亀ネズミ、狐ペンギン、兎二羽!
●
ここは五麟動物園。
吹きすさぶ風を背に浴びて、6つの影が現れた!
ワニガメレッド!
ボディプレスで、捕まえに来た飼育員をぺしゃんこだ!
カピバラブラック!
ダンプカーなみの突進で、逃げるカップルを押しつぶせ!
キツネブルー!
両目から発射するビームで、親子連れを爆発させろ!
ペンギンイエロー!
黒い翼をはばたかせ、突風で警察を吹き飛ばせ!
双子のウサギ、ピンクとホワイト!
華麗な踊りで、仲間たちがパワーアップ! さあ皆、もっともっと暴れよう!
「ぎゃああああああああああああ!」
「助けてえええええええええええ!」
「来るなああああああああああああああ!!」
「FiVEだ、FiVEを呼べえええ!!」
こうして平和な動物園は、人間たちの死体でいっぱいになりました!
やったね!
●
「……という事件が起ころうとしている」
久方 相馬(nCL2000004)は恥ずかしげに咳払いすると、念写の紙芝居をそそくさと片づけた。
「市内の動物園で、飼育中の動物たちが妖化する夢を見た。彼らを元に戻してやって欲しい」
相馬によると出現する妖は全部で6体、いずれも生物系のランク2だ。
妖の顔ぶれと、陣形を説明する。
前衛。ボディプレスで敵を圧し潰すワニガメと、突進で弾き飛ばすカピバラの2体。
中衛。目からビームを発射するキツネと、羽ばたきで突風を巻き起こすペンギンの2体。
後衛。回復・支援能力に特化した双子のウサギが2体。
ランク2とはいえ、それなりにバランスの取れた構成だ。なめてかかると痛い目をみるだろう。
依頼遂行にあたって留意してほしい点がある、と相馬は続けた。
「事件当日、動物園では脱走捕獲訓練というイベントが開催される。簡単に言うと、園内の動物が逃げた事態を想定しての避難訓練だな。警察や消防も出動して、逃げた動物……実際は着ぐるみ被った職員さんだけど、それを包囲して捕まえるんだ」
相馬によれば、妖達は訓練の最中、包囲網の中に出現する。従って来園者の避難誘導に人手を割く必要はない。関係各所にはFiVEが事前連絡を行い、園の職員にも事前に避難してもらうので、こちらも面倒な手続きは必要ない。
戦いが終われば、園内のエリアは全て開放されるので、のんびりと羽を休めてくるといいだろう。園内には哺乳類、爬虫類、鳥類、猛獣など様々な動物がいる。園内を気軽に散歩するも良し、好きな動物をじっくり観察するも良し、そこは参加者の自由だ。
「ちょっと危険な訓練になっちゃいそうだけど、動物園の平和のため頑張ってくれ! 頼んだぜ!」
ここは五麟動物園。
吹きすさぶ風を背に浴びて、6つの影が現れた!
ワニガメレッド!
ボディプレスで、捕まえに来た飼育員をぺしゃんこだ!
カピバラブラック!
ダンプカーなみの突進で、逃げるカップルを押しつぶせ!
キツネブルー!
両目から発射するビームで、親子連れを爆発させろ!
ペンギンイエロー!
黒い翼をはばたかせ、突風で警察を吹き飛ばせ!
双子のウサギ、ピンクとホワイト!
華麗な踊りで、仲間たちがパワーアップ! さあ皆、もっともっと暴れよう!
「ぎゃああああああああああああ!」
「助けてえええええええええええ!」
「来るなああああああああああああああ!!」
「FiVEだ、FiVEを呼べえええ!!」
こうして平和な動物園は、人間たちの死体でいっぱいになりました!
やったね!
●
「……という事件が起ころうとしている」
久方 相馬(nCL2000004)は恥ずかしげに咳払いすると、念写の紙芝居をそそくさと片づけた。
「市内の動物園で、飼育中の動物たちが妖化する夢を見た。彼らを元に戻してやって欲しい」
相馬によると出現する妖は全部で6体、いずれも生物系のランク2だ。
妖の顔ぶれと、陣形を説明する。
前衛。ボディプレスで敵を圧し潰すワニガメと、突進で弾き飛ばすカピバラの2体。
中衛。目からビームを発射するキツネと、羽ばたきで突風を巻き起こすペンギンの2体。
後衛。回復・支援能力に特化した双子のウサギが2体。
ランク2とはいえ、それなりにバランスの取れた構成だ。なめてかかると痛い目をみるだろう。
依頼遂行にあたって留意してほしい点がある、と相馬は続けた。
「事件当日、動物園では脱走捕獲訓練というイベントが開催される。簡単に言うと、園内の動物が逃げた事態を想定しての避難訓練だな。警察や消防も出動して、逃げた動物……実際は着ぐるみ被った職員さんだけど、それを包囲して捕まえるんだ」
相馬によれば、妖達は訓練の最中、包囲網の中に出現する。従って来園者の避難誘導に人手を割く必要はない。関係各所にはFiVEが事前連絡を行い、園の職員にも事前に避難してもらうので、こちらも面倒な手続きは必要ない。
戦いが終われば、園内のエリアは全て開放されるので、のんびりと羽を休めてくるといいだろう。園内には哺乳類、爬虫類、鳥類、猛獣など様々な動物がいる。園内を気軽に散歩するも良し、好きな動物をじっくり観察するも良し、そこは参加者の自由だ。
「ちょっと危険な訓練になっちゃいそうだけど、動物園の平和のため頑張ってくれ! 頼んだぜ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●概要
五麟市内の動物園で、動物たちが妖化する未来が予知されました。
時刻は休日の午前中で、園内には多数の来園者がいます。
妖を取り逃がして来園者に危害が及ばないよう、確実に撃破して下さい。
戦闘終了と同時に捕獲訓練(OP参照)は完了し、園内の全エリアが開放されます。
休日のひと時を、動物園でのんびり過ごしましょう。
※
妖化の解けた動物は、戦闘後に職員が捕獲して連れ戻します。
●敵
動物園の動物たちが妖化したもの。いずれも生物系のランク2です。
〇ワニガメレッド
ワニガメの妖。ポジションは前衛。
防御力に優れる盾役です。
・使用スキル
ボディプレス(物近列)
甲羅ガード(自単【カウ】)
〇カピバラブラック
カピバラの妖。ポジションは前衛。
攻撃力に優れるアタッカーです。
・使用スキル
体当たり(物近単)
突進(物近単貫3[100%・60%・40%])
〇キツネブルー
キタキツネの妖。
ポジションは中衛で、両目から状態異常を付与するビームを放ちます。
・使用スキル
怪光線・薙ぎ払い(特近列)
怪光線・爆発(特遠単【毒】)
〇ペンギンイエロー
皇帝ペンギンの妖。
ポジションは中衛で、羽ばたきで突風や真空波を発生させて攻撃します。
・使用スキル
突風(物遠単【ダメ0】【ノックB】)
真空波(物遠単【解除】)
〇ウサギホワイト
双子ウサギの妖。
ポジションは後衛で、踊って仲間を回復する支援型です。
・使用スキル
白兎の応援(特遠味単・HP回復20%)
白兎のステップ(特遠味単・BS解除50%)
〇ウサギピンク
双子ウサギの妖。
ポジションは後衛で、踊って仲間を強化する支援型です。
・使用スキル
桃兎の応援(特遠味単・物防+10%)
桃兎のステップ(特遠味単・物攻+10%)
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年08月01日
2017年08月01日
■メイン参加者 6人■

●妖戦隊を阻止せよ
白昼の太陽が照り付ける下、カラフルなブリックロードに舗装された動物園の中庭を、6匹の獣たちが我が物顔で闊歩していた。
頑丈なワニガメ、猪突猛進のカピバラ、眼光鋭いキツネ、風を操るペンギン、そして舞い踊る2羽のウサギ。いずれも人類抹殺の本能に突き動かされる妖たちだ。彼らは今、熱気を孕んだ風を背に浴びて、静まり返った園内で獲物となる人間を探し回っていた。
「キュッ!!」
猛牛ほどの体躯を誇るカピバラが、ふと遠方の白いネットに人だかりを認める。
「キュキュッ!!」「ゲゲェ」
張り巡らされたネットの向こうからこちらを見つめる、人間たちの怯えた目。それは妖化した彼らの嗜虐心を大いに煽るものだった。さっそくカピバラが仲間に合図を送り、人間たちを血祭りにあげようと地面を踏みしめた、その時!
「待てっ!」
空の太陽を遮るように6つの人影が跳躍し、妖たちの行く手を塞いだ!
「『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)、参上!!」
声域拡張を使った翔の声が、静寂の園内に高らかに響き渡った。寸暇をおかず、道の中央に着地してポーズを決める翔の隣に、後ろに、仲間たちが登場して名乗りを上げてゆく。
「皆さんへ希望を繋ぐ薄紅の環、ファイブピンク! 賀茂 たまき(CL2000994)です!」
「皆の傷は俺が癒す! ファイブブラック、天乃 カナタ(CL2001451)!」
「生き物観察と動物園が大好き! ファイブブルー、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)!」
「力比べならお任せあれ。ファイブシルバー、『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)!」
「ウサギの事務員、ここにあり! ファイブグリーン、『願いの花』田中 倖(CL2001407)!」
一糸乱れぬ、絶妙のコンビネーション。翔のポージング爆破が、6人の背を爆発で彩る。
「どうだ、妖のお前らにはこんな事はできねーだろ!」
「ゲゲゲェ!」
ドヤ顔で胸を反らすファイブレッドこと翔。
対する妖側のワニガメレッドは二本足で立ちあがり、覚者たちを睨みつけた。禍々しく尖った嘴に、トゲトゲしいキチン質の甲羅に覆われた出で立ちは、完全に怪獣のそれだ。
「動物に戦隊もの……ちびっこたちの夢を壊す妖さんたちには、ここでご退場願おうかな」
「かわいい動物さん達が妖化するなんて、大変です! 早く元に戻さないと、ですね!」
そんなワニガメと対峙するように前へと躍り出てきたのは、ファイブシルバーとファイブピンク――彩吹とたまき。同じツーカラーが後衛を務める妖チームとは対照的だ。
好戦的な笑顔を浮かべる彩吹と、一歩も下がる気配を見せないたまきの佇まいに、中衛の倖はワクワクする気持ちを抑えきれない。
(紅二点が最前線で妖とファイト、ですか。なかなか絵になりそうですね)
「あれ? 翔、後衛なの?」
そんな倖の隣で、奏空が翔を振り返る。レッドは前で戦うものじゃないの? という表情で。
「ああ。ちょっとやりたい事があるんだよな!」
翔は悪戯っぽい笑みを見せると、スウッと大きく息を吸い込んだ。
「来園中の皆! 今日の脱走訓練は、オレ達FiVEが参加することになったんだぜ!」
警察が張るネットの外から様子を伺う来園客のどよめきが、翔の声でぴたりと収まる。
「脱走したのは、妖化した動物たち! 皆もよかったら、応援で訓練に参加してくれ! それと戦闘中は危険だから、絶対にネットの内側には入らないでくれよな!」
翔の口上が終わると同時に、ネットの外から観客の拍手が巻き起こった。
いま園内には、脱走訓練を見物に来た大勢の客がいる。この状況で下手に避難を呼びかけたら、パニックを起こした客が戦場に迷い込まないとも限らない。それに、客を避難させて妖との戦いに勝利しても、彼らが過ごすはずだった楽しいひと時は台無しになってしまうだろう。
だからこそ。
妖は逃がさず倒す。来園者には自分たちの戦いを見て、楽しんで帰ってもらおうというのだ。
「つーことで、よろしく。フォローはキッチリ果たすから安心してくれ」
「おもしれーじゃん。やっぱノリって大事だと思うぜ!」
翔の隣で、カナタがゲラゲラと腹を抱えて笑う。これは覚者冥利に尽きる戦いになりそうだ。
「こっちのブラックの方が強くてカッコイイって事を見せつけてやんなきゃだな! 皆、よろしく!」
武器を手に、カナタは敵のブラック――カピバラをビシッと指さした。口上を終えた覚者に、6匹の妖が隊列を組んで対峙する。じりじりと流れる緊迫した時間を、観客たちが離れた場所から固唾を飲んで見守っている。
そして――
「いざ尋常に……勝負!!」
翔の一声が、戦いの火ぶたを切って落とした。
●動物園での決闘
「くらえ、迷霧!」
腰を落とした奏空が、握った拳を天高く突き上げた。
舞台のスモークめいた霧がたちまち妖の一団を包み込み、抵抗する力を蝕んでゆく。
「ピイィィ!!」
覚者の攻撃に憤慨したのか、カピバラブラックが怪鳥めいたいななきをあげながら突進してきた。たまき、奏空、翔が突き飛ばされ、檻で戦いを見守る動物たちが怯えてガタガタと柵を揺らす。
「おっと!? カピバラブラック、渾身の一撃!! これにファイブレッドは雷で反撃だ!!」
敵との戦いを中継しながら、翔はDXカクセイパッドを展開した。
地面に描かれた五芒星の文様から龍を思わせる雷が生み出され、稲光とともに妖へと降り注ぐ。直撃を受けた2羽のウサギが、悲鳴をあげて飛び回った。
「ケンケン!」「ケェェ!」
反撃とばかり、キツネブルーとペンギンイエローが動く。
キツネの目から走る光線が倖と奏空の足元をガリガリと薙ぎ払い、ペンギンの羽ばたきがたまきの体を捉えた。ガード態勢でダメージを最小限に留める中衛2人。たまきもスカートを抑えて必死に踏みとどまる。
「みんな、がんばれ! ファイブブラックがおうえんするぞ!」
カナタは、掌に走り書きしたセリフのカンペを棒読みしつつ、癒しの霧で仲間たちを包みこむ。
一方たまきは錬覇法で戦闘力を底上げし始めた。どうやら攻撃メインのスタイルで戦うようだ。
(ハデに暴れてくれよ、ファイブピンク。頼んだぜ!)
前衛のたまきに内心でエールを送るカナタ。その隣では、翔が実況中継に花を咲かせていた。
「さあ覚者と妖、お互い一歩も引かない! どうやらお互いの実力を測っているようだ!」
翔たちファイブ側の作戦は、支援役のウサギたちを妨害しつつ、前衛のワニガメとカピバラを潰すというもの。支援を絶っての撃破という鉄板のスタイルだ。
一方、妖チームは――
「ピイィ!」
「ケンケン」「キュウ」
どうやら、前衛のたまきに標的を定めたようだ。
あの少女の傷が一番深い、あいつを最初に落とそうぜ――そんな類の意思疎通が、6匹の間で図られたようだった。
これを覚者側の倖が読む。妖たちの視線から、たまきが標的になったことを悟ったのだ。
「そう来ましたか。ではその足並み、乱させていただきます」
倖は眼鏡をキラリと輝かせると、艶舞・寂夜のステップを刻んだ。見る者を眠りへ誘う魔の舞踏。はたして妖は眠たげに目をこすりながら、前衛2匹とウサギピンクを残して寝息を立て始めた。
「ファイブグリーンの踊りで妖が寝てしまったぞ! おっと奏……ファイブブルー、飛びかかった! 狙いはカピバラブラックとワニガメレッドだ!!」
抜刀し、地烈の構えをとった奏空が跳躍。機敏な足さばきで園内の障害物を蹴って飛びながら、敵前衛の2匹めがけて、地面ごと削り取るような衝撃波を放つ。
カピバラは身をかがめてこれをガード。一方のワニガメも甲羅に潜ってガード態勢を取る。一撃に耐えたワニガメはすかさず二本足で立ちあがり、口を開いてたまきへ襲いかかった。
「ゲゲゲ!」
亀の嘴は、生身の状態ですら人間の指くらいは軽く食いちぎる。直撃しようものなら、覚者といえど大ダメージは免れない。たまきが身を屈めてワニガメの脚を払い、うまく転倒させたところへ、
「ピイィィ!!」
カピバラが機関車の蒸気のような鼻息を吹いて走ってきた。地を駆ける衝撃で色レンガが砕け散り、青空を彩るように宙を舞う。たまきは慌てず、腰を落としてガード態勢を取った。
直撃。――しかし、紫鋼塞による強化がカピバラのダメージを大幅に軽減する。
「やるじゃないか。どっちがタフか、力比べだ」
黒い翼を広げた彩吹が、上空から仕掛けた。バズヴ・カタから繰り出される疾風双漸が、ワニガメとカピバラを容赦なく切り裂く。悲鳴を上げて逃げ惑う2匹を見下ろして、彩吹は内心で苦笑した。
(やれやれ。草食動物を狙うのは気がひけるなぁ……猛獣になった気分だ)
この戦い、思ったより早く終わりそうだ。空から戦況を俯瞰する彩吹には、それが良く分かった。
カピバラとワニガメは深いダメージを負っていて、目の前の攻撃への対処で精いっぱい。
キツネとペンギン、白ウサギは、倖の寂兎ですやすやとのんきに寝息を立てている。
桃色のウサギの必死の支援も、この状況では焼け石に水だ。
(妖が見物客を襲いそうな時は、すぐ対処に動くつもりだったけど……杞憂に終わりそうだね)
ふと彩吹の後方から白い閃光が走る。翔の雷獣だろう。どうやらウサギ2羽にとどめを刺す気のようだ。稲光が一点に降り注いで虎の姿を取り、後列の妖たちに飛びかかる。
(支援回復役が狙われるのは世の常だ。ウサギと言えども容赦はしねーぜ!)
「キュウッ!」「キュ……」
ポンッという音とともに、元の姿に戻ったウサギたちが、怯えるように戦場から逃げて行った。
「ウサギたちが職員さんに無事保護されました! ……おっと、ファイブチームのブルーとピンクが、カピバラに突進のお返しのようだ!」
翔の実況にタイミングを合わせるように、奏空とたまきが、阿吽の呼吸で攻撃に出る。
「たまきちゃん!」
「はい、奏空さん!」
突進態勢に入ったカピバラに奏空が迫る。ベンチを蹴り、木の枝に飛び移り、檻の柵を蹴って、一気に彼我の距離を詰める。
「これで体当たりは出来ないよね? ――くらえ!!」
「ギャピピィィィ!!」
助走を封じられたカピバラの鼻面に、KURENAIとKUROGANEの柄がめり込んだ。悶絶してひっくり返り、露わになった土手っ腹へ、たまきが琴富士を叩き込む。
「これで、終わりです!」
全身を硬化させた、たまき渾身の一撃。それがとどめだった。カピバラの巨体がシュルシュルと縮み、猛牛から仔犬ほどのサイズへと戻ってゆく。
(あの子、まだ子供だったんですね……)
怯えて逃げ出すカピバラの背中を、たまきはそっと見送った。無事に家族や仲間たちの元に戻れるよう祈りながら。
上空では翼を広げた彩吹が、告死天使の舞を踊りはじめた。ダンスの相手は、前衛のワニガメレッド。たまきの琴富士で瀕死のダメージを負った体で、倖の降槍を必死に防御している。
「残念だけど、ここまでだ!」
上空で優雅にスピンを加え、遠心力を乗せた回転斬りがグラインダーのようにワニガメの甲羅を容赦なく削っていく。カウンターを発動させる余裕など微塵も与えずに、防御が途切れた僅かな一瞬を縫うように放たれた一撃が、妖の体を貫いた。
「ゲ……ゲゲゲ!!」
断末魔と共に元に戻ったワニガメは、がさごそと木陰に隠れて甲羅に潜り込んでしまった。
「おーし! さっさと決着つけるぞー!」
カナタのB.O.T.がキツネブルーを串刺しにする。眠りから覚めたペンギンイエローは必死に真空波でたまきの強化を解除するも、大勢が決した今となっては焼け石に水だ。
「強かったぜ、お前ら! だけどもっと強いのはオレ達だ!!」
翔の勝利宣言とともに集中攻撃を浴び、キツネとペンギンはあえなく元の姿に戻されたのだった。
●休息のひと時を一緒に
戦いが終わり、動物園が元の賑わいを取り戻すのに、そう時間はかからなかった。
保護された6匹を見送り、見物客に頼まれた記念撮影を終え、関係各所に連絡を済ませた後は、いよいよお楽しみ、動物園のひと時だ。
「捕獲訓練は終了だぜー! さー、遊ぶぞー!!」
「動物園、か。来るのはいつ以来だろうね」
仕事から解放され、目を輝かせてはしゃぎ回る翔。
彩吹は売店で注文したソフトクリームを待つ間、人で賑わう園内を眺めてみた。
いちばん目につくのは親子連れだった。若いカップルも多い。動物をスケッチする年配の夫婦に、学校の先生に引率された小学生たち……思ったより、色々な人が来ている。
彩吹は人数分のソフトクリームを受け取ると、仲間の元へと戻っていった。
「お待たせ。皆の分だよ」
「サンキュー! くーっ、生き返るぜ!」
キンキンに冷えた真っ白いバニラを彩吹から受け取ると、カナタは細く尾を引いた天辺を一思いにぱくりと食べた。戦いで疲れた体に沁みわたる甘さだった。
(早く食わないと、溶けて手がベッタベタになるからな!)
汗をかきはじめたソフトクリームをこぼさないように食べながら、カナタら一行が最初に向かったのは、猛禽類のエリアだ。
大空を舞う、堂々たる捕食者たち。強くて大きい、そんな少年の本能に訴えかける威容に満ちた佇まいは、距離を置いた柵の外からでもひしひしと伝わってきた。
「うおー! 大鷲って思ってた以上にデケェ!」
カナタは動物が好きだ。特に猛禽や猛獣のようなカッコいい系の動物は大好きだった。
「翼畳んだ状態でコレなんだし、翼広げたらどんだけデカクなんだろー?」
大鷲の他には、フクロウの姿もあった。音を立てず闇を切るように飛ぶ、夜行性の猛禽類。ユーモラスな外見だが間近で見ると大きく、小型犬くらいなら捕えてしまいそうだ。
「こっちも結構迫力あんね! やっぱ昼だと、ホーって鳴かないのかな?」
「夜行性だからね。今は寝る時間なのかもしれない」
室内の照明に目を細めながら舟をこぐフクロウに別れを告げた一行は、氷山エリアへと向かった。ここの目玉はペンギンで、群れの中には先ほど戦った1羽の姿もあった。
「泳いでいるのを上から見ていると空を飛んでいるみたいだね。気持ちよさそうだ」
皆似たような背格好だが、一度戦った相手は、不思議とその存在が分かるものだ。ペンギンの方もそれは同じらしく、照れくさそうな仕草で隠れるようにプールへと飛び込んでしまった。
次に向かったのは小動物との触れ合いコーナーだ。そこで倖と翔は幸せの極致を迎えていた。
「いいですねえ……実に、いいですねえ」
倖が膝の上に乗せた掌で、小さなモルモットがくつろいでいる。倖が以心で探した、最も警戒心の小さな1匹だ。両手で掬うようにそっと抱きかかえると、すぐにモルモットは倖の掌の上で寝息を立て始めた。小さくて温かい小動物の息遣いに、思わず倖の頬が綻ぶ。
「おー、よしよし。ケガはねーか? さっきはゴメンな」
翔がそっと撫でているのは、先ほど妖化した2羽のウサギ達だった。どちらも戦いの時とはうって変わって、目を細めて翔の愛撫を気持ちよさそうに受け入れている。
「うわぁ、ふわっふわで可愛いなぁ、お前」
少し離れた場所では、カナタがヒョウの子供を抱きかかえていた。ネコ科の動物だけあって思わず見とれる可愛さだが、肉厚で重厚な前脚は、明らかに猫のそれとは一線を画している。
「このモルモットさん、僕の膝が気に入ってしまったようです。もう少し抱っこしていたいので、皆さんはお先にどうぞ」
「そうだな! オレももう少し、ここでこいつら撫でてようかな!」
倖と翔の視線の先には、ふたり一緒にシロクマを鑑賞する奏空とたまきの姿があった。事情を察したカナタと彩吹も、にこりと微笑む。
「なるほど、そういうことか。ふたりとも仲良しだね」
そして。
シロクマを見終えた奏空とたまきは、カピバラがいる場所――「ネズミ目ヤマアラシ亜目」のエリアにいた。道端で群れるカピバラたちの姿はのどかなもので、水のプールに浸かって気持ちよさそうに目を細めている。時折聞こえるキューキューという鳴き声が可愛らしい。
「あっ、奏空さん! あの子!」
そう言ってたまきが指さしたのは、先ほどの仔カピバラだ。向こうも2人を覚えていたらしく、餌のキャベツを食むのを止め、鼻を鳴らしてすり寄ってきた。
「可愛いね。よしよし……」
カピバラを撫でて仲間の所へ戻してやると、ふたりはエリア一帯の動物リストが載ったパンフレットを開いて、一緒に読み始めた。
「色んな種類のネズミさんがいますね。カピバラさん、ヤマアラシさん……あら、この子は?」
たまきが不思議そうに指さしたのは、ヤマアラシ亜目の系統樹の端に映った奇妙な生物だった。
シワシワのソーセージに目鼻と手足を付けたような異様なフォルム。その名前は――
「ああ、それはハダカデバネズミだね」
「ハダカ……デバネズミ?」
「うん。アフリカに住む動物で、地面に穴を掘って暮らしてるんだ。もの凄い長生きでさ、下顎の歯をピースサインみたいに左右に開いて、くわえた食べ物を運ぶんだよ」
(奏空さん、詳しいです……)
奏空の意外な一面に、たまきは驚いた。
目の前の少年は、自分の知らない顔をまだ沢山持っているのだと。
たまきは微笑みながら、奏空にそっと耳打ちした。
「今度、二人でも来てみましょうね?」
「うん……見に来よう、たまきちゃん……」
耳まで赤い顔で、こくりと頷く奏空。
ふたりの幸せな時間を、4人の仲間がそっと後ろで見守っていた。
夏の動物園で起きた、とある1日の物語である。
白昼の太陽が照り付ける下、カラフルなブリックロードに舗装された動物園の中庭を、6匹の獣たちが我が物顔で闊歩していた。
頑丈なワニガメ、猪突猛進のカピバラ、眼光鋭いキツネ、風を操るペンギン、そして舞い踊る2羽のウサギ。いずれも人類抹殺の本能に突き動かされる妖たちだ。彼らは今、熱気を孕んだ風を背に浴びて、静まり返った園内で獲物となる人間を探し回っていた。
「キュッ!!」
猛牛ほどの体躯を誇るカピバラが、ふと遠方の白いネットに人だかりを認める。
「キュキュッ!!」「ゲゲェ」
張り巡らされたネットの向こうからこちらを見つめる、人間たちの怯えた目。それは妖化した彼らの嗜虐心を大いに煽るものだった。さっそくカピバラが仲間に合図を送り、人間たちを血祭りにあげようと地面を踏みしめた、その時!
「待てっ!」
空の太陽を遮るように6つの人影が跳躍し、妖たちの行く手を塞いだ!
「『ファイブレッド』成瀬 翔(CL2000063)、参上!!」
声域拡張を使った翔の声が、静寂の園内に高らかに響き渡った。寸暇をおかず、道の中央に着地してポーズを決める翔の隣に、後ろに、仲間たちが登場して名乗りを上げてゆく。
「皆さんへ希望を繋ぐ薄紅の環、ファイブピンク! 賀茂 たまき(CL2000994)です!」
「皆の傷は俺が癒す! ファイブブラック、天乃 カナタ(CL2001451)!」
「生き物観察と動物園が大好き! ファイブブルー、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)!」
「力比べならお任せあれ。ファイブシルバー、『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)!」
「ウサギの事務員、ここにあり! ファイブグリーン、『願いの花』田中 倖(CL2001407)!」
一糸乱れぬ、絶妙のコンビネーション。翔のポージング爆破が、6人の背を爆発で彩る。
「どうだ、妖のお前らにはこんな事はできねーだろ!」
「ゲゲゲェ!」
ドヤ顔で胸を反らすファイブレッドこと翔。
対する妖側のワニガメレッドは二本足で立ちあがり、覚者たちを睨みつけた。禍々しく尖った嘴に、トゲトゲしいキチン質の甲羅に覆われた出で立ちは、完全に怪獣のそれだ。
「動物に戦隊もの……ちびっこたちの夢を壊す妖さんたちには、ここでご退場願おうかな」
「かわいい動物さん達が妖化するなんて、大変です! 早く元に戻さないと、ですね!」
そんなワニガメと対峙するように前へと躍り出てきたのは、ファイブシルバーとファイブピンク――彩吹とたまき。同じツーカラーが後衛を務める妖チームとは対照的だ。
好戦的な笑顔を浮かべる彩吹と、一歩も下がる気配を見せないたまきの佇まいに、中衛の倖はワクワクする気持ちを抑えきれない。
(紅二点が最前線で妖とファイト、ですか。なかなか絵になりそうですね)
「あれ? 翔、後衛なの?」
そんな倖の隣で、奏空が翔を振り返る。レッドは前で戦うものじゃないの? という表情で。
「ああ。ちょっとやりたい事があるんだよな!」
翔は悪戯っぽい笑みを見せると、スウッと大きく息を吸い込んだ。
「来園中の皆! 今日の脱走訓練は、オレ達FiVEが参加することになったんだぜ!」
警察が張るネットの外から様子を伺う来園客のどよめきが、翔の声でぴたりと収まる。
「脱走したのは、妖化した動物たち! 皆もよかったら、応援で訓練に参加してくれ! それと戦闘中は危険だから、絶対にネットの内側には入らないでくれよな!」
翔の口上が終わると同時に、ネットの外から観客の拍手が巻き起こった。
いま園内には、脱走訓練を見物に来た大勢の客がいる。この状況で下手に避難を呼びかけたら、パニックを起こした客が戦場に迷い込まないとも限らない。それに、客を避難させて妖との戦いに勝利しても、彼らが過ごすはずだった楽しいひと時は台無しになってしまうだろう。
だからこそ。
妖は逃がさず倒す。来園者には自分たちの戦いを見て、楽しんで帰ってもらおうというのだ。
「つーことで、よろしく。フォローはキッチリ果たすから安心してくれ」
「おもしれーじゃん。やっぱノリって大事だと思うぜ!」
翔の隣で、カナタがゲラゲラと腹を抱えて笑う。これは覚者冥利に尽きる戦いになりそうだ。
「こっちのブラックの方が強くてカッコイイって事を見せつけてやんなきゃだな! 皆、よろしく!」
武器を手に、カナタは敵のブラック――カピバラをビシッと指さした。口上を終えた覚者に、6匹の妖が隊列を組んで対峙する。じりじりと流れる緊迫した時間を、観客たちが離れた場所から固唾を飲んで見守っている。
そして――
「いざ尋常に……勝負!!」
翔の一声が、戦いの火ぶたを切って落とした。
●動物園での決闘
「くらえ、迷霧!」
腰を落とした奏空が、握った拳を天高く突き上げた。
舞台のスモークめいた霧がたちまち妖の一団を包み込み、抵抗する力を蝕んでゆく。
「ピイィィ!!」
覚者の攻撃に憤慨したのか、カピバラブラックが怪鳥めいたいななきをあげながら突進してきた。たまき、奏空、翔が突き飛ばされ、檻で戦いを見守る動物たちが怯えてガタガタと柵を揺らす。
「おっと!? カピバラブラック、渾身の一撃!! これにファイブレッドは雷で反撃だ!!」
敵との戦いを中継しながら、翔はDXカクセイパッドを展開した。
地面に描かれた五芒星の文様から龍を思わせる雷が生み出され、稲光とともに妖へと降り注ぐ。直撃を受けた2羽のウサギが、悲鳴をあげて飛び回った。
「ケンケン!」「ケェェ!」
反撃とばかり、キツネブルーとペンギンイエローが動く。
キツネの目から走る光線が倖と奏空の足元をガリガリと薙ぎ払い、ペンギンの羽ばたきがたまきの体を捉えた。ガード態勢でダメージを最小限に留める中衛2人。たまきもスカートを抑えて必死に踏みとどまる。
「みんな、がんばれ! ファイブブラックがおうえんするぞ!」
カナタは、掌に走り書きしたセリフのカンペを棒読みしつつ、癒しの霧で仲間たちを包みこむ。
一方たまきは錬覇法で戦闘力を底上げし始めた。どうやら攻撃メインのスタイルで戦うようだ。
(ハデに暴れてくれよ、ファイブピンク。頼んだぜ!)
前衛のたまきに内心でエールを送るカナタ。その隣では、翔が実況中継に花を咲かせていた。
「さあ覚者と妖、お互い一歩も引かない! どうやらお互いの実力を測っているようだ!」
翔たちファイブ側の作戦は、支援役のウサギたちを妨害しつつ、前衛のワニガメとカピバラを潰すというもの。支援を絶っての撃破という鉄板のスタイルだ。
一方、妖チームは――
「ピイィ!」
「ケンケン」「キュウ」
どうやら、前衛のたまきに標的を定めたようだ。
あの少女の傷が一番深い、あいつを最初に落とそうぜ――そんな類の意思疎通が、6匹の間で図られたようだった。
これを覚者側の倖が読む。妖たちの視線から、たまきが標的になったことを悟ったのだ。
「そう来ましたか。ではその足並み、乱させていただきます」
倖は眼鏡をキラリと輝かせると、艶舞・寂夜のステップを刻んだ。見る者を眠りへ誘う魔の舞踏。はたして妖は眠たげに目をこすりながら、前衛2匹とウサギピンクを残して寝息を立て始めた。
「ファイブグリーンの踊りで妖が寝てしまったぞ! おっと奏……ファイブブルー、飛びかかった! 狙いはカピバラブラックとワニガメレッドだ!!」
抜刀し、地烈の構えをとった奏空が跳躍。機敏な足さばきで園内の障害物を蹴って飛びながら、敵前衛の2匹めがけて、地面ごと削り取るような衝撃波を放つ。
カピバラは身をかがめてこれをガード。一方のワニガメも甲羅に潜ってガード態勢を取る。一撃に耐えたワニガメはすかさず二本足で立ちあがり、口を開いてたまきへ襲いかかった。
「ゲゲゲ!」
亀の嘴は、生身の状態ですら人間の指くらいは軽く食いちぎる。直撃しようものなら、覚者といえど大ダメージは免れない。たまきが身を屈めてワニガメの脚を払い、うまく転倒させたところへ、
「ピイィィ!!」
カピバラが機関車の蒸気のような鼻息を吹いて走ってきた。地を駆ける衝撃で色レンガが砕け散り、青空を彩るように宙を舞う。たまきは慌てず、腰を落としてガード態勢を取った。
直撃。――しかし、紫鋼塞による強化がカピバラのダメージを大幅に軽減する。
「やるじゃないか。どっちがタフか、力比べだ」
黒い翼を広げた彩吹が、上空から仕掛けた。バズヴ・カタから繰り出される疾風双漸が、ワニガメとカピバラを容赦なく切り裂く。悲鳴を上げて逃げ惑う2匹を見下ろして、彩吹は内心で苦笑した。
(やれやれ。草食動物を狙うのは気がひけるなぁ……猛獣になった気分だ)
この戦い、思ったより早く終わりそうだ。空から戦況を俯瞰する彩吹には、それが良く分かった。
カピバラとワニガメは深いダメージを負っていて、目の前の攻撃への対処で精いっぱい。
キツネとペンギン、白ウサギは、倖の寂兎ですやすやとのんきに寝息を立てている。
桃色のウサギの必死の支援も、この状況では焼け石に水だ。
(妖が見物客を襲いそうな時は、すぐ対処に動くつもりだったけど……杞憂に終わりそうだね)
ふと彩吹の後方から白い閃光が走る。翔の雷獣だろう。どうやらウサギ2羽にとどめを刺す気のようだ。稲光が一点に降り注いで虎の姿を取り、後列の妖たちに飛びかかる。
(支援回復役が狙われるのは世の常だ。ウサギと言えども容赦はしねーぜ!)
「キュウッ!」「キュ……」
ポンッという音とともに、元の姿に戻ったウサギたちが、怯えるように戦場から逃げて行った。
「ウサギたちが職員さんに無事保護されました! ……おっと、ファイブチームのブルーとピンクが、カピバラに突進のお返しのようだ!」
翔の実況にタイミングを合わせるように、奏空とたまきが、阿吽の呼吸で攻撃に出る。
「たまきちゃん!」
「はい、奏空さん!」
突進態勢に入ったカピバラに奏空が迫る。ベンチを蹴り、木の枝に飛び移り、檻の柵を蹴って、一気に彼我の距離を詰める。
「これで体当たりは出来ないよね? ――くらえ!!」
「ギャピピィィィ!!」
助走を封じられたカピバラの鼻面に、KURENAIとKUROGANEの柄がめり込んだ。悶絶してひっくり返り、露わになった土手っ腹へ、たまきが琴富士を叩き込む。
「これで、終わりです!」
全身を硬化させた、たまき渾身の一撃。それがとどめだった。カピバラの巨体がシュルシュルと縮み、猛牛から仔犬ほどのサイズへと戻ってゆく。
(あの子、まだ子供だったんですね……)
怯えて逃げ出すカピバラの背中を、たまきはそっと見送った。無事に家族や仲間たちの元に戻れるよう祈りながら。
上空では翼を広げた彩吹が、告死天使の舞を踊りはじめた。ダンスの相手は、前衛のワニガメレッド。たまきの琴富士で瀕死のダメージを負った体で、倖の降槍を必死に防御している。
「残念だけど、ここまでだ!」
上空で優雅にスピンを加え、遠心力を乗せた回転斬りがグラインダーのようにワニガメの甲羅を容赦なく削っていく。カウンターを発動させる余裕など微塵も与えずに、防御が途切れた僅かな一瞬を縫うように放たれた一撃が、妖の体を貫いた。
「ゲ……ゲゲゲ!!」
断末魔と共に元に戻ったワニガメは、がさごそと木陰に隠れて甲羅に潜り込んでしまった。
「おーし! さっさと決着つけるぞー!」
カナタのB.O.T.がキツネブルーを串刺しにする。眠りから覚めたペンギンイエローは必死に真空波でたまきの強化を解除するも、大勢が決した今となっては焼け石に水だ。
「強かったぜ、お前ら! だけどもっと強いのはオレ達だ!!」
翔の勝利宣言とともに集中攻撃を浴び、キツネとペンギンはあえなく元の姿に戻されたのだった。
●休息のひと時を一緒に
戦いが終わり、動物園が元の賑わいを取り戻すのに、そう時間はかからなかった。
保護された6匹を見送り、見物客に頼まれた記念撮影を終え、関係各所に連絡を済ませた後は、いよいよお楽しみ、動物園のひと時だ。
「捕獲訓練は終了だぜー! さー、遊ぶぞー!!」
「動物園、か。来るのはいつ以来だろうね」
仕事から解放され、目を輝かせてはしゃぎ回る翔。
彩吹は売店で注文したソフトクリームを待つ間、人で賑わう園内を眺めてみた。
いちばん目につくのは親子連れだった。若いカップルも多い。動物をスケッチする年配の夫婦に、学校の先生に引率された小学生たち……思ったより、色々な人が来ている。
彩吹は人数分のソフトクリームを受け取ると、仲間の元へと戻っていった。
「お待たせ。皆の分だよ」
「サンキュー! くーっ、生き返るぜ!」
キンキンに冷えた真っ白いバニラを彩吹から受け取ると、カナタは細く尾を引いた天辺を一思いにぱくりと食べた。戦いで疲れた体に沁みわたる甘さだった。
(早く食わないと、溶けて手がベッタベタになるからな!)
汗をかきはじめたソフトクリームをこぼさないように食べながら、カナタら一行が最初に向かったのは、猛禽類のエリアだ。
大空を舞う、堂々たる捕食者たち。強くて大きい、そんな少年の本能に訴えかける威容に満ちた佇まいは、距離を置いた柵の外からでもひしひしと伝わってきた。
「うおー! 大鷲って思ってた以上にデケェ!」
カナタは動物が好きだ。特に猛禽や猛獣のようなカッコいい系の動物は大好きだった。
「翼畳んだ状態でコレなんだし、翼広げたらどんだけデカクなんだろー?」
大鷲の他には、フクロウの姿もあった。音を立てず闇を切るように飛ぶ、夜行性の猛禽類。ユーモラスな外見だが間近で見ると大きく、小型犬くらいなら捕えてしまいそうだ。
「こっちも結構迫力あんね! やっぱ昼だと、ホーって鳴かないのかな?」
「夜行性だからね。今は寝る時間なのかもしれない」
室内の照明に目を細めながら舟をこぐフクロウに別れを告げた一行は、氷山エリアへと向かった。ここの目玉はペンギンで、群れの中には先ほど戦った1羽の姿もあった。
「泳いでいるのを上から見ていると空を飛んでいるみたいだね。気持ちよさそうだ」
皆似たような背格好だが、一度戦った相手は、不思議とその存在が分かるものだ。ペンギンの方もそれは同じらしく、照れくさそうな仕草で隠れるようにプールへと飛び込んでしまった。
次に向かったのは小動物との触れ合いコーナーだ。そこで倖と翔は幸せの極致を迎えていた。
「いいですねえ……実に、いいですねえ」
倖が膝の上に乗せた掌で、小さなモルモットがくつろいでいる。倖が以心で探した、最も警戒心の小さな1匹だ。両手で掬うようにそっと抱きかかえると、すぐにモルモットは倖の掌の上で寝息を立て始めた。小さくて温かい小動物の息遣いに、思わず倖の頬が綻ぶ。
「おー、よしよし。ケガはねーか? さっきはゴメンな」
翔がそっと撫でているのは、先ほど妖化した2羽のウサギ達だった。どちらも戦いの時とはうって変わって、目を細めて翔の愛撫を気持ちよさそうに受け入れている。
「うわぁ、ふわっふわで可愛いなぁ、お前」
少し離れた場所では、カナタがヒョウの子供を抱きかかえていた。ネコ科の動物だけあって思わず見とれる可愛さだが、肉厚で重厚な前脚は、明らかに猫のそれとは一線を画している。
「このモルモットさん、僕の膝が気に入ってしまったようです。もう少し抱っこしていたいので、皆さんはお先にどうぞ」
「そうだな! オレももう少し、ここでこいつら撫でてようかな!」
倖と翔の視線の先には、ふたり一緒にシロクマを鑑賞する奏空とたまきの姿があった。事情を察したカナタと彩吹も、にこりと微笑む。
「なるほど、そういうことか。ふたりとも仲良しだね」
そして。
シロクマを見終えた奏空とたまきは、カピバラがいる場所――「ネズミ目ヤマアラシ亜目」のエリアにいた。道端で群れるカピバラたちの姿はのどかなもので、水のプールに浸かって気持ちよさそうに目を細めている。時折聞こえるキューキューという鳴き声が可愛らしい。
「あっ、奏空さん! あの子!」
そう言ってたまきが指さしたのは、先ほどの仔カピバラだ。向こうも2人を覚えていたらしく、餌のキャベツを食むのを止め、鼻を鳴らしてすり寄ってきた。
「可愛いね。よしよし……」
カピバラを撫でて仲間の所へ戻してやると、ふたりはエリア一帯の動物リストが載ったパンフレットを開いて、一緒に読み始めた。
「色んな種類のネズミさんがいますね。カピバラさん、ヤマアラシさん……あら、この子は?」
たまきが不思議そうに指さしたのは、ヤマアラシ亜目の系統樹の端に映った奇妙な生物だった。
シワシワのソーセージに目鼻と手足を付けたような異様なフォルム。その名前は――
「ああ、それはハダカデバネズミだね」
「ハダカ……デバネズミ?」
「うん。アフリカに住む動物で、地面に穴を掘って暮らしてるんだ。もの凄い長生きでさ、下顎の歯をピースサインみたいに左右に開いて、くわえた食べ物を運ぶんだよ」
(奏空さん、詳しいです……)
奏空の意外な一面に、たまきは驚いた。
目の前の少年は、自分の知らない顔をまだ沢山持っているのだと。
たまきは微笑みながら、奏空にそっと耳打ちした。
「今度、二人でも来てみましょうね?」
「うん……見に来よう、たまきちゃん……」
耳まで赤い顔で、こくりと頷く奏空。
ふたりの幸せな時間を、4人の仲間がそっと後ろで見守っていた。
夏の動物園で起きた、とある1日の物語である。
■シナリオ結果■
大成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし

■あとがき■
ピエロギです。
結果は大成功としました。おめでとうございます。
依頼目標の完遂に加えて、参加者全員での戦隊もののプレイングが決め手になった形です。
皆さん楽しんで書いているのが伝わってくる、素晴らしい内容だったと思います。
なお、プレイングで戦隊カラーの指定があった方には、該当する色の称号を進呈しました。
今後のRPに是非ご活用ください。
シナリオ、お疲れさまでした。
結果は大成功としました。おめでとうございます。
依頼目標の完遂に加えて、参加者全員での戦隊もののプレイングが決め手になった形です。
皆さん楽しんで書いているのが伝わってくる、素晴らしい内容だったと思います。
なお、プレイングで戦隊カラーの指定があった方には、該当する色の称号を進呈しました。
今後のRPに是非ご活用ください。
シナリオ、お疲れさまでした。
