<玉串の巫女・撃>つるぎのすずなり、つるぎまい
●『髄液啜り』への先回り
許されざるべき妖の所行と、それと戦う戦士たちの記録をふりかえろう。
神社本庁所属対妖覚者機関『玉串の巫女』。その本拠地である神社が妖の軍団に襲撃され壊滅した。
多くの死者を出したものの、半数以上の戦闘員(巫女)が逃げ延び、ファイヴ覚者と共同で組んだ反撃部隊により拠点の一つである『豊四季神社』『三咲神社』『六実神社』の奪還に成功した。
これまでのパターンを見いだした覚者の機転によって大妖『髄液啜り』の次なる襲撃地点を予測するに至るのだった。
●迎撃、七栄神社
玉串の巫女にも僅かながら夢見らしきものは存在している。その人物が七栄神社襲撃の予知夢を見たのはついこの間のことである。
「事前の予測を信じて部隊を集めておいたのは正解でした。これだけの戦力があれば妖の軍勢を迎撃することができるでしょう。
ですが現地の巫女たちだけでは不安です。今回も、皆さんのお力を借りることはできますでしょうか」
玉串の巫女第四席、十七代目『豊四季』は深く頭を下げてそう述べた。
「七栄神社はあるオリジナルの青銅剣を奉った施設で、その力を分けた神具を製造する場でもあります。皆さんのお仲間にも、その武器を受け継いだ方がいらっしゃると思いますが……」
話が逸れそうになった所で、豊四季は咳払いをしてマップを広げた。
「この施設に『黒子衆』を配置して迎撃態勢を整えます。
これで神社への侵入は防げる筈ですが、ただ守るだけではすぐに取り囲まれてしまうでしょう。
よって、結界による突入路の限定と、敵部隊の分割を行なうつもりです。
そして、東西二つに分かれた部隊の迎撃を、皆さんにはお願いします」
突入してくる妖軍の迎撃。
きわめてシンプルな作戦だが、敗れれば巫女の命は勿論神社ごと奪われてしまうだろう。
なんとしても成功させなくてはならない。
「今回も皆さんには1人につき1チームの戦闘部隊をつけて迎撃作戦にあたって頂きます」
「……ということだ、皆、よろしく頼む」
中 恭介(nCL2000002)もこくんと頷いて、皆に資料を配り始めた。
許されざるべき妖の所行と、それと戦う戦士たちの記録をふりかえろう。
神社本庁所属対妖覚者機関『玉串の巫女』。その本拠地である神社が妖の軍団に襲撃され壊滅した。
多くの死者を出したものの、半数以上の戦闘員(巫女)が逃げ延び、ファイヴ覚者と共同で組んだ反撃部隊により拠点の一つである『豊四季神社』『三咲神社』『六実神社』の奪還に成功した。
これまでのパターンを見いだした覚者の機転によって大妖『髄液啜り』の次なる襲撃地点を予測するに至るのだった。
●迎撃、七栄神社
玉串の巫女にも僅かながら夢見らしきものは存在している。その人物が七栄神社襲撃の予知夢を見たのはついこの間のことである。
「事前の予測を信じて部隊を集めておいたのは正解でした。これだけの戦力があれば妖の軍勢を迎撃することができるでしょう。
ですが現地の巫女たちだけでは不安です。今回も、皆さんのお力を借りることはできますでしょうか」
玉串の巫女第四席、十七代目『豊四季』は深く頭を下げてそう述べた。
「七栄神社はあるオリジナルの青銅剣を奉った施設で、その力を分けた神具を製造する場でもあります。皆さんのお仲間にも、その武器を受け継いだ方がいらっしゃると思いますが……」
話が逸れそうになった所で、豊四季は咳払いをしてマップを広げた。
「この施設に『黒子衆』を配置して迎撃態勢を整えます。
これで神社への侵入は防げる筈ですが、ただ守るだけではすぐに取り囲まれてしまうでしょう。
よって、結界による突入路の限定と、敵部隊の分割を行なうつもりです。
そして、東西二つに分かれた部隊の迎撃を、皆さんにはお願いします」
突入してくる妖軍の迎撃。
きわめてシンプルな作戦だが、敗れれば巫女の命は勿論神社ごと奪われてしまうだろう。
なんとしても成功させなくてはならない。
「今回も皆さんには1人につき1チームの戦闘部隊をつけて迎撃作戦にあたって頂きます」
「……ということだ、皆、よろしく頼む」
中 恭介(nCL2000002)もこくんと頷いて、皆に資料を配り始めた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖全ての撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
戦闘部隊ルールがよく分からないかたは最後のあたりの説明を読んでください。それでも分からないことがあったら知っている人に聞くとよいでしょう。
【シチュエーションデータ】
作戦開始から終了までにかけて第一~第三までのウェーブが想定されています。
その全てを耐えきり、突入してくる妖すべてを撃破することが今回の成功条件となります。
部隊は『東側』と『西側』に分かれて展開します。状況が混乱する上部隊規模もそこそこ大きいので作戦中の移動はできないものと考えてください。
絶え間ない長期戦が要求されるので、できればスタミナ回復の手段を確保しておきましょう。
東西の迎撃部隊はそれぞれ――前線の3部隊+後方部隊の黒子衆10名。
メインの迎撃部隊は皆さんを含めた3部隊となります。
戦線部隊の巫女が撤退した場合、後方部隊が前へ出て代わりに戦うことになります(それすらも敗れた場合依頼失敗となります)。
後方部隊は神社中央にて七栄(※1)が指揮を執ります。
【エネミーデータ】
●第一ウェーブ
・東側西側共通
R1妖×50体。
複数種混合で、攻撃が得意な種や回復が得意な種などまぜこぜで編成されています。
部隊自体の指揮官はなく、おのおの本能的に考えて行動します。
(東と西それぞれで50体ずつです)
●第二ウェーブ
・東側
R2心霊系妖×10体
かつて陥落した神社で犠牲になった巫女たちの中から強力な霊魂を選りすぐって妖化したものです。物防が高く、【呪縛】のBSスキルを使用します。
攻撃と回復のバランスがよく、そこそこ考えて行動します。
・西側
R2物質系妖×10体
かつて陥落した神社で犠牲になった巫女たちの中から状態のよい死体を選りすぐって妖化したものです。特防が高く、【熟睡】のBSスキルを使用します。
攻撃と回復のバランスがよく、そこそこ考えて行動します。
●第三ウェーブ
・東側
R3自然系『チミドロイケ』
血液が凝固した妖で、物防・特防ともに高く
【失血】【HP吸収】のスキルを使用します。
・西側
R3物質系『ミドロガラス』
願掛けした乙女の毛髪を大量に集めて妖化したもの。
特攻・物攻ともに高く、【魅了】スキルを使用します。
※1:七栄。玉串の巫女第七席、五十五代目『七栄』。今回は指揮に徹するため戦闘には参加しません。特に自己犠牲心が強く、心に壁を作りすぎる性格……だそうです。
豊四季や三咲といった他の主力の巫女たちは各々の神社防衛のための最小限戦力として、そして各地に現われた妖退治のための戦力として手一杯で、この神社に配置することができません。
余談ですが、指揮方法は有線電話と送受心ハブです。
==============================
【部隊戦闘ルール】
全員が1チームの部隊をもって戦います。
自分のチームはリーダー(自分)1名+部下5名で形成されます。
部下はプレイングで指示した内容に従って戦います。何も指示を出さなかった場合自分で考えてそこそこに行動します。
(注意:スキル単位で細かく指示しているとプレイングリソースた足りなくなります。簡略化に努めましょう)
戦闘するにあたって『率先して戦う』『指揮に集中する』『戦いながら指揮する』のいずれかを選択して下さい。
率先して戦う場合は自らのフルパワーを使いつつ、チームの援護を受けられます。
指揮に集中すると自分のパワーがあまり出せない代わりにチームのダイス目に大きな補正を加えられます。
両立させるとその中間の効果になります。
●チームの練度やメンバーについて
連れて行くのは『黒子衆』と呼ばれる玉串の巫女候補生で、レベル10~15のそこそこな覚者たちです。命数は少ない。
連れて行くチームは自分で『(チーム名):○○なチーム』とオーダーすることでそれらしいチームが新規に組まれますが、もし自分に深く面識のあるチームがいる場合はチーム単位で指定することが出来ます。
その場合『面識補正』がかかり、ダイス目に影響します。
チームにはチーム名にちなんだ漢字一文字を服に刺繍しています。
既存のチーム:兎、亀、抜、王、死、花、櫻、癒、神、千、月
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年05月13日
2017年05月13日
■メイン参加者 6人■

●
ざくり、と青銅の剣を突き立てる。
『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)は剣から手を離し、感慨深げに頷いた。表情こそ変わらないが、後ろに控えている死番隊の巫女たちは全て察したように瞑目のまま祈るように手を組んでいる。
「こいつには、ここを守って貰う」
巫女たちが目を開けた。なんとも言わず、黙ってきびすを返した。赤貴もまた、剣に背を向ける。
「前線へ出るぞ」
背を見送る『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
ふと振り返ると、王子(中略)組の面々が分かっている顔で頷いた。
「みんな、こういうとき何すればいいか……わかるよね」
「せききゅんに彼女が居るか調べるんですよね」
「ちがうよ」
「分かってますよ、任せてください」
髪をかきあげて全く任せられないことを言う品川たち。
「これでも、仲間意識は強いんですよ」
一方で。
「前一回会ったな! 長が違くて悪いけれど、手を貸してよ」
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)が千陽組と握手を交わしていた。誰一人欠けさせずに返却すると約束したようで、意気込みも強いようだ。巫女たちも快く彼に応じていた。
その横では。
「最後までがんばりましょう! スタミナには気をつけて」
ウサギさん部隊で円陣を組んで、賀茂 たまき(CL2000994)はぐっとガッツポーズをとった。
「教官の作ってくださったチャンスです、絶対に取りこぼしません!」
「頑張りましょう!」
「私たちも負けていられませんね」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がにっこりと笑って花組の巫女たちに振り返った。
「指示内容は覚えていますね。私が前に出て戦うので、皆さんは作戦通りに」
「任せてください。何度もやってるんです。応用だって利きますよ」
どうやらこちらもいい雰囲気ができあがっているようだ。
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は皆の空気を一旦確認したあとで穏やかに頷いた。
「旦那様、準備整いましてございます」
頭を下げる癒組の巫女に振り返る。
「ところで、気になったんだけど……俺のことを最初は先生、って呼んでいたよね。いつから旦那様に?」
「豊四季の弓をお継ぎになった時からでございます」
どうやら巫女の態度は敬意の表われであるようだ。秋人はこそばゆそうな顔で笑うと、弓を背にかついだ。
継いだのは、なにも武器だけではない。
「行こうか。この戦いに、皆の想いが託されてる」
●
七栄神社での迎撃作戦概要は主にこうだ。
結界によって妖を東西に分け、二分割した妖をこちらも二分割した勢力で迎え撃つ。
敵の強みは量と勢いなので、あっちこっちにかき乱されないように動きを限定してやろうというものだ。
安全な誘導方法で妖は三つのウェーブに分かれてやってくることになり、難点としては迎撃作戦という都合上敵の能力をはかりきれていないということだった。
「解析と伝達は敵戦力の把握と対処に必要だ」
こちらは西側迎撃ライン。斧を担ぎ上げる赤貴の後ろで、巫女たちが青銅剣や棍棒を構える。
未知の攻撃は新しい病原菌に似て、対応が遅れれば軍の大半が病に犯されてしまう。早く知り、早く伝えることが重要なのだ。
「俺たちが軍の免疫力だ。ぬかるなよ」
「「了解」」
「妖接近、戦闘圏内に入ります」
報告を聞くやいなや、赤貴は地面を斧でたたき壊し、大量の石と土を妖めがけて打ち放った。
同時に召炎波を放つジャック。
巫女に指示を改めて告げた。
指示内容は土行中心に味方後衛及びアタッカーのガードを中心に行動すること。
後衛には速度特化の天行のMP回復、BS回復担当、水行の回復特化担当を配備して、後衛が狙われる場合アタッカーのガードを外して後衛にガードさせる。
行動の最優先として命数及び魂は絶対使用しないようにして、その前に撤退せよというものだ。
指示に従って死組と王組のガードをするために散り始め、ジャックは攻撃に専念した。
ジャックの召炎波は命中力と威力相応のダメージを妖に与え、攻撃を受けた妖も反撃をしてきた。巫女たちがジャックの指示で攻撃に回復で対抗する。
全体からやや遅れる形で、プリンス率いる王組が敵陣へ飛び込み始めた。
大体が鈴組紐を巻いた拳を武器に、サラシを防具にした装備である。そのせいでなんか不良高校生がテッペンを奪い合う漫画みたいな飛び込み方だった。
「それじゃあいくよ皆、このウェーブは早く沢山倒せば勝ちだからね」
プリンスが片手を天に翳すとどこからともなく巨大なハンマーが飛んできて彼の手に収まった。
強く握りしめると、彼のインナーマッスルがグッと漲り、ほっそりとした身体に強い俊敏性が加わった。
そんなプリンスが大地をハンマーで殴りつけると、激しい揺れと衝撃が波紋のように広がり妖たちをふき飛ばしていく。
「本番はむしろ、この後だからね」
一方こちらは東側迎撃ライン。
たまきはスキー板のごとく細長い木札を地面にざくざくとさしていくと木の短剣を地面に突き立て、術式を伝達させる。
すると空中に浮き出た無数の陰陽符柄が群がる妖を爆発させた。そこへ兎組の巫女たちが追撃を仕掛けていく。
「まだ序盤です、気力を節約してください」
「了解、花組の砲撃です。道を!」
常盤平のアナウンスで一斉に左右に飛び退く兎組。
開いた視界の奥から、魔方陣を展開したラーラが現われた。
魔方陣はメランコリア壱。ルネサンス期ドイツの名版画に描かれた四×四の数列系魔方陣である。
「花組、援護射撃を!」
ラーラが激しい炎の波を放つと同時に、御幣を振った巫女たちが雷撃や突撃を開始した。
焼き払われた妖の後ろから更に新しい妖が現われ、大量の火矢を放ってくる。
対して、癒組のディフェンダーが花組と兎組に展開、石でできた盾を翳して防御を始めた。
「旦那様、波の切れ間にございます」
「うん」
敵の一体に空圧の矢を放ち、次の矢を筒から抜く秋人。
「第二ウェーブに入ったら隊列を変えるよ。天王寺さんは花組、美章園さんは兎組について。我孫子さんと百舌鳥さんは戻ってきて、僕らは回復に専念するよ」
秋人は腰のホルダーから無痛注射器を引き抜くと自らに注射した。
「ここからは敵の【呪縛】が激しくなると思う。ラーラさん」
「大丈夫、これでうまくいくはずです」
本の封印を解くと、ラーラは魔導書の上に魔方陣を、空いた手の上にもまた魔方陣を展開させた。
二つの魔方陣が赤と緑にそれぞれ輝き、似た模様を描き始める。
一方は甘いクッキーの香りを、一方は炎でできた小さなネコたちを生み出した。
やがて、巫女の霊魂から変じた妖たちが刀や弓を持って襲いかかってくる。
「来ます!」
「迎撃を――!」
たまきはリュックサックから取り出した護符をそれぞれ癒組から渡されたヒーラーに渡して術盾とすると、自らも護符を抜いて空に放った。
矢が意志をもったかのように自分に集中してくる。
左手の二本指で星形を描くと、放った護符が何枚も重なって矢を受け止めた。
更に右手の二本指で十字を描き、地雷のように設置した護符から隆神槍を発動させる。
「常盤平さんはスタミナ回復を、元山さんと鎌ケ谷さんは援護を! 栩山さんは私に続いてください! お相手の回復役を集中して攻撃しましょう!」
「了解! 術式地雷、発破!」
鎌ケ谷たちの放ったカタシロがむくりと起き上がり、地面ごと爆発していく。
広がる土煙。
巫女たちは防御を固め、敵軍を慎重に殲滅しはじめた。
第二ウェーブの妖はそれぞれ【呪縛】【熟睡】といった行動不能攻撃を仕掛けてくることが特徴だ。
ラーラたち東側のチームは万全の回復体制ではねのけたが、一方の西側はさほど万全とは言えなかった。
むしろ、BS回復に秀でたメンバーをあえて東側に集中させたのである。
その理由は……。
「オラァ!」
天王洲が大井にバックドロップをしかけた。
ひぎゃあといって目を覚ます大井。
「優しく! 優しくって言ったでしょ!」
「バファリン級の優しさでできたバックドロップで――スヤァ」
「今だオラァ!」
大井バックブリーカーが天王洲に炸裂した。
「半分じゃなくて、八割……いやこの際十割優しさで起こしたげて!」
プリンスが保育園の保父さんみたいになってるのはサークル崩壊がゆえではない。【熟睡】というBSに対してBSリカバーや自然治癒ではなく『被ダメージ解除率80%』に目をつけたためである。
マニュアルに明記されていないから控えめに判定するが、どうやら手加減攻撃というシステムが無いらしいので武装上ダメージの少ない手段で攻撃しているんだと思ってほしい。物攻極振りで特攻が落ちるくらいの武器で特攻してるんだと思って欲しい。今は。
「セキシー! 今こそ余に力を貸して! 具体的にはショタコン垂涎ものの写真を撮らせて!」
「ことわる!」
赤貴は一旦召炎波で全体的にケズリを入れつつ、波に紛れて敵へ接近。斧を横一文字にぶん回して薙ぎ払うというアクティブな攻撃に出ていた。
ジャックは回復を優先して死組や王組のフォローに専念している。
手が空いたときは召炎波や薄氷、もしくは破眼光で攻撃するつもりだ。敵の特防が高いのは理解しているが威力で押すしか無いというのが彼の弁である。
一方巫女たちは回復やガードに秀でているので、ダメージがかさみやすい現状ではよくバランスがとれていた。
巫女の死体でできた妖たちはこちらを寝かしつけるべく御幣を左右に振りながらゆっくりと前進してくる。
それに対して、寝かされた人に関節技を仕掛けつつおこす王組の作戦が適用されているので、総合ダメージは味方側の方が大きくなるのだ。
よってジャックは主に潤しの雨を連発して回復量を稼ぎ、巫女たちにも回復に集中させていた。
難点があるとすれば、熟睡対策と体力回復に手数が割かれるので、敵軍の防衛力(防御と回復と排除による総合力)を常に上回り続けるのが難しくなるという部分だ。
それを補っているのが死組の高速スキャニングと意識伝達である。
敵軍の防衛力を真っ先に削り、こちらに防衛の余力を作ってから慎重な攻撃に移るのだ。
序盤はさすがにキツかったが、王組の巫女たちがガードに入ってくれたおかげで撤退者を出さずに済んだ。
「王子マジラブ組は仲間は守るが仲間の彼氏は寝取るチーム。義に篤いサークラ集団だよ」
その欠点は必要なのか、という目で赤貴が見てきたが、プリンスは顔を覆って見ないふりをした。
そしてやってくる第三ウェーブ。
西側の物質系妖『ミドロガラス』である。
「教官、先行隊の情報では【魅了】攻撃が厄介なようですが」
「【熟睡】ほどでないにしろ、殴って復旧できるものだ。お前たちはこれまで通りに行け」
赤貴は斧を振りかざし、ミドロガラスへと突撃した。
一方でジャックは【魅了】攻撃を受けた味方のBS回復を優先した。
特にヒーラーの回復に専念して、アタッカーが魅了された時は攻撃威力が高い者を優先することにしたようだ。
そんな中でプリンスは……。
「ここからは王家率先しちゃうよ」
ハンマーを握りしめ、巫女たちを相変わらずディフェンダー兼BS回復(物理)要員に回して自分はミドロガラスへと突撃した。
大量の髪の毛が伸びて絡みついてくるが、ジャックによる深想水などのスキルで補強された赤貴とプリンスには通用しない。
二人は巫女たちの援護射撃を受けながら、ミドロガラスを次々に切断。
最後には強固な毛玉のようなものをぶった切り、その力を終了させたのだった。
そしてこちらは東側。
自然系妖『チミドロイケ』を目の前にした秋人たちは、チームの方針を回復優先から『やや攻撃寄り』に変更した。
チミドロイケは巨大な血液の塊で、【失血】や【HP吸収】が特徴と言われている。
ラーラや癒組のBS対策は万全なので【失血】は防げるにしても追加効果である【HP吸収】は防ぎようがない。更に防御力も高いので、攻撃に力を振らないとスタミナ負けしてしまうのだ。
「とはいっても、俺たちは回復のかなめだからね。自分を守りつつ、皆を守るよ……!」
秋人は弓に矢をつがえ、想いを込めて引き絞る。
やじりのような隊列を組んだ巫女たちもまた、彼と一緒に矢を構えた。
「『発』!」
一斉に放たれた矢が凝固したチミドロイケのボディへ突き刺さり、機関銃射撃のごとくボロボロに砕いていく。
追撃するのは、歩く機関銃ともいうべきラーラと彼女率いる花組巫女である。
「今こそ反撃の時です。救える命は1つも取りこぼしません」
解封した魔導書のページをぱたぱたとめくると、おまじないのことばを述べた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――イオ・ブルチャーレ!」
大量の火炎弾がチミドロイケを貫いていく。
巫女の追撃もあって、凝固した血の殆どが消し飛んでいく。
残った血が巫女へと襲いかかろうとしたが、素早く割り込んだたまきが片手の二本指でバツを作って突きだした。
大量の木札が前方に集まり、トゲのようにチミドロイケに突き刺さっていく。
その間をすり抜けた凝固血液がたまきに突き刺さり、どくんどくんと血を抜き取っていく。
「教官!」
駆け寄ろうとする巫女たちを意志で制止させ、たまきはキッと相手をにらみ付けた。
「ここから先へは、行かせません!」
集まる力を我が物として、たまきはチミドロイケへと自ら飛び込んだ。
ぶくりと膨らむチミドロイケ。
たまきは、内側から突き破り、血まみれの護符をぱっと投げ捨てた。
穴が空き、はじけ飛ぶチミドロイケ。
片膝をつくたまきに、巫女たちが駆け寄った。
かくして、七栄神社での迎撃作戦は成功のうちに幕を閉じた。
敵の正体と狙いが分かりつつある今、反撃の時は近い。
ざくり、と青銅の剣を突き立てる。
『歪を見る眼』葦原 赤貴(CL2001019)は剣から手を離し、感慨深げに頷いた。表情こそ変わらないが、後ろに控えている死番隊の巫女たちは全て察したように瞑目のまま祈るように手を組んでいる。
「こいつには、ここを守って貰う」
巫女たちが目を開けた。なんとも言わず、黙ってきびすを返した。赤貴もまた、剣に背を向ける。
「前線へ出るぞ」
背を見送る『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)。
ふと振り返ると、王子(中略)組の面々が分かっている顔で頷いた。
「みんな、こういうとき何すればいいか……わかるよね」
「せききゅんに彼女が居るか調べるんですよね」
「ちがうよ」
「分かってますよ、任せてください」
髪をかきあげて全く任せられないことを言う品川たち。
「これでも、仲間意識は強いんですよ」
一方で。
「前一回会ったな! 長が違くて悪いけれど、手を貸してよ」
『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)が千陽組と握手を交わしていた。誰一人欠けさせずに返却すると約束したようで、意気込みも強いようだ。巫女たちも快く彼に応じていた。
その横では。
「最後までがんばりましょう! スタミナには気をつけて」
ウサギさん部隊で円陣を組んで、賀茂 たまき(CL2000994)はぐっとガッツポーズをとった。
「教官の作ってくださったチャンスです、絶対に取りこぼしません!」
「頑張りましょう!」
「私たちも負けていられませんね」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がにっこりと笑って花組の巫女たちに振り返った。
「指示内容は覚えていますね。私が前に出て戦うので、皆さんは作戦通りに」
「任せてください。何度もやってるんです。応用だって利きますよ」
どうやらこちらもいい雰囲気ができあがっているようだ。
『秘心伝心』鈴白 秋人(CL2000565)は皆の空気を一旦確認したあとで穏やかに頷いた。
「旦那様、準備整いましてございます」
頭を下げる癒組の巫女に振り返る。
「ところで、気になったんだけど……俺のことを最初は先生、って呼んでいたよね。いつから旦那様に?」
「豊四季の弓をお継ぎになった時からでございます」
どうやら巫女の態度は敬意の表われであるようだ。秋人はこそばゆそうな顔で笑うと、弓を背にかついだ。
継いだのは、なにも武器だけではない。
「行こうか。この戦いに、皆の想いが託されてる」
●
七栄神社での迎撃作戦概要は主にこうだ。
結界によって妖を東西に分け、二分割した妖をこちらも二分割した勢力で迎え撃つ。
敵の強みは量と勢いなので、あっちこっちにかき乱されないように動きを限定してやろうというものだ。
安全な誘導方法で妖は三つのウェーブに分かれてやってくることになり、難点としては迎撃作戦という都合上敵の能力をはかりきれていないということだった。
「解析と伝達は敵戦力の把握と対処に必要だ」
こちらは西側迎撃ライン。斧を担ぎ上げる赤貴の後ろで、巫女たちが青銅剣や棍棒を構える。
未知の攻撃は新しい病原菌に似て、対応が遅れれば軍の大半が病に犯されてしまう。早く知り、早く伝えることが重要なのだ。
「俺たちが軍の免疫力だ。ぬかるなよ」
「「了解」」
「妖接近、戦闘圏内に入ります」
報告を聞くやいなや、赤貴は地面を斧でたたき壊し、大量の石と土を妖めがけて打ち放った。
同時に召炎波を放つジャック。
巫女に指示を改めて告げた。
指示内容は土行中心に味方後衛及びアタッカーのガードを中心に行動すること。
後衛には速度特化の天行のMP回復、BS回復担当、水行の回復特化担当を配備して、後衛が狙われる場合アタッカーのガードを外して後衛にガードさせる。
行動の最優先として命数及び魂は絶対使用しないようにして、その前に撤退せよというものだ。
指示に従って死組と王組のガードをするために散り始め、ジャックは攻撃に専念した。
ジャックの召炎波は命中力と威力相応のダメージを妖に与え、攻撃を受けた妖も反撃をしてきた。巫女たちがジャックの指示で攻撃に回復で対抗する。
全体からやや遅れる形で、プリンス率いる王組が敵陣へ飛び込み始めた。
大体が鈴組紐を巻いた拳を武器に、サラシを防具にした装備である。そのせいでなんか不良高校生がテッペンを奪い合う漫画みたいな飛び込み方だった。
「それじゃあいくよ皆、このウェーブは早く沢山倒せば勝ちだからね」
プリンスが片手を天に翳すとどこからともなく巨大なハンマーが飛んできて彼の手に収まった。
強く握りしめると、彼のインナーマッスルがグッと漲り、ほっそりとした身体に強い俊敏性が加わった。
そんなプリンスが大地をハンマーで殴りつけると、激しい揺れと衝撃が波紋のように広がり妖たちをふき飛ばしていく。
「本番はむしろ、この後だからね」
一方こちらは東側迎撃ライン。
たまきはスキー板のごとく細長い木札を地面にざくざくとさしていくと木の短剣を地面に突き立て、術式を伝達させる。
すると空中に浮き出た無数の陰陽符柄が群がる妖を爆発させた。そこへ兎組の巫女たちが追撃を仕掛けていく。
「まだ序盤です、気力を節約してください」
「了解、花組の砲撃です。道を!」
常盤平のアナウンスで一斉に左右に飛び退く兎組。
開いた視界の奥から、魔方陣を展開したラーラが現われた。
魔方陣はメランコリア壱。ルネサンス期ドイツの名版画に描かれた四×四の数列系魔方陣である。
「花組、援護射撃を!」
ラーラが激しい炎の波を放つと同時に、御幣を振った巫女たちが雷撃や突撃を開始した。
焼き払われた妖の後ろから更に新しい妖が現われ、大量の火矢を放ってくる。
対して、癒組のディフェンダーが花組と兎組に展開、石でできた盾を翳して防御を始めた。
「旦那様、波の切れ間にございます」
「うん」
敵の一体に空圧の矢を放ち、次の矢を筒から抜く秋人。
「第二ウェーブに入ったら隊列を変えるよ。天王寺さんは花組、美章園さんは兎組について。我孫子さんと百舌鳥さんは戻ってきて、僕らは回復に専念するよ」
秋人は腰のホルダーから無痛注射器を引き抜くと自らに注射した。
「ここからは敵の【呪縛】が激しくなると思う。ラーラさん」
「大丈夫、これでうまくいくはずです」
本の封印を解くと、ラーラは魔導書の上に魔方陣を、空いた手の上にもまた魔方陣を展開させた。
二つの魔方陣が赤と緑にそれぞれ輝き、似た模様を描き始める。
一方は甘いクッキーの香りを、一方は炎でできた小さなネコたちを生み出した。
やがて、巫女の霊魂から変じた妖たちが刀や弓を持って襲いかかってくる。
「来ます!」
「迎撃を――!」
たまきはリュックサックから取り出した護符をそれぞれ癒組から渡されたヒーラーに渡して術盾とすると、自らも護符を抜いて空に放った。
矢が意志をもったかのように自分に集中してくる。
左手の二本指で星形を描くと、放った護符が何枚も重なって矢を受け止めた。
更に右手の二本指で十字を描き、地雷のように設置した護符から隆神槍を発動させる。
「常盤平さんはスタミナ回復を、元山さんと鎌ケ谷さんは援護を! 栩山さんは私に続いてください! お相手の回復役を集中して攻撃しましょう!」
「了解! 術式地雷、発破!」
鎌ケ谷たちの放ったカタシロがむくりと起き上がり、地面ごと爆発していく。
広がる土煙。
巫女たちは防御を固め、敵軍を慎重に殲滅しはじめた。
第二ウェーブの妖はそれぞれ【呪縛】【熟睡】といった行動不能攻撃を仕掛けてくることが特徴だ。
ラーラたち東側のチームは万全の回復体制ではねのけたが、一方の西側はさほど万全とは言えなかった。
むしろ、BS回復に秀でたメンバーをあえて東側に集中させたのである。
その理由は……。
「オラァ!」
天王洲が大井にバックドロップをしかけた。
ひぎゃあといって目を覚ます大井。
「優しく! 優しくって言ったでしょ!」
「バファリン級の優しさでできたバックドロップで――スヤァ」
「今だオラァ!」
大井バックブリーカーが天王洲に炸裂した。
「半分じゃなくて、八割……いやこの際十割優しさで起こしたげて!」
プリンスが保育園の保父さんみたいになってるのはサークル崩壊がゆえではない。【熟睡】というBSに対してBSリカバーや自然治癒ではなく『被ダメージ解除率80%』に目をつけたためである。
マニュアルに明記されていないから控えめに判定するが、どうやら手加減攻撃というシステムが無いらしいので武装上ダメージの少ない手段で攻撃しているんだと思ってほしい。物攻極振りで特攻が落ちるくらいの武器で特攻してるんだと思って欲しい。今は。
「セキシー! 今こそ余に力を貸して! 具体的にはショタコン垂涎ものの写真を撮らせて!」
「ことわる!」
赤貴は一旦召炎波で全体的にケズリを入れつつ、波に紛れて敵へ接近。斧を横一文字にぶん回して薙ぎ払うというアクティブな攻撃に出ていた。
ジャックは回復を優先して死組や王組のフォローに専念している。
手が空いたときは召炎波や薄氷、もしくは破眼光で攻撃するつもりだ。敵の特防が高いのは理解しているが威力で押すしか無いというのが彼の弁である。
一方巫女たちは回復やガードに秀でているので、ダメージがかさみやすい現状ではよくバランスがとれていた。
巫女の死体でできた妖たちはこちらを寝かしつけるべく御幣を左右に振りながらゆっくりと前進してくる。
それに対して、寝かされた人に関節技を仕掛けつつおこす王組の作戦が適用されているので、総合ダメージは味方側の方が大きくなるのだ。
よってジャックは主に潤しの雨を連発して回復量を稼ぎ、巫女たちにも回復に集中させていた。
難点があるとすれば、熟睡対策と体力回復に手数が割かれるので、敵軍の防衛力(防御と回復と排除による総合力)を常に上回り続けるのが難しくなるという部分だ。
それを補っているのが死組の高速スキャニングと意識伝達である。
敵軍の防衛力を真っ先に削り、こちらに防衛の余力を作ってから慎重な攻撃に移るのだ。
序盤はさすがにキツかったが、王組の巫女たちがガードに入ってくれたおかげで撤退者を出さずに済んだ。
「王子マジラブ組は仲間は守るが仲間の彼氏は寝取るチーム。義に篤いサークラ集団だよ」
その欠点は必要なのか、という目で赤貴が見てきたが、プリンスは顔を覆って見ないふりをした。
そしてやってくる第三ウェーブ。
西側の物質系妖『ミドロガラス』である。
「教官、先行隊の情報では【魅了】攻撃が厄介なようですが」
「【熟睡】ほどでないにしろ、殴って復旧できるものだ。お前たちはこれまで通りに行け」
赤貴は斧を振りかざし、ミドロガラスへと突撃した。
一方でジャックは【魅了】攻撃を受けた味方のBS回復を優先した。
特にヒーラーの回復に専念して、アタッカーが魅了された時は攻撃威力が高い者を優先することにしたようだ。
そんな中でプリンスは……。
「ここからは王家率先しちゃうよ」
ハンマーを握りしめ、巫女たちを相変わらずディフェンダー兼BS回復(物理)要員に回して自分はミドロガラスへと突撃した。
大量の髪の毛が伸びて絡みついてくるが、ジャックによる深想水などのスキルで補強された赤貴とプリンスには通用しない。
二人は巫女たちの援護射撃を受けながら、ミドロガラスを次々に切断。
最後には強固な毛玉のようなものをぶった切り、その力を終了させたのだった。
そしてこちらは東側。
自然系妖『チミドロイケ』を目の前にした秋人たちは、チームの方針を回復優先から『やや攻撃寄り』に変更した。
チミドロイケは巨大な血液の塊で、【失血】や【HP吸収】が特徴と言われている。
ラーラや癒組のBS対策は万全なので【失血】は防げるにしても追加効果である【HP吸収】は防ぎようがない。更に防御力も高いので、攻撃に力を振らないとスタミナ負けしてしまうのだ。
「とはいっても、俺たちは回復のかなめだからね。自分を守りつつ、皆を守るよ……!」
秋人は弓に矢をつがえ、想いを込めて引き絞る。
やじりのような隊列を組んだ巫女たちもまた、彼と一緒に矢を構えた。
「『発』!」
一斉に放たれた矢が凝固したチミドロイケのボディへ突き刺さり、機関銃射撃のごとくボロボロに砕いていく。
追撃するのは、歩く機関銃ともいうべきラーラと彼女率いる花組巫女である。
「今こそ反撃の時です。救える命は1つも取りこぼしません」
解封した魔導書のページをぱたぱたとめくると、おまじないのことばを述べた。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を――イオ・ブルチャーレ!」
大量の火炎弾がチミドロイケを貫いていく。
巫女の追撃もあって、凝固した血の殆どが消し飛んでいく。
残った血が巫女へと襲いかかろうとしたが、素早く割り込んだたまきが片手の二本指でバツを作って突きだした。
大量の木札が前方に集まり、トゲのようにチミドロイケに突き刺さっていく。
その間をすり抜けた凝固血液がたまきに突き刺さり、どくんどくんと血を抜き取っていく。
「教官!」
駆け寄ろうとする巫女たちを意志で制止させ、たまきはキッと相手をにらみ付けた。
「ここから先へは、行かせません!」
集まる力を我が物として、たまきはチミドロイケへと自ら飛び込んだ。
ぶくりと膨らむチミドロイケ。
たまきは、内側から突き破り、血まみれの護符をぱっと投げ捨てた。
穴が空き、はじけ飛ぶチミドロイケ。
片膝をつくたまきに、巫女たちが駆け寄った。
かくして、七栄神社での迎撃作戦は成功のうちに幕を閉じた。
敵の正体と狙いが分かりつつある今、反撃の時は近い。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
