信徒達の宴 
【闇色の羊】信徒達の宴 



 如月晶の事件から数日後、恩田・縁は『H.S.』を訪ねる。
 待たされはしたが、応接室へと案内された。

 姿を現しソファに座ったH.S.の代表・吉野 枢へと、菓子折りのチョコを差し出す。
「ちなみに、毒なんかは入っていませんよ」
 にこやかに視線で折り菓子を示せば、相手はわざとらしく、ヒョイと片眉を上げた。
「疑ってもみなかったな」
 そう言いながらも、枢は縁へと貰ったばかりのチョコを差し出す。
「これはこれは、どうもご丁寧に」
 笑顔で応え、チョコを1つ取って口に入れる。そして事後報告になる事を詫びつつ、事件の顛末を伝えた。
「その報告ならば、レディ・ハイランドからすでに受けている」
 背筋を伸ばしソファに座ったまま、枢は「わざわざご足労だったな」と会話を終わらせようとする。
「ええ、知っていますが。それとは別に、私個人として聞きたい事があるんですよ」
「……何だ?」
 相手は僅かに警戒の色を滲ませると、目を細めた。
「果たして今回の事件、聖羅、ひいては黒幕の真意は何か? どう思われるかそのご意見をお聞きしたいですね」
 縁の言葉に目を瞠り、「さぁな」と答える。
「人殺し達の考える事など、理解不能だ」
 腕を組みソファに凭れかかると、「他には?」と興味も無げに尋ねた。
「H.S.として今後、この件にどのように関わりたいか」
 動きを止め、枢は鋭く縁を見返す。
「いえ、今後協力していく上で今回みたいな事になった時のスタンスを明らかにしておきたいと……。折角協力関係にあるのに、また事後報告になるなんて嫌でしょ? 吉野 枢さん」
 マイナスイオンを発しながらの縁に、憤怒者組織.の代表は、纏う空気を崩さず答えた。
「全てだ」
 ひと言を発し、一瞬の間を置いて続ける。
「『死の導師』は、元々はFiVEではなく、我々に接触してきていた筈だ。我々を利用し、我々を馬鹿にしてきた。罪の無い人間を、殺して」
 そこでギリッと奥歯を食い縛り、言葉を止めた。
「死の導師の件に関し、我々がその全てに関わるのは当然の権利だと思うが?」
 しばらくお互いを探るように見つめたままでいると、ノックの音が沈黙を破る。
 入ってきた男が枢に耳打ちし、聞いた枢がクスリと笑うと、縁へと身を乗り出した。
「さて、恩田さん。我々はずっと、西宮市郊外にあるルファが司祭を務めていた教会を見張っていたんだが。どうやら大月盞花の妹、大月鳳花がルファと接触したらしい。……考えたな。盞花の墓に、ルファ宛の手紙を置いていたようだ。我々が教会を見張っていると知ってか知らずか、今、ルファは教会に戻っている。警戒心が薄いのか、馬鹿か――それとも覚悟の上か――いずれかだな」
 さて、と枢が立ち上がる。
「私は今から教会に向かう。姿を消していた隔者が現れるなんて、こんな機会は滅多にないからな。君も来るか?」
 少しの間を置いて、縁は「勿論ですよ」と立ち上がった。
「鳳花さんとは、少し言葉を交わした事もありますので」


「恩田さん……」
 枢と共に姿を現した縁に、教会にいたルファ・L・フェイクスは驚きに目を瞠る。
 そのすぐ傍に、鳳花が立っていた。
「鳳花さんもお久しぶりです」
 物腰柔らかく微笑んだ縁に、少女はルファの腕へとしがみ付く。ルファの袖に、顔を埋めた。
 その様子には、違和感を覚える。
 超直観で探ろうとした縁の視線を遮るように、ルファが鳳花の前へと立った。
「ところで、ご用件は何でしょう? 私を――死の導師・癒雫を、討伐に?」
「ああ、それもいいな」
 即答した枢に、ルファは微笑み返す。
「そうで……」
「――だめよッ!」
 突如、鳳花が声を張り上げた。
「ルファ司祭様は、バザーを行われる為にお戻りになったのよ! 皆がこれ以上不安がらないようにって! だから、邪魔をしないでッ」
 その必死な様子にも、何だか不自然さを感じる。
「……でしたら、鳳花さん。仲間を集め、FiVEがバザーをお手伝いしましょう」
「そうだな。微力ながら、我々H.S.も手伝おう」
 言った縁と枢を驚愕の顔で見返してきた鳳花は、すぐさまルファの服に顔を埋めた。


「恩田の話では、大月鳳花さんの態度が気にかかるという事だ」
 中 恭介(nCL2000002)は、覚者達へとそう告げる。
「そして先日の事件時に『私をしっかりと敵と認識する必要がある』と自ら言ったルファ司祭にも、注意が必要だろう。ルファが言うように、彼を敵と判断するかどうかは直に接触するお前達に任せる――が、油断はするな。それから、ルファと敵としてではなく相対するのは、これが最後になるかもしれない。彼の言葉からして、今後、ルファから連絡が入る事はないだろうからな」
 ――だが、まずは。
「司祭としてのルファを信頼している信徒達の為に、バザーを成功させてくれ。
 そう言った恭介に、覚者達は頷いた。


■シナリオ詳細
種別:シリーズ
難易度:簡単
担当ST:巳上倖愛襟
■成功条件
1.バザーを成功させる。
2.なし
3.なし
皆様こんにちは、巳上倖愛襟です。
こちらは羊シリーズ【闇色の羊】第3話となります。

『愚者の宴』にて『後日プレイング』を書かれていた恩田・縁(CL2001356)さんの『H.S.訪問』から始まりました。

今回は、ルファや信徒、H.S.と共に、バザーを成功させて頂きます。


●現場
兵庫県の南東部、西宮市郊外にある小さな教会。
現在も、信徒達の強い要望により、司祭はルファのままとなっています。
けれども動揺したり、ルファの身を案じて不安がる信徒達もいた為、毎年恒例のバザーが中止となりかけていました。
鳳花からの手紙でそれを知り、ハザーが終わるまでの期間、ルファが司祭として戻っています。

両側が林に挟まれた道の先にある教会ですが、林が終わってから教会までに広い空間がある為、そこでバザーが行われます。
バザーの収益の一部は、近所にある孤児院に寄付されます。


●バザーでして欲しい事

1.衣類、日用品、雑貨などの持込、販売。
2.お菓子(クッキーなど)を作る。ラッピングする。
3.作ったお菓子などの販売。
4.やきそばやわたあめなどの露店。
5.テントの下にある喫茶での店員。
6.来客者からの献品(衣類、日用品、雑貨など)の受付。

などがあります。
(無理でない範囲で、複数担当して頂けます)


●ルファ・L・フェイクス。 27歳。翼人・水行
本来は兵庫県の南東部・西宮市郊外にある小さな教会の司祭。現在は隔者組織『死の導師』の「癒雫(ゆだ)」。
組織のリーダー・聖羅の背後にいる黒幕の正体を探る為、聖羅の命を護る為、組織に残っています。
OPで恭介も伝えていますが、今後、仲間としてはFiVEの前に姿を現さないのでは、と推測されます。
バザー中は、基本的に『6.来客者からの献品(衣類、日用品、雑貨など)の受付』をしています。

今までのルファの大体の経緯は以下の通り。

■『【緋色の羊】雨の夜に現れし悪魔』
自分に好意を寄せる少女・大月盞花を目の前で聖羅と灰音に殺害されました。

■『【緋色の羊】私の愛した悪魔』
「聖羅の情報・黒幕について得た情報を限定して流し、『死の導師』のリーダー・聖羅の事は守るよう立ち回る」事で同意し、任務にあたったFiVEの覚者達と約束しています。

■『【闇色の羊】遵奉者達の宴』
姿を消した憤怒者・岩崎が、『ルファの事も仲間として戦うFiVE覚者達の姿を撮影していた』事を知り、「FiVEの覚者が『隔者』と繋がりがある、と見做され一般人からの信頼が揺らいでしまうかもしれない」と考え、「私をしっかりと敵と認識する必要がある」とFiVEの覚者達に告げました。


●聖羅(せいら)
緋色の瞳の青年。隔者組織『死の導師』のリーダー。
『浄化』という、相手の「1番忘れたい」と願う記憶を消す事が出来る能力を有していますが、その能力は同時にその本人が「1番忘れたくない」と願う記憶も消してしまうデメリットがあります。
今回のOPには登場していません。


●大月鳳花 15歳。
大月盞花の妹。シナリオ『【緋色の羊】悪魔は2度嗤う』にて、恩田・縁さんへと殺害された盞花について、「姉は悔しかっただろうと思って」と僅かに本心を語りました。

今回のシナリオでは、ルファから離れずずっと傍にいます。ルファから離そうと思えば、簡単ではなく、工夫が必要となります。(「一緒に○○しよう」程度では、断られます。「断る訳にいかない」程度の理由が必要となります。)
離さなかった場合は、ルファへとかけた言葉は全て鳳花に聞かれます。


●H.S.(ハーエス)
『隔者や破綻者にしか攻撃しない』を掲げている憤怒者組織。
正式名称『Heiliges Schwert』(『神聖なる剣』の意)
代表者 吉野 枢(かなめ)29歳。
現在はFiVEと協力関係にあります。

今回は枢を含む6人がお手伝いします。


●宮下刹那(nCL2000153)
隔者組織『死の導師』の元一員で、永久という夢見の妹と共にFiVEに保護されました。組織内での呼び名は灰音。組織では常にリーダーの傍らにて行動を共にしていましたが、聖羅の『浄化』を受け組織で活動していた時の事は憶えていません。
ちなみに料理は出来ません。
何か指示がある場合、『相談ルーム』にて【刹那へ】とし、指示をお書き下さい。(プレイングに書く必要はありません)



●リプレイ
バザー当日。バザー前の準備中から描写予定です。(プレイングにより、変化します)

●プレイングについて
今回、『後日プレイング』を書かれていたとしても採用は出来ませんので、ご了承の上、ご参加下さい。


以上です。
それでは、皆様とご縁があります事、楽しみにしております。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
公開日
2017年06月20日

■メイン参加者 4人■



「さて……」
 バザーの準備をする信徒達やH.S.の隊員達の様子に目を向けながら、『誰が為に復讐を為す』恩田・縁(CL2001356)は、思考を巡らせていた。
(今回の一連の騒動は、第三者の『思惑』を感じます。覚者の信用を失墜させ、世の中の敵にさせるという思惑が……)
 小さく息を吐いて、超直観を働かせる。
(ここで何か仕掛けてくる可能性も高いですしね。超直観は、怠らずに行いましょう。……特に、鳳花さんには――)
 バザーが始まる前から、大月鳳花はルファ・L・フェイクスの傍を離れない。
 受付の準備をする2人を、鋭く見つめていた。
 ――必要以上に離れなさ過ぎ……そんな気がしますね。

 教会の調理場。
 クッキーの生地を作るエルフィリア・ハイランド(CL2000613)は、時間を見ながら「そうね」と呟く。
「クッキーだけじゃなくてカップケーキも焼いちゃいましょ」
 素早く手を動かしながら、同じくお菓子の準備をする『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)へと感心の目を向けた。
「あら、ラーラちゃん。若いのに手際がいいわね」
 クッキーにケーキ、ビスコッティの下拵えを進めながら、ラーラは可愛いオーブンミトンをはめた手で鉄板を持って微笑む。
「私の実家、実は焼き菓子のお店やってるんです。お母さん直伝のビスコッティ、みんなに食べて貰えたらいいなって」
 そうなのね、と頷いたエルフィリアの後ろから、「それは頼もしい」と司祭の声がする。
「美味しいお菓子は、皆さんきっとお喜びになります」
 そうしてエルフィリアの手元を見たルファが、「それにしても」と口元へと手をあてた。
「少し……なんと言いますか……少し、意外です。料理、なさるんですね」
 見えないかしら? と返すエルフィリアに、鳳花がルファの袖を引く。
「司祭様、失礼だよ」
「え、本当に?」
 判っていない男は、それでも「これはとんだ失礼を」とエルフィリアにお辞儀した。
「ハイランドさん。来て下さった事、心より感謝しています」
 続いた男の言葉に、エルフィリアは「いいのよ」と肩を竦める。
「バザーのお誘いだもの。FiVEのイメージアップも兼ねて、参加も良いと思っただけよ」
「いいえ。今日だけではなくて」
 ルファは微笑んで、エルフィリアを見つめた。
「ずっと、です。私が、破綻者になりかけたあの夜から、あなた方にはお世話になってばかりです。助けられてばかりで。……どうか、今まで関わって下さったFiVEの方々にも、お礼を伝えて頂けますか」
 よろしくお願いします、と告げて。ルファはラーラへと向き直る。
「ビスコッティさん。晶の時の事も、心より感謝をしています。彼は、大丈夫ですか?」
「晶さんは、まだご自身がした事のショックが酷いようですけれど。FiVEに所属する事になるのではと思います。彩吹さんも、尽力されていましたから」
 内容を聞いて、「そうですか」と男は頷いた。
「あなた方と一緒なら、彼もきっと立ち直れると信じています」
 晶をよろしくお願いします、と頭を下げて、司祭は鳳花と共に去って行った。
 ラーラと顔を見合わせたエルフィリアは、「いけない、急がなくちゃ」とお菓子作りを再開する。
「前日とかあれば、前もって大量に焼けたんだけど」
 オーブンも足りるかしら? と言ったエルフィリアに、ラーラは「大丈夫ですよ」と笑ってみせる。
「私、お菓子を作ってすぐ側で売り出すスタイルで営業しますから。今するのはその準備だけなので」
「ならクッキーもカップケーキも、レーズンやチョコチップ、ナッツなんかを混ぜたものを何種類か用意出来るわね」
 
「FiVEと、隔者と、憤怒者……壮観だね」
 仲間達や信徒達、H.S.を目で追いながら、『ニュクスの羽風』如月・彩吹(CL2001525)は息を吐く。
 林道からは、強い風が渡っていた。その風が、彩吹の視線を来客者達に導いてゆく。
 ――普通にバザーを楽しみにしている人も沢山いるんだろう。
 強く吹く風に長い髪を押さえて、彩吹は心に決めていた。
(一般人である信徒達の為にも、成功できるようがんばろうか)
 けれども、懸念は拭えない。
(……単純に。バザーで終わればいいけど、ね)


「よーし、久しぶりに張り切っちゃいましょうか」
 ラーラは1度オーブンで焼いて荒熱を取ったものを、一口大に割って再び焼きながら、調理場の近くで販売していた。
 良い香りが辺りに漂えば、それに反応して鼻をヒクヒクとさせる来客達が何人か。
 興味を持ってこちらに向いた表情を見逃さず、チラッと一瞬だけこちらを見た顔も、ラーラの超視力は見逃さない。
 素早く呼び込みの声をかけた。
「本場イタリア仕込みのビスコッティですよー。クッキーやちょっとしたケーキもあります。焼きたての内にどうぞ!」
 焼きたて、の言葉に弱い女性客が、「美味しそう」と近寄ってくる。
 買ってアツアツを齧った男性客が、「固ったッ!」と顔をしかめた。
「再び(ビス)焼く(コット)ので、水分がほとんど無くなってしまうんですよ。トスカーナ地方の郷土菓子で、あちらではカントッチョと呼ばれています。コーヒーやカプチーノに浸して食べると、ビスコッティの香ばしさと甘みが飲み物と相まって、とても美味しいんですよ」
 喫茶はあちらにあります、とお客達へと説明しながら、微笑んだ。

 焼く仕上げの残りをラーラが請け負ってくれたので、エルフィリアはやきそばの露店を担当する。
「神父様にはああ言われたけど。料理の腕にはチョット自信あるのよね」
 ジャンジャン焼いちゃいましょ、と豚肉を鉄板で焼き始めた。
 両手に起こし金を持って、懸命に具材とそばを混ぜる。
 カンカン、と起こし金を擦り合わせる音と、ジュージューと焼く音とが、軽快に響いていた。
 ソースをかければ、その匂いに客達が寄ってくる。
「焼き難そうだね」
 中学生くらいの少年が声をかけてくれば、そこは技術でカバー、とウィンク。
「お姉さんは細腕だから豪快な焼き方は見せられないし、その辺はご勘弁」
 替わってやろうか? と何人かに声をかけられながら、やきそばの露店の前は賑やかに時間が過ぎていった。

 長い髪をキュッとポニーテールにして三角巾。
 エプロンをつけた彩吹は、人好きのする笑顔を浮かべ、喫茶で接客していた。
 どうしても一般人である信徒達と、憤怒者であるH.S.はギクシャクとしている。
「ルファ司祭様の事も、いつか……」
 信徒達はそう思ってしまい、
「慕われてもいるようだが、所詮はルファも隔者。油断出来ない」
 H.S.の者達は、そう思っている雰囲気が出てしまっていた。
 超直観でそれを見抜いた彩吹は、さりげなく彼等に近付く。
「今日の目的は、お互いバザーの成功と聞いているけど?」
 ピクリと反応した彼等の背中を、ぺしん、と叩いた。
「顔が引きつってるよ」
 そう言って、「接客業は笑顔が命!」と笑う。
 交代する為に来た宮下刹那を見かけると、むにっ、と青年のほっぺたを軽く引っ張った。
「何だ?」
 眉間に皺を寄せ問うてきた刹那を、「ついで」と笑顔で見上げる。
「……そうか」
 仏頂面のまま答えた刹那の手が、彩吹の両頬を引っ張ってきた。
「はに?」
 引っ張られたままの彩吹が上手く喋れない事に、女性に対して配慮のない刹那が微かに口角を上げて笑う。
「ついでだ」

 喫茶の接客を手伝っていた枢に、縁は話しかけていた。
「吉野さん。1つお願いがあるのですが」
 いつものように微笑む縁に、男が怪訝な顔を向ける。
「憤怒者、岩崎の背後関係の調査をお願いしたいのです」
 岩崎? と聞き返してきた枢に、縁が頷いた。
「……もしかしたら、貴方方を嵌めたのは岩崎の背後かもしれませんよ。……勿論、こちらもわかった事は情報提供しますとも」
 超直観を用いていた縁が、話しながら見た枢の反応に違和感を覚える。
「何か?」
 いや、と1度否定して。腕を組んだ枢が「確か」と口を開いた。
「その岩崎というのが、岩崎遼の事を言っているのなら、心当たりがある」
「……本当ですか?」
 聞き返した縁に、枢が頷く。
「ああ。彼に最初に会ったのは5年前、岩崎君はまだ18歳だったよ。彼の両親が『死の導師』に殺されてね。その次に会ったのが、2年前。塾の講師をしていた彼の叔父が破綻者によって殺害された時だ。これにも、『死の導師』が関わっていたな。……両方、私達が駆け付けた時にはもう、手遅れでね。残念だった」
「彼の勤めていた学校に、確認してみましょう。もし同一人物なら、彼は隔者や破綻者という括り以外に、『死の導師』にも徒ならぬ恨みを持っている、という事になります」

 そして。『H.S.』とも無関係ではない――。

(……さて。我々FiVEは、これらをどのように解釈するべきなのでしょうか)


 喫茶の方はH.S.や刹那に任せ、献品の受付に入ったのは、彩吹。
 寄付してくれた客の名前と住所を控え、物品の種類ごとに置かれたダンボールへと仕分けしてゆく。
「ありがとうございます」
 笑顔で応対した。
 献品してくれる人が途切れたタイミングで、彩吹はルファへと話しかける。
「何でこの教会に? H.S.が見張っていることくらい、知っていただろう?」
 チラリと彩吹を見た司祭は、「そうですね」と接客している信徒達へと視線を移した。
「信徒の皆さんに、最後のお別れをする為に……。今日で最後と納得し、皆さんさえ受け入れて下されば、次の司祭も来てくれるでしょう。そして私は、明日より聖羅から離れる事はありません。彼の命を、護らなくてはいけませんから」
 次に受付へと献品を持ってきたのは、縁。
 ネックレスにジュエリー、リングなどを受付の机へと並べた縁に、ルファが驚きの視線を向ける。
「これは……」
「……全部、妻や妹の形見の品の一部だったりするんですけどね」
「宜しいのですか? 大切な品を――」
「ええ。それよりルファ司祭、今日はバザーが成功の様で何よりです……。しかし鳳花さんはルファ司祭にべったりですね。……まるで盞花さんのようだ」
 わざと姉の名を出し少女の反応を窺う縁の前で、鳳花が目を見開く。キュッと唇を噛んだ少女は、ルファの腕へとしがみついていた。
 しかしそれは、甘えていると言うよりは、まるで彼を逃がさぬようにとしているように見える。
 それ以上の反応を見せぬ少女を超直観で見つめ続けていた縁は、そっと息を吐いて視線をルファへと向け、送受心・改で彼にだけこっそりと言葉を贈った。
(「前回は私の理念に抵触しそうだったので傍観でしたが……。例え、貴方が敵になったとしても……私は味方ですよ。……そしてバザー中警戒だけは怠らない様に」)
 縁の言葉を受け取ったルファは、そっと瞼を閉じる。そうして縁へと返事を返した。
(「理念はきっと、皆さんお持ちでしょう。それに従うのは、当然の事。それでもこうして、今日来て下さった事、感謝致します。理念はとても大切なものです。どうぞそれを貫かれますように。そして……友情、と。お呼びしても構いませんか? あなたの友情に、感謝致しますよ」)
 しばらく沈黙した男は、心の中で伝えてくる。
(「恩田さん。晶の事件を終え、戻った私に聖羅が言いました。『もっと上手くやれ。怒られた』と。これは、晶の勧誘に失敗した事を言っているのではありません。あの言い方は……私があなた達に連絡した事が、『黒幕』に知られている事を指しています。……恩田さん。私から黒幕に繋がる情報をお伝えするのは、きっと、これが最初で最後となるでしょう。黒幕は、あの事件を知る事が出来た人物。それも、私が戻る前に聖羅へと連絡する事が出来る程、いち早くあの事件の事を知り得た人物です。――後は、あなた方に託します。どうか、死の導師を操っている黒幕を見つけて下さい」)

「鳳花さん」
 突如、ラーラが慌てた様子で受付へと駆け寄ってきた。「えっ」と驚く少女に、ラーラは困った様子で口を開く。
「すみませんがお手伝いをお願いできないでしょうか? ……予想外にお客さんが増えてきて。お菓子を作る方が間に合わなくなっちゃいそうなんです。せっかく来てくれたお客さんに売り切れをお伝えするのも気が引けますし……他の方々もお忙しそうで、お願いできるのはもう鳳花さんしか……」
「でも……」
 他に誰もいないと言われれば、反論の声も弱くなる。「如月さんにお願いすれば……」と言いかけるが、「お願いします」と繰り返したラーラに、鳳花はルファを見上げた。
「行ってさしあげなさい。手伝いに来て下さっている方々にばかり、ご迷惑もおかけ出来ません。私は、バザーが終わるまでどこにも行きませんから」
 何か言いたげに見てきた鳳花に、彩吹は「ごめんね」と前置きして言う。
「貴女もルファが心配かもしれないけれど、私も心配。今ちゃんと話をしないと、彼はFiVEと自分をつなぐ糸を切ってしまう気がする。だから話をさせて」
「わ、たしは……」
 言いかけて、口を噤む。そうして、「少しだけなら」とラーラに向き直った。
「ありがとうございます」

「ルファしさいさまといっしょ! きれい!」
 空色の羽を見て言ってきた子供に、エルフィリアはやきそばを焼く手を止めて、しゃがみ込む。
「そう? 触ってみる?」
「うん!」
 ふわふわー、とその感触に喜ぶ子供越しに、ラーラと共に走る鳳花に気付いた。
「あら、ラーラちゃん。連れ出す事に成功したのね」
 よかったわ、と呟いて。子供には笑顔を向けながら、心の中では別の事を思う。
(……それにしても鳳花ちゃん、事情を知らないなりに何かを察したのかしら?)


 ラーラと鳳花が走って行ってしまうと、彩吹は会話を再開させる。
「前に言っていたよね、自分は敵だと。正直、味方かと言われると首を傾げる部分は私もあるけども。晶を守るために体を張った貴方を、私は信用できると思っているよ。隔者だから、周りが言うから、ではなくて。信用するかは自分で決める」
 僅かに微笑んだ男は、「そう言えば」と口を開く。
「晶は、FiVEに所属する事になりそうだとか。皆さん、彼の為に頑張って下さいましたから」
「そうだね。晶には幸せになってもらいたいよ。その助けは、勿論する。貴方とも、前回のようなことがあれば、一緒に戦う。……ルファ、貴方は一体何がしたいの? 聖羅を守り、信者の人の要請に応じ、FiVEとも共闘できる貴方の願いは何?」
 超直観を用いている彩吹は、男の誤魔化しを許さない。話を逸らそうとしても無駄だよ、と視線に込めた。
「私の願いについて、聖羅はこう言いました。『己には望んでいるクセに、他人にはしてやれない事』と。……あの言葉、当たっていますよ。そしてあなた達ではきっと、叶える事が出来ないでしょう。あなた達は誰にでも、とても……優しいですから」

 代わりに少しの間店番をしていた刹那に、ラーラは丁寧にお礼を言う。
「忙しくさせてしまってますか?」
 問いかけたラーラに首を横に振って、刹那は「暇なのよりはよっぽどいい」と答えた。
「指示に感謝する。喫茶の方に戻る」
 無言で2人の遣り取りを見ていた鳳花に、「ではよろしくお願いします」とラッピングの仕方を伝える。
 しばらくは元気の無かった鳳花も、慣れてくるとお客にもラーラにも、笑顔を見せるようになっていた。
「私も包装くらいなら手伝えますか」
 ラーラ達の店に来た縁が、にこやかに言う。
 仕方を教わり手を動かしていた縁は、鳳花を超直観で観察しつつ、話しかけた。
「鳳花さん。以前あなたは、お姉さんが悔しかっただろうと思うと仰いましたね。今でもそう、お思いでしょうか?」
「ええ、思います」
 硬い口調で答えながら、少女は顔を上げない。その様子を見つめながら、更なる質問をした。
「お姉さんが幸せだったと笑っておられたと、お伝えした事も憶えておいでですよね? ……ルファ司祭への想いも、お聞かせ頂けますか?」
「――ルファ司祭様は、特別な方です。姉にとっても……私に、とっても……」
 声を震わせる鳳花に、縁が静かに告げる。
「貴女……何か隠してませんか?」
 ピクリと反応したのを見届け、更に続けた。
「憤怒者の岩崎――という男の事を何かご存知なのでは?」
 息を止めて。鳳花は「まるで尋問みたい」と小さく呟く。
「人数は、足りてるみたいですね」
 一気にラーラへとそう言って、鳳花はルファの元へと戻って行った。
(さて、あの言い方、あの表情。はたしてルファ司祭への想いは、『好意』だけなのですかね)


 バザーが終わっても後片付けがあると、エルフィリアはそれも手伝っていた。
 ――一時の夢が終わって、現実へ。
「こうやって神父様とH.S.の面々が一緒に何かをやる事は2度とないでしょうね」

 それこそ、奇跡が起きない限りは、ね。

 ボツリと呟いたエルフィリアは、H.S.や信徒達を見回す。
 そうして、「あら」とルファの手を引いて歩いて行く鳳花を見つけた。
「……ねぇ、あっちには何かあるの?」
 近くにいた信徒に聞けば、「墓地です」と答える。
(2人で墓地へ……?)
「一応、皆に知らせとくべきかしら」


 仲間達や枢にも伝え墓地へと向かえば、2人はある墓の前に立っていた。
 見つめ合う2人は、まるで恋人同士のようだ。
「ちょっと待って下さい」
 ラーラが、鳳花の手に光るものを見つける。
「まさか……」
 目を見開いた覚者達や枢の前で、鳳花がルファの胸へと飛び込んだ。

「姉の、かたき……」
 風に乗った、少女の闇色の声を。
 駆け寄る覚者達は、確かに聞いた気がしていた――。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

ご参加頂き、誠に有難うございました。
お待たせをしてしまい、大変申し訳ありません。

皆様のプレイングにより、様々な情報が今回は出てきました。
今後に繋がる情報です。

少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。
有難うございました。




 
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