■ブレスト■こちらファイヴ覚醒教室
■ブレスト■こちらファイヴ覚醒教室


●キッカケは二人の会話から
「突然発現してしまった人がどうしていいか分からなくなるってこと、あるよね」
 ブレストルームでおきた工藤・奏空(CL2000955)の発言が、ファイヴで注目を集めている。
「ほかにも発現者に偏見や差別の目がむけられたり、そのせいでヤケになったり悪い人たちに誘惑されるなんてことが多いと思うんだ。
 そういう人たちの相談に乗ることってできないかな。
 テレビや雑誌で宣伝したり、最悪ファイヴで保護することもできないかなって……」
「あー、それ、オレも思った」
 両手を頭の後ろで組んだ鹿ノ島・遥(CL2000227)が彼に同意するように言った。
「市役所に窓口作るとこあさ、ガッコーで道徳の時間に話すとかできないかな」
「なるほど。……できるか?」
 ほぼスルーパスの勢いで振り向いた中 恭介(nCL2000002)をうけて、御崎 衣緒(nCL2000001)がタブレットPCを叩いた。
「役所と小中学校の活動にちょっと加えて貰うだけなら今からでもできるけど……ざっと数千万はかかるわね」
「あるか?」
「あるかないかは別として、不具合が起きたときの対処も含めて膨大なことになるわ。先にいくつかテストを重ねる必要があると思う」
「ふむ……」
 アタリは深く思案した。
 ひとくちに『宣伝』『教育』と言っても広く全国に普及させるにはテンプレートが必要になる。
 そのテンプレート作りが重要になるのだ。
 逆に言えばテンプレートさえちゃんとできていれば無限にコピーして普及できるというわけだ。
「第一、発現したらまずどうするべきか……という所からぼやけているわね。
 いちど人を集めて講習会を開くべきじゃないかしら」
「自分の考えを話すくらいなら、オレたちできるぜ?」
 遥や奏空も乗り気のようだ。
 アタリは再び思案して……。
「よし、いい場所がある。与那国センターをつかおう」

●かつての功績
 与那国センターとは『神秘の国境』の外にある国内施設である。
 最初から説明すると……妖や覚者の因子が発生するのは日本国内のみと言われていたが、地理的に国内でありながらその因子が発生しないエリアが確認されていた。
 過去、ファイヴのメンバーはこの土地を訪れ一部の土地を購入。島が悪用されないようファイブの二次団体に防衛させつつ、この土地に『発現に戸惑う人や妖にトラウマをもつ人々を、妖や発現といったものから隔離するための保護施設』を建設した。
 それが『与那国センター』である。

「丁度建設目的ともマッチする。
 まずはここに集められている『発現に戸惑っている人々』を対象に講習会を開こう。
 各自、割り振ったテーマにあわせて自分の考えを語ってみてくれ。
 これをベースにしてプロの精神科医やセラピストたちと相談し、テンプレートを作っていくつもりだ。
 これが成功すれば、妖の撃退や犯罪の抑止とは異なるより根本的な『社会不安の解消』という役割を果たすことが出来る。頼んだぞ!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:八重紅友禅
■成功条件
1.割とちゃんとした講習を行なう
2.なし
3.なし
 このシナリオは
 ブレインストーミングスペース#1
 工藤・奏空(CL2000955) 2017年05月22日(月) 23:06:33
 鹿ノ島・遥(CL2000227) 2017年05月22日(月) 23:55:51
 の発言をもとに作られています。

●やること
 与那国センターのトークルームで講習会を行ないます。
 皆さんはそこのゲストとして、自分の考えることを語ってください。
 漠然と語ると言われてもちょっと困ると思うので、アタリさんがいくつかテーマを定めました。
 いってもアタリセレクションなので、『こういうテーマも加えたほうがいい!』『これとこれを一緒にしたほうが!』と思ったらどんどん相談でぶつけあって変えていくとよいでしょう。
 あくまでゲスト講師なので気楽に構えて大丈夫です。複数の考え方からプロが分析してちゃんとしたテンプレートを作ってくれます。

●テーマ(仮)
 アタリさんが講習会をするにあたって仮のテーマを定めてくれました。
 自分の話すテーマを(よそと被ってもいいので)選んでください。
 もちろん先述したように新しい項目を作ったり変えたりしても構いません。どんどんやってください。
 ただ基本の趣旨から大きく外れたことはご遠慮いただくことがあります。
・発現したらまずすること
・発現者として生活するうえで気をつけること
・発現者への差別をうけたら? 見たら?

●補足
・仮に全国へマニュアルが配られた場合、発現の仕組みや因子の基本的な種類、古妖や妖、破綻者についての基礎知識はざっくりとそこに含まれます。
 そのためこの講習会でその辺の知識を説明する必要はありません。
・トークルームはもともとカウンセラーが集まった人々に発現したことで生まれた悩みや苦労などを語り合って解消していくために使われてます。
 妊婦の集団カウンセリングや薬物克服集会と似た使い方です。
 また、センターでは因子の基礎知識などもさらっと教えているようです。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
公開日
2017年06月22日

■メイン参加者 4人■

『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『ハルモニアの幻想旗衛』
守衛野 鈴鳴(CL2000222)

●自分でやるから意味がある
「うあー! 頭ががんがんする!」
 その場でシャドウボクシングならぬシャドウカラテをしながら、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は叫んだ。
 空を海鳥がゆき、澄んだ海が広がるここは与那国島。日本の端っこにして、『神秘の国境』の外側である。
「たしかにさー! 俺言ったよ!? 覚者のこととか、ガッコーでちゃんと教えろってさ! 国がどーにかしろって言ったけどさー!」
「まー、国っていうのはドラ○もんじゃないからね。お金も国民の血税だし、労働力も無限じゃないし……」
 ブロック食をぽりぽりやりながら、『眩い光』華神 悠乃(CL2000231)は独り言のようにつぶやいた。
 誰かやってと頼むより、自分からやったほうが物事は進みやすい。
「なんだっけそれ、どっかで聞いたことがあるなー」
 『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が髪の毛を指でくるくるやりながら記憶を掘っていた。
「あっあれだ。『暗いと不満を言う前に、進んで灯りをつけましょう』」
「でしたっけ……」
 制服姿でピシッと姿勢を正す『ハルモニアの幻想旗衛』守衛野 鈴鳴(CL2000222)。
 思えば彼らがこれまでやってきたことは、『進んで灯りをつけること』だったように思う。
 確かにファイヴはせかいへーわの人員を世界中から募っていたし、お金だって払っていた。しかし実際に世界について考えて、動いて、命をかけて戦ったのは他ならぬ覚者たちだ。
 今やっていることもまた、世界のための行動である。
「うっし、考えるより動けだ! まずは自分なりにやってみっか!」
 両頬をばしんをはたいて、遥は振り返った。
 向かうは与那国センター。
 講習会の場である。

●一般人と発現者
「みんな! 覚者はヘンじゃない!」
 ホワイトボードに『ヘンじゃない!』と書き付け、遥は大声で言い放った。
 きょとんとする受講者たち。
 遥はコホンと咳払いをすると、順を追って話すから聞いてくれと、身振りを交えて話し始めた。
「オレもオレの友達も、知ってる限りの人はみんな普通に生活ができてる。発現したからって生活がダメになることはないんだ。外見の違いは派手に出るけど、肌の色が違うのとさして変わんない。『色んな人が居る』ってことは、チキューの歴史からすればフツーのことなんだ。そこをまず知ってくれ」
 遥は知り合いの写真(許可をとったものに限る)をホワイトボードにぺたぺたと貼っていく。
 しっぽの生えたサラリーマン。
 猫耳のついた学生。
 翼のはえた教師。
「そりゃあさ、手から火がでたり自力で飛べたりするのはフツーじゃないけど、ぶっちゃけライターもハングライダーもフツーのものだろ? それを持ってるからって、生活が変わるわけじゃないんだ。強いて言うなら着る服とか変わるけど、それだってフツーの域から出てないやつばっかりだ」
 遥はそう語りながらも、自分の記憶を見つめ直していた。
 『発現者だから』という理由だけで起きた犯罪や悲劇を、遥は見過ぎるほど見てきたのだ。
 自暴自棄になって犯罪を犯す者。
 偏見の目で見られて迫害される者。
 根拠の無い全能感から他者を虐待する者。
 そして何より多かったのが、発現者を人間でないものとして見る風潮だ。
「発現して得られるのは力だ。暴力だ。凶器だし、武器だ。けど『ただそれだけ』だ。持ったからって使わなければそれはただの飾りと一緒だし、いたずらに振り回せば傷つくのはフツーのカッターナイフと一緒なんだ。だからオレからはまず……」
 コホン、ともう一度咳払いをして、遥は言った。
「発現者は一般人だ。そのことを伝えたいと思う」

●失敗は成功のもと
「俺のテーマは『しくじりから学んだこと』だよ。俺が発現したときに失敗したなって思ったことを、今から話すね」
 ホワイトボードに『失敗』と書き込んで、奏空は受講者たちを見回した。
 集まっているのは発現者と非発現者の混合。しかし誰もが発現に対してネガティブな感情を持っていたり、不幸な境遇にあった人々ばかりだ。元々そういう人々をケアするための施設なので当然の顔ぶれなのだが、奏空が不安視したほど悪い反応は無かった。
 ファイヴが作ったケア施設である。ファイヴの第一線で働く奏空たちに好意的なのもまた、当然のことかもしれない。
 話を戻そう。
「俺の最初の失敗。それはまわりに言いふらしちゃったこと!」
 ホワイトボードに『いいふらす』と書き付けた。
 そしてすぐにバツをつける。
「まわりもノリでもてはやしてくれたけど、それは最初だけだった。刀を振り回したり人を殺せるほどの電撃を放てることが分かると、あっというまに嫉みや僻み、差別や偏見に変わっていったんだ」
 矢印でガミガミ顔のイラストへと繋いで見せる。
「これは、まわりの人たちが発現者に対する知識がなかったことが原因なんだ。たとえばインフルエンザになったら学校を休むように言われるし、病院に行くようにも言われるよね。知っているってことは、それだけ大事なことなんだ」
 けど、まだみんな発現者のことをちゃんと知ってるわけじゃない。
 奏空は少し悲しげな目をして、そう呟いた。
 約30年。それは奏空のような子供からしたら長すぎる時間だし、それだけあれば東京タワーが十個くらい作れるだろうとも思える。
 けど実際は、日本国民の常識を書き換えられないほど短い時間なのだ。
 なまじ凶悪犯罪が起きすぎたせいで、忌避する人が忌避したままになっているのだろう。『暴力ゲームをプレイする子供が犯罪に走る』という論調に似た、非常に強力な偏見なのだ。
 けど、偏見は偏見だ。
 努力で常識を変えることはできる。それだけの力が、ファイヴにはあるはずだ。
「話を続けるね。言いふらすのをやめても、身体の変化は隠せない。学校にもよると思うけど、健康診断に発現検診が入ってるところもあるって聞くしね。けどその場合でも、力を使うのはできるだけ控えたほうがいいと思うんだ」
 発現者を危険視する人々の論調はアタマのおかしいものが多いが、中には納得できるものもある。
 例えば『没収できない凶器を常に所持している』という主張だ。
 あまりにネガティブにとりすぎだが、否定できないのも事実だ。
 しかしそれは遥が主張するように、カッターナイフも出刃包丁も、あるいは人体の骨ですら凶器になりえるのだ。人を傷付けるために振るえば、という前提つきで。
「力を制御できるってこと。そしてそれを周囲が知っているってことはとても大事なんだ。安全だってわかれば、距離が離れることだってない。俺はそう思ってる。けどね」
 ボードの文字を消して、奏空は向き直った。
「差別されるなら、その場から逃げてもいいんだ。離れることによってお互いが救われるってこともある。けど逃げ込む場所はちゃんと考えなきゃダメだ。悪い組織に身を寄せたりすれば、結局もっと酷いことになる。ファイヴがそういう時に役立つ組織になれたらって……俺は頑張っていくつもりだよ」

●自分を嫌いにならなくていい
「みなさん、そろそろ肩や腰が痛くなってきた頃ですよね。一度立ち上がって、深呼吸してみましょう」
 悠乃はそう言って、自ら率先して深呼吸をしてみせた。
「発現云々にかかわらず、まずは落ち着くこと。緊張をほぐしておけば、大体のことには対処できますからね。それでは始めましょう」
 悠乃はボードに一枚のポスターを貼り付けた。
 何も書いていない真っ黒なポスターだ。
「まずはそこのあなた。あなたにとって、恐いものってなんでしょう? そしてあなた……嫌いなものは?」
 何人かに質問をしていく悠乃。帰ってきた答えは『殺人鬼』『おばけ』『毒のあるキノコ』『妖』といったものだった。
 悠乃は頷いて、真っ黒なポスターを指さした。
「今出てきたものに共通するのはこれです。害がありそうなもの、よくわからないもの。一転して……」
 ポスターを裏返すと、キメ顔のアタリマンと『二次会費用は俺が出す!』と書かれたポップな字があった。誰だよこれ作ったのは。
 受講者たちは思いのほか愉快なものが出てきたことで、くすくすと笑いはじめた。
「害が無いと思えるもの。どんなものかわかるもの。そうなれば、恐怖や嫌悪の対象から外すことができます」
 この辺りは黒魔法防御の基本だったり精神医学の基礎だったりもするのだが案外忘れがちなことである。
「発現したらどうしても他者との関わり方が変わってくると思います。ですが、それ以前に自分との向き合いかたを帰るべきだと私は思っています」
 愉快なポスターを指さして、悠乃は肩をすくめた。
「自分を好きになるのは、すぐには難しいです。けど自分を嫌わない、怖がらないことはできます。今言ったように、害が無いとわかって、どんなものかわかれば、それはもう恐くない」
 どこからともなく拳銃を取り出し、悠乃はそれを天井に向けた。
「拳銃は凶器です。人を殺せます。けど使い方さえ学べば……」
 銃身をスライドさせて弾を抜き、マガジンを排出して空っぽにする。引き金を引いて見せても弾が出ないことを証明してみせる。
「この通り。安全に使いこなすことができます。さしあたって重要なのは、力の使い方を学ぶ場でしょう」
 こればかりは、学校教育でどうこうできる次元ではない。
 とてもヘンなたとえだが、基本的な性教育ですらまともに時間をとれず、間違った知識が広まる現代社会である。若くして妊娠した人がどうすればよいか学ぶ場所があるように、発現してしまった人が力の使い方を学べる専門の機関があればよいだろう。
「どんな場があれば学びやすいか、ぜひ意見を聞かせてくださいね」

●人間として生きていく
 ホワイトボードの前に立つ、鈴鳴。
 彼女は自らの胸に手を当て、そして重々しく言った。
「普通の人から見れば、私たちは異端な存在です」
 絶対に手放せない危険なエネルギーを持ち、人体の常識から著しく外れた肉体をもつ。
 場合によっては殺しても死なず、自我から離れたバケモノになってしまうことすらある。
「この力を悪意をもってふるう人たちがいる。それも事実です。そうした人々の印象が根強く残り、世間に警戒心を抱かせ、不安を募らせるのも無理は無いでしょう」
 悪意ある少数によって多数が偏見を受ける。
 長い人類史において、そうした現象は数多く起こった。
 発現者問題に限らず、現代日本でも様々な分野でおきていることだ。あまりに多すぎて、そしてデリケートすぎてたとえ話にするのもはばかられるような……。
「だけど、だからこそ、印象を良くする努力が重要なんだと思います。私たち……私たちが、世間とどう関わっていくべきなのか」
 『私たち』に強く力を込めた。
 遥や奏空、悠乃たちが発現者と人間は同じものだと語る一方で、どうしても違う部分があるということを鈴鳴はしっかりと主張したのだ。
 これも恐らく、発現者問題に限らずあらゆる分野で言われることだ。
 差別はせずとも、区別はせねばならない。
「まっさきに思いつくのは、神秘の力を世のために活用することです。けどこれは、簡単なことじゃありません」
 鈴鳴はこれまで、大きすぎる義務感に潰された人々や身の丈を超えた戦場に飛び込んでしまった人々を見てきた。
 そこには想像を絶する恐怖や不安があり、えてして不幸を招いた。
「私は、一人の人間として発現の有無によらないつながりをもつこともひとつの答えだと思います。例えば……」
 鈴鳴はホワイトボードにいくつかの写真を貼り付けた。
 マーチングバンドとして活動する鈴鳴自身の写真だ。
 他にも料理人や演奏家、小説家やカメラマン、アイドルや教師など様々な人々の写真が貼り付けられた。
「音楽は人類にとって平等です。発現者であるか否かは関係なく、いっぱい練習していっぱい努力する。同じフィールドで、私たちはつながっています」
 料理の味。
 撮影する写真。
 描く絵画。
 なんならネットゲームのスコアですら、人は平等なラインに立たされる。
「そうして完成されたアートは、分け隔て無く人々を笑顔にできるんです」
 くるりと向き直り、最初にやったように自らの胸に手を当てる鈴鳴。
「力の有無以前に、私たちは一人の人間です。心ない言葉に傷つき、優しい言葉に心を温かくする。それはどんな職業の人でも、どんな立場の人でも、どんな国籍のひとでも同じ……それが広く知れ渡り、お互いを尊重し合えるような世の中になればと、願っています」
 いえ、と小さく首を振って、鈴鳴は言い直した。
「そうなるように、つとめています」

●そして未来へ
 四人の講習は経験の深い覚者の言葉として記録・編集され、全国の教育機関へと配られることになる。
 たとえば飲酒の善し悪しや危険性を説明する時間のように、たとえばアメリカにおける銃教育のように、いつかは小学校や中学校で『覚者を学ぶ時間』が作られることだろう。
 そんな未来に向けた最先端に、ファイヴの覚者たちはいる。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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