全国地デジ化計画! そびえたて、スカイタワー!
●全国地デジ化計画
中 恭介(nCL2000002)がブリーフィングルームにある人物を呼んだ。
「知っている人もいるだろうが、今回の依頼主だ。紹介しよう」
「皆さん、いつもお世話になっております! ムラキヨです!」
五華カフェやモールでおなじみ、大会社ムラキヨグループの会長ムラキヨがファイヴにどうしてもしておきたい話があるそうだ。
「このたび日本の放送連とお話をしまして、電波妨害から開放されたことをきっかけに全国へ地上デジタル放送を普及させる運動が始まります」
チューナーをお配りしたり、チューナーつきテレビを安くしたりだ。
だが狙いはそれだけじゃあない。
「このチューナーは妖発生の通報ネットワークに連動していて、近くの地域で妖が発生すればご家庭やスマートホンで即座にアラームなどで知ることができたり、逆にワンタッチで通報が可能になったりするのです」
早速電波の力を使って人々の安全を守ろうというわけだ。
ムラキヨはグッと拳を握りしめ、熱いまなざしで語った。
「そこで、日本国内でも妖や悪い発現者を次々とやっつけているファイヴの皆さんのお力を借りたいのです。皆さんと共に作る、『もう一つのねらい』のために!」
もう一つのねらい。
「それは、昨今行なわれている発現者へのネガティブキャンペーンや古妖差別、憤怒者への偏見などへの対抗です。
私も悪い発現者を少なからず見ていますから気持ちは分かりますが、全ての発現者に犯罪者予備軍のレッテルを貼るかのような行為は許せません! いたずらに人々の不安をあおり、悪質な利益を得る行為です!
良くも悪くも正しい姿を見せることで、本当の安心と平和を掴むことができるはず。私はそう確信しているのです!」
そしてムラキヨは、近々建設完了予定の巨大タワーの写真を見せた。
「東京に建設予定の『スカイタワーツリー』。正式名称・東京デジタル電波塔は今回の地デジ化計画の要として建設されています。
皆さんには地デジ化に向けた宣伝大使として開会式に来て頂いて、まずはタワーの観光を楽しんで頂きたいのです」
今後はチャリティーを目的としたテレビ局の開設や、それに伴った番組の組み立てなどが行なわれていく予定だという。
芸能界に興味がある人にも、今回はビッグなチャンスとなるだろう。
「やって頂くのはカメラの前に立って手を振ったり、スカイタワーに作られたレストランで食事をしたりといったことだけですが、ご希望があれば我々も全力で応えていくつもりです。なぜなら私は、皆さんがこの日本を救う鍵になると信じていますから!」
中 恭介(nCL2000002)がブリーフィングルームにある人物を呼んだ。
「知っている人もいるだろうが、今回の依頼主だ。紹介しよう」
「皆さん、いつもお世話になっております! ムラキヨです!」
五華カフェやモールでおなじみ、大会社ムラキヨグループの会長ムラキヨがファイヴにどうしてもしておきたい話があるそうだ。
「このたび日本の放送連とお話をしまして、電波妨害から開放されたことをきっかけに全国へ地上デジタル放送を普及させる運動が始まります」
チューナーをお配りしたり、チューナーつきテレビを安くしたりだ。
だが狙いはそれだけじゃあない。
「このチューナーは妖発生の通報ネットワークに連動していて、近くの地域で妖が発生すればご家庭やスマートホンで即座にアラームなどで知ることができたり、逆にワンタッチで通報が可能になったりするのです」
早速電波の力を使って人々の安全を守ろうというわけだ。
ムラキヨはグッと拳を握りしめ、熱いまなざしで語った。
「そこで、日本国内でも妖や悪い発現者を次々とやっつけているファイヴの皆さんのお力を借りたいのです。皆さんと共に作る、『もう一つのねらい』のために!」
もう一つのねらい。
「それは、昨今行なわれている発現者へのネガティブキャンペーンや古妖差別、憤怒者への偏見などへの対抗です。
私も悪い発現者を少なからず見ていますから気持ちは分かりますが、全ての発現者に犯罪者予備軍のレッテルを貼るかのような行為は許せません! いたずらに人々の不安をあおり、悪質な利益を得る行為です!
良くも悪くも正しい姿を見せることで、本当の安心と平和を掴むことができるはず。私はそう確信しているのです!」
そしてムラキヨは、近々建設完了予定の巨大タワーの写真を見せた。
「東京に建設予定の『スカイタワーツリー』。正式名称・東京デジタル電波塔は今回の地デジ化計画の要として建設されています。
皆さんには地デジ化に向けた宣伝大使として開会式に来て頂いて、まずはタワーの観光を楽しんで頂きたいのです」
今後はチャリティーを目的としたテレビ局の開設や、それに伴った番組の組み立てなどが行なわれていく予定だという。
芸能界に興味がある人にも、今回はビッグなチャンスとなるだろう。
「やって頂くのはカメラの前に立って手を振ったり、スカイタワーに作られたレストランで食事をしたりといったことだけですが、ご希望があれば我々も全力で応えていくつもりです。なぜなら私は、皆さんがこの日本を救う鍵になると信じていますから!」
■シナリオ詳細
■成功条件
1.タワー開会式に参加する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
・テレビの地デジ化運動が始まり、電波発信用のタワーが建設される。
・開会式が開かれるので宣伝大使としてファイヴから数名招きたい。
・観光地としても機能するタワーで食事をしたり展望台を楽しんだりしてほしい。
ということです。
なにげに発現者や古妖に対する偏見にダイレクトアタックを仕掛けたり、芸能デビューのチケットを手にしたり、色々と未来の広いシナリオです。ちょっと難しそうな空気ですが、このシナリオの流れ次第で今後の色々なシナリオの是非が決まりますので、ぜひよろしくお願いします!
●スカイタワーツリー
リアルでいうところのスカイツリーに相当する建物です。なかったからね、いままで。
相当するだけあってレストランやお土産屋、展望台などが入っていて観光地として機能します。
ムラキヨグループはそのメイン出資者で、当然のごとく五華カフェも入っています。なので、もしもの時の近隣住民の避難場所としてちゃんと機能するのですね。
皆さんは開会式に出席してカメラに写っていただくこと。
そしてレストランや展望台などを楽しんで観光成分を味わって頂くこと。
このふたつが依頼のなかでの役目となります。
ただ、他にこういうことがやりたい、こういう運動をおこしたい、こういう主張を世の中にしておきたい、という方が居ましたらプレイングに込めてください。ムラキヨが頑張ってなんとかします。
『自分は覚者の代表なんてガラじゃあないよ!』という方も大多数いらっしゃると思いますが、ムラキヨが皆さんを呼んだ理由がまさにソレなので、堂々と出席してください。
彼いわく、『ごく普通の学生やサラリーマンが戦っている。その理由はとても個人的で多種多様なのだ』ということを世に訴えたいそうです。良くも悪くもみな一般市民ということですね。
【補足説明】
・ムラキヨ
本名シキムラ キヨ。フードチェーンをはじめ様々な分野に活動を広げる事業家。座右の銘は「世界平和を金で買う」。
ファイヴにプロデュースを任せた『五華カフェ』『五華モール』は一般的な憩いの場であると同時に妖災害などでの避難場所やシェルターとして機能する。利益は妖災害などへの復興資金『ファイヴ基金』にあてられている。
タワーの観光利益も多くが『ファイヴ基金』へ当てられる予定。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年04月21日
2017年04月21日
■メイン参加者 6人■
●賛同しないことと知らないことは別なのだ。しかし知らなければ変わらない。
「ご紹介しましょう、ファイヴからいらした皆さんです!」
楽団の演奏に迎えられ、フラッシュのはげしいカメラに晒される。
こんな舞台に立つことのあまりない『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は『きをつけ』の姿勢で斜め上をみるので精一杯だった。
とはいえ、ここには来たのだ。来たい理由があった。
高校生という若さで覚者と非覚者の問題をいくつも目撃して、彼なりに言いたいこともできたのだ。偏見ですごい人が埋もれちゃうのはもったいないだとか、偏見で暴れる人がうっとうしいだとか。けど、なんて言い方をすれば伝わるだろう。
彼なりに、頭をこねくっての『きをつけ』である。
横では『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が穏やかな笑みを浮かべて定期的に手を左右に振っていた。なんか訓練された動きだった。
もっと言えば楠瀬 ことこ(CL2000498)に至っては身体をわずかに斜めに傾けつつ手を小刻みにふり、たまにピタッと止まるなど訓練を重ねた動きをしていた。無数の異なるカメラを向けられ慣れた動きである。
更に言うなら、青と白でビシッとクールに、尚且つポップな色調で整えたコスチュームで背中の羽根を露わにしていた。
本人が意識していたのか、それとも天性の才能なのか、『公的な場所での覚者アイドル』然とした格好と振る舞いである。
とまあ、こんな人たちを横にすると誰でも緊張するもので、『ファイヴ村管理人雇用担当』栗落花 渚(CL2001360)はどんなリアクションをしていいのかといった顔でなんとか手を振ってみるのである。
渚は隣に仲間がいやしないかと、納屋 タヱ子(CL2000019)の横顔を見る。
なんかしゃんとした、背筋に鉄の棒でも入っているのではというほどしっかりした佇まいの女子中学生が、『どうも』とでも言うように小さく頭をさげるだけである。親戚のおじさんに紹介された時とさしてかわらないといったリアクションである。
この子は心臓も鋼で出来ているのだろうか。
一方で『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)はどっか場慣れしていて、スカイタワーツリーを眺めて何か感慨に浸っていた。
その様がなんとも絵になるようで、カメラ写りもたいそうよかったそうだ。
当の灯がなにを思っていたのかと言えば、『このタワーも新たな情報社会の灯台となるんですね』と自分との接点を見いだしたりしていたのだ。それは絵にもなろう。
さておきこんなメンバーで、スカイタワーツリーの式典に出席することとあいなりました。
熾烈な競争を勝ち抜いて『全国主要キー局』の座を勝ち取ったいくつかの報道局は彼らをそれぞれ取材する権利を求めてムラキヨに交渉をはかり、ムラキヨもムラキヨで悪意のありそうな人を秘密裏に蹴落とすというなんか便利なフィルターを通して、それぞれの邪魔にならないように取材を許可したのだった。
では、それぞれのパートを未公開映像も含めてチャンネル別にご覧頂こう。
●空手少年、鹿ノ島遥
「う、うめー! なんだこれ、やべー!」
分厚いステーキをフォークで刺してがぶーっとやる遥。
若い女子アナが笑いをこらえるのを横目に見て、ぴたりと動きを止めた。
「あっ、ごめん。マナーとかなってなかったかな。オレそういうの知らなくて……」
「いえいえ大丈夫ですよ。とっても美味しそうです」
こちらは主要キー局を押さえるためだけに新社屋をお台場におったてた猛者集団である。スター的なタレントを多く排出する番組構成がウリで、ここの番組で一般枠から芸能人になったタレントも少なくない。
当然遥にもそんな原石的な目が向けられてはいたが、そこは天然の遥である。
「すんません! ごっそさんです!」
「こちらはどうですか?」
「ご飯もうまい! 白米やばいな!」
「魚沼産ですからー」
まあとにかくパクパク食べるので、テレビ的には大変喜ばれた。もっと言うと店にも喜ばれた。
ナプキンで口をふきふきして、ジュースをもらう遥。
「それで、遥くんは発現者になってみてどう思われましたか?」
「どうって……普通かな。いい奴もいれば悪い奴もいたし」
「取り締まった方がいいと?」
「暴れたら被害がでっかいから、締めるところは締めたらいいんじゃないかな。けど、普通にしてる奴まで人と仲間はずれにするのは困るし、あんま怖がらないでほしいかな」
意図は決してしていないだろうけれど。
遥の振る舞いそのものが、彼の主張をつよく裏付ける形でお茶の間に流れたことだろう。
●やんごとなき王子、プリンス・オブ・グレイブル
「やあ民のみんな、王子だよ! ヨロシク敬愛してね! 今日はスカイタワーツリーのすぐそばにあるモール、東京スカイマチ的な所に来ているよ!」
実にテレビ的な解説をカメラに向けて行なうプリンス。
カメラ側も実に分かってる感じで、持ち上げ力の強いやや地味目の男性キャスターを据えて『ゲストと一緒に観光するついでにインタビューもしちゃおう』的な番組構成を即座に立ち上げてくれた。
こちらは野球中継や生放送のワイドショーといったアドリブ力の試される番組構成に強い局で、プリンスの『急になんかぶっ込んでくる感じ』にも適切に対応してくれた。
この辺はファイヴ村で勉強していたムラキヨのチョイスである。
「見てくださいよこのケーキ。一口でいけウームェッヴォ!? ゲッフゲフ……フフ、お水ください」
プリンスが急にお店のケーキを吹き出しても急にカメラが上を向いて汚い絵には決してしないという対応力だった。
プリンスもプリンスで、割と自由に動いていいと気づいてからはコロッケ屋のおばちゃんに絡んだりその辺の元気なオバチャンに『アンジェリーナジョリーに似てるって言われない? だよねえ、似てないしね!』といって笑いあうなどやりたい放題だった。
そうやって、子供の多いカフェにやってきた時のこと。
「ところでコレ、触ったことあるかい?」
プリンスがおもむろに機械の左手を晒した。
四十代を超える大人たちはその行為にぎょっとして、人によっては子供をしずかに遠ざけようとすらしたが、子供はその辺ピュアなようでプリンスの手を『ツエー!』とかいってぺたぺた触っていた。
日本逢魔化より後に生まれた世代にとって、別にそう珍しいことではないのだ。
小学校で一人や二人はいるし、戦闘経験を持たない発現者なんて、英語のできない外国人ハーフみたいなもんである。普通とまるでかわらんのだ。
「おもしろいだろ? カチカチなのに暖かいの。でもね、ぶたれたら痛いんだよ。知ってるかい?」
「ケンスケもそうだって言ってた。かゆくなるって」
プリンスは言葉にこそ出さなかったが、覚者や発現者といった言葉によって大きく区分けされる社会に危険を感じていた。
力ある発現者がもてはやされると、必ず反感を買う。そして反感は必ず弱い部分へと向けられるのだ。偏見による被害はいつもそうして生まれている。
「みんなが納得できる言葉作りが必要なんじゃないの? ねえ、アタリマン……」
小さく呟いた彼の言葉は、子供の声に紛れて消えた。
●覚者アイドル、楠瀬ことこ
運ばれてきた巨大なパフェに、ことこは『ふぁー!』という声を出した。
彼女の顔が隠れるほどに高く積み上げられたその名もスカイパフェである。
裏でこっそりサインをあげた隠れファンらしきスタッフがカメラの裏できゃっきゃはしゃいでいる。
ここはスカイタワーの中にある展望カフェ。
正確には『展望パーラー』である。ずっと昔のデパートの最上階にあったパーラーの雰囲気を再現したらしく、定番のレストランメニューに加えてスカイタワーにちなんたパフェなんかを扱っていた。
店の棚に並べられた色とりどりの食品サンプルをさして、しきりに『かわいー!』と声をあげることこ。
局側も色々分かっているようで、ことこのイイ表情や動きをとらえながら店内の様子を撮影していた。
こちらは関東圏内で絶大な信頼を誇る局である。番組企画を通してアイドルも多く輩出し、逢魔化直後あらゆる局がどうかしちゃった中で『見てくださいこの大きなカニ!』とか言ってたことで有名である。
「みんなも食べてみて、可愛くて美味しいよ!」
そんなわけで、ことこちゃんのことはうちに任せて頂こうとムラキヨに社長自ら殴る込んだそうな。なじみの局かな?
「んーっ」
ことこもことこで、パフェを口にふくんで小さな羽根をぷるぷるさせるのも見事なものだ。
そんないい絵をいくつかとってから、ことこは大物芸人と並んでトークの時間に入った。
「普段はアイドルやってるけど、ファイヴの仕事もしてるんだって?」
「うんっ、けどフツーの女の子だよ。能力があるからって、悪い人ともいい人とも限らないでしょ? だから、大事なのはココロだと思うの」
胸に手を当てて、にっこり笑うことこ。
これまでわりと腫れ物めいて扱われていた『覚者アイドル』というジャンルに各事務所が目をつけ始めるには、十分な絵であった。
そしてそれは、ことこが本当に目指そうとしていたものに通ずる道なのだ。
●納屋タヱ子という少女
「見てください」
息を大きく吸い込み、周囲の空気が一瞬きらめいたかと思うと、彼女の身体を覆うように色とりどりの宝石がまとわりついていった。
大鎧というよりは急所を塞ぐ軽装で、しかしテレビ的に言えば豪奢なアクセサリーである。
だが(事前にプロデューサーと話しあったとはいえ)急に見せた超常の能力に周囲はびくりとした。
特に驚きを見せたのはサングラスにスーツ姿のタレントである。長年いろんな人を見てきたが、流石にガチの『武力』を見せられると驚くものだ。
「私が戦う理由は一つです。妖のわるさに悲しんでいる家族、友人、そして町の人々を守りたいからです」
タヱ子の雰囲気はかなり独特なものがあって、最初にムラキヨと話した時にも『差別や平等を訴えるのは違う気がする』と切り出したものである。
なにげにムラキヨが真に言いたかったことを理解していたのが彼女であり、それがあまりポップな番組にはもったいないものだと考えた結果の、国民公共放送局へのオファーであった。
つまるとこ、この番組は日本全国北から南まで全員見ていることになる。特定のスポンサーを持たず、全視聴者からの視聴料でなりたつ最も広くて古いキー局なのだ。電波不能状態にもいちはやく対応して全国でローカルテレビを同時開設した局でもある。
「不便な力ですけど、あってよかったと思います。曇っていた人の晴れ顔が見れるから」
物静かに語るタヱ子に、サングラスのタレントは押でも引くでもない絶妙なバランスで頷いていく。
「映画の主人公みたいなことができるんじゃないかって、思われたりしませんか」
「そう思われることもあります。けど、私たちはどこにでもいて誰にでもなりうる人間なんです。別に、特別じゃあありません」
カメラがスカイタワーを背景に、タヱ子とタレントを写しこむ。ひいていくカメラ。
「この塔から届くいろんなことを、未だ知らない人たちが知っていけたら……良いな、と思います」
●活動家、栗落花渚
ファイヴ村や五華カフェといった様々な公共活動に関わってきた渚が、一部で活動家として報じられていることをご存じだろうか。もっとも活動家という言葉に左派的印象がもたれやすいためそうした言葉は避けられるが、彼女のおこしたいくつもの社会運動はかなり明確な形で世に影響を及ぼしているのだ。
そうと知ってか知らずか、渚は五華カフェ・スカイTT店へと遊びに来ていた。
「まさかこんな中学生が大先輩だなんて知らないよね」
えへへと照れ笑いした直後にサインを求められたことは、流石に良い絵となった。
今なさらながらの、有名人である。少なくとも社員クラスは知っている。
「限定メニューなんかがあったら食べてみたいな」
そう言って出されためっちゃうずたかく盛られたパフェにキャッキャしつつ、渚は五華カフェを楽しんだ。
さて、さらっとだけ紹介するが彼女の取材をしているテレビ局は以前からファイブ村や五華カフェを取材していた局である。新聞社や銀行など複数の企業が連結した親会社からなり、各地に支局を持ついわゆるニュースキー局で知られていた。ついでに言うと日曜朝の特撮番組でも強い局である。
「そうだ、展望台にもいってみたいな。あそこには灯さんがいると思うから」
●灯台守、七海灯
「ここが、日本の未来への標となるのですね」
展望台から遠くを眺める灯。その横顔を、カメラがじっと見つめていた。
元主要キー局であり電波不能状態からこっちインターネットや衛星放送(これは空振りした)など手広くメディアを広げて生き残った局であり、灯とも何度かお仕事のやりとりをした会社である。
厳密には連結したネット広告会社がファイヴ村の広報事務局とお仕事をしたのだが、この対面は間接的にみればなるべくしてなった対面だった。
『今後の放送界はどうなるでしょう』という質問に、灯は外を見つめながら語る。
「情報が手に入りやすくなることで、取捨選択の必要性が生まれると思います。偏った情報も多く出回るでしょうし、惑わされないようにしていただきたい……そう思います」
これまでは『覚者!』とか『憤怒者!』とか『古妖!』とかガッチリした枠組みで皆は見ていたし、これからもそういうことは続くだろうが……。
「膨大な情報によって印象が激しく上下するはずです。ですがなんとなくで拒絶や受入をするのでなく、一緒に知って、考えていきたいんです。発現者も古妖も、同じ日本で暮らす仲間なのですから」
これが一昔前なら、古妖は人権を持たないとかなんとかで拒絶される理由になったが、ファイヴ村という行政特区を通してその問題は一部だが解決しつつある。
と、そこへ。
「灯さん!」
渚がぱたぱたと駆け寄ってきた。
「あっ、丁度渚さんの話をしようと思っていた所ですよ」
灯に言われて、渚はまた照れたような顔をした。
コメントを求められ、灯の横に並ぶ。
「ファイヴ村のことかな。えっとね、古妖のみんなと協力して色々やって、楽しかったよ。最初は何も分からなかったけど、関わっていくうちにいろんなことが分かってきて……一見違う存在でも、仲良くなれる相手もいるんだなって」
「発現者への偏見は、今は仕方の無いことかもしれません。けど彼らが意味不明な脅威ではなく、便利な能力をもった人間だという認識ができればと思います。世の中の助けになる能力がいくつもありますから」
「そうだね。分かってくれるひともいる。だから、私はこれからもみんなを助けるために頑張るよ」
「そうですね。一緒に、やってきましょう」
今都内で最も高いタワー。
そこから見える景色は果てしなく、時として全てが覆われてしまうこともある。
だがきっと、ここから放送される色んなことが、世界を変えていけるだろう。
「ご紹介しましょう、ファイヴからいらした皆さんです!」
楽団の演奏に迎えられ、フラッシュのはげしいカメラに晒される。
こんな舞台に立つことのあまりない『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)は『きをつけ』の姿勢で斜め上をみるので精一杯だった。
とはいえ、ここには来たのだ。来たい理由があった。
高校生という若さで覚者と非覚者の問題をいくつも目撃して、彼なりに言いたいこともできたのだ。偏見ですごい人が埋もれちゃうのはもったいないだとか、偏見で暴れる人がうっとうしいだとか。けど、なんて言い方をすれば伝わるだろう。
彼なりに、頭をこねくっての『きをつけ』である。
横では『アイラブニポン』プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)が穏やかな笑みを浮かべて定期的に手を左右に振っていた。なんか訓練された動きだった。
もっと言えば楠瀬 ことこ(CL2000498)に至っては身体をわずかに斜めに傾けつつ手を小刻みにふり、たまにピタッと止まるなど訓練を重ねた動きをしていた。無数の異なるカメラを向けられ慣れた動きである。
更に言うなら、青と白でビシッとクールに、尚且つポップな色調で整えたコスチュームで背中の羽根を露わにしていた。
本人が意識していたのか、それとも天性の才能なのか、『公的な場所での覚者アイドル』然とした格好と振る舞いである。
とまあ、こんな人たちを横にすると誰でも緊張するもので、『ファイヴ村管理人雇用担当』栗落花 渚(CL2001360)はどんなリアクションをしていいのかといった顔でなんとか手を振ってみるのである。
渚は隣に仲間がいやしないかと、納屋 タヱ子(CL2000019)の横顔を見る。
なんかしゃんとした、背筋に鉄の棒でも入っているのではというほどしっかりした佇まいの女子中学生が、『どうも』とでも言うように小さく頭をさげるだけである。親戚のおじさんに紹介された時とさしてかわらないといったリアクションである。
この子は心臓も鋼で出来ているのだろうか。
一方で『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)はどっか場慣れしていて、スカイタワーツリーを眺めて何か感慨に浸っていた。
その様がなんとも絵になるようで、カメラ写りもたいそうよかったそうだ。
当の灯がなにを思っていたのかと言えば、『このタワーも新たな情報社会の灯台となるんですね』と自分との接点を見いだしたりしていたのだ。それは絵にもなろう。
さておきこんなメンバーで、スカイタワーツリーの式典に出席することとあいなりました。
熾烈な競争を勝ち抜いて『全国主要キー局』の座を勝ち取ったいくつかの報道局は彼らをそれぞれ取材する権利を求めてムラキヨに交渉をはかり、ムラキヨもムラキヨで悪意のありそうな人を秘密裏に蹴落とすというなんか便利なフィルターを通して、それぞれの邪魔にならないように取材を許可したのだった。
では、それぞれのパートを未公開映像も含めてチャンネル別にご覧頂こう。
●空手少年、鹿ノ島遥
「う、うめー! なんだこれ、やべー!」
分厚いステーキをフォークで刺してがぶーっとやる遥。
若い女子アナが笑いをこらえるのを横目に見て、ぴたりと動きを止めた。
「あっ、ごめん。マナーとかなってなかったかな。オレそういうの知らなくて……」
「いえいえ大丈夫ですよ。とっても美味しそうです」
こちらは主要キー局を押さえるためだけに新社屋をお台場におったてた猛者集団である。スター的なタレントを多く排出する番組構成がウリで、ここの番組で一般枠から芸能人になったタレントも少なくない。
当然遥にもそんな原石的な目が向けられてはいたが、そこは天然の遥である。
「すんません! ごっそさんです!」
「こちらはどうですか?」
「ご飯もうまい! 白米やばいな!」
「魚沼産ですからー」
まあとにかくパクパク食べるので、テレビ的には大変喜ばれた。もっと言うと店にも喜ばれた。
ナプキンで口をふきふきして、ジュースをもらう遥。
「それで、遥くんは発現者になってみてどう思われましたか?」
「どうって……普通かな。いい奴もいれば悪い奴もいたし」
「取り締まった方がいいと?」
「暴れたら被害がでっかいから、締めるところは締めたらいいんじゃないかな。けど、普通にしてる奴まで人と仲間はずれにするのは困るし、あんま怖がらないでほしいかな」
意図は決してしていないだろうけれど。
遥の振る舞いそのものが、彼の主張をつよく裏付ける形でお茶の間に流れたことだろう。
●やんごとなき王子、プリンス・オブ・グレイブル
「やあ民のみんな、王子だよ! ヨロシク敬愛してね! 今日はスカイタワーツリーのすぐそばにあるモール、東京スカイマチ的な所に来ているよ!」
実にテレビ的な解説をカメラに向けて行なうプリンス。
カメラ側も実に分かってる感じで、持ち上げ力の強いやや地味目の男性キャスターを据えて『ゲストと一緒に観光するついでにインタビューもしちゃおう』的な番組構成を即座に立ち上げてくれた。
こちらは野球中継や生放送のワイドショーといったアドリブ力の試される番組構成に強い局で、プリンスの『急になんかぶっ込んでくる感じ』にも適切に対応してくれた。
この辺はファイヴ村で勉強していたムラキヨのチョイスである。
「見てくださいよこのケーキ。一口でいけウームェッヴォ!? ゲッフゲフ……フフ、お水ください」
プリンスが急にお店のケーキを吹き出しても急にカメラが上を向いて汚い絵には決してしないという対応力だった。
プリンスもプリンスで、割と自由に動いていいと気づいてからはコロッケ屋のおばちゃんに絡んだりその辺の元気なオバチャンに『アンジェリーナジョリーに似てるって言われない? だよねえ、似てないしね!』といって笑いあうなどやりたい放題だった。
そうやって、子供の多いカフェにやってきた時のこと。
「ところでコレ、触ったことあるかい?」
プリンスがおもむろに機械の左手を晒した。
四十代を超える大人たちはその行為にぎょっとして、人によっては子供をしずかに遠ざけようとすらしたが、子供はその辺ピュアなようでプリンスの手を『ツエー!』とかいってぺたぺた触っていた。
日本逢魔化より後に生まれた世代にとって、別にそう珍しいことではないのだ。
小学校で一人や二人はいるし、戦闘経験を持たない発現者なんて、英語のできない外国人ハーフみたいなもんである。普通とまるでかわらんのだ。
「おもしろいだろ? カチカチなのに暖かいの。でもね、ぶたれたら痛いんだよ。知ってるかい?」
「ケンスケもそうだって言ってた。かゆくなるって」
プリンスは言葉にこそ出さなかったが、覚者や発現者といった言葉によって大きく区分けされる社会に危険を感じていた。
力ある発現者がもてはやされると、必ず反感を買う。そして反感は必ず弱い部分へと向けられるのだ。偏見による被害はいつもそうして生まれている。
「みんなが納得できる言葉作りが必要なんじゃないの? ねえ、アタリマン……」
小さく呟いた彼の言葉は、子供の声に紛れて消えた。
●覚者アイドル、楠瀬ことこ
運ばれてきた巨大なパフェに、ことこは『ふぁー!』という声を出した。
彼女の顔が隠れるほどに高く積み上げられたその名もスカイパフェである。
裏でこっそりサインをあげた隠れファンらしきスタッフがカメラの裏できゃっきゃはしゃいでいる。
ここはスカイタワーの中にある展望カフェ。
正確には『展望パーラー』である。ずっと昔のデパートの最上階にあったパーラーの雰囲気を再現したらしく、定番のレストランメニューに加えてスカイタワーにちなんたパフェなんかを扱っていた。
店の棚に並べられた色とりどりの食品サンプルをさして、しきりに『かわいー!』と声をあげることこ。
局側も色々分かっているようで、ことこのイイ表情や動きをとらえながら店内の様子を撮影していた。
こちらは関東圏内で絶大な信頼を誇る局である。番組企画を通してアイドルも多く輩出し、逢魔化直後あらゆる局がどうかしちゃった中で『見てくださいこの大きなカニ!』とか言ってたことで有名である。
「みんなも食べてみて、可愛くて美味しいよ!」
そんなわけで、ことこちゃんのことはうちに任せて頂こうとムラキヨに社長自ら殴る込んだそうな。なじみの局かな?
「んーっ」
ことこもことこで、パフェを口にふくんで小さな羽根をぷるぷるさせるのも見事なものだ。
そんないい絵をいくつかとってから、ことこは大物芸人と並んでトークの時間に入った。
「普段はアイドルやってるけど、ファイヴの仕事もしてるんだって?」
「うんっ、けどフツーの女の子だよ。能力があるからって、悪い人ともいい人とも限らないでしょ? だから、大事なのはココロだと思うの」
胸に手を当てて、にっこり笑うことこ。
これまでわりと腫れ物めいて扱われていた『覚者アイドル』というジャンルに各事務所が目をつけ始めるには、十分な絵であった。
そしてそれは、ことこが本当に目指そうとしていたものに通ずる道なのだ。
●納屋タヱ子という少女
「見てください」
息を大きく吸い込み、周囲の空気が一瞬きらめいたかと思うと、彼女の身体を覆うように色とりどりの宝石がまとわりついていった。
大鎧というよりは急所を塞ぐ軽装で、しかしテレビ的に言えば豪奢なアクセサリーである。
だが(事前にプロデューサーと話しあったとはいえ)急に見せた超常の能力に周囲はびくりとした。
特に驚きを見せたのはサングラスにスーツ姿のタレントである。長年いろんな人を見てきたが、流石にガチの『武力』を見せられると驚くものだ。
「私が戦う理由は一つです。妖のわるさに悲しんでいる家族、友人、そして町の人々を守りたいからです」
タヱ子の雰囲気はかなり独特なものがあって、最初にムラキヨと話した時にも『差別や平等を訴えるのは違う気がする』と切り出したものである。
なにげにムラキヨが真に言いたかったことを理解していたのが彼女であり、それがあまりポップな番組にはもったいないものだと考えた結果の、国民公共放送局へのオファーであった。
つまるとこ、この番組は日本全国北から南まで全員見ていることになる。特定のスポンサーを持たず、全視聴者からの視聴料でなりたつ最も広くて古いキー局なのだ。電波不能状態にもいちはやく対応して全国でローカルテレビを同時開設した局でもある。
「不便な力ですけど、あってよかったと思います。曇っていた人の晴れ顔が見れるから」
物静かに語るタヱ子に、サングラスのタレントは押でも引くでもない絶妙なバランスで頷いていく。
「映画の主人公みたいなことができるんじゃないかって、思われたりしませんか」
「そう思われることもあります。けど、私たちはどこにでもいて誰にでもなりうる人間なんです。別に、特別じゃあありません」
カメラがスカイタワーを背景に、タヱ子とタレントを写しこむ。ひいていくカメラ。
「この塔から届くいろんなことを、未だ知らない人たちが知っていけたら……良いな、と思います」
●活動家、栗落花渚
ファイヴ村や五華カフェといった様々な公共活動に関わってきた渚が、一部で活動家として報じられていることをご存じだろうか。もっとも活動家という言葉に左派的印象がもたれやすいためそうした言葉は避けられるが、彼女のおこしたいくつもの社会運動はかなり明確な形で世に影響を及ぼしているのだ。
そうと知ってか知らずか、渚は五華カフェ・スカイTT店へと遊びに来ていた。
「まさかこんな中学生が大先輩だなんて知らないよね」
えへへと照れ笑いした直後にサインを求められたことは、流石に良い絵となった。
今なさらながらの、有名人である。少なくとも社員クラスは知っている。
「限定メニューなんかがあったら食べてみたいな」
そう言って出されためっちゃうずたかく盛られたパフェにキャッキャしつつ、渚は五華カフェを楽しんだ。
さて、さらっとだけ紹介するが彼女の取材をしているテレビ局は以前からファイブ村や五華カフェを取材していた局である。新聞社や銀行など複数の企業が連結した親会社からなり、各地に支局を持ついわゆるニュースキー局で知られていた。ついでに言うと日曜朝の特撮番組でも強い局である。
「そうだ、展望台にもいってみたいな。あそこには灯さんがいると思うから」
●灯台守、七海灯
「ここが、日本の未来への標となるのですね」
展望台から遠くを眺める灯。その横顔を、カメラがじっと見つめていた。
元主要キー局であり電波不能状態からこっちインターネットや衛星放送(これは空振りした)など手広くメディアを広げて生き残った局であり、灯とも何度かお仕事のやりとりをした会社である。
厳密には連結したネット広告会社がファイヴ村の広報事務局とお仕事をしたのだが、この対面は間接的にみればなるべくしてなった対面だった。
『今後の放送界はどうなるでしょう』という質問に、灯は外を見つめながら語る。
「情報が手に入りやすくなることで、取捨選択の必要性が生まれると思います。偏った情報も多く出回るでしょうし、惑わされないようにしていただきたい……そう思います」
これまでは『覚者!』とか『憤怒者!』とか『古妖!』とかガッチリした枠組みで皆は見ていたし、これからもそういうことは続くだろうが……。
「膨大な情報によって印象が激しく上下するはずです。ですがなんとなくで拒絶や受入をするのでなく、一緒に知って、考えていきたいんです。発現者も古妖も、同じ日本で暮らす仲間なのですから」
これが一昔前なら、古妖は人権を持たないとかなんとかで拒絶される理由になったが、ファイヴ村という行政特区を通してその問題は一部だが解決しつつある。
と、そこへ。
「灯さん!」
渚がぱたぱたと駆け寄ってきた。
「あっ、丁度渚さんの話をしようと思っていた所ですよ」
灯に言われて、渚はまた照れたような顔をした。
コメントを求められ、灯の横に並ぶ。
「ファイヴ村のことかな。えっとね、古妖のみんなと協力して色々やって、楽しかったよ。最初は何も分からなかったけど、関わっていくうちにいろんなことが分かってきて……一見違う存在でも、仲良くなれる相手もいるんだなって」
「発現者への偏見は、今は仕方の無いことかもしれません。けど彼らが意味不明な脅威ではなく、便利な能力をもった人間だという認識ができればと思います。世の中の助けになる能力がいくつもありますから」
「そうだね。分かってくれるひともいる。だから、私はこれからもみんなを助けるために頑張るよ」
「そうですね。一緒に、やってきましょう」
今都内で最も高いタワー。
そこから見える景色は果てしなく、時として全てが覆われてしまうこともある。
だがきっと、ここから放送される色んなことが、世界を変えていけるだろう。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし








