽古に励むのみの集団。襲われる理由などない。貴様ら、よもや憤怒者かぶれではあるまいな」
「ふはは! 理由など!」
伊賀上野は壮大に笑って言った。
「戦争に理由などないわ! 戦争のために戦争をし、戦争をしたから戦争がおきるのだ! つべこべいわずに、我らと戦えぃ!」
怒号と共に兵隊たちが動き出す。
半数がBOTによる射撃を開始。残る兵士が銃剣を加熱させながら突撃していく。
道場主の覚者は降りかかる弾を刀で弾き、突撃してくる兵士の剣を叩き返す。
が、それが続いたのはおよそ七秒たらずであった。
「笑止!」
軍刀を抜いた伊賀上野が一閃すると、道場主の刀は手からすり抜け、天井へと突き刺さった。
返す刀で彼を斬りつけ、背を向ける伊賀上野。
「ここも我らの死に場所ではなかったようだ。次へゆくぞ。全員斉唱!」
号令に応え、兵士たちが軍歌を口ずさむ。
歌と共に歩き出す兵士たち。
彼らは終わらぬ戦争の徒。
人呼んで『ヒノマル陸軍』。
●カウンターオペレーション
久方 相馬(nCL2000004)はそこまでの説明を終えると、念写した資料を机に並べた。
「つい最近存在が明らかになった隔者組織『ヒノマル陸軍』についての作戦だ。以前破綻者鎮圧作戦で拘束した加賀三三から獲得した情報を元に、ピンポイントで対抗作戦を組むことになった」
『ヒノマル陸軍』とは七星剣に所属する隔者組織である。
様々な理由から戦争をすることだけを目的とし、終わらない戦争を続ける異常な集団だ。
今回対抗作戦を組むことが出来たのは、その中の『伊賀上野班』というチームだ。
「さっき俺が説明したのは未来の出来事。つまり、先回りしてこのチームを倒すことができれば襲われるはずの覚者組織に何も知られぬまま事態を収拾できるんだ」
勿論、F.i.V.Eの正体を晒す危険が伴うためこの覚者組織には何も知らせてはいない。今回は彼らの協力は勿論のこと、事件への関与そのものがないものとして考えなければならない。
「『伊賀上野班』はリーダー格の伊賀上野と8名の兵士で構成されてる。力を合わせて戦えば、勝てない敵ってわけじゃないだろう。みんな、よろしく頼んだぜ」
近畿地方、某山中。
四式自動小銃の弾が右から左に薙いでいく。
人間がかようなまでにもろかったのかと思わせるほど簡単に、刀を携えた戦士たちははじき飛ばされていった。
木製グリップの古めかしい銃でありながら、その威力は現代のそれに勝るとも劣らぬ。なぜならそれが『彼』専用に誂えられた神具だからだ。
「我こそは『ヒノマル陸軍』中将、伊賀上野・唯忠(いがうえの・ただただ)である! 貴殿らは江戸より続く剣術道場を基板とした力ある覚者組織とお見受けした! いざ尋常に戦争をせよ!」
小銃を肩にかついで高らかに宣言する見た目50代前後の男、伊賀上野。
彼は70年以上前の軍服に身を包み、片目は眼帯に覆われていた。
そんな彼の左右を固めるように、装剣した三八式歩兵銃を構えた兵隊たちがずらりと並んでいる。
有無を言わさぬ、生死も問わぬ。
言ったが最後の戦道である。
道場主と思しき覚者は刀を抜いた。
「たしかにワシらは覚者の集いじゃ。しかし日々剣術稽古に励むのみの集団。襲われる理由などない。貴様ら、よもや憤怒者かぶれではあるまいな」
「ふはは! 理由など!」
伊賀上野は壮大に笑って言った。
「戦争に理由などないわ! 戦争のために戦争をし、戦争をしたから戦争がおきるのだ! つべこべいわずに、我らと戦えぃ!」
怒号と共に兵隊たちが動き出す。
半数がBOTによる射撃を開始。残る兵士が銃剣を加熱させながら突撃していく。
道場主の覚者は降りかかる弾を刀で弾き、突撃してくる兵士の剣を叩き返す。
が、それが続いたのはおよそ七秒たらずであった。
「笑止!」
軍刀を抜いた伊賀上野が一閃すると、道場主の刀は手からすり抜け、天井へと突き刺さった。
返す刀で彼を斬りつけ、背を向ける伊賀上野。
「ここも我らの死に場所ではなかったようだ。次へゆくぞ。全員斉唱!」
号令に応え、兵士たちが軍歌を口ずさむ。
歌と共に歩き出す兵士たち。
彼らは終わらぬ戦争の徒。
人呼んで『ヒノマル陸軍』。
●カウンターオペレーション
久方 相馬(nCL2000004)はそこまでの説明を終えると、念写した資料を机に並べた。
「つい最近存在が明らかになった隔者組織『ヒノマル陸軍』についての作戦だ。以前破綻者鎮圧作戦で拘束した加賀三三から獲得した情報を元に、ピンポイントで対抗作戦を組むことになった」
『ヒノマル陸軍』とは七星剣に所属する隔者組織である。
様々な理由から戦争をすることだけを目的とし、終わらない戦争を続ける異常な集団だ。
今回対抗作戦を組むことが出来たのは、その中の『伊賀上野班』というチームだ。
「さっき俺が説明したのは未来の出来事。つまり、先回りしてこのチームを倒すことができれば襲われるはずの覚者組織に何も知られぬまま事態を収拾できるんだ」
勿論、F.i.V.Eの正体を晒す危険が伴うためこの覚者組織には何も知らせてはいない。今回は彼らの協力は勿論のこと、事件への関与そのものがないものとして考えなければならない。
「『伊賀上野班』はリーダー格の伊賀上野と8名の兵士で構成されてる。力を合わせて戦えば、勝てない敵ってわけじゃないだろう。みんな、よろしく頼んだぜ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.『伊賀上野班』の撃破(生死不問)
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●『伊賀上野班』
全員現因子の火行使いで構成されています。
予知した限りだと兵士は『B.O.T.』と『炎撃』、伊賀上野は『烈波』の使用が予測されています。他の活性スキルは不明です。
兵士の戦闘力はF.i.V.E覚者平均と同等ちょい下ですが、伊賀上野は格上の実力を持っています。
兵士は命数使用なし。伊賀上野は命数使用復活あり。
戦略的な撤退(逃走)は、場合によってはします。その場合でも撃破扱いとしますので、シナリオクリアとなります。
ただ伊賀上野は戦うことが大好な性格のようです。現因子なので実年齢は不明です。
●戦場と状況について
冒頭にある道場とは遠く離れた路上で予めバリケード(正確には単管バリケード。よく道路工事の現場に置いてあるやつです)を設置していますので、その場で待ち構えて戦闘に持ち込む形になります。
周囲はやや開けていますが左右が木々に覆われているため遠くまで見通せるほどの場所ではりません。
この場で決着をつけてください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
9/9
9/9
公開日
2015年09月30日
2015年09月30日
■メイン参加者 9人■

●
三重県北西部、道中。
この道路の名前を鹿ノ島・遥(CL2000227)は知らないし、知ったことでは無い。きっとなんとか道なんだろうし、もしくは無名の道路だろう。
今から接触することになる隔者の名前も、なんだかいがいがした名前だなという程度の記憶である。重要なのは、前に戦ったひどく強い奴の仲間らしいということのみだ。
ゆえに、道中にバリケードを置いて迎撃姿勢をとっている。
「っし、いつでも来い!」
「……『ヒノマル陸軍』でしたか。頭を潰さない限りこの先も類似案件が出てくるということでしょうか」
問いかけるように言った『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)だが、そこから話をつなげるつもりは無いようで、『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)のほうへと振り向いた。
「そう、お夕食は冷蔵庫に。私が入院したらご自分で暖めてくださいね」
「いやいや、燐ちゃんが倒れてるのに一人で帰ってご飯食べられないでしょ」
そんな二人を。
「……」
『暁の脱走兵』犬童 アキラ(CL2000698)は無言で見つめていた。
曲がりなりにも殺し合いが始まると言うのに、随分と余裕そうな人たちだ。思えば今周りに居るメンバーは一人残らず自分とその周りのことで考えを止めている。
F.i.V.Eの案件に関わるのはこれで二度目だが、どうやら組織にはこういう人たちも多いようだ。確かに、誰も彼もが世界平和と君主道徳でできてはいまい。
よほど統制のとれた組織でも無い限り、みなこういうものだ。
「……っと、いけませんな。今は今、集中集中」
首を振るアキラをよそに、華神 悠乃(CL2000231)はとっくりと腕を組んでいた。
「戦争のための戦争ね。根源がどこにあるのか、気になるところだね」
「根源ですか……あ、なるほど。焼き肉のための肉を焼く感覚ですねっ、わかります!」
ぴょんと跳ね、身体ごと振り返ってくる『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)。
「全然違うけど」
「ちがいますかっ、わかりますっ」
頭を抱える悠乃。
椎野 天(CL2000864)がニヤニヤと笑った。
「しっかし戦争ばっかして飽きねえのかねえ。毎日コンビニでバイトしてるようなもんだろ。本人がいいなら構わねえけど……って構うか。構うな」
「うるせえ。一人で納得してんじゃねえ。つうかそんなもんどうでもいいんだよ」
むき出しの刀を肩に担いでギラギラと笑う『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。
臨戦態勢。常在戦場である。
「俺は強くなりたいから俺をやってる。奴らも奴らでそうなんだろ」
「あら、冗談じゃないわよ? そんなの」
春野 桜(CL2000257)がフワフワと笑った。
三人の中で最も穏やかな、もしくはたおやかな笑顔だったが、誰より最も殺意をはらんでいるのが彼女である。
「戦争になれば多くのものが奪われ喪われるわ。私にとってのあの人みたいに。だから殺すわ。芋蔓式にたどっていって、最終的に全員殺す」
「好きにしろよ」
「うへえ、こわいこわい」
笑顔で道のさきを見やる。目的の車が来たようだ。
浅葱は子供のように笑うと、顔の前で二本指を立てた。
「十天が一人月歌浅葱、張り切ってまいりましょーかっ!」
そして浅葱は光り輝き、覚醒した。
●
武装した兵士たちが車両から降りてくる。勿論地方やくざが因縁をつけるために見せるような緩慢な動きではない。素早く効率的に、かつ隙無く陣形をとりつつ展開した。
変に待ち伏せなどしなくてよかった、と思った悠乃である。無駄に手数を割いて自ら不利な状況を作る所だった。
そんな中、伊賀上野が前へ出てくる。
「今の覚醒現象、覚者の集団とお見受けする。この場に何用か」
「何用だって? オレたちはお前らと戦いに来た。宣戦布告だ!」
びしりと指を突きつける遥。
こう述べたならどう出るか。悠乃はその様子を観察するつもりだったが。
「総員攻撃。前方の九名全員殲滅せよ!」
「うわ、行動早いね」
言うが早いか、装剣した兵士たちが四人一列になって突っ込んでくる。
悠乃は素早く後退。代わりに天がボクシングのガード姿勢で前へ出た。兵士たちの牽制射撃が加えられるが、オリーブ色の装甲に覆われた両腕がそれを弾く。
「天の名を持ち地を駆ける秘密組織のエージェント、天地を統べるこの俺こそ椎野天よ!テンさんと――」
弾ききったと思っていつもの決まり文句を述べようとした所で、思わぬ隙間を縫って弾丸が滑り込んだ。天のこめかみをえぐっていく。
「うおっ! なんだこいつら!」
天を盾にする形で後ろから囁きかける悠乃。
別に送心でもよかったが、エネミースキャンと平行している分リソースを食うので節約、である。
「雑魚の集団だと思わない方がいいかも。こいつら多分集団覚者戦闘の訓練を受けてる」
「なにそれスキャンってそこまで分かるの?」
「いや、勘。格闘技とか殺人術とかそういうのじゃない。これ兵術だ」
不良の喧嘩や、いっそ特撮番組や時代劇の戦闘シーンでもいいが、多くの人間による戦闘を見慣れていない者は人間がチェスの駒のように白黒左右にくっきり別れて一手ごと順番にかつシステマチックに動くと勘違いしがちである。前衛が二十人いるなら二十人横一列に並ばなければと思いがちだ。
だが実際はお互いが入り乱れ、動き回り、前後左右はおろか覚者戦闘になれば上下を含めた三百六十度ごちゃまぜの立ち位置になるものである。全員肩を合わせてブルドーザーのように突き進んでひっくり返せば最強かもしれないが、それができる集団はそういないのだ。
とても乱暴で雑な言い方だが、そういう風に人間をシステマチックに運用できるのが兵術である。
「何でも構わねえよ。俺のやることは一緒だ」
刀嗣は兵の列、というより壁に向かって駆けだした。
飛んでくる弾丸を刀を振り回すことではじき飛ばし、リーチを詰めていく。
銃剣の方がリーチは上だが、そこは覚者戦闘。刀嗣は銃剣ですら届かない高さへ跳躍すると、宙返りからの飛燕斬撃を繰り出した。
兵士の一人が腕を切り裂かれる。
そうして出来た穴を突き破ろうと仕掛けるが、兵士は素早く後ろの兵と交代。先程の壁状態を維持し、壁を飛び越えたと思われた刀嗣をよけるように隊列を変更。水を油が遠回りするように引き下がり、隊列を組み直す。
「統率のとれた兵隊。妖にはない強さ、か」
アキラの眼差しが凍土のように冷え込む。が、すぐに気を取り直し、重々しい金属製の腕輪を露出させた。
「自分は違うのだ。自らの意志で戦ってみせる」
腕輪についたロックバーを、古い手榴弾の安全装置よろしく引っこ抜く。
「――解身(リリース)!」
アキラの全身が淡い光に包まれ、次の瞬間には装甲に包まれていた。
フィンガーバルカンを突き出し、まずは乱射。
先刻引き下がったばかりの兵士を穴だらけにしてやりつつ、相手の射線をよけるために周回軌道を横走りする。
「相手も馬鹿ではないですか」
動きを見て呟く燐花。よくある話なので深くは追求しないが、相手もこちらも馬鹿では無い。状況が変われば対応をするし、最低限の注意はする。『例えば弱っている敵が回復されないうちに倒してしまう』くらいのことはお互い考えている。やって当然のラインである。知能の低い妖はこういった所に気を回さないことが多いが。
なるほど雑魚の群れではないようだ。燐花はそう確認しつつも、変わらずクナイを加熱して接近。身体にめり込んで止まる弾丸を無視し、肩をつこうとした銃剣を弾いて懐へ潜り込み手首から肘にかけてを複雑に切りつけた。
隊列の奥にいる伊賀上野に視線を合わせる。
「『ヒノマル陸軍』でしたか。先日お相手した方は私たちが落としました」
「誰のことだか知らんが、いかにも我らは『ヒノマル陸軍』。伊賀上野班である!」
「あなたたちはあの人よりも強いのですか? 多数で来る辺りそうでもないのでしょうか?」
「はっ」
伊賀上野は高笑いをして、燐花たちを右から左へ薙ぎ払うように機関銃射撃を行なった。
ただの弾幕ならはじき飛ばすなりよけるなりできた燐花だが、因子による衝撃波が加わったせいで津波のように押し流される。
「強さなど知らん。知ったことでは無いな!」
「へえ、なんだあんた、気が合うな!」
遥は腕をぐるぐる回して突撃。兵士の銃剣に布を巻き付けて固定すると、懐に潜り込んでアッパーカット。強制的に体勢を崩した所で内側へと滑り込み、中衛の兵隊めがけて跳び蹴りを食らわせた。
「オレは戦闘が好きなんだ。戦争好きとはちょっと似てるよな!」
「それこそ、知ったことでは無い!」
変わらず機関銃射撃を加えてくる伊賀上野。
天や燐花を壁にしつつ。恭司はぱらぱらと手帳をめくった。戦闘中にやることではないが、わざとだ。挑発行為だ。
「ところで伊賀上のちゃんだっけ? 血気盛んでいいねえ。そんなに楽しいのかい――」
と、ここから。恭司の名誉のために実際に喋った内容を伏せることにする。
ここで彼が行なった挑発方法は、相手の些細な揚げ足を散発的にとり続けるというもので、彼を知らない人間から見ればまるで彼が無学で愚鈍な人間に見えてしまうおそれがあるからだ。
さすがにカチンときたのか、兵士の一人が伊賀上野に一瞬視線を送る。
「将軍」
「ふははっ、気にするな。戦争をしているのだから口汚くもなろうよ。そうだな――」
そして。これに対して伊賀上野も挑発を返したがこれも恭司の名誉のために伏せさせて貰う。
できる限り遠い人間を例にして述べるが特定のアメリカ人をさしてこいつはゲイで差別主義者で共産主義者でなおかつ両親は違法売春婦とドラッグ中毒者だと声高に述べるような方式で挑発されたのである。
ちなみに。こうして戦闘を始めた以上お互いそう簡単に戦闘をやめることはできないので、わざわざ馬鹿のフリをして挑発しあう必要はない。まして、相手を怒らせて注意を引くやり方は相手がある程度暇でないと成立しないので、恭司も伊賀上野もお互い無駄なののしり合いをしたことになる。当然手を止めていたわけではないので無駄口ではあっても無駄打ちではない。それこそ、お互い馬鹿では無い。
「いつまでお喋りしてるの? 早く殺しましょ」
やりとりを遮るように、桜が兵士を殺した。
あまりに乱暴に述べすぎたので詳細を開こう。
刀嗣たちの猛攻を受けて交代の意味が薄れてきた兵士たちに追い打ちをかけるように、桜は先頭の兵士に接近。首に植物縄を巻き付けて締め上げると、頸動脈にナイフを突き立てて反対側まで貫通させた。白目をむいて血の泡をふき、それ以上に血しぶきをあげて崩れ落ちる兵士。
覚者だけあって戦闘不能になっただけで死にはしない……が、桜は念を押すように完殺した。具体的にはナイフを抜き、眼球に刺し、脳をかき混ぜるようにぐりぐりと捻って回した。
「死ね、死ね、みんな死ね。私たちのために死ね」
そんな桜を止める人間は、一人としていない。見ていないか関知していないか、いずれにせよそれどころではないのだ。
浅葱もその一人である。
「確実にいきますよっ!」
ナックルガードを握りしめ、虚空に風を切るような連打を繰り出す。それだけで風がうねり、刃となって敵兵に襲いかかるのだ。
さすがに戦力差が存在するのか、兵士たちがばたばたと倒れていく。
その一方で。
「俺は戦争好きじゃなくて決闘好きでな。いくぜ」
突きの構えからすり足とは思えない速度で敵兵を駆け抜け、切り捨てていく刀嗣。
素早く伊賀上野の眼前まで迫ったが、伊賀上野に突き刺さるはずだった刀の先端は上方に弾かれた。彼の抜刀によってである。
返す刀で袈裟斬りにされる。が、刀嗣は痛みを感じないかのごとく目をぎろりと動かして斬りかかった。
「将軍!」
兵隊が身を転じて刀嗣の背中に銃剣を突き刺し、銃を乱射。
更に後退した伊賀上野は機関銃を刀嗣の腹に突きつけ、激しい加熱と共に乱射した。
「諏訪っ、突っ込みすぎ。下がってて!」
急いで命力分配をかける悠乃。
防御姿勢ですり足ならぬローラー移動をする天を盾にしつつかけより、羽交い締めにする形で引っ張り戻す。
後方ダッシュ中に膝や腹に弾をうけてスパークをおこす天。
「いてて。へいへいオッサン俺に戦争教えてくれよ、コンビニバイトに役立つかもしんねーからよ!」
ダメージがかさみすぎた。天はそれまでの防御姿勢をやめ、攻撃のための機動に転じた。
「援護しますっ」
「同じく!」
浅葱とアキラが射撃と斬撃によって弾幕をはり、その中を天は突撃。兵士を一人ショルダータックルで吹き飛ばし、彼らの乗ってきた車両に叩き付ける。左右の足を複雑に動かしてターン。腕を振りかざして両サイドからの銃剣撃をガードしつつ、それらの武器を掴んで固定。
そこへアキラが突撃しながらフィンガーバルカンを乱射。動きを固定された兵士がデスダンスの後に吹き飛び、もう一人の兵士には浅葱が急接近からのボディブローを入れて気絶させた。
そこへ機関銃掃射をしかけてくる伊賀上野。
吹き飛ばされた天たちと入れ替わりに、燐花と恭司が前へ出た。
恭司は波動弾を細々と生成しては兵士や伊賀上野へと打ち込んでいく。
一方の燐花は恭司に過剰なダメージが入らないように庇う役割だ。
「あなたたちの理由は存じ上げませんが、私たちが居る限り好き勝手はさせません」
「そういうこと。ま、理由はあとできっちり尋問させてもらうけどね」
「ふんっ」
伊賀上野は機関銃射撃をやめ、刀を抜いて突っ込んでくる。
刀は炎を纏って燐花を貫くが、恭司までは通さない。腹の筋肉を締め付け、更には両手で刃を握りしめて無理矢理停止させたのだ。
柳燐花という少女、いや女の本質が見せた意地である。
「蘇我島さん」
「冷蔵庫のは明日ね。お見舞いは桃でいい?」
そう言うと、肩越しに腕を突き出す恭司。近距離から衝撃弾を発射。
刀から手を離し、吹き飛ばされる伊賀上野。
機関銃射を拾おうとしたが、そこへ浅葱が急接近した。
「伊賀上野さん、正義の味方しませんかっ」
「せん! 正義など戦争の邪魔よ!」
「ならこうですっ!」
機関銃を持つ手ごとたたき落とす。
そこへ、遥が素早く突っ込んだ。
「待ってたぜ、この機会!」
ダッシュからのジャンプ、からのスピンキック。
伊賀上野は腕を翳してガード。
しかし遥が反動で繰り出した第二の蹴りが顔面に炸裂。その足を掴んで、伊賀上野は遥を地面に叩き付けた。
そこから関節技に流れようとした寸前、腕に付着した何かの種が破裂。腕が千切れて飛んでいく。
誰の仕業か? 今の今まで倒れた兵士を片っ端から完殺していた桜による棘一閃である。
「捕虜は一人で充分。そっちは任せたわよ?」
「任された!」
遥は外れた相手の腕を振り払って立ち上がると、起き上がった伊賀上野へダッシュ。
伊賀上野は腕を押さえたままギラリと笑った。
「これぞ戦争。いい戦争だ。お前の名前は!」
「十天、鹿ノ島遥だ! 覚えとけ!」
遥の布が拳に素早く巻き付き、雷を放つ。そして彼は、全身全霊を込めて伊賀上野の顔面をぶん殴った。
●
今回の戦いにより、七星剣直系組織『ヒノマル陸軍』の一人伊賀上野唯忠を捕獲。
この調査により『ヒノマル陸軍』に所属する大将格のメンバーと、総帥にあたる人物の名前が判明することになる。
大将格は名簿化されてはいるが全員が生死不明かつ連絡先不明。判別できたのは名前だけである。数にして20人ほどいたが、これで全員なのかもわからない。そうとういい加減な管理のもとで動いていたらしいということに、恭司あたりは失笑したが、次の名前を見たときに彼の顔から笑みが消えた。
総帥、『暴力坂・乱暴(ぼうりょくざか・らんぼう)』。
冗談のような名前だが、この名前には見覚えがあった。
ある正式な文書の中に……というより、末尾に殴り書きのように毛筆で書き付けられていた名前である。
余談だが、因子界隈にといてこういった公的資料はアテにならないことが多い。存在しないはずの組織や死んだはずの人間がうようよいる世界だ。信じると馬鹿を見る。
だが恭司の直感が告げている。あれは『真実』を書いたものだ、と。
「戦争の中で止まってる連中……か。こりゃ厄介なコトになりそうだ」
三重県北西部、道中。
この道路の名前を鹿ノ島・遥(CL2000227)は知らないし、知ったことでは無い。きっとなんとか道なんだろうし、もしくは無名の道路だろう。
今から接触することになる隔者の名前も、なんだかいがいがした名前だなという程度の記憶である。重要なのは、前に戦ったひどく強い奴の仲間らしいということのみだ。
ゆえに、道中にバリケードを置いて迎撃姿勢をとっている。
「っし、いつでも来い!」
「……『ヒノマル陸軍』でしたか。頭を潰さない限りこの先も類似案件が出てくるということでしょうか」
問いかけるように言った『イノセントドール』柳 燐花(CL2000695)だが、そこから話をつなげるつもりは無いようで、『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)のほうへと振り向いた。
「そう、お夕食は冷蔵庫に。私が入院したらご自分で暖めてくださいね」
「いやいや、燐ちゃんが倒れてるのに一人で帰ってご飯食べられないでしょ」
そんな二人を。
「……」
『暁の脱走兵』犬童 アキラ(CL2000698)は無言で見つめていた。
曲がりなりにも殺し合いが始まると言うのに、随分と余裕そうな人たちだ。思えば今周りに居るメンバーは一人残らず自分とその周りのことで考えを止めている。
F.i.V.Eの案件に関わるのはこれで二度目だが、どうやら組織にはこういう人たちも多いようだ。確かに、誰も彼もが世界平和と君主道徳でできてはいまい。
よほど統制のとれた組織でも無い限り、みなこういうものだ。
「……っと、いけませんな。今は今、集中集中」
首を振るアキラをよそに、華神 悠乃(CL2000231)はとっくりと腕を組んでいた。
「戦争のための戦争ね。根源がどこにあるのか、気になるところだね」
「根源ですか……あ、なるほど。焼き肉のための肉を焼く感覚ですねっ、わかります!」
ぴょんと跳ね、身体ごと振り返ってくる『独善者』月歌 浅葱(CL2000915)。
「全然違うけど」
「ちがいますかっ、わかりますっ」
頭を抱える悠乃。
椎野 天(CL2000864)がニヤニヤと笑った。
「しっかし戦争ばっかして飽きねえのかねえ。毎日コンビニでバイトしてるようなもんだろ。本人がいいなら構わねえけど……って構うか。構うな」
「うるせえ。一人で納得してんじゃねえ。つうかそんなもんどうでもいいんだよ」
むき出しの刀を肩に担いでギラギラと笑う『白焔凶刃』諏訪 刀嗣(CL2000002)。
臨戦態勢。常在戦場である。
「俺は強くなりたいから俺をやってる。奴らも奴らでそうなんだろ」
「あら、冗談じゃないわよ? そんなの」
春野 桜(CL2000257)がフワフワと笑った。
三人の中で最も穏やかな、もしくはたおやかな笑顔だったが、誰より最も殺意をはらんでいるのが彼女である。
「戦争になれば多くのものが奪われ喪われるわ。私にとってのあの人みたいに。だから殺すわ。芋蔓式にたどっていって、最終的に全員殺す」
「好きにしろよ」
「うへえ、こわいこわい」
笑顔で道のさきを見やる。目的の車が来たようだ。
浅葱は子供のように笑うと、顔の前で二本指を立てた。
「十天が一人月歌浅葱、張り切ってまいりましょーかっ!」
そして浅葱は光り輝き、覚醒した。
●
武装した兵士たちが車両から降りてくる。勿論地方やくざが因縁をつけるために見せるような緩慢な動きではない。素早く効率的に、かつ隙無く陣形をとりつつ展開した。
変に待ち伏せなどしなくてよかった、と思った悠乃である。無駄に手数を割いて自ら不利な状況を作る所だった。
そんな中、伊賀上野が前へ出てくる。
「今の覚醒現象、覚者の集団とお見受けする。この場に何用か」
「何用だって? オレたちはお前らと戦いに来た。宣戦布告だ!」
びしりと指を突きつける遥。
こう述べたならどう出るか。悠乃はその様子を観察するつもりだったが。
「総員攻撃。前方の九名全員殲滅せよ!」
「うわ、行動早いね」
言うが早いか、装剣した兵士たちが四人一列になって突っ込んでくる。
悠乃は素早く後退。代わりに天がボクシングのガード姿勢で前へ出た。兵士たちの牽制射撃が加えられるが、オリーブ色の装甲に覆われた両腕がそれを弾く。
「天の名を持ち地を駆ける秘密組織のエージェント、天地を統べるこの俺こそ椎野天よ!テンさんと――」
弾ききったと思っていつもの決まり文句を述べようとした所で、思わぬ隙間を縫って弾丸が滑り込んだ。天のこめかみをえぐっていく。
「うおっ! なんだこいつら!」
天を盾にする形で後ろから囁きかける悠乃。
別に送心でもよかったが、エネミースキャンと平行している分リソースを食うので節約、である。
「雑魚の集団だと思わない方がいいかも。こいつら多分集団覚者戦闘の訓練を受けてる」
「なにそれスキャンってそこまで分かるの?」
「いや、勘。格闘技とか殺人術とかそういうのじゃない。これ兵術だ」
不良の喧嘩や、いっそ特撮番組や時代劇の戦闘シーンでもいいが、多くの人間による戦闘を見慣れていない者は人間がチェスの駒のように白黒左右にくっきり別れて一手ごと順番にかつシステマチックに動くと勘違いしがちである。前衛が二十人いるなら二十人横一列に並ばなければと思いがちだ。
だが実際はお互いが入り乱れ、動き回り、前後左右はおろか覚者戦闘になれば上下を含めた三百六十度ごちゃまぜの立ち位置になるものである。全員肩を合わせてブルドーザーのように突き進んでひっくり返せば最強かもしれないが、それができる集団はそういないのだ。
とても乱暴で雑な言い方だが、そういう風に人間をシステマチックに運用できるのが兵術である。
「何でも構わねえよ。俺のやることは一緒だ」
刀嗣は兵の列、というより壁に向かって駆けだした。
飛んでくる弾丸を刀を振り回すことではじき飛ばし、リーチを詰めていく。
銃剣の方がリーチは上だが、そこは覚者戦闘。刀嗣は銃剣ですら届かない高さへ跳躍すると、宙返りからの飛燕斬撃を繰り出した。
兵士の一人が腕を切り裂かれる。
そうして出来た穴を突き破ろうと仕掛けるが、兵士は素早く後ろの兵と交代。先程の壁状態を維持し、壁を飛び越えたと思われた刀嗣をよけるように隊列を変更。水を油が遠回りするように引き下がり、隊列を組み直す。
「統率のとれた兵隊。妖にはない強さ、か」
アキラの眼差しが凍土のように冷え込む。が、すぐに気を取り直し、重々しい金属製の腕輪を露出させた。
「自分は違うのだ。自らの意志で戦ってみせる」
腕輪についたロックバーを、古い手榴弾の安全装置よろしく引っこ抜く。
「――解身(リリース)!」
アキラの全身が淡い光に包まれ、次の瞬間には装甲に包まれていた。
フィンガーバルカンを突き出し、まずは乱射。
先刻引き下がったばかりの兵士を穴だらけにしてやりつつ、相手の射線をよけるために周回軌道を横走りする。
「相手も馬鹿ではないですか」
動きを見て呟く燐花。よくある話なので深くは追求しないが、相手もこちらも馬鹿では無い。状況が変われば対応をするし、最低限の注意はする。『例えば弱っている敵が回復されないうちに倒してしまう』くらいのことはお互い考えている。やって当然のラインである。知能の低い妖はこういった所に気を回さないことが多いが。
なるほど雑魚の群れではないようだ。燐花はそう確認しつつも、変わらずクナイを加熱して接近。身体にめり込んで止まる弾丸を無視し、肩をつこうとした銃剣を弾いて懐へ潜り込み手首から肘にかけてを複雑に切りつけた。
隊列の奥にいる伊賀上野に視線を合わせる。
「『ヒノマル陸軍』でしたか。先日お相手した方は私たちが落としました」
「誰のことだか知らんが、いかにも我らは『ヒノマル陸軍』。伊賀上野班である!」
「あなたたちはあの人よりも強いのですか? 多数で来る辺りそうでもないのでしょうか?」
「はっ」
伊賀上野は高笑いをして、燐花たちを右から左へ薙ぎ払うように機関銃射撃を行なった。
ただの弾幕ならはじき飛ばすなりよけるなりできた燐花だが、因子による衝撃波が加わったせいで津波のように押し流される。
「強さなど知らん。知ったことでは無いな!」
「へえ、なんだあんた、気が合うな!」
遥は腕をぐるぐる回して突撃。兵士の銃剣に布を巻き付けて固定すると、懐に潜り込んでアッパーカット。強制的に体勢を崩した所で内側へと滑り込み、中衛の兵隊めがけて跳び蹴りを食らわせた。
「オレは戦闘が好きなんだ。戦争好きとはちょっと似てるよな!」
「それこそ、知ったことでは無い!」
変わらず機関銃射撃を加えてくる伊賀上野。
天や燐花を壁にしつつ。恭司はぱらぱらと手帳をめくった。戦闘中にやることではないが、わざとだ。挑発行為だ。
「ところで伊賀上のちゃんだっけ? 血気盛んでいいねえ。そんなに楽しいのかい――」
と、ここから。恭司の名誉のために実際に喋った内容を伏せることにする。
ここで彼が行なった挑発方法は、相手の些細な揚げ足を散発的にとり続けるというもので、彼を知らない人間から見ればまるで彼が無学で愚鈍な人間に見えてしまうおそれがあるからだ。
さすがにカチンときたのか、兵士の一人が伊賀上野に一瞬視線を送る。
「将軍」
「ふははっ、気にするな。戦争をしているのだから口汚くもなろうよ。そうだな――」
そして。これに対して伊賀上野も挑発を返したがこれも恭司の名誉のために伏せさせて貰う。
できる限り遠い人間を例にして述べるが特定のアメリカ人をさしてこいつはゲイで差別主義者で共産主義者でなおかつ両親は違法売春婦とドラッグ中毒者だと声高に述べるような方式で挑発されたのである。
ちなみに。こうして戦闘を始めた以上お互いそう簡単に戦闘をやめることはできないので、わざわざ馬鹿のフリをして挑発しあう必要はない。まして、相手を怒らせて注意を引くやり方は相手がある程度暇でないと成立しないので、恭司も伊賀上野もお互い無駄なののしり合いをしたことになる。当然手を止めていたわけではないので無駄口ではあっても無駄打ちではない。それこそ、お互い馬鹿では無い。
「いつまでお喋りしてるの? 早く殺しましょ」
やりとりを遮るように、桜が兵士を殺した。
あまりに乱暴に述べすぎたので詳細を開こう。
刀嗣たちの猛攻を受けて交代の意味が薄れてきた兵士たちに追い打ちをかけるように、桜は先頭の兵士に接近。首に植物縄を巻き付けて締め上げると、頸動脈にナイフを突き立てて反対側まで貫通させた。白目をむいて血の泡をふき、それ以上に血しぶきをあげて崩れ落ちる兵士。
覚者だけあって戦闘不能になっただけで死にはしない……が、桜は念を押すように完殺した。具体的にはナイフを抜き、眼球に刺し、脳をかき混ぜるようにぐりぐりと捻って回した。
「死ね、死ね、みんな死ね。私たちのために死ね」
そんな桜を止める人間は、一人としていない。見ていないか関知していないか、いずれにせよそれどころではないのだ。
浅葱もその一人である。
「確実にいきますよっ!」
ナックルガードを握りしめ、虚空に風を切るような連打を繰り出す。それだけで風がうねり、刃となって敵兵に襲いかかるのだ。
さすがに戦力差が存在するのか、兵士たちがばたばたと倒れていく。
その一方で。
「俺は戦争好きじゃなくて決闘好きでな。いくぜ」
突きの構えからすり足とは思えない速度で敵兵を駆け抜け、切り捨てていく刀嗣。
素早く伊賀上野の眼前まで迫ったが、伊賀上野に突き刺さるはずだった刀の先端は上方に弾かれた。彼の抜刀によってである。
返す刀で袈裟斬りにされる。が、刀嗣は痛みを感じないかのごとく目をぎろりと動かして斬りかかった。
「将軍!」
兵隊が身を転じて刀嗣の背中に銃剣を突き刺し、銃を乱射。
更に後退した伊賀上野は機関銃を刀嗣の腹に突きつけ、激しい加熱と共に乱射した。
「諏訪っ、突っ込みすぎ。下がってて!」
急いで命力分配をかける悠乃。
防御姿勢ですり足ならぬローラー移動をする天を盾にしつつかけより、羽交い締めにする形で引っ張り戻す。
後方ダッシュ中に膝や腹に弾をうけてスパークをおこす天。
「いてて。へいへいオッサン俺に戦争教えてくれよ、コンビニバイトに役立つかもしんねーからよ!」
ダメージがかさみすぎた。天はそれまでの防御姿勢をやめ、攻撃のための機動に転じた。
「援護しますっ」
「同じく!」
浅葱とアキラが射撃と斬撃によって弾幕をはり、その中を天は突撃。兵士を一人ショルダータックルで吹き飛ばし、彼らの乗ってきた車両に叩き付ける。左右の足を複雑に動かしてターン。腕を振りかざして両サイドからの銃剣撃をガードしつつ、それらの武器を掴んで固定。
そこへアキラが突撃しながらフィンガーバルカンを乱射。動きを固定された兵士がデスダンスの後に吹き飛び、もう一人の兵士には浅葱が急接近からのボディブローを入れて気絶させた。
そこへ機関銃掃射をしかけてくる伊賀上野。
吹き飛ばされた天たちと入れ替わりに、燐花と恭司が前へ出た。
恭司は波動弾を細々と生成しては兵士や伊賀上野へと打ち込んでいく。
一方の燐花は恭司に過剰なダメージが入らないように庇う役割だ。
「あなたたちの理由は存じ上げませんが、私たちが居る限り好き勝手はさせません」
「そういうこと。ま、理由はあとできっちり尋問させてもらうけどね」
「ふんっ」
伊賀上野は機関銃射撃をやめ、刀を抜いて突っ込んでくる。
刀は炎を纏って燐花を貫くが、恭司までは通さない。腹の筋肉を締め付け、更には両手で刃を握りしめて無理矢理停止させたのだ。
柳燐花という少女、いや女の本質が見せた意地である。
「蘇我島さん」
「冷蔵庫のは明日ね。お見舞いは桃でいい?」
そう言うと、肩越しに腕を突き出す恭司。近距離から衝撃弾を発射。
刀から手を離し、吹き飛ばされる伊賀上野。
機関銃射を拾おうとしたが、そこへ浅葱が急接近した。
「伊賀上野さん、正義の味方しませんかっ」
「せん! 正義など戦争の邪魔よ!」
「ならこうですっ!」
機関銃を持つ手ごとたたき落とす。
そこへ、遥が素早く突っ込んだ。
「待ってたぜ、この機会!」
ダッシュからのジャンプ、からのスピンキック。
伊賀上野は腕を翳してガード。
しかし遥が反動で繰り出した第二の蹴りが顔面に炸裂。その足を掴んで、伊賀上野は遥を地面に叩き付けた。
そこから関節技に流れようとした寸前、腕に付着した何かの種が破裂。腕が千切れて飛んでいく。
誰の仕業か? 今の今まで倒れた兵士を片っ端から完殺していた桜による棘一閃である。
「捕虜は一人で充分。そっちは任せたわよ?」
「任された!」
遥は外れた相手の腕を振り払って立ち上がると、起き上がった伊賀上野へダッシュ。
伊賀上野は腕を押さえたままギラリと笑った。
「これぞ戦争。いい戦争だ。お前の名前は!」
「十天、鹿ノ島遥だ! 覚えとけ!」
遥の布が拳に素早く巻き付き、雷を放つ。そして彼は、全身全霊を込めて伊賀上野の顔面をぶん殴った。
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今回の戦いにより、七星剣直系組織『ヒノマル陸軍』の一人伊賀上野唯忠を捕獲。
この調査により『ヒノマル陸軍』に所属する大将格のメンバーと、総帥にあたる人物の名前が判明することになる。
大将格は名簿化されてはいるが全員が生死不明かつ連絡先不明。判別できたのは名前だけである。数にして20人ほどいたが、これで全員なのかもわからない。そうとういい加減な管理のもとで動いていたらしいということに、恭司あたりは失笑したが、次の名前を見たときに彼の顔から笑みが消えた。
総帥、『暴力坂・乱暴(ぼうりょくざか・らんぼう)』。
冗談のような名前だが、この名前には見覚えがあった。
ある正式な文書の中に……というより、末尾に殴り書きのように毛筆で書き付けられていた名前である。
余談だが、因子界隈にといてこういった公的資料はアテにならないことが多い。存在しないはずの組織や死んだはずの人間がうようよいる世界だ。信じると馬鹿を見る。
だが恭司の直感が告げている。あれは『真実』を書いたものだ、と。
「戦争の中で止まってる連中……か。こりゃ厄介なコトになりそうだ」
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
