<冷酷島>核心をつけ。それが困難であったとしても。
●約束されなかった島・第二章
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立地の人工島に作られた複合都市です。
日本国土の外側に居住地を建設すれば妖は現われないだろうと作られた島でしたがしかし、その考えは的を外したものでした。
島は妖に襲われ、防衛力を用意していなかったせいで妖は増加の一途をたどり、今では無数のR3コミュニティによるナワバリの奪い合いすらおきています。
この島を人々の手に取り返すことは、はたしてできるのでしょうか……。
●悪の元凶
「やっぱり、島を仕切ってるラスボスみたいな存在がいるんじゃあないかな」
ここは島を囲む湾に敷かれた防衛ライン。冷酷島から本土へ進出しようとする妖を迎撃するためのエリアだ。
その拠点となるコンテナハウス内で、覚者たちの会議は行なわれていた。
島の地図が張られたホワイトボード。
集められた無数の資料。手書きのメモや録画映像。写真や採取物。
如月・彩吹(CL2001525)はそれらに囲まれて、難しい顔をしていた。
「ラスボスを倒したらゲームクリア、ってことにはならないかな?」
「そうは、ならないと思いますけど……」
写真を一枚つまみあげる大辻・想良(CL2001476)。
「けど、統率は失いますよね」
「そうしたら妖ちゃんはあっちこっちに散らばって、やっつけるのも大変になっちゃうねぇ」
同じく写真をつまみ上げる皐月 奈南(CL2001483)。
ここでいう『あっちこっちに散らばる』とは島に収まっていた大量の妖が本土へ一斉に広がってしまうという意味だ。いくらファイヴとその二次団体の戦力が充実していても、複数のR3コミュニティを一度に倒すことはできない。必ず突破され多くの命や住居が失われるだろう。
「『そっち』の対策は、別の人たちがしています。こちらは……」
「ラスボスを見つけ出すこと、だね」
彩吹が拾い上げたのは、また別の写真。
三人のもつ写真に共通して写っている、『赤子を抱えた母親らしき姿』である。
●城を落とすにも、まず選ばねばならない。誰を先に殺すかだ。
中 恭介(nCL2000002)はファイヴの会議室にて、冷酷島のマップを提示した。
「皆、知っての通り冷酷島では長期的な対妖作戦が行なわれている。
今回の作戦は、そんな中でも島の中核を目指すための作戦だ」
島の中心にはいくつかのランク3妖によるコミュニティが目撃されている。
スライムドーム:巨大なゲル状物体に覆われたドーム型スタジアム。
怪鳥の巣:黒い鳥のような巨大妖が居座るビルの残骸。
虫の大穴:地面に向けてぽっかりと空いた、正体不明の巨大な穴。
「この三箇所のコミュニティは、島の中心に位置しているが一向に動く気配がない。状況からして生存者も見込めないこのエリアに居座る意味があるとすれば、より上位の妖が自らを防衛するために『居座らせている』ほかないだろう。
つまり、これらのコミュニティを一つずつ潰していけばいわゆるラスボスのもとにたどり着けるかもしれない。
どこから攻めるかは皆に任せる。くれぐれも慎重に、そして必ず生きて帰ってきてくれ」
『冷酷島』正式名称・黎刻ニューアイランドシティは埋立地の人工島に作られた複合都市です。
日本国土の外側に居住地を建設すれば妖は現われないだろうと作られた島でしたがしかし、その考えは的を外したものでした。
島は妖に襲われ、防衛力を用意していなかったせいで妖は増加の一途をたどり、今では無数のR3コミュニティによるナワバリの奪い合いすらおきています。
この島を人々の手に取り返すことは、はたしてできるのでしょうか……。
●悪の元凶
「やっぱり、島を仕切ってるラスボスみたいな存在がいるんじゃあないかな」
ここは島を囲む湾に敷かれた防衛ライン。冷酷島から本土へ進出しようとする妖を迎撃するためのエリアだ。
その拠点となるコンテナハウス内で、覚者たちの会議は行なわれていた。
島の地図が張られたホワイトボード。
集められた無数の資料。手書きのメモや録画映像。写真や採取物。
如月・彩吹(CL2001525)はそれらに囲まれて、難しい顔をしていた。
「ラスボスを倒したらゲームクリア、ってことにはならないかな?」
「そうは、ならないと思いますけど……」
写真を一枚つまみあげる大辻・想良(CL2001476)。
「けど、統率は失いますよね」
「そうしたら妖ちゃんはあっちこっちに散らばって、やっつけるのも大変になっちゃうねぇ」
同じく写真をつまみ上げる皐月 奈南(CL2001483)。
ここでいう『あっちこっちに散らばる』とは島に収まっていた大量の妖が本土へ一斉に広がってしまうという意味だ。いくらファイヴとその二次団体の戦力が充実していても、複数のR3コミュニティを一度に倒すことはできない。必ず突破され多くの命や住居が失われるだろう。
「『そっち』の対策は、別の人たちがしています。こちらは……」
「ラスボスを見つけ出すこと、だね」
彩吹が拾い上げたのは、また別の写真。
三人のもつ写真に共通して写っている、『赤子を抱えた母親らしき姿』である。
●城を落とすにも、まず選ばねばならない。誰を先に殺すかだ。
中 恭介(nCL2000002)はファイヴの会議室にて、冷酷島のマップを提示した。
「皆、知っての通り冷酷島では長期的な対妖作戦が行なわれている。
今回の作戦は、そんな中でも島の中核を目指すための作戦だ」
島の中心にはいくつかのランク3妖によるコミュニティが目撃されている。
スライムドーム:巨大なゲル状物体に覆われたドーム型スタジアム。
怪鳥の巣:黒い鳥のような巨大妖が居座るビルの残骸。
虫の大穴:地面に向けてぽっかりと空いた、正体不明の巨大な穴。
「この三箇所のコミュニティは、島の中心に位置しているが一向に動く気配がない。状況からして生存者も見込めないこのエリアに居座る意味があるとすれば、より上位の妖が自らを防衛するために『居座らせている』ほかないだろう。
つまり、これらのコミュニティを一つずつ潰していけばいわゆるラスボスのもとにたどり着けるかもしれない。
どこから攻めるかは皆に任せる。くれぐれも慎重に、そして必ず生きて帰ってきてくれ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.いずれかのコミュニティへの攻撃
2.戦闘不能者が半数を超えていないこと
3.なし
2.戦闘不能者が半数を超えていないこと
3.なし
色々な形に分岐し、場合によってはルートが増える構成となっております。
そんなわけで、飛び入り参加をいつでも歓迎しております。
【シチュエーションデータ】
島のラスボスを目指すため、障害となるコミュニティを排除します。
今回はいわゆる『コミュニティの戦力を削るための戦い』です。
コミュニティのボスとは戦いません(これまで接触したコミュニティを見る限り、今の情報量と戦力でぶつかったらたぶん死にます)。
そしてこのシナリオでは、皆さんで相談して『どのコミュニティに攻撃を仕掛けるか』を決定して頂きます。
チームの分散はナシ。プレイングで意見が分かれた場合一番意見が多かったっぽい所に決定します。
行き先は
『スライムドーム』
『怪鳥の巣』
『虫の大穴』
の三つのうちいずれかです。
目撃している妖のデータだけを、エネミーデータに記載します。
【戦闘の状態】
大群の中を攻める状況にルールを適用するとミスリードがおきやすいので、
システム上は以下の状態となります
・前衛、中衛、後衛に妖が3体前後(平均して3:3:3)配置されます。
・妖は倒されたその瞬間に新しい妖が補充され、妖にあったポジション(前~後衛)につきます。
・新しく配置された妖はターン中の反応速度ロールに参入します。
(妖たちは控えに入ってる段階から既に動いている扱いになっています。そのため『ターン中最速の全体攻撃で皆殺しにし続けることでノーダメージを維持する』といったことができなくなります。その場合、味方を遮蔽物にして接近・攻撃してくるイメージになるでしょう)
・コミュニティから撤退する時は全員一斉に撤退します。
特にプレイングで指定が無かった場合、半数戦闘不能になった段階で自動撤退します。
・当シナリオ内で倒した妖の数が、そのままコミュニティへのダメージとなります。この次のシナリオでボスへのアタックを敢行しますが、今回倒せば倒すほどボスアタックへの危険度が減り成功率が上がります。(※重要)
【エネミーデータ】
・スライムドームの妖:物質系と生物系がメイン。1m大のスライム的妖や、歩く植物といったものが目撃されています。
・怪鳥の巣:巨大な黒い怪鳥がボスで、こちらを常に警戒しています。手下も怪鳥タイプの妖が多く、空から降下して攻撃をしかけてきます。全体的になかなか賢いよいです。
・虫の大穴:ムカデやダンゴムシといった虫をベースにした妖が多く目撃されています。穴の大きさは直径3mほど。歩いて侵入できる程度の角度です。
【事後調査】
(※こちらは、PLが好むタイプのシナリオへシフトしやすくするための試験運用機能です)
島内は非常に危険なため、依頼完了後は一般人や調査・戦闘部隊はみな島外に退避します。
しかし高い生存能力をもつPCたちは依頼終了後に島内の調査を行なうことができます。
以下の三つのうちから好きな行動を選んでEXプレイングに記入して下さい。
※EX外に書いたプレイングは判定されません
・『A:追跡調査』今回の妖や事件の痕跡を更に追うことで同様の事件を見つけやすくなり、同様の依頼が発生しやすくなります。
・『B:特定調査』特定の事件を調査します。「島内で○○な事件が起きているかも」「○○な敵と戦いたい」といった形でプレイングをかけることで、ピンポイントな依頼が発生しやすくなります。
・『C:島外警備』調査や探索はせず、島外の警備を手伝います。依頼発生には影響しなさそうですが、島外に妖が出ないように守ることも大事です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年06月28日
2017年06月28日
■メイン参加者 6人■

●止まぬ雨はないと言って、君は雲をかき消して見せた
「今回は、『怪鳥の巣』にいくよぉ! 怪鳥ちゃんをやっつけようねぇ」
地図に赤いマルをつけて、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は輸送ヘリへと乗り込んだ。
「このヘリが近づけるのは島の沿岸地帯までです。まして『怪鳥の巣』は飛行タイプの妖が多く生息しているので、ヘリで近づくことはできません。それでもよろしいでしょうか」
ヘリのスタッフに言われて、奈南たちは頷いた。
「ナナン立ちに任せて。頑張っちゃうのだ!」
「逆に言えば、『怪鳥の巣』の攻略を完了することで島の中心地へ直接乗り込むことが可能になるのですね……」
飛べることのアドバンテージは、翼ある『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)でなくてもよくわかる。
地上の妖たちと戦いながら、全く消耗することなく中心地までたどり着くことはおそらく不可能だろう。
まだやっていないのでハッキリとは言えないが、その辺りは『出来たらとっくにやっている』的なハナシである。
「今は一つ一つを確実に攻略していくしかないですね。それがもどかしいですが……」
「一歩をちゃんと踏み出せれば、二歩目もきっと踏み出せます。がんばりましょう!」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)がガッツポーズをして見せた。
にっこりと笑って返す鈴鳴。
そんなやりとりを横目に、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は地図を見直した。
「まずは、安全なところで下ろしてください。そこからは、行けるところまで行ってみます」
六人のメンバーを乗せて飛び上がるヘリ。
座席に身体を納め、大辻・想良(CL2001476)はこの先のことを想った。
「ランク3の妖とそのコミュニティに守られる、ラスボス……ですか」
皆が島のあちこちで目撃している『赤子を抱えた母親らしき姿』。
まず間違いなく妖だろう。
「一体、なにが、あった……?」
「例のラスボスのこと? 妖に自分を守らせるなんて、頭のいい妖もいたものだね」
そこまで人間的な知能を持った妖は、(大妖を除いては)これまで牙王クラスの存在くらいしか例が無い。推定ランク4の妖ということだ。
「それにしても」
写真を指でなぞって、ぼやけた人影をみやる。
「妖の島でも作るつもりか……?」
●突入、『怪鳥の巣』
ドローンカーが走る。
オープンになった座席から身を乗り出し、滅相銃をアテンドからひっぱり出す奏空。双眼鏡をとり、レンズを覗き込む。
「距離はまだある。戦闘開始ポイントまであと――」
「八秒!」
奈南がボンネットに飛び乗り、ホッケースティックを取り出す。
双眼鏡を用いた奏空よりも、『鷹の目』で視力を直接強化した奈南のほうが目測が早かったのだ。
「妖ちゃんもこっちに気づいてるみたい。それじゃあみんな、いくよぉ!」
自らのエネルギーをディスク状に固めたものを宙に放り、スティックで殴りつける奈南。
拡散したエネルギーディスクが飛び、こちらに強襲をかけてくる怪鳥たちにぶつかった。
反応速度では奏空のほうがずっと上だったが、目測を正確に行なえた奈南が予備動作を先行入力することで実質的な先手をとったのだ。
どうやら怪鳥たちは視力と機動力に秀でたタイプだったようだが、それでも技能拡張された覚者の能力を超えるものではないらしい。
先行部隊が鼻っ面にディスクをぶつけられてひるむその隙に、奏空は追撃を開始した。
「オン――!」
経文を唱えて滅相銃を回し、マニ車の力で祈りのエネルギーを増幅。空に向けて大量の術弾を放った。
空ではじけた弾がフレシェット弾となって怪鳥の群れへ浴びせられる。
一部が矢の雨を抜けてドローンへと突っ込んでくる。
奏空はその対応パターンを分析して、仲間に(送受心込みで)呼びかけた。
「巣の外側に展開してる個体はR1動物系、怪鳥タイプ! 飛行能力は持ってるけど近接攻撃に特化してるみたいだ。出来るだけ先手を打って射撃して!」
「先手……じゃあ、いつも通りだね、天?」
守護使役に呼びかけてから、空に手を翳した。
車のはるか上を覆うように暗雲がたちこめ、ばちばちと電流が流れていく。
科学的に、ないしは神秘的に周囲の怪鳥たちにマイナス因子が付着。ロックされた怪鳥へと電流が浴びせられていく。
「残りは私たちが!」
「フォーメーションに困るかと思ったけど、案外自然に固まるものだね」
鈴鳴と彩吹が跳躍、と同時に翼を展開して飛行を開始。車と並んで滑空すると、鈴鳴が旗を翳して回復弾幕を張り始めた。
両目をぱっちりと開いて、高速接近する怪鳥の数を確認。奏空をHUBにして資格情報を意識暗号化したものを伝達。
彩吹はそれを受け取って、自らの直感によるデータとあわせて多角計算。
目標を正確にロックすると、槍を横一文字に振り込んだ。
軌跡に散った火の粉がトカゲの形となり、次々に怪鳥たちへ飛びついていく。
燃えてはじけ、軌道をそらして車の横へと落ちていく。
ギリギリでかわしながら蛇行していく車。
そうはいっても殆ど自動運転なので、途中で捨てていくことになるだろう。
攻撃の余波を何度か浴びただけで走行不能になってしまう。
「せめて外周部分くらいは、この勢いで突破したいですからね……!」
結鹿が覚醒開始。涼しげな風が撫で、髪は蒼色に、服装は青いリボンとドレスに、手の中には氷の気を纏った剣が生まれた。
「まずは――!」
振り込む。
衝撃そのもので大気の水分が凍結し、無数に生まれた氷の刃が襲い来る怪鳥を迎撃。
更に跳躍し、空中で高速回転。
怪鳥を切り裂くと、驚異的なバランス感覚でもって車のシートへと着地した。
ふと、墜落していく怪鳥を見る。
地面に激突し、バウンドして消滅する妖のボディ。
後に残ったのは、傷ついて死んだスズメだった。
「町の鳥たちが妖化して、群れを作っている……普通じゃこんなこと、起こらないはずなのに」
『この先にあるもの』が、島に妖のコミュニティ複合体を……言い換えるなら社会を形成しようとしている。
この現象。捨て置くには余りある。
●純粋な敵意と殺意
妖のランク差は絶対的だ。
ランクが一つ上がるということは、戦闘力の上昇のみならず知能もまた上昇する……と、鈴鳴は考えていた。
飛行し、旗を振って空圧斬撃を迎撃する。
「ランク1の妖は昆虫のようなごく本能的な動きしかしません。しかしランクが2まで上がると大半の小動物のように複雑な判断力がつき、ランク3まで上がればイルカやチンパンジーといった高知能動物に匹敵する知性を見せます。ですから――」
ランクが上がるということは、それだけこちらの弱点をついてくるようになる。
戦力レベルを上げれば対抗できるものではないのだ。
「ここからが本番、のようなものですね!」
黒い怪鳥が建物を迂回し、車の背後に現われた。
この『黒い怪鳥』はランク1のアヤカシスズメたちとは決定的に違う戦闘力と知性を持っていた。
身を反転して仏葬式ガトリング射撃を加える奏空。
射撃をあびた妖がボディを消滅させ、カラスへと戻っていく。
「アヤカシガラス。強力な近接攻撃に加えて空圧を使った遠距離攻撃も使う厄介な相手だ。一番厄介なのはこっちを立体的に包囲して翻弄してくるところ!」
曲がり角から急に飛び出し、車に体当たりを仕掛けてくるアヤカシガラス。
車が大きく傾き、乗っていたメンバーが放り出された。
あえてシートベルトをしていなかったのがよかったらしい。すぐに路上に飛んで転がり、事なきを得た。
が、車はもう使い物にならない。
地面に足をつき、くちばしでついばむように攻撃してくるアヤカシガラス。
といっても子供がなんとなく想像するようなツンツンとしたついばみではない。
全身のパワーをつかって鋭く素早くかつ強引に相手の肉を食いちぎる動作である。
鳥のくちばしが鋭いのは、こうして相手を瞬間的に食い殺すためでもあるのだ。
「餌になってやるつもりはないんだ、ごめんね……っ!」
腕に食いつかれた彩吹は、エネルギーを体表に纏わせてもぎ取られるのをかろうじて防いだ。しかし相手の体格ゆえにおおきく振り回される。遠心力を使って無理矢理腕を食いちぎろうというのだ。
「こういうときはなんて言うんだったかな? そうだ――」
食いつかれた腕。口の中で、彩吹は手を広げた。
相手の口内に炎のトカゲを大量に放つ。
思わず口を開いたアヤカシガラス彩吹は素早い蹴りを連続で放ち、相手の首を千切って飛ばした。
「『これでもくらえ』、だ」
倒れるアヤカシガラス。
それを影にして急接近をかける別のアヤカシガラス。
動物が一般的に用いる連係攻撃だ。とはいえ、このタイプはそこらのランク2妖と比べても知能が高いように思える。恐らくは、戦術に特化した個体なのだろう。
ゆえに、こちらも硬い戦術で対抗せねばならない。
「想良! 迎撃して!」
声と共に送受心で直接的に呼びかけられた想良は、エネルギーを無差別に放射。
彼女を中心に放たれた大量のエネルギーが急接近してきたアヤカシガラスたちを一瞬だけ遅れさせる。
「とどめです、皐月さん!」
「せー、のぉっ!」
飛びかかり、ホッケースティックを相手の顔面に打ち付ける奈南。
がくんと頭の下がったところで、妖の背に結鹿が飛び乗った。
乗ったと言っても一瞬だ。相手を踏み台にして、再び跳躍。
その更に後ろに控えていた『第三の奇襲役』を狙ったのだ。
奏空や想良が守護使役スキルを使って状況を俯瞰していたことで、相手の平面的な奇襲を先読みしたのだ。
いくらアヤカシガラスの知能が高いといっても『対策の対策』まで立てられるほどではないというわけだ。
「氷穿牙!」
剣に宿った冷気が渦巻き、自らをも覆って巨大な氷の槍となる。
まるで槍の尾を次々に蒸発させて推進力とし、ロケットの如くアヤカシガラスを貫いた。さらにはその後続にまで槍をぶつけ、破裂させながら離脱。
空中をくるくると回転すると、なにげにアヤカシガラスを一人でたたきのめしていた奈南のそばへと着地した。
「沢山やられちゃったねぇ。元気になぁれ、だよぉ!」
奈南がどこからか取り出したポンポンを持ってぴょんぴょんと応援をした。
それだけで奈南や結鹿の傷が癒えていく。
応援されるだけで傷が癒えるなんてファンタジーな話だが、応援そのものが戦う力になることを、鈴鳴はよく知っていた。
「けど、これ以上の進行は諦めたほうがよさそうですね……」
車が大破したから、というわけではないのだが。
鈴鳴の全体回復や想良の大填気で一定以上のリソースを確保できるとはいえ、これ以上R2の連係攻撃をしのぎ続けるのは危険なのだ。
どこかでうっかり足を踏み外せば転がるように窮地に陥る。ましてR3のリーダー格が出てきたらすぐにでも壊滅してしまう危険があった。
「戦力調査という役割は充分に果たしました。ここは撤退しましょう」
「そうだね……」
いきはよくてもかえりはこわい。
戦闘不能者が半数に達した時点で帰るという手もあるが、負傷者をかばいつつ3人だけで全力疾走しながら逃げ切るというのはかなりキツそうなのだ。できるなら安全に帰った方がいい。
「わかった。じゃあ情報をまとめつつ撤退しよう!」
こうして、彼らは『怪鳥の巣』をあとにした。
次に挑むは巣のリーダー。
名を『ギガブレイド』。
「今回は、『怪鳥の巣』にいくよぉ! 怪鳥ちゃんをやっつけようねぇ」
地図に赤いマルをつけて、『ちみっこ』皐月 奈南(CL2001483)は輸送ヘリへと乗り込んだ。
「このヘリが近づけるのは島の沿岸地帯までです。まして『怪鳥の巣』は飛行タイプの妖が多く生息しているので、ヘリで近づくことはできません。それでもよろしいでしょうか」
ヘリのスタッフに言われて、奈南たちは頷いた。
「ナナン立ちに任せて。頑張っちゃうのだ!」
「逆に言えば、『怪鳥の巣』の攻略を完了することで島の中心地へ直接乗り込むことが可能になるのですね……」
飛べることのアドバンテージは、翼ある『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)でなくてもよくわかる。
地上の妖たちと戦いながら、全く消耗することなく中心地までたどり着くことはおそらく不可能だろう。
まだやっていないのでハッキリとは言えないが、その辺りは『出来たらとっくにやっている』的なハナシである。
「今は一つ一つを確実に攻略していくしかないですね。それがもどかしいですが……」
「一歩をちゃんと踏み出せれば、二歩目もきっと踏み出せます。がんばりましょう!」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)がガッツポーズをして見せた。
にっこりと笑って返す鈴鳴。
そんなやりとりを横目に、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は地図を見直した。
「まずは、安全なところで下ろしてください。そこからは、行けるところまで行ってみます」
六人のメンバーを乗せて飛び上がるヘリ。
座席に身体を納め、大辻・想良(CL2001476)はこの先のことを想った。
「ランク3の妖とそのコミュニティに守られる、ラスボス……ですか」
皆が島のあちこちで目撃している『赤子を抱えた母親らしき姿』。
まず間違いなく妖だろう。
「一体、なにが、あった……?」
「例のラスボスのこと? 妖に自分を守らせるなんて、頭のいい妖もいたものだね」
そこまで人間的な知能を持った妖は、(大妖を除いては)これまで牙王クラスの存在くらいしか例が無い。推定ランク4の妖ということだ。
「それにしても」
写真を指でなぞって、ぼやけた人影をみやる。
「妖の島でも作るつもりか……?」
●突入、『怪鳥の巣』
ドローンカーが走る。
オープンになった座席から身を乗り出し、滅相銃をアテンドからひっぱり出す奏空。双眼鏡をとり、レンズを覗き込む。
「距離はまだある。戦闘開始ポイントまであと――」
「八秒!」
奈南がボンネットに飛び乗り、ホッケースティックを取り出す。
双眼鏡を用いた奏空よりも、『鷹の目』で視力を直接強化した奈南のほうが目測が早かったのだ。
「妖ちゃんもこっちに気づいてるみたい。それじゃあみんな、いくよぉ!」
自らのエネルギーをディスク状に固めたものを宙に放り、スティックで殴りつける奈南。
拡散したエネルギーディスクが飛び、こちらに強襲をかけてくる怪鳥たちにぶつかった。
反応速度では奏空のほうがずっと上だったが、目測を正確に行なえた奈南が予備動作を先行入力することで実質的な先手をとったのだ。
どうやら怪鳥たちは視力と機動力に秀でたタイプだったようだが、それでも技能拡張された覚者の能力を超えるものではないらしい。
先行部隊が鼻っ面にディスクをぶつけられてひるむその隙に、奏空は追撃を開始した。
「オン――!」
経文を唱えて滅相銃を回し、マニ車の力で祈りのエネルギーを増幅。空に向けて大量の術弾を放った。
空ではじけた弾がフレシェット弾となって怪鳥の群れへ浴びせられる。
一部が矢の雨を抜けてドローンへと突っ込んでくる。
奏空はその対応パターンを分析して、仲間に(送受心込みで)呼びかけた。
「巣の外側に展開してる個体はR1動物系、怪鳥タイプ! 飛行能力は持ってるけど近接攻撃に特化してるみたいだ。出来るだけ先手を打って射撃して!」
「先手……じゃあ、いつも通りだね、天?」
守護使役に呼びかけてから、空に手を翳した。
車のはるか上を覆うように暗雲がたちこめ、ばちばちと電流が流れていく。
科学的に、ないしは神秘的に周囲の怪鳥たちにマイナス因子が付着。ロックされた怪鳥へと電流が浴びせられていく。
「残りは私たちが!」
「フォーメーションに困るかと思ったけど、案外自然に固まるものだね」
鈴鳴と彩吹が跳躍、と同時に翼を展開して飛行を開始。車と並んで滑空すると、鈴鳴が旗を翳して回復弾幕を張り始めた。
両目をぱっちりと開いて、高速接近する怪鳥の数を確認。奏空をHUBにして資格情報を意識暗号化したものを伝達。
彩吹はそれを受け取って、自らの直感によるデータとあわせて多角計算。
目標を正確にロックすると、槍を横一文字に振り込んだ。
軌跡に散った火の粉がトカゲの形となり、次々に怪鳥たちへ飛びついていく。
燃えてはじけ、軌道をそらして車の横へと落ちていく。
ギリギリでかわしながら蛇行していく車。
そうはいっても殆ど自動運転なので、途中で捨てていくことになるだろう。
攻撃の余波を何度か浴びただけで走行不能になってしまう。
「せめて外周部分くらいは、この勢いで突破したいですからね……!」
結鹿が覚醒開始。涼しげな風が撫で、髪は蒼色に、服装は青いリボンとドレスに、手の中には氷の気を纏った剣が生まれた。
「まずは――!」
振り込む。
衝撃そのもので大気の水分が凍結し、無数に生まれた氷の刃が襲い来る怪鳥を迎撃。
更に跳躍し、空中で高速回転。
怪鳥を切り裂くと、驚異的なバランス感覚でもって車のシートへと着地した。
ふと、墜落していく怪鳥を見る。
地面に激突し、バウンドして消滅する妖のボディ。
後に残ったのは、傷ついて死んだスズメだった。
「町の鳥たちが妖化して、群れを作っている……普通じゃこんなこと、起こらないはずなのに」
『この先にあるもの』が、島に妖のコミュニティ複合体を……言い換えるなら社会を形成しようとしている。
この現象。捨て置くには余りある。
●純粋な敵意と殺意
妖のランク差は絶対的だ。
ランクが一つ上がるということは、戦闘力の上昇のみならず知能もまた上昇する……と、鈴鳴は考えていた。
飛行し、旗を振って空圧斬撃を迎撃する。
「ランク1の妖は昆虫のようなごく本能的な動きしかしません。しかしランクが2まで上がると大半の小動物のように複雑な判断力がつき、ランク3まで上がればイルカやチンパンジーといった高知能動物に匹敵する知性を見せます。ですから――」
ランクが上がるということは、それだけこちらの弱点をついてくるようになる。
戦力レベルを上げれば対抗できるものではないのだ。
「ここからが本番、のようなものですね!」
黒い怪鳥が建物を迂回し、車の背後に現われた。
この『黒い怪鳥』はランク1のアヤカシスズメたちとは決定的に違う戦闘力と知性を持っていた。
身を反転して仏葬式ガトリング射撃を加える奏空。
射撃をあびた妖がボディを消滅させ、カラスへと戻っていく。
「アヤカシガラス。強力な近接攻撃に加えて空圧を使った遠距離攻撃も使う厄介な相手だ。一番厄介なのはこっちを立体的に包囲して翻弄してくるところ!」
曲がり角から急に飛び出し、車に体当たりを仕掛けてくるアヤカシガラス。
車が大きく傾き、乗っていたメンバーが放り出された。
あえてシートベルトをしていなかったのがよかったらしい。すぐに路上に飛んで転がり、事なきを得た。
が、車はもう使い物にならない。
地面に足をつき、くちばしでついばむように攻撃してくるアヤカシガラス。
といっても子供がなんとなく想像するようなツンツンとしたついばみではない。
全身のパワーをつかって鋭く素早くかつ強引に相手の肉を食いちぎる動作である。
鳥のくちばしが鋭いのは、こうして相手を瞬間的に食い殺すためでもあるのだ。
「餌になってやるつもりはないんだ、ごめんね……っ!」
腕に食いつかれた彩吹は、エネルギーを体表に纏わせてもぎ取られるのをかろうじて防いだ。しかし相手の体格ゆえにおおきく振り回される。遠心力を使って無理矢理腕を食いちぎろうというのだ。
「こういうときはなんて言うんだったかな? そうだ――」
食いつかれた腕。口の中で、彩吹は手を広げた。
相手の口内に炎のトカゲを大量に放つ。
思わず口を開いたアヤカシガラス彩吹は素早い蹴りを連続で放ち、相手の首を千切って飛ばした。
「『これでもくらえ』、だ」
倒れるアヤカシガラス。
それを影にして急接近をかける別のアヤカシガラス。
動物が一般的に用いる連係攻撃だ。とはいえ、このタイプはそこらのランク2妖と比べても知能が高いように思える。恐らくは、戦術に特化した個体なのだろう。
ゆえに、こちらも硬い戦術で対抗せねばならない。
「想良! 迎撃して!」
声と共に送受心で直接的に呼びかけられた想良は、エネルギーを無差別に放射。
彼女を中心に放たれた大量のエネルギーが急接近してきたアヤカシガラスたちを一瞬だけ遅れさせる。
「とどめです、皐月さん!」
「せー、のぉっ!」
飛びかかり、ホッケースティックを相手の顔面に打ち付ける奈南。
がくんと頭の下がったところで、妖の背に結鹿が飛び乗った。
乗ったと言っても一瞬だ。相手を踏み台にして、再び跳躍。
その更に後ろに控えていた『第三の奇襲役』を狙ったのだ。
奏空や想良が守護使役スキルを使って状況を俯瞰していたことで、相手の平面的な奇襲を先読みしたのだ。
いくらアヤカシガラスの知能が高いといっても『対策の対策』まで立てられるほどではないというわけだ。
「氷穿牙!」
剣に宿った冷気が渦巻き、自らをも覆って巨大な氷の槍となる。
まるで槍の尾を次々に蒸発させて推進力とし、ロケットの如くアヤカシガラスを貫いた。さらにはその後続にまで槍をぶつけ、破裂させながら離脱。
空中をくるくると回転すると、なにげにアヤカシガラスを一人でたたきのめしていた奈南のそばへと着地した。
「沢山やられちゃったねぇ。元気になぁれ、だよぉ!」
奈南がどこからか取り出したポンポンを持ってぴょんぴょんと応援をした。
それだけで奈南や結鹿の傷が癒えていく。
応援されるだけで傷が癒えるなんてファンタジーな話だが、応援そのものが戦う力になることを、鈴鳴はよく知っていた。
「けど、これ以上の進行は諦めたほうがよさそうですね……」
車が大破したから、というわけではないのだが。
鈴鳴の全体回復や想良の大填気で一定以上のリソースを確保できるとはいえ、これ以上R2の連係攻撃をしのぎ続けるのは危険なのだ。
どこかでうっかり足を踏み外せば転がるように窮地に陥る。ましてR3のリーダー格が出てきたらすぐにでも壊滅してしまう危険があった。
「戦力調査という役割は充分に果たしました。ここは撤退しましょう」
「そうだね……」
いきはよくてもかえりはこわい。
戦闘不能者が半数に達した時点で帰るという手もあるが、負傷者をかばいつつ3人だけで全力疾走しながら逃げ切るというのはかなりキツそうなのだ。できるなら安全に帰った方がいい。
「わかった。じゃあ情報をまとめつつ撤退しよう!」
こうして、彼らは『怪鳥の巣』をあとにした。
次に挑むは巣のリーダー。
名を『ギガブレイド』。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
