覚者と隔者
覚者と隔者



 紫煙漂う裏通りの酒場。
 享楽的な曲がかかり、どこか暴力的な雰囲気に満ちている。
「さすがは石上さんっすよ!」
「石上さんについていけば、間違いないっすね!」
 口々に話しながら、男たちは手元の銃器を弄っていた。当然、この国において銃器の所持は基本的に禁じられている。そして、彼らは許可を持っているわけではない。
 これらは街に存在した犯罪組織や憤怒者組織から奪い取ったものだ。
「当たり前だろ。石上さんはこの街の王(キング)なんだからな」
「AAAだってもうないんだ。石上さんを止めれる奴なんていねぇよ」
 騒ぐ男たちの言葉に、奥にいた石上という男は笑みを浮かべた。
 彼はいわゆる隔者だ。ちょっと前までは街にいるチンピラに過ぎなかった。しかし、因子を発現させてから全てが変わった。
 因子の力の使い道として一番簡単なものは暴力だ。そして、石上が生きていた世界において、それは極めて有効な手段だった。
 偉そうにしていた犯罪組織の長は無様に命乞いをしてきたし、今じゃあ警察だって恐れて手を出してこない。
 それもこれも、この力のおかげだ。
(そうだ、俺は選ばれたんだ!)
 石上は心の中で自分の手に入れた力に酔いしれる。自分は「力を持つ者」になった。であれば、その力で好き勝手生きていくことが出来るということだ。
 先日起きた「大妖一夜」と呼ばれる事件で、AAAも壊滅的被害を受けたと聞いた。そうなれば、自分を止めることが出来るものなど、いようはずもない。
「この街なんてチンケなこと言っているんじゃねぇ。いずれはこの力で、俺こそがこの国の王になってやる。明日はそのために大きな花火を上げてやろうぜ」
 石上の言葉に男たちは歓声を上げる。
 彼らの頭の中にはAAAを滅ぼした妖、ましてや他の覚者や隔者のことなど存在しない。考えているのは、因子の力で己の欲望を満たすことだけだ。
 こうして、井蛙たちの宴は続いていくのだった。


「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
 集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、隔者の人が大騒ぎを起こす夢を見たの。みんなの力を貸して!」
 麦が見たのは、とある地方都市で暴れまわる隔者とそれに率いられた武装集団の存在だ。憤怒者などから奪い取った重火器を面白半分に振り回し、街の中を無茶苦茶にするらしい。
「でも、まだ止められる。準備をしている隔者さんの所へ、先手を打つことが出来るの」
 集団は場末の酒場を根城としており、夜のうちにそこで彼らを捕らえれば、事件を未然に防ぐことが出来る。もちろん、中には武装している連中がいることになるから決して簡単に終わる仕事ともいえない。だが、覚者であればきっと果たしてくれると麦は信じている。
 酒場には表の入り口の他、裏口もある。両方から挟み撃ちにするのが楽な方法だろうか。他にも効率の良い手があれば、実行しても悪くないだろう。
「リーダーは石上っていう隔者さんだね。土行の精霊顕現で、守りは堅そうって感じかな」
 集団を統率する石上は、目覚めて時間がない割に、そこそこ力を持った隔者のようだ。元は街にいた犯罪者だが、手に入れた力で街の裏社会を制した。今は能力を手に入れた万能感に酔っているが、いざ窮地になれば臆病な本性を見せることだろう。
 現在、日本は「大妖一夜」の影響で不安な空気が漂っている。そこにこれ以上の混乱を持ち込むわけにはいかない。
 説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:KSK
■成功条件
1.隔者の討伐
2.なし
3.なし
皆さん、こんばんは。
出入りの時間、KSK(けー・えす・けー)です。
今回は隔者と戦っていただきたいと思います。

●戦場
 とある地方都市の酒場。
 時刻は夜ですが、灯のある屋内です。
 戦場の狭さなどはお気になさらず。店も集団のものなので、意図して破壊しない限りは問題ありません。
 表と裏に1つずつ出入り口があります。

●隔者
 ・石上清弘(いしがみ・きよひろ)
 フリーで活動する土行の精霊顕現です。
 20代半ばの男で最近力が発現しました。元々、犯罪者で粗暴な性格をして、王様気取りです。しかし、根は卑屈で臆病と言うべき人物です。
 術式を中心的に使うほか、紫鋼塞を得意とします。

●戦闘員
 石上に従うチンピラです。あちこちから奪った武装のおかげで強化されています。10人います。
 ・戦闘員
  1.ナイフ 物近単 出血、毒
  2.機関銃 物遠列


「大妖一夜」の影響でちょっと日本がぐらついています。
力を持つ者がこういう刹那的な発想に取り憑かれることもあるでしょう。
そんな中で、皆様がなぜ覚者として戦うのかをプレイングに盛り込んでいただけると良いのではないかと思われます。
それでは、プレイングお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年06月04日

■メイン参加者 8人■

『白焔凶刃』
諏訪 刀嗣(CL2000002)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『豪炎の龍』
華神 悠乃(CL2000231)
『雷麒麟』
天明 両慈(CL2000603)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)


 その瞬間まで、酒場にいる隔者と取り巻きの男たちは酔っていた。
 酒に、ではない。
 力が与えてくれる万能感、優越感、そうしたものに酔っていた。
 しかし、それは奇しくも同じ力によって打ち砕かれることになる。
「オイ、雑魚とボス猿がいる店はここか?」
「よォ! こんばんは、社会不適合者共。正義の味方のFIVEさんですよっと」
「おぉ、くせぇくせぇ。こりゃ動物園の匂いだ。ここで間違いねぇな」
 扉を蹴り破って入って来たのは『白焔凶刃』諏訪・刀嗣(CL2000002)と『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)だ。この2人の乱入にして、場の雰囲気は一層暴力的なものに塗り替わる。
「狡い悪事を働く井の中の蛙共をぶち殺しに来ちゃいました♪ つー訳で…素直に投降すれば良し。死にたくないって奴は無様に命乞いすれば考えてやる」
 どこかふざけた態度を見せる直斗に対する返事は、鉛の弾丸だった。中のチンピラたちはすぐさま機関銃を抜いて応戦してくる。どうとでもなると思っているのだろう。
 そして、直斗はそれを予期していた。
「それ以外は首狩って晒してやんよ! さあ、死にたい奴から前でな!」
 むしろ、刀を振り上げると待ってましたとばかりに攻撃を開始する。
「ははっ、こりゃ面白ぇ。雑魚が勘違いしていい気になってるのを見るのは面白ぇ。そいつらをいたぶるのはもっと面白ぇ!」
 刀嗣は呪われた武器、八尺を構えて弾丸の雨の中に飛び込んだ。
「何の価値もねぇクソなんだから、俺を楽しませるオモチャぐれぇにはなれよな! メシの時間だ。食っていいぞ、八尺」
 呪いにふさわしく禍々しい刃が振るわれる。
 強力な装備でよろっていても、所詮は人間だ。その様に臆して逃げようとする者も現れる。
 しかし、それは叶わなかった。
「そうはさせません」
「任務了解。隔者及びその配下の制圧を行う」
 凛とした声でチンピラの行く手を阻んだのは『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)だ。赤坂・仁(CL2000426)も制圧射撃を始め、敵の行く手を阻む。
 舞い上がった炎や迫る弾丸を見て、隔者とチンピラたちは自分たちが窮地に陥ったことをようやく悟った。
 表の側ではラーラの姿を確認して、『眩い光』華神・悠乃(CL2000231)がピースサインを作っている。送心の能力を使ってタイミングを合わせたのだ。この辺、ただ力に溺れる隔者と自身の力を正しく理解して使う覚者の大きな違いである。
「地方都市で、酒場のある裏通り……。仕事がすんだら、一軒みつくろって入ってみてもいいかな。どうですか、両慈さん」
「そうだな。悠乃をこの様な場所に長居させたくないのはあるが……」
 悠乃の誘いに対して、『雷麒麟』天明・両慈(CL2000603)は鉄面皮を崩さない。普段から周りに対して無愛想な男だ。相手が美女だろうが、こういう誘いに乗る姿はそうそう想像がつかない。
「終了後の楽しみができれば、ちゃちゃっと片付けるにも身が入るってものです」
「が、悠乃との時間を断る理由は無い。片付いたら付き合おう」
 とは言えその実、悠乃に対しては甘い男でもあった。
 拝むような仕草をする恋人に対して、いつも通りの淡々とした口調で答える。
 しかし、それさえ聞ければ悠乃のやる気は100倍だ。双腕のナックルの感覚を確かめるようにして、ファイティングポーズを取る。
「今回は頼りになる前衛が居る。だから決して無理をするなよ」
 やる気満々の悠乃を窘めるように呼びかけ、両慈も呪文書を手に戦いに入る。すっと長い髪が銀色に染まり、瞳は紫の光を放つ。
「……良いか、無理をするなよ?」
 親しくなったものには甘いし、結構心配性なのである。

 一方、チンピラが逃げようとした裏口で、激しく戦いは始まっていた。
「駄目だと思ったら降伏しろ!! いいな!!?」
 この場で矛盾したようなことを言いながら、『黒い太陽』切裂・ジャック(CL2001403)は炎を操る。
 ジャックという少年はつくづく矛盾に満ちた存在だが、今日のそれは格別だ。明日に隔者が行う凶行を止めに来たわけだが、何よりも当の隔者の身を何よりも案じている。
 ジャックがFIVEにいるのは成り行きだ。だが、人の命を救うということに対しては、文字通り命を懸けている。敵が破滅の道に向かうのを助けるのも、手を差し伸べるのも、自分の役割と自認しているのだ。
 だから。
「討伐はさせない。人の残りの人生全てを奪う行為だけは許さん」
 この場においても、懸命に戦う。
「楽な戦いではもちろんないんでしょうが、今回はこちらからし掛ける分、有利に進んでいますね」
 ラーラの言う通り、タイミングも攻撃の流れも覚者達の想定通りに進んでいる。
 不意を打たれた隔者とその部下たちだが、最初の混乱からは立ち直ったようだ。覚者達を迎え撃とうと、本格的に攻撃を開始してきた。
 実の所、まだ本当の意味で状況を理解していないのかもしれない。
「……憐れ、ですね。それ以上の言葉が、ありましょうか」
 『突撃巫女』神室・祇澄(CL2000017)は文字通りの嘆息を漏らす。
 この場にいる者たちは、力の意味を欠片も理解していない。ただ、恩恵だけを見てそれを崇めているだけだ。FIVEが相手にせずとも、いずれ何かしらの形でより大きな力に踏みつぶされていたことは想像に難くない。
「せめてもの情けです。自らの愚かさ位は、教えて差し上げましょうか」
 祇澄は軍刀を抜き放つ。『七星剣』の幹部として名を馳せた男が使っていた刀が彼女の手の中にあること自体、覚者と隔者の生き方の差を示していると言えるのかもしれない。
 そして、その軍刀は白光と共に敵に向かって閃いた。


 戦いに関しては言うまでもなく、FIVEが優勢だった。
 実の所、多少装備で固めていても相手の大半は非覚者。一般的な憤怒者程度の脅威にはなるが、今の覚者達の相手とは言えない。相手が全て隔者だったらという危惧もあったが、幸いにしてリーダー格だけしかいない。
 加えて、場数も度胸も全然違うのだ。
「殺す気でいくからさ、全力で抗ってくれよ。じゃないと弱い者いじめになるだろ?」
 直斗は『首狩り白兎』の二つ名にふさわしく、狭い戦場を縦横自在に跳び回る。
 そして、その妖刀の刃が狙う先は正確に相手の首だ。動けなくなった相手にわざわざ追い討ちを行うまでではないが、本気で命を奪いに行っている。
「力に溺れてこんな事仕出かした責任をさ……命で償ってくれや」
 その狂気すら感じさせる戦いぶりは、『本気の戦場』を知らない隔者を戦慄させるには十分だった。
「おいエテ公。お前防御が自慢なんだったな? じゃあ耐えてみろよ」
 雑兵を潜り抜けて、いよいよ隔者へと肉薄する刀嗣。
 己の力を爆発させて一気に隔者へと叩き込む。
「生きてりゃ褒めてやるよ。ま、結局飛燕でボコすんだけどな」
 技の反動や、隔者の作った障壁から跳ね返ってくる衝撃が刀嗣の身体を傷つける。しかし、その痛みを意に介することなく刀嗣は攻撃を行う。
 それは呪われた武器の所有者にはふさわしい姿だ。
 あまりにもおぞましい姿は、味方のジャックをも戦慄させる。
「す、諏訪の武器、なんかおぞましいね。八尺っていうんか、古妖かなんか? 友達になれる武器かな?」
 刀嗣の乱暴さは知っているつもりだ。
 だが、八尺を握る彼の姿はそれ以上の荒々しさを感じさせる。
「あ、だめそうやね」
 そのすさまじさを受け入れるジャック。だからこそ、決意を新たにする。
「絶対に人殺しだけは認めない……認めちゃ、いけない」
 ジャックの身体を血が汚していく。
 血みどろになったジャックの姿は、傷つきながら命を救おうとする祈りそのものの姿だ。
 一刻も早く、無用な犠牲を出させず戦いを終わらせる。その甲斐あって、次第に場にいるものは戦闘不能ないしは戦意喪失していく。
「束の間でも、夢を見られて。短い天下は、楽しかったですか?」
「……ひっ」
 次第に数を減らしていく部下と苛烈な攻撃を前に覚者は情けない悲鳴を上げる。
 土行の力を込めた一撃を受け止め、祇澄はそのまま反撃へと転じた。
 この隔者の考え方に関して、祇澄は全否定するつもりはない。望む望まないはともかく、力を手に入れてしまった段階で『特別』なことに変わりはない。
 だから、祇澄自身は己に人々の剣となり盾となることを課している。ゆえに、目の前の隔者と戦う。
(それを否定するのであれば、せめて高みを目指すべきだと。現状に満足した人は、自分より強者に倒されるのが常なのだから)
 軍刀で連続攻撃を仕掛ける祇澄。
 対して残ったチンピラは襲い掛かって来るが、そこへ切り裂くような気弾が撃ち込まれる。
 仁だ。
「数を減らさなければ話にならないか。手加減は出来んぞ」
 淡々と告げ、仁は深手を負いながらも攻撃を続ける。
 任務に忠実な男だ。感情を抑えて戦うため、普段はもっと口数も少ない。わざわざそれを口にしているのは、威圧のためだ。
 その攻撃に躊躇は無い。その一方で不必要な攻撃も無い。
 捕縛しろとも殺せとも言われていないのだ。あくまでも必要最低限の攻撃にとどめ、戦場を制圧していく。
(この後で、AAAが壊滅した以上、どこまで対応できるか不明だがな)
 内心に不安を抱えてはいるが、それは表に見せない。先日の事件は元AAA実働部隊にいた仁にとっても衝撃だった。だが、それはそれだ。今、やらなくてはいけないことが目の前に存在する。
 互いの弾丸が入り乱れる中で、両慈はダメ押しとばかりに潤しの雨を降らせる。
(秩序が失われると、この様な奴等の台頭を許してしまう事になるか。解りきっていた事だが、実際に目の前にすると頭が痛くなるな)
 両慈自身は自分を正義の執行者などと思っていない。
 両慈が戦うのはあくまでも身近に居るあの馬鹿達の居場所を守るため。そして、愛するものの顔が曇るのを観たくないからだ。
 自分の大切なもの達を守る為だけに戦い抜くと決めた。たったそれだけだ、他に深い理由等存在しない。だがそれゆえに、何よりも強く重たい理由だ。
「貴様達の様に群れるだけの愚者の相手は俺の得意分野だ」
 両慈の支援を受けながら戦う悠乃だって、正義のために戦うつもりは毛頭ない。
 言うなればこれは、自分の人生をより楽しむためだ。色んな人と関わるのが純粋に楽しいからやっているようなものだ。
 自分の人生はすでに、自分と両慈の幸せを詰めれば一杯なんである。
「キミたち、その武器のことちゃんと分かっている? 適性射程やメンテ手順とか」
 にっこり笑って、悠乃は隔者にフェイントを織り交ぜてのコンビネーションを決める。
 わざと大振り気味にやったが、相手が装備に振り回されていることは分かっていた。そして、最後に組み付いて、トドメとばかりに投げ飛ばして地面に叩きつけた。
「ま、ムリか。勿体無いね」
「くそう、俺は力を手に入れたのに……」
 隔者は恥も外聞も捨てて、逃げ出そうとする。
 チンピラたちは逃げ道を必死に探す。
 そしてその間に、ラーラは悠々と詠唱を完成させた。
「妖に、隔者に、今、この日本には理不尽な暴力が溢れています。そんな理不尽をこの手で振り払うためにこそ私は力を磨いてきました」
 煌炎の書に課した封印は解除していない。だが、彼らを倒すのにこれで十分だということは分かっていた。
「発現した力を悪用して街を無茶苦茶にしようなんて、許すわけにはいきません」
 力を得た、という点において覚者と隔者の間に差は無い。違うのは何のために使うのかという点だ。
 そして、少なくとも彼らよりもラーラは自身の力を使いこなすために研鑽を積んでいる。今、その手の中にある炎だって、古妖「哀の迷ひ家」から与えられた技術を基にしたものだ。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 炎が怒れる獅子の姿を取る。
 その炎は間違いなく、ラーラの力となって、未来の災厄を食いちぎるのだった。


 戦いが終わった酒場で祇澄は、場の後始末を行う。
 AAA壊滅による混乱は後を引いているが、FIVEにだって処理班は存在する。幸い、背後関係はなさそうなのでこの件の後始末はそう難しくはないだろう。
 かなり荒っぽい戦いだったため、隔者の取り巻きとなっていた非覚者の戦闘員にも死者は出ている。これだけのことをやった以上、生き残りはもう何も出来まい。
 祇澄はそっと死んだものに対して弔いを行った。

「殺すな、殺さないでくれ! 犯罪者は生きて罪を償わせる! 人間は、人間の命をとってはならない!」
 一方その頃、ジャックは裏口で必死に逃げようとした隔者を庇っていた。すでに隔者は敗北を悟り、最初の王様気分を微塵も見せない無様な姿をさらしている。
 FIVEとしては、隔者の生死に関しては覚者の状況判断に任せてある。そして、ジャックは人の命を奪わないことを望み、刀嗣と直斗はそれを選んだ。
「俺達は、ただの研究組織で人の命を護る組織だ! それが人の命を取って守るなんざ間違ってんだよ! 俺達は裁定者でも警察でも処刑人でもねえだろ!」
 或いは、隔者の改心が明白であれば、彼の心を変える何かがあれば状況は違ったかもしれない。だが、隔者石上にそれはなかった。今は単に自分以上の力におびえているが、状況が変われば同じことを繰り返すだろう。
「勘違いしてんじゃねぇぞ。俺は正しい事をしにきたんじゃねぇ。気に食わねえやつをイジメにきたんだ」
 正しいとか間違ってるとかは、最初から刀嗣の頭の中にない。ジャックの髪を掴んで耳元でささやく。
 そして、惨めな姿を見せる隔者に刃が振り下ろされる。
「------------------!!!!!」
 ジャックの声にならない叫びが、戦いの終わった夜の闇を劈いた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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