追憶モノクローム
●『波の音に魂を乗せて、いつかの過去へと還っていく』
夢に見た記憶。
遠い日の記憶。
『自分』を形作った、『いつか』の記憶。
記憶が目の前によみがえる。
それは追憶モノクローム。
記憶に住む魔物。
夢に見た記憶。
遠い日の記憶。
『自分』を形作った、『いつか』の記憶。
記憶が目の前によみがえる。
それは追憶モノクローム。
記憶に住む魔物。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.遠い昔を夢に見る
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
本来夢の見方は人それぞれですが、このときは共通して『遠い昔の自分と、ある出来事』を客観的に眺める夢として現われます。
その理由は夢を見ている段階では分かりませんが、後にある古妖による影響であることが分かるでしょう。
夢の内容は共通していて、『今の人格形成に深く関わった出来事』を見るようです。
そうでなければ『今の人格形成に欠かせない古い日常風景』を見るでしょう。
※諸事情から八重紅の担当していない依頼やNPC、世界観やシステムの範囲内でフォローできなさそうな設定(異世界の神だった、ほんとは古妖である、前世の記憶)は適用ないし描写できませんのでご注意ください。
相談は特に必要ありませんが、何か話しておきたいなーと思ったら最近食べた美味しいものとか書き込みましょう。
この前白エビのコロッケというものを食べたんですが死ぬほど美味しかったです。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年05月05日
2017年05月05日
■メイン参加者 6人■

●悪の本質が弱い者いじめだとしたら、悪行とはただの自然淘汰ではないのか?
『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)について手短かに語ることがあるとしたら、三つに絞ることができる。
ひとつ、ただの人間だったということ。
ふたつ、ただの人間ではなかったということ。
みっつ、ただの人間でいられなかったということだ。
逢魔化以降、日本は平和な国家を未だに謳っているがそんなものはまやかしだ。
違法な銃器がコピースマートホン並に出回り、警察官がゴキブリを捕まえる粘着シートほどの機能も持たなくなった。
だが多くの人々は閉鎖された情報環境に踊らされ、平和だと信じたまま飛行機に乗るのだ。
誰かが客席で神具銃を撃つまで、その幻想は続くだろう。
幻想が破れた後は、地獄しかないというのに。
「今からここに居るクズどもを殺せ」
広い場所に放り出され、神具処理を施したナイフを目の前に落とされた。
直斗はナイフを見つめ、次に相手を見つめ、その次に『クズども』を見つめた。
武力だけを膨らませた集団は自ずと賊化する。海なら海賊、山なら山賊、発現者なら隔者だ。
直斗が出会ったのはそんな隔者集団だった。観光客や小さな村から略奪を行なっては生活を繋ぐ集団。直斗は運良く……いや、運悪くというべきか、発現したことで兵士として人生の全てを奪われた。
命ごと奪われた方が、もしかしたらよかったのかもしれない。
「いやだ……」
すこやかに育った直斗は抵抗をした。クズはお前だ。親の仇だ。血と泥にまみれた顔でにらみ、相手が諦めるのを待つつもりだった。
つもりだったのだが。
「いっ……!?」
スコップで後頭部を殴られた。
振り向けば、人々がスコップを手に自分を殴りつけてくる。
どこからか分からない声が重なっていく。
『死ね化物』『あんたを殺せば私達は解放される』『遊びで殺されてたまるか』。
集団の暴力は波となって直斗を飲み込んだ。
直斗の良心も、優しさも、両親から受けたすべてのものが飲み込まれ、血と泥と一緒に流されていく。
最後に残ったのは、自らの肉体と生命を守ろうとする反射だけだった。
ナイフを握り、水平に振る。テロリストたちに叩き込まれた動作だけだった。
ごとりと落ちる、相手の首。
『化物』『化物』『化物』『化物』。
口々に言う人間たち。
クズども。
身体の奥からわき上がる、名前も分からない宇宙のような感覚。
「ああ、なんだ……ヒトって、こんなに弱くて、醜くて」
気づいたときには全員が死んでいた。
残ったのは自分と、自分の親を殺した相手だけだった。
「ようこそ、あらたなる世界へ」
それが、飛騨直斗がただの人間だったころから、ただの人間でいられなくなるまでの話である。
●太陽に目を焼かれたのは、太陽がまぶしかったからじゃない。
普段は見ない、夢のこと。
見たくも無い夢のこと。
『異世界からの轟雷』天城 聖(CL2001170)は眠りに落ちて、ある日の自分を見つめていた。
少女がいた。
天城の家にすむ、髪の長い少女だ。
綺麗な服を着て母の後ろに隠れる子供だった。
学校の教室でも本の表紙に自分を隠す子供だ。
そんな彼女が出会ったのは、太陽だった。
少年がいた。
水蓮寺にすむ一人息子だと聞いた。
いつ出会ったのか、いつからいたのか、それを思い出すことは難しい。
生まれて初めて太陽を見た日を覚えていないようにだ。
最初からそこにあったかのようで、あたりまえのようで。
しかしあまりに……。
振り向けば、少女は木に登っていた。
少年が当たり前のように木に登るから、自分も当たり前のように登りたい。
理由はそんな所だったように思う。
枝から飛んで着地に失敗して、足をくじいて……あの時は泣いただろうか? わめいただろうか? それとも彼のまねをして『なんてことない』と強がっただろうか。
長い髪は乱れて、綺麗な服も汚れたけれど、あの日確かに少女は輝いていた。
木から落ちたけれど。
海におぼれたけれど。
野犬に追われたけれど。
けれどあの日、確かに輝いていたはずなのだ。
あの少年に照らされていたからだ。
しかしあまりに……。
振り返れば、少女は布団に寝かされていた。
いつのことだったろうか?
足の骨を折って布団で寝ていた時だろうか。
また木に登ろうと? それとも山へ? とにかく、どこか高いところを目指そうと彼に話した時のことだったように思う。
少年はいつも通りに口をピッと引き結んだ顔をして、いつも通りに言ったのだ。
「僕と肩を並べようとするな」
彼は少女のを案じたのだろう。
とても正しくて、とても優しくて、とても強い言葉だ。
しかしあまりに……。
振り返れば闇しかなかった。
闇しかなかったのだ。
闇の中から浮かぶように、大きな鏡が現われた。
自分自身がそこにいた。
「あっ……」
目を開ける。布団をはいで、起き上がる。
「はは、ははは」
左右非対称に笑って、顔を押さえた。
「くっそイヤな夢見ちゃったじゃん。もー」
●巨人が花に水をやっていた? 一体そのことの何が不思議なのです?
『ならぬことはならぬのです』
遠い昔の声を、まるで幻のように聞くことがある。
正しいことをするとき。
誰かを傷付けそうになるとき。
花に水をやるとき。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は、遠い日の声を思い出す。
そして今宵は、夢の中で思い出した。
『ならぬことはならぬのです』
初めて聞いたのはいつだったか。毎日生傷を作っては学校に通っていた時のことだ。
目つきが悪くて身体が大きくて、なにかにつけて喧嘩をふっかけられていた。
義高も腕っ節には自信があったし、なにより他人に負けたくなかった。
売られた喧嘩は買って、時には自分からも売って、気づいたとき自分の周りには誰もいなくなっていた。
人生なんてこんなもんだろう。
中学を卒業する頃には、義高の精神は孤立した狼そのものとなっていた。
ヒソヒソと陰口をたたくクラスメイトを無視して歩き、部活動で青春する連中に避けられながら校舎裏で時間を潰していた時だったか。
ひっそりとたった花壇に腰掛けて、ついさっきまでやっていた喧嘩の傷跡を拭っていたときだったか。
あの教師が現われたのは。
「ならぬことはならぬのです」
降りかかる火の粉を払うからといって。
どうせ誰にも分からないからといって。
何度も喧嘩を繰り返していた義高を、そんな風にあの人は咎めたのだった。
背の低い、華やぐように笑う女性だった。
初めて、喧嘩をしてはいけない理由ができたように思えた。
本当はそれまでずっと、そう言って欲しかったのかもしれない。
ヒソヒソ陰口をたたくクラスメイトを無視して歩き、部活動で青春する連中に避けられながら、校舎裏で花に水をやる。
園芸部を勧められて、殆ど押し切られるように始めたことだ。
喧嘩もせずに花を育てる彼に、クラスメイトは陰口をたたかなくなった。
運動部の連中が部活に誘うようになった。
友達ができて、好きな人ができて、居場所ができた。
そんな人たちを守りたくて、義高は自分を穏やかな巨人に変えたのだ。
『ならぬことはならぬのです』
今そばにあるのは、あの先生が紹介してくれた女性と、あの先生が勧めてくれた店だ。
あの人は沢山のものをくれて、そして一人だけいなくなってしまった。
病に倒れて、若くしてこの世を去ったのだ。
「……ああ」
目を覚まして、涙が伝っていたのを自覚した。
全てを得て、そして大切な人を喪って、代わりに大事な誓いを抱いた日のことを夢に見た。
「『ならぬことはならぬのです』……か。分かってるよ、先生」
●お前が憧れたヒーローは、なぜあの時に笑えたのか?
かつての自分を夢に見る。
自分が一度死んだ日。
自分の生き方を知った日。
『未来』がどこを指すのかを知った日。
『前』がどちらかを知った日。
ヒーローが現われた、あの日のこと。
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は、夢の中で思い出す。
なんてことのない事件だったのかもしれない。
自制心を喪った隔者による銃の乱射事件。70年代の日本ならともかく、アメリカじゃあ日常茶飯事と聞く。
渚のターニングポイントは、そんな事件の中で起きていた。
悲鳴が聞こえる。
銃声もだ。
『誰か』
血まみれの遺体が幾度かはねて動かなくなるさまを、渚は見つめていた。
銃殺された父と、銃殺された母と、銃殺されかけている娘……かつての、栗落花渚。
心臓に触れるほど近づいた銃の弾頭は摘出の難しいホローポイント弾。着弾時に平たくなることから体内で止まる性質をもち、主に対人戦闘で使用されるものだ。軍隊ですら使用を拒んだ兵器が出回るなど、世も末だった。
『この子を助けて』
こときれる母の腕の中で、かつての渚は震えていた。
恐怖に。
苦しみに。
体内から感じる金属と流血による冷たさに。
痛さよりも悲しさよりも、寒さが彼女を包んでいた。
死神の足音は、すぐそばまで聞こえていたのだ。
けれど現われたのは、死神でも天使でもなかった。
「大丈夫。死なせないから」
死神でも天使でもない誰かは、そう言って渚を抱え上げた。
「正義の味方だよ。あなたのパパやママと同じ」
ほほえみかけながら渚の止血を行なう彼女がいる。
言葉の意味を、当時は理解できていたろうか。
覚えていたのは、彼女が足や腕を撃たれていたこと。白い服が台無しになるくらい血まみれだったこと。
そして一度として、笑顔を絶やさなかったこと。
状態の安定した渚と、死神でも天使でもないひと。
そんな二人に歩み寄って、渚は『彼女』に問いかけた。
「ねえ、ヒーローのお姉さん」
「できれば、看護師のお姉さんって呼んで欲しいな」
照れ笑いする彼女に、渚は『かんごし』とだけ繰り返した。
腕や足から流れた血が、最低限の処理だけを施して放置されている。
痛くないの?
そう問いかけると、死神でも天使でもない看護師は、振り返ってこう答えた。
「大丈夫。看護師は体力勝負なんだよ」
●行くべき場所が決まったなら、家を出る必要なんかない。
「そこまでだ!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は道路を超高速で駆け抜け、逆手に握った刀で妖を切り裂いた。
断末魔をあげてはじけ飛ぶ妖。襲われかけていた子供は目をぱちくりとさせている。
奏空はちょっとだけ困って、とりあえずニコッと笑いかけてから走り去った。
そんな日の、夜のこと。
奏空はいつかの夢を見た。
工藤奏空は家出をするのだ!
小学二年生はもう大人だ。子供じゃない。
とーちゃんもかーちゃんも店が大事で俺のことなんてどーでもいーんだ。
ねーちゃんもねーちゃんだ。俺を着せ替え人形みたいにして遊ぶんだ。
俺はもう大人だ。ジリツするんだ。
「家出してやるからなー!」
今日から俺は、ヒトリダチするのだ。
かくして――秘蔵の非常食料(お菓子)とカツドウシキン(豚さん貯金箱の中身、計二百十七円)を握りしめ、工藤奏空の冒険は始まったのだ。
嵐の海がごとき二車線道路をくぐり抜け、死の密林がごときビル街を駆け抜けて、はるばるやってきたるは世界の端。隣の区にある小さな空き屋である。
今日からここが奏空の家。新たなる城である。
意気揚々と扉に触れた、その時だった。
咆哮だった、のだろうか。
芝刈り機のエンジン音と刃が石を削る音。そして形容しがたいぐちゃぐちゃした音が奏空を襲った。
否、襲うのはこれからだ。
妖と化した芝刈り機が四つ足の獣となって、無知な奏空へと飛びかかったのだ。
昨今は花粉症患者と同じくらい頻繁に見かける妖だが、当時の奏空にとってはやたらに珍しい存在だった。
なぜか? その理由は今から三百文字後にお話しましょう。まずは、奏空少年の話からだ。
飛びかかった妖は無知なる奏空少年を八つ裂きにして明日の新聞を騒がせたのだろうか? そんなことはなかった。
どこからともなく風のように現われたお兄さんが、逆手に握った刀でもって文字通り一刀両断していったのだ。
目をぱちくりさせる奏空に、一瞬迷ったような顔をして、ニコッとだけ笑いかけて走りさる。
理由も聞かず、見返りも求めることなく、風のように現われて見も知らずの他人を救い、風のように去って行く。
奏空の冒険は、その瞬間に終わった。静かなビル街を歩き、赤信号の長い二車線道路を渡り、実家のうどん屋へと帰ったのだ。
合計二時間。奏空のはじめての家出だった。
「ふああ……なんか変な夢みたなあ」
朝起きて、カーテンと窓を開ける。
早起きの主婦たちが井戸端会議をしていた。
「うちの息子『あやかしってなあに?』って言うのよ。見たこと無いの」
「変よねえ、この辺りじゃなんで妖を見ないのかしら」
奏空は『そりゃあ俺がやっつけてるしね』と呟いて、パジャマのボタンを外した。
●良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を
ベッドサイドに本が一冊。
オレンジ色のライトを消して、布団を被ったその後で、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はすぐに眠りに落ちました。
古い古い町の片隅の、古ぼけたドア。ラーラはドアノブをひねって工房へ入りました。
甘いバターやキャラメルの香りに包まれて、懐かしい部屋を歩きます。
ふと、目の前に小さな女の子が現われました。
「おばあちゃん……」
町では珍しい、東洋まれの髪や鼻筋は、おばあちゃんと呼ばれた女性ともにつかない者でした。けれど瞬きを二回するおばあちゃんの目の優しさは、少女のまなざしととても良く似ていました。
「あらあら、またおじいさまの講義をすっぽかしたの?」
そうしてラーラは知るのです。
少女が紛れもなく、あの日の自分自身だと。
「あのね。私がエピファニアに生まれたのに銀髪じゃなかったのは、赤眼じゃなかったのは、私が出来損ないだからなんだって。じゃなきゃ、じゃなきゃ……」
泣きじゃくって途中から言葉にならない少女の語りを、おばあちゃんはクッキーの生地をこねながら聞いていました。
語り終えて、少女が泣き止むそのころに、おばあちゃんは少女の隣に腰掛けました。
「誰がそう言ったの?」
「みんな」
古い一族の言い伝えを、ラーラは目を閉じて思い出しました。
エピファニアに生まれた女の子は銀色の髪と赤い目をしていて、それはベファーナの生まれ変わりだからだという言い伝えです。
ベファーナの生まれ変わりは強い炎の加護を得るのだそうです。
だからでしょうか。
黒髪に青い目をしたラーラは、お世辞にも歓迎されてはいなかったのです。
そのうえ長い異国の呪文は覚えられないし、複雑な魔方陣を上手に描けないことが、ラーラを影で笑う燃料になっていました。
「いいこと?」
おばあちゃんは……おばあちゃんと呼ぶにはあまりに若々しい女性は、赤い本を手に取りました。
「その青い眼はおじいさまやおかあさま譲り、その黒髪は私譲り。血の証拠だわ。おばあさま譲りの黒髪は嫌い?」
かぶりをふる少女に、おばあちゃんは微笑みました。
微笑んで、本の表紙をひとなでしました。
それだけで本の封がひとりでに外れ、力ある言葉があふれ出しました。
「あなたのご先祖様、ビスコッティの力ある者はこう記したわ……」
目を覚ますと、本はすぐそばにありました。
ラーラは言い伝えにあるベファーナの生まれ変わりではないのでしょうか?
黒髪や青い目は、素質を受け継がなかったがゆえなのでしょうか?
その答えを、ラーラはもう知っていました。
本に手を添えて、あの日の一節を読み上げます。
『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)について手短かに語ることがあるとしたら、三つに絞ることができる。
ひとつ、ただの人間だったということ。
ふたつ、ただの人間ではなかったということ。
みっつ、ただの人間でいられなかったということだ。
逢魔化以降、日本は平和な国家を未だに謳っているがそんなものはまやかしだ。
違法な銃器がコピースマートホン並に出回り、警察官がゴキブリを捕まえる粘着シートほどの機能も持たなくなった。
だが多くの人々は閉鎖された情報環境に踊らされ、平和だと信じたまま飛行機に乗るのだ。
誰かが客席で神具銃を撃つまで、その幻想は続くだろう。
幻想が破れた後は、地獄しかないというのに。
「今からここに居るクズどもを殺せ」
広い場所に放り出され、神具処理を施したナイフを目の前に落とされた。
直斗はナイフを見つめ、次に相手を見つめ、その次に『クズども』を見つめた。
武力だけを膨らませた集団は自ずと賊化する。海なら海賊、山なら山賊、発現者なら隔者だ。
直斗が出会ったのはそんな隔者集団だった。観光客や小さな村から略奪を行なっては生活を繋ぐ集団。直斗は運良く……いや、運悪くというべきか、発現したことで兵士として人生の全てを奪われた。
命ごと奪われた方が、もしかしたらよかったのかもしれない。
「いやだ……」
すこやかに育った直斗は抵抗をした。クズはお前だ。親の仇だ。血と泥にまみれた顔でにらみ、相手が諦めるのを待つつもりだった。
つもりだったのだが。
「いっ……!?」
スコップで後頭部を殴られた。
振り向けば、人々がスコップを手に自分を殴りつけてくる。
どこからか分からない声が重なっていく。
『死ね化物』『あんたを殺せば私達は解放される』『遊びで殺されてたまるか』。
集団の暴力は波となって直斗を飲み込んだ。
直斗の良心も、優しさも、両親から受けたすべてのものが飲み込まれ、血と泥と一緒に流されていく。
最後に残ったのは、自らの肉体と生命を守ろうとする反射だけだった。
ナイフを握り、水平に振る。テロリストたちに叩き込まれた動作だけだった。
ごとりと落ちる、相手の首。
『化物』『化物』『化物』『化物』。
口々に言う人間たち。
クズども。
身体の奥からわき上がる、名前も分からない宇宙のような感覚。
「ああ、なんだ……ヒトって、こんなに弱くて、醜くて」
気づいたときには全員が死んでいた。
残ったのは自分と、自分の親を殺した相手だけだった。
「ようこそ、あらたなる世界へ」
それが、飛騨直斗がただの人間だったころから、ただの人間でいられなくなるまでの話である。
●太陽に目を焼かれたのは、太陽がまぶしかったからじゃない。
普段は見ない、夢のこと。
見たくも無い夢のこと。
『異世界からの轟雷』天城 聖(CL2001170)は眠りに落ちて、ある日の自分を見つめていた。
少女がいた。
天城の家にすむ、髪の長い少女だ。
綺麗な服を着て母の後ろに隠れる子供だった。
学校の教室でも本の表紙に自分を隠す子供だ。
そんな彼女が出会ったのは、太陽だった。
少年がいた。
水蓮寺にすむ一人息子だと聞いた。
いつ出会ったのか、いつからいたのか、それを思い出すことは難しい。
生まれて初めて太陽を見た日を覚えていないようにだ。
最初からそこにあったかのようで、あたりまえのようで。
しかしあまりに……。
振り向けば、少女は木に登っていた。
少年が当たり前のように木に登るから、自分も当たり前のように登りたい。
理由はそんな所だったように思う。
枝から飛んで着地に失敗して、足をくじいて……あの時は泣いただろうか? わめいただろうか? それとも彼のまねをして『なんてことない』と強がっただろうか。
長い髪は乱れて、綺麗な服も汚れたけれど、あの日確かに少女は輝いていた。
木から落ちたけれど。
海におぼれたけれど。
野犬に追われたけれど。
けれどあの日、確かに輝いていたはずなのだ。
あの少年に照らされていたからだ。
しかしあまりに……。
振り返れば、少女は布団に寝かされていた。
いつのことだったろうか?
足の骨を折って布団で寝ていた時だろうか。
また木に登ろうと? それとも山へ? とにかく、どこか高いところを目指そうと彼に話した時のことだったように思う。
少年はいつも通りに口をピッと引き結んだ顔をして、いつも通りに言ったのだ。
「僕と肩を並べようとするな」
彼は少女のを案じたのだろう。
とても正しくて、とても優しくて、とても強い言葉だ。
しかしあまりに……。
振り返れば闇しかなかった。
闇しかなかったのだ。
闇の中から浮かぶように、大きな鏡が現われた。
自分自身がそこにいた。
「あっ……」
目を開ける。布団をはいで、起き上がる。
「はは、ははは」
左右非対称に笑って、顔を押さえた。
「くっそイヤな夢見ちゃったじゃん。もー」
●巨人が花に水をやっていた? 一体そのことの何が不思議なのです?
『ならぬことはならぬのです』
遠い昔の声を、まるで幻のように聞くことがある。
正しいことをするとき。
誰かを傷付けそうになるとき。
花に水をやるとき。
『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)は、遠い日の声を思い出す。
そして今宵は、夢の中で思い出した。
『ならぬことはならぬのです』
初めて聞いたのはいつだったか。毎日生傷を作っては学校に通っていた時のことだ。
目つきが悪くて身体が大きくて、なにかにつけて喧嘩をふっかけられていた。
義高も腕っ節には自信があったし、なにより他人に負けたくなかった。
売られた喧嘩は買って、時には自分からも売って、気づいたとき自分の周りには誰もいなくなっていた。
人生なんてこんなもんだろう。
中学を卒業する頃には、義高の精神は孤立した狼そのものとなっていた。
ヒソヒソと陰口をたたくクラスメイトを無視して歩き、部活動で青春する連中に避けられながら校舎裏で時間を潰していた時だったか。
ひっそりとたった花壇に腰掛けて、ついさっきまでやっていた喧嘩の傷跡を拭っていたときだったか。
あの教師が現われたのは。
「ならぬことはならぬのです」
降りかかる火の粉を払うからといって。
どうせ誰にも分からないからといって。
何度も喧嘩を繰り返していた義高を、そんな風にあの人は咎めたのだった。
背の低い、華やぐように笑う女性だった。
初めて、喧嘩をしてはいけない理由ができたように思えた。
本当はそれまでずっと、そう言って欲しかったのかもしれない。
ヒソヒソ陰口をたたくクラスメイトを無視して歩き、部活動で青春する連中に避けられながら、校舎裏で花に水をやる。
園芸部を勧められて、殆ど押し切られるように始めたことだ。
喧嘩もせずに花を育てる彼に、クラスメイトは陰口をたたかなくなった。
運動部の連中が部活に誘うようになった。
友達ができて、好きな人ができて、居場所ができた。
そんな人たちを守りたくて、義高は自分を穏やかな巨人に変えたのだ。
『ならぬことはならぬのです』
今そばにあるのは、あの先生が紹介してくれた女性と、あの先生が勧めてくれた店だ。
あの人は沢山のものをくれて、そして一人だけいなくなってしまった。
病に倒れて、若くしてこの世を去ったのだ。
「……ああ」
目を覚まして、涙が伝っていたのを自覚した。
全てを得て、そして大切な人を喪って、代わりに大事な誓いを抱いた日のことを夢に見た。
「『ならぬことはならぬのです』……か。分かってるよ、先生」
●お前が憧れたヒーローは、なぜあの時に笑えたのか?
かつての自分を夢に見る。
自分が一度死んだ日。
自分の生き方を知った日。
『未来』がどこを指すのかを知った日。
『前』がどちらかを知った日。
ヒーローが現われた、あの日のこと。
『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)は、夢の中で思い出す。
なんてことのない事件だったのかもしれない。
自制心を喪った隔者による銃の乱射事件。70年代の日本ならともかく、アメリカじゃあ日常茶飯事と聞く。
渚のターニングポイントは、そんな事件の中で起きていた。
悲鳴が聞こえる。
銃声もだ。
『誰か』
血まみれの遺体が幾度かはねて動かなくなるさまを、渚は見つめていた。
銃殺された父と、銃殺された母と、銃殺されかけている娘……かつての、栗落花渚。
心臓に触れるほど近づいた銃の弾頭は摘出の難しいホローポイント弾。着弾時に平たくなることから体内で止まる性質をもち、主に対人戦闘で使用されるものだ。軍隊ですら使用を拒んだ兵器が出回るなど、世も末だった。
『この子を助けて』
こときれる母の腕の中で、かつての渚は震えていた。
恐怖に。
苦しみに。
体内から感じる金属と流血による冷たさに。
痛さよりも悲しさよりも、寒さが彼女を包んでいた。
死神の足音は、すぐそばまで聞こえていたのだ。
けれど現われたのは、死神でも天使でもなかった。
「大丈夫。死なせないから」
死神でも天使でもない誰かは、そう言って渚を抱え上げた。
「正義の味方だよ。あなたのパパやママと同じ」
ほほえみかけながら渚の止血を行なう彼女がいる。
言葉の意味を、当時は理解できていたろうか。
覚えていたのは、彼女が足や腕を撃たれていたこと。白い服が台無しになるくらい血まみれだったこと。
そして一度として、笑顔を絶やさなかったこと。
状態の安定した渚と、死神でも天使でもないひと。
そんな二人に歩み寄って、渚は『彼女』に問いかけた。
「ねえ、ヒーローのお姉さん」
「できれば、看護師のお姉さんって呼んで欲しいな」
照れ笑いする彼女に、渚は『かんごし』とだけ繰り返した。
腕や足から流れた血が、最低限の処理だけを施して放置されている。
痛くないの?
そう問いかけると、死神でも天使でもない看護師は、振り返ってこう答えた。
「大丈夫。看護師は体力勝負なんだよ」
●行くべき場所が決まったなら、家を出る必要なんかない。
「そこまでだ!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は道路を超高速で駆け抜け、逆手に握った刀で妖を切り裂いた。
断末魔をあげてはじけ飛ぶ妖。襲われかけていた子供は目をぱちくりとさせている。
奏空はちょっとだけ困って、とりあえずニコッと笑いかけてから走り去った。
そんな日の、夜のこと。
奏空はいつかの夢を見た。
工藤奏空は家出をするのだ!
小学二年生はもう大人だ。子供じゃない。
とーちゃんもかーちゃんも店が大事で俺のことなんてどーでもいーんだ。
ねーちゃんもねーちゃんだ。俺を着せ替え人形みたいにして遊ぶんだ。
俺はもう大人だ。ジリツするんだ。
「家出してやるからなー!」
今日から俺は、ヒトリダチするのだ。
かくして――秘蔵の非常食料(お菓子)とカツドウシキン(豚さん貯金箱の中身、計二百十七円)を握りしめ、工藤奏空の冒険は始まったのだ。
嵐の海がごとき二車線道路をくぐり抜け、死の密林がごときビル街を駆け抜けて、はるばるやってきたるは世界の端。隣の区にある小さな空き屋である。
今日からここが奏空の家。新たなる城である。
意気揚々と扉に触れた、その時だった。
咆哮だった、のだろうか。
芝刈り機のエンジン音と刃が石を削る音。そして形容しがたいぐちゃぐちゃした音が奏空を襲った。
否、襲うのはこれからだ。
妖と化した芝刈り機が四つ足の獣となって、無知な奏空へと飛びかかったのだ。
昨今は花粉症患者と同じくらい頻繁に見かける妖だが、当時の奏空にとってはやたらに珍しい存在だった。
なぜか? その理由は今から三百文字後にお話しましょう。まずは、奏空少年の話からだ。
飛びかかった妖は無知なる奏空少年を八つ裂きにして明日の新聞を騒がせたのだろうか? そんなことはなかった。
どこからともなく風のように現われたお兄さんが、逆手に握った刀でもって文字通り一刀両断していったのだ。
目をぱちくりさせる奏空に、一瞬迷ったような顔をして、ニコッとだけ笑いかけて走りさる。
理由も聞かず、見返りも求めることなく、風のように現われて見も知らずの他人を救い、風のように去って行く。
奏空の冒険は、その瞬間に終わった。静かなビル街を歩き、赤信号の長い二車線道路を渡り、実家のうどん屋へと帰ったのだ。
合計二時間。奏空のはじめての家出だった。
「ふああ……なんか変な夢みたなあ」
朝起きて、カーテンと窓を開ける。
早起きの主婦たちが井戸端会議をしていた。
「うちの息子『あやかしってなあに?』って言うのよ。見たこと無いの」
「変よねえ、この辺りじゃなんで妖を見ないのかしら」
奏空は『そりゃあ俺がやっつけてるしね』と呟いて、パジャマのボタンを外した。
●良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を
ベッドサイドに本が一冊。
オレンジ色のライトを消して、布団を被ったその後で、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)はすぐに眠りに落ちました。
古い古い町の片隅の、古ぼけたドア。ラーラはドアノブをひねって工房へ入りました。
甘いバターやキャラメルの香りに包まれて、懐かしい部屋を歩きます。
ふと、目の前に小さな女の子が現われました。
「おばあちゃん……」
町では珍しい、東洋まれの髪や鼻筋は、おばあちゃんと呼ばれた女性ともにつかない者でした。けれど瞬きを二回するおばあちゃんの目の優しさは、少女のまなざしととても良く似ていました。
「あらあら、またおじいさまの講義をすっぽかしたの?」
そうしてラーラは知るのです。
少女が紛れもなく、あの日の自分自身だと。
「あのね。私がエピファニアに生まれたのに銀髪じゃなかったのは、赤眼じゃなかったのは、私が出来損ないだからなんだって。じゃなきゃ、じゃなきゃ……」
泣きじゃくって途中から言葉にならない少女の語りを、おばあちゃんはクッキーの生地をこねながら聞いていました。
語り終えて、少女が泣き止むそのころに、おばあちゃんは少女の隣に腰掛けました。
「誰がそう言ったの?」
「みんな」
古い一族の言い伝えを、ラーラは目を閉じて思い出しました。
エピファニアに生まれた女の子は銀色の髪と赤い目をしていて、それはベファーナの生まれ変わりだからだという言い伝えです。
ベファーナの生まれ変わりは強い炎の加護を得るのだそうです。
だからでしょうか。
黒髪に青い目をしたラーラは、お世辞にも歓迎されてはいなかったのです。
そのうえ長い異国の呪文は覚えられないし、複雑な魔方陣を上手に描けないことが、ラーラを影で笑う燃料になっていました。
「いいこと?」
おばあちゃんは……おばあちゃんと呼ぶにはあまりに若々しい女性は、赤い本を手に取りました。
「その青い眼はおじいさまやおかあさま譲り、その黒髪は私譲り。血の証拠だわ。おばあさま譲りの黒髪は嫌い?」
かぶりをふる少女に、おばあちゃんは微笑みました。
微笑んで、本の表紙をひとなでしました。
それだけで本の封がひとりでに外れ、力ある言葉があふれ出しました。
「あなたのご先祖様、ビスコッティの力ある者はこう記したわ……」
目を覚ますと、本はすぐそばにありました。
ラーラは言い伝えにあるベファーナの生まれ変わりではないのでしょうか?
黒髪や青い目は、素質を受け継がなかったがゆえなのでしょうか?
その答えを、ラーラはもう知っていました。
本に手を添えて、あの日の一節を読み上げます。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
