狩人が 窮鼠に噛まれる さあ止めろ
狩人が 窮鼠に噛まれる さあ止めろ


●因子発現という不幸
 今野紗友里という少女の人生は、因子発現により狂ったと言っても過言ではない。
 十四歳に子の獣憑として発現する。鼠の耳と尻尾は隠しようもなく、奇異な目で見られることになる。学校では『ドブネズミ』と揶揄され、家でも汚いものを見る目で見られた。
 例えばここで紗友里が暴力的な人間で、覚者の力を使ってその風評をねじ伏せることが出来たのなら――けして平和的な解決ではないが――これはよくある覚者と一般人の差という事件で紗友里が覚者に倒されて片が付いた。
 紗友里は覚者の力を恐れた。彼女自身、自らの力を汚らわしく思っていた。人と違う力。獣、鼠、汚物。他人(そと)と自分(うち)のから両方から心を削られていく。追い詰められた紗友里がとった行動は、家出だった。なけなしの全財産をもって、逃げ出した。
 しかし行く当てもなく、寝食に困ることになる。そして運悪く、『彼ら』と出会う。
 家出少女を拾い、ビジネスにする連中に。
 紗友里のようなケースは、多くはないが珍しいケースではなかった。因子発現し、学校や家から逃げる人間。覚者と言えども、金もなければ社会的信用もない状況では生きていくことは難しい。紗友里もそこに身を寄せることになった。
 そして――

●狩り
「いくぜぇ、ネズミ狩りだ!」
 紗友里は手かせをさせられて、暗い森の中を駆けていた。目隠しをさせられ、嗅覚のみを頼りに。
『彼ら』は紗友里をショウ的に扱っていた。覚者の頑丈な肉体。獣の風貌。それを『狩りの対象』として売っていた。
 買い手は多い。残虐な嗜好を持つ者や、銃を試し打ちしたい者。娯楽に飢えている者や、少女の悲鳴を聞くのが好きな者。そう言った『狩人』達の対象となっていた。
 紗友里に断ることはできなかった。断れば貞操を奪われる。そういう方面に使われないのは、この汚らわしいネズミの風貌と肉体ゆえだ。
 狩りは徐々にエスカレートしていた。最初はエアガンだったが、今は実弾で狙われている。抵抗を封じるために手枷をさせられ、そして目隠しをさせられる。その怯える姿が『金になる』という理由で。
 暴れて逃げる、という選択肢は紗友里にはなかった。逃げてもその先どうすればいいかわからない。傷は痛いし暗くて怖いけど、これが終われば毛布とご飯がある。飢えて苦しむのは嫌だ。だけどこのままだと――考えちゃダメ。未来の事なんか考えても、どうしようもない。
 閉塞する心。痛みによるストレス。暗闇の畏怖。未来への恐怖。
 それが源素を閉じ込めるように圧迫し、逃げ場のない力が暴走する。強引に目隠しと手枷を壊し、鋭い爪と牙を露にする。
「う、ああああああああああああ!」
 破綻者となった紗友里に怯える『狩人』達。銃を撃ち応戦するが、素人同然の彼らと破綻者では戦力差は明白だった。

●FiVE
「――破綻者一人の制圧。及び一般人の無事です」
 久方 真由美(nCL2000003)は静かに事件を告げる。
 強く結んだ唇が、言葉なく怒りを示していた。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.破綻者の制圧(生死、及び状態は問わない)
2.『狩人』の生存
3.なし
 どくどくです。
 ただの破綻者戦です。その経緯を気にしなければ。

●敵情報
・今野紗友里(×1)
 破綻者。深度は2。十五歳女性。ボロボロの学生服を着ています。
 自分自身を汚らわしいと思っており、精神的に追い込まれています。そのため破綻者状態を押さえる『適切な処理』に入るのが遅ければ、肉体面はともかく精神的に廃人になる可能性があります(説得などで追い込まれるまでの時間が増える可能性があります)。
『猛の一撃(致命はありません)』『隆槍』『蔵王』『猟犬』『警戒空間』等を活性化しています。

●NPC
『狩人』(×5)
 一般人。銃を持っていますが、素人です。破綻者に殴られれば、命はないでしょう。助けに入った覚者達には好意的です。
 戦闘が始まれば、援護射撃をしてくれます。

『彼ら』
 紗友里を拾い、ビジネスに使用している組織です。
 大学生が暇つぶし的にやっている程度の集まりで、調べることも接触することも容易です。

●場所情報
 森。時刻は夜。足場や広さは戦闘に支障なし。
 戦闘開始時、『今野』『狩人(×5)』が敵前衛に居ます。覚者と敵前衛の距離は10メートルとします。
 急いでいるため、事前付与は不可とします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年05月04日

■メイン参加者 8人■

『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『ボーパルホワイトバニー』
飛騨・直斗(CL2001570)
『在る様は水の如し』
香月 凜音(CL2000495)
『意識の高いドM覚者』
佐戸・悟(CL2001371)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)

●泣くことすらできない
 蛇足だが、今野紗友里という少女はずっと耐えていた。
 因子発現した時からの暴力や罵り、差別や苛め、そして『彼ら』に出会ってからの転落。その全てに耐えていた。
 それは覚者故の身体能力増加もあるが、なによりも彼女の心が『泣き言をいう』事すらできないほど疲弊していたことがある。
 今野紗友里はずっと耐えていた。
 一滴の涙を流すことなく、ただ心を削られながら。

●覚者と破綻者、あるいはFiVEに出会えた者と出会えなかった者
「家出少女を狙った犯罪はよくニュースで見るけども……どうしてこう、弱いところを狙う人間が出るものかな」
 嫌悪の表情を隠すことなく『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)は言葉を放つ。様々な事情より親元を離れざるを得ない状況に陥った少年少女。それを狙う犯罪行為はいつの世も後を絶たない。どんな精神でそのような行為ができるのか。
「いたいけな少女をこんなになるまで追い詰めるとは……嫌悪するべき事態だ」
 暴力により所々敗れた服を着ている破綻者を見て、『意識の高いドM覚者』佐戸・悟(CL2001371)は拳を握った。望まれず傷つきそして苦しむ少女。それを救うのが覚者の使命だ。先ずはこの暴走を止めなくては。
「まあ……自分と『違う』者を排斥する気持ちは解る」
 どこか達観したように『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)は呟き、首を横に振った。姿が豹変したものを、今までと同じように受け入れられる者は多くはない。だからと言って、この状況を仕方ないと受け入れるつもりはなかった。
「……うん、そうだね」
 自分が因子発現した時の他人の目を思い出しながら、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は胸を押さえる。今まで信じてきた相手からの侮蔑の視線。恐怖からくる差別と迫害。そこから逃げることは、決して卑屈ではない。だが、奏空はFiVEにたどり着けた。
「私は偶々五麟に来れたけど、一歩間違ったら……と思うと怖い」
『刃に炎を、高貴に責務を』天堂・フィオナ(CL2001421)は因子発現以前の記憶がない。たまたまFiVEに巡り合えたから衣食住はどうにかなったが、そうでなければ過去のないフィオナは頼るモノが何もない。破綻者の様になっていた可能性も皆無ではないのだ。
「だれも……助けてくれなかったんだね……」
 金色の髪を指で梳きながら『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)が堪えるように口を開く。見た目と違う存在を排斥したがるのは、覚者に限ったことではない。ミュエルには支えてくれる親がいた。だけどこの破綻者にはいなかった。それだけの、違い。
「悪いが……俺は優しくしねぇ。少し辛辣に行くぜ」
 苛立つように髪の毛を搔き、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)は抜刀する。夢見から聞いた破綻者の過去。自分を否定し続けてきた成れの果て。そんな破綻者の姿に怒りを感じていた。
「うっし! 女の子を救いに行くぞ!」
 拳を握り『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が気合を入れるように叫ぶ。色々な思惑こそあるが、この依頼の目的はそこだ。それ以上のことは今は考えない。否、本当に遥はそれ以外は些末だと思っていた。破綻者を倒して治療する。それ以外は。
「お、なんだお仲間か。だったら安心だ。急に暴れ出すからビビっちまって」
 事態を理解していない『狩人』は、やってきた覚者達を同じ趣味の仲間だと思ったようだ。何か言ってやろうかと覚者は思ったが、今は一秒でも時間が惜しい。
「あああああ、ごめんなさい。ごめんなさい。
 汚くてごめんなさい。ネズミでごめんなさい。覚者でごめんなさい。近寄りません。触りません。喋りません。だから――見ないでください」
 覚者を上回る力を振り回しながら、しかし破綻者は怯えの叫びをあげていた。今まで破綻者が他人から『与えられた』ものがその中に凝縮されていた。
 悲痛な叫びを受け、覚者達は強く神具を握りしめる。
 因子発現により転落した少女を救うべく、覚者達は動き出した。

●闇を祓うは覚者の一閃。傷を癒すは心からの言葉
「危ないから下がってて!」
 最初に動いたのは奏空だった。安心した『狩人』達を戦闘から遠ざけようと指示を出すが、安全と思い込んだ彼らはその忠告を聞かずに銃を構える。やむなく眠りの術を使って、その場に転ばせた。
 その後に破綻者に向き直る。FiVEに出会えた自分。FiVEに出会えなかった彼女。たったそれだけの違い。強く歯を噛みしめ、神具を振るう。二本の忍者刀をふるい、紫電を煌めかせる。
「君を救う為に君の闇を壊す……! 紗友里さん、君は何も汚くない。助けに来たよ」
「もう大丈夫だ! 何も心配せず、私達に任せろ!」
 破綻者を安堵させるように、言葉に神秘の力を込めてフィオナが叫ぶ。守るべき相手を前に『ガラティーン・改』を抜き放った。これは彼女を殺す剣ではない。彼女を守るための剣だ。言葉と共に強く誓い、一歩踏み込んだ。
 源素を用いて身体速度を活性化させ、破綻者の懐に迫る。全身に青い炎を纏い、同じ青の瞳で破綻者を見た。翻る青の炎。救うという誓いを込めた連撃が破綻者に叩き込まれる。怯える少女を傷つけるのは心が痛むが、今はこれが最善なのだ。
「痛いよな、ごめん! でも、これが終わったらこんな仕事とか、色々な事我慢しなくて良くなるぞ!」
「女の肌を傷つけるのは性に合わねぇんだがなぁ」
 女性を傷つけたくないと悩む直斗。だが加減することで時間が長引くことが、逆に彼女を追い込むことを知っているため渋々抜刀する。姉の銘を持つ神具を手に、ため息をつきながら迫る。刀を振るいながら、激しく言葉を叩きつける。
「ムカつくんだよ! 自分が汚い存在だって? 貴方はどれだけひどい目に遭わされても今の今まで暴力に訴えず、我慢し続けた立派な人間だろ!
 俺は簡単に暴力に屈して暴力に訴えるそんな人間さ! そんな人間からしたら貴方は尊敬に値する存在だ!」
 殺人的な元隔者であった直斗は、暴力を否定して耐える彼女に何を見たのか。罵りながらも、そこに熱い熱があった。
「いてーよな。ごめんな。出来れば俺達はお前さんを傷つけたくない。だから止まってくれないか?」
 仲間を癒しながら凜音は優しく語り掛ける。できる事なら彼女の傷を癒してやりたいが、それは後だ。今まで受けた肉体的な傷も、今まで受けた精神的な傷も。これまでされたことは消えないだろうが、これから先は守ってやろう。
 戦場の最中にあって、冷静に凜音は状況を見ていた。相手は一人。手数も少ない。一撃こそ重いが、それを癒すのが自分の役目。一番傷ついている者を見極め、そこに癒しの術を放っていく。
「今まで沢山傷ついて……泣いてきたのかもしれねーよな。よく頑張ったな」
「だがそれも終わりだ! 君の苦しみ、今までの鬱憤……俺が全部受け止めてやる!」
 胸を叩き、攻撃を誘う悟。両腕両足が盾となり、敵の攻撃を受け入れる体制に入った。被虐体質である悟は、破綻者の攻撃を受けるたびに恍惚とした笑みを浮かべていた。周りの引いた視線さえも燃料として、盾に徹する。
 振るわれるネズミの牙と爪。それを術式で硬化した盾で受け止める。反撃の効果により破綻者が傷つき、その度に心苦しく吐血する悟。傷つくべきは自分なのに。しかし大事なのは彼女を救う事。その為に心を鬼にする。
「君は汚らわしくなんかない! 心優しい少女だ!」
「そうそう。お前は化け物じゃない、ただの女の子なんだから!」
 拳を振るいながら言葉をかける遥。獣の力を振るおうが、汚れていようが。彼女が人間であることには変わりない。今は暴走しているけど、喧嘩慣れしていない女の子が暴力を振るうべきではない。そう語りかける。
 振るわれる破綻者の一撃。遥は両手を交差させ、その一撃を受け止めた。空手で言う上受け。そのまま引いた腕の拳を握り、半歩踏み込み破綻者へと突き出した。殴られたら殴り返す。相手の攻撃を受け、しっかりと返す。それが自分のできること。
「ちょっと力が強くてネズミの耳が生えたくらいでなんだ! お前って人間に対して変わりはねえよ!」
「力に飲まれちゃいけない。少しずつでいい。力を抜いて息を楽に」
 神具を振るい破綻者に斬りかかる彩吹。今でこそ暴力を振るう破綻者だが、彼女が暴力を好まないことは聞いている。状況が、社会が、人の欲望と悪意が彼女を追い込んだのだ。垣間見える無数の傷痕を見ながら、静かに怒りを燃やす。
 舞うように刀を振るい、破綻者を傷つけていく彩吹。黒の羽根を広げるその様は告死天使の如く。魂を司り、アダムを作ったと言われる死と再生の舞。殺すのは破綻者の過去の不幸と縁。再生するのはこれからの未来。
「必ず助けるから、紗友里。君も踏ん張って……大丈夫、できるさ」
「攻撃するの、つらいけど……止めなきゃ、だからね……」
 破綻者を癒すには、先ず動きを止めなくてはいけない。わかっていてもミュエルはその経緯から破綻者を傷つけることを躊躇していた。せめて傷跡が残らないように、鋭い蔦の術式は控えて攻撃していた。
 生まれ。姿。自分ではどうしようもない要因。それを理由に責められるのは、覚者に限ったことではない。ミュエルもまた日仏ハーフの見た目で周囲から孤立していた。ミュエルの周りには、助けてくれる誰かがいたから耐えられた。だから今、自分がされたように彼女に手を差し出そう。
「今野さん、アタシたちが解放しにきたから……逃げ道を切り開きに来たから……もう、大丈夫だよ」
 戦いの流れは始終覚者が掴んでいた。暴走しているとは言え暴力ごとを避けて戦い方を知らない破綻者と、連携だって攻め立てる覚者達。彼我の差は比べるべくもない。
「あんまり自分を嫌いになるなって。今まで誰も傷つけなかった。いいヤツだよお前。
 だからさ、そんな事せずに休んどけ!」
 トドメとなったのは遥の一撃。
「ごめんなさい……ごめんな、さ……」
 最後まで謝りながら、破綻者は倒れ伏した。

●人として。覚者として
 破綻者が倒れたのを確認し、FiVEのスタッフが治療に入る。
 戦闘中にかけられた言葉が功を奏したのか、今野の心はまだ閉じこもっていなかった。とはいえ今まで受けた心の傷が消えたわけではなく、胎児の様に体を丸め、頭を押さえ込んでいた。
「ごめんなさい……汚いから、触らないでください……汚いから、見ないでください……!」
 正確には、獣憑の特徴である鼠の耳を隠すようにして震えていた。始終、謝罪の言葉を口から漏らし、自らを貶めていた。自分は汚らしい存在だから。
「そんなことはない!」
 そんな叫びを否定したのは奏空だった。奏空も今野と同じく、発現した後で周りから拒絶された。自分と彼女は合わせ鏡だ。覚者になったのが悪いのではなく、覚者を受け入れられない環境が悪いのだと。
「だって、ネズミですよ? 皆、汚いって……」
「君は汚くなんかない! ただ、周りが受け入れてくれなかっただけだ!」
「鼠の容姿が汚いって? キュートだろうが! 少なくとも俺は紗友里さんの事可愛いって思うぜ!」
 同じ獣憑の直斗が叫ぶ。過去に色々あって歪んではいるが、根はやさしい中学生だ。悪に怒る事もあれば、可愛い女性に可愛いということもある。所々敗れた服に目のやり場が困るのはご愛敬だが。
「だから、自分を否定するのはやめろ。戦ってる時も言ったけど暴力を振るわないのはいいことなんだ」
「そうとも。それは誇りをもっていい事なんだ」
 穏やかな声で悟が告げる。覚者の力を振るえば、確かに周りは黙っただろう。だが今野はそれをしなかった。ただ耐えたのだ。他人を傷つけようとしなかったことは、素晴らしい事なのだ。
「紗友里君、もし君さえ良ければFIVEに一緒に来てほしい」
「でも……私、皆さんを傷つけましたよ? そんなことしたのに、皆さんの仲間になれるはずなんて――」
「問題ない! 鍛えてる覚者であるオレには、ちっとも効かなったからな!」
 腕を組んで遥が見栄を切る。実際は結構痛かったが、それを顔に出そうとはしなかった。遥にとって覚者であるか否かは大きな問題ではない。目の前にいるのは、いじめられて泣いている女の子。それだけだ。
「なあ、オレと友達になろうぜ! 皆と一緒にラーメン食いに行こう!」
「友達……」
「うん……ちょっと、ごめんね……」
 戸惑う今野にミュエルは手を伸ばし、櫛を使ってでボロボロの髪の毛を梳く。最初は震えていた今野の顔が、少しずつ疑問の表情に変わっていく。
「あの……?」
「……ネズミの耳としっぽ、アタシには汚らしいものにはとても見えなくて……髪の色や背の高さと同じ、ただの個性だと思うから……。
 髪はエアリーなショートボブで、耳とのバランスをとって……細いしっぽは、ふんわりミニにも大人っぽいペンシルスカートにも調和しそうだから……」
「ああ、あああああ……!」
 因子発現してからずっと抱いていた心的外傷。自分自身さえも否定し続けてきたネズミの外見。
 それを受け入れられて、堰を切ったように今野は泣き出した。押さえていた感情が爆発し、大声をあげて涙を流す。
「誰も、誰もそんなこと言ってくれなかった! お父さんも、お母さんも……! 誰も……誰も!」
 今まで我慢してきた涙を流しきるように、今野は覚者達に寄り添い泣き続けていた。

 そこから少し離れた場所で『狩人』達は三人の覚者に捕まっていた。
「で? お前さんたち。この『お楽しみ』をどこで知ったんだ? よかったら教えてくれねーかな?」
 凜音の問いかけに、何処かばつの悪そうな顔をする『狩人』達。今野の泣き声を聞いて罪悪感が芽生えたのか、視線を逸らしてどうするか話し合っている。
「ああ、訂正だ。よくなくても教えてくれ。他にもあんな娘がいるかもしれないからな」
「未成年に対する監禁と障害は立派に犯罪だ。貴方達も含めて、法の裁きを受けてもらうぞ」
 ぴしゃりと彩吹が言い放つ。これが違法であることは明白で、だからこそ成立した『ビジネス』だったのだ。、まさかFiVEに見つかるとは。諦めたように『狩人』達は情報を渡す。連絡方法や接触した場所など、有益な情報を。
「貴方達がやったことは、人を傷つけたことだ。あの涙を見て何も思わないのなら、人間として軽蔑する」
「だが充分反省して償う気持ちがあれば、悪いようにしない。私含め、人は間違うものだし」
 フィオナは騎士として『狩人』達に告げた。自首の形を取れば多少は罪も軽減されるだろう。憎むべきは罪であり、人は裁くものだ。暴力で解決するのなら、妖と変わらない。過ちを止め、正しい方向に導くことが騎士の務めなのだ。
「間違いを認め、その咎を受ける。それら全てを守るのも騎士の務めだ」

 破綻者の治療のために、一時今野と別れる覚者達。
 泣き疲れて眠るその顔は、悩みをすべて吐き出したかのように安らかだった。
 いつか心の傷の癒えた今野と、五麟学園内で歓談できる日が来るかもしれない。友人として、仲間として、覚者として、人間として。
 その未来は夢見でもまだ見えないが、その為の一歩は確かに踏み出せていた。

●とある日のニュース番組にて
『次のニュースです。
 ○△大学学生達が家出した少女達をアパートに監禁していたことが分かりました。彼らは一様に罪を認めているようです。
 警察からの情報によると、そのアパートには十数名の未成年女性が監禁されており、売春などを強要されていたことが分かっています』
『監禁されていた少女達は、家出の理由も含めてカウンセリングの必要があるでしょう。警察の対応に期待します』


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 テーマは『PCになれなかった覚者』『FiVEにたどり着けなかったPCの一人』です。

 皆様の熱いプレイングにより、以上のような結果となりました。
 今野紗友里はしばらく治療の後、FiVEに所属することになるでしょう。いやまあ、NPC登録するわけではないのですが。
 
 今、日本がいろいろ大変なことになっていますが、それを含めたうえでお疲れさまでした。
 それではまた、五麟市で。




 
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