≪嘘夢語≫魁! アラタナル!!
●
ここは誤燐市(ごりんし)。
この日本で唯一、隔者の支配が及ばない場所だ。
源素の力が現れて四半世紀。日本は暴力の支配する世界に変わってしまった。山野には妖が跋扈し、街は隔者の支配下に置かれてしまっている。
「はぁっ……はぁっ。ここが、誤燐市?」
そんな中、誤燐市の入り口に1人の少年が傷だらけでやって来た。
彼の名は久方・相馬(nCL2000004)。この世界でごく普通に暮らしていた少年だった。だが、夢見として強力な才能を持った妹が、隔者組織『バクー』に攫われてしまったのだ。
「でも、ここにもいるのか? あいつらと戦ってくれる人なんて……?」
『バクー』の恐ろしさは身に染みて知っている。
それを思い出すと身が震え、足もすくんでしまう。
そして、進むべきか悩んでいるその時だった。
「ヒャッハー! こんな所に居やがったぜ」
「へっへっへ。どのみち、お前を助ける奴なんかいねぇんだよ」
「あ……あぁ……」
現れたのは『バクー』の隔者達だった。天に逆立つようにしたモヒカンヘアーと、仰々しい棘のついた鎧に身を固めている。
「てめぇに利用価値はねぇ。見つけ次第殺していいってことになってるんだ。おとなしくあの世に行きな」
棘のついた棍棒を振り上げる隔者。
だが、その時救いの神は現れた……!
●
「ほほう、どうやら無事に逃げ延びたようだな」
薄暗闇の中で、薄く笑うものの影があった。フードのついたマントを身に着けており、顔は見えず、男か女かも杳として知れない。
「あぁ、どうやら誤燐市の覚者に助けを求めたらしい。ククク、面白いことになりそうだ」
「覚者達もこちらに向かってきているようだ。このバクー・タワーで迎え撃ってやろうではないか」
続いていくつかの影が現れる。続いて現れた連中も、同様にその正体は判然としない。
「そうだな、むしろ計算通りと言うものだ。来るがいい、覚者達。お前たちの力を見せてみろ!」
そういって、フード姿は高らかに笑う。その姿はまるで、覚者達がくることを望んでいるようにすら見えた。
ここは誤燐市(ごりんし)。
この日本で唯一、隔者の支配が及ばない場所だ。
源素の力が現れて四半世紀。日本は暴力の支配する世界に変わってしまった。山野には妖が跋扈し、街は隔者の支配下に置かれてしまっている。
「はぁっ……はぁっ。ここが、誤燐市?」
そんな中、誤燐市の入り口に1人の少年が傷だらけでやって来た。
彼の名は久方・相馬(nCL2000004)。この世界でごく普通に暮らしていた少年だった。だが、夢見として強力な才能を持った妹が、隔者組織『バクー』に攫われてしまったのだ。
「でも、ここにもいるのか? あいつらと戦ってくれる人なんて……?」
『バクー』の恐ろしさは身に染みて知っている。
それを思い出すと身が震え、足もすくんでしまう。
そして、進むべきか悩んでいるその時だった。
「ヒャッハー! こんな所に居やがったぜ」
「へっへっへ。どのみち、お前を助ける奴なんかいねぇんだよ」
「あ……あぁ……」
現れたのは『バクー』の隔者達だった。天に逆立つようにしたモヒカンヘアーと、仰々しい棘のついた鎧に身を固めている。
「てめぇに利用価値はねぇ。見つけ次第殺していいってことになってるんだ。おとなしくあの世に行きな」
棘のついた棍棒を振り上げる隔者。
だが、その時救いの神は現れた……!
●
「ほほう、どうやら無事に逃げ延びたようだな」
薄暗闇の中で、薄く笑うものの影があった。フードのついたマントを身に着けており、顔は見えず、男か女かも杳として知れない。
「あぁ、どうやら誤燐市の覚者に助けを求めたらしい。ククク、面白いことになりそうだ」
「覚者達もこちらに向かってきているようだ。このバクー・タワーで迎え撃ってやろうではないか」
続いていくつかの影が現れる。続いて現れた連中も、同様にその正体は判然としない。
「そうだな、むしろ計算通りと言うものだ。来るがいい、覚者達。お前たちの力を見せてみろ!」
そういって、フード姿は高らかに笑う。その姿はまるで、覚者達がくることを望んでいるようにすら見えた。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.隔者組織『バクー』を倒す
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
一番の小物、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はバトル系少年漫画のノリで1対1のバトルをします。
昔の少年誌のキャラ、バスト100超え沢山ですごい(基本的に男)。
●舞台説明
隔者が台頭して秩序の崩壊した日本です。
少年の妹を救うため、隔者の本拠地に乗り込んでください。
何故か街の外には荒野が広がっていたりします。細かいことは突っ込まない方向でなにとぞ。
プレイングで指定いただければ、ある程度設定を拾います。
●戦場
隔者組織『バクー』の本拠地「バクー・タワー」の中です。無意味に高い塔です。
各フロアに守護者である「ミステリアスエネミーズ」が1人ずついるので、1対1で戦います。
足元が氷の闘場だったり、異常に高い柱の上だったり、硫酸のプールの上に浮いた板の上だったりする場所で戦いますが、基本的にフレーバーです。
プレイングで指定いただければ、希望の戦場になります(あくまでもフレーバーですが)。
なお、OPに出てきたモヒカン達は、依頼参加を表明した皆様に秒殺されるので、相談掲示板で楽しく退治してください。
●ミステリアスエネミーズ
隔者組織『バクー』に所属する隔者達。戦闘時以外はフードのついたマントに身を包んでいるため、正体は分かりません。依頼参加人数と同じだけいます。日本の征服が目的のようです。
主に体術を使ってきて、戦闘力は戦う覚者と同じレベルです。
その正体は依頼に参加した覚者の生き別れの親、生き別れの師、生き別れの兄弟、生き別れの友人、赤の他人等です。
正体はプレイングで指定してください。洗脳されているのか、自分の意志なのか、覚者を試すためなのかはお好みでどうぞ。なお、他のPC様やシナリオに登場したNPC等は指定できません。ご容赦ください。
もちろん、「思いつかなーい」というのでも構いません。その場合、こちらで適宜用意させていただきます。
●特殊ルール
1.相打ち上等
「相打ち上等」と宣言すれば、魂を使用したのと同等の効果が得られます。
その戦いでは獏大人が死亡確認を行って死んだことになりますが、後で何事もなかったかのように生き返ることが出来るのでご安心ください(魂の減少はありません)。
2.応援
他の覚者の技や攻撃の解説を行うと、対象の判定にボーナスが付きます。
また、決め技などにSTからそれっぽい解説が発生する場合があります。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/6
5/6
公開日
2017年04月17日
2017年04月17日
■メイン参加者 5人■

●
(これまでのあらすじ:『勇往邁進エレキガール』焔陰・凛(CL2000119)、『花屋の装甲擲弾兵』田場・義高(CL2001151)、斎・義弘(CL2001487)、『音楽教諭』向日葵・御菓子(CL2000429)、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。彼ら5人の覚者達は、相馬の依頼を受けてバクー・タワーへと向かう旅を続けていた。邪神復活を目論む『教団』との戦い、『七星武闘殺』の激闘、11の死の谷での試練を乗り越えて、彼らはいよいよバクー・タワーへとたどり着くのだった。だが本当の戦い、本当の恐怖はここから始まる……)
●
「おとん!? とうとう悪に堕ちたんか!」
凛はバクー・タワー最初の戦いであるにもかかわらず、普段以上に感情を昂らせていた。
無数の柱が建てられた闘場は炎に包まれており、火行の覚者である彼女が出たのは正しい判断であった。
その場に現れたしがない探偵風の男が、彼女の父親でさえなければ……!
「おかん泣かせんなや、クソ親父!」
怒りを露にする凛に対して、父はへらへら笑って返す。
「あほ、俺は試練や。俺に勝てたら真打くれてやる。かかってこい、凛」
周りは凛を送り出したものかと逡巡する。だが、凛に迷いはなかった。
相手は焔陰流20代目、当然その実力は疑いようもない。であれば、手の内を分かっている彼女が行くというのはそう間違ってはいない。
しかし、その判断が甘かったことはすぐに明らかになる。
「やったろうやないか!」
灼熱化して切りかかる凛は、 柱を駆け上がり、変則的な軌道から鋭い刺突を放つ。
そこから、踊るような動きでの斬撃へと繋ぎ、最後に中伝の秘技『煌焔』で貫いた。
「そないなもんか」
……かに見えた。
普通ならあり得ない、息もつかせぬ連続攻撃を父はあっさりと受け流す。
考えてみれば当然の話だ。
凛が焔陰流を理解するように、父も焔陰流を知る。そして、実力は彼女に勝る。そうなれば、どちらが有利かは言うまでもない。
「あーくそムカつく! 大体連絡もせんと何しとってん。おかんに言い寄ってくる男多数やねんぞ!」
「は! あいつが俺以外の男に心動かす訳ないやろ」
「どっからその自信が出てくんねん、放蕩親父が!」
怒りの言葉を吐いたところで冷静になる凛。
相手の実力は間違いなく上だ。だけど、ここで負けるわけにはいかない。
力も技も負けてはいるが、心でまで負けられない。
「ハァァァァァァァッ!」
飛び掛かる凛の腹に父の刃が刺さり、朱に染まる。
だが、それこそが凛の狙いだった。
零距離から渾身の打撃を打ち込んだ。あまりの衝撃に周囲の柱が倒れていく。
「やったやないか。娘のこない立派な胸で死ねるなら本望や」
「最後までふざけた事いいよって」
全てを炎が包み込んでいく中で、凛は少しだけ父の心が分かったような気がした。
焔陰凛、死亡確認!!
●
凛の死から立ち直る暇もあればこそ。覚者達は塔の2階に歩を進めていた。
そして、巨大な棘がそこかしこから生えている部屋に佇む女を見たとき、義弘の眼の色が変わった。
「……この塔にいるのは分かっていた。俺の両足を奪っていた女!」
その言葉を聞いて覚者達は思い出す。
あの時、義弘は「お前さんもあの塔に用があるのか? 奇遇だな、俺達もだよ」と言っていた。彼がここに来たのは、自分の宿命に決着をつけるためだ。
義弘は力強くメイスを握り締める。
普段の彼のスタイルは、盾で防御を固めながらスパイクを利用した蹴りで攻撃するというものだ。だが、今回はあえて攻勢に回る。
「必ず倒す……。俺の両足を奪っていった、お前をな!」
そして、雄叫びを上げて義弘は戦いに挑んだ。
義弘の脳裏にあの日が浮かぶ。
まだ、彼の因子が発現する前の話だ。
厳つい外見のせいで厄介ごとに巻き込まれることはあったが、それなりに平和な暮らしを送っていた。だが、そこにあの女がやって来た。
その戦いの中で義弘は足を失い、機械の身体を手にすることとなった。
今こそ、借りを返す時だ。
幾度か爆発が飛び交い、戦いは続く。
その中で、義弘は血飛沫を上げてどうと倒れる。
気が急いた、というつもりもない。純粋に女は隔者として強かった。
次第に意識も朦朧としてくる。だが、霞む目は仲間の姿を映す。
そこには自らの胸に「闘」の文字を刻み、無言のエールを送る義高の姿があった。詳しい説明は省くが、これこそ古より伝わる究極の応援「血闘援」だ。
「こんなものを見せられちゃあ、倒れていられないな」
義弘の身体が熱を帯びていく。限界を超えた熱は、己の命を代償として身体能力を向上させる。
「お前を倒す為にここに来たんだ!」
壁からせり出した棘に自分ごと串刺しにする義弘。握ったメイスが爆熱と化す。
「みんな、後は頼む……! この塔を攻略して、世界に平和を!」
そして、闘場を爆発が包み込んだ。
斎義弘、死亡確認!!
●
「みんなには申しわけないけれど……どうあってもここはわたしにまかせてもらいます」
3階でこの言葉が御菓子の口から出たことに、覚者達は驚きを隠せない。彼女は元来、戦いが得意なタイプではないからだ。
にも拘らず、御菓子が戦いの場に立つことを決めた理由は、無数の間欠泉が点在する闘場に立っていた。
「あなたほどの人がなぜここに?」
「答える必要はないわ」
御菓子の問いに答えることなく、立ち塞がる女隔者は蒸気に身を隠しながら殴りかかって来る。
御菓子の知る限りにおいて、相対している彼女は共に音楽を学んだ学友だった。こんなところで、何故戦っているのか。それについて御菓子自身何も言うことは出来ないが、想像もつかない。
戦いとは非情なものだ。
一度戦場に立った時、迷いが生じたのならそれは命を奪う隙になる。そういう意味で、御菓子は『戦士』とは言い切れない。
ぼろぼろになった体を引きずりながら、御菓子は必死に意識を繋ぎ止める。
正直戦いたくはない。
だけど、自分にだって負けられない理由がある。
「最後の最後まであきらめちゃだめ! わたしの後ろには守りたい仲間がいるのよ」
御菓子の後ろでラーメンをすすりながら、凛がエールを送っている。
のんびり観戦、とも言うが。
さっき死んでたような気もするが、気にしてはいけない。
ともあれ、仲間たちの姿に覚悟を決める。
「見せてあげるわ! 音楽教師向日葵御菓子の死にざまを!!」
持ち前の音感で間欠泉の噴き出す瞬間を見切りながら、御菓子は歌を謳い上げる。
普段なら仲間に力を与えるための歌をあえて攻撃のために使う。
(こ、今度生まれてくる時も……みんなと一緒に……)
音の雨が嵐となり、闘場を包み込む。
そして、音が消え去った時、そこに御菓子の姿はなかった。
向日葵御菓子、死亡確認!!
●
塔の4階で行われる戦いは熾烈なものだった。
轟っと炎が渦巻く中で、ラーラは自分の対存在ともいえるサーラ・クアトロッキと戦う。
世界に3人は自分に似た人がいるという。遺伝学的にも十分にあり得ることだと言われているが、ラーラにとってそういう次元でなく、他人には思えなかった。
差は魔術を修めているか、体術を修めているか、位だ。
巧みなナイフ捌きでラーラは逃げ道を封じられ、体中に生傷が増えていく。
とにかく近づかれては不利になる一方だ。
ラーラは炎の塊を連続で撃ち出す。一瞬、サーラの視界が塞がった。その機を逃さずにラーラは距離を取った。
ようやく一息ついた、というところでラーラは相手について推測を口にした。
「その動き……おじいちゃんに聞いたことがあります」
今は黒髪青眼となっているサーラだが、おそらくは自分と同じ前世持ち。
ナイフを使った体術を用いて、速度とで圧倒してくる危険な相手だ。
「シチリア島のナイフ術……そう、サン・ミケーレ。ミカエルの加護はあなたにもあるってことでしょうか?」
皮肉なものですね、とラーラは付け加える。
サン・ミケーレは伝統的なサーベルの技術から生まれた技である。そして、火や菓子職人を守護する天使に名前の由来がある。
魔女ベファーナの生まれ変わりが誕生すると言われた家系にいる自分とは、いやになるほど縁のある相手だ。
そして、自分自身のためにも乗り越えていかなくてはいけない相手だ。
「埒が明きません。このまま戦えば体力のある相手方が有利ですし……そもそも、保身を考えて勝てる相手じゃなさそうです」
そう、これはラーラ自身の戦いだ。
煌炎の書は普段固く封印が為されており、資格を持つ者しか外すことは出来ない。
その封印がぱきっと小さな音を立てて壊れる。
一部の解放ではない。全ての解放だ。英霊の力は極限まで引き出され、周囲の炎すら取り込みラーラの魔力は際限なく増加していく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラ・ビスコッティ、死亡確認!!
●
「いよいよ俺の番か」
そう言って義高は池の上に浮かんだ足場に降り立つ。
ここは塔の最上階。そして、彼は最後に残った覚者だ。
今までの闘場に比べれば安全に見えるが、そんなことはない。池に満たされているのは濃硫酸。足場もいずれ消えてなくなる。塔の中で最も危険な戦場と言っていいだろう。
対する相手は、そんな足場の1つの上にいた。
それでも義高に恐れはない。勇ましく戦った仲間たちに恥じない戦いをするだけだ。
「これからお互いの死命をかけようってんだ、顔を見せねぇのは失礼じゃねぇか?」
義高の言葉に相手は無言でフードを外す。
「な……!?」
すると、そこには義高の妻、センカの顔があった。
戦いは予想以上に苦戦を強いられることとなる。
妻が使ってくるのはバイキング流戦闘術。このような不安定な足場での戦い方を得意とするものだ。次から次へと足場を変えて攻撃を仕掛けてくる。油断しているつもりもないが、その自由闊達な攻撃の前に、義高は防戦一方だ。
なお余談になるが、この戦闘技法の種類が豊富で選択の幅が広いことが、現代のバイキング料理の語源になったのは言うまでもないことである。
「この程度かしら? だとしたら、あなたはこの戦いの意味を知ることなく死ぬことになるわ」
冷酷な声音で妻は告げる。
演技しているようなわざとらしい口調に義高は違和感を覚える。彼女は何か別に考えがあるのかもしれない。愛する相手だ。その位のことは分かるつもりである。そして、もしもこの戦いが目の前の勝利以上に大きな意味を持つのであれば、ここで負けるわけにはいかない。
義高の腹に斧が叩き込まれる。通常であれば命に係わる一撃だ。
だが、逆にそれに勝機を見出す。
「ウォォォォォォォッ!」
義高が腹筋に力を込めると、そのまま刺さった斧は動かなくなる。
そこでゆっくり義高は愛用の斧を振り上げる。
「愛を誓い合ったんだ、最後はともに眠ろうじゃないか」
妻が何を考えて隔者として立ち塞がっているのかは分からない。だが、戦いの中に言葉は不要だ。
だが、妻は自分を愛しているからこそ戦いを挑んできたのだと分かった。それだけで十分だ。
「おまえもまさしく強敵だった!! 今はともに休むといい」
義高の放った一撃は塔もろとも、戦場を打ち砕く。
そして、全ては闇の中に包まれた。
戦いは終わったのだ。
田場義高、死亡確認!!
●
「それにしても、なんで復活しちゃうんだろうな」
崩れた塔のがれきの中で、義弘は苦笑を浮かべる。
そう、戦いの中で散ったように見えた覚者達は、誰も死んでいなかった。どうやら、この戦いを裏で演出していたものが彼らの命を救ったということなのだろう。
途中で死んだ人が再登場したのは、技をかけられている人が技の解説する的なアレである。まぁ、夢なので。
閑話休題。
そんなところで、義高ががれきをかき分けて姿を現す。
そして、無事な仲間たちの姿を見てにやりと笑った。
「帰ろうぜ、俺たちの街に。次の戦いが俺たちを待っている!」
まだまだ、覚者達の戦いは始まったばかりだ!
~~未完~~
(これまでのあらすじ:『勇往邁進エレキガール』焔陰・凛(CL2000119)、『花屋の装甲擲弾兵』田場・義高(CL2001151)、斎・義弘(CL2001487)、『音楽教諭』向日葵・御菓子(CL2000429)、『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)。彼ら5人の覚者達は、相馬の依頼を受けてバクー・タワーへと向かう旅を続けていた。邪神復活を目論む『教団』との戦い、『七星武闘殺』の激闘、11の死の谷での試練を乗り越えて、彼らはいよいよバクー・タワーへとたどり着くのだった。だが本当の戦い、本当の恐怖はここから始まる……)
●
「おとん!? とうとう悪に堕ちたんか!」
凛はバクー・タワー最初の戦いであるにもかかわらず、普段以上に感情を昂らせていた。
無数の柱が建てられた闘場は炎に包まれており、火行の覚者である彼女が出たのは正しい判断であった。
その場に現れたしがない探偵風の男が、彼女の父親でさえなければ……!
「おかん泣かせんなや、クソ親父!」
怒りを露にする凛に対して、父はへらへら笑って返す。
「あほ、俺は試練や。俺に勝てたら真打くれてやる。かかってこい、凛」
周りは凛を送り出したものかと逡巡する。だが、凛に迷いはなかった。
相手は焔陰流20代目、当然その実力は疑いようもない。であれば、手の内を分かっている彼女が行くというのはそう間違ってはいない。
しかし、その判断が甘かったことはすぐに明らかになる。
「やったろうやないか!」
灼熱化して切りかかる凛は、 柱を駆け上がり、変則的な軌道から鋭い刺突を放つ。
そこから、踊るような動きでの斬撃へと繋ぎ、最後に中伝の秘技『煌焔』で貫いた。
「そないなもんか」
……かに見えた。
普通ならあり得ない、息もつかせぬ連続攻撃を父はあっさりと受け流す。
考えてみれば当然の話だ。
凛が焔陰流を理解するように、父も焔陰流を知る。そして、実力は彼女に勝る。そうなれば、どちらが有利かは言うまでもない。
「あーくそムカつく! 大体連絡もせんと何しとってん。おかんに言い寄ってくる男多数やねんぞ!」
「は! あいつが俺以外の男に心動かす訳ないやろ」
「どっからその自信が出てくんねん、放蕩親父が!」
怒りの言葉を吐いたところで冷静になる凛。
相手の実力は間違いなく上だ。だけど、ここで負けるわけにはいかない。
力も技も負けてはいるが、心でまで負けられない。
「ハァァァァァァァッ!」
飛び掛かる凛の腹に父の刃が刺さり、朱に染まる。
だが、それこそが凛の狙いだった。
零距離から渾身の打撃を打ち込んだ。あまりの衝撃に周囲の柱が倒れていく。
「やったやないか。娘のこない立派な胸で死ねるなら本望や」
「最後までふざけた事いいよって」
全てを炎が包み込んでいく中で、凛は少しだけ父の心が分かったような気がした。
焔陰凛、死亡確認!!
●
凛の死から立ち直る暇もあればこそ。覚者達は塔の2階に歩を進めていた。
そして、巨大な棘がそこかしこから生えている部屋に佇む女を見たとき、義弘の眼の色が変わった。
「……この塔にいるのは分かっていた。俺の両足を奪っていた女!」
その言葉を聞いて覚者達は思い出す。
あの時、義弘は「お前さんもあの塔に用があるのか? 奇遇だな、俺達もだよ」と言っていた。彼がここに来たのは、自分の宿命に決着をつけるためだ。
義弘は力強くメイスを握り締める。
普段の彼のスタイルは、盾で防御を固めながらスパイクを利用した蹴りで攻撃するというものだ。だが、今回はあえて攻勢に回る。
「必ず倒す……。俺の両足を奪っていった、お前をな!」
そして、雄叫びを上げて義弘は戦いに挑んだ。
義弘の脳裏にあの日が浮かぶ。
まだ、彼の因子が発現する前の話だ。
厳つい外見のせいで厄介ごとに巻き込まれることはあったが、それなりに平和な暮らしを送っていた。だが、そこにあの女がやって来た。
その戦いの中で義弘は足を失い、機械の身体を手にすることとなった。
今こそ、借りを返す時だ。
幾度か爆発が飛び交い、戦いは続く。
その中で、義弘は血飛沫を上げてどうと倒れる。
気が急いた、というつもりもない。純粋に女は隔者として強かった。
次第に意識も朦朧としてくる。だが、霞む目は仲間の姿を映す。
そこには自らの胸に「闘」の文字を刻み、無言のエールを送る義高の姿があった。詳しい説明は省くが、これこそ古より伝わる究極の応援「血闘援」だ。
「こんなものを見せられちゃあ、倒れていられないな」
義弘の身体が熱を帯びていく。限界を超えた熱は、己の命を代償として身体能力を向上させる。
「お前を倒す為にここに来たんだ!」
壁からせり出した棘に自分ごと串刺しにする義弘。握ったメイスが爆熱と化す。
「みんな、後は頼む……! この塔を攻略して、世界に平和を!」
そして、闘場を爆発が包み込んだ。
斎義弘、死亡確認!!
●
「みんなには申しわけないけれど……どうあってもここはわたしにまかせてもらいます」
3階でこの言葉が御菓子の口から出たことに、覚者達は驚きを隠せない。彼女は元来、戦いが得意なタイプではないからだ。
にも拘らず、御菓子が戦いの場に立つことを決めた理由は、無数の間欠泉が点在する闘場に立っていた。
「あなたほどの人がなぜここに?」
「答える必要はないわ」
御菓子の問いに答えることなく、立ち塞がる女隔者は蒸気に身を隠しながら殴りかかって来る。
御菓子の知る限りにおいて、相対している彼女は共に音楽を学んだ学友だった。こんなところで、何故戦っているのか。それについて御菓子自身何も言うことは出来ないが、想像もつかない。
戦いとは非情なものだ。
一度戦場に立った時、迷いが生じたのならそれは命を奪う隙になる。そういう意味で、御菓子は『戦士』とは言い切れない。
ぼろぼろになった体を引きずりながら、御菓子は必死に意識を繋ぎ止める。
正直戦いたくはない。
だけど、自分にだって負けられない理由がある。
「最後の最後まであきらめちゃだめ! わたしの後ろには守りたい仲間がいるのよ」
御菓子の後ろでラーメンをすすりながら、凛がエールを送っている。
のんびり観戦、とも言うが。
さっき死んでたような気もするが、気にしてはいけない。
ともあれ、仲間たちの姿に覚悟を決める。
「見せてあげるわ! 音楽教師向日葵御菓子の死にざまを!!」
持ち前の音感で間欠泉の噴き出す瞬間を見切りながら、御菓子は歌を謳い上げる。
普段なら仲間に力を与えるための歌をあえて攻撃のために使う。
(こ、今度生まれてくる時も……みんなと一緒に……)
音の雨が嵐となり、闘場を包み込む。
そして、音が消え去った時、そこに御菓子の姿はなかった。
向日葵御菓子、死亡確認!!
●
塔の4階で行われる戦いは熾烈なものだった。
轟っと炎が渦巻く中で、ラーラは自分の対存在ともいえるサーラ・クアトロッキと戦う。
世界に3人は自分に似た人がいるという。遺伝学的にも十分にあり得ることだと言われているが、ラーラにとってそういう次元でなく、他人には思えなかった。
差は魔術を修めているか、体術を修めているか、位だ。
巧みなナイフ捌きでラーラは逃げ道を封じられ、体中に生傷が増えていく。
とにかく近づかれては不利になる一方だ。
ラーラは炎の塊を連続で撃ち出す。一瞬、サーラの視界が塞がった。その機を逃さずにラーラは距離を取った。
ようやく一息ついた、というところでラーラは相手について推測を口にした。
「その動き……おじいちゃんに聞いたことがあります」
今は黒髪青眼となっているサーラだが、おそらくは自分と同じ前世持ち。
ナイフを使った体術を用いて、速度とで圧倒してくる危険な相手だ。
「シチリア島のナイフ術……そう、サン・ミケーレ。ミカエルの加護はあなたにもあるってことでしょうか?」
皮肉なものですね、とラーラは付け加える。
サン・ミケーレは伝統的なサーベルの技術から生まれた技である。そして、火や菓子職人を守護する天使に名前の由来がある。
魔女ベファーナの生まれ変わりが誕生すると言われた家系にいる自分とは、いやになるほど縁のある相手だ。
そして、自分自身のためにも乗り越えていかなくてはいけない相手だ。
「埒が明きません。このまま戦えば体力のある相手方が有利ですし……そもそも、保身を考えて勝てる相手じゃなさそうです」
そう、これはラーラ自身の戦いだ。
煌炎の書は普段固く封印が為されており、資格を持つ者しか外すことは出来ない。
その封印がぱきっと小さな音を立てて壊れる。
一部の解放ではない。全ての解放だ。英霊の力は極限まで引き出され、周囲の炎すら取り込みラーラの魔力は際限なく増加していく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
ラーラ・ビスコッティ、死亡確認!!
●
「いよいよ俺の番か」
そう言って義高は池の上に浮かんだ足場に降り立つ。
ここは塔の最上階。そして、彼は最後に残った覚者だ。
今までの闘場に比べれば安全に見えるが、そんなことはない。池に満たされているのは濃硫酸。足場もいずれ消えてなくなる。塔の中で最も危険な戦場と言っていいだろう。
対する相手は、そんな足場の1つの上にいた。
それでも義高に恐れはない。勇ましく戦った仲間たちに恥じない戦いをするだけだ。
「これからお互いの死命をかけようってんだ、顔を見せねぇのは失礼じゃねぇか?」
義高の言葉に相手は無言でフードを外す。
「な……!?」
すると、そこには義高の妻、センカの顔があった。
戦いは予想以上に苦戦を強いられることとなる。
妻が使ってくるのはバイキング流戦闘術。このような不安定な足場での戦い方を得意とするものだ。次から次へと足場を変えて攻撃を仕掛けてくる。油断しているつもりもないが、その自由闊達な攻撃の前に、義高は防戦一方だ。
なお余談になるが、この戦闘技法の種類が豊富で選択の幅が広いことが、現代のバイキング料理の語源になったのは言うまでもないことである。
「この程度かしら? だとしたら、あなたはこの戦いの意味を知ることなく死ぬことになるわ」
冷酷な声音で妻は告げる。
演技しているようなわざとらしい口調に義高は違和感を覚える。彼女は何か別に考えがあるのかもしれない。愛する相手だ。その位のことは分かるつもりである。そして、もしもこの戦いが目の前の勝利以上に大きな意味を持つのであれば、ここで負けるわけにはいかない。
義高の腹に斧が叩き込まれる。通常であれば命に係わる一撃だ。
だが、逆にそれに勝機を見出す。
「ウォォォォォォォッ!」
義高が腹筋に力を込めると、そのまま刺さった斧は動かなくなる。
そこでゆっくり義高は愛用の斧を振り上げる。
「愛を誓い合ったんだ、最後はともに眠ろうじゃないか」
妻が何を考えて隔者として立ち塞がっているのかは分からない。だが、戦いの中に言葉は不要だ。
だが、妻は自分を愛しているからこそ戦いを挑んできたのだと分かった。それだけで十分だ。
「おまえもまさしく強敵だった!! 今はともに休むといい」
義高の放った一撃は塔もろとも、戦場を打ち砕く。
そして、全ては闇の中に包まれた。
戦いは終わったのだ。
田場義高、死亡確認!!
●
「それにしても、なんで復活しちゃうんだろうな」
崩れた塔のがれきの中で、義弘は苦笑を浮かべる。
そう、戦いの中で散ったように見えた覚者達は、誰も死んでいなかった。どうやら、この戦いを裏で演出していたものが彼らの命を救ったということなのだろう。
途中で死んだ人が再登場したのは、技をかけられている人が技の解説する的なアレである。まぁ、夢なので。
閑話休題。
そんなところで、義高ががれきをかき分けて姿を現す。
そして、無事な仲間たちの姿を見てにやりと笑った。
「帰ろうぜ、俺たちの街に。次の戦いが俺たちを待っている!」
まだまだ、覚者達の戦いは始まったばかりだ!
~~未完~~
