■ブレスト■アイにすべてを
●独白
思うのです。
この世は絶望にまみれていて。
でも幸せな人は確かに居て。
その差は何なのだろうと。
彼らは、何も悪い事をしていない。
ただ、神の気まぐれで、試練を受けさせられ、苦しんでいる。
試練とは、何なのでしょう。
ただ無意味に苦しみ、無意味に絶望し――そんな事、許されるわけがない。
無意味に不幸になるなんて、そんな世界があってはならない。
ならば不幸には意味がある。
不幸こそが幸福であるのだと。
絶望に落ちた人間は、絶望の中にこそ救いを求めるしかない。
希望は、彼らの救いにはならない。
絶望に意味がなければ、彼らは真の意味では救われない。
絶望に意味を。彼らの不幸に価値を。
そして絶望にこそ価値があるのなら、全ての者に等しく絶望を。
すべてを救うために。すべてを等しく救うために。
試練を。良き試練を。
●二度目の訪問
中 恭介(nCL2000002)は、腕を組み、目を閉じた。少し考えるそぶりを見せた後、頷いた。
「もう一度、エリスに会いたいと。なるほど、それが君たちの決断なら、俺はそれを尊重しよう」
中はエリスについて得て情報をまとめた資料を、覚者達に手渡した。
「今現在、彼女について知りうるすべてだ。君たちが調べた情報、エージェントに調べさせた情報……すべてが記載されている。参考にしてくれ」
一息ついてから、続ける。
「……今の所、彼女は明確に俺たちに敵対するという態度をとってはいない。だが、十分に気を付けてくれ。君たちが、何かを得られることを、祈っている」
思うのです。
この世は絶望にまみれていて。
でも幸せな人は確かに居て。
その差は何なのだろうと。
彼らは、何も悪い事をしていない。
ただ、神の気まぐれで、試練を受けさせられ、苦しんでいる。
試練とは、何なのでしょう。
ただ無意味に苦しみ、無意味に絶望し――そんな事、許されるわけがない。
無意味に不幸になるなんて、そんな世界があってはならない。
ならば不幸には意味がある。
不幸こそが幸福であるのだと。
絶望に落ちた人間は、絶望の中にこそ救いを求めるしかない。
希望は、彼らの救いにはならない。
絶望に意味がなければ、彼らは真の意味では救われない。
絶望に意味を。彼らの不幸に価値を。
そして絶望にこそ価値があるのなら、全ての者に等しく絶望を。
すべてを救うために。すべてを等しく救うために。
試練を。良き試練を。
●二度目の訪問
中 恭介(nCL2000002)は、腕を組み、目を閉じた。少し考えるそぶりを見せた後、頷いた。
「もう一度、エリスに会いたいと。なるほど、それが君たちの決断なら、俺はそれを尊重しよう」
中はエリスについて得て情報をまとめた資料を、覚者達に手渡した。
「今現在、彼女について知りうるすべてだ。君たちが調べた情報、エージェントに調べさせた情報……すべてが記載されている。参考にしてくれ」
一息ついてから、続ける。
「……今の所、彼女は明確に俺たちに敵対するという態度をとってはいない。だが、十分に気を付けてくれ。君たちが、何かを得られることを、祈っている」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.エリス・レンバートともう一度話をする。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
ブレインストーミングスペースでの切裂 ジャック(CL2001403)さんの提案により、もう一度、エリス・レンバートと会話する機会が設けられました。
エリスともう一度会い、会話することがメインの目的です。
今回は潜入捜査ではなく、純粋にエリスと対話することが目的となります。
一般の信徒の皆さんも居ますので、そちらと会話しても構いません。
●エリス・レンバートについての現時点で分かっている情報
経歴
元々敬虔な宗教者。数多くの戦地や被災地でボランティア活動を行っていたが、度重なる不幸と絶望に陥った人々の姿に心を痛めていたらしい。
その救いを宗教に求めたが、神は試練を与えるのみで、彼らを直接救う事はない。ならば、その絶望の試練こそが神の救いであるのではないか、と教義を曲解。独自の宗教論の元、人々を「救い」始める。
彼女は狂気に囚われている可能性が非常に高い。それ故に、説得は困難であると思われる。
地下に捕えてあった妖の群れであるが、どうもそれを利用したテロを意図しているらしい。
それは、『絶望の試練をより多くの人に受けさせ、より多くの人を救うため』。悪意はないが、邪悪そのものであると言える。
それでは、皆様のご参加お待ちしております。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年04月16日
2017年04月16日
■メイン参加者 8人■

●因幡魁斗の対峙
とある山間にある、エリス・レンバートの屋敷。
些か古めかしさを感じるその応接室で、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)はエリスと対面していた。
「またお会いできましたね。切裂さん……でしたわね」
柔和な笑みを浮かべて、そう言うエリス。
「いや、因幡さ」
ジャックは頭を振った。
「因幡魁斗。それが俺の本名。今度は本当の俺で、お前にぶつかるよ」
その言葉に、エリスは頬に手を当て、頷いた。
「お前の言うとおりだよ、エリス。世界では日々誰かが泣いていて、理不尽に生を終える。わかるよ。何度助けられなかったことか。何度殺したくないものを殺したことか」
ジャックの親友は、ジャックを高潔だと評した。だが、違う、とジャックは思う。その手は赤く染まっているのだと。
「だからこそ思う。不幸を『故意に撒く』のは違う。お前は、間違えてしまったんだよ」
「間違えた?」
エリスは表情を崩さない。その程度の事は言われ慣れている、と言わんばかりに。
「現実を見ろ! 今この世界にあるのはただ残酷な現実だけだ! お前は救いたいんだろう? 救いと希望を理由に試練を発生させる悪は必要ない!」
「……あなたがわたくしを悪と称するのでしたら、そのそしりは受けましょう」
エリスは言った。
「しかし、人は試練を受けなければならない。そうでなければ、人は救われない」
「違うんだよ、エリス。試練を受けているのはお前だ。お前なんだよ。そして、その絶望に屈したのはお前なんだ!」
「わたくしが――」
屈した?
エリスが小首をかしげる。
「いいえ、いいえ。わたくしは、絶望を乗り越えた。乗り越えるために、絶望と向き合い、そして――」
そして。
「お前は負けてしまったんだよ。だから、絶望に救いを求めてしまった。絶望こそが救いだと勘違いしてしまった。人間に必要なのは、絶望ではなく希望だ! それお前に思い出させる。これは、宣戦布告だよ、エリス・レンバート。俺は――俺たちは、必ずお前を止める。お前に希望を思い出させる。覚悟しろ、俺たちが、お前の試練だ!」
●黒百合の宣言
「はじめまして、エリス・レンバートさん。私は諏訪奈那美と申します」
『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)はエリスを前に、優雅に一礼。
「はじめまして、諏訪さん。貴女もF.i.V.E.の方ですのね」
エリスは笑顔で答えた。
奈那美は思う。
おそらく――エリスは、本当に、優しい人間であるのだ、と。
故に。世界の理不尽を許すことができなかったのだろう、と。
普通の人間であれば、幾許かの諦観を持って『良し』と受け入れる、それを拒否してしまった。
――優しさ故に世界を否定し、世界から否定される。本当に、この世界は残酷でままならないものです。
胸中で、奈那美は呟く。
「単刀直入に言いますね。貴女のそれは救済などではありません。それで救えるのは貴女自身だけです。その救済は貴女の誤魔化しのためのもの。世界を受け入れて生きているものにとってはただの迷惑行為にすぎません」
一瞬。その言葉に、エリスは虚をつかれたような顔をした。だが、すぐに苦笑を浮かべ直す。
「先ほども言われましたわ。絶望に屈したのはわたくしだと」
「ええ、そうですよ、エリスさん。貴女はきっと、優しすぎた。だから、世界を受け入れられなかった。それだけならば、あなたの絶望だけで終わったのに」
――あなたは、優しすぎる故に、世界に絶望(きぼう)を施し始めた。
「一応、聞いておきます。試練とやらをやめてはくれませんか? 試練というのであれば、この世界で生きていく事そのものが試練です。私は、できれば貴女とは戦いたくありません」
奈那美の言葉に、エリスは困ったような笑顔を返す。
「わたくしは試練を施すことを止めることはできません……あなた達に否定されようとも。わたくしは、この道を信じております」
だろうな、と奈那美は思った。
この程度で説得できるような人間なら、そもそも奈那美は歯牙にもかけなかっただろう。
「私はこの愚かで美しい人と世界を愛しています」
奈那美は立ち上がった。エリスはそれを見上げた。
「さようなら、弱くて愚かで優しい貴女。再び出会うその時には、貴女のお望みのままに試練を踏破してみせましょう」
●待宵の疑問
「こんにちは、アマネカヨと申します」
ぺこり、と、『待宵』天音 華夜(CL2001588)が頭を下げる。そんな華夜に、エリスは礼を返すと、着席を促した。
「さて、私はあなたと敵対するために来たわけではありません。忠告をしに来たわけでもありません。かよは、あなたを話をしてみたかったのです。あなたは、過去にどのような不幸をご経験されたのでしょう」
華夜は、エリスの内面について、疑問を抱いていた。
なぜエリスは、使命を全うしようと考えているのか。
神の代弁者を気取っているのか、或いは神その者のつもりであるのか。
もう、争う事は止められないのか。
生まれた純粋な疑問を、華夜は抑える事は出来なかった。
「わたくしのことですの?」
エリスは小首をかしげつつ、言った。
「わたくし自身が不幸に見舞われた、とは言えないでしょう。ただ――そうですね。わたくしは、多くの不幸と絶望を目の当たりにしました。ある時は、家族を失った子供を。ある時は、病に倒れ死を目前にした者を。多くの理不尽と、多くの絶望を、わたくしは見てきました。彼らは、わたくしに手を伸ばしてきたのです。助けてほしい。救ってほしいと。何度も。何度も。でも、わたくしは――」
――誰一人、救う事は出来なかったのです。
エリスは言った。
「わたくしは無力でした。いいえ、今でもそうですわ」
「その果てが、試練、なのです?」
華夜が尋ねる。
「ええ。世に絶望に倒れたものがあるのなら、彼らの死に意味を与えなければ。だって、そうでなければ、本当に、彼らは救われないでしょう?」
エリスは微笑む。華夜は瞳を閉じた。何か考え込むような沈黙。数秒の後、華夜は立ち上がった。
「……はっきりと言います。あなたは、かよ達……F.i.V.E.と敵対する道を歩んでいます。あなたは、それを試練と喜ぶかもしれません。でも、きっと多くの人はそれを喜ばないと思うのです」
「そうですのね。少し残念ですが、ええ、あなたの仰る通り。良い試練となるでしょう」
「次に会うときは敵同士。あなたにもかよにも、良き試練となることでしょう。どうか後悔の無いように」
――お互い死力を尽くしましょう?
華夜はぺこり、と頭を下げた。
●ホワイトバニーの共感
「どーも、聖女様! 飛騨直斗だ。よろしく頼む!」
そう言いながら、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)はエリスに花束を差し出した。花はクリスマスローズ。
「花言葉は『慰め』、『私の不安をやわらげて』……でしたわね?」
笑顔で受け取りながら、エリスは答えた。直斗はふぅん、と唸ると、
「知ってたかい? 正解だよ」
――貴方に相応しい花言葉だよ……まあ、その花は狂人を正気に戻すという逸話持ちでさらに裏の花言葉に『中傷』なんて意味もあるが……言わぬが花ってな。
胸中で舌を出す直斗。エリスは花束をテーブルにおいて着席。促されて、直斗もソファへと着席した。
「さて、俺は同類と話がしたいと思ってきたんだ」
「同類?」
「ああ、俺は貴方の事を気に入った! ……同じ『狂人』の同類として」
その言葉に、エリスは困ったような顔で笑う。
「わたくしは狂人、といった類ではないと思いますわ」
「またまた、謙遜謙遜。貴方の考えは俺は素晴らしいと思うぜ? 絶望を『試練』と置き換えるのもわかるさ、幸福だって知る為には絶望を経験しねェと実感出来ねェからな……そういう意味で貴方の考えを俺は肯定するよ」
ただし、と直斗と付け足すと、
「その前に……あんた、絶望した事ある? まさか教えを説くあんた自体が絶望を経験してないとは言わさない。良ければさ、教えてくれないか、あんたの絶望。ちなみに俺の絶望は糞野郎に両親を殺されて、姉を弄ばれ、俺も殺されかけられた挙句、壊された事かね。神様なんて殺してやるって思ったさ。あんたはどう思った? 神様なんて、って思わなかった?」
エリスは小首をかしげた。
「先ほども同じことを聞かれましたわ。私にとっての絶望とは、この世に多くの苦しみがはびこっている事。主については、わたくしは恨みを抱いたことはありませんわ」
「これっぽっちも?」
「これっぽっちも」
ふふ、とエリスが笑う。直斗も薄く笑った。
「ともあれ……貴方が何をしようと俺はあんたに共感してやるよ……『同類として』。仲良くやろうぜ、狂人」
そう言って、直斗は手を差し出した。エリスは少し困ったような顔をした後、その手を取り、握手を交わした。
●見つめる眼の言葉
「こんにちは。前にもあったね。俺は梛。ファイブの覚者」
「ええ、覚えていますよ。お久しぶりですね」
『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)の言葉に、エリスは頷いた。
「ねぇ、あんたは――あんたは、自分と、辛い目にあっている人達と、幸せな人達を比べちゃったのかな。それで、その理由を探して探して――今の考えに行きついたのかい?」
梛が尋ねる。エリスは微笑んだまま、答えなかった。
「説得しようとか、そう言うんじゃないんだ。多分、あんたはそう言うの、聞かないだろうし――ただ、さ。幸せそうな人達にも、試練はあって。その試練に負けないで立ち上がって、幸せをつかむために頑張って、それで笑顔でいるんじゃないかな」
エリスは頷いた。
「――ええ、試練を受け、立ち向かった。その結果、そう言った人々もいるのでしょうね」
「ねぇ、人はさ。自分の人生の責任を誰かのせいには、しないんじゃないのかな」
その言葉に、エリスは考えるようなそぶりを見せた。
梛は続ける。
「それに、誰かにとって不幸にみえても、でも幸せだったって事もあるんだよ。幸せそうにみえても不幸だったという事もあるんだよ」
「ええ。ですからわたくしは、全てのひとが平等に幸せであるべきだと思っていますわ」
「あなたはさ、極端だよね」
「極端、ですか?」
「うん。それに、その考えを、他人に押し付けるのはどうかと思うよ」
梛は思い出していた。
エリスによって破滅へと追いやられた人々の事を。
屋敷の地下に眠る、危険な爆弾の事を。
もしエリスが、ただ不幸な人間を集めているだけならば、それでもよかったのだろう。
だが、エリスが、その思想を以て人々に害を加えて仕舞うのなら。
もしその自覚がなかったとしても、そうしてしまうのだとしたならば。
「俺は、あんたを止めるよ。あんたは優しいんだと思う。けど、今はあんたの優しさを、悲しいと思うし哀れに思う」
――それだけ。伝えたい事は伝えたから、それじゃあね。
梛はそう言って、退室した。
その姿を、エリスはただ、黙って見つめていた。
●ミュエルの戦い
「ねーねー、お姉ちゃんはどんな試練を受けに来たの?」
「アタシは、すごく怖い人と向き合う試練が待ってる感じかな……」
少女の問いに、苦笑しながら、『戸惑いの檻』明石 ミュエル(CL2000172)は答える。
ミュエルが今いるのは、談話室だ。そこには老若男女の信徒たちが、穏やかな顔で思い思いの時間を過ごしている。
エリスには老若男女問わず信徒がいる。その話は事前には聞いていた。
が、これほど小さな少女が居たことも、これほどに信徒たちが穏やかな顔をしている事も、ミュエルには予想外の事であっただろう。
――でも、ここにいるという事は、この人達は。
絶望に塗れている。
あるいは、そうであったのだろう、とミュエルは思う。
その事実は揺るがないのだ。ここは、そういう場所であるのだから。
目の前のこの少女は、一体何を経験し、ここに来たのか。
これから何を見て、何をするのだろうか。
ミュエルには分からない。ただ。
エリスがそうしたように、ミュエルにも、手を差し伸べることはできる。エリスとは違った方向に。
ミュエルは、少女の頭をなでながら、懐から手紙を取り出した。
それは、『一人で悩まなくても、人を頼ったり逃げたっていいんだよ』と言うメッセージと、F.i.V.E.の連絡先が記載された手紙である。
ミュエルは、信徒たちと話しながら、それとなくその手紙を渡して居た。
エリスの差し伸べた手の行く先を、ミュエルは見てきた。
それは、紛れもない闇の底だ。そんな所に、人々を送るわけにはいかない。
「ねぇ、あなたが試練に向き合って、人の道を外れそうになったら……つらくて心が壊れちゃいそうって思ったら……我を忘れる前に、この手紙を開けてみてね……」
その言葉に、少女は小首をかしげる。少し難しい言い回しだったかもしれない。でも、これ以上の言葉も、ミュエルには見つけられなかった。
「んー……うん、困ったら見てみればいいんだね?」
少女が微笑む。この笑みを、闇に落としてはいけない。
――貴女が絶望を振りまくなら、アタシはその絶望を少しでも摘み取るよ。
来るべきエリスとの面会に向けて。ミュエルはその思いを強く誓うのであった。
●グラトニーの悔恨
「……前に相談した内容覚えてる? 監禁してでも無茶させたくない親友が居るって」
「ええ……その様子ですと」
「……結局、僕はそれを出来なかった。そして親友を止められなかった」
『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は、無表情で、そう言った。
玲の親友は、その命を落とした。
どのような顔をすればいいのかわからなかった。ただ、渇いていた。飢えていた。
泣けばいいのか、怒ればいいのか、それすらもまだ、わからない。
ただ、ただ、飢えだけが、玲の心を支配している。
「わかってるよ、親友は満足して逝ったし、僕もそれを乗り越えて彼女の分も幸せにならないといけないって。それが正しい在り方だってね。……でもね……苦しいんだ……辛いんだ。分かるだろう?」
「ええ、分かっておりますわ。正しい在り方。それにすがっても人は救われない。それは、試練を受けぬものの理屈だから」
エリスは言った。
「故に――あなたは、どうしたいのですか?」
おそらく。
それがエリスのやり方なのだろう。
心情を吐露させ、相手の全てを肯定する。そうする事で視野狭窄状態の人間の思考を、エリスの言葉にのみ集中させる。
理解したうえで、玲は答える。
「君だから吐露する。善意で人々を絶望に叩き込んで救おうとする狂人の君にだから言う。憎い……親友を殺し僕から奪った君等隔者という存在が憎い。今すぐ君を殺してその血肉を貪りたいくらい憎しみと飢餓感が酷いんだ……僕を……救えるものなら救ってくれよ……いっそのこと、他の人と同じように、僕を破綻させるくらいに追い詰めてみなよ……!」
「わたくしを殺す……いいえ、隔者と呼ばれる全てを殺す。それがあなたの試練ですのね」
エリスは言った。玲は理解する。
自身すら試練の対象になっていることを、エリスは喜んでいる。
容易く命を差し出す、という意味ではない。
自身が、誰かの救いとなれることを喜んでいるのだ。
「……まあ、僕は親友との約束があるからそう破綻するわけにはいかない。今日、ここであなたをどうこうするつもりはないよ。でも、これ以上何かするなら……僕も我慢できない……だからこれからよろしくね、エリスさん」
玲の言葉に、エリスはうっすらと笑みを浮かべた。
●狂気の行く末
「ねぇ、私が神に愛されている、と言ったわね。そんな愛は反吐が出る」
『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)はそう言って、武器を取り出した。
「思うが儘に振舞え、応援すると言ったわね? そうさせてもらうわ。私から彼を奪った神。彼を奪ったクズ共も。ええそうだわ、神クズを殺しクズどもを殺しつづければ、彼はきっと帰ってきてくれる。これは宣戦布告よ、聖女様。貴女を殺し、あなたの試練とやらを殺し、殺し、殺し、殺しつくしてあげる――」
途端、応接室に充満する殺意を伴った香り。エリスは自身の身体へのダメージと、力が入りづらくなっていることを自覚した。
「まぁ♪」
だが、嬉しそうにエリスは笑う。その足元より発生した複数の蔓が、エリスの身体へと巻き付いた。
「終わりよ、聖女様――」
猛毒を生成し、それを滴らせたナイフを片手に、桜は飛び掛かる。が――。
エリスの体を覆っていた蔦が、途端、みじんに切り刻まれた。
エリスが腕を振る。瞬間、見えない何かにナイフが弾かれるの感じた。
「……!」
桜は、それがF.i.V.E.で扱う所のバトルワイヤーである事を察した。瞬間、何かを感じ飛びずさる桜。次の瞬間、桜が居た空間がずたずたに引き裂かれる。
桜は舌打ちした。今の騒ぎを聞きつけ、人が集まってくるだろう。全員殺すのは別に問題ないが、それでは少々手間がかかる。
「獅子神さんも言っていましたわ。わたくしを殺したいと。ええ、素晴らしいわ! わたくしそのものを、あなた達は試練ととらえた。ならばわたくしも、全力を以て応えましょう」
エリスは言った。
「近いうちに連絡いたしますわ。またお会いしましょう。あなた達の試練、わたくしが務めさせていただきます」
「……必ず殺してやるわ」
笑みを浮かべる桜へ、エリスもこれ以上のない笑顔で返すのであった。
とある山間にある、エリス・レンバートの屋敷。
些か古めかしさを感じるその応接室で、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)はエリスと対面していた。
「またお会いできましたね。切裂さん……でしたわね」
柔和な笑みを浮かべて、そう言うエリス。
「いや、因幡さ」
ジャックは頭を振った。
「因幡魁斗。それが俺の本名。今度は本当の俺で、お前にぶつかるよ」
その言葉に、エリスは頬に手を当て、頷いた。
「お前の言うとおりだよ、エリス。世界では日々誰かが泣いていて、理不尽に生を終える。わかるよ。何度助けられなかったことか。何度殺したくないものを殺したことか」
ジャックの親友は、ジャックを高潔だと評した。だが、違う、とジャックは思う。その手は赤く染まっているのだと。
「だからこそ思う。不幸を『故意に撒く』のは違う。お前は、間違えてしまったんだよ」
「間違えた?」
エリスは表情を崩さない。その程度の事は言われ慣れている、と言わんばかりに。
「現実を見ろ! 今この世界にあるのはただ残酷な現実だけだ! お前は救いたいんだろう? 救いと希望を理由に試練を発生させる悪は必要ない!」
「……あなたがわたくしを悪と称するのでしたら、そのそしりは受けましょう」
エリスは言った。
「しかし、人は試練を受けなければならない。そうでなければ、人は救われない」
「違うんだよ、エリス。試練を受けているのはお前だ。お前なんだよ。そして、その絶望に屈したのはお前なんだ!」
「わたくしが――」
屈した?
エリスが小首をかしげる。
「いいえ、いいえ。わたくしは、絶望を乗り越えた。乗り越えるために、絶望と向き合い、そして――」
そして。
「お前は負けてしまったんだよ。だから、絶望に救いを求めてしまった。絶望こそが救いだと勘違いしてしまった。人間に必要なのは、絶望ではなく希望だ! それお前に思い出させる。これは、宣戦布告だよ、エリス・レンバート。俺は――俺たちは、必ずお前を止める。お前に希望を思い出させる。覚悟しろ、俺たちが、お前の試練だ!」
●黒百合の宣言
「はじめまして、エリス・レンバートさん。私は諏訪奈那美と申します」
『黒百合』諏訪 奈那美(CL2001411)はエリスを前に、優雅に一礼。
「はじめまして、諏訪さん。貴女もF.i.V.E.の方ですのね」
エリスは笑顔で答えた。
奈那美は思う。
おそらく――エリスは、本当に、優しい人間であるのだ、と。
故に。世界の理不尽を許すことができなかったのだろう、と。
普通の人間であれば、幾許かの諦観を持って『良し』と受け入れる、それを拒否してしまった。
――優しさ故に世界を否定し、世界から否定される。本当に、この世界は残酷でままならないものです。
胸中で、奈那美は呟く。
「単刀直入に言いますね。貴女のそれは救済などではありません。それで救えるのは貴女自身だけです。その救済は貴女の誤魔化しのためのもの。世界を受け入れて生きているものにとってはただの迷惑行為にすぎません」
一瞬。その言葉に、エリスは虚をつかれたような顔をした。だが、すぐに苦笑を浮かべ直す。
「先ほども言われましたわ。絶望に屈したのはわたくしだと」
「ええ、そうですよ、エリスさん。貴女はきっと、優しすぎた。だから、世界を受け入れられなかった。それだけならば、あなたの絶望だけで終わったのに」
――あなたは、優しすぎる故に、世界に絶望(きぼう)を施し始めた。
「一応、聞いておきます。試練とやらをやめてはくれませんか? 試練というのであれば、この世界で生きていく事そのものが試練です。私は、できれば貴女とは戦いたくありません」
奈那美の言葉に、エリスは困ったような笑顔を返す。
「わたくしは試練を施すことを止めることはできません……あなた達に否定されようとも。わたくしは、この道を信じております」
だろうな、と奈那美は思った。
この程度で説得できるような人間なら、そもそも奈那美は歯牙にもかけなかっただろう。
「私はこの愚かで美しい人と世界を愛しています」
奈那美は立ち上がった。エリスはそれを見上げた。
「さようなら、弱くて愚かで優しい貴女。再び出会うその時には、貴女のお望みのままに試練を踏破してみせましょう」
●待宵の疑問
「こんにちは、アマネカヨと申します」
ぺこり、と、『待宵』天音 華夜(CL2001588)が頭を下げる。そんな華夜に、エリスは礼を返すと、着席を促した。
「さて、私はあなたと敵対するために来たわけではありません。忠告をしに来たわけでもありません。かよは、あなたを話をしてみたかったのです。あなたは、過去にどのような不幸をご経験されたのでしょう」
華夜は、エリスの内面について、疑問を抱いていた。
なぜエリスは、使命を全うしようと考えているのか。
神の代弁者を気取っているのか、或いは神その者のつもりであるのか。
もう、争う事は止められないのか。
生まれた純粋な疑問を、華夜は抑える事は出来なかった。
「わたくしのことですの?」
エリスは小首をかしげつつ、言った。
「わたくし自身が不幸に見舞われた、とは言えないでしょう。ただ――そうですね。わたくしは、多くの不幸と絶望を目の当たりにしました。ある時は、家族を失った子供を。ある時は、病に倒れ死を目前にした者を。多くの理不尽と、多くの絶望を、わたくしは見てきました。彼らは、わたくしに手を伸ばしてきたのです。助けてほしい。救ってほしいと。何度も。何度も。でも、わたくしは――」
――誰一人、救う事は出来なかったのです。
エリスは言った。
「わたくしは無力でした。いいえ、今でもそうですわ」
「その果てが、試練、なのです?」
華夜が尋ねる。
「ええ。世に絶望に倒れたものがあるのなら、彼らの死に意味を与えなければ。だって、そうでなければ、本当に、彼らは救われないでしょう?」
エリスは微笑む。華夜は瞳を閉じた。何か考え込むような沈黙。数秒の後、華夜は立ち上がった。
「……はっきりと言います。あなたは、かよ達……F.i.V.E.と敵対する道を歩んでいます。あなたは、それを試練と喜ぶかもしれません。でも、きっと多くの人はそれを喜ばないと思うのです」
「そうですのね。少し残念ですが、ええ、あなたの仰る通り。良い試練となるでしょう」
「次に会うときは敵同士。あなたにもかよにも、良き試練となることでしょう。どうか後悔の無いように」
――お互い死力を尽くしましょう?
華夜はぺこり、と頭を下げた。
●ホワイトバニーの共感
「どーも、聖女様! 飛騨直斗だ。よろしく頼む!」
そう言いながら、『ボーパルホワイトバニー』飛騨・直斗(CL2001570)はエリスに花束を差し出した。花はクリスマスローズ。
「花言葉は『慰め』、『私の不安をやわらげて』……でしたわね?」
笑顔で受け取りながら、エリスは答えた。直斗はふぅん、と唸ると、
「知ってたかい? 正解だよ」
――貴方に相応しい花言葉だよ……まあ、その花は狂人を正気に戻すという逸話持ちでさらに裏の花言葉に『中傷』なんて意味もあるが……言わぬが花ってな。
胸中で舌を出す直斗。エリスは花束をテーブルにおいて着席。促されて、直斗もソファへと着席した。
「さて、俺は同類と話がしたいと思ってきたんだ」
「同類?」
「ああ、俺は貴方の事を気に入った! ……同じ『狂人』の同類として」
その言葉に、エリスは困ったような顔で笑う。
「わたくしは狂人、といった類ではないと思いますわ」
「またまた、謙遜謙遜。貴方の考えは俺は素晴らしいと思うぜ? 絶望を『試練』と置き換えるのもわかるさ、幸福だって知る為には絶望を経験しねェと実感出来ねェからな……そういう意味で貴方の考えを俺は肯定するよ」
ただし、と直斗と付け足すと、
「その前に……あんた、絶望した事ある? まさか教えを説くあんた自体が絶望を経験してないとは言わさない。良ければさ、教えてくれないか、あんたの絶望。ちなみに俺の絶望は糞野郎に両親を殺されて、姉を弄ばれ、俺も殺されかけられた挙句、壊された事かね。神様なんて殺してやるって思ったさ。あんたはどう思った? 神様なんて、って思わなかった?」
エリスは小首をかしげた。
「先ほども同じことを聞かれましたわ。私にとっての絶望とは、この世に多くの苦しみがはびこっている事。主については、わたくしは恨みを抱いたことはありませんわ」
「これっぽっちも?」
「これっぽっちも」
ふふ、とエリスが笑う。直斗も薄く笑った。
「ともあれ……貴方が何をしようと俺はあんたに共感してやるよ……『同類として』。仲良くやろうぜ、狂人」
そう言って、直斗は手を差し出した。エリスは少し困ったような顔をした後、その手を取り、握手を交わした。
●見つめる眼の言葉
「こんにちは。前にもあったね。俺は梛。ファイブの覚者」
「ええ、覚えていますよ。お久しぶりですね」
『静かに見つめる眼』東雲 梛(CL2001410)の言葉に、エリスは頷いた。
「ねぇ、あんたは――あんたは、自分と、辛い目にあっている人達と、幸せな人達を比べちゃったのかな。それで、その理由を探して探して――今の考えに行きついたのかい?」
梛が尋ねる。エリスは微笑んだまま、答えなかった。
「説得しようとか、そう言うんじゃないんだ。多分、あんたはそう言うの、聞かないだろうし――ただ、さ。幸せそうな人達にも、試練はあって。その試練に負けないで立ち上がって、幸せをつかむために頑張って、それで笑顔でいるんじゃないかな」
エリスは頷いた。
「――ええ、試練を受け、立ち向かった。その結果、そう言った人々もいるのでしょうね」
「ねぇ、人はさ。自分の人生の責任を誰かのせいには、しないんじゃないのかな」
その言葉に、エリスは考えるようなそぶりを見せた。
梛は続ける。
「それに、誰かにとって不幸にみえても、でも幸せだったって事もあるんだよ。幸せそうにみえても不幸だったという事もあるんだよ」
「ええ。ですからわたくしは、全てのひとが平等に幸せであるべきだと思っていますわ」
「あなたはさ、極端だよね」
「極端、ですか?」
「うん。それに、その考えを、他人に押し付けるのはどうかと思うよ」
梛は思い出していた。
エリスによって破滅へと追いやられた人々の事を。
屋敷の地下に眠る、危険な爆弾の事を。
もしエリスが、ただ不幸な人間を集めているだけならば、それでもよかったのだろう。
だが、エリスが、その思想を以て人々に害を加えて仕舞うのなら。
もしその自覚がなかったとしても、そうしてしまうのだとしたならば。
「俺は、あんたを止めるよ。あんたは優しいんだと思う。けど、今はあんたの優しさを、悲しいと思うし哀れに思う」
――それだけ。伝えたい事は伝えたから、それじゃあね。
梛はそう言って、退室した。
その姿を、エリスはただ、黙って見つめていた。
●ミュエルの戦い
「ねーねー、お姉ちゃんはどんな試練を受けに来たの?」
「アタシは、すごく怖い人と向き合う試練が待ってる感じかな……」
少女の問いに、苦笑しながら、『戸惑いの檻』明石 ミュエル(CL2000172)は答える。
ミュエルが今いるのは、談話室だ。そこには老若男女の信徒たちが、穏やかな顔で思い思いの時間を過ごしている。
エリスには老若男女問わず信徒がいる。その話は事前には聞いていた。
が、これほど小さな少女が居たことも、これほどに信徒たちが穏やかな顔をしている事も、ミュエルには予想外の事であっただろう。
――でも、ここにいるという事は、この人達は。
絶望に塗れている。
あるいは、そうであったのだろう、とミュエルは思う。
その事実は揺るがないのだ。ここは、そういう場所であるのだから。
目の前のこの少女は、一体何を経験し、ここに来たのか。
これから何を見て、何をするのだろうか。
ミュエルには分からない。ただ。
エリスがそうしたように、ミュエルにも、手を差し伸べることはできる。エリスとは違った方向に。
ミュエルは、少女の頭をなでながら、懐から手紙を取り出した。
それは、『一人で悩まなくても、人を頼ったり逃げたっていいんだよ』と言うメッセージと、F.i.V.E.の連絡先が記載された手紙である。
ミュエルは、信徒たちと話しながら、それとなくその手紙を渡して居た。
エリスの差し伸べた手の行く先を、ミュエルは見てきた。
それは、紛れもない闇の底だ。そんな所に、人々を送るわけにはいかない。
「ねぇ、あなたが試練に向き合って、人の道を外れそうになったら……つらくて心が壊れちゃいそうって思ったら……我を忘れる前に、この手紙を開けてみてね……」
その言葉に、少女は小首をかしげる。少し難しい言い回しだったかもしれない。でも、これ以上の言葉も、ミュエルには見つけられなかった。
「んー……うん、困ったら見てみればいいんだね?」
少女が微笑む。この笑みを、闇に落としてはいけない。
――貴女が絶望を振りまくなら、アタシはその絶望を少しでも摘み取るよ。
来るべきエリスとの面会に向けて。ミュエルはその思いを強く誓うのであった。
●グラトニーの悔恨
「……前に相談した内容覚えてる? 監禁してでも無茶させたくない親友が居るって」
「ええ……その様子ですと」
「……結局、僕はそれを出来なかった。そして親友を止められなかった」
『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)は、無表情で、そう言った。
玲の親友は、その命を落とした。
どのような顔をすればいいのかわからなかった。ただ、渇いていた。飢えていた。
泣けばいいのか、怒ればいいのか、それすらもまだ、わからない。
ただ、ただ、飢えだけが、玲の心を支配している。
「わかってるよ、親友は満足して逝ったし、僕もそれを乗り越えて彼女の分も幸せにならないといけないって。それが正しい在り方だってね。……でもね……苦しいんだ……辛いんだ。分かるだろう?」
「ええ、分かっておりますわ。正しい在り方。それにすがっても人は救われない。それは、試練を受けぬものの理屈だから」
エリスは言った。
「故に――あなたは、どうしたいのですか?」
おそらく。
それがエリスのやり方なのだろう。
心情を吐露させ、相手の全てを肯定する。そうする事で視野狭窄状態の人間の思考を、エリスの言葉にのみ集中させる。
理解したうえで、玲は答える。
「君だから吐露する。善意で人々を絶望に叩き込んで救おうとする狂人の君にだから言う。憎い……親友を殺し僕から奪った君等隔者という存在が憎い。今すぐ君を殺してその血肉を貪りたいくらい憎しみと飢餓感が酷いんだ……僕を……救えるものなら救ってくれよ……いっそのこと、他の人と同じように、僕を破綻させるくらいに追い詰めてみなよ……!」
「わたくしを殺す……いいえ、隔者と呼ばれる全てを殺す。それがあなたの試練ですのね」
エリスは言った。玲は理解する。
自身すら試練の対象になっていることを、エリスは喜んでいる。
容易く命を差し出す、という意味ではない。
自身が、誰かの救いとなれることを喜んでいるのだ。
「……まあ、僕は親友との約束があるからそう破綻するわけにはいかない。今日、ここであなたをどうこうするつもりはないよ。でも、これ以上何かするなら……僕も我慢できない……だからこれからよろしくね、エリスさん」
玲の言葉に、エリスはうっすらと笑みを浮かべた。
●狂気の行く末
「ねぇ、私が神に愛されている、と言ったわね。そんな愛は反吐が出る」
『”狂気”に応ずる者』春野 桜(CL2000257)はそう言って、武器を取り出した。
「思うが儘に振舞え、応援すると言ったわね? そうさせてもらうわ。私から彼を奪った神。彼を奪ったクズ共も。ええそうだわ、神クズを殺しクズどもを殺しつづければ、彼はきっと帰ってきてくれる。これは宣戦布告よ、聖女様。貴女を殺し、あなたの試練とやらを殺し、殺し、殺し、殺しつくしてあげる――」
途端、応接室に充満する殺意を伴った香り。エリスは自身の身体へのダメージと、力が入りづらくなっていることを自覚した。
「まぁ♪」
だが、嬉しそうにエリスは笑う。その足元より発生した複数の蔓が、エリスの身体へと巻き付いた。
「終わりよ、聖女様――」
猛毒を生成し、それを滴らせたナイフを片手に、桜は飛び掛かる。が――。
エリスの体を覆っていた蔦が、途端、みじんに切り刻まれた。
エリスが腕を振る。瞬間、見えない何かにナイフが弾かれるの感じた。
「……!」
桜は、それがF.i.V.E.で扱う所のバトルワイヤーである事を察した。瞬間、何かを感じ飛びずさる桜。次の瞬間、桜が居た空間がずたずたに引き裂かれる。
桜は舌打ちした。今の騒ぎを聞きつけ、人が集まってくるだろう。全員殺すのは別に問題ないが、それでは少々手間がかかる。
「獅子神さんも言っていましたわ。わたくしを殺したいと。ええ、素晴らしいわ! わたくしそのものを、あなた達は試練ととらえた。ならばわたくしも、全力を以て応えましょう」
エリスは言った。
「近いうちに連絡いたしますわ。またお会いしましょう。あなた達の試練、わたくしが務めさせていただきます」
「……必ず殺してやるわ」
笑みを浮かべる桜へ、エリスもこれ以上のない笑顔で返すのであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
