散り桜 ブルーシートに 色が咲く
●お花見の季節になりましたね
外を歩けば桜の花を見る、そんな季節になりましたね。
五麟市の公園にも沢山の桜がさいております。
ですがファイヴはつい最近お花見をしたばかりですので、今度はひっそり、そしてじっくりと楽しみましょう。
お弁当を持ち寄って、ブルーシートに五~六人ほど集まって。
さあ、桜が散りきってしまう前に。
外を歩けば桜の花を見る、そんな季節になりましたね。
五麟市の公園にも沢山の桜がさいております。
ですがファイヴはつい最近お花見をしたばかりですので、今度はひっそり、そしてじっくりと楽しみましょう。
お弁当を持ち寄って、ブルーシートに五~六人ほど集まって。
さあ、桜が散りきってしまう前に。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.お花見をしましょう
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
スペースはご用意しましたので、自由にそしてちょっぴり自分勝手にお花見の時間をお楽しみください。
プレイングの書き方に困ったら、ガイドラインを参考にしてみてくださいね。
●まいごのガイドライン
お花見は日本の恒例行事。桜が咲けば誰でもその下で遊んで良いという風習なのですね。
けど『急にお花見って言われてもどうしたらいいかわかんないよ!』という方もいらっしゃるはず。
『あれもこれも持って行かなきゃ! でも鞄(プレイング)がいっぱいになっちゃう!』という方もいらっしゃいますか?
大丈夫。プレイングに割り箸や紙皿やあれやこれやの雑貨を書き込まなくても、ちゃんと持って行くことでしょう。
それよりも、何を楽しむか考えてみませんか?
ほら、桜が咲いて、そして散っています。お日様も照っていて、今日は暖かいお花見日和です。
こんな景色を見ながら食べたいご飯はなんでしょうか。主食はサンドイッチ? おにぎり? それとも重箱につめた立派なお弁当を作ってしまいましょうか。
お料理が苦手? いいえ、大丈夫ですとも。近所のマーケットには沢山の総菜が売られていますし、好きなご飯を用意できますよ。
おっと、お酒を飲みたい方もいらっしゃるのでしょうか。日本酒でしょうか、焼酎? オシャレにカクテルやワインなんて楽しんじゃうかもしれませんね。
盛り上がってきたら、何か喋りたいですよね。
せっかくこうしてゆっくりしているのです。周りの人に聞いてみたいことはありませんか? 思い出したいことや、知ってみたいことは?
そうしている間に日も暮れて、あたりも肌寒くなってきました。
お片付けをして帰りましょうね。きっとそれも、大事なことでしょうから。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月24日
2017年04月24日
■メイン参加者 6人■

●桜が咲いたから
古来日本の民は、桜が咲けばその下で飲み交わしてよいという不文律を作った。
その相手が異邦の民であろうと、日頃顔を合わさぬ者であろうと、花のついた桜の下ではいくつもの許しがあった。
今年も桜が咲いている。
広げたブルーシートに、三組の人々が訪れ、それぞれに腰を下ろすのだ。
●レースカーテンのむこうは見えない
「なんと言っていいのでしょう、この……空気と、いいますか」
「へたに声をかけない方が、お互いいいかもしれないねえ」
重箱を持った『桜舞うひと時を、君と』柳 燐花(CL2000695)と、火の付いていない煙草をくわえて頭をかりかりとやる『桜舞うひと時を、君と』蘇我島 恭司(CL2001015)。
広いスペースに六人……というより『三つのペア』となったようで、二人は顔を見合わせた。
恭司は苦笑して。
燐花は、ほんの僅かにはにかんだ。
落ちる花弁のひとひらに、かくれてしまうほどに。
どこか座りましょうか。
そう切り出した燐花に応じて、恭司はブルーシートの上にあぐらをかいた。
「皆さんで、とお弁当を作ってきたのですが」
恭司の前に並べられたのは、炊き込みご飯のおにぎりに焼いたウィンナーや厚焼き卵、唐揚げやらきんぴらゴボウやらあれやらこれやら、重ね四段のお弁当である。
「うん、風呂敷包みも大きそうだったからもしかしたらと思ってたよ……うん……」
拘りがあったのか何か思うことがあったのか、『僕が持つよ?』と言っても燐花は重箱を手放さなかった。けれど……。
「流石に、二人じゃ多いですよね」
目をそらして言う燐花に、もしかしたら自分の前に広げるタイミングを楽しみにしていたのかも……と思って苦笑した。ならば、大人として応えねば。
「燐ちゃんのご飯は美味しいから、いくらでも食べられそうだよ」
「ご無理は、なさらないでくださいね。余ればお夕飯にアレンジしますから」
「そっか、それは楽しみだね」
それじゃあ早速。
そう言って、恭司は箸を手に取った。
「お勧めは何かな」
「そう、ですね……肉巻きおにぎりなど、いかがでしょうか」
「いいね。いただきます」
彼が肉巻きおにぎりをつまんで口に入れるまで。
燐花は、表情をまるで変えずに、けれど時間をずっとずっと引き延ばすように見つめていた。
お腹いっぱいにお弁当を食べて、食べきれない分をしまってお茶を入れる。
「食べ過ぎないようにと思ったのに、つい食べ過ぎちゃったね」
「よかったです。残りは、緒夕飯に変えましょう」
ポットからコップにお茶を注いでやりながら、燐花はよその花見客を見ていた。
親子三代そろった家族連れ。男だらけの大学生たち。社会人の集団。カップル。
自分たちは、どんな風に見えるだろう。
自分たちは、どんな関係なのだろう。
年の差は、まるで親子のようだ。
接し方は、どうだろう。お世話になっているひと、だろうか。
書類上は? 大家と店子でしかない。
それ以外には、なんだろう。
なんになりたい。
「蘇我島さん」
だからだろうか。こんな質問をしてしまうのは。
「デートって、なんでしょうか」
美しい少女が家にやってきたとき。自分はどう思ったろうか。
娘のように年の離れた彼女が大人びた顔を見せたとき、自分はどう思ったろうか。
大人としてしっかり面倒をみなくちゃいけない。
こんな年の離れた子にへんな気持ちをもってはいけない。
迷惑に思うかもしれないし、彼女が他人からどう見られるかも心配だ。
では、彼女が自分から離れると言い出したとき。どう思ったろうか?
「デート、ね……えっと、仲の良い男女が一緒にお出かけすること、かな」
自分にしてはひどく曖昧な言い方をしたものだ。
燐花は『はあ』と感情の分からないリアクションをしてから、続けざまに問いかけてきた。
「この状況も、デートなのでしょうか」
「……」
そうだよ。僕は君とデートをしている。僕は君のことを――。
などと。
言うわけには、いかないのだ。
つとめて、散る桜の花を眺めるようにしながら、火のついていない煙草をくわえた。
「定義上は、そういうことになると言えるね」
理屈っぽい、大人びたいいわけだった。
燐花は『そうですか』と言って、自分の分のお茶をそそいだ。
「デートのお相手が蘇我島さんで、とても嬉しいです」
「ありがとう。僕も嬉しいよ」
透明なレースカーテンのような、薄布一枚を通したような、隠された、二人の心。
●罰ゲームのせいにして、おねがい
ある勝負事の結果として、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)にどんな要求でもできる権利を獲得した。
なんつっても元気あふれる男子高校生である。
対して数多は自分でも思ってるくらいナイスなバディのガールなので、これはとんでもないことになってしまったぞと身構えたものではあるが。
「センパイ! お弁当、よろしゃしゃーっす!」
後半なんつってんのかわかんないテンションで、お花見にお弁当を手作りすることを要求された。
というわけで。
「作ってきたわよ! ほら!」
鞄にぎっしりお弁当箱を詰めて、桜の舞い散るブルーシートに仁王立ちしてやったのだ。
罰ゲームの、結果として。
重たい魔法瓶のポットを背中に担ぎ、シートに座布団をしき、あれやこれやも配置して、正座の姿勢で深々と頭を下げる男子高校生をご想像頂きたい。
「どうぞ、お座りください先輩! ここが絶好の場所だと思いますんで!」
「……よ、よきにはからえ?」
思ったより礼儀正しく迎えるんだなこの子、と思ったが畳の上で一礼から入るスポーツの申し子である。上下関係には厳しいのかもしれない。もしくは天然である。
「でー、その、お弁当のほうは」
そっと頭を上げる遥。
時代劇の大名にでもなった気分だが、この際だからと数多も堂々とお弁当を広げてみせた。
種類色々のおにぎりにサンドイッチ、あれこれ詰め込んだカットフルーツ、そして今さっき遥が下ろしたブレンドティのポットである。
「これでどうよ!」
「あじゃじゃじゃーっす!」
途中からなにいってんのか分かんないテンションで、遥が地面に額をつけた。
なにもそんなにならんでも。
遥に春が来た。
この世の春が来たのだ。
美人でエロくて強い先輩が、自分のためにお弁当を作ってくれる。これほどの幸福があろうか。
忠犬さながらの姿勢で『待ち』をしてから、数多が『よし』と言ってから手を合わせた。
「よろしくおねがいします!」
そこはいただきますだろと、自分でも思った。
まずはおにぎりである。
種類が沢山あるらしいので、とりま両端にあるやつをそれぞれ手に取った。
半分ぐらい一気に囓る。
「うまい! チーズとおかかだ!」
もうかたほうも一気に囓る。
「うまい! 梅干しと、ま、まめ、えだまめだ!」
びゃーとか言いながら一秒ちょいで食べきると、今度はサンドイッチ。
「うまい! とんかつだ! ツナマヨだー!」
空腹という概念が吹き飛んでいくようだった。
ガッツポーズと共に、次なるサンドイッチとおにぎりへゆくのだ。
遥が忠犬みたいに『お座り』するのを見て、つい『よし!』とか言ってしまったけど……。
「がっつぎすぎじゃないの?」
「うまい! うまいっす!」
「そ、そう」
遥につられるように思わずとったガッツポーズは、遥が肉眼でとらえるまえに解除した。
気づいたら斬られている剣術みたいな動きである。
「うあー、しあわせだー! センパイとふたりでこうしてられるのがたまんなく嬉しいや!」
とか言われたので、数多は身を乗り出した。
「で、でーとじゃないし!」
「えっ、デートなんすか!?」
「でーとじゃないって言ってんでしょ!」
とはいえ現状。
デート以外のなんだというのか。
自分で作ったおにぎりをめっちゃ頬張り、勢いに任せて飲み込んだ。
「こんど! 今度の勝負は勝つんだからね!」
「うっす! 楽しみにしてます! センパイ!」
この子は、なにひとつとして誤魔化さない子だ。
だから、お弁当なんか作ってきたのだろうか?
いや、まさかまさか。
●未来ある私とあなたとして
穏やかにやっている恭司たちや、にぎやかにやっている数多たち。
彼らを横目に『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)はシートに腰を下ろした。
「今回は、ペアの三組でのんびりできそうですね」
「恋人同士は俺たちくらいだろうがな」
あぐらをかいて腕組みする『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)。
こういうことをさらっというなあこの人は、とは思うがこのレベルは日常茶飯事である。照れていても仕方ないが、照れないのも難しい。感情の引力というのは、なかなか大きなものである。
両慈は両慈でよその心配をしているようで、数多や遥を微笑ましく眺めていた。
「あちらも、そう遠くはなさそうだがな」
「どうなんでしょうねえ」
お茶と軽食。それもさりげない程度のものをそっと用意する。
たらふく食べて呑むよりも、やりたいことがあったのだ。
「両慈さん、一局いかがです?」
悠乃が取り出したのはマグネット式の携帯将棋盤だった。
ほう。
と息をつき、手早く駒を並べていく両慈。
この辺りはさすがと言うべきか、十本の指がぞれぞれ意志を持ったかのように駒を選んで適切な場所に引いていく。並び終えるまで僅か一秒ちょっとであった。そのくせ歩兵がビシッと水平に並んでいる。
やや遅れて並べ終え、指し始める。
「悠乃とこういった遊戯をするのは、はじめてかもしれないな」
実直に、しかしかならず相手を受ける形で指していく両慈の手。
何気なく返事を返しながら、しかし恐ろしく素早く相手に絡みつくように指す悠乃の手。
「早指しは、判断力を鍛えるのにいいらしいですね」
ミスを誘って隙を突く悠乃の手はしかし、実直な返しの両慈によって突き崩された。
色々省いて格闘で例えると、相手の重心を崩して寝技に持ち込もうとしたら逆に自分が組み敷かれた状態である。
「では、勝者にはお望みのご褒美を」
「報酬があったとは」
両慈は少しばかり考える仕草をした。
そしてふと思う。悠乃のことである、この対局自体が自分にマウントをとらせるための口実だったのでは?
顔をまじまじと眺める。いつもの穏やかな糸目のままだ。
思い過ごしか。さて。
悠乃は正座のまま、相手の言葉を待っていた。
何を言われるだろうか。さすがに、子供のいる、それもお外でえっちい行為はできないが。というかそういうことを要求する両慈ではないが。
なんかそういう神に愛されてそうで、万が一ということもあるし。
しかもまじまじと見つめてくるし。
なんだろう。どういう意図なんだろう。
平静を保ってみせると、見つめるのをやめて彼はトンと膝を打った。
「そばにいてくれ」
そういう意味の『そば』ではないのは分かっているが。
将棋盤をどけて、二人横並びになってはらはらと散る桜の木を眺めていた。
ぽつりぽつりと、話し始める。
「私の両親、海外で働いているのですが、近いうちに帰国するのです」
「それは、挨拶できる良い機会だな」
両慈は会話の意図をすぐに汲んだようだ。
「どんな方々なんだ?」
「そうですねえ、厳しい人たちです。努力を伴った結果を、自分にも他人にも要求するような」
「立派な方だ」
相づちにしては重いが、ストンとくる言葉だ。
「娘たちが本気で考えて出した答えを、否定したことはないんです」
今度は、相づちはなかった。
黙って肯定する。そんな雰囲気だ。
しかしすぐに口を開いて、悠乃の方を見た。
「かわりにと言ってはなんだが、妹に会ってくれないか。悠乃に会ってみたいというんだ」
『かわりに』の部分に、悠乃は応えなかった。
ただひとこと。
「はい」
とだけ。
桜が散っていく。
春はまだ、始まったばかりだ。
古来日本の民は、桜が咲けばその下で飲み交わしてよいという不文律を作った。
その相手が異邦の民であろうと、日頃顔を合わさぬ者であろうと、花のついた桜の下ではいくつもの許しがあった。
今年も桜が咲いている。
広げたブルーシートに、三組の人々が訪れ、それぞれに腰を下ろすのだ。
●レースカーテンのむこうは見えない
「なんと言っていいのでしょう、この……空気と、いいますか」
「へたに声をかけない方が、お互いいいかもしれないねえ」
重箱を持った『桜舞うひと時を、君と』柳 燐花(CL2000695)と、火の付いていない煙草をくわえて頭をかりかりとやる『桜舞うひと時を、君と』蘇我島 恭司(CL2001015)。
広いスペースに六人……というより『三つのペア』となったようで、二人は顔を見合わせた。
恭司は苦笑して。
燐花は、ほんの僅かにはにかんだ。
落ちる花弁のひとひらに、かくれてしまうほどに。
どこか座りましょうか。
そう切り出した燐花に応じて、恭司はブルーシートの上にあぐらをかいた。
「皆さんで、とお弁当を作ってきたのですが」
恭司の前に並べられたのは、炊き込みご飯のおにぎりに焼いたウィンナーや厚焼き卵、唐揚げやらきんぴらゴボウやらあれやらこれやら、重ね四段のお弁当である。
「うん、風呂敷包みも大きそうだったからもしかしたらと思ってたよ……うん……」
拘りがあったのか何か思うことがあったのか、『僕が持つよ?』と言っても燐花は重箱を手放さなかった。けれど……。
「流石に、二人じゃ多いですよね」
目をそらして言う燐花に、もしかしたら自分の前に広げるタイミングを楽しみにしていたのかも……と思って苦笑した。ならば、大人として応えねば。
「燐ちゃんのご飯は美味しいから、いくらでも食べられそうだよ」
「ご無理は、なさらないでくださいね。余ればお夕飯にアレンジしますから」
「そっか、それは楽しみだね」
それじゃあ早速。
そう言って、恭司は箸を手に取った。
「お勧めは何かな」
「そう、ですね……肉巻きおにぎりなど、いかがでしょうか」
「いいね。いただきます」
彼が肉巻きおにぎりをつまんで口に入れるまで。
燐花は、表情をまるで変えずに、けれど時間をずっとずっと引き延ばすように見つめていた。
お腹いっぱいにお弁当を食べて、食べきれない分をしまってお茶を入れる。
「食べ過ぎないようにと思ったのに、つい食べ過ぎちゃったね」
「よかったです。残りは、緒夕飯に変えましょう」
ポットからコップにお茶を注いでやりながら、燐花はよその花見客を見ていた。
親子三代そろった家族連れ。男だらけの大学生たち。社会人の集団。カップル。
自分たちは、どんな風に見えるだろう。
自分たちは、どんな関係なのだろう。
年の差は、まるで親子のようだ。
接し方は、どうだろう。お世話になっているひと、だろうか。
書類上は? 大家と店子でしかない。
それ以外には、なんだろう。
なんになりたい。
「蘇我島さん」
だからだろうか。こんな質問をしてしまうのは。
「デートって、なんでしょうか」
美しい少女が家にやってきたとき。自分はどう思ったろうか。
娘のように年の離れた彼女が大人びた顔を見せたとき、自分はどう思ったろうか。
大人としてしっかり面倒をみなくちゃいけない。
こんな年の離れた子にへんな気持ちをもってはいけない。
迷惑に思うかもしれないし、彼女が他人からどう見られるかも心配だ。
では、彼女が自分から離れると言い出したとき。どう思ったろうか?
「デート、ね……えっと、仲の良い男女が一緒にお出かけすること、かな」
自分にしてはひどく曖昧な言い方をしたものだ。
燐花は『はあ』と感情の分からないリアクションをしてから、続けざまに問いかけてきた。
「この状況も、デートなのでしょうか」
「……」
そうだよ。僕は君とデートをしている。僕は君のことを――。
などと。
言うわけには、いかないのだ。
つとめて、散る桜の花を眺めるようにしながら、火のついていない煙草をくわえた。
「定義上は、そういうことになると言えるね」
理屈っぽい、大人びたいいわけだった。
燐花は『そうですか』と言って、自分の分のお茶をそそいだ。
「デートのお相手が蘇我島さんで、とても嬉しいです」
「ありがとう。僕も嬉しいよ」
透明なレースカーテンのような、薄布一枚を通したような、隠された、二人の心。
●罰ゲームのせいにして、おねがい
ある勝負事の結果として、『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は『紅戀』酒々井 数多(CL2000149)にどんな要求でもできる権利を獲得した。
なんつっても元気あふれる男子高校生である。
対して数多は自分でも思ってるくらいナイスなバディのガールなので、これはとんでもないことになってしまったぞと身構えたものではあるが。
「センパイ! お弁当、よろしゃしゃーっす!」
後半なんつってんのかわかんないテンションで、お花見にお弁当を手作りすることを要求された。
というわけで。
「作ってきたわよ! ほら!」
鞄にぎっしりお弁当箱を詰めて、桜の舞い散るブルーシートに仁王立ちしてやったのだ。
罰ゲームの、結果として。
重たい魔法瓶のポットを背中に担ぎ、シートに座布団をしき、あれやこれやも配置して、正座の姿勢で深々と頭を下げる男子高校生をご想像頂きたい。
「どうぞ、お座りください先輩! ここが絶好の場所だと思いますんで!」
「……よ、よきにはからえ?」
思ったより礼儀正しく迎えるんだなこの子、と思ったが畳の上で一礼から入るスポーツの申し子である。上下関係には厳しいのかもしれない。もしくは天然である。
「でー、その、お弁当のほうは」
そっと頭を上げる遥。
時代劇の大名にでもなった気分だが、この際だからと数多も堂々とお弁当を広げてみせた。
種類色々のおにぎりにサンドイッチ、あれこれ詰め込んだカットフルーツ、そして今さっき遥が下ろしたブレンドティのポットである。
「これでどうよ!」
「あじゃじゃじゃーっす!」
途中からなにいってんのか分かんないテンションで、遥が地面に額をつけた。
なにもそんなにならんでも。
遥に春が来た。
この世の春が来たのだ。
美人でエロくて強い先輩が、自分のためにお弁当を作ってくれる。これほどの幸福があろうか。
忠犬さながらの姿勢で『待ち』をしてから、数多が『よし』と言ってから手を合わせた。
「よろしくおねがいします!」
そこはいただきますだろと、自分でも思った。
まずはおにぎりである。
種類が沢山あるらしいので、とりま両端にあるやつをそれぞれ手に取った。
半分ぐらい一気に囓る。
「うまい! チーズとおかかだ!」
もうかたほうも一気に囓る。
「うまい! 梅干しと、ま、まめ、えだまめだ!」
びゃーとか言いながら一秒ちょいで食べきると、今度はサンドイッチ。
「うまい! とんかつだ! ツナマヨだー!」
空腹という概念が吹き飛んでいくようだった。
ガッツポーズと共に、次なるサンドイッチとおにぎりへゆくのだ。
遥が忠犬みたいに『お座り』するのを見て、つい『よし!』とか言ってしまったけど……。
「がっつぎすぎじゃないの?」
「うまい! うまいっす!」
「そ、そう」
遥につられるように思わずとったガッツポーズは、遥が肉眼でとらえるまえに解除した。
気づいたら斬られている剣術みたいな動きである。
「うあー、しあわせだー! センパイとふたりでこうしてられるのがたまんなく嬉しいや!」
とか言われたので、数多は身を乗り出した。
「で、でーとじゃないし!」
「えっ、デートなんすか!?」
「でーとじゃないって言ってんでしょ!」
とはいえ現状。
デート以外のなんだというのか。
自分で作ったおにぎりをめっちゃ頬張り、勢いに任せて飲み込んだ。
「こんど! 今度の勝負は勝つんだからね!」
「うっす! 楽しみにしてます! センパイ!」
この子は、なにひとつとして誤魔化さない子だ。
だから、お弁当なんか作ってきたのだろうか?
いや、まさかまさか。
●未来ある私とあなたとして
穏やかにやっている恭司たちや、にぎやかにやっている数多たち。
彼らを横目に『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)はシートに腰を下ろした。
「今回は、ペアの三組でのんびりできそうですね」
「恋人同士は俺たちくらいだろうがな」
あぐらをかいて腕組みする『雷麒麟』天明 両慈(CL2000603)。
こういうことをさらっというなあこの人は、とは思うがこのレベルは日常茶飯事である。照れていても仕方ないが、照れないのも難しい。感情の引力というのは、なかなか大きなものである。
両慈は両慈でよその心配をしているようで、数多や遥を微笑ましく眺めていた。
「あちらも、そう遠くはなさそうだがな」
「どうなんでしょうねえ」
お茶と軽食。それもさりげない程度のものをそっと用意する。
たらふく食べて呑むよりも、やりたいことがあったのだ。
「両慈さん、一局いかがです?」
悠乃が取り出したのはマグネット式の携帯将棋盤だった。
ほう。
と息をつき、手早く駒を並べていく両慈。
この辺りはさすがと言うべきか、十本の指がぞれぞれ意志を持ったかのように駒を選んで適切な場所に引いていく。並び終えるまで僅か一秒ちょっとであった。そのくせ歩兵がビシッと水平に並んでいる。
やや遅れて並べ終え、指し始める。
「悠乃とこういった遊戯をするのは、はじめてかもしれないな」
実直に、しかしかならず相手を受ける形で指していく両慈の手。
何気なく返事を返しながら、しかし恐ろしく素早く相手に絡みつくように指す悠乃の手。
「早指しは、判断力を鍛えるのにいいらしいですね」
ミスを誘って隙を突く悠乃の手はしかし、実直な返しの両慈によって突き崩された。
色々省いて格闘で例えると、相手の重心を崩して寝技に持ち込もうとしたら逆に自分が組み敷かれた状態である。
「では、勝者にはお望みのご褒美を」
「報酬があったとは」
両慈は少しばかり考える仕草をした。
そしてふと思う。悠乃のことである、この対局自体が自分にマウントをとらせるための口実だったのでは?
顔をまじまじと眺める。いつもの穏やかな糸目のままだ。
思い過ごしか。さて。
悠乃は正座のまま、相手の言葉を待っていた。
何を言われるだろうか。さすがに、子供のいる、それもお外でえっちい行為はできないが。というかそういうことを要求する両慈ではないが。
なんかそういう神に愛されてそうで、万が一ということもあるし。
しかもまじまじと見つめてくるし。
なんだろう。どういう意図なんだろう。
平静を保ってみせると、見つめるのをやめて彼はトンと膝を打った。
「そばにいてくれ」
そういう意味の『そば』ではないのは分かっているが。
将棋盤をどけて、二人横並びになってはらはらと散る桜の木を眺めていた。
ぽつりぽつりと、話し始める。
「私の両親、海外で働いているのですが、近いうちに帰国するのです」
「それは、挨拶できる良い機会だな」
両慈は会話の意図をすぐに汲んだようだ。
「どんな方々なんだ?」
「そうですねえ、厳しい人たちです。努力を伴った結果を、自分にも他人にも要求するような」
「立派な方だ」
相づちにしては重いが、ストンとくる言葉だ。
「娘たちが本気で考えて出した答えを、否定したことはないんです」
今度は、相づちはなかった。
黙って肯定する。そんな雰囲気だ。
しかしすぐに口を開いて、悠乃の方を見た。
「かわりにと言ってはなんだが、妹に会ってくれないか。悠乃に会ってみたいというんだ」
『かわりに』の部分に、悠乃は応えなかった。
ただひとこと。
「はい」
とだけ。
桜が散っていく。
春はまだ、始まったばかりだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし

■あとがき■
ゆったりとした、素敵な時間でしたね。
とても繊細な二人組をそれぞれ描くことができて、とっても楽しいリプレイでした。
またのお越しを、心よりお待ちしております。
とても繊細な二人組をそれぞれ描くことができて、とっても楽しいリプレイでした。
またのお越しを、心よりお待ちしております。
