<五華>健康ランドをプロデュース!
<五華>健康ランドをプロデュース!


●いっそ自力で稼ぐ手段を獲得してみようじゃあないか
「皆さん、話は聞きました! 私の出番ではありませんか!?」
 誰が呼んだでもなくファイヴに現われたふくよかな男。名をシキムラ キヨ。
 寿司屋チェーンを中心に世界で活動する大企業連合ムラキヨグループの会長である。
 ファイヴからすれば、『五華チェーン』のオーナーと言った方がなじみ深いだろうか。
「ああいえ、聞いたと言っても断片的といいますか、我々経済界の人間にとってもファイヴの皆さんは注目の的でして……複雑な話は抜きにして、本題から入りましょう」
 汗を拭いて、彼はこほんと咳払いをした。

「皆さん、健康ランドをプロデュースしませんか!」

●モールに続く複合商業施設
 妖被害による社会不安を抜本的に解決する計画、『五華計画』。
 壊滅した地域に人が戻ってくるように覚者の巡回所兼カフェを経営する五華カフェ。
 周辺店舗をまとめて収容した上で急場のシェルターとしても機能できる五華モール。
 それらは日本国内に着々と広がり、治安の回復を見せている。
 いかにマスコミが日本の平和な姿を報道したところで妖がその辺の道ばたから生えてくるのは事実なので、それらをいつでも迎撃できる環境や、いざとなれば逃げ込める場所が近くにあるというのは平和な町作りには欠かせないのだ。
「勿論、そのカフェやモールで得られた利益は『ファイヴ基金』にあて、皆さんの正義活動や復興支援金へと利用されています。皆さんの運営資金は、なにもどこからかのスポンサードマネーだけではないのです」
 ムラキヨは今のファイヴがおかれている資金問題について知っているわけではないのだろうが、なんとなく動きから何かを察してはいるようだ。
「グッドタイミングと言ってはなんですが、五華プランをもう一段階進めるつもりでおりました。それが、健康ランドの建設なのです」

 健康ランド。
 いわゆる巨大な公衆浴場で、温泉やベッドルーム、映画館やカラオケといった寝泊まり出来る複合娯楽施設だ。
 大体は20世紀のうちに時代遅れの施設となったが、一部は大きなネットカフェや漫画喫茶のような時代にあわせた進化を遂げている。
「今回事業拡大の第一歩として建設する『五華ランド』は、五華モールにあった避難シェルターの発展型。強固な外装の自前でライフラインを確保できる設備によって、年単位での難民収容が可能になります!
 勿論、施設そのものが巨大なホテルのようなものですから、避難民を快適に過ごさせることも可能です!
 その上で、ひとつの健康ランドとして充分に戦っていけるよう、ある意味日本の最先端にあたるファイブの皆さんにプロデュースしていただきたい!
 と、そういうわけなのです!」

 妖は倒さない。隔者問題も関係ない。
 ただ人々の幸せな生活を守るべく、健康ランドを作るのだ!


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.健康ランドをプロデュース
2.なし
3.なし
 こちらは、皆さんがファイヴの代表となって新しく建設する健康ランドをプロデュースするシナリオです。
 ここで完成した施設は実際に稼働します。具体的にはリプレイ公開からすぐにオープン記念のイベントシナリオが作成されます。

●プロデュースってなあに
 急にPになれと言われても困ると思うので、ざっくりと概要を補足していきます。
 施設の最低条件は『大きなお風呂』と『ぐっすり眠れる場所』がある所です。
 それ以外にはいくらでも変えることができます。一応そのへんの人が利用できるコストに押さえる必要はありますが、そういう細かい部分はプロに任せて大丈夫でしょう。(更に言えば建材の選択やレストランで出てくる料理や材料に至るすっげー細かい部分も、その道のプロがちゃんと考えます)
 プロデューサーの仕事はコンセプトやテーマを決めることにあると思ってください。
 『来た人がこんな風になれる場所にしよう!』だとか『有事の際にこうなれたらいい』といったざっくりしたイメージを語るだけでも結構です。
 シナリオが定員6人全員埋まらないことを想定して、特に担当を分けたプレイングは想定していません。最悪三人くらいで相談もなくざっくりとしたイメージをぶっつけで持ち合ってもちゃんと機能するようになっていますので、ご安心ください。
 余裕があったら相談したり担当をわけたりしてください。

●ムラキヨってだあれ
 ファイヴの経済面での強い味方。
 大きな企業グループの会長で、『お金の力で世界平和』がキャッチフレーズ。
 実績としてソマリア海賊を更正させたり小国に最先端の農業や漁業を伝えたりしました。
 日本国内では、人々から妖の不安を取り除く運動に力を入れています。

●ファイヴ基金とは?
 ムラキヨが始めたファイヴを補助するための基金とその運用機関です。
 一定額まで貯まった段階でファイヴへ譲渡され、人々を救ったりそのための研究資金として利用されます。
 いわゆる『良い意味での金儲け』です。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/8
公開日
2017年07月10日

■メイン参加者 4人■

『天使の卵』
栗落花 渚(CL2001360)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)
『マジシャンガール』
茨田・凜(CL2000438)
『影を断つ刃』
御影・きせき(CL2001110)

●健康ランドの存在意義
 くるん、ぱしん。
 くるん、ぱしん。
 赤いボールペンを指の上で回しながら、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は図面とイラストを眺めていた。
 白い四人がけのテーブルにパイプ椅子。アジアン雑貨のようなついたてで仕切られたスペースで、渚はボールペンのキャップ部分をぷにっと下唇に押し当てた。
「思った通り」
 視線を上げると、お堅そうな女性が一人。
 ビジネススーツに眼鏡をかければ誰でもお堅そうに見えるものだが、それを差し引いて、最悪ジャージに裸眼でいたとしてもお堅そうな女性がいた。
 交換した名刺によれば、ムラキヨグループのアミューズメント事業部に所属するデザイナーであるらしい。
「思った通りのデザインだと思うよ。思いついたことを言っただけなのにすごいなっていうか……本当にこの通りに作れるの? 理想がイラスト化されてるんじゃなくて?」
 渚が指し示したのは、水着の家族連れが流れる温水プールで遊んだり、冷たいプールに飛び込み台から飛んだりといった光景だった。
 内装はどこか王宮のような清潔さと煌びやかさがあって、他にもミストサウナや砂風呂といった温泉施設によくあるコーナーや、足湯ゾーンといったものまで細かく分かれている。
 俯瞰した図面では施設内を順路通りにぐるっと一回りすることで一通りの施設が目に付くようになっていて、その気になればフルコースで楽しむことが出来るだろう。
 そしてこの構造は非順路を隔壁で閉鎖することで侵入路を限定しつつ武力的な侵入がしづらい作りでもあり、制御室から各所のシャッターを下ろすことでこれ自体が防衛施設として機能する。
 防衛そのものをしなかったとしても、たとえば地震や津波といった自然災害で住居を追われた人々を数ヶ月にわたって退屈な思いをさせることなく滞在させる能力も備えていた。併設された五華ホテルとの合わせ技で単純に避難民の仮住居にすることもできる。
「けど……なんでお風呂なの? 健康ランドって、今時地味じゃない?」
 温泉をありがたがっていたバブル時代ではないのだ。昨今健康ランドの価値は激減し、あちこちで閉鎖が相次いでいるという。当の温泉旅館でさえ格安チェーンに買収されて改変されていく始末だ。
 そんな時期に、いきなり健康ランドで新事業というのも、なかなかリスキーに思えた。
「はい。ですからオープン時には『アミューズメントパーク、五華ランド』として宣伝します。総合娯楽施設ですね。それは、健康ランドが健康ランドで会ったことから変わらないことなのですが……」
 眼鏡を指で押して、デザイナーは続ける。
「この施設の建設は、利益を出すことよりも近隣住民に安心感を持たせることを主な目的としています。妖災害がいついかなる立地でも起こりうる現代、魅力的な避難場所が存在することは『文明の川』を意味します」
 古代三大文明は川沿いに生まれた。つまり、住みよい場所が栄え、ひいては経済的にも優位に立てるという意味である。
「正直に申し上げて、国の立ち上げた妖対策はずさんそのものです。ファイヴの皆さんを宣伝し『戦う人がどこかにいるので安心です』と言い張るのは安全保証になりませんし、国民は萎縮して娯楽に対する慎重な感情を抱いてしまいます。それらを解消することもまた、ムラキヨ会長の目的なのです」
「えっと……うん。途中から難しい話だったけど、大体は分かったよ。要するに、皆が安心して楽しめる場所を作ってくれるってことだよね」
「いかにも」
 ならばよし、と渚は書類に判子を押した。

●カフェのいぶき
「最初はカフェの構想だったのに、五華も大きくなりましたね」
 安全ヘルメットを被って建物内を歩く『世界樹の癒し』天野 澄香(CL2000194)。
 既にガワは整い、内装を運び込んでの飾り付けに入っている段階である。
 現場責任者がそばについて、澄香の質問に答えていた。
「五華は、いつか平和な日常を取り戻す希望を象徴した名前と聞いてます。それに、ただ待つんじゃなく自ら希望を作り出そうとする努力の象徴だとも。僕らも、人々の希望を作っているんだと思うとやり甲斐がありますよ」
 責任者は澄香と同年代の男だった。ムラキヨグループは才能直感主義というか、『こいつデキるんじゃないかな?』と思ったら仕事をポンと任せてしまうという社風があるそうで、ファイヴにプロデュースを任せたのもある意味そういう社風ゆえであった。
 現場仕様のタブレットPCを手に、澄香は立ち止まった。
「ここがレストランスペースになる予定の場所ですね」
 作業中の風景に、タブレットPCに表示されたイメージ画像を重ねるように翳してみる。
 澄香が提案したのは健康的なレストランである。
 いわゆる一汁三菜。栄養バランスのとれた、それでいて美味しい食事を実際に提供するレストランである。
 その中には澄香的にも手応えを感じていた豆腐料理のレシピも多く取り入れられている。
「ご存じでしたか? 五華カフェの系列にあたる高級志向のレストランで、豆腐専門の料理店ができているのを。澄香さんの豆腐フルコースというのがまさに、その店の人気メニューなんですよ」
 実際にサンプルの写真を見てみたが、こがまたびっくりするほど豪華だった。
 豆腐焼売、豆腐サラダ、生麩田楽、湯葉揚げ、湯葉吸物……と、ぎっしり豆腐が詰まっている。要所要所に肉魚野菜を混ぜるのはプロゆえである。
 変な豆知識だが、やせたい時は炭水化物を減らして食物繊維と乳酸菌をとるとよい。米減らして肉を食えという話である。更に言うと納豆や豆腐は乳酸菌と相性が良いので云々かんぬん。細かい栄養学の話は省くことにする。
 とにかく、澄香が考えた『豆腐を出せばヘルシーでは!?』に立派な根拠と技術を加えたレストランができあがったワケである。
「ところでこれは提案なんですけど、定期的に講習会を開けませんか。妖の種類や、避難訓練や、連絡すべき場所といったもの教えることができたらと思うんですが……」
「娯楽施設に勉強要素を加えると喧嘩しますからね。ですが、お年寄りは危機管理に敏感ですので、時折講習ビデオを流し続けることで、皆さんの常識感覚の中にスッと溶け込ませることはできるでしょう。というよりむしろ、それこそが狙いでは?」
「ビデオですか……それは、考えてもみなかったですね」
 常識にするということは、明文化するという前段階を挟むものである。
「この調子で、みんなが安心できる場所になればいいですね」

●日曜日のレジャースポット
 ガラス張りの会議室。
 都内の高層ビル内に存在するその部屋に、『マジシャンガール』茨田・凜(CL2000438)はちょこんと座っていた。
 本来なら二十人ほど座るような大きな会議テーブルには、凛と二人の男だけ。
 ひとりはムラキヨとか呼ばれてる当グループの会長であり、もう一人は現場監督である。
 すげー余談だがこの手の大型建築には現場監督が複数いて、それを統括する総監督みたいな人がいるパターンが多い。
 凛が今対面しているのは、凛がプロデュースするキッズルームと足湯カフェの担当者だ。
「まさか凛がプロデューサーになる日がくるとは思わなかったんよ。ほんとにいいの? そういう経験ないし、普通の一般人なんだけど……」
 凛のいう一般人というのは覚者云々のハナシでなく、芸能人とか一級建築士とかそーゆーやつじゃないという意味である。
「とんでもありません。そもそもご来場くださるのは普通の家族連れなので、僕のような独身男には想像も付かない感性が必要なんですよ。たしか茨田さんはお子さんがいらっしゃるとか」
「娘がひとりね。オープンしたらきっと遊びに行くことにするんよ」
「ぜひ、むしろ一番にご招待しますよ」
 そう話しながら見せたのはキッズルームのイメージイラストである。
 学生の集団や、小さな子供がいる夫婦が楽しげに過ごしている風景だ。
「まずご提案いただいたキッズルームなんですが、『親子で添い寝ができるベッドルーム』……いいですね。全く発想にありませんでした」
 防水クッションによるセミダブルベッドが並び、ついたてと吸音材による静かでやや薄暗い部屋があった。漫画喫茶のツインルームを静かにしたような場所と言ってよいだろうか。
「一時的なご来場でも、小さなお子様を寝かしつけるスペースは欲しいところでしょう。それが長期的な避難場所となれば尚のこと、こういった場所は必要になったはずです。これ自体仮眠室としても機能しますが、貸し毛布コーナーや紙おむつ等の販売機を設置するのはいかがでしょう」
「うんうん。ちっちゃい子は眠くなるとぐずってくるんよ。けどお出かけしてるとどうしようもなくて……」
 次に出てきたのは足湯カフェだ。
 足湯につかりながらカフェとして楽しむというもので、五華カフェのバージョンアップ版ともいえた。
「猫カフェも考えたんだけど、プロデューサー的には違うかなって」
「健康ランドに設置されたカフェ、ではなくいっそカフェ単体を外に露出してみました。足湯カフェのみでもお楽しみ頂けますし、なによりカフェ単体としての過ごしやすさや見た目の美しさを重視しました」
「いいと思うんよ。どうにもおいーちゃんおばーちゃんの行く場所ってイメージあるけど、それ専用に作った足湯カフェなら若い子に人気出ると思うんよ」
「実際、足湯自体も温泉施設がある以上さしてコストのかかるものじゃありません。本来席料を時間いくらでとるところを、タダ同然で提供できます。斬新なうえに、なかなか盲点でしたね。それにこのスクリーン……」
 キッズルームと温泉エリアには、子供が退屈しないようにと巨大スクリーンでなにかしらの映像を流しておくという工夫がされていた。デザイン的にも、子供たちがスクリーンを囲むさま自体が絵になるように設計されている。
 子供に、というより子供をもつ母親に向けた設計なのだ。
「こういうところなら、子供を連れてきても楽しめそうなんよ」

●子供はいつでも遊びたい
 さて、母親視点を語ったところで今度は子供視点である。
「健康ランドって、お風呂がいっぱいあるところだよね。けどなんか地味っていうか……パパとママはのんびりできるけど、僕は退屈だったんだ」
 『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)はそんな風に語っていた。
 年代によってはよくある経験だが、健康ランドにいって家族が温泉やマッサージ機でくつろいでいる最中、マジでやることなくって垂れ流しになった古い映画をぼーっと見ていたなんてことがある。
 そもそも健康ランドがバブル期の庶民に向けているので、子供をターゲットに入れていないのだ。ひどいとこだとファミコンとブラウン管テレビがドンと置いてあってそれで終わりだったりする。2017年の実話である。
「だから、子供が楽しいアミューズメントを考えるよ!」

 きせきのイメージがデザイン画となって現われた。
 ゲームセンターそのもの、というより大手ゲーム会社が手がけるシリーズの舞台をイメージした、ちょっとしたテーマパークである。
 コーナーの運営はSエンタープライゼスがショッピングモールに入ったコーナー店舗と同等に手がけ、ガチのゲームセンターそのものが入っている。
 18歳以下もしくはライト層をターゲットにしているため、レトロなビデオゲームやマニアックな筐体は避け、それこそショッピングモールによくある感じを目指していた。
「すごい! ここだけで一日遊べるよ! けどそこまで遊べるお小遣いがないよね……」
 デザイナーが身を乗り出して語る。
「そこはお任せください。ムラキヨグループはいわゆる総合娯楽施設をいくつか運営していまして」
 具体名は出さないが、ボーリングやらダーツやらをやり放題で時間いくらみたいな若者向け施設がこの世には沢山あるわけだが、その中の一部にコイン無制限のゲームセンターが入っていたりする。このコーナーのシステムを持ってきたものだ。
 特に型落ちした体感型筐体が多く集まり、ゾンビの群れにリアル銃を撃ちまくったりハンドルきってレースしたりといった筐体が集まっている。
 これはゲーム会社が中古扱いになった筐体をそのまんま持ってきて運営するというわりかしお得なサービスで、細かい金の話は省くがゲーム会社的にも健康ランド的にもウィンウィンのビジネスモデルなのだ。
「あっ、僕の言ったゲームも入れてくれてる!」
「プロデューサーリスペクトだそうです。ゲーム会社の営業マンは、今度ゲームのモデルにしたいとも言っていましたよ」
 さらっと重大そうなことを流しつつ。
「このエリアを機械類の置き場として扱うというお話でしたが、それに関しては倉庫のライン整理を行なう方が効率的でしたので置いておくとして……ゲームの舞台をイメージした内装に紛れさせるように、子供たちの様子を観察できる見守りカメラを設置しています」
 これは大人が休憩するエリアにも映し出されるので、離れたところから観察することができるという仕組みである。
 まあ子供をもつ親は大抵近くに居たいものなので(なんかあったとき手を出せるので)、大人が休んでいられるスペースもちゃんと用意している。
「これなら楽しく遊べるよね! 何日もいても退屈しないかも!」

 こうして、五華プロジェクトの最新型である『五華ランド』は完成し、オープンの時を迎えようとしていた。
 その話は、また今度。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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