『お前達、喧嘩しようぜ』とお誘いを
『お前達、喧嘩しようぜ』とお誘いを


●喧嘩祭
 これは偶然に偶然が重なった結果と言えよう。
 七星剣がFiVEを意識し、幹部が興味を持った事。その上で、幹部が様子見程度にしか動いていない事。それにより『誰がFiVEに最初に手を出すか』で攻めあぐねていた事。
 その上で『FiVEの覚者と交戦したい』と言う意志が強く、さらにFiVEのメンバーと連絡先を交換していたというコネクションを持っている隔者がいること。
 最後の偶然として、人里離れた場所に人知れず覚者同士が喧嘩するのに適した廃園された遊園地があったこと。それをFiVEと喧嘩したい隔者が見つけた事。
 そんな偶然が重なった結果――

●『雷太鼓』林・茉莉
『というわけで、暇だったら喧嘩しねーか?
 一対一のタイマンバトル。かったるいことは抜きにしてやりあうぜ』
 七星剣武闘派『拳花』の林・茉莉は携帯電話を手にして、連絡先を知っている覚者にそう告げた。
 FiVEの覚者でもなく、七星剣の隔者でもなく。組織の立場を無視した殴り合いである。

 さあ、喧嘩の始まりだ。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:どくどく
■成功条件
1.喧嘩する(勝敗は関係ない)
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 雷太鼓、幕間。

 今回『雷太鼓』が連絡して誘った、と言う形をとっていますが別に『彼女と連絡先を交換した』人に参加優先権があるとかそういう事はありません。
 また、連絡先を知らないキャラクターの参加を拒むわけではありません。何らかの理由でその事を知った、と言う形で何の問題もありません。

●敵情報
『雷太鼓』林・茉莉
 天の付喪。一五歳女性。神具は背中に背負った和太鼓(楽器相当)。
 喧嘩好き。とにかく強い相手と戦いたい隔者です。七星剣武闘派『拳華』と呼ばれる組織で年齢不相応ながら『姉御』と呼ばれています……が、今回はその立場抜きです。
『機化硬』『雷獣』『白夜』『活殺打』『雷纏』『恵比寿力』『電人』『絶対音感』などを活性化しています。

『バーガータイム』麻生・勉
 土の前世持ち。一八歳男性。ぽっちゃり……というかメタボ体質。常にハンバーガーを食べています。武器は大槌。
 ゆっくりと喋る温厚タイプ。だけど信条は一撃必殺。暴力を振るうことに躊躇はしません。
『錬覇法』『鉄甲掌・還』『大震』『岩纏』『毘沙門力』『マイナスイオン』『悪食』などを活性化しています。

『首切りウサギ』奧井・燕
 火の獣憑(卯)。二五歳女性。和装に日本刀。頭のウサギ耳が無ければ、クール系女侍。
 無口に切りかかってきます。速度に特化した一番槍。
『猛の一撃』『十六夜』『白夜』『福禄力』『灼熱化』『第六感』『火の心』等を活性化しています。

『水も滴る』佐伯・俊一
 水の変化。四五歳男性。覚醒すると、二〇歳の優男に若返る。
 回復役という役割上、慎重な判断を行うタイプ。どちらかというと頭脳派。武器は小型モバイル(書物相当)。
『B.O.T.』『潤しの雨』『潤しの滴』『超純水』『寿老力』『爽風之祝詞』『演舞・舞音』『ジェスチャー』『送受心』等を活性化しています。

『ジャングルの精霊』アギルダ・ヌジャイ
 木の黄泉。一〇歳女性。アフリカ人。黒肌に白いワンピース。祖国の精霊と繫がりがあったとか。
 奇妙に歪んだナイフ(術符相当)を持ち、踊るように術式を放ちます。
『破眼光』『仇華浸香』『清廉珀香』『森纏』『布袋力』『交霊術』『同属把握』などを活性化しています。

『赤の鎧武者』渡辺・和夫
 土の精霊顕現。全身を赤い和風鎧(重装冑相当)で身を包んでいます。中身は一五歳の男性。
 防御の構えを取り、仲間の為に盾となります。
『五織の彩』『紫鋼塞』『鉄甲掌』『大黒力』『特防強化・弐』『痛覚遮断』『鉄心』等を活性化しています。

『ウォーターガンナー』清水・茜
 水の翼人。十二才女性。水鉄砲(ハンドガン相当)を両手に戦います。水の心で冬でも水着装備。メタな事を言うと速度型です。
『エアブリット』『水龍牙』『氷巖華』『氷纏』『速度強化・弐』『恵比寿力』『水の心』『プロパル』等を活性化しています。

●対戦形式
 好きな相手と一対一で戦います。同じ隔者を複数人が選んだ場合、一戦ごとに体力気力が全快しているものとします。命数の使用は自己責任。
 あくまで個人戦なので、全体の勝ち数でどうこうという事はありません。好きな隔者と好きな様に殴り合ってください。

 傷なく勝ちたければ、回復役の『佐伯』を選んでください。適当に語らって終わります。命数の減少もありません。
 勿論、そんなことは無視して『ここで七星剣をぶっ潰す!』と不意打ちを仕掛けることもできます。最初のターンは不意を突けるでしょう。上手く捕らえることが出来れば、そこから七星剣の情報を引き出すこともできます。

●場所情報
 廃園した遊園地。施設はまだ撤去されていないのか、電気を入れれば動きます。明かりや広さなどは戦闘に影響なし。人が来る可能性は皆無です。
 戦闘開始時の距離は10メートルとします。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年04月28日

■メイン参加者 8人■


●『使命を持った少年』御白 小唄(CL2001173)VS『雷太鼓』林・茉莉!
「茉莉さんの方から喧嘩を売ってくるなんて。そりゃ、受けない訳にはいきませんよね!」
「んじゃま、行きますか!」
 小唄は腕に神具を嵌め、腰を下ろす。肘をわずかに曲げて突き出すボクシングに似たスタイルだ。フットワークを重視する小唄にとって一番合理的な動きはそうなるのだろう。リズムを取るように体を動かし、攻め入るタイミングを探っている。
 動いたのは『雷太鼓』が先。背負った太鼓をたたき、雷撃を飛ばす。それが戦いの合図とばかりに小唄も近づき、拳の乱打を叩き込む。そこからはインファイトの乱打戦となった。互いに至近距離で神具を振るう。
「……くっ!」
 先に限界が来たのは小唄だった。命数を燃やして一旦下がり、呼吸を整える。
「どうする? これで手打ちにするか?」
「まさか。やっぱ、限界ふり絞らずに勝とうなんて甘い事考えちゃだめですよね」
 挑発するような『雷太鼓』の言葉に、汗をぬぐって呼吸を整える小唄。
「へえ。あたい相手になめてたってことかい?」
「違いますよ。使うと倒れるんで最後の手段なんです!」
 限界まで息を吸い、全身に酸素を送り込む。限界を超える身体強化。術式の付与ではない。体術の肉体強化もない。肉体を酷使して火力をあげるバトルスタイル。
「――はっ! そいつはヒノマルのか!」
 小唄が使った身体強化に覚えがあるのか、笑みを浮かべる『雷太鼓』。腕を回し、真正面から受け止めようと迫る。
「これが!」
 先ずはジャブからのストレート。
「僕の!」
 サイドステップで回り込みながらのワンツー。
「最高の一撃です!」
 そして獣の因子を活性化させたフルパワーの一撃。
(これで勝てなければ……僕の負け!)
 限界を超えた身体強化は、その反動が存在する。しばらく満足に体は動かせそうにない。
「全く――気持ちのいいパンチじゃねえか」
『雷太鼓』の拳がゆっくりと開き、太鼓の撥を落とす。そのまま尻餅をつくように『雷太鼓』は倒れ込んだ。

●『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)VS『ウォーターガンナー』清水・茜!
「よろしくお願いします! さあ、楽しい戦いにしようか!」
「はい! お願いします!」
 遥は特に相手を指定しなかったので、『ウォーターガンナー』が相手をすることになった。二つ名通りの水鉄砲神具だが、攻撃力はやはり神具の為それなりにある。
「形式だが命数使用無し。お互いの技術全公開って所でどうだ?」
「いいですね。先に倒れた方の負け、ですね」
 互いに距離を取り、頷きあう。その後で、名乗りを上げた。
「FiVE所属、『雷切』の鹿ノ島遥。スタイルは空手。誰だろうと相手になるぜ!」
「七星剣『拳花』所属、『ウォーターガンナー』清水茜。中衛系ですが加減は不要です!」
 拳を突き出す遥と、銃を構える茜。一礼の後、覚者と隔者は動きだす。
 先に動いたのは『ウォーターガンナー』だ。一定の距離を保ちつつ、遥に水を放つ。術式を乗せた水の弾丸と、翼人の力を込めた風の弾丸。
 遥は『ウォーターガンナー』を追うように動き回る。源素の力を込めた一撃。気を拳に込め、打ち放つ不可視の弾丸。精錬された空手の型から撃ちだされる真っ直ぐな正拳突き。相手の動きに合わせたカウンター攻撃。
 二人は共に笑っていた。銃を向けながら、拳を向けながら、しかしそこに憎しみに感情はない。あるのは『相手をどう倒そうか』という事と『次は何をしてくるか』の期待。
「これでどうです!」
「やるな! だったらこうだ!」
 手を変え品を変え、互いはぶつかり合う。勝つためではなく、楽しむために。
 勝負を分けたのは、ささやかな偶然。運命のダイスが傾いた程度の差。
「うおわ!?」
 足がふらつき、倒れる遥。思った以上に体力を奪われていたようだ。
「やー。負けた負けた! だけど次は負けないぜ!」
 負けても笑う遥。相手も同じような笑みを浮かべていた。

●『緋焔姫』焔陰 凛VS『赤の鎧武者』渡辺・和夫!
「そういや親の跡目は継げそうなんかいな。て継がれても困るけどな」
「まだまだ未熟者ですので」
『朱焔』を手に問いかける凛と、鎧を着て頭を下げる『赤の鎧武者』。
 両手で刀を掴み、正道に構える凛。僅かに曲げた腰の動きを読まれない為の緋袴、動きを妨げない胴着。真っ直ぐに構えた刀は刃でもあり盾。相手を討つためでもあり打ってくる攻撃を捌く為でもある。
「焔陰流二十一代目(予定)焔陰凛、推して参る!」
 名乗りと同時に走る凛。重心を崩さないすり足で距離を詰め、鍛えられた足腰を起点として刀を振るう。
 先ずは真正面。振り上げた刀を一気に下ろす。剣術を学んで幾万と繰り返した動き。
 そして流れるように半歩踏み込み、下から払いあげる様な逆風。上から下に、下から上に。
 さらに振り上げた刀を再度叩きつけるように振り下ろす。荒波の様に刃が振るわれ、その度に金属音が響き渡る。
「相変わらず固いなぁ。つーか、今の連撃を手甲で捌くか」
 幾度も相対して痛感している『赤の鎧武者』の防御能力。鎧自体の硬さと、当人の身体能力。円を描くように手甲を動かし、刃や術式を弾いて傷を軽減する動き。
「全く、気落ちするわ。ま、でも――止まるつもりはないけどな!」
 むしろそうでなくては、とばかりに笑みを浮かべて凛は神具を握りしめる。
 防御を打ち砕く方法は主に二つ。奇策を用いて相手の防御を崩すか、相手の防御を砕くほどの攻めか。凛が選んだのは――
「決まっとるわ。あたしの目標は焔陰流を継ぐこと。焔陰流で勝たな意味あらへん!」
 ただ真っ直ぐに、焔陰流の攻めを続ける。それが『赤の鎧武者』の鉄壁を少しずつ削っていく。そして、
「これで、終いやぁ!」
 振るわれる三連撃。煌めく焔のような刃紋の輝きが『赤の鎧武者』の網膜に刻まれる。その光景を最後に『赤の鎧武者』は意識を失った。

●シャーロット・クィン・ブラッドバーン(CL2001590)VS『雷太鼓』林・茉莉!
「日本に来て半月ほどのニュービーですが、どうぞよろしく」
「あいよ。素人でも手加減はしないぜ」
 金髪碧眼のシャーロット。英国人である彼女はその出生とは無関係と思われる業物の刀を手にしていた。かつて日本人の剣豪に身辺警護された経緯があり、その時に日本文化に影響を受けたという。
 そんなシャーロットは甲冑を着込んだ『赤の鎧武者』や着物姿の『首切りウサギ』に惹かれる所もあったが、選んだのは『雷太鼓』。その内面や在り方に強く感銘を受けたのだろうか。ともあれ第一印象で決めた。
「よろしくお願いします。アネゴさん」
 一礼の後に刀を構えるシャーロット。その構えは驚くほど様になっていた。憧れから生まれた直向きな求道心。それがシャーロットの強さとなっていた。
 踏み込み、穿つ。速く、鋭く。イメージするのは自分を守ってくれた剣豪。あの動きを真似るように思い出しながら、刀を振るう。真っ直ぐに刀を振り下ろし、即座に切り返す。
(とはいえ、実力差は明白。勢いで押せても、地力で負けてます)
 シャーロットは幾度の攻防でそれを実感していた。覚醒して間もない自分と、数多の闘いを繰り返してきた喧嘩好きの隔者。経験値の差は明白だった。
(ですが、気持ちは負けていません)
 刀の柄を握りしめ、全身に力を込める。追い込まれるよりも前に全力を出す。肉体にかかる負担は大きいが、それは構わない。
「To be, or not to be. that is not the question」
 生きるか死ぬか。それは問題ではない。ここで全力を尽くすことが重要なのだ。
「嫌いじゃないぜ、そういう精神!」
 それに応じるように太鼓の撥でシャーロットを攻める『雷太鼓』。交差する二者の打撃と斬撃。そして、
「いい喧嘩だったぜ」
 額から流れる血を拭いながら、『雷太鼓』は倒れ伏したシャーロットに向かい笑みを浮かべた。

●『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)VS『ジャングルの精霊』アギルダ・ヌジャイ!
「こんな小さな子が七星剣に……」
「ん」
 両手を合わせて礼をするヌジャイに、ラーラは複雑な思いを抱いていた。とはいえ武闘派である『拳華』所属である以上、相応に強いのは確かだ。油断はできない。
『煌炎の書』を手に、炎を生み出すラーラ。バッドステータスの回復術を持たないラーラにとって、ヌジャイの術式は相性が悪い。一度足止めされれば、そのまま押し切られる可能性があるのだ。
 故に付与を行っている時間はない。慣れた動きで指を動かし、炎を生む。自らの意のままに動く炎。それは地面を走り、ラーラを中心とした大きな円を描く。炎はそのまま内側に幾何学文様を描くように走る。ラーラの意のままに、炎の魔法陣を描く。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 宣誓と共に生まれる炎の獣。獣は真っ直ぐにヌジャイに向かって走り、駆け抜ける。その軌跡を追うように炎が生まれ、爆炎を引き起こした。轟音が周囲の音を奪い、燃え盛る炎の舌が視界を奪う。
「このまま押し切ります!」
 炎に巻かれたヌジャイが呼吸困難で動きを止めている隙に、ラーラは力の限り炎を生み出した。小さく絞った赤き弾丸を連続で叩きこむ。
「……アダンダラ」
 言葉と共に放たれる光。それがラーラの動きを止めた。術式の拘束から脱したヌジャイが呪いの術式を放ったのだ。森の猫の呪いがラーラを縛る。
「中々やりますね。ですが――」
 歪んだナイフを手に、次々と術式を放つヌジャイ。だがバッドステータスを起点としている彼女の攻撃は、ラーラの一撃に比べれば軽い。耐えることはそう難しい事ではない。
「私にもその分磨いてきたものがあります!」
 裂帛と共に生まれた炎の弾丸。息を吐き出しながら、連続で撃ち続ける。ここで決めれなければ、再びバッドステータスの泥に陥る。だからこそ、全力で。
「………あ」
 小さく呻くように声を出し、ヌジャイは力尽きた。

●『新緑の剣士』御影・きせき(CL2001110)VS『バーガータイム』麻生・勉!
「なんかすごく楽しく戦えそうな相手なんだよね? 楽しみだなー!」
「もー。選ばれなければゆっくりできたのにー」
 楽しそうに神具を構えるきせきと、不承不承と言った感じで歩く麻生。嫌々戦っているように思えるが、槌を構えた姿を見ればその印象は消える。どっしりと構えた大砲。麻生の構えはそんなイメージを想起させる。
「んー。パワー重視っぽいね。物理防御も高そう」
「そっちは速そうだねー」
 スキャンするきせきに、のんびり答える麻生。そしてそのまま戦いに入った。
 動いたのはきせきが先。麻生を蔦で縛り、妖刀『不知火』を手に一気に麻生に迫る。陽の光を煌めかせ、刀身は焔の様に空間に緋を走らせた。戦場を舞う赤い燕の如く、刃は赤い軌跡を残して四度翻る。
「きついなぁ、もう」
 その四度の斬撃を一撃の鉄槌が覆す。土の力を込めた一撃がきせきを揺るがした。全身を走る強い衝撃。
「あはは。やっぱり聞いていた通りの人達だ。楽しく勝負できそうだね!」
 体が砕けるかと思った一撃を受けて、きせきは楽しそうに笑った。体の痛みもどこ吹く風戸ばかりに笑顔を浮かべる。まるでゲームで受けたダメージを確認するように傷の痛みを見ている。それは自己に対する執着の薄さ。妖により両親を失い、『自分』を形成する前に戦いに身を投じたが故の影響か。
「これでどうだ!」
 戦いを楽しみながら、どこか冷静に。無邪気な少年の心のままに、自分の身体をゲームデータの様に扱い刀を振るう。戦闘が怖い。傷が痛い。そんな感覚はきせきにはなかった。ただ無邪気に笑いながら刀を振るう。
 最も、きせきも圧倒しているわけではない。麻生の一撃を受ければ大きく疲弊し、高速で攻め続けた代償が、体を痛めつけていた。回復を入れて傷を癒すも、それ以上の一撃を受けてしまえば元の木阿弥となる。
「駄目かー!」
 麻生の一撃を受け、笑いながら尻餅をつくきせき。負けてもなお嬉しそうな顔は、純粋に楽しんだ少年の顔だった。

●三島 椿(CL2000061)VS『首切りウサギ』奧井・燕!
「よろしくね、奥井さん」
「以外だな。まさか私を指定とは」
 椿の対戦相手に選ばれた奧井は、眉をひそめて疑問の表情を作る。疑問に思うのも無理はない。椿は回復等を主体とする翼人。まさか前衛である奧井を指定するなどとは。
 思考はわずか。一呼吸で表情を戻し刀の柄に手をかける奧井。椿も笑みを浮かべて神具を構えた。
(彼女は私よりも速い、回避も高い)
 奧井の闘い方を思い出しながら、椿は戦略を積み上げていく。
 椿にとって、戦いは詰め将棋のようなモノだ。自分のできること。相手のできること。それを頭の中で構築し、どうすればいいかを思考する。もちろん、その構築通りにいかないこともある。だが、基礎となる戦略があれば、不測の事態が起きてもそこから立て直しが可能なのだ。
(私は体力がそんなに高くなくて回避も高くはない。でも自分で回復が出来て、術攻撃の威力も大きい)
 奥井にあるモノ。椿にあるモノ。奧井に無いモノ。椿に無いモノ。手札は互いにわかっている。自分が戦い方を構築するように、相手も戦い方を構築する。
「――参る」
 言葉と同時に抜刀し、斬りかかる奧井。瞬く間の三連撃が椿を襲う。
「源素による強化は、使わないみたいね」
「貴方の回復は厄介なので、初手から手数で押し切らせてもらう」
「なら、こちらも――」
 痛みを押さえるように呼吸を整え、椿は弓を番える。両足を開き、真っ直ぐに背筋を伸ばし、両手を広げるように弦を引く。そのまま放たれた矢に風の鏃が螺旋となって纏わりついた。風と親和性のある翼人の一撃。
(一撃はそれほど重くないけど、手数が多い……!)
 奧井の攻めに椿は呼吸を乱される。鋭さで言えば椿の方が鋭いだろう。だがそれを補うように奧井は手数を増やし攻めてくる。水術の回復で何とかしのぐが、それも時間の問題だ。物理的な守りが弱い椿が耐えられるものではなかった。
「っ、はぁ! ……悔しいわね」
 膝をつく椿。拳を握るが、悔しさよりも全力を出し切った表情だった。
「勝負をしてくれて有難う」
 そうほほ笑む笑顔に邪気はない。奧井はその笑顔につられるように、手を指し伸ばしていた。

●『癒しの矜持』香月 凜音(CL2000495)VS『水も滴る』佐伯・俊一!
「お前さん達と顔を合わせるようになってどれくらいたつんだろーな」
「全くだ。互いに酔狂と言えよう」
 凜音と佐伯は、オープンカフェのテーブルに座りながら、談話していた。
「回復役って、なんだろうな。お前さんは何だと思う?」
 凜音は同じ回復役である佐伯にそんなことを問いかける。自分なりの答えは出ているが、それはあくまで凜音自身の答えだ。他の人の意見も聞いてみたい。
「癒しを基点にして行動する者だ」
「ふむ?」
「大したことではない。前に立って攻める者と護る者、射撃や術式で距離を離して攻める者、索敵する者、毒や炎で削る者、弱体や強化で貢献する者、そして癒す者だ。
 役割に貴賤はない。上も下も。状況による要不要はあるだろうが」
「なるほど」
 佐伯の言葉を受けて、凜音は缶コーヒーに口を付けた。何処と無く自分と似ていて、しかし異なる癒しの思考。
 凜音は癒し手であると同時に、戦局を盤面を見るように冷静に見ている自分に気づいていた。味方が痛がっても『まだ大丈夫だ』と一歩引いた視点で見ることが出来る。
 トリアージ。傷の重要度を分類し、治療の優先度を決めること。前世の影響なのか、それとも凜音自身の経験からか。最近は意識してそういったことが出来るようになっていた。チェスの最適解を目指すように、淡々と。
 凜音が戦いという状況を一歩引いて仲間を駒とみているのなら、佐伯は自分自身すら駒として見ていた。回復役、という存在を『そう行動する人間』としか見ていない。勝利の為なら、仲間の為に盾になることも躊躇しないだろう。
 人間性を著しく欠いた『役割』主義。冷静な参謀。非常な軍師。凜音はその姿に何を見たか。それは彼のみぞ知る。
「……いつかは決着をつけなきゃいけないんだろうなー。アンタらとも」
「終わらない戦いはない。和解にせよ、殲滅にせよ」
 終わりが来る。
 腐れ縁の様に何度も戦ってきた『拳華』との喧嘩。当たり前だが、それも終わりがあるのだ。
(そんときゃ上手く割り切れるのかね、あいつら)
 どこか清々しい顔で『拳華』と戦う仲間達を見ながら、凜音はため息をついていた。


 戦いが終わり、せっかくなのでと遊園地で遊ぶFiVEと『拳華』。とはいえ廃園になっている為、遊べる場所は限られていた。
「そういや、お前ら何でシチセーケンやってんだ?」
 そんな中、遥が問いかける。最近、色々思う所があるようだ。
「そりゃ戦う場所が得られるからさ」
『雷太鼓』の返答は、ある意味予想通りだった。
「それに今を見りゃわかるだろ? 法律だけじゃ平和が守れやしないのさ。力で守る。それができるのは七星剣なんだよ」
 AAAは平和を維持できているとは言い切れない。
 こんな時代だ。弱き善より、強い悪にすがる。生きるためにはそれも仕方がないこともある。

 奇しくもこの数日後、日本を震撼する事件が起きる。
 ――この国を守ってきた善の組織、AAAが潰える時が。


■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

 どくどくです。
 かなり削ったなぁ……。

 個人戦×8。需要があるのかないのかよくわからない依頼でした。
 楽しんでいただければ幸いです。
 あ、どくどくはものっそ戦闘描写を楽しめました。お陰で書きすぎて色々削る羽目に。
 
 さて、この依頼が帰ってくる時期にはいろいろ大変なことになっていると思います。
 ともあれお疲れさまでした。

 それではまた、五麟市で。




 
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