蒸気ロボット起動。或いは、同志達のスチームパンク。
蒸気ロボット起動。或いは、同志達のスチームパンク。


●同志達のスチームパンク
 トラックの荷台。ブルーシートを被せられた巨大な鉄の塊の行く先は、町はずれの廃棄場。
 大きさ3メートル。丸みを帯びたボディーの形に、短い脚部。平たい脚の裏はキャタピラ構造。脚に比べると、長い腕の先には、洒落のつもりか、おもちゃのガトリング銃が装備されていた。胴体と一体化している頭部には、前面に6つ、左右に1つずつのカメラが付いていた。
 腰の位置から、後頭部へと伸びた数本の排気ダクト。
 鉄塊の正体は、蒸気機関で動く、前時代のSF小説に出てくるような武骨なロボットだ。
 製作したのは、ある大学のロボット研究会である。しかし、同好会の廃部によって、ついにゴミとして捨てられることになった。
 長い年月をかけ、歴代の部員が心血を注いで製作したロボットだが、ついに完成することはなかったのである。
 住宅街を抜け、工場地帯へと差し掛かった頃、トラックの運転手は異変に気付く。
 トラックの荷台で、何かが動く気配がしたのだ。
 荷物の固定が外れたたのか、とトラックを停車させようとしたその時。
 ズシン、とトラックが揺れてエンジンが止まった。
「な、なんだ!? エンストか?」
 ドアを開け、運転手が外に出る。
 そこに居たのは、夕日を背にして立ちあがる、蒸気ロボットの姿であった。
 ダクトから大量の蒸気を噴き出しながら、ロボットはトラックの荷台から飛び降りた。荷台の一部が大きくへしゃげている。その時の衝撃で、エンジンが止まってしまったらしい。
「う、動くなんて聞いてねぇぞ」
 停止させる方法も、もちろん知らない。ロボットが、運転手の姿を捉える。右の腕を持ち上げて、ガトリングの銃口を運転手へと突きつける。
「う、うぉぉぉ!」
 脳内でアラートが鳴り響く。胸の内から湧き上がるような危機感に突き動かされ、男はトラックを捨てて、一目散に逃げ出した。
 工場の影へと逃げこんだ時、背後で轟音が鳴り響く。
 工場の壁面や、道路にガトリングの弾が撃ち込まれ、コンクリートが砕けた音だ。
 何が起こったのか理解できないまま、運転手はただ、その場を離れることだけを考え、走り続けた。

●蒸気ロボット起動
 蒸気を噴き上げ、ロボットが歩む。コンクリートが削れ、破片を撒き散らしながら、その進路は町の方角へ。
 市街地まで、およそ1キロ。ロボットの速度ならものの数分で走破できる距離だ。
「はいはーい! 作戦会議を始めるよ。司会進行は万里ちゃんでーっす!」
 資料を見ながら、久方 万里(nCL2000005)が事件の概要を話し始める。
 蒸気ロボットは、物質系の妖だ。目的地は不明だが、銃火器を装備している相手を市街地にまで進行させるわけにはいかない。
「F.i.V.E.の存在がバレない為、っていうのもあるけど、危ないからねっ♪ 武器はガトリングだけみたいだけど、弾丸数は無限。実弾じゃなくて、エネルギー弾だね。幸いにも場所は工場地帯。隠れる場所は多いかな?」
 更に、相手は鋼鉄製だ。ただでさえ頑丈な物質系の妖である。その強度と重量を真正面から受け止めれば、無傷とはいかないだろう。正面衝突でもしようものなら(ノックバック)されることもあるだろう。
「弾丸には(弱体)と(痺れ)の効果付きだから、要注意だね」
 また、全部で8つあるカメラのおかげで視野も広いようだ。
「最初は単調な行動しかできないみたい。でも、戦闘が続けば続くほどに学習して、行動パターンが増えるよ」
 本来ならば、動くはずのなかったロボットだ。
 それが、何の因果か妖と化して起動した。
 製作者達がそれを見れば、歓喜したかもしれないが、このまま放置しておくわけにはいかない。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:病み月
■成功条件
1.ターゲットの撃破
2.なし
3.なし
こんばんは。あるいは、こんにちは。
今回は、妖と化したロボットが相手です。
頑丈な相手です。火力と、作戦で討伐をお願いします。
それでは以下詳細。

●場所
工場地帯のメインストリート。
道幅は広いが、道の左右には工場や倉庫が立ち並んでいるので隠れ場所は多いです。
1キロほどの距離を、ロボットは町へ向かって進行して行きます。
休日なのか、人気は少ないですが0ではありません。人避けや、万が一ロボットに見つかった人が居た場合の避難誘導なども必要になるかもしれません。
時刻は夕方。道路で戦う分には視界や足場に問題はありません。

●ターゲット
物質系(妖)・蒸気ロボット×1
ランク2
大きさ3メートルほどの鉄の塊。
脚は短く、キャタピラ駆動。丸っこいフォルムの胴体には8つのカメラと数本の排気ダクト。
ダクトからは、定期的に蒸気を噴出している。
走行中に正面からぶつかると(ノックバック)されることになる。
非常に頑丈であるが、初期の行動パターンは進行と、射撃のみの単調なもの。
戦闘中に学習し、行動パターンが増える。

【威嚇射撃】→特遠列[痺れ][弱体]
両腕のガトリングから、エネルギー弾をばら撒く攻撃。
【制圧射撃】→特遠単貫2[痺れ][弱体][二連]
両腕のガトリングを、一点集中で撃ち出す攻撃。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2015年10月04日

■メイン参加者 8人■


●激走スチームパンク
 ガリガリと地面を削るキャタピラー。両腕にはガトリング銃。複数のカメラで正面と左右の様子を確認しながら、背面のダクトから時折蒸気を噴き上げる。
 それはロボット。
 長い期間をかけて作成された、スチームパンク。廃棄されるその直前に、妖として目覚めたロボット。
「蒸気ロボは男のロマンだ 俺もガキの頃夢中んなったぜ。まずアイツを止めねーとな」
 倉庫の屋根からロボットを見降ろし、『ゴシップ記者』風祭・誘輔(CL2001092)は肩の位置にグレネードランチャーを掲げた。
 ガチャン、と一発トリガーを引けば放物線を描いて榴弾が射出される。
 ロボットの頭上を飛び越すようにして、地面に着弾。爆発すると共に、火炎と衝撃を撒き散らす。
 急停止するロボットの眼前に、粉塵を破って跳び出す影が1つ。
「暴走ロボとスピード対決、いいねいいねぇ、燃えるシチュエーションだね……分かってるよ、足止めして倒すんでしょ、じょーくじょーくよ」
 片手に槍を、もう片手には小さな盾を構える『だく足の雷鳥』風祭・雷鳥(CL2000909)は、ロボットのキャタピラへ片足を乗せると同時に駆け寄った勢いを乗せた突きを放つ。
 狙いは、腕の付け根。ロボットの関節部分である。
 槍の先端が命中するその直前、ロボットは急後退しその勢いで雷鳥を振り落とした。
「ちっ! 一旦下がるかね」
 蹄でキャタピラを蹴り飛ばし、雷鳥がロボットから離れる。ロボットの腕が前へ伸び、ガトリングの銃口が雷鳥へと向いた。
 キュルキュルと音をたて、銃身が回転を始めたその瞬間、鈴白 秋人(CL2000565)がロボットの側面へと駆け寄って来た。ロボットの側面に付いたカメラへとグレネードランチャーの銃口を突きつける。
「目指すは短期決戦。街に近づけないようにしないとね」
「ぼくゲームでこういうのやったことあるよ! その時は裏ワザ使ってやっとクリアしたんだよー。でも現実にはコンティニューも残機アップの裏ワザもないもんね、一発勝負だー!」
 さらに、反対側には『鬼籍あるいは奇跡』御影・きせき(CL2001110)の姿がある。前と左右に合計3人のターゲット。それに対し、ガトリングは2つ。
 秋人ときせきが、銃の引き金を引くのと同時に、ロボットは左右へと両腕を広げ無数の弾丸を撃ち出した。狙いはめちゃくちゃだが、牽制にはなった。
 その隙に、ロボットは急発進し正面に居た雷鳥の身体を体当たりで弾き飛ばす。
 砕けた道路など、キャタピラーであっさり走破しそのまま全身。地面を転がる雷鳥も、背後から銃を向ける秋人ときせきも無視し、そのまま一気に3人の射程外へと走り抜けた。
「その先、路面が崩れやすくなっています。ロボットさん……すいませんが、止めさせて頂きますね」
 土の心のスキルで、地形を把握していた賀茂 たまき(CL2000994)が周囲に潜伏していた仲間へ向け指示を出す。
 それに従って、残る仲間達は一斉に行動を開始した。

●蒸気と機械
「蒸気ロボは男のロマン……弟がそう言ってました。ムギは女なのでその辺いまいち理解できねーですが、土産話にしたげたいです。あ! カメラ忘れたです!むぐぐ、弟よ許すです」
 その為にはまず、動きを止めないことにはじっくり観察も出来ない。『鉄仮面の乙女』風織 紡(CL2000764)はバズーカを肩に担ぎあげ、無造作にトリガーを引いた。
 空気が震えるような轟音。撃ち出されるロケット弾。空気を切り裂き、甲高い音を鳴らし、ロボットのボディに見事着弾。爆裂。飛び散る鉄片と、火炎。火薬と粉塵の鼻を突く臭い。
 急停止したロボットのボディが、大きくへこんでいた。本来ならその一撃で木端微塵だろうが、妖として覚醒したことで強度が上がっているのだろう。
「あ、しまったです。大きな音、たてちゃった」
 人が来るかもしれない。肩に担いだバズーカと、蒸気を噴き出すロボットをそれぞれ一瞥。紡は困った顔をする。
「結界はお任せをっ」
 ロボットの死角。ビルの影から顔と腕だけだした姿勢で離宮院・太郎丸(CL2000131)が叫ぶ。
 直後、目には見えない、しかし確かに存在する無意識に働きかける壁のようなものが周囲を覆い包むのを感じた。
 太郎丸の展開した結界の効果で、一般人が近寄り難い空間が出来上がる。
「装甲の厚い敵に真正面から当たるつもりはない。排気ダクトと、それから足場だな」
 サングラスが、太陽の光を反射する。赤坂・仁(CL2000426)はビルの上からロボットの背面目がけてロケット弾を撃ち出した。
 ロボットの背面にカメラは搭載されていない。
 背後からの一撃を受け、ロボットの身体は大きく前へと傾く。排気ダクトが1本へし折れ、地面に転がる。ロボットは体勢を立て直すと同時に急旋回。両腕を横に広げ弾丸を乱射する。
 弾丸を回避するために、紡は後退。避けきれず、数発ほどの弾丸をその身に浴びてしまう。
声にならない悲鳴をあげて、太郎丸はビルの影へと顔を引っ込めた。
 屋根の上で身を隠す場所の無かった仁の姿をロボットのカメラが捉える。
 仁がバズーカを盾にするべく、体の前へと掲げ上げる。迷彩のスキルで姿を隠すのは間に合わなかったので。
 ロボットの放った弾丸が、仁の身体に降り注ぐ。集中砲火。衝撃を殺しきることはできず、仁の身体は屋根の上から転がり落ちる。
 麻痺の状態異常のせいか、仁は受け身もとれずに植え込みの中へと落下した。

「お前ら生きてるか?」
 カメラを片手に誘輔が言う。
 パシャッ、と小気味の良いシャッター音。暴れるロボットと、粉々に砕けた路面。地面に伏した仲間達。写真に納め「三面記事のネタになっかな?」と小さく呟く。
 それから、ロボットの弾き飛ばされた雷鳥を助け起こして溜め息を零す。
「幸い遮蔽物が多い 工場や倉庫の扉や柱、ドラム缶を上手く利用するんだ。それから、攻撃のタイミングをランダムにずらしておく。そうすりゃちょっとは時間稼ぎになるだろ?」
「わたしは関節を狙って攻撃するよ。メーカー製ならともかく、アマチュアの手作りなら、関節の強度はドンなもんかなぁ?」
 地面に転がっていた槍を拾い上げ、ロボット目がけて駆け出す雷鳥を見やり、秋人ときせきは顔を見合わせた。ビルの位置を確認し、きせきは機関銃を構え直す。
「まずは側面カメラ潰し!」
「少しでも敵の視界を削れたらその分、此方が有利になりますからね。俺が先行します」
 秋人は、韋駄天足のスキルで強化された脚力を発揮し、雷鳥を追って走りだした。
 遠ざかる3人の背中を一瞥し、誘輔は再び屋根の上へと戻っていった。

「ロックオンされちまったみたいです。でも、あたしの速さについてこれるか、です!」
 弾幕を回避し、時にはバズーカでガード。防ぎきれずに、傷を負い、飛び散る鮮血で金の髪を赤く濡らしながら紡は駆ける。彼女がビルの影へ跳び込めば、ロボットもそれを追ってくる。砕けた壁が飛び散る中を逃げ回る。
 排気ダクトが1本折れたせいだろうか。ロボットの動きは少しぎこちないように感じる。
 特に、移動速度を上げた瞬間など、蒸気を排気しきれずにブスンブスンとその巨体が揺れている。
「排気ダクトを全破壊後はキャタピラだな。敵の機動力を奪う」
 排気ダクトの破壊は有効だと判断した仁は、バズーカを肩に担ぎ植え込みの中から道路へと出て行く。
「痺れはとれましたかっ?」
 仁の背後には、ビルの影を移動して来た太郎丸の姿がある。演舞・舞衣のスキルを使って、麻痺していた仁の治療を行うために、移動して来たのだ。
「紡さんの向かったビルの辺り、少し地盤が緩いみたいですね。ビルも崩れやすくなっているかもですし、地面からの奇襲攻撃で足止めできないでしょうか」
 地面を削って進むキャタピラの構造上、地盤が緩い場所では足回りが土の中へ沈み込むことがある。
 ついでに、ビルの壁が倒壊でもしてビルの下敷きにでもなれば、ロボットの動きを止めらるかもしれない。
 ロボットと紡が交戦しているのだろう。姿は見えなくとも爆音は聞こえる。それを頼りに、たまきはロボットの進路を割り出し、先回りすべく駆け出した。

 ビルの裏口をバズーカで叩き壊し、紡は建物の中へと跳び込んだ。
 紡を見失ったロボットは、ターゲットを探してビルの裏口を暫く旋回。諦めたのか、再び道路へ向かって進路を変えた。
 始めこそまっすぐ走るだけだったロボットだが、今では建物の影や死角を警戒することを学習したようで、時折背後や頭上、ビルの影へとカメラを向けている。
 ロボットが、道路へ出る直前。
「足止めしますから、その後はよろしくお願いします」
 ビルの影から跳び出したたまきが、ロボットの眼前に躍り出る。滑り込むように、銃口の射線下へと身体を割りこませ、地面に手の平を押しつけた。
 ロボットが速度を上げて、たまきへ迫る。そのままキャタピラで踏みつぶすつもりだろうか。
 その瞬間、地面から突き出した土の槍がロボットのキャタピラを押し上げる。
だが、足りない。
ロボットの重量に対し、たまき1人の隆槍では力不足。
「苦戦してるな。速戦即決といこうぜ。戦闘は長引くほど不利になる」
 ビルの屋根から飛び降りてきた誘輔が、たまきと同じく地面へ手を突き、土の槍を放つ。
 真下から放たれた、土槍の2連撃。バランスを崩したロボットが、大きく傾いたその瞬間、ロボットの側面に駆け寄る影が1つ。秋人だ。
「街へ向かうのは、何としても阻止しますよ」
 グレネードランチャーの銃口を、カメラに押しつけ引き金を引く。カメラと、その周辺の装甲を榴弾が破壊し、金属片が飛び散った。
「ねぇ、御影くん」
「止まった隙をついてヒット&アウェイ戦法で攻撃! だよねっ!」
 ガラガラ、と軽い音をたてビルの窓が開く。窓から身を乗り出したきせきの手には機関銃。ロボットのカメラがきせきの姿を捉えた、その瞬間、ばららっと軽快な音をたて、無数の弾丸がカメラへと浴びせかけられた。
 
「お願いします!」
 ロボットの体勢が崩れた瞬間、たまきと誘輔は転がるようにその場を移動。
 ロボットまで、まっすぐに開けた射線のその先にはバズーカを担いだ仁と、まっすぐロボットへ視線を送る太郎丸の姿があった。
「後方から狙いたかったところだが、これなら体を安定させて撃てる」
 地面に片膝をついた姿勢でバズーカを担ぐ。サングラスの奥の瞳は鋭く、得物を狙う猛禽のそれに近い。
 ただ、一瞬。指先に力を込めるだけ。軽く。羽でも拾い上げるように、軽くトリガーを引く。
 爆音。地面が揺れる。バズーカを支える仁の身体を衝撃が突き抜け、地面を揺らす。放たれた弾丸が、まっすぐロボットの頭部へ。狙うは正面のメインカメラ。
 更に、ロボットの体が傾いているおかげで2つのカメラと同時に背面のダクトも数本ほどまとめて吹き飛ばす。
 直撃こそしなかったものの、仁の放った砲弾は確実にロボットの視界と動力を削る。
「機械ならきっと電気には弱いはず……ダメージ以上の効果もありえますっ」
 ぱちん、と小さな音が鳴る。
 太郎丸が指を鳴らした。それを合図に、ロボットの頭上数メートルの位置に雨雲が現れる。バチバチと数回放電したかと思うと、次の瞬間にはまっすぐロボット目がけて雷を落とした。
 落雷を浴び、ショートしたのはメインカメラのうち3つ。ショートし、爆発し、煙を噴き上げる。
 排気ダクトから排出できなかった蒸気が、ロボットの肩関節から噴き出す。ビルの周りは、蒸気で真っ白だ。
 その中へ、雷鳥が跳び込んで行こうとした、その瞬間。
 ガトリングの銃声が鳴り響いた。

 ビルが壊れ、倒壊する。蒸気と粉塵の中から、弾丸を乱射するロボットが姿を現した。雷鳥は盾でそれをガード。逃げ遅れた仁と太郎丸が、弾丸を浴びて地面に倒れる。
「助けに行ってくるよっ!」
 と、一言叫んできせきが駆け出す。きせきを庇うように、秋人もそれに続いた。
「無茶苦茶しやがる。ド派手に暴れすぎたか?」
「これも学習したんでしょうか? 確かに、火力重視の攻撃がパターン化していたかもしれませんが」
 土の鎧を身に纏い、瓦礫を防ぐ誘輔とたまきが言葉を交わす。
 火力重視の攻撃を学習した結果だろうか。弾丸を乱射し、ビルを破壊することでターゲットの足止めを優先することにしたのだろう。その証拠に、擦れ違い様に数発、誘輔とたまきの顔面めがけて弾丸を撃ちこんで行った。
 幸い2人は、両腕で頭部をガードすることで頭へのダメージこそ回避。しかし、その隙にロボットは再び道路へと逃げ出してしまう。
 ロボットを追って、雷鳥が駆ける。残る2本の排気ダクトからは絶えず蒸気を噴出している。カメラもあとは1つだけ。視界は狭くなっているはずだ。

●スチームパンクの鉄火場で
 ロボットの背面から、雷鳥が迫る。まっすぐ、街へと向かって逃げ出すロボットを追撃し、トドメを刺すためだ。
 だが……。
 ピタリ、と急にロボットがその動きを止めた。
 ギャリギャリと地面を削って急旋回。腕を真横に伸ばした姿勢で雷鳥の右側へと、その巨体を回り込ませる。リーチの長い槍では、肉薄するような至近距離では攻撃できない。
「背後からっ……」
 雷鳥の掲げた盾に、無数の弾丸が叩きこまれる。衝撃で盾を取り落とした雷鳥の背後に、ロボットが回り込んだ。後頭部に突きつけられたガトリングの銃口の感触に、冷や汗が吹き出す。
 ガトリングの銃身が回り始めた。
 銃弾が撃ち出される、その直前。
「関節部分を狙いうつぜ!です。さくっとやっちまうですよ」
 ビルの正面玄関から跳び出して来た紡が、走りながらバズーカを発射。ロボットの背面にロケット弾を命中させる。残る1本の排気ダクトを破壊されたロボットは、全身からプシューと蒸気を噴き上げる。
 一気にロボットとの距離を詰め、至近距離からロケット弾を喰らわせるべく紡は駆ける。
 ロボットは、体を回しながらガトリングを乱射。狙いは乱雑で、そのほとんどは紡へ命中しない。
「どこを狙って……」
 数発の弾丸を浴びながら、紡は強引にバズーカを構える。トリガーに指をかけ、射撃体勢に入ったその瞬間、瓦礫の中から這い出して来たたまきが叫んだ。
「地面ですっ!」
 ロボットの放った弾丸が、周囲の路面を撃ち砕いた。飛び散る瓦礫と、硝煙、蒸気に視界を塞がれ紡は狙いを付けられない。足場が粉々になったことで、体勢も崩れている。
 紡が体勢を立て直すよりも早く、彼女の身体に無数の弾丸が撃ち込まれた。紡の撃ち出したロケット弾は、ロボットの背後に着弾し粉塵を巻き上げる。
 全身に、ガトリングの集中砲火を浴びた紡の意識が途切れる。
「……蒸気ロボ、スチームパンクとやらも悪くねーですね」
薄れていく意識の中、彼女はボロボロになりながらも戦い続けるロボットの姿に感動を覚え、男のロマンを僅かながらも、理解した。

 戦闘不能になった紡をそのままに、ロボットは再度雷鳥の姿を探べく残る1つのカメラで周囲を見回す。
 粉塵と蒸気で真白く染まるロボットの視界に、飛び込んでくる影が1つ。
「本来の使い方では無いが、むしろ手頃な鈍器だ」
 大上段にバズーカを振りかぶった仁が、体ごとロボットに跳びかかった。振り下ろされるバズーカが、ロボットのメインカメラを直撃。装甲が剥がされ、カメラは砕け散る。
 急発進するロボットの肩に当たって、仁の身体が弾き飛ばされた。
 これが最後だ、と言わんばかりの勢いで蒸気が噴き出し、ロボットは加速。既になにも見えていないだろうが、それでも真っすぐ、街へ向かって走り抜ける。
 そんなロボットの隣に、槍と盾を捨てた雷鳥が迫る。
「キャタピラに言っても仕方ねぇかもだけど、勝負を決めるのは足の長さだぜ」
 タン、と軽い音を鳴らして雷鳥が跳んだ。速度を乗せた鋭い回し蹴りをロボットの正面へと叩きこむ。装甲が剥がされ、剥き出しになった動力部を、雷鳥は一瞬で打ち抜き、破壊してみせた。
 蒸気に包まれながら、それでもロボットは10メートルほど走り抜ける。弾かれた雷鳥が地面を転がる。
 やがて。
 全身から、蒸気と黒煙を噴き出しながらロボットは停止。
 そのまま二度と、動き出しはしなかった。

 機能停止したロボットを、道路の真ん中に放置したまま一同は現場を後にする。結界は既に解いた後だ。遠くからサイレンの音が聞こえる。
 戦いの痕跡は、仁の守護使役が既に掃除済み。
 後は帰るだけ、という段階になって雷鳥がぽつりと呟いた。
「……あーあー、しかしこうしてぶっ壊れる車両を見ると毎度切なくなるぜ、いつかモンスターなマシンに乗って走り回ってみたいよ……いや、じょーくよじょーく?」
 疑問形で笑って見せる彼女を見て、誘輔と秋人は溜め息を零した。
 

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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