すねこすりカレー惨酷仕立て
●すねこすりを食べるもの -Gourmet!-
時刻は夜分。
現場は、荒金邸と呼ばれる屋敷であった。
宴会の間で、黒服のヤクザ者が輪を描くように正座する。
人の輪の中央には『すねこすり』が三匹。三匹は荒縄で天井から吊されている状態である。
「ククク……ぐふふ……『すねこすりカレー』とは……なんと、悪魔的な響き……!」
上座に鎮座するは、荒金というヤクザ者の親分である。
親分は脂ぎった顔で、醜い笑みをつくりながら、マイクを手に取った。
「集まってもらったのは他でもない!」
「『七星剣』の上意により、F.i.V.E.なる木っ端組織と抗争に入る!」
「我々『珍味会』も誉れを賜り、上へ上へ昇るだろう!」
「宴じゃ、腹が減っては戦はできぬ! 存分に良い酒を楽しんでくれい!」
このヤクザ者ども、全員が隔者である!
親分は続けて、部下に指示をだす。
「『すねこすり』というのは、痛めつければ痛めつけるほど、味が良くなるらしい、だれか、ほれ、痛めつけてみい」
ケケケ、と声を発して親分の前でコウベを垂れたのは、小柄な醜男の四人だ。
四人とも玉葱のような髪型をしている。
「お任せを!」「我ら四兄弟!」「気張って」「痛めつけやす!」
玉葱頭達が『すねこすり』を痛めつけにかかった。
すねこすり達は悲しげな目でもがく。
殴る、蹴るは当たり前、やがて表道具が出てきたときに、親分は「待った」をかけた。
「ドスはいかん。あとで料理人に、アンコウのように吊しながら捌いてもらうんじゃから」
「そうでやした!」「サーセン」「ケケケッ」「オレ、料理人を呼んで来やす!」
と、玉葱頭の一人が場を外した。
親分は仕上がりを確認する。
「良い塩梅じゃ。身が柔いに違いない」
痛めつけられた『すねこすり』達は、虫の息であった。
もがく力も無く――己の運命を悟ったかのように、まなこを閉じる。
――ぽたり、と一滴の涙が畳に落ちたような気がした。
●生命戴くもの -WARNING-
場面は、荒金邸の厨房に移る。
柔和な好青年、という出で立ちの料理人が、黒電話の受話器を肩と耳の間に挟みつつ、手を動かす。
電話で話しながら、しかし、コショウをミル挽きしたり、調味料のグラムを計ったり――流麗に行っていく。
「大妖の一件で活躍したのは惹かれるけど、F.i.V.E.も有り得ないねー」
受話器の向こうで、男の声が応答する。
『F.i.V.E.もか? 俺は好意的だが』
「『すねこすり』って古妖を覚えています?」
『近畿で発生したあれな。美味かったな』
料理人は包丁を研ぎはじめた手をピタっと止める。
壁に寄りかかり、片手に持った包丁を眺めて言葉を続けた。
「連中、すねこすりのぬいぐるみ――というか、剥製みたいなの持っててね。ひどく気分を害した」
『食うならともかく――か?』
包丁に映る料理人の顔。口は台形に歪み、目に殺気が宿る。
「命を粗末にする者は死ぬがよい、と思うわけだ」
ここで厨房の入り口がバカンッとひらいた。
玉葱頭をした四兄弟の一人が厨房にドカドカと入場す。
「やい、料理人! さっさと料理しやがれ! 親分が待っ――」
言い切る前に、ぼかん、と玉葱頭の頭部が爆ぜた。
血液は高温で蒸発。肉片も炭と化し、散るものは灰のみだ。
「すねこすりカレーなど、どうだろう?」
『ハクビジンみたいで美味いんだよなぁ、ぜひ頼むわ』
現出した守護使役の虫。パクパクと小柄なモノを片付ける。
●心痛めるもの -Ache Pain-
「すねこすりが料理されて食べられちゃうの!」
久方 万里(nCL2000005)が、さっと事件のあらましを説明した。
かく、すねこすりは古妖である。
神秘究明を生業する組織として、これまで何度もふれ合いがあったモフモフである。
「相手は七星剣傘下だけど、下の下くらいの下っ端組織だよ! 見張りを倒して、隔者が宴会している所に突入してやっつけてモフモフを助ける感じになるよ!」
と、万里は屋敷の見取り図を広げた。
地図の中央に屋敷が描かれている。周りは庭園。庭園も塀に囲まれていて、塀から中へ入る入り口は正面口一つである。
正面から入っていった場合に、つーっとまっすぐ行ってつきあたりが宴会の間と見られる。
「宴会の間にいる隔者の強さと人数は?」
「本当に大した事ないのが10人。ほんのちょっと強いのが4人。みんななら大丈夫! ――でも、なるべく急いだ方が良いかも」
万里は言葉を詰まらせる。
「料理人の隔者がいて、そいつが一番強烈。時間が経つと『すねこすり』を取りに、厨房から宴会の間にやってくる」
厨房。
宴会の間のずっと奥、屋敷の端のほうである。
「倒してしまってかまわんのか?」
「連戦になるから苦しいとおもうけど……無理しないでね! すねこすりを助けるの……お願いだからね!」
万里にしては珍しく、すがる様な物言いをした。
かく、すねこすりが大好きだからの想い。
加虐されたすねこすり達に、心を痛めていたが故の“すがり”であった。
時刻は夜分。
現場は、荒金邸と呼ばれる屋敷であった。
宴会の間で、黒服のヤクザ者が輪を描くように正座する。
人の輪の中央には『すねこすり』が三匹。三匹は荒縄で天井から吊されている状態である。
「ククク……ぐふふ……『すねこすりカレー』とは……なんと、悪魔的な響き……!」
上座に鎮座するは、荒金というヤクザ者の親分である。
親分は脂ぎった顔で、醜い笑みをつくりながら、マイクを手に取った。
「集まってもらったのは他でもない!」
「『七星剣』の上意により、F.i.V.E.なる木っ端組織と抗争に入る!」
「我々『珍味会』も誉れを賜り、上へ上へ昇るだろう!」
「宴じゃ、腹が減っては戦はできぬ! 存分に良い酒を楽しんでくれい!」
このヤクザ者ども、全員が隔者である!
親分は続けて、部下に指示をだす。
「『すねこすり』というのは、痛めつければ痛めつけるほど、味が良くなるらしい、だれか、ほれ、痛めつけてみい」
ケケケ、と声を発して親分の前でコウベを垂れたのは、小柄な醜男の四人だ。
四人とも玉葱のような髪型をしている。
「お任せを!」「我ら四兄弟!」「気張って」「痛めつけやす!」
玉葱頭達が『すねこすり』を痛めつけにかかった。
すねこすり達は悲しげな目でもがく。
殴る、蹴るは当たり前、やがて表道具が出てきたときに、親分は「待った」をかけた。
「ドスはいかん。あとで料理人に、アンコウのように吊しながら捌いてもらうんじゃから」
「そうでやした!」「サーセン」「ケケケッ」「オレ、料理人を呼んで来やす!」
と、玉葱頭の一人が場を外した。
親分は仕上がりを確認する。
「良い塩梅じゃ。身が柔いに違いない」
痛めつけられた『すねこすり』達は、虫の息であった。
もがく力も無く――己の運命を悟ったかのように、まなこを閉じる。
――ぽたり、と一滴の涙が畳に落ちたような気がした。
●生命戴くもの -WARNING-
場面は、荒金邸の厨房に移る。
柔和な好青年、という出で立ちの料理人が、黒電話の受話器を肩と耳の間に挟みつつ、手を動かす。
電話で話しながら、しかし、コショウをミル挽きしたり、調味料のグラムを計ったり――流麗に行っていく。
「大妖の一件で活躍したのは惹かれるけど、F.i.V.E.も有り得ないねー」
受話器の向こうで、男の声が応答する。
『F.i.V.E.もか? 俺は好意的だが』
「『すねこすり』って古妖を覚えています?」
『近畿で発生したあれな。美味かったな』
料理人は包丁を研ぎはじめた手をピタっと止める。
壁に寄りかかり、片手に持った包丁を眺めて言葉を続けた。
「連中、すねこすりのぬいぐるみ――というか、剥製みたいなの持っててね。ひどく気分を害した」
『食うならともかく――か?』
包丁に映る料理人の顔。口は台形に歪み、目に殺気が宿る。
「命を粗末にする者は死ぬがよい、と思うわけだ」
ここで厨房の入り口がバカンッとひらいた。
玉葱頭をした四兄弟の一人が厨房にドカドカと入場す。
「やい、料理人! さっさと料理しやがれ! 親分が待っ――」
言い切る前に、ぼかん、と玉葱頭の頭部が爆ぜた。
血液は高温で蒸発。肉片も炭と化し、散るものは灰のみだ。
「すねこすりカレーなど、どうだろう?」
『ハクビジンみたいで美味いんだよなぁ、ぜひ頼むわ』
現出した守護使役の虫。パクパクと小柄なモノを片付ける。
●心痛めるもの -Ache Pain-
「すねこすりが料理されて食べられちゃうの!」
久方 万里(nCL2000005)が、さっと事件のあらましを説明した。
かく、すねこすりは古妖である。
神秘究明を生業する組織として、これまで何度もふれ合いがあったモフモフである。
「相手は七星剣傘下だけど、下の下くらいの下っ端組織だよ! 見張りを倒して、隔者が宴会している所に突入してやっつけてモフモフを助ける感じになるよ!」
と、万里は屋敷の見取り図を広げた。
地図の中央に屋敷が描かれている。周りは庭園。庭園も塀に囲まれていて、塀から中へ入る入り口は正面口一つである。
正面から入っていった場合に、つーっとまっすぐ行ってつきあたりが宴会の間と見られる。
「宴会の間にいる隔者の強さと人数は?」
「本当に大した事ないのが10人。ほんのちょっと強いのが4人。みんななら大丈夫! ――でも、なるべく急いだ方が良いかも」
万里は言葉を詰まらせる。
「料理人の隔者がいて、そいつが一番強烈。時間が経つと『すねこすり』を取りに、厨房から宴会の間にやってくる」
厨房。
宴会の間のずっと奥、屋敷の端のほうである。
「倒してしまってかまわんのか?」
「連戦になるから苦しいとおもうけど……無理しないでね! すねこすりを助けるの……お願いだからね!」
万里にしては珍しく、すがる様な物言いをした。
かく、すねこすりが大好きだからの想い。
加虐されたすねこすり達に、心を痛めていたが故の“すがり”であった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.すねこすり三匹の救出
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
趣旨としては、『時間制限付きの古妖救出クエスト』になります。
素早く潜入、素早く敵を排除し、成功条件を達成できるかになります。
難易度『普通』ですが、制限時間を超えた場合に『難』水準になります。
また「倒してしまってかまわんのだろう?」とする場合も同様です。
以下、詳細
●ロケーション
・天候は晴れ、夜。
・荒金邸(塀→敷地内→宴会の間、厨房)
・人払い不要。
・足場は問題ありません。
・必要あるかはともかく、厨房で戦う場合は非常に狭いです。
・モブの人数多いため、宴会の間での戦闘は、PC全員が前衛という扱いになります。
※ 地形補足
塀の飛び越え可。
正面の入り口が一つ。
屋敷内は地図があるため迷うことはありません。
●エネミー・七星剣
・荒金親分
七星剣傘下、『珍味会』の元締めです。
パンパンに肥えた身体をスーツに押し込んで、金の指輪を全ての指にはめた成金オヤジ風です。
AAA無き今、F.i.V.E.を打倒し、いづれは『無道』様より誉れを賜る腹づもり。
天行での術式が中心。
A:
・演舞・清爽
・演舞・舞音
・玉葱頭の三兄弟
土行、木行、水行、壱式が中心。
本当は四兄弟でしたが、一人が厨房に料理人に催促しに行ったまま謎の失踪を遂げています。
・その他モブ隔者×15
レベルも体力かなり低め。体術系。
たいした攻撃はしませんが、数は多いので小さいダメージの蓄積が脅威。
また、親分を守ろうと動きます。
モブの位置
正面玄関見張り:2人
庭園巡回:3人
宴会の間:10人
●エネミー・WARNING
名前不明。料理人の青年。敵側の最高戦力です。
『珍味会』で下っ端のただの料理人を演じていました。
しばらく下ごしらえに忙しいですが、そのうち『すねこすり』を取りに宴会の間にやってきます。
火行が得意です。命を粗末にする者は死ね、という思考です。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年06月21日
2017年06月21日
■メイン参加者 6人■

●潜入 -Shadow skill-
「ぐわ!」「ぐっ!」
『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)の得物は鎖鎌だ。
分銅で操り、鎖で見張りの首を締めあげる。
これなら、あまり大きな声を立てられず、戦闘不能にできる。もう一人も同じようにした。
素早さを武器とする、灯ならではの早業だった。
「(生き物を食べる事は人の業です、私にとやかく言う筋合いはないのかも知れません… それでも、やっぱり許せないものは許せません!)」
場所はすでに敷地内。塀垣を乗り越えた中庭だ。
塀垣の向こうから『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)、『田中柚花梨a.k.a.』ゆかり・シャイニング(CL2001288)も来る。
ゆかりは塀垣の上でクモの糸を垂らして、『月々紅花』環 大和(CL2000477)と緒形 譟(CL2001610)を手引きする。
譟は着地して即座に知覚を鋭敏化させる。
大和と譟は、灯が倒した見張り二人を茂みの方に運ぶ。
大和が囁くように問う。
「中庭の見張りは三人と記憶していますが――あと一人は?」
対して譟が。
「田場がやってくれたようだ」
と小さく言う。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は、一行に先行して物質透過で潜入。
「邸内に入るまでに騒がれるわけにゃいかんからな」
と、残る一人を、得物の斧、斧刃の平たい部分をぶつけて気絶させた。
これにて中庭での戦いは、あっけなく終焉す。
かく、覚者たちは、正面から潜入せず、宴会の間にから、より近い塀垣から潜入した。
入った中庭の地点から目と鼻の先に建物。
建物の縁側に沿って真っ直ぐ行けば宴会場だ。
道中にて、ゲイルは胸裏に想いを走らせる。
「(食事そのものに関しては俺達もしていることだから、とやかく言う権利はないがわざわざすねこすりを食べる必要はあるまい)」
大和も同様なる胸中。
「食文化において人は肉を食す生き物。わたしも牛や豚を食す身としてはあまり偉そうに言えないかもしれないけれども――」
ゆかりの心は激情が占める。
「(食べたいと思う気持ちが起こること自体は、禁じることはできないかもしれません… …でも! わざわざ苦しめて殺すことは絶対に許せません!)」
各人、すねこすりへの想いを浮かべる一方、譟はある人物によって投入された事に胸中で溜息をつく。
「(呼び出されて来たら早々に実地研修して来いとか……慎重に、速やかに運用しよう。ビビっても何にもならないしな)」
先を急ぐ。
地図通りだ。迷うこともない。
やがて、宴会の間。障子の前に至る。
引手に手をかける。向こう側で荒金の声がする。刹那――最大に開く!
カチコミだ!
●カチコミ -Versus Onion-
「料理人のヤツ、遅い。玉根木の末弟のヤツは、あれだ、呼びに行ったんじゃなかったのか?」
荒金が汚くあくびをする。ぐぅと盛大に腹の音が鳴った。
そこにカチコミだ。
障子開く。
灯、ゲイルが、一歩踏み込んで荒金を見据えた。
「いい度胸だ珍味会! F.i.V.E.との抗争を宣言するとはな!」
ゲイル、凄んだときの目は恐ろしい。
「では正当防衛という名の大義名分を得た、ということですね」
灯、堂に入っている。
これは、本当の目的を悟らされないようにする知略。
狙いは『あくまで珍味会の元締めのタマ』であると知らしめておく作戦だ。
「くせ者か!? ものども! 何をボケッとしておる! かかれ! かかれい!」
時代劇もかくや。
ヤクザ隔者どもは一斉に立ち上がってドス、あるいは銃で襲いかかってきた。
「けぇーーー!」「けぇーーーー!」「きしゃしゃしゃー!」
有力者――玉葱頭たちも獣の如し。
対して、灯とゲイルの間から、ゆかりが飛び出した。
「ゆかりは攻撃しかできない子なので、鉄砲玉になります!」
くるりと一回転。畳にぺたんと手をつける。たちまち火柱が立って、玉葱頭3匹を焼く。
「ぎゃー!」「あぢゅー!」「みじゅー!」
ふと、場の空気に変化が生ず。
「足止めしておくから、すねこすり達の救出はお願い」
大和の術にて、ヤクザ隔者どもは、ばたばたと寝る。
荒金、脂ぎった顔を真っ赤に脂ぎらせて激昂す。
「何をやっておるかぁ!」
大和の術に対する荒金の術式、拮抗だ。
「荒金乙」
そこへ譟が濃霧を放つ。
荒金が大和の術を解除した次に、また異常をかける嫌がらせのごとき有様。
場に『そもそも古妖をよく喰う気になんなぁ』と、バリトンが響いた。
義高が、たちまち床下より物質透過で跳びだした。
出現位置、それは敵の背後にして、荒金の正面。
そして真上に――すねこすり。目論見は成功だ。
斧を振るって荒縄を切る。すねこすり3匹をキャッチする。
「ぐぬ!? 狙いはすねこすりかぁぁ! このハゲはワシ自ら処す! 狼藉者を絶対に逃すな!」
義高の両手がすねこすりを抱えるためにふさがっている。
そこへ、荒金が自ら立ち向かう腹だ。これはしばらく一方的に嬲られる。
「生きてるもんを――それが古妖であってもだ――叩いて柔らかくするなんてのは単なるリンチってやつで、それは受け入れてやるわけにゃいけねぇよな」
こいつは余罪がたっぷりありそうだ、と腹をくくった。
ヤクザ隔者のうち5名が、横へと走る。
灯、ゲイル、大和を縁側から挟撃、ないし包囲する腹づもりか。
ゆかりが怒りを携えて、更につっこむ。
「すねこすりさん達は私たちにとって縁深い友人であり恩人です。そんなすねこすりさんを、残酷なヤツ等のご飯になんてさせません!!」
すねこすりを確保した義高と合流すべく。
かく、6対13という人数差。質と量。
隔者による包囲が、すこしずつ形成されていく。
●勧善懲悪 -Morality play-
――かにみえたが、個々の質が桁違いだった。
「ヤクザか!? F.i.V.E.とはヤクザの類なのか!?」
荒金、絶叫す。
譟が、ぼそっと「おまいう」と短く切る。
灯の鎖鎌が飛翔し、複数の隔者をたちまち戦闘不能にせしめる。
ゆかりの特攻、火柱、玉葱頭を容易に蹴散らす。
大和の舞。黒服を容易く眠らせる。
ゲイルの治癒、集中攻撃をうけた義高の傷を瞬時に癒やす。
譟の濃霧で敵からのダメージは更に軽減。
よって義高、不倒の要塞と化す。
「な、なんということじゃ」
呆然とする荒金をよそに、配下は次々と倒れていく。
ゲイルのワイヤーが玉葱頭(水)を切り裂き。
「ここまでだ。無理に倒さなくてもよかろう」
「潮時ね」
大和が星の光をたたきつけたとき、包囲は解ける。
そのとき、譟が、料理人の到来を知覚する。
「奴さんが来た」
「料理人が来る前に急いで離脱です」
灯の声と共に、一斉に駆ける。
義高も追う。3匹を抱えて走るのは苦である。スピードを重視し、すねこすりを仲間にパス。
もふっと受け取って、ここに、覚者達は撤退す。
最後にゆかりが、荒金にアカンベーをした。
●帰路 -Laughing End-
覚者一行、帰路を行く。
痛めつけられたすねこすりの傷は、ゲイルがすぐに治療した。
治療の際、すねこすり3匹が一斉にゲイルにすりすりしてしまって、もみくちゃにされてしまった。
「へ、へへっ」
だがゲイル、まんざらでもなくどころか、『ふわもこアニマルを愛でる会』なるチームの代表である。
冥利に尽きる。極みである。
その後、ふわふわもふもふの3匹を、おのおので堪能す。
すねこすり達は、助けられた、ということを理解しているようだ。なかなかお利口な個体らしい。
ゆかりはいつもの調子で「よかったね!」と笑いかける。
んーっと頬ずりすると、すねこすりの方もすりすりしてくる。
しっとり、しかしふわふわな毛並みが鼻をくすぐって、くしゃみが出そうになった。あぶない。
灯は。
「大丈夫、ですか?」
と、すねこすりに語りかけてみる。
身体の傷は癒えたかもしれないが、どこか心配だ。
超直観で見る。すこし怯えのようなものが見られる。あのような仕打ちを受けたのだ。と、心がすこし締め付けられた。
察した大和は、すねこすりを撫でてあげた。
「怖かったでしょう? でももう大丈夫よ。仲間が沢山いる場所へ行きましょう」
仲間が沢山いる場所――数年前、近畿地方で大量発生したすねこすり。
その後の行き先としては、すねこすり牧場、岡山県に存在する『とある山中』が候補になる。
義高も同意する。
「そうだな。今は仲間といるのが、一番いいかもしれねぇな」
ゲイルも、そういえば、と言葉を続ける。
「座敷童が女将さんの宿に、ファイヴ村か。――前に試した事があるが、すねこすりはクッキーも食べるんだよな」
ゆかりも。
「行ったことある! マックス村《通称ファイヴ村》。キャンディいる?」
丁度もっていたキャンディで釣り上げてみる。
灯もそう。
「青女房さんのところでしたら安心できますね」
譟はフルフェイスヘルメットの頭部を、うんうんと縦に振る。
「アテにできるところがあるならいい。それが一番だ」
譟は、初めて接するすねこすり、『古妖』を抱える。
猫とアンゴラウサギの雑種のようで――なるほど。これはモフモフと尊い。
こうして、覚者は帰路をゆく。助けた3匹のすねこすりに対して。
良かった良かったはっぴーえんど、と飄然に戻ったもの。
微笑を浮かべ見守る目。
ニカっと爽やかな笑み。
ん~っすりすりがたまらないという快楽に委ねる者。
愛妻家にして自らの子を眺めるがごとき、優しき視線。
表情は隠れているが、尊さを感じ、モフモフする者。
覚者、各人の――謂わば、可愛らしく尊いものを愛する心!
意志が悪の美食家の野望を打ち破ったのだ。
●『爆裂咖喱』 -Watch out!-
「あじゅっ! あぢゅづぢぢぢぢ!! ああああ助けで! あああっ!
青天の霹靂だ。
路地をゆく覚者たちの前方から。曲がり角から。頭部を炎に焼かれながら、荒金がまろび出た。
つきそうように荒金の守護使役か――おにぎりのような犬型が、泣きそうな目できゃんきゃん鳴いている。
「荒金!?」
身構える覚者。
丁度、すねこすり達をもふもふしていたゲイル、大和、譟は荒金から距離をとって後退する。
燃ゆる荒金、ゆかりの足下にすがりつく。
「ぶゃあや! たずけ! たづけで!」
肉の焦げる匂いが鼻腔をくすぐる。
「――っ」
ゲイルが咄嗟に、荒金へ癒しの滴をやる。
荒金の肥えた身体が更に膨らむ。
危険を感じて離れるゆかり。
「もえべぇえええおろろぼぼえばっ」
荒金、口から爆炎を上げ、内側から爆散す。
荒金の守護使役は、悲しみを帯びた遠吠えとともに消滅した。
「上だっ! 散開するんだ!」
譟が声を張り上げる。
たちまち、頭上から若い男の声が猛ってきた。
「それは僕の晩飯だ!」
驚愕。かの料理人!
急降下がごとく地面に貫手を放つ。
そこを中心に、蜘蛛の巣のごとくアスファルトに亀裂、亀裂から炎のごとき気の奔流が噴出。
次に爆裂す!
沸き立つ気の奔流は、破片を伴って上昇! 火炎流のごとし。巻き込まれた荒金の遺体は血味噌と化す。
間一髪の散開。
譟の感情探索が、もう少し遅ければ直撃だった。
覚者、散開して円陣を為す。中央には料理人。
料理人は地面より手を抜いて立ち上がる。立ち上がりながら――
「命には重さがある。蟻を踏みつぶしても心は痛まない。もしその蟻がとても美味ければ、僕はすっげぇ気分を害する――意味は分かるな?」
蟻。
料理人が言う蟻とは、たった今、粉灰となった荒金を指すのだろう。
あるいは夢見の映像で見た、玉葱頭の隔者に対する行為のことだろうか。
「お前、荒金の『かぎわける』で追跡してきたか!」
ゲイルが察する。
邪悪だ。蟻の口上から察するに、価値が無いと決した命には、とことん残虐になる性質だ。
義高は、口上など知ったことか! と疾走す。
「しつけぇ野郎だ! こっちを向け、お前」
そして、すねこすり達がすっかり怯えている様子に我慢がならない。
タフさに自信がある己が、皆が逃げる時間を稼げればよい。
背後を狙い振り下ろす斧。獰猛なる肉食爬虫類のごとき、刻刻《ぎざぎざ》の獰猛なる斧刃。全力で下す。下した瞬間に、ガキリッ、と金属音が響きわたる。
料理人が大きく背を反らし、斧刃に喰らいついたのだ。
「皆、逃げろ」
力を込める。鉛色の斧一閃。あわせるように料理人は飛びのく。
次に、料理人は右腕を真っ直ぐ伸ばし、右掌から、蛍の光ほど微かな火を顕現させる。
「逃がすものかよ。晩飯を――」
「悪党とはいえ、なにも、殺すことなかったでしょう!」
灯が、分銅を投擲する。料理人が伸ばした右腕に鎖を絡ませる。
灯に料理人の視線が向く。
「ずさんな計量で算出された21gの魂に価値などない。大して美味くもない人肉にも価値などない。大切にしなくて良い命だ。だが、すねこすりは価値ある命だ。愛玩の観点でも、理解する用意がある」
「だから何です? 殺人も理解しろと?」
「しなくていい、ただただ、晩飯を返せという」
料理人、鎖に締め付けられながらも蛍火のごときものを放つ。
灯が鎖を巧みに操作し、斜め上へ射線を反らす。
ふわりと降る――と思いきや、次には路地一杯に広がる一つの火球へと膨張した。
膨張した火球が頭上から降ってくる。それはまるでスローモーションのように。
「料理人っ!」
ゆかりが巨大火球へ疾走す。
「カレー専門だよ。エゴを通そうとする同類《にたものどうし》だ」
「うるさい! アニマル・ウェルフェアって言葉も知らなさそうなヤツと同類なんて」
まして殺人を躊躇しない輩となんて――吐きそうになる!
骨の笛を用いて、巨大火球を下から上へカチ上げる。
二連撃だ。笛を吹く。
笛から生じた魔曲が上昇し、巨大火球を音色で包む。巨大火球、消滅す。
「さて、どこかの動物愛護団体かい? それとも七星剣のボンクラ? どこの幹部《なにやつ》の手下かな? 『花』『犬』『霧』『結界』? 『金剛』《ばあさん》の所かい?」
荒金は、今際に至って、しかし、そこを喋らなかったのか。
料理人の質問に対して、身分――F.i.V.Eと答える者はいない。
「――もし、七星剣だと言ったら?」
ふとゲイルが問う。
「末端構成員の新鮮な人肉を使ったスペシャルカレーで、まず警告かな」
見れば料理人、義高の一撃により、口角が耳あたりまで裂けている。
流血。口裂け男だ。料理人は血をぬぐう。口が台形に歪み変形している。
「僕は、『枯莱 レイス』という。君等を理解する用意はある――けど、僕から晩飯を奪うヤツは塵滅べ」
来る。カレー野郎が。
「――すゃ」
料理人、たちまち、すやすやと寝入った。
「ふう」
と、大和は寂夜ののち、一息つく。
料理人の位置が、ちょうど大和の眼前。それも大和に対して料理人は背を向けている形だった。
大和はしずかに、しかし確固たる気力を練り上げて、眠りに誘う舞、寂夜をその背を注ぎ込んだ。
結果は成功。
突如起こった爆炎のごとき夜は、たちまち寂夜に還った。
「――枯莱 レイス」
まるで、七星剣幹部を、良く知っているような口ぶりだった。その上で与している言葉ではなかった。何者か。
灯は鎖鎌を何時でも操れる体勢のまま。
「なぜこれほどの実力を隠して、こんな組織に潜入していたのでしょうか?」
そして道脇を見る。
粉灰のごとき有様の荒金の遺体がある。
古妖を食べようとしていた事は許せることではないが、生き物を食べて生きている人類の業。
荒金達への落としどころとして『不殺』を考えていた、考えていたのに――残虐に殺傷されるなど、あんまりではないか。
何者かは関係ない。こいつはひたぶるな邪悪さがある。
譟は、すねこすり(じたじたしている)を小脇にかかえながら、ふうむとフルフェイスにおける、顎にあたる部分に手やる。
「あのクソ上司、鬼……いやバケモノとどっちが強いかね?」
譟は、自らと力量が遥かに隔てた『身内』を思い浮かべる。
刃物の化け物 対 爆裂化け物――あまり近くで見たい光景ではない。やめよう。正気が削られる。想像を頭の中から片づける。
ゲイルは、震え怯えるすねこすりを大事に抱え。
「俺達の目的はすねこすりの救出だからな。料理人《こいつ》は無視だ」
料理人を見下ろす。舌をうつ。何が蟻だ。理解だ。エゴだ――多くは語らず、胸くその悪さにもう一度だけ舌をうった。
義高も同様。
「荒金は悪党だった。だがこいつは悪党ってより、あれだ。最悪ってやつだぜ」
サイコパス、という言葉が浮かぶ。
ゆかりは、ゲイルからすねこすりを預かり「よしよし、もう大丈夫」となだめる。つぎに料理人に視線を移し。
「料理人に言いたいことは色々ありますけど、今はとにかく――」
覚者一行、スパイシーサイコパス野郎が目を覚まさぬ内に、帰路を急ぐ。
すねこすり達は無事だ。目的は果たした。
なのに、荒金の守護使役――おにぎりのようだった犬の泣き声が、脳裏にこびりついて離れない。
「ぐわ!」「ぐっ!」
『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)の得物は鎖鎌だ。
分銅で操り、鎖で見張りの首を締めあげる。
これなら、あまり大きな声を立てられず、戦闘不能にできる。もう一人も同じようにした。
素早さを武器とする、灯ならではの早業だった。
「(生き物を食べる事は人の業です、私にとやかく言う筋合いはないのかも知れません… それでも、やっぱり許せないものは許せません!)」
場所はすでに敷地内。塀垣を乗り越えた中庭だ。
塀垣の向こうから『献身の青』ゲイル・レオンハート(CL2000415)、『田中柚花梨a.k.a.』ゆかり・シャイニング(CL2001288)も来る。
ゆかりは塀垣の上でクモの糸を垂らして、『月々紅花』環 大和(CL2000477)と緒形 譟(CL2001610)を手引きする。
譟は着地して即座に知覚を鋭敏化させる。
大和と譟は、灯が倒した見張り二人を茂みの方に運ぶ。
大和が囁くように問う。
「中庭の見張りは三人と記憶していますが――あと一人は?」
対して譟が。
「田場がやってくれたようだ」
と小さく言う。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は、一行に先行して物質透過で潜入。
「邸内に入るまでに騒がれるわけにゃいかんからな」
と、残る一人を、得物の斧、斧刃の平たい部分をぶつけて気絶させた。
これにて中庭での戦いは、あっけなく終焉す。
かく、覚者たちは、正面から潜入せず、宴会の間にから、より近い塀垣から潜入した。
入った中庭の地点から目と鼻の先に建物。
建物の縁側に沿って真っ直ぐ行けば宴会場だ。
道中にて、ゲイルは胸裏に想いを走らせる。
「(食事そのものに関しては俺達もしていることだから、とやかく言う権利はないがわざわざすねこすりを食べる必要はあるまい)」
大和も同様なる胸中。
「食文化において人は肉を食す生き物。わたしも牛や豚を食す身としてはあまり偉そうに言えないかもしれないけれども――」
ゆかりの心は激情が占める。
「(食べたいと思う気持ちが起こること自体は、禁じることはできないかもしれません… …でも! わざわざ苦しめて殺すことは絶対に許せません!)」
各人、すねこすりへの想いを浮かべる一方、譟はある人物によって投入された事に胸中で溜息をつく。
「(呼び出されて来たら早々に実地研修して来いとか……慎重に、速やかに運用しよう。ビビっても何にもならないしな)」
先を急ぐ。
地図通りだ。迷うこともない。
やがて、宴会の間。障子の前に至る。
引手に手をかける。向こう側で荒金の声がする。刹那――最大に開く!
カチコミだ!
●カチコミ -Versus Onion-
「料理人のヤツ、遅い。玉根木の末弟のヤツは、あれだ、呼びに行ったんじゃなかったのか?」
荒金が汚くあくびをする。ぐぅと盛大に腹の音が鳴った。
そこにカチコミだ。
障子開く。
灯、ゲイルが、一歩踏み込んで荒金を見据えた。
「いい度胸だ珍味会! F.i.V.E.との抗争を宣言するとはな!」
ゲイル、凄んだときの目は恐ろしい。
「では正当防衛という名の大義名分を得た、ということですね」
灯、堂に入っている。
これは、本当の目的を悟らされないようにする知略。
狙いは『あくまで珍味会の元締めのタマ』であると知らしめておく作戦だ。
「くせ者か!? ものども! 何をボケッとしておる! かかれ! かかれい!」
時代劇もかくや。
ヤクザ隔者どもは一斉に立ち上がってドス、あるいは銃で襲いかかってきた。
「けぇーーー!」「けぇーーーー!」「きしゃしゃしゃー!」
有力者――玉葱頭たちも獣の如し。
対して、灯とゲイルの間から、ゆかりが飛び出した。
「ゆかりは攻撃しかできない子なので、鉄砲玉になります!」
くるりと一回転。畳にぺたんと手をつける。たちまち火柱が立って、玉葱頭3匹を焼く。
「ぎゃー!」「あぢゅー!」「みじゅー!」
ふと、場の空気に変化が生ず。
「足止めしておくから、すねこすり達の救出はお願い」
大和の術にて、ヤクザ隔者どもは、ばたばたと寝る。
荒金、脂ぎった顔を真っ赤に脂ぎらせて激昂す。
「何をやっておるかぁ!」
大和の術に対する荒金の術式、拮抗だ。
「荒金乙」
そこへ譟が濃霧を放つ。
荒金が大和の術を解除した次に、また異常をかける嫌がらせのごとき有様。
場に『そもそも古妖をよく喰う気になんなぁ』と、バリトンが響いた。
義高が、たちまち床下より物質透過で跳びだした。
出現位置、それは敵の背後にして、荒金の正面。
そして真上に――すねこすり。目論見は成功だ。
斧を振るって荒縄を切る。すねこすり3匹をキャッチする。
「ぐぬ!? 狙いはすねこすりかぁぁ! このハゲはワシ自ら処す! 狼藉者を絶対に逃すな!」
義高の両手がすねこすりを抱えるためにふさがっている。
そこへ、荒金が自ら立ち向かう腹だ。これはしばらく一方的に嬲られる。
「生きてるもんを――それが古妖であってもだ――叩いて柔らかくするなんてのは単なるリンチってやつで、それは受け入れてやるわけにゃいけねぇよな」
こいつは余罪がたっぷりありそうだ、と腹をくくった。
ヤクザ隔者のうち5名が、横へと走る。
灯、ゲイル、大和を縁側から挟撃、ないし包囲する腹づもりか。
ゆかりが怒りを携えて、更につっこむ。
「すねこすりさん達は私たちにとって縁深い友人であり恩人です。そんなすねこすりさんを、残酷なヤツ等のご飯になんてさせません!!」
すねこすりを確保した義高と合流すべく。
かく、6対13という人数差。質と量。
隔者による包囲が、すこしずつ形成されていく。
●勧善懲悪 -Morality play-
――かにみえたが、個々の質が桁違いだった。
「ヤクザか!? F.i.V.E.とはヤクザの類なのか!?」
荒金、絶叫す。
譟が、ぼそっと「おまいう」と短く切る。
灯の鎖鎌が飛翔し、複数の隔者をたちまち戦闘不能にせしめる。
ゆかりの特攻、火柱、玉葱頭を容易に蹴散らす。
大和の舞。黒服を容易く眠らせる。
ゲイルの治癒、集中攻撃をうけた義高の傷を瞬時に癒やす。
譟の濃霧で敵からのダメージは更に軽減。
よって義高、不倒の要塞と化す。
「な、なんということじゃ」
呆然とする荒金をよそに、配下は次々と倒れていく。
ゲイルのワイヤーが玉葱頭(水)を切り裂き。
「ここまでだ。無理に倒さなくてもよかろう」
「潮時ね」
大和が星の光をたたきつけたとき、包囲は解ける。
そのとき、譟が、料理人の到来を知覚する。
「奴さんが来た」
「料理人が来る前に急いで離脱です」
灯の声と共に、一斉に駆ける。
義高も追う。3匹を抱えて走るのは苦である。スピードを重視し、すねこすりを仲間にパス。
もふっと受け取って、ここに、覚者達は撤退す。
最後にゆかりが、荒金にアカンベーをした。
●帰路 -Laughing End-
覚者一行、帰路を行く。
痛めつけられたすねこすりの傷は、ゲイルがすぐに治療した。
治療の際、すねこすり3匹が一斉にゲイルにすりすりしてしまって、もみくちゃにされてしまった。
「へ、へへっ」
だがゲイル、まんざらでもなくどころか、『ふわもこアニマルを愛でる会』なるチームの代表である。
冥利に尽きる。極みである。
その後、ふわふわもふもふの3匹を、おのおので堪能す。
すねこすり達は、助けられた、ということを理解しているようだ。なかなかお利口な個体らしい。
ゆかりはいつもの調子で「よかったね!」と笑いかける。
んーっと頬ずりすると、すねこすりの方もすりすりしてくる。
しっとり、しかしふわふわな毛並みが鼻をくすぐって、くしゃみが出そうになった。あぶない。
灯は。
「大丈夫、ですか?」
と、すねこすりに語りかけてみる。
身体の傷は癒えたかもしれないが、どこか心配だ。
超直観で見る。すこし怯えのようなものが見られる。あのような仕打ちを受けたのだ。と、心がすこし締め付けられた。
察した大和は、すねこすりを撫でてあげた。
「怖かったでしょう? でももう大丈夫よ。仲間が沢山いる場所へ行きましょう」
仲間が沢山いる場所――数年前、近畿地方で大量発生したすねこすり。
その後の行き先としては、すねこすり牧場、岡山県に存在する『とある山中』が候補になる。
義高も同意する。
「そうだな。今は仲間といるのが、一番いいかもしれねぇな」
ゲイルも、そういえば、と言葉を続ける。
「座敷童が女将さんの宿に、ファイヴ村か。――前に試した事があるが、すねこすりはクッキーも食べるんだよな」
ゆかりも。
「行ったことある! マックス村《通称ファイヴ村》。キャンディいる?」
丁度もっていたキャンディで釣り上げてみる。
灯もそう。
「青女房さんのところでしたら安心できますね」
譟はフルフェイスヘルメットの頭部を、うんうんと縦に振る。
「アテにできるところがあるならいい。それが一番だ」
譟は、初めて接するすねこすり、『古妖』を抱える。
猫とアンゴラウサギの雑種のようで――なるほど。これはモフモフと尊い。
こうして、覚者は帰路をゆく。助けた3匹のすねこすりに対して。
良かった良かったはっぴーえんど、と飄然に戻ったもの。
微笑を浮かべ見守る目。
ニカっと爽やかな笑み。
ん~っすりすりがたまらないという快楽に委ねる者。
愛妻家にして自らの子を眺めるがごとき、優しき視線。
表情は隠れているが、尊さを感じ、モフモフする者。
覚者、各人の――謂わば、可愛らしく尊いものを愛する心!
意志が悪の美食家の野望を打ち破ったのだ。
●『爆裂咖喱』 -Watch out!-
「あじゅっ! あぢゅづぢぢぢぢ!! ああああ助けで! あああっ!
青天の霹靂だ。
路地をゆく覚者たちの前方から。曲がり角から。頭部を炎に焼かれながら、荒金がまろび出た。
つきそうように荒金の守護使役か――おにぎりのような犬型が、泣きそうな目できゃんきゃん鳴いている。
「荒金!?」
身構える覚者。
丁度、すねこすり達をもふもふしていたゲイル、大和、譟は荒金から距離をとって後退する。
燃ゆる荒金、ゆかりの足下にすがりつく。
「ぶゃあや! たずけ! たづけで!」
肉の焦げる匂いが鼻腔をくすぐる。
「――っ」
ゲイルが咄嗟に、荒金へ癒しの滴をやる。
荒金の肥えた身体が更に膨らむ。
危険を感じて離れるゆかり。
「もえべぇえええおろろぼぼえばっ」
荒金、口から爆炎を上げ、内側から爆散す。
荒金の守護使役は、悲しみを帯びた遠吠えとともに消滅した。
「上だっ! 散開するんだ!」
譟が声を張り上げる。
たちまち、頭上から若い男の声が猛ってきた。
「それは僕の晩飯だ!」
驚愕。かの料理人!
急降下がごとく地面に貫手を放つ。
そこを中心に、蜘蛛の巣のごとくアスファルトに亀裂、亀裂から炎のごとき気の奔流が噴出。
次に爆裂す!
沸き立つ気の奔流は、破片を伴って上昇! 火炎流のごとし。巻き込まれた荒金の遺体は血味噌と化す。
間一髪の散開。
譟の感情探索が、もう少し遅ければ直撃だった。
覚者、散開して円陣を為す。中央には料理人。
料理人は地面より手を抜いて立ち上がる。立ち上がりながら――
「命には重さがある。蟻を踏みつぶしても心は痛まない。もしその蟻がとても美味ければ、僕はすっげぇ気分を害する――意味は分かるな?」
蟻。
料理人が言う蟻とは、たった今、粉灰となった荒金を指すのだろう。
あるいは夢見の映像で見た、玉葱頭の隔者に対する行為のことだろうか。
「お前、荒金の『かぎわける』で追跡してきたか!」
ゲイルが察する。
邪悪だ。蟻の口上から察するに、価値が無いと決した命には、とことん残虐になる性質だ。
義高は、口上など知ったことか! と疾走す。
「しつけぇ野郎だ! こっちを向け、お前」
そして、すねこすり達がすっかり怯えている様子に我慢がならない。
タフさに自信がある己が、皆が逃げる時間を稼げればよい。
背後を狙い振り下ろす斧。獰猛なる肉食爬虫類のごとき、刻刻《ぎざぎざ》の獰猛なる斧刃。全力で下す。下した瞬間に、ガキリッ、と金属音が響きわたる。
料理人が大きく背を反らし、斧刃に喰らいついたのだ。
「皆、逃げろ」
力を込める。鉛色の斧一閃。あわせるように料理人は飛びのく。
次に、料理人は右腕を真っ直ぐ伸ばし、右掌から、蛍の光ほど微かな火を顕現させる。
「逃がすものかよ。晩飯を――」
「悪党とはいえ、なにも、殺すことなかったでしょう!」
灯が、分銅を投擲する。料理人が伸ばした右腕に鎖を絡ませる。
灯に料理人の視線が向く。
「ずさんな計量で算出された21gの魂に価値などない。大して美味くもない人肉にも価値などない。大切にしなくて良い命だ。だが、すねこすりは価値ある命だ。愛玩の観点でも、理解する用意がある」
「だから何です? 殺人も理解しろと?」
「しなくていい、ただただ、晩飯を返せという」
料理人、鎖に締め付けられながらも蛍火のごときものを放つ。
灯が鎖を巧みに操作し、斜め上へ射線を反らす。
ふわりと降る――と思いきや、次には路地一杯に広がる一つの火球へと膨張した。
膨張した火球が頭上から降ってくる。それはまるでスローモーションのように。
「料理人っ!」
ゆかりが巨大火球へ疾走す。
「カレー専門だよ。エゴを通そうとする同類《にたものどうし》だ」
「うるさい! アニマル・ウェルフェアって言葉も知らなさそうなヤツと同類なんて」
まして殺人を躊躇しない輩となんて――吐きそうになる!
骨の笛を用いて、巨大火球を下から上へカチ上げる。
二連撃だ。笛を吹く。
笛から生じた魔曲が上昇し、巨大火球を音色で包む。巨大火球、消滅す。
「さて、どこかの動物愛護団体かい? それとも七星剣のボンクラ? どこの幹部《なにやつ》の手下かな? 『花』『犬』『霧』『結界』? 『金剛』《ばあさん》の所かい?」
荒金は、今際に至って、しかし、そこを喋らなかったのか。
料理人の質問に対して、身分――F.i.V.Eと答える者はいない。
「――もし、七星剣だと言ったら?」
ふとゲイルが問う。
「末端構成員の新鮮な人肉を使ったスペシャルカレーで、まず警告かな」
見れば料理人、義高の一撃により、口角が耳あたりまで裂けている。
流血。口裂け男だ。料理人は血をぬぐう。口が台形に歪み変形している。
「僕は、『枯莱 レイス』という。君等を理解する用意はある――けど、僕から晩飯を奪うヤツは塵滅べ」
来る。カレー野郎が。
「――すゃ」
料理人、たちまち、すやすやと寝入った。
「ふう」
と、大和は寂夜ののち、一息つく。
料理人の位置が、ちょうど大和の眼前。それも大和に対して料理人は背を向けている形だった。
大和はしずかに、しかし確固たる気力を練り上げて、眠りに誘う舞、寂夜をその背を注ぎ込んだ。
結果は成功。
突如起こった爆炎のごとき夜は、たちまち寂夜に還った。
「――枯莱 レイス」
まるで、七星剣幹部を、良く知っているような口ぶりだった。その上で与している言葉ではなかった。何者か。
灯は鎖鎌を何時でも操れる体勢のまま。
「なぜこれほどの実力を隠して、こんな組織に潜入していたのでしょうか?」
そして道脇を見る。
粉灰のごとき有様の荒金の遺体がある。
古妖を食べようとしていた事は許せることではないが、生き物を食べて生きている人類の業。
荒金達への落としどころとして『不殺』を考えていた、考えていたのに――残虐に殺傷されるなど、あんまりではないか。
何者かは関係ない。こいつはひたぶるな邪悪さがある。
譟は、すねこすり(じたじたしている)を小脇にかかえながら、ふうむとフルフェイスにおける、顎にあたる部分に手やる。
「あのクソ上司、鬼……いやバケモノとどっちが強いかね?」
譟は、自らと力量が遥かに隔てた『身内』を思い浮かべる。
刃物の化け物 対 爆裂化け物――あまり近くで見たい光景ではない。やめよう。正気が削られる。想像を頭の中から片づける。
ゲイルは、震え怯えるすねこすりを大事に抱え。
「俺達の目的はすねこすりの救出だからな。料理人《こいつ》は無視だ」
料理人を見下ろす。舌をうつ。何が蟻だ。理解だ。エゴだ――多くは語らず、胸くその悪さにもう一度だけ舌をうった。
義高も同様。
「荒金は悪党だった。だがこいつは悪党ってより、あれだ。最悪ってやつだぜ」
サイコパス、という言葉が浮かぶ。
ゆかりは、ゲイルからすねこすりを預かり「よしよし、もう大丈夫」となだめる。つぎに料理人に視線を移し。
「料理人に言いたいことは色々ありますけど、今はとにかく――」
覚者一行、スパイシーサイコパス野郎が目を覚まさぬ内に、帰路を急ぐ。
すねこすり達は無事だ。目的は果たした。
なのに、荒金の守護使役――おにぎりのようだった犬の泣き声が、脳裏にこびりついて離れない。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
