■ブレスト■ 私達 覚者の大会開きます
■ブレスト■ 私達 覚者の大会開きます


●覚者とスポーツ各会
『覚者がスポーツ選手に混じって試合に出ていいのか?』
 この問題は二十五年前から各スポーツ界で論議されてきていた。先日起きた角界の騒動に限らず、覚者と非覚者を同じ土俵で戦わせるのはフェアではない、と言う意見も多い。
 簡単な話だ。『韋駄天足』を持っている覚者に走力で勝てる見込みはなく、翼人が飛べば球技系はその戦術を見直すことになる。身体能力と頑丈さが増すため、格闘技系は軽々に覚者を容認するわけにはいかない。
 因子発現は日本のみのケースであり、外国の例を参考にできない。それ故日本国内のみで解決せねばならず、長年にかけてレギュレーションは考えられ続けてきた。
 適当に決めてしまえばいいじゃないか、とはいかない。『選手の安全面』を考慮し、それでいて『競技の公平さ』を考えなくてはいけない。その上で『今まで培ってきた伝統』を守らなくてはいけないのだ。
 そういった問題点を踏まえ、『チーム内に覚者は〇名のみ』『特定の因子を持つ覚者は不可』『覚者全面禁止』などスポーツによって対応は分かれる。
 しかし因子発現は突如行われる。病魔の如く覚者となった者が、その道から外されることは不幸でしかない。
 そんなスポーツ界に一石を投じる意見が、FiVE内から発言された。

●FiVE
「『覚者オリンピック?』」
「仮名です。正確には覚者のみのスポーツ大会ですね」
 集められた覚者達は久方 真由美(nCL2000003)の言葉に合点がいったと言う顔をする。
「突然の因子発現などでスポーツ界からはじき出された人たちへの救済策、及び覚者の理解を深めるのが目的です」
 覚者が攻撃の対象になるのは、個人的な恨みなどを除けば基本的には『覚者への理解不足』が念頭に来る。誰だってよくわからない事例には『他の人がこうしているから』という感じで流されることが多い。覚者の事を広く伝えることが重要なのだ。
 勿論、同じようなことをやろうとした人達はいた。だが――
「今まではスポーツ経験者の覚者を一定数揃えることが出来ず、断念された方が多いようです」
 それに対し、FiVEは覚者の数はそろっている。施設も五麟学園内にあり、データを取る事は可能だ。
「で、具体的には何をするんだ?」
「実際に覚者のみで競技をしてもらいます。大きく『陸上系』『格闘系』『球技系』に分けて行い、スポーツレギュレーションをどうするかを決めます」
 レギュレーション。端的に言えば規則である。先にも出た『韋駄天足』のような特定の技能を入れるのはOKなのか。覚者の攻撃スキルは安全面を考慮して大丈夫なのか。神具は。装身具は。何処までがOKで何処までがNGか。
「レギュレーションに関しては意見を言って頂けるだけで十分です。ブレインストーミングと同じ要領ですね。兎に角意見を言って、その意見からどうするか、です」
 欲しいのは多くの実績と意見。足場を固めることから始めなくては。
「よろしくお願いします」
 頭を下げる真由美。覚者達はどうするか悩みながら会議室を出た。



■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:どくどく
■成功条件
1.競技を行う
2.なし
3.なし
 どくどくです。
 こちらは公開掲示板『ブレインストーミングスペース#1』『鹿ノ島・遥(CL2000227) 2017年02月14日(火) 22:18:09』の書き込みを元に立案されたシナリオです。
 角界云々に関してはみちびきいなりSTの【相撲一代男】転落・禍福無門(ID:1024)を参照。本シナリオと直接的な関係はありませんので、読まずとも問題ありません。

●説明!
 FiVEから各スポーツ界に投げかける形で『覚者オリンピック(仮)』を提案しようと思います。その為の参考資料と意見を含め、皆様にスポーツをしてください。
 基本となる規約は提示しますが、『こうした方がいい!』『これは除いた方がいい!』『陸上ならこの競技がないのはおかしい!』などの意見は可能です。要するに、ベースのルールは用意するけど最終的には皆様の好きに行って構いません、という事です。
 難しいことを考えず、ただスポーツを楽しんでも構いません。一石を投じる意味も含めて、真剣に意見して頂いても構いません。
 一人が出れる競技数に制限はありません。球技などで人数が足りない場合は、NPCが数を埋めてくれます。

『陸上系』ベーシックルール。
100m走:スキル及び技能使用可。その他は公式ルール同様。
三段跳び:スキル及び技能使用可。その他は公式ルール同様。
砲丸投げ:スキル及び技能使用可。その他は公式ルール同様。

『格闘系」ベーシックルール
無手系格闘技:開始時の距離は3m。一礼後開始。二本先取系。スキルの使用可。
武器系格闘技:開始時の距離は3m。一礼後開始。二本先取系。スキルの使用可。神具使用可。

『球技系』
野球:スキル及び技能使用可。その他は公式ルール同様。
サッカー:スキル及び技能使用可。その他は公式ルール同様。
水球:スキル及び技能使用可。その他は公式ルール同様。

 覚者のみだから許される派手な競技にするか。あるいは一般人の敷居に合わせるのか。そこは参加者皆様次第です。

●NPC
『気炎万丈』榊原・源蔵(nCL2000050)及び『安土村の蜘蛛少年』安土・八起(nCL2000134)が穴埋めで参加します。呼ばれなければ記録を取っています。

●場所情報
 五麟学園内。様々な施設がそろっています。スポーツに使用するための常識的なものなら、すぐに用意できるでしょう。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(3モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年04月06日

■メイン参加者 8人■

『獣の一矢』
鳴神 零(CL2000669)
『緋焔姫』
焔陰 凛(CL2000119)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)


「おおー! オレが勢いだけで喋ったことを聞いててくれたなんて、嬉しいなあ!」
 拳を握って発案者の『雷切』鹿ノ島・遥(CL2000227)が叫ぶ。体を動かすことが好きな遥は、スポーツも嫌いではない。覚者だからと言って気兼ねなく、そして非覚者とも楽しめる様になれば、楽しい大会になるだろう。
「そうだなあ、鳴神は武器系格闘技にでも出てみようかな!」
 武器系格闘の大会用に用意された武具を前にして『介錯人』鳴神 零(CL2000669)は笑う。競技用の竹刀や薙刀と言った和風なものから、木剣や盾と言った西洋系のものまで取りそろえてある。どれを選ぼうか悩んでしまう。
「覚者同士でスポーツする事で何かしら進展があるなら、協力するにやぶさかではないな」
 腕を組んで頷く『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)。覚者と非覚者の身体能力の差は歴然としている。それにより『平等な採点』という点で障害が生まれていることは知っていた。それをどうクリアするか。その進展に携えるのなら頑張ろう。
「覚者が思いっきりスポーツ出来る大会かぁ!」
『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)は五麟学園に来る前のことを思い出していた。覚者と言うだけで一緒に体育の授業が出来なかった思い出。サッカーを見学するしかできなかった寂しさ。もし皆と一緒にスポーツができるのなら。その第一歩だ。
「わたし達も力を除けば人と変わらないですから、人外みたいな扱いは悲しいです」
 ため息をつく『プロ級ショコラティエール』菊坂 結鹿(CL2000432)。それは覚者に目覚め、非覚者との壁を感じた者が感じる共通の思いだった。だがやんぬるかな。その力が問題なのだ。結鹿もそれは重々承知している。その解決になるのだろうか?
「発現者は覚醒時でなくとも個体能力が上がっているみたいですから……」
 参考資料を手に離宮院・太郎丸(CL2000131)は覚者と非覚者の差を示す。問題なのは差がある事ではなく、どの程度の差かがよく知られていない事なのだ。分からない、ということが軋轢を生み、そして悲しみを生んでいく。
「うーん。一般人の目線で勝敗を追うのが難しいのならテクノロジー便りかなぁ?」
 首をひねる『豪炎の龍』華神 悠乃(CL2000231)。スポーツのテクノロジーによる判定は珍しいものではない。野球のスロー判定などは有名だし、フェンシングのスーツは僅かな差も見逃さない。
「任命されたから、には……頑張ります」
 緊張の面持ちで『待宵』天音 華夜(CL2001588)がつばを飲み込み、頷いた。FiVEにやって来て初めての依頼。それが覚者と非覚者の軋轢を減らそうとするものになろうとは。緊張するのも無理はない。深呼吸をして、脚を動かす。
「じゃあ最初は――」


 五麟学園の運動場。運動着に着替えた覚者達がそこで準備運動をしていた。
「それじゃあ、行くぜ!」
「負けないからね!」
 トラックに並ぶ遥と奏空。
「かよは……色々試してみたいと……思います」
 そして同じく走者の華夜は選手達に提案するように手を挙げた。
「覚醒して走るのと、覚醒せず走るのと……あとは、技能を使って走るのを、試してみようかと……」
 その意見に頷く覚者達。
「いいわね。記録を取る意味でも面白いかも」
「『韋駄天足』は覚醒していると使えないからな」
「どれだけ差が出るか、と言うのを見てみるのもデータ取りとして重要ですね」
 悠乃、奏空、太郎丸は記録用紙を複数枚用意し、華夜の意見に対応した。
「よし、それじゃあ改めて!」
 先ずは非覚醒状態での短距離走。両手を地面につき、クラウンチングスタートの構えを取る。
(この走る前の緊張が溜まらないんだよなぁ)
(あ……結構緊張、します……)
 走るのが好きな奏空と、走り慣れていない華夜の心境の差。そして――
「スタート!」
 号令と共に一斉に走りだす覚者達。
 余談だが、ルールの『一ラウンドの最大移動距離20メートル』と言うのは戦闘に集中しながらの移動が前提条件であり、神具等の重い物を持っての走行と空気抵抗や重量を減らした陸上とでは前提条件が違うのであります。
「よっし、一等!」
 ゴールを駆け抜けた奏空が両手をあげて喜びを示す。そのタイムは――
「13秒後半。平均的な学生の記録よりやや速めですね」
「部活に所属していないのにこのタイムと言うのは、因子発現の影響かそれとも覚者として成長しているからか」
 記録を取っていた人達は、推測に余念がない。驚くほどの記録ではないが、かといって無視できる程でもない。そんな顔だ。
「じゃあ次は覚醒しての競争ね」
「お任せください、ご主人様! 二十歳のかよは、ちょっとだけ大人です!」
「付喪で足が車輪になっても、変化で姿が変わっても速度に差が出るわけじゃない……んだけど」
「十二歳のコンパスと二十歳のコンパスの差は大きいよなぁ」
 覚醒して二十歳の姿になった華夜。その身長差は大きく、そして一歩の歩幅も大きい。
「改めて、よーい」
 覚醒前と同じく、クラウチングスタートからのスタートである。
「スタート!」
 号砲と共に一気に駆け出す覚者達。その速力は確かに覚醒していない状態より速かった。二走目だというのに疲れを感じさせないスタミナも一役買っている。そして――
「やりました、ご主人様!」
 一番でゴールを駆け抜ける華夜。だが他の覚者とも僅差であり、覚醒時の身体成長が影響したというわけでもなさそうだ。
「うーん……」
「どないしたんや?」
 デジカメで撮った映像を再生し、チェックを入れる悠乃。その様子を覗き込む凛。
「スタートダッシュは覚醒前と後じゃそれほど変わらないわね、って」
「どういうこと?」
「走ったり跳んだりの肉体能力は覚醒によって強化されるけど、クラウチングスタートの技術は学ばないと覚えられないってことね」
 陸上において『スタートダッシュ』は重要なポイントだ。スタートだけを延々と繰り返す練習もあるほどである。こればかりは練習を重ね、体で覚えさせるしかない。そして――
「100m走のような短距離系で、スタートダッシュの差は大きいんです」
 太郎丸が図を描いて説明を補足する。スタート前の停止から、走行速度に入るまでは時間がかかる。時間にすればコンマ五秒程度だが、時速十キロならそこで一メートル程の差が開く事になる。一歩先んじられてのスタートなのだ。
「因子発現していない陸上選手と、素人の覚者ならいい勝負になるかもしれません」
「あくまで短距離走、と言うカテゴライズならね」
 これが400m走のような中距離走ならスタミナや肉体強化の差が大きく出る。覚者の優位は動かないだろう。
 メタな事を言うと『俺に任せてお前は逃げろ!』と言って一般人を逃がし、隔者が一ターン遅れてそれを追いかけても追いつけないという事である。閑話休題。
「エンターテイメントとしては合同でもいけるかも」
「陸上選手が因子発現した人は、分けた方がいいかもしれませんね」
 それが分かったのは、大きな収穫だった。


 続いては格闘系である。
「殺し合いとは違うから、命取るまではやったら駄目だよね!」
「楽しませてもらうで!」
 零と凛が竹刀を持ち、白線の上に立つ。互いに一礼して、竹刀を構えた。
「所で一本でいうのはどこまでのこと?」
「一本と言うのはですね」
 ルールがよく分かっていない零に説明する結鹿。
 剣道のルールになるが、一本――正確には有効打突と言う――の定義は『気勢の入った打突』『綺麗な姿勢』『竹刀の打突部分で防具を正しく打つ』『残心がある』の四点である。
「つまり。実戦みたいに回転しながらばちこーんて打っても……」
「はい。一本にはなりません」
「せやな。崩れた姿勢やと無効になるわ」
「ぶー」
 という事で、剣道ルールではなくどちらが先に一撃当てるかという勝負になる。姿勢はどうあれ、先に当てた方の勝ちだ。
「ほいさっ!」
「見えるで!」
 独楽のように回転して遠心力をつけて攻める零と、動きを見て竹刀で裁く凛。武人丈がぶつかり合う激しい音が響く。
「よろしくお願いします」
「はい。こちらこそ」
 別の場所では結鹿と八起が竹刀を構えての試合を行っていた。一礼後、前世の力を解放して一気に攻める結鹿。
「はっ、はあ!」
「わわっ。これって術で反撃したら負けなんでしょうか?」
 結鹿の鋭い攻撃に、八起は古妖の光で反撃しようとして踏みとどまった。
「格闘系だから体術だけでしょうね。術式を使えば不満は出るでしょう」
「体術なら覚者じゃなくても使えるし、それが妥当じゃない?」
 審議する太郎丸と悠乃。
「ああ、でも付与系による身体強化は非発現者には不利になるでしょうね。これは課題の一つとしてメモしておきましょう」
 記録係に徹する太郎丸。見た目は幼く見えるが、これでも高校生。年齢相応に問題整理を行い、後の議題に生かす。
 そして次は、
「素手格闘だ!」
「剣がないと間合がよく分からないのよねぇ」
 胴着に身を包んだ遥と零が畳の上で相対していた。
「こっちの一本はどうするの? 気を失うまでやっていい?」
「物騒だな、オイ。でもフルコンだとダウンするまでだしなぁ」
 こちらでも一本の定義をどうするかがネックとなっていた。
「とりあえず血生臭くなければOKだろう。派手な格闘技はエンタメとしても楽しめるはずだし」
 という事で、ダウンするまでの形式となった。キックあり、絞め技あり、ダウンしている人の攻撃ありと言った総合格闘技である。禁止事項としては顔面や急所などの攻撃は禁止。これをすると、残虐さが高まるからである。
「それじゃあ、楽しんでいこうか!」
「来なさい!」
 慣れ親しんだ空手の構えを取る遥。剣術の姿勢のまま軽く腕を伸ばした構えを取る零。試合開始の合図とともに、一気に距離を詰める。
「こっちはポイント制にしましょう。クリーンヒット二回で一本。ダウン二回でクリーンヒット一回で」
「かまわんぞい。なら術式や体術のあるなしも試してみるか」
 もう一つの場所では悠乃と源蔵が相対していた。こちらは勝負と言うよりは形式を確かめ合っている感じだ。
「主審一人と副審二人かのぅ。間近で見る人と、外側から見る人。審議の為に数は奇数で」「んー。センサーによるスキルモーション探知と、クリーンヒットの判定。あとはAR的に情報を組み合わせて一般の人にもわかりやすく魅せる形式もいいかも」
 一試合ごとに悠乃と源蔵はああだこうだと議論していく。
 戦い慣れた覚者だからこそ、戦いに関する議題は白熱していく。


 そして球技。選ばれたのは、まずサッカー。
「発現前から好きだったんだー!」
 ガッツポーズをとる奏空。ポジションは希望のMFである。ゴール前で味方にパスをするポストマンだ。
 ルールは覚醒あり、技能あり、翼人の飛行は低空飛行までとなった。ここを封じておかないと空中でパスされ続けるだけで終わってしまうので。そして当たり前だが、選手への攻撃禁止。これはデバフのような弱体効果も含まれる。
 ホイッスルと同時に敵陣に駆け込む奏空。持ち前の素早さとバランスの良さを生かして、ゴール前に陣取る。当然そんな奏空をフリーにするわけがなく、数名の覚者がマークに入る。
 体の小さな奏空は、大人の覚者のマークに背丈で負けてしまう。壁の様に視界を防がれ、軽く手を当てられて動きを封じられる。こればかりは覚者非覚者関係のない話だ。
「ちっこいってことはちょろちょろ動きやすいって事だぜ!」
 だが奏空は一瞬の隙を見つけてマークを振りほどく。慌ててそれを追う覚者だが、それよりも早くフィールドを蹴って走る奏空。一瞬の差で先にボールに触れ、味方にパスをする。
「ナイスパス!」
 床に飛び込んだ覚者がヘディングでゴールを決めた。ハイタッチで喜び合うチーム。
「覚者同士のサッカーなら、何の問題もなさそうですね。怪我の心配もなさそうですし」
「はい。フルタイムで動けるスタミナもありますし、何よりも年齢制限がほぼないのが強みです」
 試合を見ていた太郎丸と華夜がそんなことを口にする。
 サッカーは九十分戦う為、かなりのスタミナが要求される。覚者のスタミナなら、選手交代なしで戦えそうだ。
 そして次は、
「一発かますでー」
 バットを振るいながら凛がバッターボックスに立つ。
「予想はしてたけど、刀振るうのとはやっぱり感覚が違うな」
 バットを握りながら、少しむずがゆそうに凛が体をよじる。真正面から迎え撃つ剣術とは違い、ピッチャーに横向きになるバッターの構え。刀を振るうようにはいかない。だが、剣術の経験が生きる場面もある。
「要はボールに向けて、バット振るえばええんや」
 ピッチャーからバッターボックスまでは約十八メートル。ボールの速度が時速100キロだとコンマ6秒でキャッチャーのミットに収まる計算だ。一秒にも満たない思考時間では、『ボールのコースを見て打つ』ことは難しい。
 だが、それを覆すのが覚者。凛の動体視力がボールの軌跡を見切る。
「ボールが止まって見えるで」
 言葉と同時に打ち放たれるボール。バットの芯で捉えたボールは、軽々と宙を舞う。惜しくもファールとなった。
「次は本気で投げるとするか」
「せやな。もっと速い球投げてもええで」
 覚者の身体能力が増すという事は、ボールも速くなることだ。凛の動体視力ですら捕えられないボールを投げる投手も生まれる。そういう意味では、覚者同士の野球はいい勝負になりそうだ。だが、
「流石に一般人と合同は難しいかな。球技は肉体能力が反映されるし」
「だったらさ。開き直って術式とか解禁しない? 炎の魔球! とか」
「エンタメとしてはいけるかもな」
 これに関しては、やはり覚者と非覚者の差が大きいことを示す結果となった。


「お疲れ様です。どうぞ」
 全競技を終えた覚者達にスポーツドリンクと冷えたタオルを渡すメイド見習いの華夜。気づかいと労いはメイドの基本スキルである。
 覚者達は充分に体を休めた後で、感じたことを喋りはじめる。
「やっぱり陸上系は韋駄天足があるとないとで大違いだな!」
『技能あり』競争でぶっちぎりの一位を取った遥が頷く。これは皆同意である。同じ覚者同士でも、韋駄天足のあるなしで圧倒的に差が出る。
「三段跳びなどの跳躍系は翼人が圧倒的有利。これも議論するまでもないわね」
「水球や水泳もそうだろうな。守護使役とかでも差が出そうだ」
 予想されたこととはいえ、ここまで一般人を寄せ付けない肉体差となれば合同で行うのは難しい。唯一、短距離走だけがスタートダッシュの差で拮抗できるぐらいだ。
「格闘系はどうだろう? ルールに沿って行えば、やはりルール慣れしている人が有利?」
「でもないで。やっぱ瞬発力の差は大きいわ」
 実際に剣術の修行をしている凛が手を横に振る。格闘系は肉体能力の差が大きく出る。野球選手など総合的に肉体が秀でた人間は、格闘技を学び始めると成長が違うという。覚者の様に身体能力が大きく増した人間ならなおのことだ。
「やはり常人離れして、人間とは異なるという偏見を強くしそうな感じもしますね……」
 録画した映像をみながら結鹿が残念そうに呟く。覚者と一般人が合同で行うには、流石に無理がありすぎた。
「後球技は……これも合同は無理か」
「そうね。特に『飛行』系がフィールドの使用率を変えるわ」
 悠乃が肩をすくめて息を吐く。例えば野球なら空を飛んでフライを取ることもできるし、サッカーだと空中でパスを回されては地上にいる人は何もできない。
「アメフトみたいな体をぶつけ合う競技は特に駄目ですね。怪我人が出てしまいます」
 ため息をつく球太郎丸。スポーツにおいて怪我することは避けられない。事、アメフトはタックルにより体と体をぶつけ合うため、覚者地一般人を一緒にすることは難しいだろう。
「怪我人か……水行のヒーラーさんによる救護体制も必要かな?」
 覚者同士でも怪我をするのだから、それも必要だろうと奏空は意見を出す。そういった選手の安全面も重要だ。どこまで注意しても、怪我をゼロにすることはできない。ならばそのバックアップは必要だ。
「やはり、覚者と非覚者が一緒にスポーツをするのは難しそうですね……」
 はあ、とため息をつく太郎丸。共に汗を流すことで、覚者と非覚者に新たな絆が生まれてそれによりその溝が縮まるのでは。だが現実はそううまくいかないようだ。
「そうね。当初の予定通り『覚者のみの大会』に絞りましょう」
「覚者がのびのびできるように。非覚者が覚者を過度に恐れないように、だな」
 遥の意見を元に、覚者達は意見をまとめていく。その流れは『エンターテイメント的に魅せていく』方向に収まった。
「要するに、覚者の力を怖がらせなければいいのよ。ゲームやショウ感覚で見てもらうの」
「見た目は派手ですから、アピールは充分でしょう。ただやりすぎると……」
「そこはルール面で加減だろうな。実戦じゃなくスポーツなんだから」
「判定を視覚的にわかりやすくするのも重要ね。フェンシングみたいにランプがつくとか」
 …………。
 ……。

 様々な意見をまとめ、FiVEはそれを元に『覚者オリンピック』を計画していく。
 覚者の力を魅せ、覚者に対する恐れを消す。力の差はあれど、それはこんな素晴らしいこともできるのだという形に。
 その大会が実施される日は、そう遠くない未来――


■シナリオ結果■

大成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『カクジャンピック発案者』
取得者:鹿ノ島・遥(CL2000227)
特殊成果
なし



■あとがき■

 聖火マラソンからかなぁ、開始は。




 
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