吾輩だって猫である
吾輩だって猫である



 その神社には守り神が住んでいる。
 代々の神主一族は幼い頃から守り神の話を聞いて育ち、成長すれば神社と守り神の秘密を受け継いでまた次代へと伝えて行く。
「ああ……一体どうすればいいんだ……」
 胃薬を飲んでから弱弱しくため息を吐いた中年の神主。温和そうな顔を胃の痛みでしかめている彼も、そうして親から神社と守り神の秘密を受け継いだのだが……。
 幼い頃はいかにも神々しい存在に思えた守り神だったが、今の男にとってはもはや疫病神に等しい存在となっていた。
「お猫様が暴れそうだ! 誰か猫じゃらしを持ってきてくれ!」
 
 フシャー!

「ああっ、猫じゃらしが!」
「灯篭がー!」
 境内に満ちていた心地よい静寂を台無しにする叫び声。続く猫の怒声と破壊音。
「一体どうしたらいいんだ……!」
 神主の悲痛な叫びを尻目に、二回目の破壊音が響き渡っていた。


 午後の会議室。集まった覚者は久方 真由美(nCL2000003)の説明を聞き、思わず妙な顔をして今自分たちが聞いた内容を聞き返してしまった。
 その反応を十分予想していた真由美の方も困ったように説明を繰り返す。
「今回の依頼でやることは、要するに猫じゃらしです」
 神社を住処にする一匹の猫又。最初は神社に住み着いた普通の猫だったが、神社の気にあてられたのか長い年月を生きて猫又になり、今では神社で猫神様として祀られている。
 しかし、たとえ長く生きていても、人間と同じくらいの大きさになっていても、猫又だって猫である。たまには鼠を追い回したりじゃれたりしたいのだ。
「神主の一族も大事な御神体のためにと、自分達で退屈を慰めようと頑張っていたそうなんです」
 だが猫又はすでに普通の人間では手に負えない存在だった。
 肉球に挟まれただけて玩具はひしゃげ、猫パンチをくらおうものなら粉砕される。そもそも人間が動かす程度の玩具ではのろますぎてつまらない。 
 逆に欲求不満がたまって今や猫又の気持ちは「遊びたい」から「暴れたい」に変わりつつあり、すでに被害が出ているらしい。
「神主は伝手を頼ってようやくこちらにたどり着いたとかで、対応した職員に縋り付くような状態だったそうです……」
 この依頼を受けてもらえなかった場合、神主の胃と神社は粉砕され、長い間神社からその土地と人々を見守って来た猫神がどこかに行ってしまうかもしれない。
 だからと言って覚者に頼むか?攻撃なんてして猫又が死んでしまったらどうするんだ?口に出さなくても分かったのか、真由美は覚者達が質問する前にその疑問に答えた。
「この猫又は非常に頑丈です。皆さんが攻撃を加えた所で大した怪我は負いません。逆にやっと手ごたえのある遊び相手が来たと喜ぶでしょう」
 むしろ本気でやらないと覚者達が猫又に敗北する可能性だってある。
「気が済むまで遊んだらまたいつも通りの大人しい猫又に戻るでしょう。肉球に触るとご利益があるとそうですし、終わったらお礼代わりに触らせてくれるかもしれませんよ」
 困惑顔の覚者達に苦し紛れに言った真由美の顔も、結局最初から最後まで覚者たちと同じく困惑顔のままだった。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:
■成功条件
1.猫又と10分間全力で遊ぶ。
2.猫又の体力が尽きるまで全力で遊ぶ。
3.なし
みなさまこんにちは、禾(のぎ)と申します。
非常にコメディタッチな内容です。
動物が好きな方、神主の胃が心配な方、肉球ではたかれたいと言う方はいかがでしょう。

●注意事項
10分間全力で遊んで(戦って)あげて下さい。一人でも残れば依頼成功です。
時間内でも猫又の体力が尽きるまで戦った場合も成功となります。
全員倒れると依頼失敗なので、どちらを狙うかは皆さま次第です。

●場所
軽く散歩ができるほどの広さがある境内。
境内の周囲は雑木林に囲まれており外から中の様子は見えません。
地面は土がむき出しになっていますが、平らに均されています。
当日は関係者以外立ち入り禁止にしてあるので人が来る心配はありません。
多少荒れても神主さん達が頑張って直してくれるので大丈夫です。

●敵情報
呼称:お猫様
体長2メートル近くもある巨大な猫の古妖
元は神社に住み着いた三毛猫のオス。
首にしめ縄を巻き、二股に分かれたしっぽで榊と鈴を持っています。
神主一族との交流と神社と言う場所に影響されて猫又になりました。
人の言葉は話せませんが理解はできるようです。
本来は大人しい方なのですが、長年遊びたいのを我慢して来たために欲求不満になり、存分に遊べない事で余計にストレスがたまっています。

●スキル構成
肉球プレス(近単。大きな両手で挟み込む。柔らかくてもダメージは受ける)
のしかかり(近単。対象者に乗る。ダメージを受ける程重たい)
猫パンチ(近単。非常に強力な一撃。肉球は柔らかいのに痛い)

●おまけ
神主
細身で温和そうな容姿の中年男性。
お猫様をなんとか鎮めようと一族みんなで頑張りましたが無理でした。
ここ最近は胃薬が手放せない体に。
戦闘後、皆さんとお猫様のケアをしてくれます。


情報は以上になります。
皆様のご参加お待ちしています。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2015年10月03日

■メイン参加者 6人■

『五行の橋渡し』
四条・理央(CL2000070)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『白い人』
由比 久永(CL2000540)
『キャンディータイガー』
善哉 鼓虎(CL2000771)

●神社のお猫様
「フフフフー、にゃんこ~」
 いかにもご機嫌で雑木林の中を通された道を行く四条 理央(CL2000070)。猫が大好きらしい彼女。頭の中は猫又をモフモフプニプニする事でいっぱいのようだ。
「三毛猫のオスってすごい珍しいんやろ?それが古妖になるやいうてすごいな~」
 同じく猫大好きな善哉 鼓虎(CL2000771)も猫又と全力で戯れる気でいるようで、足取りがどこか浮き立っている。
「あなた方が依頼を受けて下さる覚者様ですね!」
 そろそろ道が途切れるかと言う所で、一人の男性が覚者たちに駆け寄って来た。
「依頼をお受け下さりありがとうございます! ささ、こちらに!」
 喜色満面で覚者たちを出迎えた中年男性。この神社の神主であり、今回の依頼主である。
 少々げっそりした顔に安堵の笑顔を浮かべ、覚者たちを神社の境内へと案内した。
「皆さまはここで少しお待ち下さい。今お猫様をお呼びしてまいります」
 そう言って神主は覚者たちを境内の真ん中あたりに残し、先にある社の中へ向かった。
「だいぶ苦労していたみたいですね」
 ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は神主の痩せた背中とよろける足元を気遣わしげに見送る。
「神主さんもですけど、お猫様だって大変だったっスよ。今までずっと遊ぶの我慢してきたわけじゃないっスか」
 基本的にこちらが遊ぼうとしても遊んでくれないと言うクールな態度が猫と言うもの。そう思っている宝達 はくい(CL2000837)は神主の胃を痛めつけるような事をしでかすお猫様の態度の意味をこう考えていた。
「つまり現状のこれは!! 遊んでくれとのラブコール!!!」
「守り神となっても猫は猫……ということか」
 はくいが出した結論に由比 久永(CL2000540)が軽く頷く。しかしその猫が2m級の古妖とあればそうそう気軽に遊べないと言うのも事実。特に先程の神主はごく普通の人間である。物理的にも能力的にも遊び相手を務めるのは無理があるだろう。
「まあ、俺達はお猫様が満足できるよう全力で遊んでやればいいさ」
 ゲイル・レオンハート(CL2000415)はここの守り神のにゃんこ、もとい猫又がストレスを溜めた挙句懸念された通りに神社を破壊し、いずれは討伐対象になってしまうと言う悲しみの連鎖を想像していた。可愛いにゃんこにそんな悲劇を迎えさせてなるものか。
 気合を入れたりわくわくしたりしながら待つ覚者たちの耳に、ちりん。と鈴の音が聞こえた。
 と。思った次の瞬間。そこには巨大な猫がいた。
 触らなくともふかふかしている事がわかる汚れ一つない白に二色の班がある体は大きく、実に全長は2m。長いしっぽは二股に分かれて、先につけた鈴と榊がゆらゆら揺れている。
 大きな手足を収めたいわゆる香箱座りをしながら、大きな金色の目が覚者たちを興味深そうに見つめていた。
「おっきな猫さんですね。守護使役も成長する事があるって聞いたけど、スペカもいつかあんな風になったりして……」
 と、ラーラがその大きさに思わず自分の守護使役がそのサイズになった所を想像した。
「こちらが当神社のお猫様でございます。皆さま、お猫様、私は下がっておりますので、存分に遊んで下さい」
 それではと覚者たちがお猫様に目を奪われている間に戻って来ていた神主が、境内の柵を乗り越えて雑木林の中に消える。
 すると、待ちかねたようにお猫様がむくりと起き上がり巨体に似合わぬ跳躍力で覚者たちの前に着地。四つ足で構えをとった。その様子は遊びたくてたまらないと言った所か。
「あたしなんて年がら年じゅう遊びたくて堪らないというのに……よくぞ我慢してこられましたな! 流石は猫センパイ!」
「よし。お猫様と全力で遊んで、満足してもらうぞ」
「終わったら、肉球触らせてもらおう」
「モフモフ~、肉球プニプニ~。早く堪能したーーい!」
 若干一名がすでに暴走しかけているような気もするが、ともあれお猫様と覚者たちの全力をかけた遊びが火ぶたを切った。

●お遊戯開始
 先手を取ったのはお猫様。これまでのストレスを解消せんと飛び出し、一番近くにいたはくいに向かって両方の前足を振り上げた。
 ばふん。と、大きな前足、いや肉球がはくいの顔面を挟み込む。「むぐ」か「むご」とか言う声がして、お猫様と同じく四つ足に構えていた手足から微妙に力が抜ける。
「はくいさん、しっかり!」
 もしや肉球で窒息したのかと慌てて攻撃を仕掛けたラーラの火炎弾はひらりと避けられるが、はくいはそのおかげで肉球から解放された。
 はくいの頬は赤くなっており、装備したクローが当たらないように頬に手を当てている。痛かったのだろうかとゲイルが声をかけた。
「おい、大丈夫か? 回復いるか?」
「肉球やわらかいっす……じゃなくて問題ないっす!」
 大丈夫そうで何よりである。
 お猫様もちっとも歪んでいないはくいの顔を見て嬉しそうだ。なにしろ今までちょっと力を入れただけでひしゃげたり千切れたりと言う玩具ばかりで、壊さないよう細心の注意を払って逆に気疲れしたくらいだった。
 これは遊び甲斐がありそうだと、再び地を蹴って居並ぶ覚者たちに真正面から飛び込む。
「おっしゃーーばっちこぉーーしゃーー! そんなヤワな肉球でやられる程あたしの後輩魂は甘くねぇっスよーー!!」
 肉球に吸収され打撃音が小さかっただけでダメージはあったはずだが、はくいは気合十分に叫んで挑発した。ただしちゃっかり蔵王を使っている。
「次はそう簡単にいかせへんでー」
「こっちもやる気十分だ。どこからでも来い!」
 同じく蔵王で防御を上げた鼓虎と、はくいに回復の必要がない事を確認したゲイルが飛び込んで来たお猫様の前に立ちはだかる。
 大小の壁を見たお猫様はぐぐっと後ろ足に力を入れ、ばねを利かせて跳躍。狙うは鼓虎の頭上だ。
「にくきゅうぷれすか?!」
「違、いやある意味違わないが、のしかかりだ! 避けろ!」
 何故か目を輝かせた鼓虎にゲイルが警告したが、時すでに遅し。
 2m級の猫の体重はいくらになるのか。お猫様は猫又であり普通の猫とは勝手が違うのかもしれないが、その重みは気軽に人の上に載せてはいけないものではあったらしい。
「ふぐぅ」
 中身を押し出されるような重みに漏れた声が濁る。大きな前足がしっかりと鼓虎の腹と更に顔の上にのっかり動きを封じていた。
 にゃー。と、まるで「とったぞー!」とでも言うようにお猫様が天に向かって鳴く。
「これはいかん」
 それを見た久永はお猫様の肉球と地面の隙間から見える鼓虎が若干幸せそうにしている気がしたが、がっちりと動きを封じているお猫様に向けてエアブリットを放つ。
 ぴしぴしと体に当たる礫のような感覚に、お猫様が久永を見た。
 しかし、その視線は攻撃して来る者に対する敵意ではなく、何か素早く跳んでくる面白そうな物を持った人間に対する好奇心に思えた。
「こちらの全力も向こうにとっては遊びか……なんともいえんな」
 無論最初からお猫様と遊ぶ事を前提に受けた依頼ではあるが、こうもあからさまに遊びと判断されると複雑なものである。
「ふむ……次はどこを狙おうかのぉ」
 なかなかすばしっこい動きに攪乱を考えるが、久永に続いて仕掛けて行ったゲイルとはくいの攻撃にも難なく反応し避けられてしまったのを見ると少々難しいかもしれない。
「元気が有り余っているみたいですね。どこまでできるか分かりませんが、精一杯遊んで差し上げます」
「回復持ち全員で回せばもつはずです。全力で遊びきりましょう!」
 ラーラ、理央もそれぞれの仕事に集中する。折角のもふもふとの時間を無理に早く終わらせる事もないだろうと言う思いもあったりした。

●うなるにくきゅう
 それは前衛のメンバーも同じだったが、かなりの確率で回避と高いダメージを叩き出すお猫様と直接対峙していればスキルだけでは回復しきれない疲労も溜まるのか、数分経つと疲労が見え始めた。
「倒れるんじゃないぞ! 戦闘不能になるとお猫様と遊べなくなっちゃうからな」
 自分も含め、削られて行く前衛の回復をしていたゲイルだったが、ふと気配を感じて振り向くと、視界いっぱいにお猫様が繰り出す肉球パンチが迫っていた。
 ぷにっとした物が頬に触れたのが先か、風を切る音を聞いたのが先か、すさまじい衝撃と共に世界がブレて、思わずゲイルは膝をつく。
「くっ……! いい、肉球だ……」
 猫パンチのクリティカルをまともにくらったゲイルだが、むしろ嬉しそうなのは何故だろう。
 そんなゲイルの様子に、後衛故にお猫様とまったく触れ合えていない者から不満そうな視線が飛んだ気がする。
 にゃー。
 お猫様の鳴き声もどこか嬉しそうだ。素晴らしくいい手ごたえにテンションが上がったのか、四つ足でしっかりと地面に爪を立てて踏ん張り、勢いを付けて駆け出す。
「きました、きましたよ!」
 猫が急接近して来るのを見て理央が盛り上がる。頭の中はお猫様をモフモフする事でいっぱいだ。 余韻に浸っているゲイルに癒しの滴を飛ばし、お猫様を迎え撃つ前衛には檄を飛ばす。
「しっかり立っててよ! じゃないとボクがにゃんこをモフれない!」
 本音を隠そうとしない理央の檄だったが、猫パンチの威力を目の当たりにした前衛は言われるまでもなくお猫様の全力のじゃれつきに対抗するため気合いを入れていた。
 理央達後衛に位置する者も、勢いを増すお猫様の攻撃に晒される前衛のサポートに全力を尽くす。
「好きなだけ猫さんをもふもふするため……じゃなくて、神主さんの健康を守るため、ここは一歩もひけません!」
 ちょっと本音がもれたラーラの手に火炎弾の炎が生まれる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 さすがのお猫様も火の塊は受けたくないのか、火炎弾を目にして慌てて避ける。
「犬を舐めんなシャーーオラーー!! 掛かってこぉーーらぁーー!!」
 そこを狙ってはくいがお猫様に突撃した。猛の一撃はもふもふと柔らかな被毛とその下のお肉に包まれたが、お猫様にしっかりとダメージを与えたようだ。
 にゃっ。と、お猫様が本日初めて焦ったような声を出してよろけた。
「やられてばっかじゃないでー」
「援護するぞ」
 鼓虎が攻め込み、久永がお猫様を攪乱するためエアブリットでランダムに狙いをつけて攻撃する。
 しかし、お猫様も攻撃されっぱなしではいない。ひらりと後衛からの攻撃をかわし、丁度蔵王の効果が切れた鼓虎に前足を振り上げる。
「今度こそにくきゅうぷれす?!」
 だから何故目を輝かせるのか。しかし、その期待の一撃はやってこなかった。
「ガードは俺に任せろ!」
 いつの間にか柵の方から交戦場所まで戻って来たゲイルが体力が低めの鼓虎とはくいに向かって繰り出されるお猫様の攻撃をガードした。
 顔が嬉しそうなのは仕方ない。何しろ受け止めればお猫様の前足の感触が味わえるのだ。
「これは助けなくてもいいですかね」
「いいかも知れませんね」
「にくきゅう……」
「これ三人とも」
 先程の猫パンチの時といい今と言い、全力でお猫様の感触を楽しんでいるゲイルにラーラと理央の呟きに、残念そうな鼓虎の顔。久永は苦笑するしかない。
 しかし、そんな時間も終わりが見えて来た。お猫様の様子が変わって来たのだ。
 それまで夢中で覚者たちに攻撃、もといじゃれついてきたのが徐々に勢いを無くし、不意にぴたりと動きを止めてしまった。
 これは?!と思わず次の行動を固唾をのんで見つめる覚者達の前で、お猫様がにゃー。と、一声鳴いてその場に座る。
 ゆらりと揺れるしっぽと細められた目は「満足である」とでも言いそうだ。
「どうやら満足してもらえたようだのぉ」
 久永の一言に応えるように、お猫様はぐるると喉を鳴らして覚者一人一人に体を擦り付けると、しっぽを揺らしてちりんちりんと鈴を鳴らした。
 短いような長いようなお遊びの時間の終了である。

●ごほうび
「おお……お猫様、ご満足いただけましたか」
 鈴の音を合図にがさりと柵の外の木立が揺れ、神主が現れた。大きな傘と丸めた敷布や衝立を背負っており、柵を越えて来たかと思うと手際よく野点のような場所を拵えた。
「皆様さぞお疲れになったと思います。どうぞこちらでお休み下さい」
 初対面の時はげっそりとしていた神主の顔は安堵が溢れ、にこやかな笑顔で覚者たちをねぎらうためにお菓子や飲み物を広げて行く。もちろんお猫様用の準備も怠っていない。
 クッキーを食べていたゲイルも広げられた和菓子に興味を引かれたのか、残りをしまって座る。
 お猫様は覚者たちより先に敷布の上で丸くなっていた。その様子からは覚者たちをして苦戦させられた荒ぶる姿の名残は感じられない。
 本当に満足してもらえたのだと分かり、疲れた体に染みわたる飲み物とお菓子の甘味がより心地よく感じられる気がした。
「フフフ、モフモフ、プニプニ……」
 そんな中、丸くなったお猫様のふかふかぶりについに我慢ができなくなったのか、理央がいきなりお猫様に突撃した。
 そして遠慮なく沈み込みそうに柔らかな毛並みと肉球の感触を堪能し始める。
「モフモフ~、肉球プニプニ~」
 本当に遠慮がない。お猫様はいきなりの突撃に一瞬目を丸くしたが、撫でられる感触は嫌ではなかったのか大人しくもふられる事にしたようだ。
「猫センパイばかり遊んで貰ってズルいっす! あたしも遊んで!」
 理央のもふりっぷりに触発されたのか、続いてはくいがお猫様に突撃。小柄な彼女はより深くお猫様にうずもれて見えた。
「普段はこんなにいい子なんですね」
「せやなあ。うちらも頑張ったし、満足してくれたー?」
 二人の遠慮のない行動にも動じないお猫様を見て、ラーラと鼓虎の二人も思い切って抱き付いていた。柔らかく温かいもふもふが何とも心地よい。
 いくら普通の猫と比べて大きいとは言え人間四人に抱き付かれさらにもふられていると言うのに、お猫様は目を細めて気持ちよさそうにしている。
「本当に満足してもらえてよかったよ」
「うむ。敵意のないものに刃を向けるのは気が引けたが……こうも満足してもらえるなら、その甲斐もあったなぁ」
 もふられる内に気分が良くなったのか、だらりと伸ばされた前足の肉球を堪能する久永とゲイル。よく見ればゲイルの守護使役の小梅までお猫様の肉球をぷにぷにしている。
 久永は後衛にいた事もあって特に触れ合えなかった分を取り戻すかのように肉球を堪能し、前足の柔らかい被毛を撫でて感触を楽しんだ。ゆらゆら揺れるしっぽが時々かすめて行くのがくすぐったい。
 なんとも言えないなごやかな空気の中、もふりぷにりお菓子を食べ、心身ともに癒されるもふりタイムはしばらく続いた。

「皆様、本日は本当にありがとうございました」
 もふりタイムを堪能した後、覚者達は境内の入口に並んでお猫様と神主の見送りを受けていた。
 その後ろでは荒れた境内を均す神社の関係者たちが働いているのが見える。
「私どもは少しお猫様を遠くに見過ぎていたようです。心を改め、お猫様をお世話していきます」
 神主は胃痛の種となったお猫様にも変わらぬ信心を誓い、同時に信心が先立って少し壁となっていたお猫様との関係を見直したようだった。
「……お主は愛されておるな」
 一人と一匹の様子に、久永は少しばかり過去の自分との違いを思う。
「お主の気持ちも分からんではないが、あまり神主達に迷惑をかけるでないぞ」
「また遊んでほしくなったら呼んでください。神主さんをあまり困らせちゃだめですよ?」
 久永とラーラの一言に、お猫様はにゃーと鳴いたが、どこまで分かっているだろうか。
「猫センパイはまた遊んでくださいね! はいターーッチ!」
 はくいの肉球タッチを皮切りに、覚者たちはそれぞれお猫様に別れの挨拶と、また遊ぶ約束をする。
 最後に改めて感謝の意を示し頭を下げる神主にも別れを告げ、雑木林の道を歩く覚者達。たっぷりと堪能したもふもふの感触を思い出しながら、それぞれの帰路に就いた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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