≪嘘夢語≫セカイ、ホウカイス。クリカエス……
●
「緊急速報です。巨大隕石が地球に接近しています。繰返します――」
「衝突の可能性が高く……」
「この規模では、地球は壊滅すると――」
「人類は滅亡」
「生き残れる可能性は……」
テレビやラジオでそう騒がれてから、もう何日が経っただろう。
混乱し、絶望に打ちひしがれた人々は、地球滅亡を明日に控えていた――。
こんなに青い、空のなのに。
この世界が終わる……なんて。
『明日』滅亡する、この世界で。
あなたはどう、『今日』を過ごすのか――。
●
宮下 刹那は妹の永久を連れ、ひと気のない遊園地へと来ていた。
「お兄ちゃん、私、お弁当作ってきたら良かったかなぁ」
あたかも『作れる人』のように言った妹に、刹那は「ここは笑う処か?」と返す。
「もう! ヒドイ! 作れるようになっても、お兄ちゃんには作ってあげないんだから!」
「作れるようになっても、か……」
ここも笑う――と言いかけて、やめた。
「あぁー、最後に観覧車、乗りたかったなぁ」
溜め息と共にそう零した永久の背後から、突然声が返る。
「乗るかい?」
驚いて、2人で振り返って。笑顔の男を見つめた。
「家に居ても、やる事がなくってね。お客さんの役に立ちたくて」
――明日滅亡するって日に、仕事しに来たんだ。
「ちょっと待ってね。すぐ動かすから」
係員の男の言葉に、2人顔を見合わせ笑った。
●
「天におられる我等が父よ……私達の罪を、どうかお許し下さい」
小さな教会で膝を折る男は、胸の前で指を組む。
「私は、戻って参りました。あなたの許に。――どうか最後の日、私に糧をお与え下さい」
ルファ・L・フェイクスは祈りを終えると立ち上がり、光り注ぐステンドグラスを見上げた。
「今日、この日に。告解なさる方はおいでになるでしょうか。それか、神の御前で祝福され、愛を誓う方は……」
――のんびりと、お待ちしましょうか。
眩しさに目を細め、ルファは教会の扉を開け放った。
●
吹いた風に髪を押さえ、津ノ森神社の権宮司・篠宮貴裕は境内を掃いていた箒を止める。
いつも通り本殿と境内の清掃を済ませると、貴裕の足は鎮守の森へと向かった。
「僕ももうすぐ、あなたの傍に向かう事になりそうですよ――静祢さん」
風に揺れる葉の音を暫く聞いて、貴裕はユルリ踵を返す。
「ああ、そうだ。珠樹のあの場所に行って、祝詞を奏上してあげようか」
……君の傍にも行くからね。
そっと、呟いて。
貴裕は鎮守の森を歩き出した。
●
相沢悟は、五麟学園のグラウンドで青い空を見上げる。
「お父さんとお母さんにも電話したし、学校は休みになったし……」
ドシャッ、と。後ろに倒れこんで、砂埃をあげた。
「今日は何して、過ごそうかなー」
「緊急速報です。巨大隕石が地球に接近しています。繰返します――」
「衝突の可能性が高く……」
「この規模では、地球は壊滅すると――」
「人類は滅亡」
「生き残れる可能性は……」
テレビやラジオでそう騒がれてから、もう何日が経っただろう。
混乱し、絶望に打ちひしがれた人々は、地球滅亡を明日に控えていた――。
こんなに青い、空のなのに。
この世界が終わる……なんて。
『明日』滅亡する、この世界で。
あなたはどう、『今日』を過ごすのか――。
●
宮下 刹那は妹の永久を連れ、ひと気のない遊園地へと来ていた。
「お兄ちゃん、私、お弁当作ってきたら良かったかなぁ」
あたかも『作れる人』のように言った妹に、刹那は「ここは笑う処か?」と返す。
「もう! ヒドイ! 作れるようになっても、お兄ちゃんには作ってあげないんだから!」
「作れるようになっても、か……」
ここも笑う――と言いかけて、やめた。
「あぁー、最後に観覧車、乗りたかったなぁ」
溜め息と共にそう零した永久の背後から、突然声が返る。
「乗るかい?」
驚いて、2人で振り返って。笑顔の男を見つめた。
「家に居ても、やる事がなくってね。お客さんの役に立ちたくて」
――明日滅亡するって日に、仕事しに来たんだ。
「ちょっと待ってね。すぐ動かすから」
係員の男の言葉に、2人顔を見合わせ笑った。
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「天におられる我等が父よ……私達の罪を、どうかお許し下さい」
小さな教会で膝を折る男は、胸の前で指を組む。
「私は、戻って参りました。あなたの許に。――どうか最後の日、私に糧をお与え下さい」
ルファ・L・フェイクスは祈りを終えると立ち上がり、光り注ぐステンドグラスを見上げた。
「今日、この日に。告解なさる方はおいでになるでしょうか。それか、神の御前で祝福され、愛を誓う方は……」
――のんびりと、お待ちしましょうか。
眩しさに目を細め、ルファは教会の扉を開け放った。
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吹いた風に髪を押さえ、津ノ森神社の権宮司・篠宮貴裕は境内を掃いていた箒を止める。
いつも通り本殿と境内の清掃を済ませると、貴裕の足は鎮守の森へと向かった。
「僕ももうすぐ、あなたの傍に向かう事になりそうですよ――静祢さん」
風に揺れる葉の音を暫く聞いて、貴裕はユルリ踵を返す。
「ああ、そうだ。珠樹のあの場所に行って、祝詞を奏上してあげようか」
……君の傍にも行くからね。
そっと、呟いて。
貴裕は鎮守の森を歩き出した。
●
相沢悟は、五麟学園のグラウンドで青い空を見上げる。
「お父さんとお母さんにも電話したし、学校は休みになったし……」
ドシャッ、と。後ろに倒れこんで、砂埃をあげた。
「今日は何して、過ごそうかなー」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.夢の世界を楽しむ!
2.世界滅亡の前日という設定を活かす!
3.なし
2.世界滅亡の前日という設定を活かす!
3.なし
今回は「エイプリルフール依頼」です。
夢の中で、皆様は地球が滅亡する『前日』にいます。
夢の中ではありますが、皆様は「夢の中」とは知りません。
皆様にとっては、明日滅亡する世界が『現実の場所』となります。
さて。明日滅亡する世界。
その前日に、皆様が行きたい場所は何処でしょう?
そして、最後に共に過ごしたい相手は?
騒ぎますか?
静かに過ごしますか?
誰かを想いながら?
誰かと共に過ごしながら?
どうぞ心置きなく、大切な日をお過ごし下さい。
■エイプリルフール依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると夢の世界で盛大な嘘を思いっきり楽しんじゃえ!です。
■イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の33%です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『御崎 衣緒(nCL2000001)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
■持ち込み品について
今回は夢の中ですので、自身の所持していないアイテムも持ち込む事が可能です。
■名前・描写について
基本的には、参加者のみの描写となります。
想いを巡らせる場合など、どうしても参加者以外のお名前を出して欲しい場合は、『EXプレイング』にて相手に了解を得ている事をご記入下さい。
了解を得ている旨が書かれていない場合や、マスタリング判定の結果で等、描写出来ない場合もございます。
ご了承下さいませ。
■場所
OPに出てきた場所以外にも好きな場所に行って頂けます(ほとんどの場所は、人はいませんが従業員達は居ます)
※過ごす場所は一ヶ所に絞るようにお願い致します。
■NPC
●ルファ・L・フェイクス。
本来は兵庫県の南東部・西宮市郊外にある小さな教会の司祭。現在は隔者組織『死の導師』の一員。
夢の中では、教会に戻っています。
『告解(懺悔)』や教会での『挙式』をなさりたい方は、お越し下さい。
(ルファと話をするだけに選んで頂く事も可能ですが、『死の導師』の事などの情報収集は出来ません)
●宮下 刹那
妹の永久と共に遊園地にいます。
遊園地は、OPに登場した係員の他にも出勤してきている者が幾人もいますので、乗り物なども問題なく動いています。
●篠宮貴裕
津ノ森神社の権宮司(神社の副代表)。
普段と同じ1日を過ごし、津ノ森神社にいます。
神社で神前式の挙式をあげたい方、おみくじを引きたい方などは、お越し下さい。
●相沢 悟
今日は何をしようか考え中。お声かけあれば、喜んでご一緒させて頂きます。
以上です。
それでは、皆様とご縁があります事、楽しみにしております。
ぜひ良き夢となりますように。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
金:0枚 銀:0枚 銅:1枚
相談日数
10日
10日
参加費
50LP
50LP
参加人数
8/∞
8/∞
公開日
2017年04月22日
2017年04月22日
■メイン参加者 8人■

●
「おはようございます、ペスカ」
世界が崩壊する前日。
ラーラ・ビスコッティは、嬉しそうに揺れたペスカのピンク色のリボンを整えてから、朝食をとった。
大好きな本の、読みかけのページ。
焼いた焼き菓子の、いい匂い。
午後にはペスカと、ティータイムを。
「実感がないんです。私」
そう呟いて、電話を取った。
「ほんとはイタリアで家族と過ごしたいですけど、電話で我慢します」
こんな日にしたのは、取り留めのない話。
けれどもそれが、力をくれた。
立ち上がって、上着を羽織って。
「いきますよ、ペスカ。最期の瞬間まで意地汚くがんばるんです」
大人しく終わりを待てない者達が、きっと居るから。
扉を開ければ、眩しい光が射し込んだ。
●
「明日……ですか」
それはまたずいぶんな、と思いながらも、勒・一二三は落ち着いたもの。
「妖が相手ならともかく、巨大隕石ではどうしようもありませんからねえ」
ジタバタして、運命を弄ぶイジワルな誰かさんを喜ばせる気もない。
「ねえ、ミトス?」
ふふっと笑って、社務所へと向かった。
家族全員が、檀家さんへの配慮を忘れない。
不安になり社務所にかかってくる電話、訪ねてくる人達に、温かく対応した。
少し落ち着けば、縁側に座る。
両手で湯呑を持って、はらはらと散る花弁を見上げた。
青空には、刻々と大きくなってゆく隕石。
「桜とともに散るのも一興」
穏やかな気持ちで、そう思う。
そして。
もしも世界線の異なる僕が居るのなら。
――どうか貴方の世界に平和が訪れますように。
●
環 大和は自宅の日本家屋、その縁側に座り、庭木を眺めていた。
「小鳥が楽しそうに松の木で遊んでいるわ」
目を細め、父へと話しかけた。
「こんなにも穏やかなのに、明日でこの世界が崩壊してしまうなんて信じられないわ」
――特別な力があっても、皆と力を合わせたとしても。
「巨大隕石には対抗できないなんて。わたし達人間は、宇宙からみると本当にちっぽけな存在なのね」
父が発した問いに、ゆるり空を見上げる。
「そうね、友達や仲間も大切だけれども。やっぱり最後は家族じゃないかしら? お母さんが入れてくれたお茶を、お父さんとこうして頂く時間が何よりも大切な時間よ」
夕飯は、母と腕を振るうから――。
「楽しみにしていてね?」
空になった湯呑を2つ盆に乗せ、父へと微笑んだ。
●
いつも通りの時間に起きて朝ご飯を食べた離宮院・太郎丸は、学園へと登校する。
ガランとした教室は、いつもより広く見えた。
掃除用具入れから箒を出して、床を掃き始める。
「これまでお世話になった教室です」
感謝を込めて、丁寧に掃除していった。
1人で掃除をしていれば、色々な事が心に浮かぶ。
(心残りはないといえばうそになりますが……。それでも明日、本当にそうなるかは誰にもわからない)
――だけど。
窓を開けて。風と共に舞い込んだ薄ピンクの花弁を視線が追った。
(少しだけ、いつもと違う事をするのであれば……。あの人と一緒に過ごしたかったかもしれないですね)
最後くらい。わがままを言っても、あの人ならきっと――。
●
日課のトレーニングを終えた栗落花 渚は、夢を叶えるため頑張り始めた勉強にも精を出す。
今日だって、どんな時だって、サボッたりしない。
それは色々あったけれど、己の今日までを後悔していないから。
(結局。憧れた看護師さんにはなれなかったけどさ)
自身の心臓の上、胸へと右手の掌をあてる。
家族を亡くした自分には、帰るところなんてないと思っていた。
けれども、「第二の故郷だ」って胸を張って言える場所に出会えた。
最後の時間を過ごすなら、あそこがいい。
『ファイヴ村』
制服を着て、腕章をはめて。
目指す場所に行こう。
道すがら――。
悲しむ人がいたら、寄り添って、励ましてあげるよ。
諦められない人がいるなら、一緒に立ち上がるんだ。
だってそれが、いつもの『私』だから。
●
「おう、いらっしゃい!」
フラワーカフェ『vengan todos』の店長・田場 義高は、いつもと変わらず店を開け、朝から花の世話をしていた。
今日はあまり来ないだろうと思っていた客が来た事で、満面の笑みを浮かべる。
「黄色やオレンジ色の花束を作ってほしい」
それは、時折寄っては墓花を購入していく老人。
オレンジのガーベラに黄色いバラ、二色の淡いカーネーション。
それらにカスミ草をあしらえば、老人は酷く喜んだ。
「最後だから、墓花ではなく、花束を贈ってやりたくて」
奥さんにかい? と聞いて、頷いた老人に花束を差し出した。
「開いていてくれて、助かったよ」
「朝起きて、花の世話をして、朝飯を食って。開店準備して、開店して、花の世話して、昼飯食って
花の世話して、閉店準備して、閉店して、夕飯を食って、寝る」
それが日常で、今日もそうするつもりだと伝える。
しがみついて来た娘の頭を撫でて、「いまさら泣きわめいてもしかたあるまい?」と呟くように言った。
「花にゃ罪はない。明日滅ぶからって、水をもらえなかったらかわいそうだろ? それにな……花屋として生きた矜持ってもんもあるんだよ。生き物を扱う以上最後まで付き合うってのがな」
俺や妻や娘、あんた同様、今も懸命に生きてんだから――。
●
向日葵 御菓子と菊坂 結鹿の姉妹は、昼間は2人で楽しい時間を過ごす。
御菓子はただ1人の為だけに演奏し、結鹿も唯一の相手の為だけに腕を振るった。
妹は姉の演奏に静かに耳を傾け、姉は妹の料理に舌鼓を打つ。
幸せで、満ち足りた時間だった。
太陽が沈み、薄暗い部屋の中。
寝る間際まで枕を並べ、おしゃべりをして――眠りにつければ何も思い残す事なんてない。
姉妹一緒にいれれば、怖くも悲しくもない。
そう……思っていたのに。
ひっそりと静まり返った薄闇の中。
結鹿が、御菓子のパジャマの裾を掴んだ。
「崩壊ってどうなるんだろう? 爆発するの? それとも黒板の字を消すように消滅するの?」
不安を声にした妹に、御菓子は返事を紡げない。かけてあげる言葉が、思いつかなかった。
その代わり。そっと両手を差し伸べ、震える肩を抱きしめた。
それしか、出来なかった。今、この場所で最も確かなもの――そのぬくもりを、感じ合う事しか。
けれどもこれだけで結鹿は安心出来たようで、しばらくすると静かな寝息をたてていた。
怖さも、今は気にならない。
お姉ちゃんの鼓動を感じたから。
その音だけを聞いて、目を閉じられたから。
ぬくもりが、私を包んでくれたから。
だから――。
安らかな寝息をたて眠る妹に、ふわりと微笑んで。
御菓子は結鹿の頭を撫でる。
ぬくもりに安心したのは、お互いに。
だから――。
だから、また明日。
微笑みを浮かべたまま、御菓子も静かに瞼を閉じて。ゆっくりと微睡んでいった。
「おはようございます、ペスカ」
世界が崩壊する前日。
ラーラ・ビスコッティは、嬉しそうに揺れたペスカのピンク色のリボンを整えてから、朝食をとった。
大好きな本の、読みかけのページ。
焼いた焼き菓子の、いい匂い。
午後にはペスカと、ティータイムを。
「実感がないんです。私」
そう呟いて、電話を取った。
「ほんとはイタリアで家族と過ごしたいですけど、電話で我慢します」
こんな日にしたのは、取り留めのない話。
けれどもそれが、力をくれた。
立ち上がって、上着を羽織って。
「いきますよ、ペスカ。最期の瞬間まで意地汚くがんばるんです」
大人しく終わりを待てない者達が、きっと居るから。
扉を開ければ、眩しい光が射し込んだ。
●
「明日……ですか」
それはまたずいぶんな、と思いながらも、勒・一二三は落ち着いたもの。
「妖が相手ならともかく、巨大隕石ではどうしようもありませんからねえ」
ジタバタして、運命を弄ぶイジワルな誰かさんを喜ばせる気もない。
「ねえ、ミトス?」
ふふっと笑って、社務所へと向かった。
家族全員が、檀家さんへの配慮を忘れない。
不安になり社務所にかかってくる電話、訪ねてくる人達に、温かく対応した。
少し落ち着けば、縁側に座る。
両手で湯呑を持って、はらはらと散る花弁を見上げた。
青空には、刻々と大きくなってゆく隕石。
「桜とともに散るのも一興」
穏やかな気持ちで、そう思う。
そして。
もしも世界線の異なる僕が居るのなら。
――どうか貴方の世界に平和が訪れますように。
●
環 大和は自宅の日本家屋、その縁側に座り、庭木を眺めていた。
「小鳥が楽しそうに松の木で遊んでいるわ」
目を細め、父へと話しかけた。
「こんなにも穏やかなのに、明日でこの世界が崩壊してしまうなんて信じられないわ」
――特別な力があっても、皆と力を合わせたとしても。
「巨大隕石には対抗できないなんて。わたし達人間は、宇宙からみると本当にちっぽけな存在なのね」
父が発した問いに、ゆるり空を見上げる。
「そうね、友達や仲間も大切だけれども。やっぱり最後は家族じゃないかしら? お母さんが入れてくれたお茶を、お父さんとこうして頂く時間が何よりも大切な時間よ」
夕飯は、母と腕を振るうから――。
「楽しみにしていてね?」
空になった湯呑を2つ盆に乗せ、父へと微笑んだ。
●
いつも通りの時間に起きて朝ご飯を食べた離宮院・太郎丸は、学園へと登校する。
ガランとした教室は、いつもより広く見えた。
掃除用具入れから箒を出して、床を掃き始める。
「これまでお世話になった教室です」
感謝を込めて、丁寧に掃除していった。
1人で掃除をしていれば、色々な事が心に浮かぶ。
(心残りはないといえばうそになりますが……。それでも明日、本当にそうなるかは誰にもわからない)
――だけど。
窓を開けて。風と共に舞い込んだ薄ピンクの花弁を視線が追った。
(少しだけ、いつもと違う事をするのであれば……。あの人と一緒に過ごしたかったかもしれないですね)
最後くらい。わがままを言っても、あの人ならきっと――。
●
日課のトレーニングを終えた栗落花 渚は、夢を叶えるため頑張り始めた勉強にも精を出す。
今日だって、どんな時だって、サボッたりしない。
それは色々あったけれど、己の今日までを後悔していないから。
(結局。憧れた看護師さんにはなれなかったけどさ)
自身の心臓の上、胸へと右手の掌をあてる。
家族を亡くした自分には、帰るところなんてないと思っていた。
けれども、「第二の故郷だ」って胸を張って言える場所に出会えた。
最後の時間を過ごすなら、あそこがいい。
『ファイヴ村』
制服を着て、腕章をはめて。
目指す場所に行こう。
道すがら――。
悲しむ人がいたら、寄り添って、励ましてあげるよ。
諦められない人がいるなら、一緒に立ち上がるんだ。
だってそれが、いつもの『私』だから。
●
「おう、いらっしゃい!」
フラワーカフェ『vengan todos』の店長・田場 義高は、いつもと変わらず店を開け、朝から花の世話をしていた。
今日はあまり来ないだろうと思っていた客が来た事で、満面の笑みを浮かべる。
「黄色やオレンジ色の花束を作ってほしい」
それは、時折寄っては墓花を購入していく老人。
オレンジのガーベラに黄色いバラ、二色の淡いカーネーション。
それらにカスミ草をあしらえば、老人は酷く喜んだ。
「最後だから、墓花ではなく、花束を贈ってやりたくて」
奥さんにかい? と聞いて、頷いた老人に花束を差し出した。
「開いていてくれて、助かったよ」
「朝起きて、花の世話をして、朝飯を食って。開店準備して、開店して、花の世話して、昼飯食って
花の世話して、閉店準備して、閉店して、夕飯を食って、寝る」
それが日常で、今日もそうするつもりだと伝える。
しがみついて来た娘の頭を撫でて、「いまさら泣きわめいてもしかたあるまい?」と呟くように言った。
「花にゃ罪はない。明日滅ぶからって、水をもらえなかったらかわいそうだろ? それにな……花屋として生きた矜持ってもんもあるんだよ。生き物を扱う以上最後まで付き合うってのがな」
俺や妻や娘、あんた同様、今も懸命に生きてんだから――。
●
向日葵 御菓子と菊坂 結鹿の姉妹は、昼間は2人で楽しい時間を過ごす。
御菓子はただ1人の為だけに演奏し、結鹿も唯一の相手の為だけに腕を振るった。
妹は姉の演奏に静かに耳を傾け、姉は妹の料理に舌鼓を打つ。
幸せで、満ち足りた時間だった。
太陽が沈み、薄暗い部屋の中。
寝る間際まで枕を並べ、おしゃべりをして――眠りにつければ何も思い残す事なんてない。
姉妹一緒にいれれば、怖くも悲しくもない。
そう……思っていたのに。
ひっそりと静まり返った薄闇の中。
結鹿が、御菓子のパジャマの裾を掴んだ。
「崩壊ってどうなるんだろう? 爆発するの? それとも黒板の字を消すように消滅するの?」
不安を声にした妹に、御菓子は返事を紡げない。かけてあげる言葉が、思いつかなかった。
その代わり。そっと両手を差し伸べ、震える肩を抱きしめた。
それしか、出来なかった。今、この場所で最も確かなもの――そのぬくもりを、感じ合う事しか。
けれどもこれだけで結鹿は安心出来たようで、しばらくすると静かな寝息をたてていた。
怖さも、今は気にならない。
お姉ちゃんの鼓動を感じたから。
その音だけを聞いて、目を閉じられたから。
ぬくもりが、私を包んでくれたから。
だから――。
安らかな寝息をたて眠る妹に、ふわりと微笑んで。
御菓子は結鹿の頭を撫でる。
ぬくもりに安心したのは、お互いに。
だから――。
だから、また明日。
微笑みを浮かべたまま、御菓子も静かに瞼を閉じて。ゆっくりと微睡んでいった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
