古妖の絵本『頑張り過ぎた三匹目の子豚』
●煉瓦ってなんだっけ
煉瓦を積み上げていた子豚はふと気づいた。このままでは脆いんではなかろうか。そこで隙間に泥を詰めて火で炙り、しっかり固めておく。
幾重にも強固な壁を気づいた子豚はふと気づいた。このままでは狼を倒せないのではないか。そこで大砲をつくり、いくつもの砲門を用意した。
周囲を薙ぎ払う火力を手にして子豚はふと気づいた。このままでは侵入されたらおしまいなのではないだろうか。そこで家の中に無数の罠を仕掛ける事にした。
完全体の家を手に入れた子豚は思想にふける。ずぼらな兄二人の事だ、適当な家を作って苦労して、泣きついてくるのだろう。そうしたら迎え入れてやれるよう、個室も作ってある。ゆくゆくは両親も呼んで、再び家族で……将来を夢見る子豚は気づかない。助けを求めに来た二匹の子豚が罠にかかり、死んでいたことに。
●やり過ぎは良くない
「ていうのが、今回の話だ」
説明を終えた久方 相馬(CL2000004)は遠い目をする。
「まぁ例の如く、落ちてる本に触れば中に入れるんだが、それをやらずに本を焼いたりすると、古妖が他の本に移ったり、人を敵視するようになるからちゃんと中に入って古妖を倒してきてくれ」
ぜってーそれだけじゃ終わらねぇ……そう言わんばかりの覚者たちの視線に、相馬はため息をつく。
「今回やることはシンプルだ。もはや城ってレベルの子豚の家に入り込んで、ここまでは必要ないって説得する。分かりやすいだろ? ……子豚に辿り着くのがバカみたいに難しいってだけで」
やっぱり……頭痛を覚えた一同に彼は虚ろな眼差し。
「大丈夫大丈夫、ちょっと砲弾の嵐を掻い潜ったり、少し罠屋敷を探検するだけだ」
大丈夫とは何だったのか……しかし放っておけば、何かの拍子に一般人が巻き込まれるかも知れない。行くしかないんだから仕方ないね。
煉瓦を積み上げていた子豚はふと気づいた。このままでは脆いんではなかろうか。そこで隙間に泥を詰めて火で炙り、しっかり固めておく。
幾重にも強固な壁を気づいた子豚はふと気づいた。このままでは狼を倒せないのではないか。そこで大砲をつくり、いくつもの砲門を用意した。
周囲を薙ぎ払う火力を手にして子豚はふと気づいた。このままでは侵入されたらおしまいなのではないだろうか。そこで家の中に無数の罠を仕掛ける事にした。
完全体の家を手に入れた子豚は思想にふける。ずぼらな兄二人の事だ、適当な家を作って苦労して、泣きついてくるのだろう。そうしたら迎え入れてやれるよう、個室も作ってある。ゆくゆくは両親も呼んで、再び家族で……将来を夢見る子豚は気づかない。助けを求めに来た二匹の子豚が罠にかかり、死んでいたことに。
●やり過ぎは良くない
「ていうのが、今回の話だ」
説明を終えた久方 相馬(CL2000004)は遠い目をする。
「まぁ例の如く、落ちてる本に触れば中に入れるんだが、それをやらずに本を焼いたりすると、古妖が他の本に移ったり、人を敵視するようになるからちゃんと中に入って古妖を倒してきてくれ」
ぜってーそれだけじゃ終わらねぇ……そう言わんばかりの覚者たちの視線に、相馬はため息をつく。
「今回やることはシンプルだ。もはや城ってレベルの子豚の家に入り込んで、ここまでは必要ないって説得する。分かりやすいだろ? ……子豚に辿り着くのがバカみたいに難しいってだけで」
やっぱり……頭痛を覚えた一同に彼は虚ろな眼差し。
「大丈夫大丈夫、ちょっと砲弾の嵐を掻い潜ったり、少し罠屋敷を探検するだけだ」
大丈夫とは何だったのか……しかし放っておけば、何かの拍子に一般人が巻き込まれるかも知れない。行くしかないんだから仕方ないね。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.子豚の説得
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
いかにして砲撃を掻い潜り、どのようにして罠を回避するのか
某蛇の名を冠した工作員みたいなカッコいいプレイングを楽しみにしております
【トラップ一覧】
1:砲弾の雨
要塞という名の煉瓦の家に近づくためにはまず砲撃を避けなければなりません。大丈夫、直撃しても吹っ飛んだり黒焦げになったりアフロになったりするだけだから!
2:槍の廊下
一定時間毎に槍が飛び出してきます。穴があるから避けようはあるけど、どうせなら芸術点を求めたポーズの方が楽しいと思うの
3:大玉コロコロ
後ろから鉄球が追いかけてくるから全力で走って、最後の落とし穴でじゃーんぷっ!
4:コンベアランニング
床が後ろへ向かったり横へ向かったり、あちこち勝手に動き始める楽しい廊下。全力で走るのはもちろんの事、方向転換のタイミングに気をつけないとおうちの外に放り出されちゃうぞ☆
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
4/6
4/6
公開日
2017年06月10日
2017年06月10日
■メイン参加者 4人■

●雨が降ろうが砲弾が降ろうが
「撃ってくるという事は、こちらの気配を感じ取るなり目で見るなりして、狙いを定めているはずですよね。だったら、見つかりさえしなければ……」
盛大にフラグを建てる『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。案の定、ほーら風切り音が……。
「え、あれぇえええ!?」
慌てて飛び退いたラーラに斎 義弘(CL2001487)が苦笑。
「今回はトラップハウスという話があっただろう? と言う事は、向こうがこちらを発見しなくても、自動的に何かが作動するようにできてるんじゃないか?」
そんな彼は透明で視界良好な盾を斜め上方に構え、飛来する砲弾に備えながらサイドステップ。砲弾を回避しながら後方で上がる火柱に冷や汗を流す。
「しかし、それならそうで俺だけひっかかりそうなものだが……」
盾を構えている身でもあり、仲間の分の被害も引き受けようとした義弘だが、砲弾は広い範囲に降り注ぎ、とてもじゃないが庇いきれない。各個人で対処する必要がありそうだ。
「たしか「かぐや姫」も「桃太郎」も古妖さんの仕業でしたよね……まさか同じ方なんてことはないですよね? あれだけ叱ったんですから……もし同じ方だった場合は……どうしましょう……ねぇ?」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)、恐い恐い! まだ戦闘前なのになんか冷気漂ってるよ!?
「ふふふ……もし何も学んでいらっしゃらなかったら、その時は……」
ひぃ! 結鹿を狙った砲弾が勝手に弾けた!? ……あ、違う、展開した氷柱でぶち抜いてる!?
「あれ、皆さんもしかして、お揃いで経験者なんですか……?」
『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)は残光で尾を引きながら、着弾点の間をすり抜けるようにして戦場? を駆ける。
「はい、もう何度かありましたが、どの方も子ども達に構ってほしかったり、本来の物語が気に入らないみたいで……ところで」
過去を想い、遠い目をするラーラが灯の頭をじー。
「なんで頭を庇ってるんですか? 別に当たってもダメージには……」
「何を言ってるんですか、大ダメージですよ!」
必死の様子に、ラーラはもしや隠された効果でもあるのかと警戒するが。
「髪がアフロになるなんて、女の子として致命傷じゃないですかー!!」
割としょうもない……ことでもないのかな?
●ズルはダメよー
砲弾を躱して要塞に辿り着くと、義弘が靴を脱ぐ。
「さて、では早速お邪魔しようか……!」
片脚を硬化させ、棘を生やした足で蹴り飛ばして強固な扉を吹き飛ばす。派手な音と共に奥へ押し込まれた扉が……串刺しになってズタズタに。
「あれを通るんですか……で、でも、別に近づかなくても……」
鎖分銅を手の中で回し、勢いをつけて……シューッ! 伸びたままの槍に絡めて……。
「あーれー!?」
戻る槍に釣り上げられてしまった。
「何やってるんですか!?」
結鹿が飛びつき、二人でズルズル……。
「早く鎖を解け!」
「あ、ちょっとこのままでいいですか?」
義弘も二人を抱え、脚を床に食い込ませて止まる。しかしラーラはここで先に進み。
「伸びてしまっている分は動かないんだから……」
出てこないと分かっているスリットは無視して、鎖を絡めていない部分のみを警戒。それが飛び出した瞬間に体を逸らすのだが。
「ぺスカ!?」
守護使役が離れてあわや串刺しに。寸前に抱き寄せたから間に合ったものの、ラーラは足元を警戒して、上半身を目いっぱい伸ばすという無茶な姿勢に。
「あ、危なかった……」
ほっと安心したのもつかの間。自分のせいだと察したぺスカが離れて「ごめんね?」と言わんばかりにラーラの顔の前で頭を下げたからだ。
「ちょ、そこは危ないって!!」
慌てて抱き寄せるも飛び出した槍の勢いに煽られて反対に体が傾き、その先で新たな槍が生えたものだから咄嗟に反対側へ身を反らし、ソッチ目がけて伸びる穂先を……。
「も、もうダメ……」
廊下を抜けきった時、ぺスカのせいでペースを乱された結果、ラーラは槍の間でキリキリ舞いする羽目になり、へにょんと座り込んでしまった。
「つ、次は私ですか」
ラーラが振り回されるのを目にした結鹿が慎重に踏み込んで、飛び出した瞬間に大きく体を逸らし、わざと一本飛び出させる。後方に跳び、出した槍を足場に跳んで横から貫こうとする槍に掴まりグルン! 一回転して前方の槍が出るタイミングをずらしてから進み、伸びきった後の刃の横を抜けてその前の槍はひらりと横に回り込み、側面を向いた体を回転。側転して胴体を穿ちかねない一本を回避、最後は後ろを向いて連続宙返りで穂先の間を掻い潜り……。
「はっ! やりきりました!!」
抜けきった先で両手を挙げて、演技終了のサイン。ここはいつから新体操の会場になったのか。
「あの、私もあれを……?」
鎖を巻き取った灯がうわぁ……と言わんばかりの遠い目。一応必要そうなスキルは揃っているから、いけなくはないだろうが……。
「目標は何点でしょうか?」
「これそういう罠じゃないから、安心しろ」
人々の『光』を目指す身としては、そういう路線でも輝いてみたかったのかもしれない。
「とりあえず俺が先に行くから、それでタイミングを覚えて……」
集中すれば避けられる。そう信じていた義弘だが、冷静に考えてみてほしい。少女二人がしなやかな肢体を活かして避けたものを、大柄な男が気合で回避しようとするとどうなるか?
「ぐぁあああ!?」
まぁ、そうなるな。
「よ、義弘さーん!?」
「問題ない……」
結鹿に応える彼は両脚が機械化していた故に、下方からの槍で押し上げられて難を逃れていた。逃れていたが……。
「これは、後で腰に来そうだ」
槍の穂先と天井に挟まれた狭い空間を、しゃがんだ姿勢で進み続ける目に遭った。
●単純だから逆にどうしようもない
「お、恐ろしい罠でした……」
槍の廊下を抜けきった灯がため息をこぼす。え、どうやってこの子が抜けたのか? 過ぎた事なんか気にすんなよ。
「次は大玉のはずですけど……」
どこかに落とし穴があるはず。そう警戒するラーラがジッと目を凝らして先を見据えるが、しばらくは何もなさそうだ。
「何もないって、逆に恐いですね」
結鹿も周りを見回した時だった。「押すなよ、絶対に押すなよ!?」と書かれたスイッチ。
「……まさか、こんなものに引っ掛かると思ってるんでしょうか?」
足を止めて呆れた目をした時だった。ガコン、足元が沈んだ気がする。
「なんでしょう、今の……」
「あ、待て!」
義弘が止めようとするが一歩遅く、一度踏み込んだ罠から踏み出して、沈んだ床が上がってくると……ゴロゴロゴロ!
「そっち!?」
「走れー!!」
覚者たちが全力で走る後ろを追いかけてくる鉄球。斜面でもないのに追いかけてくる大玉に、少しずつぺスカが遅れ始める。
「ぺスカ、掴まって!」
それを抱き上げた事で走りにくくなり、今度はラーラが遅れ始め。
「頑張ってください!」
ラーラの背中を押す結鹿が加わり、加速はしたがジワジワと鉄球が追い付いてくる。
「追いつかれちゃいますよ!?」
このままではいけないと結鹿の背中を灯が押すのだが。
「なんで縦に繋がるんだ! この後跳ぶんだぞ!?」
「「あっ」」
義弘のツッコミに二人が気づく。まぁ仕方ないよね、ラーラの両手が塞がってたんだもん。
「も、もう落とし穴まであんまりありません、行きますよ!!」
ラーラの声に散らばる三人。一人だった義弘が難なく飛び越え、続くラーラも余裕。
「ひぃ!」
結鹿は危なっかしくもどうにか成功。しかし最後にいた灯がわずかに届かず、浮遊感の中、見下ろしたそこには真っ暗な穴が大口を開けていて……。
「暗いのはいやですー!!」
空中で前転して距離を稼ぎ、どうにか渡り切るのだった。
●ヘタすりゃリスタート
「ここはまあ、反射神経と気合で何とかするかしないな。さあ、どうなるか! やってやるぞ! しかも失敗したら屋敷の外だ! もう一回あの道程をこなすのなんて御免だぞ……!」
気合を入れ直す義弘。そう、最後のベルトコンベアはそのまま外に続いている。走り切れなければ、もう一回(最初から)遊べるドン☆
「ここはさすがに大丈夫だよね?」
ここに来るまで、二回ほどぺスカのフォローに回ったラーラ。浮遊している以上、さすがにもう無いだろう。そう思っていたのだが。
「ぺスカ、違う違う! そっちじゃないって!!」
名誉挽回とばかりにラーラの背中を必死に押して手伝おうとするぺスカなのだが、コンベアの方向がコロコロ変わるのに同じ方向に押そうとするものだから、ラーラは危うく外に放り出されるところだった。
「今回は……体力的に来ますね……」
一方結鹿はコンベアの進行方向に対して、反対方向に向かって跳ぶようにして飛び移り、それを繰り返して真っ直ぐ前へ、前へ。直線の三角飛びという謎の動きに疲れ果てていた。
「二人とも、身軽なものだな」
膝の屈伸、アキレス腱伸ばし、足首回して準備万端。義弘選手、今まさにスタートラインにセット。
「細かい事を考えても仕方なさそうだ。こういう時は根性論に限る……」
膝を伸ばし、腰を上げるクラウチングスタート。よーい……ドン!
「うぉおおおお!!」
コンベアの動きなど気にしていられない。流されてしまうのなら、体を持っていかれる前に駆け抜けてしまうまで。ただひたすら真っ直ぐに、とにかく全力疾走! 最後にズッコケたが、壁にしがみついて体を寄せ、脚のスパイクを打ちこんで無理やり這い上がり事なきを得た。
「床に足がつかなければいいんですよね」
灯は鎌と鎖を接続、大型の鎖鎌にして鎌を振り回す。
「これを、こう!」
投げられた刃は先に渡った覚者たちの頭上、天上に深く突き刺さる。抜けない事を確認した灯は鎖を巻き戻し、そちらに引き寄せられるようにして一気に宙を舞った。
「こういう時、鎖って便利ですよね!」
「何かずるいです……」
「えぇ……?」
むくれた結鹿に困惑する灯なのだった。
バァン!!
「ひぃ!?」
派手にドアを蹴破った義弘がツカツカ……子豚に迫り、ガッとその肩を掴む。
「いい加減にせい!」
「何が!?」
「狼を中に入れないためとはいえ、少しやりすぎたのではないですか?」
困惑する子豚に、ラーラが視線を合わせた。
「このおうち……おうち? の罠は過剰です。このままだと、お兄さんたちが来ても気づかないまま、罠にかかってしまうんじゃありませんか?」
覚者たちが飛び込んだのは、兄二人が到着する少し前。ここで説得を成功させておけば、悲劇を回避できるだろう。
「罠はどれもこれも、自動的に作動していました。防衛手段としては十分かもしれません。けれど、ここで生活していくうえでは不便どころか危険だと思いますよ?」
「そうでなくとも、狼一匹を相手にこれは過剰戦力です。何かの拍子に、取り返しのつかない事になりますよ?」
「でも、狼恐いし……」
「だったら追い出す機能だけでいいじゃないですか。少なくとも砲撃とか槍とか、いらないですって!」
灯の言葉に唸る子豚。彼女はズイッと迫る。
「危ない兵器なんか捨てて、灯台を建てるべきです! 明るくすれば皆助かりますし、狼だって隠れる暗がりが少なくなって、防犯機能もアップ! こんな便利な物はありません!!」
「なるほど、照明……」
話がまとまってきたところで、結鹿がニコリ。
「ところで古妖さん、どうしてこんなことを?」
「え?」
ドスッ! 首を傾げた子豚の顔の横に、氷の刃が突き立った。
「とぼけないでください。あなたが古妖さんですよね?」
「……い、いかにも」
子豚の芝居をやめて、ガチで震えはじめる古妖に結鹿が額をグリグリ。
「この間も貴方みたいなことをする方がいらっしゃいまして、その方にも話しましたが、この話から何を学べというんですか? だまし討ちの方法ですか? それとも……」
「いや待て違うんだ、これは教訓とかではなく……」
「じゃあ何ですか?」
ニッコリ。全く崩れない笑顔が、逆に恐い。
「その、だな。こういう過激なシナリオにすると遊びに来る奴がいるって噂になってて……退屈してる古妖がこぞってだな?」
「つまり、私達を呼ぶためにわざと過激に?」
「うむ」
ザクッ! 子豚の産毛が刈り取られた。
「ひぇっ! わ、悪気はなかったんだ!!」
「そんなの関係ありません自分が何をしたか分かってるんですか私たちが最初に来たからよかったものの一般の方が巻き込まれたら今頃砲撃の雨でめちゃくちゃですよ責任とれるんですかそうでなくてももっと自分の行動がどうなるかを考えてから……」
あぁ、これは長くなるな。そう悟った義弘がスッと虚ろな目に。
「そ、そろそろ帰った方が……」
「まだお説教は終わってません。正座!」
「はいぃ!?」
「撃ってくるという事は、こちらの気配を感じ取るなり目で見るなりして、狙いを定めているはずですよね。だったら、見つかりさえしなければ……」
盛大にフラグを建てる『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。案の定、ほーら風切り音が……。
「え、あれぇえええ!?」
慌てて飛び退いたラーラに斎 義弘(CL2001487)が苦笑。
「今回はトラップハウスという話があっただろう? と言う事は、向こうがこちらを発見しなくても、自動的に何かが作動するようにできてるんじゃないか?」
そんな彼は透明で視界良好な盾を斜め上方に構え、飛来する砲弾に備えながらサイドステップ。砲弾を回避しながら後方で上がる火柱に冷や汗を流す。
「しかし、それならそうで俺だけひっかかりそうなものだが……」
盾を構えている身でもあり、仲間の分の被害も引き受けようとした義弘だが、砲弾は広い範囲に降り注ぎ、とてもじゃないが庇いきれない。各個人で対処する必要がありそうだ。
「たしか「かぐや姫」も「桃太郎」も古妖さんの仕業でしたよね……まさか同じ方なんてことはないですよね? あれだけ叱ったんですから……もし同じ方だった場合は……どうしましょう……ねぇ?」
『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)、恐い恐い! まだ戦闘前なのになんか冷気漂ってるよ!?
「ふふふ……もし何も学んでいらっしゃらなかったら、その時は……」
ひぃ! 結鹿を狙った砲弾が勝手に弾けた!? ……あ、違う、展開した氷柱でぶち抜いてる!?
「あれ、皆さんもしかして、お揃いで経験者なんですか……?」
『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)は残光で尾を引きながら、着弾点の間をすり抜けるようにして戦場? を駆ける。
「はい、もう何度かありましたが、どの方も子ども達に構ってほしかったり、本来の物語が気に入らないみたいで……ところで」
過去を想い、遠い目をするラーラが灯の頭をじー。
「なんで頭を庇ってるんですか? 別に当たってもダメージには……」
「何を言ってるんですか、大ダメージですよ!」
必死の様子に、ラーラはもしや隠された効果でもあるのかと警戒するが。
「髪がアフロになるなんて、女の子として致命傷じゃないですかー!!」
割としょうもない……ことでもないのかな?
●ズルはダメよー
砲弾を躱して要塞に辿り着くと、義弘が靴を脱ぐ。
「さて、では早速お邪魔しようか……!」
片脚を硬化させ、棘を生やした足で蹴り飛ばして強固な扉を吹き飛ばす。派手な音と共に奥へ押し込まれた扉が……串刺しになってズタズタに。
「あれを通るんですか……で、でも、別に近づかなくても……」
鎖分銅を手の中で回し、勢いをつけて……シューッ! 伸びたままの槍に絡めて……。
「あーれー!?」
戻る槍に釣り上げられてしまった。
「何やってるんですか!?」
結鹿が飛びつき、二人でズルズル……。
「早く鎖を解け!」
「あ、ちょっとこのままでいいですか?」
義弘も二人を抱え、脚を床に食い込ませて止まる。しかしラーラはここで先に進み。
「伸びてしまっている分は動かないんだから……」
出てこないと分かっているスリットは無視して、鎖を絡めていない部分のみを警戒。それが飛び出した瞬間に体を逸らすのだが。
「ぺスカ!?」
守護使役が離れてあわや串刺しに。寸前に抱き寄せたから間に合ったものの、ラーラは足元を警戒して、上半身を目いっぱい伸ばすという無茶な姿勢に。
「あ、危なかった……」
ほっと安心したのもつかの間。自分のせいだと察したぺスカが離れて「ごめんね?」と言わんばかりにラーラの顔の前で頭を下げたからだ。
「ちょ、そこは危ないって!!」
慌てて抱き寄せるも飛び出した槍の勢いに煽られて反対に体が傾き、その先で新たな槍が生えたものだから咄嗟に反対側へ身を反らし、ソッチ目がけて伸びる穂先を……。
「も、もうダメ……」
廊下を抜けきった時、ぺスカのせいでペースを乱された結果、ラーラは槍の間でキリキリ舞いする羽目になり、へにょんと座り込んでしまった。
「つ、次は私ですか」
ラーラが振り回されるのを目にした結鹿が慎重に踏み込んで、飛び出した瞬間に大きく体を逸らし、わざと一本飛び出させる。後方に跳び、出した槍を足場に跳んで横から貫こうとする槍に掴まりグルン! 一回転して前方の槍が出るタイミングをずらしてから進み、伸びきった後の刃の横を抜けてその前の槍はひらりと横に回り込み、側面を向いた体を回転。側転して胴体を穿ちかねない一本を回避、最後は後ろを向いて連続宙返りで穂先の間を掻い潜り……。
「はっ! やりきりました!!」
抜けきった先で両手を挙げて、演技終了のサイン。ここはいつから新体操の会場になったのか。
「あの、私もあれを……?」
鎖を巻き取った灯がうわぁ……と言わんばかりの遠い目。一応必要そうなスキルは揃っているから、いけなくはないだろうが……。
「目標は何点でしょうか?」
「これそういう罠じゃないから、安心しろ」
人々の『光』を目指す身としては、そういう路線でも輝いてみたかったのかもしれない。
「とりあえず俺が先に行くから、それでタイミングを覚えて……」
集中すれば避けられる。そう信じていた義弘だが、冷静に考えてみてほしい。少女二人がしなやかな肢体を活かして避けたものを、大柄な男が気合で回避しようとするとどうなるか?
「ぐぁあああ!?」
まぁ、そうなるな。
「よ、義弘さーん!?」
「問題ない……」
結鹿に応える彼は両脚が機械化していた故に、下方からの槍で押し上げられて難を逃れていた。逃れていたが……。
「これは、後で腰に来そうだ」
槍の穂先と天井に挟まれた狭い空間を、しゃがんだ姿勢で進み続ける目に遭った。
●単純だから逆にどうしようもない
「お、恐ろしい罠でした……」
槍の廊下を抜けきった灯がため息をこぼす。え、どうやってこの子が抜けたのか? 過ぎた事なんか気にすんなよ。
「次は大玉のはずですけど……」
どこかに落とし穴があるはず。そう警戒するラーラがジッと目を凝らして先を見据えるが、しばらくは何もなさそうだ。
「何もないって、逆に恐いですね」
結鹿も周りを見回した時だった。「押すなよ、絶対に押すなよ!?」と書かれたスイッチ。
「……まさか、こんなものに引っ掛かると思ってるんでしょうか?」
足を止めて呆れた目をした時だった。ガコン、足元が沈んだ気がする。
「なんでしょう、今の……」
「あ、待て!」
義弘が止めようとするが一歩遅く、一度踏み込んだ罠から踏み出して、沈んだ床が上がってくると……ゴロゴロゴロ!
「そっち!?」
「走れー!!」
覚者たちが全力で走る後ろを追いかけてくる鉄球。斜面でもないのに追いかけてくる大玉に、少しずつぺスカが遅れ始める。
「ぺスカ、掴まって!」
それを抱き上げた事で走りにくくなり、今度はラーラが遅れ始め。
「頑張ってください!」
ラーラの背中を押す結鹿が加わり、加速はしたがジワジワと鉄球が追い付いてくる。
「追いつかれちゃいますよ!?」
このままではいけないと結鹿の背中を灯が押すのだが。
「なんで縦に繋がるんだ! この後跳ぶんだぞ!?」
「「あっ」」
義弘のツッコミに二人が気づく。まぁ仕方ないよね、ラーラの両手が塞がってたんだもん。
「も、もう落とし穴まであんまりありません、行きますよ!!」
ラーラの声に散らばる三人。一人だった義弘が難なく飛び越え、続くラーラも余裕。
「ひぃ!」
結鹿は危なっかしくもどうにか成功。しかし最後にいた灯がわずかに届かず、浮遊感の中、見下ろしたそこには真っ暗な穴が大口を開けていて……。
「暗いのはいやですー!!」
空中で前転して距離を稼ぎ、どうにか渡り切るのだった。
●ヘタすりゃリスタート
「ここはまあ、反射神経と気合で何とかするかしないな。さあ、どうなるか! やってやるぞ! しかも失敗したら屋敷の外だ! もう一回あの道程をこなすのなんて御免だぞ……!」
気合を入れ直す義弘。そう、最後のベルトコンベアはそのまま外に続いている。走り切れなければ、もう一回(最初から)遊べるドン☆
「ここはさすがに大丈夫だよね?」
ここに来るまで、二回ほどぺスカのフォローに回ったラーラ。浮遊している以上、さすがにもう無いだろう。そう思っていたのだが。
「ぺスカ、違う違う! そっちじゃないって!!」
名誉挽回とばかりにラーラの背中を必死に押して手伝おうとするぺスカなのだが、コンベアの方向がコロコロ変わるのに同じ方向に押そうとするものだから、ラーラは危うく外に放り出されるところだった。
「今回は……体力的に来ますね……」
一方結鹿はコンベアの進行方向に対して、反対方向に向かって跳ぶようにして飛び移り、それを繰り返して真っ直ぐ前へ、前へ。直線の三角飛びという謎の動きに疲れ果てていた。
「二人とも、身軽なものだな」
膝の屈伸、アキレス腱伸ばし、足首回して準備万端。義弘選手、今まさにスタートラインにセット。
「細かい事を考えても仕方なさそうだ。こういう時は根性論に限る……」
膝を伸ばし、腰を上げるクラウチングスタート。よーい……ドン!
「うぉおおおお!!」
コンベアの動きなど気にしていられない。流されてしまうのなら、体を持っていかれる前に駆け抜けてしまうまで。ただひたすら真っ直ぐに、とにかく全力疾走! 最後にズッコケたが、壁にしがみついて体を寄せ、脚のスパイクを打ちこんで無理やり這い上がり事なきを得た。
「床に足がつかなければいいんですよね」
灯は鎌と鎖を接続、大型の鎖鎌にして鎌を振り回す。
「これを、こう!」
投げられた刃は先に渡った覚者たちの頭上、天上に深く突き刺さる。抜けない事を確認した灯は鎖を巻き戻し、そちらに引き寄せられるようにして一気に宙を舞った。
「こういう時、鎖って便利ですよね!」
「何かずるいです……」
「えぇ……?」
むくれた結鹿に困惑する灯なのだった。
バァン!!
「ひぃ!?」
派手にドアを蹴破った義弘がツカツカ……子豚に迫り、ガッとその肩を掴む。
「いい加減にせい!」
「何が!?」
「狼を中に入れないためとはいえ、少しやりすぎたのではないですか?」
困惑する子豚に、ラーラが視線を合わせた。
「このおうち……おうち? の罠は過剰です。このままだと、お兄さんたちが来ても気づかないまま、罠にかかってしまうんじゃありませんか?」
覚者たちが飛び込んだのは、兄二人が到着する少し前。ここで説得を成功させておけば、悲劇を回避できるだろう。
「罠はどれもこれも、自動的に作動していました。防衛手段としては十分かもしれません。けれど、ここで生活していくうえでは不便どころか危険だと思いますよ?」
「そうでなくとも、狼一匹を相手にこれは過剰戦力です。何かの拍子に、取り返しのつかない事になりますよ?」
「でも、狼恐いし……」
「だったら追い出す機能だけでいいじゃないですか。少なくとも砲撃とか槍とか、いらないですって!」
灯の言葉に唸る子豚。彼女はズイッと迫る。
「危ない兵器なんか捨てて、灯台を建てるべきです! 明るくすれば皆助かりますし、狼だって隠れる暗がりが少なくなって、防犯機能もアップ! こんな便利な物はありません!!」
「なるほど、照明……」
話がまとまってきたところで、結鹿がニコリ。
「ところで古妖さん、どうしてこんなことを?」
「え?」
ドスッ! 首を傾げた子豚の顔の横に、氷の刃が突き立った。
「とぼけないでください。あなたが古妖さんですよね?」
「……い、いかにも」
子豚の芝居をやめて、ガチで震えはじめる古妖に結鹿が額をグリグリ。
「この間も貴方みたいなことをする方がいらっしゃいまして、その方にも話しましたが、この話から何を学べというんですか? だまし討ちの方法ですか? それとも……」
「いや待て違うんだ、これは教訓とかではなく……」
「じゃあ何ですか?」
ニッコリ。全く崩れない笑顔が、逆に恐い。
「その、だな。こういう過激なシナリオにすると遊びに来る奴がいるって噂になってて……退屈してる古妖がこぞってだな?」
「つまり、私達を呼ぶためにわざと過激に?」
「うむ」
ザクッ! 子豚の産毛が刈り取られた。
「ひぇっ! わ、悪気はなかったんだ!!」
「そんなの関係ありません自分が何をしたか分かってるんですか私たちが最初に来たからよかったものの一般の方が巻き込まれたら今頃砲撃の雨でめちゃくちゃですよ責任とれるんですかそうでなくてももっと自分の行動がどうなるかを考えてから……」
あぁ、これは長くなるな。そう悟った義弘がスッと虚ろな目に。
「そ、そろそろ帰った方が……」
「まだお説教は終わってません。正座!」
「はいぃ!?」
