なぜバーベキューはBBQと略されるのか
●
「はーろろん♪ 調子はどう?」
今日も忙しく日々を過ごす覚者の前にやって来たのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。5月の空のように明るく声を掛けて来る。
「ねぇ、今度の休みって空いてる? だったら、バーベキュー計画してるんだけど参加しない? 今、FIVEのみんな誘っているんだ」
五麟市内の小泉水川(こいずみがわ)河川敷。麦はそこでバーベキューをやろうとしているのだという。元々、アウトドア好きな少女なので、この手のことは得意分野だ。
すっかり暖かくなってきた今日この頃。外で風を感じながら食事を楽しむというのも悪くないだろう。
幸いなことにFIVEから予算も出ている。肉も野菜も結構な量があるので、腹ペコな覚者も安心だ。もちろん、持ち込み大歓迎。
仲間とわいわい騒ぎながら参加してもいいし、ただ飯だけ求めて孤独に参加するのもありだ。気を遣わずものを食べるということは、覚者にとって最高の癒しだ。
成人であれば、酒を飲むのもアリ! ただし、酔って暴れたりしないように気をつけましょう。
ここ最近は激戦が続いている。沢山食べて栄養補給をすることは、覚者にとっては当然の義務である(詭弁)!
「人がたくさん来てくれた方が、こういうのって盛り上がるからね。みんなの参加、待ってるよ!」
「はーろろん♪ 調子はどう?」
今日も忙しく日々を過ごす覚者の前にやって来たのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。5月の空のように明るく声を掛けて来る。
「ねぇ、今度の休みって空いてる? だったら、バーベキュー計画してるんだけど参加しない? 今、FIVEのみんな誘っているんだ」
五麟市内の小泉水川(こいずみがわ)河川敷。麦はそこでバーベキューをやろうとしているのだという。元々、アウトドア好きな少女なので、この手のことは得意分野だ。
すっかり暖かくなってきた今日この頃。外で風を感じながら食事を楽しむというのも悪くないだろう。
幸いなことにFIVEから予算も出ている。肉も野菜も結構な量があるので、腹ペコな覚者も安心だ。もちろん、持ち込み大歓迎。
仲間とわいわい騒ぎながら参加してもいいし、ただ飯だけ求めて孤独に参加するのもありだ。気を遣わずものを食べるということは、覚者にとって最高の癒しだ。
成人であれば、酒を飲むのもアリ! ただし、酔って暴れたりしないように気をつけましょう。
ここ最近は激戦が続いている。沢山食べて栄養補給をすることは、覚者にとっては当然の義務である(詭弁)!
「人がたくさん来てくれた方が、こういうのって盛り上がるからね。みんなの参加、待ってるよ!」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.バーベキューを楽しむ
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
人間火力発電所、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はバーベキューで思い切り飲み喰らいしていただければと思います。
●行動について
今回はバーベキューに行きます。
場所は五麟市内の小泉水川河川敷。
ここに出来たバーベキュー場で楽しく食事をしていただければと思います。
FIVEの予算で肉や野菜、飲み物が用意されているので手ぶらで参加可能です。もちろん、持ち込みを行っても構いません。
羽目を外しすぎないようにお気を付けください。
基本的にごみはちゃんと片付けたことになります。
●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
NPCの麦も参加しております。
何かあればお声かけください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
6日
6日
参加費
50LP
50LP
参加人数
19/50
19/50
公開日
2017年05月31日
2017年05月31日
■メイン参加者 19人■

●
日差しの強くなってきた5月のある日、にわかに川辺が騒がしくなる。
FIVE主催、バーベキューパーティーの始まりだ。
見ると【BBQP】のメンバーが集めたからか、年若い覚者が多い傾向がある。
その若さを爆発させて、肉の最前線へと突撃していったのはフィオナと遥だ。
「お、おいひ!」
「ヒャッハー! 肉だー!! 財布の中身を気にせず食える肉はうまいぞー!」
考えてみれば、フィオナも遥は集まった時からはしゃいでいた気がする。
財布を気にせず食べられる肉は美味い。しかも、仲間たちとワイワイ騒ぎながら食べられるのなら格別だ。
もはや、彼らを止めるものは無い。礼節を守って食べる人の分をキチンと残しているのは、絶技の領域とすら言える。
「これ以上焼いたら焦げちゃう! 焦げたらもったいないしな! ほら、どんどん食え! お前はもっと食って身体を作らなきゃ!」
余った肉をひょいぱくと口にする遥。ついでに、適度に焼けた肉を周りに配る奉行役もこなしている。まぁ、普段の彼の戦いぶりを考えれば、この程度の見切りはどうと言うこともないのかもしれない。
(のっちゃってもいいよね?)
周りの様子を見て、結鹿は決心を固める。
一応、バランスを考えて食べているつもりだ。そして、食べ過ぎが良くないとも思っている。だけど、太りたくない乙女心と目いっぱい食べたい気持ちの間で揺れていたのも事実だ。
そして、周りの戦士たちの姿は揺れていた彼女の背中を押した。
後悔は明日、体重計の上で行えばいい。
そう、ここはちょっとした戦場だ。
ククルも取り皿を手に楽しそうだ。
フィオナも普段掲げている騎士道やノーブル的なものを放り投げ、焼肉を食べるマシーンと化している。
「奈南の食べっぷりいいなあ! その身体の何処にそんな入るんだ?」
「あ! ナナン、BBQは焼きトウモロコシが食べたい! 麦ちゃんもどうぞ! なのだ!」
「サンキュー♪ ほらほら、野菜も食べないと」
肉の中に野菜が投下され、戦場は一層の盛り上がりを見せる。ここ最近高い買い物が過ぎて貧乏生活の続いたフィオナは、躊躇わず野菜を手にする。
そんな中、遥はトングを手に高らかに宣言した。
「野菜? 知らないな! 今日は肉の日だ!!」
それはそれはもう、5月の空にふさわしい爽やかな宣言だった。
燐花は自分の目の前に山と積まれた肉と野菜を見て当惑していた。
自分でやると言ったものの、輪廻の勢いに勝てなかったのだ。そして、輪廻基準の普通は、世間の沢山を意味する。
「はい、あ~ん♪ 今日は輪廻さんに甘えちゃいなさいな♪」
「……おいしい、です。ありがとうございます」
わざわざ運んで来てもらって恐縮してしまう燐花。おまけに手ずから食べさせてもらうのは、結構恥ずかしい。
輪廻の方はむしろ、面倒見るのを楽しんでいるようではある。いや、照れてる様子を見て、面白がっているという方が正しい表現だ。
そんな中で、輪廻はガールズトークらしく、コイバナを振った。
「ふふ、ねぇ燐花ちゃん? 貴女、今好きな相手とか居るかしらん?」
「お傍に居られたらいいなという方なら、はい」
場の空気もあって、振られた話題に思わず返事してしまう燐花。
「いえ、ちょっと前はうちの後輩君と良い感じの雰囲気だったからねん。もし、まだ彼の事を気に入ってたら、彼を支えてあげて欲しいと、思っただけよん♪」
「妹分として、お慕いしてます……」
色々と内側に複雑な想いがあって、もじもじとしてしまう燐花。そのせいで、輪廻の目がいつになく真剣だったことには気付けなかった。
一方の輪廻はそれをごまかすように、豊かな胸を強調するポーズで次の肉を箸で取る。
「はい、この話はここでお終い♪ しっかり食べてしっかり運動すれば、燐花ちゃんも色々大きくなれるわよん♪」
「身長は欲しいです、が……」
輪廻に振られた話題に燐花は顔を真っ赤にしてしまう。
この辺はやはり、一枚上手なのだ。
それは、漫画のようなきれいな転び方だった。
凜音は声すら出てこない。転んだ椿花が、肉をこぼさなかったのは覚者ゆえの優秀なバランス感覚の賜物に他ならない。
話の発端は簡単だ。
せっかくの話だからと参加したバーベキュー。椿花は凜音の分も肉を取りに出ていった。普段だったら凜音が取りに行っているところだが、今回は椿花が取りに行くと主張したのだ。そこで、「中学生なんだし、世話を焼きすぎるのもよくない」と任せることにした。
結果、凜音のためにと沢山の肉を取った椿花は、焦って転んでしまったということだ。
「大丈夫か?」
頭を抱えていた凜音は、すぐさま椿花の下に駆け寄り、守られた皿をそっと机の上に置く。そして、ゆっくりと妹分のことを助け起こした。
手早く髪やを整えて、手近な椅子に座らせる凜音。ここで素早く治癒術式を使っているあたり、支援を専門に戦う覚者の面目躍如である。
「凜音ちゃん、ありがとう……」
椅子に座った椿花はすっかり涙目だ。せっかく、おいしそうな肉を選んできたのにこれでは台無しである。
そして、椿花の瞳から涙が零れ落ちようとした時だった。
「大した怪我はしていないようでよかった。ほら、食え」
「わーい! いただきます!」
差し出された肉を前に笑顔が涙を吹き飛ばす。椿花は喜んで肉を口にした。
凜音はやはり、自分には世話をする方が合っていると笑みを浮かべる。
お互いがこの関係を変えていくのは、もっとゆっくりやっていけばいいのだ。
ちょっとお腹がくちくなってきたところで、奈南は釣り竿と網、そしてバケツを手に川へと向かう。川では彩吹が用意した瓜や紡が用意した胡瓜の浅漬けも冷やされているわけだが、新たな食材ゲットに向けて、魚を釣り上げるためだ。
川の主でも釣りたいところだが、場所柄うっかり古妖とか釣り上げそうで怖い。
「でも、なんでお魚なの?」
「この間テレビでお魚の塩焼きを焼いているのを見て、とっても美味しそう! って思ったのだ!」
横で釣り竿を握る麦に対して、得意げに答える奈南。ちょうど宴も中盤戦。肉以外も食べたくなってくる頃合いだ。
「オッケィ! 下処理はあたしに任せて!」
「それじゃ、面白い事探検隊隊長! 元気いっぱい頑張るよぉ!」
結果、大物でないものの、何匹か川魚が手に入ったのは幸運だった。
釣った獲物は終盤に現れ、ちょっと宴を盛り上げることになる。
熾き火を前にして笑顔でいるのはラーラだった。
炎の魔法使いである彼女とは言え、さすがに今日は魔法のことで火を眺めているのではない。年相応の少女らしい様子で、焼けていくマシュマロを眺めていた。
「やっぱりバーベキューはマシュマロがないと終われませよね」
一部の覚者達は知っての通り、ラーラは壊滅的な甘党だ。それに、祖母の出身が日本なこともあって、こちらのバーベキューに慣れ親しんでいる。
そして、彼女が今やっているのは、マシュマロをショットグラスのように焼き上げる、ちょっと変わった焼き方。
「これでマシュマロショットグラス、出来上がりです。中にミルクを入れたり……大人の方はお酒を入れても美味しいそうですよ」
炎の魔女はここでも自由闊達に魔法を使いこなしてくれたようだ。
●
【BBQP】は続く。
「やっぱり、大勢でバーベキューって楽しいね」
肉を手にきせきは満面の笑みを浮かべる。こういう雰囲気は得意なのである。
さっきから盛んに取っているきせきの皿の上には、肉も野菜も積まれており、彼が楽しんでいるのは見て取れる。
もっとも、本人は焼いた玉ねぎを自分が多めに取っていることには気付いていないようだ。焼いた玉ねぎの風味を考えれば、ついつい多めにとってしまうのも無理なからぬところか。
しかし、事件は手伝いのために走り回っていたが席に着いたとき起きた。
「麦ちゃん、お疲れ様。わーい! お肉が美味しそうに焼けてるね!」
そして、喜色満面だった奏空の表情がさっと青ざめる。
皿の上にそっと置かれたのは肉の他に椎茸。そう、きのこ類を密かに苦手としている奏空が、とりわけ苦手としている椎茸が載っていたのだ。
「……? 奏空さん、どうされましたか……?」
気になって覗き込んだたまきは、皿を見て奏空の苦手を思い出し、おろおろとしてしまう。奏空も奏空で勇気をもって箸で椎茸を取ったが、どうするべきか手をぷるぷるさせて止まってしまう。
はたから見れば間抜けな光景だが、当人らにしてみればこの上なく真剣な問題だ。
場に流れた微妙な沈黙を打ち破ったのは、ダボッとしたクマ耳パーカー姿のだった。
「椎茸をピザに見立ててチーズと焼くと美味しいよ?」
「奏空くん、きのこ苦手なの? このタレかけてお肉で挟んで食べたらきっと美味しく食べられるよ!」
紡は奏空にアドバイスすると、たまきに耳打ちして、にやにやと状況を見守る。
ピーマンが苦手なきせきも、アドバイスを送って奏空を応援した。
彩吹は頑張れとサムズアップを送る。相手が奏空なのかたまきなのかは定かでないが。
緊張の中、奏空は意を決して椎茸を口に運んだ。
「く……工藤! 食べます!!」
口の中に入って来た苦手な椎茸。
奏空は懸命に噛みしめ、口の中に味が広がる。
チーズが香りを和らげてくれた。
(頑張って下さい……!)
たまきは思わず祈ってしまう。
そして、奏空は椎茸を飲み込む。
試練を達成して、奏空ははようやく息をついた。
「奏空さん、お疲れ様です」
奏空の頭をそっと撫でるたまき。当然、撫でられた方の顔は真っ赤だ。
その様子を見て、紡はアドバイス料とばかり肉を1枚もらっていった。
年若い覚者達の戦場を一歩引いたところから眺めつつ、義高は缶を1つ空にする。
相手をしているのは義高の妻だ。今回は家族で集まりに参加していた。視線の向こうで、娘の那海は覚者達に可愛がられている。
「娘にとっちゃ、年上ばっかだが俺の娘だ。臆することはねぇだろうよ」
心配した様子の妻に、義高は笑って答える。
ああした娘の成長した姿は、夫婦にとっても幸せの証そのもの。それになにより、義高が戦うのは愛する家族の幸せを守るためだ。
「……今日はなんだか、いつもより酔っぱらっちまったなぁ」
似合わない気障なことを考えてしまったのもそのせいだろうか。
すると、その胸中を覗いたかのように妻も微笑みを返した。
ちょっとしたハプニングも、終わってしまえば場を盛り上げるスパイスとなる。
苦手なものを食べた奏空の姿から、それぞれの苦手な食べ物の談義が始まり、また皆は他愛ない話を続けていく。
そんな中で彩吹は火の番を行う。火行術者である彼女にとって、そう難しいことではない。なお、色々とあって刃物は持たないように厳命されている。
「……焼き物の極意は弱火の遠火、だったっけ?」
「いぶちゃん、火加減覚えてくれていたんですね。嬉しいです」
彩吹の問いに澄香は笑顔で返事をする。ちなみに、弱火の遠火とは表面を焼き固めて、内部にまで火を通すための火加減ということだ。
普段料理が苦手なので、彩吹は全身全霊を込めて火を見守る。先も瓜を手刀で割ったら怒られただけあって真剣だ。
「焦げてない? うん、大丈夫。麦も食べている? 沢山お食べ」
「食べてるよー」
「ふふ、これも素敵な火加減のお陰ですね」
席について落ち着いた鈴鳴も皿に分けられた肉をふぅふぅと冷ましながら口にする。これまでは調理担当だったので、ひと段落と言った所だ。これも、1人暮らしを始めて修行を行った成果である。
もっとも、小食な方なのでそんなに食べるわけでもない。でも、せっかくこの場に参加している以上は、この空気も味わいたい。
(普段、学校では見せない、見れない姿が見られるから、こういう催しは好きなのよね)
普段の御菓子は学校の教師だ。それだけに学校での生活を目にすることが多い。しかし、こうやって休日の生徒たちを見ると、やはり自分の見ている姿だけが全てではないと思い知らされる。
ついつい、愛おしくなってハグしてしまったりしている。
「好き嫌いはみんなあるかな? 仕方がないことでもあるけど、もったいないことだからね」
そう言って御菓子は自分も周りに負けない勢いで食べている。一応抑えているつもりではあるが、どこかでまだ食べれば背が伸びると信じているのだ。
「あ、焦げた、アチッ」
「大丈夫ですか」
突然、紡が悲鳴を上げる。
慌てて駆け付けた澄香は、冷えたお茶を差し出す。見ると、そこには澄香が作ったおにぎりを使って作った焼きおにぎりがあった。どうやら焼き過ぎたものを隠そうとして、慌てて口の中をやけどしてしまったようだ。
「ふふ、あわてんぼさんですね」
紡の額をこつんと小突いた澄香は、改めて焼きおにぎりの調理に取り掛かる。
浅漬けと焼きおにぎり、そしてお酒を一杯やる紡はご満悦の表情だった。
●
次第に場に満足した空気が流れ始めた。いつの間にか、日も落ちてきて空にうっすら赤みがさしている。
その様を目にして、たまきはほうっとため息を漏らす。実は彼女はバーベキュー初体験。楽しみで眠ることが出来なかったくらいだ。
結鹿が後片付けを始めると、周りからもわいわい後片付けを手伝うものが姿を見せる。特に結鹿の場合、家で家事を担っている都合上、手際もよい。あっと言う間に片付いていく。
「お疲れ様だ!」
片づけを行った覚者達に、フィオナがお茶を淹れる。爽やかな味が、肉を食べた体に心地いい。
そんな皆の姿を見て、鈴鳴は小さな幸せを感じていた。別に大仰なものではない。こうした1日を、友人たちと楽しく過ごすことが出来た。そういう幸せだ。
(大変なことが起きてるからこそ……んな笑いあって過ごせる日常が、とっても大切なんです)
こうして、覚者達の休日は終わる。
次の日にはまた、新たな世界の動きが起き、次の戦いが始まるのかもしれない。
だが、それも今日のような日を守るための戦いだ。
その意味を確認し、覚者達は明日へと向かっていくのだ。
日差しの強くなってきた5月のある日、にわかに川辺が騒がしくなる。
FIVE主催、バーベキューパーティーの始まりだ。
見ると【BBQP】のメンバーが集めたからか、年若い覚者が多い傾向がある。
その若さを爆発させて、肉の最前線へと突撃していったのはフィオナと遥だ。
「お、おいひ!」
「ヒャッハー! 肉だー!! 財布の中身を気にせず食える肉はうまいぞー!」
考えてみれば、フィオナも遥は集まった時からはしゃいでいた気がする。
財布を気にせず食べられる肉は美味い。しかも、仲間たちとワイワイ騒ぎながら食べられるのなら格別だ。
もはや、彼らを止めるものは無い。礼節を守って食べる人の分をキチンと残しているのは、絶技の領域とすら言える。
「これ以上焼いたら焦げちゃう! 焦げたらもったいないしな! ほら、どんどん食え! お前はもっと食って身体を作らなきゃ!」
余った肉をひょいぱくと口にする遥。ついでに、適度に焼けた肉を周りに配る奉行役もこなしている。まぁ、普段の彼の戦いぶりを考えれば、この程度の見切りはどうと言うこともないのかもしれない。
(のっちゃってもいいよね?)
周りの様子を見て、結鹿は決心を固める。
一応、バランスを考えて食べているつもりだ。そして、食べ過ぎが良くないとも思っている。だけど、太りたくない乙女心と目いっぱい食べたい気持ちの間で揺れていたのも事実だ。
そして、周りの戦士たちの姿は揺れていた彼女の背中を押した。
後悔は明日、体重計の上で行えばいい。
そう、ここはちょっとした戦場だ。
ククルも取り皿を手に楽しそうだ。
フィオナも普段掲げている騎士道やノーブル的なものを放り投げ、焼肉を食べるマシーンと化している。
「奈南の食べっぷりいいなあ! その身体の何処にそんな入るんだ?」
「あ! ナナン、BBQは焼きトウモロコシが食べたい! 麦ちゃんもどうぞ! なのだ!」
「サンキュー♪ ほらほら、野菜も食べないと」
肉の中に野菜が投下され、戦場は一層の盛り上がりを見せる。ここ最近高い買い物が過ぎて貧乏生活の続いたフィオナは、躊躇わず野菜を手にする。
そんな中、遥はトングを手に高らかに宣言した。
「野菜? 知らないな! 今日は肉の日だ!!」
それはそれはもう、5月の空にふさわしい爽やかな宣言だった。
燐花は自分の目の前に山と積まれた肉と野菜を見て当惑していた。
自分でやると言ったものの、輪廻の勢いに勝てなかったのだ。そして、輪廻基準の普通は、世間の沢山を意味する。
「はい、あ~ん♪ 今日は輪廻さんに甘えちゃいなさいな♪」
「……おいしい、です。ありがとうございます」
わざわざ運んで来てもらって恐縮してしまう燐花。おまけに手ずから食べさせてもらうのは、結構恥ずかしい。
輪廻の方はむしろ、面倒見るのを楽しんでいるようではある。いや、照れてる様子を見て、面白がっているという方が正しい表現だ。
そんな中で、輪廻はガールズトークらしく、コイバナを振った。
「ふふ、ねぇ燐花ちゃん? 貴女、今好きな相手とか居るかしらん?」
「お傍に居られたらいいなという方なら、はい」
場の空気もあって、振られた話題に思わず返事してしまう燐花。
「いえ、ちょっと前はうちの後輩君と良い感じの雰囲気だったからねん。もし、まだ彼の事を気に入ってたら、彼を支えてあげて欲しいと、思っただけよん♪」
「妹分として、お慕いしてます……」
色々と内側に複雑な想いがあって、もじもじとしてしまう燐花。そのせいで、輪廻の目がいつになく真剣だったことには気付けなかった。
一方の輪廻はそれをごまかすように、豊かな胸を強調するポーズで次の肉を箸で取る。
「はい、この話はここでお終い♪ しっかり食べてしっかり運動すれば、燐花ちゃんも色々大きくなれるわよん♪」
「身長は欲しいです、が……」
輪廻に振られた話題に燐花は顔を真っ赤にしてしまう。
この辺はやはり、一枚上手なのだ。
それは、漫画のようなきれいな転び方だった。
凜音は声すら出てこない。転んだ椿花が、肉をこぼさなかったのは覚者ゆえの優秀なバランス感覚の賜物に他ならない。
話の発端は簡単だ。
せっかくの話だからと参加したバーベキュー。椿花は凜音の分も肉を取りに出ていった。普段だったら凜音が取りに行っているところだが、今回は椿花が取りに行くと主張したのだ。そこで、「中学生なんだし、世話を焼きすぎるのもよくない」と任せることにした。
結果、凜音のためにと沢山の肉を取った椿花は、焦って転んでしまったということだ。
「大丈夫か?」
頭を抱えていた凜音は、すぐさま椿花の下に駆け寄り、守られた皿をそっと机の上に置く。そして、ゆっくりと妹分のことを助け起こした。
手早く髪やを整えて、手近な椅子に座らせる凜音。ここで素早く治癒術式を使っているあたり、支援を専門に戦う覚者の面目躍如である。
「凜音ちゃん、ありがとう……」
椅子に座った椿花はすっかり涙目だ。せっかく、おいしそうな肉を選んできたのにこれでは台無しである。
そして、椿花の瞳から涙が零れ落ちようとした時だった。
「大した怪我はしていないようでよかった。ほら、食え」
「わーい! いただきます!」
差し出された肉を前に笑顔が涙を吹き飛ばす。椿花は喜んで肉を口にした。
凜音はやはり、自分には世話をする方が合っていると笑みを浮かべる。
お互いがこの関係を変えていくのは、もっとゆっくりやっていけばいいのだ。
ちょっとお腹がくちくなってきたところで、奈南は釣り竿と網、そしてバケツを手に川へと向かう。川では彩吹が用意した瓜や紡が用意した胡瓜の浅漬けも冷やされているわけだが、新たな食材ゲットに向けて、魚を釣り上げるためだ。
川の主でも釣りたいところだが、場所柄うっかり古妖とか釣り上げそうで怖い。
「でも、なんでお魚なの?」
「この間テレビでお魚の塩焼きを焼いているのを見て、とっても美味しそう! って思ったのだ!」
横で釣り竿を握る麦に対して、得意げに答える奈南。ちょうど宴も中盤戦。肉以外も食べたくなってくる頃合いだ。
「オッケィ! 下処理はあたしに任せて!」
「それじゃ、面白い事探検隊隊長! 元気いっぱい頑張るよぉ!」
結果、大物でないものの、何匹か川魚が手に入ったのは幸運だった。
釣った獲物は終盤に現れ、ちょっと宴を盛り上げることになる。
熾き火を前にして笑顔でいるのはラーラだった。
炎の魔法使いである彼女とは言え、さすがに今日は魔法のことで火を眺めているのではない。年相応の少女らしい様子で、焼けていくマシュマロを眺めていた。
「やっぱりバーベキューはマシュマロがないと終われませよね」
一部の覚者達は知っての通り、ラーラは壊滅的な甘党だ。それに、祖母の出身が日本なこともあって、こちらのバーベキューに慣れ親しんでいる。
そして、彼女が今やっているのは、マシュマロをショットグラスのように焼き上げる、ちょっと変わった焼き方。
「これでマシュマロショットグラス、出来上がりです。中にミルクを入れたり……大人の方はお酒を入れても美味しいそうですよ」
炎の魔女はここでも自由闊達に魔法を使いこなしてくれたようだ。
●
【BBQP】は続く。
「やっぱり、大勢でバーベキューって楽しいね」
肉を手にきせきは満面の笑みを浮かべる。こういう雰囲気は得意なのである。
さっきから盛んに取っているきせきの皿の上には、肉も野菜も積まれており、彼が楽しんでいるのは見て取れる。
もっとも、本人は焼いた玉ねぎを自分が多めに取っていることには気付いていないようだ。焼いた玉ねぎの風味を考えれば、ついつい多めにとってしまうのも無理なからぬところか。
しかし、事件は手伝いのために走り回っていたが席に着いたとき起きた。
「麦ちゃん、お疲れ様。わーい! お肉が美味しそうに焼けてるね!」
そして、喜色満面だった奏空の表情がさっと青ざめる。
皿の上にそっと置かれたのは肉の他に椎茸。そう、きのこ類を密かに苦手としている奏空が、とりわけ苦手としている椎茸が載っていたのだ。
「……? 奏空さん、どうされましたか……?」
気になって覗き込んだたまきは、皿を見て奏空の苦手を思い出し、おろおろとしてしまう。奏空も奏空で勇気をもって箸で椎茸を取ったが、どうするべきか手をぷるぷるさせて止まってしまう。
はたから見れば間抜けな光景だが、当人らにしてみればこの上なく真剣な問題だ。
場に流れた微妙な沈黙を打ち破ったのは、ダボッとしたクマ耳パーカー姿のだった。
「椎茸をピザに見立ててチーズと焼くと美味しいよ?」
「奏空くん、きのこ苦手なの? このタレかけてお肉で挟んで食べたらきっと美味しく食べられるよ!」
紡は奏空にアドバイスすると、たまきに耳打ちして、にやにやと状況を見守る。
ピーマンが苦手なきせきも、アドバイスを送って奏空を応援した。
彩吹は頑張れとサムズアップを送る。相手が奏空なのかたまきなのかは定かでないが。
緊張の中、奏空は意を決して椎茸を口に運んだ。
「く……工藤! 食べます!!」
口の中に入って来た苦手な椎茸。
奏空は懸命に噛みしめ、口の中に味が広がる。
チーズが香りを和らげてくれた。
(頑張って下さい……!)
たまきは思わず祈ってしまう。
そして、奏空は椎茸を飲み込む。
試練を達成して、奏空ははようやく息をついた。
「奏空さん、お疲れ様です」
奏空の頭をそっと撫でるたまき。当然、撫でられた方の顔は真っ赤だ。
その様子を見て、紡はアドバイス料とばかり肉を1枚もらっていった。
年若い覚者達の戦場を一歩引いたところから眺めつつ、義高は缶を1つ空にする。
相手をしているのは義高の妻だ。今回は家族で集まりに参加していた。視線の向こうで、娘の那海は覚者達に可愛がられている。
「娘にとっちゃ、年上ばっかだが俺の娘だ。臆することはねぇだろうよ」
心配した様子の妻に、義高は笑って答える。
ああした娘の成長した姿は、夫婦にとっても幸せの証そのもの。それになにより、義高が戦うのは愛する家族の幸せを守るためだ。
「……今日はなんだか、いつもより酔っぱらっちまったなぁ」
似合わない気障なことを考えてしまったのもそのせいだろうか。
すると、その胸中を覗いたかのように妻も微笑みを返した。
ちょっとしたハプニングも、終わってしまえば場を盛り上げるスパイスとなる。
苦手なものを食べた奏空の姿から、それぞれの苦手な食べ物の談義が始まり、また皆は他愛ない話を続けていく。
そんな中で彩吹は火の番を行う。火行術者である彼女にとって、そう難しいことではない。なお、色々とあって刃物は持たないように厳命されている。
「……焼き物の極意は弱火の遠火、だったっけ?」
「いぶちゃん、火加減覚えてくれていたんですね。嬉しいです」
彩吹の問いに澄香は笑顔で返事をする。ちなみに、弱火の遠火とは表面を焼き固めて、内部にまで火を通すための火加減ということだ。
普段料理が苦手なので、彩吹は全身全霊を込めて火を見守る。先も瓜を手刀で割ったら怒られただけあって真剣だ。
「焦げてない? うん、大丈夫。麦も食べている? 沢山お食べ」
「食べてるよー」
「ふふ、これも素敵な火加減のお陰ですね」
席について落ち着いた鈴鳴も皿に分けられた肉をふぅふぅと冷ましながら口にする。これまでは調理担当だったので、ひと段落と言った所だ。これも、1人暮らしを始めて修行を行った成果である。
もっとも、小食な方なのでそんなに食べるわけでもない。でも、せっかくこの場に参加している以上は、この空気も味わいたい。
(普段、学校では見せない、見れない姿が見られるから、こういう催しは好きなのよね)
普段の御菓子は学校の教師だ。それだけに学校での生活を目にすることが多い。しかし、こうやって休日の生徒たちを見ると、やはり自分の見ている姿だけが全てではないと思い知らされる。
ついつい、愛おしくなってハグしてしまったりしている。
「好き嫌いはみんなあるかな? 仕方がないことでもあるけど、もったいないことだからね」
そう言って御菓子は自分も周りに負けない勢いで食べている。一応抑えているつもりではあるが、どこかでまだ食べれば背が伸びると信じているのだ。
「あ、焦げた、アチッ」
「大丈夫ですか」
突然、紡が悲鳴を上げる。
慌てて駆け付けた澄香は、冷えたお茶を差し出す。見ると、そこには澄香が作ったおにぎりを使って作った焼きおにぎりがあった。どうやら焼き過ぎたものを隠そうとして、慌てて口の中をやけどしてしまったようだ。
「ふふ、あわてんぼさんですね」
紡の額をこつんと小突いた澄香は、改めて焼きおにぎりの調理に取り掛かる。
浅漬けと焼きおにぎり、そしてお酒を一杯やる紡はご満悦の表情だった。
●
次第に場に満足した空気が流れ始めた。いつの間にか、日も落ちてきて空にうっすら赤みがさしている。
その様を目にして、たまきはほうっとため息を漏らす。実は彼女はバーベキュー初体験。楽しみで眠ることが出来なかったくらいだ。
結鹿が後片付けを始めると、周りからもわいわい後片付けを手伝うものが姿を見せる。特に結鹿の場合、家で家事を担っている都合上、手際もよい。あっと言う間に片付いていく。
「お疲れ様だ!」
片づけを行った覚者達に、フィオナがお茶を淹れる。爽やかな味が、肉を食べた体に心地いい。
そんな皆の姿を見て、鈴鳴は小さな幸せを感じていた。別に大仰なものではない。こうした1日を、友人たちと楽しく過ごすことが出来た。そういう幸せだ。
(大変なことが起きてるからこそ……んな笑いあって過ごせる日常が、とっても大切なんです)
こうして、覚者達の休日は終わる。
次の日にはまた、新たな世界の動きが起き、次の戦いが始まるのかもしれない。
だが、それも今日のような日を守るための戦いだ。
その意味を確認し、覚者達は明日へと向かっていくのだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
