【闇企業】ブラック建設会社の摘発を!
●ぼやく隔者社長
とある建物内。
肘掛けつきの椅子に腰掛けるスキンヘッドの男が左手の資料を目にし、くわえた葉巻から煙を噴出しながら舌打ちする。
「チッ、ついてねぇぜ……」
それというのも、自社の受注していた建設工事が2件も中止してしまったからだ。
1つは、商業施設の地質調査中に炎が噴出して作業員が死傷した上、火の玉の形の妖が出現したことで、施設の建設自体が白紙になってしまった。
もう1つはマンション建設中に突然何者かが乱入し、作業員の労働環境改善を迫ってきた。
どうやら、F.i.V.E.という組織らしいが、それはさておき。作業員1人が過労重体になっていたこともあり、労災と認定。
さらに、取調べにより従業員に暴行の後が発覚、AAAが動く事態となり、現場監督、座間が逮捕される事件にまで問題が大きくなってしまった。
スキンヘッドの男……社長である海音寺・米蔵もその後始末に追われている。方々へと陳謝と釈明、建設中のマンション工事も他会社へと業務を引き継ぐ羽目となり、身動きが取れない状態が続いていたが……。
「AAAがあのザマなら、動くなら今でしょ、社長」
「座間は気の毒だったが……な」
部長の1人が進言すると、海音寺は煙を吹かして語った。座間は大量の妖によるAAAへの襲撃で、運悪く殺害されたという知らせが届いている。
彼らはしばし、新たな建設計画の為の事務処理に追われており、背中に半球状の器具をつけた従業員をフル稼働させて働かせていた。直に着工できるだろうと見通しを立てている。
「ま、奴の分まで、存分に働くとしようじゃねぇか……」
海音寺はふんぞり返り、作業する従業員を見下ろす。
「「「ひ、ひいっ……」」」
それに悲鳴を上げる従業員達は皆、体中に痣が見える。休むことも許されぬ彼らは、淡々と事務作業をこなす。怪しく瞳を光らせる1人を除いて……。
●懲りない経営者の摘発を
先日、英雨建設が工事を行う建設現場へ、F.i.V.E.のメンバー達が突入した。
1人が過労死寸前で救出、現場監督を拘束、AAAに連行したという報告書もあるが、『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)がそれを踏まえ、F.i.V.E.の会議室にて現状の説明を開始する。
「まず、経過じゃが、労災認定された東という作業員は危機を逃れたようじゃ」
当初、彼は重体に陥っていたそうだが、なんとか意識を回復しており、現場の状況を少しずつ語ってくれている。
一方で、AAAに拘束された現場監督座間は、大妖によるAAA支部襲撃の際、抵抗むなしく遺体で発見されたそうだ。
英雨建設は事件にこそなれど、業務改善命令を出され、AAAの監視の下で業務を再開されていたのだが……。
「AAAが壊滅的被害を被ったこの状況で、懲りずに従業員を使い潰そうとしているようじゃ……」
背中に装着させた大きな器具。これによって身体能力を向上させているようで、無疾病、痛覚遮断といった技能の擬似効果を与え、延々と働かせていると言う。
「幸い、AAAの鬼頭三等に事情を説明して、業務改善の代行の名目で正面から突入できそうじゃ」
現場に向かい、代行の書類を見せ付けて改善指示を行うのだが、けいの夢見によると社長、海音寺・米蔵以下10名程度の社員が抵抗し、襲い掛かってくるようだ。
「目的は、海音寺・米蔵の拘束じゃな。こやつ自身にも労働基準法違反はもちろんじゃが、事務所の従業員への暴行容疑もあるから、それで拘束は可能じゃ」
現場突入時、事業所内には、社員は社長の海音寺と部長2名。そして、普段から事務所に詰めている職員7名がいると見られる。
役員3名は隔者だが、職員は1人を除いて非発現者。彼らは普段から、役員によって暴行を受けているという。
また、過労に耐えられるようにと、非発言者全員が身体能力向上の為に背中へと半球状の装置を装着している。これは、威力は弱いものの、擬似的な術式を1つ行使できる能力を非発現者へと持たせることができるらしい。
彼らは、すでに心身ボロボロだ。早く助けてあげたいが……。
「面倒なことに、職員には隔者が紛れておるようじゃ」
どうやら、職員7名の中に1人だけ黒霧構成員が紛れている。この会社の監視の為にと潜り込んでいるらしい。
本気で戦えば、そいつは社長の海音寺と同程度の強さを持つ。黒霧の能力は不明だが、今後のことを考えて叩くこともできるし、あえてスルーし、社長確保に専念もできる。この辺りの判断は作戦に当たる覚者に任せたいとのことだ。
「上手く運べば、事後は資料の押収かのう」
色々なことを考えれば、キリはないが……。ともあれ、今なお入院を続ける東のような者を、再び生み出すわけには行かない。
「体質の変わらぬ企業に、メスを入れてきてほしいのじゃ」
説明の締めくくりに、けいは覚者達へとそう願うのだった。
とある建物内。
肘掛けつきの椅子に腰掛けるスキンヘッドの男が左手の資料を目にし、くわえた葉巻から煙を噴出しながら舌打ちする。
「チッ、ついてねぇぜ……」
それというのも、自社の受注していた建設工事が2件も中止してしまったからだ。
1つは、商業施設の地質調査中に炎が噴出して作業員が死傷した上、火の玉の形の妖が出現したことで、施設の建設自体が白紙になってしまった。
もう1つはマンション建設中に突然何者かが乱入し、作業員の労働環境改善を迫ってきた。
どうやら、F.i.V.E.という組織らしいが、それはさておき。作業員1人が過労重体になっていたこともあり、労災と認定。
さらに、取調べにより従業員に暴行の後が発覚、AAAが動く事態となり、現場監督、座間が逮捕される事件にまで問題が大きくなってしまった。
スキンヘッドの男……社長である海音寺・米蔵もその後始末に追われている。方々へと陳謝と釈明、建設中のマンション工事も他会社へと業務を引き継ぐ羽目となり、身動きが取れない状態が続いていたが……。
「AAAがあのザマなら、動くなら今でしょ、社長」
「座間は気の毒だったが……な」
部長の1人が進言すると、海音寺は煙を吹かして語った。座間は大量の妖によるAAAへの襲撃で、運悪く殺害されたという知らせが届いている。
彼らはしばし、新たな建設計画の為の事務処理に追われており、背中に半球状の器具をつけた従業員をフル稼働させて働かせていた。直に着工できるだろうと見通しを立てている。
「ま、奴の分まで、存分に働くとしようじゃねぇか……」
海音寺はふんぞり返り、作業する従業員を見下ろす。
「「「ひ、ひいっ……」」」
それに悲鳴を上げる従業員達は皆、体中に痣が見える。休むことも許されぬ彼らは、淡々と事務作業をこなす。怪しく瞳を光らせる1人を除いて……。
●懲りない経営者の摘発を
先日、英雨建設が工事を行う建設現場へ、F.i.V.E.のメンバー達が突入した。
1人が過労死寸前で救出、現場監督を拘束、AAAに連行したという報告書もあるが、『薄幸の男の娘』菜花・けい(nCL2000118)がそれを踏まえ、F.i.V.E.の会議室にて現状の説明を開始する。
「まず、経過じゃが、労災認定された東という作業員は危機を逃れたようじゃ」
当初、彼は重体に陥っていたそうだが、なんとか意識を回復しており、現場の状況を少しずつ語ってくれている。
一方で、AAAに拘束された現場監督座間は、大妖によるAAA支部襲撃の際、抵抗むなしく遺体で発見されたそうだ。
英雨建設は事件にこそなれど、業務改善命令を出され、AAAの監視の下で業務を再開されていたのだが……。
「AAAが壊滅的被害を被ったこの状況で、懲りずに従業員を使い潰そうとしているようじゃ……」
背中に装着させた大きな器具。これによって身体能力を向上させているようで、無疾病、痛覚遮断といった技能の擬似効果を与え、延々と働かせていると言う。
「幸い、AAAの鬼頭三等に事情を説明して、業務改善の代行の名目で正面から突入できそうじゃ」
現場に向かい、代行の書類を見せ付けて改善指示を行うのだが、けいの夢見によると社長、海音寺・米蔵以下10名程度の社員が抵抗し、襲い掛かってくるようだ。
「目的は、海音寺・米蔵の拘束じゃな。こやつ自身にも労働基準法違反はもちろんじゃが、事務所の従業員への暴行容疑もあるから、それで拘束は可能じゃ」
現場突入時、事業所内には、社員は社長の海音寺と部長2名。そして、普段から事務所に詰めている職員7名がいると見られる。
役員3名は隔者だが、職員は1人を除いて非発現者。彼らは普段から、役員によって暴行を受けているという。
また、過労に耐えられるようにと、非発言者全員が身体能力向上の為に背中へと半球状の装置を装着している。これは、威力は弱いものの、擬似的な術式を1つ行使できる能力を非発現者へと持たせることができるらしい。
彼らは、すでに心身ボロボロだ。早く助けてあげたいが……。
「面倒なことに、職員には隔者が紛れておるようじゃ」
どうやら、職員7名の中に1人だけ黒霧構成員が紛れている。この会社の監視の為にと潜り込んでいるらしい。
本気で戦えば、そいつは社長の海音寺と同程度の強さを持つ。黒霧の能力は不明だが、今後のことを考えて叩くこともできるし、あえてスルーし、社長確保に専念もできる。この辺りの判断は作戦に当たる覚者に任せたいとのことだ。
「上手く運べば、事後は資料の押収かのう」
色々なことを考えれば、キリはないが……。ともあれ、今なお入院を続ける東のような者を、再び生み出すわけには行かない。
「体質の変わらぬ企業に、メスを入れてきてほしいのじゃ」
説明の締めくくりに、けいは覚者達へとそう願うのだった。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.社長、海音寺の身柄拘束
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●敵
英雨(えいう)建設社員。
隔者が非発言者を虐げ、労働力として使い潰そうとする会社です。
○社長……海音寺・米蔵(さいおんじ・よねぞう)隔者。
社長。頭は全て剃っており、かなり鍛えている様子。
械×土。現×火。メリケンサックをつけ、豪腕で殴りかかってきます。
体術:重突・改、術式:鉄甲掌、琴富士使用。
○部長×2……隔者。少し恰幅の良い中年男性2名です。
現×天、彩×火。
それぞれ、電動ドリル、チェーンソーを使う他、
壱式体術、術式も使用します。
○一般社員……7名 非発現者。
基本的に雇用契約があり、
生活の為に社長らに逆らうことが出来ません。
武器として、建設用に使う金属の棒を使用します。
また、全員がその背に半球状の器具を装着しており、
多少の身体能力を向上させた上、
術式を擬似的に使えるようになっております。
行う攻撃は機器によって設定が必要で、
以下の内1種のみ使用できます。
木・深緑鞭、火・火炎弾、土・無頼、天・召雷、水・水礫
ただ、1人だけ、器具を使う隔者が潜んでいます。
その正体は黒霧構成員で、この会社を密かに監視しております。
能力は不明ですが、社長よりも高い力を持ちます。
作戦目的を優先すべく、他一般社員と同様に扱うことも出来ますが、
黒霧構成員として交戦も可能です。
ただし、黒霧として戦うことを選択した場合、
目的達成の難易度が上がりますのでご注意ください。
●状況
現状、壊滅的な打撃を受けているAAAの代わりに、
代行して英雨建設へと業務指導を行う体で向かいますが、
社長以下、役員が社員を伴い抵抗してきます。
そのまま取り押さえ、摘発に動いていただきますよう願います。
突入する英雨建設は個人事業所です。
外は重機を停めている駐車場、
中は2階建ての事務所となっており、
1階は接客の為の応接間、
2階が社員の事務所となっております。
建物内で戦うと、資料集めが困難になる可能性もありますので、
取り押さえ方を考える必要があるでしょう。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年06月09日
2017年06月09日
■メイン参加者 6人■

●AAA壊滅の裏で……
覚者達が向かうは、英雨建設の事務所。
さほど大きな会社ではないが、この地域の建設事業の一部を請け負う会社ではある。
だが、度重なる従業員の酷使が問題となっており、先日、妖によって壊滅的な被害を被ったAAAの代行として、彼らはこの地へとやってきていたのだ。
「そっか……、座間は残念だったな」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が残念がっているのは、建設現場で作業員を酷使していた現場監督のこと。聴取の為にと拘束されていた座間は、AAAが襲撃された際、妖に襲われて帰らぬ者となってしまったらしい。
「でも、悔やんでも仕方ないか……、さらなる違法労働を強いられる人達を助ける為に頑張らないと!」
この会社の上層部はAAA壊滅の裏で、またも違法労働を行おうとしている。
「労働基準法違反……それも、こんなやり方、許すわけにはいきません」
「非覚者を隔者が使い潰すのは、良くないよね」
事情を聞いて憤りすら見せている、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) 。その上、非発現者を虐げる形ともなっている状況を、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は憂う。暴力での支配において、非発現者は圧倒的に弱い存在なのにも関わらず、だ。
「そんなの見過ごす訳にはいかない!」
「ええ、そのような事、決して許しません!」
叫ぶ、奏空。『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) もまた、声を荒げる。これから相手にするのは、懲りずに同じことをやろうとしている、先日の違法労働の元締めなのだ。
「きつく、お灸を据えてあげないといけませんわね!」
社長らの検挙に燃える仲間達の傍で、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は別のことを考える。
(こんな所にまで、霧の手が伸びてるなんてね)
どうやら、虐げられる従業員に紛れ、黒霧構成員がこの会社を密かに監視しているという。その黒霧の長はずいぶんと手広くやっているのねと、エメレンツィアは独りごちる。
「一般人を無理やり強化するなんて真似までして……、将来に何を見ているのかしら?」
それを見定める為、彼女はこの作戦に身を投じるのである。
●出頭に応じないなら……
さて、メンバー達は英雨建設事務所の敷地へと入っていき、玄関のインターホンを押す。
「AAAさんの代わりに業務指導に来たよ!」
トレードマークの腕章をビシッと掲げて決めポーズをした、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360) は続けて、鬼頭三等が認めた代行書類を示して見せた。
中から、それを社長らは確認しているはず。頭上の監視カメラが動いているから間違いはない。
「社長様、お話がありますので、出ていらしてくださいませ」
「私達は業務改善指導代行として参りました。出頭を要請します」
威風を纏い、いのりの内部の社員達へと大声で呼びかける。ラーラもまた、これが正式な手順に基づく物だと主張して見せた。
「社長の呼び出しを……頼みます。直接話させて欲しい、んです」
相手は社会人。奏空は慣れぬ丁寧語を使い、ワーズ・ワースの力も使って社員らの説得をしようとする。
覚者であれば、強引に中へと踏み込むのは難しくない。
しかしながら、後ほど状況証拠などを捜索するに当たり、内部で強引に社長らを取り押さえるとなれば、それらの資料が完全な状態で押収できなくなる可能性が高い。
(作戦、成功させたいけれど……)
だからこそ、メンバーは建物内での戦いは出来れば避けたいと考えている。とはいえ、失敗したならば、やむを得ず中で戦闘かなと渚は割り切ってはいたが。
「業務指導ね。……まあ、聞く耳なんて持ってないのでしょうけど」
これで改善される相手であれば、こんな事態にはなっていないと、一歩離れたエメレンツィアは考える。
(後……、子供の話になんて、耳は貸さないでしょうね)
今作戦に臨むメンバーは半数が10代、秋人も教師とはいえ若い。いくら代行という立場でも、相手が応じるかどうか……。
「えっと、応じない場合は、重機の差し押さえと、業務程度を行……います!」
奏空は声を上げ、超直感で中の様子を探る。
ガラス越し、ブラインドの向こうで動く人影。あるいは、小さく聞こえてくる会話。それらは、なかなかこちらの要求に応じる素振りがない。
(子供のお使いか。フッ、笑わせる)
(AAAも人手不足のようですな)
((ハハハハハハハハ……!))
外まで聞こえる笑い声。それに、覚者達は目の色を変える。
「そちらが応じないなら……、こちらは本気ですよ」
代行という権限を最大限に利用する覚者達。
ラーラはチェーンを取り出し、駐車場に置かれたクレーン車を封鎖していく。渚もトラックにチェーンをかけていたが、その間にも彼女は鋭聴力を働かせ、敵の挙動を確認していた。
まさか冗談だろうという声が中から聞こえるが、覚者達は本気だ。あまりに出てこない社員達に、いのりは剛を煮やしてしまって。
「出てこないと、二度と操業できないよう重機を破壊してしまいますわよ!」
大人の姿となったいのりは露出高めの姿に変わってから、脅すように叫びかける。
(お金にがめつそうなので、損するような事は避けるかと思うのですが)
とはいえ、いのりも想定の上で声を荒げているに過ぎない。
(突入するしかないでしょうか?)
ラーラは仲間達へとそう問いかけると、玄関へと社員が姿を現す。
「ガキどもが……、悪ふざけは大概にしやがれ!」
現れたスキンヘッドの社長、海音寺・米蔵。おそらくは現場で鍛え上げたその肉体を誇示するそいつは、手に嵌めたメリケンサックを煌かせる。
ドリル、チェーンソーを持つ隔者と思われる部長2人がそれぞれ覚醒し、海音寺の両脇を固めていた。
そして、彼らの前に、疲れ果てた眼差しの一般社員が進み出る。上司の命令もあってか、彼らは金属の棒を手にして身構えていた。この一般社員こそ、救うべき人々なわけだが……。
(ま、ブラックとわかってて転職も考えないような人は、多少自業自得なところもあるでしょうけど)
エメレンツィアも覚醒し、その長い髪を深紅に染める。
社員達は皆、一様にくたびれた様子。だが、この中に黒霧構成員が紛れ込んでいるのは間違いない。隔者という情報があるが、そいつは巧妙にそれを隠している。
(黒霧の関わりを消す為、重要な書類だけはその構成員が持ち去るんじゃないかな)
また、見た目がほとんど変わらぬ覚醒状態の秋人は、一般社員の背に着目する。
そこには、半球状の器具が装着されている。これが、非発現者にも覚者の力を擬似的に与えるという装置なのだろう。
(その開発に黒霧が関わっているなら、その装置を回収し解析する事によって何か得られないかな?)
興味はあれど、今はのんびり考えてもいられない。
「倒せば、給料は弾むぞ」
社員へとそう告げながら、海音寺は重機のようになった拳を鳴らし、覚者へと突っ込んでくる。
奏空も髪を金色に染め、渚も見た目はさほど変わらぬが交戦に備えて覚醒する。
すでに覚醒し、銀色の髪を靡かせるラーラは英霊の力で自身を強化していた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……、イオ・ブルチャーレ!」
煌炎の書を手にして、叫ぶラーラ。覚者達は力を解放し、暴れ始める社員達を取り押さえにかかるのである。
●黒霧はどいつだ……?
駐車場で戦う事となる覚者と英雨建設社員。この後、事務所の捜索も行いたい覚者側としては、重機の差し押さえという作戦が功を奏した結果と言える。
「くらええっ!」
豪腕を振りかざす海音寺。そいつは多少覚者らを舐めてかかっている様子はあるが、隔者としての力量は本物らしい。奏空が受け止めるが、その一撃に顔を顰めていた様子だ。
脇の部長らがドリルやチェーンソーを振りかざす中、奏空はまず、そいつらの命令で動く社員の無力化を図る為に眠りに誘う空気を再現する。
「無理強いされてる方を傷つけたくはありませんわね」
いのりも同様に眠りの空気を発生させ、社員達を眠らせていく。
確かに、非発現者である社員達は多少、抵抗力が上がってはいるのだろう。半数以上がぱたりぱたりと眠りについてしまう。
だが、元々効きのよいスキルとはいえない艶舞・寂夜。2人がかりで4人を眠らせるが、それでも社員3人がその空気を振り払って鉄棒を振り上げ、あるいは背中の器具から擬似術式を行使する。そいつはプレッシャーを発することで、こちらの動きを鈍らせようとしてくる。
(戦闘中であれば、一瞬でも目付きや雰囲気が変わるはず……)
秋人はそう考えて社員らを注意深く確認するが、尻尾を出す様子はない。さすが、隠密、潜入が得意な組織員といったところか。
部長らが仕事道具を振り回して仲間を傷つける中、ラーラも魔法陣を描き、そこから深紅の猫を呼び出す。
「さあ、いってください!」
燃え上がる炎獣が暴れ周り、一般社員を焼く。
(どの方が黒霧なんでしょうか……)
ラーラは超視力を使いつつ、エネミースキャンで敵を能力を分析する。
「あれ……ね」
己の強化の後、先に分析を試みたエメレンツィアが一足早く、そいつを発見していた。
一際強い能力を持つ男。そいつは何食わぬ顔で一般社員を演じている。
(ま、捕まえるのは海音寺を捕らえてからでしょうけど)
余裕があれば、捕らえて尋問したい。彼女としては、長である霧山・譲の動向を少しでも得たいところなのだ。
とはいえ、そればかりに目をつけ、役員どもが逃げては元も子もない。
渚が手にする強化ガラスで出来た注射器で地を這う連撃を繰り出す。そこでなぜか、黒霧らしき社員はその場に倒れてしまう。あくまで、一般人を装うつもりなのだろう。
そいつが気になりはするものの。今は社長、部長2人の鎮圧が先だ。
力任せに襲い来る社員達。鉄の棒での殴打、さらにドリルやチェーンソーを唸らせ、覚者達を傷つけてくる。
秋人は回復の為にと雨を降らせることとなるが、合間を見て波動弾を撃ち出し、後方の部長もろとも撃ち抜いた前方の社員を倒す。
瑠璃光を発して仲間を包み込んだ奏空が残り一般社員に狙いを定める。両手の忍者刀を上手く使い、彼は最後まで立っていた一般社員の意識を遮断する。
(任意で出来るっていうなら)
社員は自分の意思でこれをつけているはず。そう考えた奏空は仲間が役員達の相手をする中、その社員につけられていた器具のスイッチをOFFにしていった。
●抵抗を続ける役員達
いくら、相手が隔者であろうが、戦い慣れしている覚者達の敵ではないといったところか。
ラーラが拳大の炎を連続して浴びせかけると、チェーンソーを持つ部長が崩れ落ちた。
だが、役員らはなおも抵抗を続ける。
「こいつら……!」
社長、海音寺が歯噛みする。部下のふがいなさもあるが、代行としてやってきた子供達の力を舐めていたと言わざるをえない。
この場を切り抜けようと、部長のドリルに続き、海音寺は豪腕を叩きつけてくる。その力は決して侮れない。前に立つ渚、奏空が血を流すのを見て、エメレンツィアが仲間へと恵みの雨を降らせて行く。
「人は宝よ、使い潰すような真似をするものではないわ。……まして、暴行を加えるなんてもってのほかね」
そして、彼女は社長、海音寺に呼びかける。
「雇用主と社員は確かにビジネス関係だけれども、そこに信頼はあるべきよ。そうじゃないと、いざっていう時に裏切られてしまうわ」
「俺に説教するか!」
飛び込んでくる海音寺。全身を硬化させた彼は前にいるメンバーへと連続して殴りかかってきた。
少しタイミングをずらす形で、秋人は仲間へと潤しの雨を降らせてその傷を塞いで行く。
一方で、渚が手にする巨大注射器で部長を昏倒させると、彼女は社長へと言い放つ。
「ちゃんと適度に休まないと元気に働けないのに……。命だって危ないんだよ?」
現に、工事現場において、過労の為に重体となった男性がいた。看護師になるのを夢見る渚にとって、それが許せない。
「分かっててやってるんなら、力付くでも止めるからね。私、怒ってるんだから!」
その巨大注射器の矛先ならぬ針先は、海音寺へと向く事になる。
海音寺は現場で鍛えた肉体で、覚者へと抵抗を続けていた。
隔者としての力は、こいつだけは抜きん出ており、覚者6人がかりでもその鎮圧に骨を折る事となる。
奏空がスピードを生かして、社長へと切りかかる直後、秋人が回復の手を止めて「豊四季式敷式弓」で相手を狙い撃つ。
「くっ……」
周囲を見回す海音寺。おそらくは退路を探しているのだろうが、メンバー達がそれをさせじと攻勢を強める。
一歩引いた海音寺を、奏空が落とした雷が焼く。
刹那痺れを走らせて動きを止めた海音寺へ、いのりは頭上から星のように輝く光の粒を降り注がせた。
「これで、終わりですわ!」
「俺が……こんな、ガキ、どもに……」
前のめりに崩れ落ちる海音寺。
メンバー達はすぐに社員達を見回し、自分達の状況も確認する。次に狙うは、タヌキ寝入りしていると思われる黒霧構成員。
だが、気づけば、一般社員が1人足りない。そいつはいつの間にか、装着した器具ごと姿を消していたのだった。
●事務所で見つかった物は……
抵抗を止めた英雨建設の社員達。覚者らは拘束した社長を護送することする。
それを不安げに見つめる一般社員。そんな彼らに対し、エメレンツィアがF.i.V.E.の指揮をとる中・恭介に再就職先の斡旋を働きかけるよう、約束する。
(この方達の生活が成り立たなくなるのは、本意ではありませんし)
いのりもまた、先日の建設現場の社員同様、自身の祖父にこの社員の処遇を相談しようと考えていた。
メンバー達は事務所へと立ち入り、ガサ入れを行うこととなる。
「黒霧、何か持ち去ってないかな」
そんな懸念を示す奏空。しかし、事務所に荒らされた形跡はない。
あからさまに過労と思われる社員のシフト。器具を使い、社員を強引に働かせる会社の方針が明らかに見て取れた。
さらに、新たな建設計画に奏空が着目する。それを見る限り、突貫工事といった様子。土日も工事を続ける他、深夜までも休みなく続く工事。騒音など、周囲への配慮すらない有様だ。
また、守護使役のピヨに上空から、抜け道がないかと偵察させる秋人はその間、内部資料に欠けている物がないかと調べる。
だが、抜け道もそうだが、資料にも穴らしき物が見当たらない。元々改竄済みである可能性も高い。さすがは、組織潜入がお手の物な黒霧といったところか。
「これを調べることで、何か分からないだろうか」
秋人はその合間に、社員が装着していた器具を手に取る。どうやら、社内の備品として置かれていたものらしい。
「これ、なんでしょうか……」
いのり守護使役の力でかぎわけて着目したのは、社長、海音寺の机の引き出しにあった資料。それは、社員が装着していた器具のカタログのようなもの。裏には、製作元と思われる『BANZEN』という名前があった。
「さて……、次は何かしらね?」
それを見ていたエメレンツィア。黒霧が、いや、霧山譲が何を画策しているのかと考えながら、彼女は現場の後始末に動くのである。
覚者達が向かうは、英雨建設の事務所。
さほど大きな会社ではないが、この地域の建設事業の一部を請け負う会社ではある。
だが、度重なる従業員の酷使が問題となっており、先日、妖によって壊滅的な被害を被ったAAAの代行として、彼らはこの地へとやってきていたのだ。
「そっか……、座間は残念だったな」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)が残念がっているのは、建設現場で作業員を酷使していた現場監督のこと。聴取の為にと拘束されていた座間は、AAAが襲撃された際、妖に襲われて帰らぬ者となってしまったらしい。
「でも、悔やんでも仕方ないか……、さらなる違法労働を強いられる人達を助ける為に頑張らないと!」
この会社の上層部はAAA壊滅の裏で、またも違法労働を行おうとしている。
「労働基準法違反……それも、こんなやり方、許すわけにはいきません」
「非覚者を隔者が使い潰すのは、良くないよね」
事情を聞いて憤りすら見せている、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080) 。その上、非発現者を虐げる形ともなっている状況を、『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は憂う。暴力での支配において、非発現者は圧倒的に弱い存在なのにも関わらず、だ。
「そんなの見過ごす訳にはいかない!」
「ええ、そのような事、決して許しません!」
叫ぶ、奏空。『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) もまた、声を荒げる。これから相手にするのは、懲りずに同じことをやろうとしている、先日の違法労働の元締めなのだ。
「きつく、お灸を据えてあげないといけませんわね!」
社長らの検挙に燃える仲間達の傍で、『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)は別のことを考える。
(こんな所にまで、霧の手が伸びてるなんてね)
どうやら、虐げられる従業員に紛れ、黒霧構成員がこの会社を密かに監視しているという。その黒霧の長はずいぶんと手広くやっているのねと、エメレンツィアは独りごちる。
「一般人を無理やり強化するなんて真似までして……、将来に何を見ているのかしら?」
それを見定める為、彼女はこの作戦に身を投じるのである。
●出頭に応じないなら……
さて、メンバー達は英雨建設事務所の敷地へと入っていき、玄関のインターホンを押す。
「AAAさんの代わりに業務指導に来たよ!」
トレードマークの腕章をビシッと掲げて決めポーズをした、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360) は続けて、鬼頭三等が認めた代行書類を示して見せた。
中から、それを社長らは確認しているはず。頭上の監視カメラが動いているから間違いはない。
「社長様、お話がありますので、出ていらしてくださいませ」
「私達は業務改善指導代行として参りました。出頭を要請します」
威風を纏い、いのりの内部の社員達へと大声で呼びかける。ラーラもまた、これが正式な手順に基づく物だと主張して見せた。
「社長の呼び出しを……頼みます。直接話させて欲しい、んです」
相手は社会人。奏空は慣れぬ丁寧語を使い、ワーズ・ワースの力も使って社員らの説得をしようとする。
覚者であれば、強引に中へと踏み込むのは難しくない。
しかしながら、後ほど状況証拠などを捜索するに当たり、内部で強引に社長らを取り押さえるとなれば、それらの資料が完全な状態で押収できなくなる可能性が高い。
(作戦、成功させたいけれど……)
だからこそ、メンバーは建物内での戦いは出来れば避けたいと考えている。とはいえ、失敗したならば、やむを得ず中で戦闘かなと渚は割り切ってはいたが。
「業務指導ね。……まあ、聞く耳なんて持ってないのでしょうけど」
これで改善される相手であれば、こんな事態にはなっていないと、一歩離れたエメレンツィアは考える。
(後……、子供の話になんて、耳は貸さないでしょうね)
今作戦に臨むメンバーは半数が10代、秋人も教師とはいえ若い。いくら代行という立場でも、相手が応じるかどうか……。
「えっと、応じない場合は、重機の差し押さえと、業務程度を行……います!」
奏空は声を上げ、超直感で中の様子を探る。
ガラス越し、ブラインドの向こうで動く人影。あるいは、小さく聞こえてくる会話。それらは、なかなかこちらの要求に応じる素振りがない。
(子供のお使いか。フッ、笑わせる)
(AAAも人手不足のようですな)
((ハハハハハハハハ……!))
外まで聞こえる笑い声。それに、覚者達は目の色を変える。
「そちらが応じないなら……、こちらは本気ですよ」
代行という権限を最大限に利用する覚者達。
ラーラはチェーンを取り出し、駐車場に置かれたクレーン車を封鎖していく。渚もトラックにチェーンをかけていたが、その間にも彼女は鋭聴力を働かせ、敵の挙動を確認していた。
まさか冗談だろうという声が中から聞こえるが、覚者達は本気だ。あまりに出てこない社員達に、いのりは剛を煮やしてしまって。
「出てこないと、二度と操業できないよう重機を破壊してしまいますわよ!」
大人の姿となったいのりは露出高めの姿に変わってから、脅すように叫びかける。
(お金にがめつそうなので、損するような事は避けるかと思うのですが)
とはいえ、いのりも想定の上で声を荒げているに過ぎない。
(突入するしかないでしょうか?)
ラーラは仲間達へとそう問いかけると、玄関へと社員が姿を現す。
「ガキどもが……、悪ふざけは大概にしやがれ!」
現れたスキンヘッドの社長、海音寺・米蔵。おそらくは現場で鍛え上げたその肉体を誇示するそいつは、手に嵌めたメリケンサックを煌かせる。
ドリル、チェーンソーを持つ隔者と思われる部長2人がそれぞれ覚醒し、海音寺の両脇を固めていた。
そして、彼らの前に、疲れ果てた眼差しの一般社員が進み出る。上司の命令もあってか、彼らは金属の棒を手にして身構えていた。この一般社員こそ、救うべき人々なわけだが……。
(ま、ブラックとわかってて転職も考えないような人は、多少自業自得なところもあるでしょうけど)
エメレンツィアも覚醒し、その長い髪を深紅に染める。
社員達は皆、一様にくたびれた様子。だが、この中に黒霧構成員が紛れ込んでいるのは間違いない。隔者という情報があるが、そいつは巧妙にそれを隠している。
(黒霧の関わりを消す為、重要な書類だけはその構成員が持ち去るんじゃないかな)
また、見た目がほとんど変わらぬ覚醒状態の秋人は、一般社員の背に着目する。
そこには、半球状の器具が装着されている。これが、非発現者にも覚者の力を擬似的に与えるという装置なのだろう。
(その開発に黒霧が関わっているなら、その装置を回収し解析する事によって何か得られないかな?)
興味はあれど、今はのんびり考えてもいられない。
「倒せば、給料は弾むぞ」
社員へとそう告げながら、海音寺は重機のようになった拳を鳴らし、覚者へと突っ込んでくる。
奏空も髪を金色に染め、渚も見た目はさほど変わらぬが交戦に備えて覚醒する。
すでに覚醒し、銀色の髪を靡かせるラーラは英霊の力で自身を強化していた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……、イオ・ブルチャーレ!」
煌炎の書を手にして、叫ぶラーラ。覚者達は力を解放し、暴れ始める社員達を取り押さえにかかるのである。
●黒霧はどいつだ……?
駐車場で戦う事となる覚者と英雨建設社員。この後、事務所の捜索も行いたい覚者側としては、重機の差し押さえという作戦が功を奏した結果と言える。
「くらええっ!」
豪腕を振りかざす海音寺。そいつは多少覚者らを舐めてかかっている様子はあるが、隔者としての力量は本物らしい。奏空が受け止めるが、その一撃に顔を顰めていた様子だ。
脇の部長らがドリルやチェーンソーを振りかざす中、奏空はまず、そいつらの命令で動く社員の無力化を図る為に眠りに誘う空気を再現する。
「無理強いされてる方を傷つけたくはありませんわね」
いのりも同様に眠りの空気を発生させ、社員達を眠らせていく。
確かに、非発現者である社員達は多少、抵抗力が上がってはいるのだろう。半数以上がぱたりぱたりと眠りについてしまう。
だが、元々効きのよいスキルとはいえない艶舞・寂夜。2人がかりで4人を眠らせるが、それでも社員3人がその空気を振り払って鉄棒を振り上げ、あるいは背中の器具から擬似術式を行使する。そいつはプレッシャーを発することで、こちらの動きを鈍らせようとしてくる。
(戦闘中であれば、一瞬でも目付きや雰囲気が変わるはず……)
秋人はそう考えて社員らを注意深く確認するが、尻尾を出す様子はない。さすが、隠密、潜入が得意な組織員といったところか。
部長らが仕事道具を振り回して仲間を傷つける中、ラーラも魔法陣を描き、そこから深紅の猫を呼び出す。
「さあ、いってください!」
燃え上がる炎獣が暴れ周り、一般社員を焼く。
(どの方が黒霧なんでしょうか……)
ラーラは超視力を使いつつ、エネミースキャンで敵を能力を分析する。
「あれ……ね」
己の強化の後、先に分析を試みたエメレンツィアが一足早く、そいつを発見していた。
一際強い能力を持つ男。そいつは何食わぬ顔で一般社員を演じている。
(ま、捕まえるのは海音寺を捕らえてからでしょうけど)
余裕があれば、捕らえて尋問したい。彼女としては、長である霧山・譲の動向を少しでも得たいところなのだ。
とはいえ、そればかりに目をつけ、役員どもが逃げては元も子もない。
渚が手にする強化ガラスで出来た注射器で地を這う連撃を繰り出す。そこでなぜか、黒霧らしき社員はその場に倒れてしまう。あくまで、一般人を装うつもりなのだろう。
そいつが気になりはするものの。今は社長、部長2人の鎮圧が先だ。
力任せに襲い来る社員達。鉄の棒での殴打、さらにドリルやチェーンソーを唸らせ、覚者達を傷つけてくる。
秋人は回復の為にと雨を降らせることとなるが、合間を見て波動弾を撃ち出し、後方の部長もろとも撃ち抜いた前方の社員を倒す。
瑠璃光を発して仲間を包み込んだ奏空が残り一般社員に狙いを定める。両手の忍者刀を上手く使い、彼は最後まで立っていた一般社員の意識を遮断する。
(任意で出来るっていうなら)
社員は自分の意思でこれをつけているはず。そう考えた奏空は仲間が役員達の相手をする中、その社員につけられていた器具のスイッチをOFFにしていった。
●抵抗を続ける役員達
いくら、相手が隔者であろうが、戦い慣れしている覚者達の敵ではないといったところか。
ラーラが拳大の炎を連続して浴びせかけると、チェーンソーを持つ部長が崩れ落ちた。
だが、役員らはなおも抵抗を続ける。
「こいつら……!」
社長、海音寺が歯噛みする。部下のふがいなさもあるが、代行としてやってきた子供達の力を舐めていたと言わざるをえない。
この場を切り抜けようと、部長のドリルに続き、海音寺は豪腕を叩きつけてくる。その力は決して侮れない。前に立つ渚、奏空が血を流すのを見て、エメレンツィアが仲間へと恵みの雨を降らせて行く。
「人は宝よ、使い潰すような真似をするものではないわ。……まして、暴行を加えるなんてもってのほかね」
そして、彼女は社長、海音寺に呼びかける。
「雇用主と社員は確かにビジネス関係だけれども、そこに信頼はあるべきよ。そうじゃないと、いざっていう時に裏切られてしまうわ」
「俺に説教するか!」
飛び込んでくる海音寺。全身を硬化させた彼は前にいるメンバーへと連続して殴りかかってきた。
少しタイミングをずらす形で、秋人は仲間へと潤しの雨を降らせてその傷を塞いで行く。
一方で、渚が手にする巨大注射器で部長を昏倒させると、彼女は社長へと言い放つ。
「ちゃんと適度に休まないと元気に働けないのに……。命だって危ないんだよ?」
現に、工事現場において、過労の為に重体となった男性がいた。看護師になるのを夢見る渚にとって、それが許せない。
「分かっててやってるんなら、力付くでも止めるからね。私、怒ってるんだから!」
その巨大注射器の矛先ならぬ針先は、海音寺へと向く事になる。
海音寺は現場で鍛えた肉体で、覚者へと抵抗を続けていた。
隔者としての力は、こいつだけは抜きん出ており、覚者6人がかりでもその鎮圧に骨を折る事となる。
奏空がスピードを生かして、社長へと切りかかる直後、秋人が回復の手を止めて「豊四季式敷式弓」で相手を狙い撃つ。
「くっ……」
周囲を見回す海音寺。おそらくは退路を探しているのだろうが、メンバー達がそれをさせじと攻勢を強める。
一歩引いた海音寺を、奏空が落とした雷が焼く。
刹那痺れを走らせて動きを止めた海音寺へ、いのりは頭上から星のように輝く光の粒を降り注がせた。
「これで、終わりですわ!」
「俺が……こんな、ガキ、どもに……」
前のめりに崩れ落ちる海音寺。
メンバー達はすぐに社員達を見回し、自分達の状況も確認する。次に狙うは、タヌキ寝入りしていると思われる黒霧構成員。
だが、気づけば、一般社員が1人足りない。そいつはいつの間にか、装着した器具ごと姿を消していたのだった。
●事務所で見つかった物は……
抵抗を止めた英雨建設の社員達。覚者らは拘束した社長を護送することする。
それを不安げに見つめる一般社員。そんな彼らに対し、エメレンツィアがF.i.V.E.の指揮をとる中・恭介に再就職先の斡旋を働きかけるよう、約束する。
(この方達の生活が成り立たなくなるのは、本意ではありませんし)
いのりもまた、先日の建設現場の社員同様、自身の祖父にこの社員の処遇を相談しようと考えていた。
メンバー達は事務所へと立ち入り、ガサ入れを行うこととなる。
「黒霧、何か持ち去ってないかな」
そんな懸念を示す奏空。しかし、事務所に荒らされた形跡はない。
あからさまに過労と思われる社員のシフト。器具を使い、社員を強引に働かせる会社の方針が明らかに見て取れた。
さらに、新たな建設計画に奏空が着目する。それを見る限り、突貫工事といった様子。土日も工事を続ける他、深夜までも休みなく続く工事。騒音など、周囲への配慮すらない有様だ。
また、守護使役のピヨに上空から、抜け道がないかと偵察させる秋人はその間、内部資料に欠けている物がないかと調べる。
だが、抜け道もそうだが、資料にも穴らしき物が見当たらない。元々改竄済みである可能性も高い。さすがは、組織潜入がお手の物な黒霧といったところか。
「これを調べることで、何か分からないだろうか」
秋人はその合間に、社員が装着していた器具を手に取る。どうやら、社内の備品として置かれていたものらしい。
「これ、なんでしょうか……」
いのり守護使役の力でかぎわけて着目したのは、社長、海音寺の机の引き出しにあった資料。それは、社員が装着していた器具のカタログのようなもの。裏には、製作元と思われる『BANZEN』という名前があった。
「さて……、次は何かしらね?」
それを見ていたエメレンツィア。黒霧が、いや、霧山譲が何を画策しているのかと考えながら、彼女は現場の後始末に動くのである。

■あとがき■
皆様、お疲れ様でした。
重機に着目された方は数人おられましたが、
プレイング内容などから判断し、
MVPをお送りさせていただきました。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!
重機に着目された方は数人おられましたが、
プレイング内容などから判断し、
MVPをお送りさせていただきました。
今回は参加していただき、
本当にありがとうございました!
