見栄は小さな覚者を殺す
見栄は小さな覚者を殺す


●ちょっとした冒険のつもりだったのに
 丸山優斗は工事用の囲いを背に座り込んでいた。
 右に鉄製コンテナの壁、左にも鉄製コンテナの壁。そして目の前には、トラックと、バイクと、自転車の車輪が並んでいる。
「……助け、て……」
 逃げたいのに、足が動かない。動いたところで逃げる道もない。

 きっかけは、放課後のお喋りだった。
「俺、化け物と戦って勝ったことあるぜ」
 そう言った同級生がもてはやされていたのが悔しくて、思わず言ってしまったのだ。
「俺もあるよ」
「何がだよ」
「……化け物、倒したこと」
「証明できんのかよ。欠片持ってんの?」
「……ないけど。今は」
「じゃあ嘘じゃん」
「今はって言ったろ! 見たいなら明日持ってくるから!」
 売り言葉に買い言葉でしてしまった約束をひっこめられず、かといって化け物の欠片なんて持っているはずもなく、途方に暮れていた優斗の前にそいつは現れた。
「あ」
 ひょろひょろと走る自転車の車輪。自走していることからも、ただの車輪ではないことは明らかだ。
 あれなら、自分でも倒せる。
 逃げる車輪を追いかけて、追いかけて、追いかけて、港近くのコンテナ置き場で追い詰めた。
「やった、これで……」
 腕の紋様に触れて、優斗は細い植物のつるを伸ばす。逃げ場のない車輪を縛ってから攻撃して、欠片を持って帰ればいい。夕食までにはぎりぎり帰れるから親にもばれない。
 はずだった。
「うわっ」
 自転車の車輪が光り、地面を蹴って空へ飛びあがった。自分の上に飛びおりる気かと思わず目を閉じ、飛び越えられたのだと気づいて慌てて振り返る。
 直後、優斗の目に飛び込んできたのは
「あ……ああ……」
 トラック、バイク、そして自転車の車輪。コンテナの隙間をふさぐようにならぶ、3体の化け物の姿だった。
「あ……たっ、たすけて……助けて!」
 ようやく出た声は、しかし化け物たちを刺激することしかできなかった。7つのタイヤが轟音をあげて優斗に迫る。

●お兄ちゃんだから
「みんな、仕事だぜ」
 会議室に現れた久方 相馬(nCL2000004)は、普段の彼とはがらりと変わった静かな調子で話しはじめた。
「K市って町の港で、妖が発生する。術式の効きづらい、物質系の妖だ。自転車のタイヤが元になってるランク1と、ランク2のバイクとトラックの合計3体だ。並んだコンテナの間を走り回って、迷った猫なんかをひいて遊んでたみたいなんだが……」
 言葉を切って、相馬は唇を噛む。再び口を開いた時、彼の顔は何かをこらえるように歪んでいた。
「今回襲われるのは、小学生、らしい」
 らしい、とつけたのは、それが彼の見た夢の情報だからだ。夢であってほしい、と願っている。けれど相馬は覚者で、夢見。見た夢はほとんど例外なく、現実の未来を映している。
「覚者の力を証明するため、っつーか友達とした口げんかで引っ込みがつかなくなって、妖を追いかけて来たらしい。コンテナの迷路のどこかで追い詰められて、殺される。10歳くらいだったから、4年生かな。……万里と同じくらい」
 夢で見た彼の姿に、同じ小学生の覚者である妹の姿を相馬は重ねてしまった。いつかは同じことが彼女にも降りかかるかもしれない。まだその夢を見ていないだけで。
 でも。
「妖を倒さなきゃいけないのはもちろんだけど、その子だけは絶対、助けてやってくれ」
 来るかもしれない悲劇を止めたいのなら、目の前の悲劇を放り出しておくわけにはいかない。
「頼んだぜ!」
 空元気を振り絞って、相馬は覚者たちに親指をつき出した。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:なす
■成功条件
1.男の子の保護。
2.妖3体の撃破。
3.なし
こんにちは、なすです。
自分の妹と共通点の多い男の子の殺害映像。
夢見として活動していなければ、心が折れそうです。
どうか単なる夢にしてあげてください。



術式の効きにくい物質系の妖3体です。

・トラック(ランク2)
冷蔵冷凍車の軽トラック。車体は白。タイヤは4つ。
スキル
→突進(近距離単体攻撃)
 凄まじい勢いで激突する。ノックバックを与える。
→ハイビーム(遠距離単体補助)
 強力なライトで照らし、対象の攻撃力を上げる。
→急速冷却(遠距離敵全体)
 コンテナを開けて冷気を放出し、敵全体の動きを鈍くする。弱体のバッドステータスを与える。

・バイク(ランク1)
青のロードバイク。塗装とステッカーはラメ入り。タイヤは2つ。
スキル
→ウィリー(近距離単体攻撃)
 持ち上げた前輪で殴りつける。
→スピンターン(近距離単体攻撃)
 前輪をロックし、後輪で振り回すように激突する。ノックバックを与える。

・自転車のタイヤ(ランク1)
自走する自転車のタイヤ。
スキル
→スピンハイジャンプアタック(近距離単体攻撃)
 体を回転させながら飛び上がって上から体当たりをする。


場所
K市にある港。船積コンテナに入った食品、雑貨のやり取りが中心業務です。
現場は老朽化したコンテナや空きコンテナを集めておく区画で、
長さ6メートル、幅、高さ2メートルのコンテナが2段重ねられ、8×5列に並べられています。
コンテナの間には幅2メートル(小型トラックが走れるくらい)の通路が通っています。
周囲は工事用の仮囲いで囲われていますが、東西南北に一か所ずつ出入り口があります。


時間
自転車のタイヤと男の子がコンテナ置き場に入ってくるのは午後6時28分。
3体の妖に追い詰められるのは12ターン後の6時29分。
男の子の死亡時刻は6時30分です。
五麟学園から電車でK市に向かえば、6時25分ごろに現場に着くことができます。


男の子
丸山優斗(NPC)
10歳の小学4年生。木行の彩の因子を持った覚者です。
使えるスキルは深緑鞭(A:特近単)、五織の彩(A:物近単)のみ。
恐怖でショック状態に陥っており、戦力としての期待はできません。

皆様、ふるってご参加くださいませ。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/7
公開日
2015年10月04日

■メイン参加者 7人■


●空の上から
 夕闇の迫る港。整然と積み上げられた古いコンテナを、2つの影が見下ろしていた。
「いやいやまったく、無茶する子だなぁ。友達と張り合いたい気持ちはわからなくもないけどね」
「久方さん、心配してたね。わたしは、兄弟いないからよく分からないけど……」
 すぐに動けるようにと体をほぐしつつ飛んでいるのは、白い翼の指崎 まこと(CL2000087)。4つの入口をまんべんなく見張ろうと気を張っているのは、黒い翼の桂木 日那乃(CL2000941)だ。
 妖に襲われるはずの男の子、丸山優斗を可能な限り早く発見するため、彼ら以外にも5人の覚者たちがコンテナの間に散っていた。
「まあ、一度怖い事を体験すれば今後は気をつけるようになるんじゃないかな。ある意味、将来有望とも言え」
「あ」
 暗闇を見通す目を持った日那乃が、まことの台詞をさえぎって手を伸ばす。その指の示す方向に、コンテナの間からもまっすぐ光が伸びた。犬系守護使役ノトの『かぎわける』力で、男の子を確認した納屋 タヱ子(CL2000019)の懐中電灯だ。
「北側入り口から来るみたいです。指崎さん、お願いします!」
「わかった。先に行ってるよ、すぐに皆を連れてきてね」
 まことが飛び去った音を聞いてから、タヱ子自身もコンテナの間を抜けて北へ向かう。
 コンテナを並べた区画を囲う工事用の仮囲い。4辺それぞれの中央に開けられた通用口を通って4人の覚者の足音がその後を追った。

●悪夢の変わる瞬間
 並んだコンテナの間で、何かが光った。
「だ、だれ、か、い、る?」
 まぶしさに目を細め、荒い息の間に問いかけた丸山優斗は、それでも足を止めずに妖を追い続けていた。ひょろひょろと自走する自転車の車輪。これのかけらを持って帰れば、明日自分はヒーローだ。
 こちらに近づいてくる光にもひるまず、妖はコンテナの間に入っていく。優斗もすぐ後に続いた。コンテナの陰から飛び出した6つのタイヤが後ろをつけ始めるが、気づかない。
 優斗が自分に迫った危機を知るのは
「あ……ああ……」
ジャンプした車輪を追って振り向いた後だ。
 白い冷気をもうもうと吹き出す軽トラック、青いラメ入り塗装をぎらつかせるバイク、そして猛烈に回転している自転車の車輪。
「あ……たすけ、て……」
 7つのタイヤが轟音をあげて優斗に迫る。
「……助けて!」
「わかりました!」
 絞り出した悲鳴に答えて、しなやかな体躯が飛び込んできた。先頭を切ってつっこんでくるバイクを『ワイルドキャット』猫屋敷 真央(CL2000247)は両こぶしで受け止める。ボディがへこみ、バイクはコンテナに叩きつけられた。
「お説教もしなくてはいけませんけどそれは後回しです」
「そうだな。さて、いきましょうか!」
 相槌を打ちながら自転車の車輪の前に躍り出たのは、狐面の『裏切者』鳴神 零(CL2000669)だ。側では竜系守護使役のキッドが、力強く明かりをともしている。大太刀とその刃を包む神聖な霧がきらめく。
「鳴神零! 妖はこの世から駆逐しちゃうぞ☆」
 高らかに名乗りながらの一振りで、車輪はコンテナの上まで弾き飛ばされた。零の振りまいた霧は横転したバイクに絡みつき、さらにトラックの霧も押し戻す。が、トラックは構わず前進してきた。
「だいじょぶか!」
「皆で無事に帰りましょう」
 呻りを上げる車体の前に、小さな2人の覚者が立ちふさがる。三つ編みを揺らす納屋 タヱ子(CL2000019)はラージシールドを構えてメイスをつき出した。
「んあっ」
「任せろ!」
 弾き飛ばされながらもフロントガラスにひびを入れ、霧にまとわりつかれたトラックの速度をさらに緩めるタヱ子。すかさず鯨塚 百(CL2000332)がバンパーの真ん中にパイルバンカーを叩き込んだ。
「平気、盾護、支える」
 弾き飛ばされたタヱ子は岩倉 盾護(CL2000549)の大きな盾に変わった両腕で受け止められた。
「え……え……?」
「こんにちは。もう大丈夫だよ」
 突如現れた7人に目を白黒させる優斗の前に、土の鎧をまとったまことが舞い降りる。
「すぐに仲間が助けてくれるから。えーと、君の名前は?」
「……ま……丸山、優斗」
 頼もしい雰囲気と優しい言葉にほっとしたように、優斗は素直に答えた。身体から強張りが消えるのを待って、まことは彼の腕をとる。飛び立つにはまだ、遠距離攻撃を持つトラックが邪魔だ。
「優斗君、だね。 もうちょっとだけそのまま待ってて」
「ん、お前、こっち、来る」
 まことの視線から意図を読み取って、盾護がトラックの後ろに回り込んで攻撃を仕掛けた。防御力を高めた固い盾で車体の後ろを殴りつける。苛立ったようにトラックがバックを始めた。盾護が転がって身をかわす。
「くらえ、バンカーバスター!」
 チャンスを逃さず、炎の力を呼び覚ました百が拳を振るう。バンパーのへしゃげたトラックは通路の交差地点まで押し戻された。
「場所空けますよ。にゃああっ!」
 真央もバイクの前輪に飛燕を叩き込み、トラックの後を追うように誘導する。空いたスペースを維持すべく、タヱ子がもう1度シールドを構え、勢いよく地面につきたてた。
「防御は任せてください!」
 周りの土が巻きあがって盾の幅を広げ、光の壁がその上を包み込んだ。コンテナの上から飛び降りてきた自転車の車輪が反射攻撃を受けて向かいのコンテナに激突する。
「気合いで押すぜオラァ!」
 追いかける零は大太刀を機械の両腕でぶんぶんと振り回している。目にもとまらぬ二連撃で、車輪は2体の妖と覚者たちを越えてはるか向こうまで吹っ飛んでしまった。
「お手伝いを、あ……」
 空中の日那乃が撃った空気の弾丸が期せずして後押しになり、どこかで鉄のへこむ音がする。
「まあどっかのコンテナにはいる、かな?」
「早く、丸山君を安全なところへお願いします」
 あっけらかんと言った零の横から、タヱ子が急き立てる。方法はともかく、安全なスペースは十分確保できた。トラックはまだ残っているが、一刻も早く優斗を連れて戦場を離れるべきだ。まことは大きく翼を伸ばす。
「つかまって。飛ぶよ」
「あ、あの、あの」
 まことの腕に抱えられながら、優斗はまだ半分混乱したままで口走った。
「あの、あなたたちは……ヒーロー……?」
 出てきた単語に一瞬面食らったが、直後にタヱ子はしっかりと首を横に振った。
「私達は……通りすがりの覚者です。ヒーローなんかじゃないですよ」
「だけど」
「あとで。行くよ」
 食い下がる優斗の台詞をさえぎって、まことの白い翼がはためいた。声の続きが空に消えていく。

●トラックとバイク
「Fiveの欲張り、半分、達成」
 まことと優斗が無事に飛び立ったのを確認して、起き上がった盾護はトラックに向き直った。
「男の子助けた、次、妖倒す」
「トラックさんから行きますよっ!」
 両手を握りしめた真央が飛び出す直前、トラックがぶるんと身を震わせた。冷凍用コンテナのドアがばたんと開く。
「冷気が来ます!」
「盾護、守り、得意、こっち」
 タヱ子が強化したシールドの後ろに百を庇い、盾護も自分の方へ零と真央を呼ぶ。駆け寄った2人の後ろから冷気が迫り
「な……っ」
もやの中から青いバイクが飛び出してきた。大きく回転した後輪が、零の腰を強打する。殴り飛ばされた細身の身体は、コンテナに大きなへこみを作った。
「よくもっ!」
 追い打ちをかけようとしたバイクを、逃げを捨てた真央の飛燕が止める。が、霧にまとわりつかれた体は思うように動かず、2撃を受け切ったバイクはコンテナにぶつけられる前に自力で踏みとどまった。
「やっぱまずトラック倒さねえと!」
 百もトラックの横腹に正拳をみまうが、バンパーをつぶしたはずの威力はすでに失われていた。タヱ子がメイスで援護するも、やはりダメージは小さい。刺すような霧が体力を奪っていく。それでもあきらめず、2人は2度、3度と武器を振るい続けた。
「眩しいっ」
 殴られ続けるトラックが付けたライトが真央の目を射た。不快な光を一杯に受けたバイクは、もう1度後輪を振り回す。すり減ったタイヤが今度は真央をとらえた。
「うにゃああっ!」
「ぐ、あっ」
 零の治癒に下りた日那乃を守っていた盾護が、あわてて腕を伸ばす。錐もみしながら飛ばされた真央の身体は、支えた盾護ごと地面に激突した。跳ね起きようとした真央ががくんと片膝をつく。盾護を巻き込むまいと空中で無理にあがいたのが裏目に出た。
「おっと、通せんぼだ」
 まだ傷の残る零が、痛みをこらえて続くトラックの体当たりを阻止した。重みの増したように思える大太刀を、それでも2回振り抜いて切りつける。その後ろを日那乃が盾護と真央を癒すべく走り抜けた。
「癒しの……霧」
 戦場全体を見回して、日那乃は回復のスキルを切り替えた。消耗の激しい体術で攻撃しているうえに、広がったトラックの冷気がさらに体力を奪い、全員がじわじわと疲弊しつつある。対抗するように日那乃も治癒の力を広げていくが、体力の減りを押しとどめる程度にしかならない。
「くっ」
 攻撃力の増したバイクの前輪に殴られて、零が再び大きくふらついた。横に並んだ真央の膝も笑っている。力を全体に広げたぶん、1人の回復量が少なくなってしまうのだ。
「守る、2人ともガンバレ」
「行かせません!」
 突進してきたトラックを、間一髪のところで盾護とタヱ子がブロックする。タヱ子のシールドにかかった蒼鋼壁が威力を反射し、トラックがわずかに下がった。
「やああっ!」
 その隙間に割り込んで、百が炎を纏わせたパイルバンカーをつき出す。へしゃげたバンパーがもう1つべこんとへこみを増やして、トラックがさらに押し戻される。
「もう一撃ですっ!」
 真央のナックルがひびの入っていたフロントガラスを砕いた。零の大太刀が、風を切ってその後を追う。
「倒れろ!」
 2度の斬撃が左右のライトを粉砕し、トラックがついに動きを止めた。
「がっ……!」
 ほっとする間もなく、バイクが後輪をぐるりと振り回す。ガードにいった盾護が弾かれ、限界を迎えた零ともつれるように転がった。地面に倒れたまま、動けない。
「んうっ」
 追撃に振りあげられた前輪を、なんとかタヱ子はシールドで止めた。押し込まれて膝が地面を打つ。
「ふ、ぐ、う……っ」
「このまま決めますよっ!」
「それしかねぇな!」
 タヱ子にのしかかるバイクの左右から、真央と百が渾身の力で拳を振り抜いた。サドルとハンドルがばきっと音を立てて外れ、車体が横倒しになる。
「やっ……た?」
 霧が晴れていく。満身創痍の覚者たちの元に、ぼろぼろになった自転車の車輪が転がってきた。
 事の発端になった妖だった。

●自転車の車輪
「こいつ、忘れてました」
「でもこれで最後ですよっ」
「ちょっと待ってくれ」
 力を振り絞って戦いの構えをとるタヱ子と真央を、百が制した。すっかり暗くなった上空のまことに向けて、傷だらけのパイルバンカーを振る。
「おーい、優斗!」
「……え」
 名前を呼ばれた優斗の身体が、まことの腕の中で強張る。
「下りようか」
 もはやまっすぐ前進すらできない車輪の妖だが、それでも用心深く、まことはコンテナの上に優斗と降り立った。地面では日那乃に肩を貸され、盾護と零がよろよろと立ち上がっている。
「こいつ、やってみるか?」
 日那乃の負担を減らそうと零の身体を引き受けながら、百は優斗に呼びかけた。
「お前も、やっつけてみたかったんだろ?」
「……」
 優斗はあいまいに首を振ってうつむいた。言葉が出せない。
「そうか。それなら」
 地面をこすり、妖が最後の悪あがきのように回転する。高々と跳ね上がった車輪の中心を見据えて、まことは優斗の前に出た。
「……本当に、君が無事でよかったよ」
 カウンター攻撃を受けた車輪は、地面に落ちて真っ二つになった。動かなくなった残骸に、日那乃の支えを断って盾護が歩み寄る。
「これ、妖の残骸。けど、倒すと元の依り白に戻る。妖退治、証明難しい」
「……」
「持っていくかい?」
 再び優斗を抱え上げ、まことは今度こそ地面に降り立った。盾護のもぎ取った車輪の金属片を、優斗はじっと見つめる。
「もう分かったと思いますけど、妖さんは怖いものなんです、覚者でも危ないんです」
 コンテナに手をついて息を整えながら、真央も優斗に話しかけた。隣でタヱ子もうなずく。
「今回は私たちが間に合いましたが、次もそうだとは限りません」
「間に合ったって、オイラももし1人だったらあんなの倒せなかった」
 同い年の百の言葉に、優斗ははっと顔をあげた。
「でも、ここにいるみんなが力を貸してくれたからやれたんだ。自慢したかったって気持ちはわかるけど、これからは見栄はって危ない真似はするなよ?」
「……」
「正直自慢したいって気持ちはオイラもちょっとわかるんだけどな」
「……欠片」
 照れくさそうな百に後押しされたように、優斗は盾護の持つ欠片に手を伸ばした。
「もらいます。でも……僕だけが知ってる、お守りにします」
「少年!」
 豪快に笑って、零が夜空に吠えた。
「強くなれ。化け物を倒す事だけが、強さじゃない。友達と張り合うだけが、強さじゃない」
 時には、ごめんなさいする事も強さだと思うんだ☆
 狐の面に隠すように小さく付け加えた台詞は、きっと優斗自身痛いほどわかっている。
「ちょっと難しいかもしれませんけど、自分が何の為に力を使うのかということを、1度しっかりと考えてみてください」
「……はい」
 真央に大きくうなずいて、優斗は手の中の欠片をぎゅっと握りしめた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

お帰りなさいませ。お疲れ様でした。
命と、妖の欠片と、もういくつかの大切なものを、皆様のおかげで優斗君は手にできました。
MVPは、バトルも台詞も一際熱かった百さんにお送りいたします。
ご参加ありがとうございました。




 
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