≪嘘夢語≫撮影を終えて
≪嘘夢語≫撮影を終えて


●夢か現か
 3月も終わりを迎えた日のこと。
 太陽が沈み、あなたは寝床に伏せると、嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢いつものように嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢ふかい眠りの中へ嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢どんどんと嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢夢嘘夢嘘夢落ちて嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢


 夜。都内の某ホテル宴会場にて。
「それでは、『アラタナル』の撮影完了を祝い、乾杯!」
 番組プロデューサーの一声を合図に、会場のグラスが一斉に鳴った。

 「アラタナル」は、夜の時間帯に放映されているテレビドラマのタイトルだ。前期、今期と予想を上回る視聴率を叩き出していて、スポンサーの受けもいい。
 会場に集まっている顔ぶれは様々だ。番組のプロデューサー、役を演じた俳優、撮影スタッフ、代理店の社員、雑誌の記者……今夜のこの席は、今シーズンの撮影を無事に終えたスタッフ達に対する、スポンサーからのお祝いであり、労いの席なのである――


 夢見の久方 相馬(nCL2000004)を演じた少年が、テーブルでぺこりと頭を下げた。
「お疲れ様ッス、『姉さん』!」
「ん~? お疲れ様ですよぉ、『弟』く~ん♪」
「あれ、『妹』は?」
「あっちで『司令官』とお話中でーす」
 少年が「姉さん」と呼ぶ相手は、皿に盛ったスイーツに舌鼓を打つ対面の女性――久方 真由美(nCL2000003)を演じた俳優である。
 一緒に仕事を始めてかれこれ2年だが、いまだに彼女――真由美の撮影時とオフ時のギャップに、少年は面食らう事が少なくない。
「モンブランおいしいもぐもぐ」
(あの久方真由美を演じてる女優が、普段はこんなキャラだなんてよ……ふつう想像しねえよ……)
 性格は温厚かつマイペース、蝶々が舞う春の日差しのようなオーラを決して崩さない。
 そんな彼女だが、相馬にとっては雲の上の存在であった。何しろ小学生の頃から業界で生きてきたベテランで、キャリアでも知名度でも、彼のそれを遥かに凌ぐ。相馬にとっての彼女は、頼れる先輩であると同時に、憧れを抱いた年上の女性なのである。
「姉さん、来期もよろしくお願いします。俺、ホント頑張りますんで」
「弟くん、このショートケーキあげる! 美味しいよ!」
(聞いてる?)
 ふわふわとした真由美の笑顔に、相馬がガックリと肩を落とす。
「ホント、完璧超人の姉さんが羨ましいッス。才能があって、現場の人達にも慕われて」
「そんな事ないよぉ~。私から才能取ったら、何にも残らないから」
(真顔でそんなセリフ吐けるの、姉さんくらいのもんッスよ)
 相馬は溜息とともに、手にしたフォークにカルボナーラを巻きつけた。
 ラーメン好きというのは、あくまで「久方相馬」の話。「素」の彼はパスタ派なのである。
「ねえ弟くん。撮影中、キツいこととかなかった?」
「俺はなかったッスけど……中には苦労した人もいたみたいッスね。特に、『変化』役の人とか」
 変化というのは、劇中で用いられる設定のひとつである。この因子を持っている役は、因子発現時と非発現時で外見の年齢が変わるため、撮影にかなりの時間と手間がかかったそうだ。
「口調はもちろん、小さな仕草もかなり煩かったらしいッスよ。2人で1役ッスから――」
 そこまで話して、相馬はふと思い出した。
 今夜ここに出席しているであろう彼らのこと。
 「FiVEの依頼」で幾度も顔を合わせた、「覚者」の皆のことを。
「姉さん。挨拶行ってきます」
「まだ行ってなかったの?」
「すみません。終わったらすぐ戻るッス」
 そう言って相馬は席を立つと、あなた達の座るテーブルへと向かった。


嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢
嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢
嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢

「ククク……こりゃあ美味そうな夢じゃあないかい……」
 悪夢にうなされるあなたの寝顔を、涎を浮かべた獏が見下ろしていた。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:坂本ピエロギ
■成功条件
1.架空ドラマ「アラタナル」の出演俳優として、パーティーを楽しむ
2.なし
3.なし
●エイプリルフール依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。

※要約すると夢の世界で盛大な嘘を思いっきり楽しんじゃえ!です。

●シチュエーション
参加者はテレビドラマ「アラタナル」の出演俳優として、パーティーに出席しています。
本シナリオの遊び方を少々メタに説明するならば、
「『ふだんシナリオで演じているキャラ』を演じている俳優を演じる」というものです。

俳優の経歴や、番組に参加した経緯。キャラへの愛着などを語るもよし。
キャラと素の俳優のギャップを演じるもよし。「相馬」や「真由美」と絡むもよし。
実生活が貧乏という設定で、会場での飲み食いに興じるもよし……
普段のシナリオとは一味異なるロールプレイを、どうぞお楽しみ下さい。

●ルール
1.
本シナリオでは、キャラクターのパーソナルデータ(身長、体重、血液型等)は「俳優」の、
キャラの名前、性格、出自、守護使役、技名などは「役」の設定として扱われます。
後者の設定については、原則として番組側が作ったという扱いになっていますが、
俳優の提案で作ったという形にしたい場合は、プレイングにてご指定ください。
指定があった場合、そちらを優先して描写します。

2.
役とは別に俳優の口調(語尾など)を設けたい場合は、プレイングでご指定ください。
指定がない場合、キャラクターシートの設定に準拠した口調で描写されます。

3.
現の因子等で外見年齢が変化するキャラクターの場合、
2人の役者(例:子供役と大人役)が1役を演じているものとして扱われます。
(この場合、必ずしも2人揃ってパーティに参加している必要はありません)

4.
特定のキャラとの絡みを希望される場合、キャラの名前とIDを、必ず相互にご記載下さい。
NPCは久方家の3人、中司令、ピエロギが所有するNPC(参河 美希)の5名のみ可能で、
こちらはIDを記載する必要はありません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
8日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年04月18日

■メイン参加者 6人■

『相棒捜索中』
瑛月・秋葉(CL2000181)
『花守人』
三島 柾(CL2001148)
『星唄う魔女』
秋津洲 いのり(CL2000268)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『居待ち月』
天野 澄香(CL2000194)


「それでは、『アラタナル』の撮影完了を祝い、乾杯!」
 プロデューサーが杯を掲げると、会場のグラスが一斉に鳴った。


「かんぱ~い! ……ふぅ。やっと今期の撮影も終わったわね~」
 年若い黒髪の少女――『星唄う魔女』秋津洲 いのり(CL2000268) 役の女優――は、ぐったりした様子で椅子に座り込んだ。椅子の背にもたれ、だらしなく天井を見上げる姿には、役で演じた「優しく誇り高いお嬢様」の面影は微塵もない。
「ほーんと、疲れるったらありゃしない。ド庶民の私がお嬢様キャラなんて」
 実際、今の彼女は骨の髄までくたくただった。原因は他でもない、「いのり」の設定にある。
 旧華族出身のお嬢様、これはまあいい。
 心優しく、誇り高い性格。月並みな感は拭えないが、これもまあ許せる。
 しかし、あの「~ですわ」という取って付けたような口調。これが納得いかない。
「何なのあの口調。今時あんな喋り方するお嬢様なんて漫画か小説の中だけだっての!」
 仕事から解放され、いのりはストレスのはけ口を周囲に向けた。
「ほらマネージャー、ぼさっとしてないで早くジュースとお菓子とってきてよ!」
「ごめんなさい。ちょっと待っててね」
 この辺りはマネージャーの女性も慣れたもので、スッと頭を下げて注文を取りに行った。
「やーだやだ。早くスターになって、仕事が選べる身分になりたいなあ」
 大きなため息をつくと、いのりはテーブルの向かいに座る少女に視線を送った。それは、もうひとりの「いのり」――アラタナルで、覚醒時のいのりを演じた少女である。
「ほんと、この仕事って大変ですよねー」
 年下のいのりは、営業スマイルを浮かべながらケラケラと笑った。下らないとは思っているが、この業界は人間関係が全てだ。社交を疎かには出来ない。
「いつも思うんだけど口調や何かはともかくあの恰好、恥ずかしく無いですか?」
「全然。仕事だからね」
 話は終わりとばかり、年上のいのりは年下のいのり背を向けて、スタッフの方へと離れていった。2人の間は、あまり良好とは言い難いのだ。
(あの人高校生よね。私なら恥ずかしくて学校いけないけど。あれがプロ根性なのかな?)
 そんな事を考えていると、マネージャーがジュースとお菓子を手に戻ってきた。
「お待たせ」
「遅いのよ! 何年私のマネージャーやって――」
「や、『いのり』ちゃん。取り込み中だったッスか?」
「あ、お兄ちゃん! お疲れ様」
 マネージャーと一緒にやって来たのは、相馬を演じた俳優であった。お互い何度か共演した程度の間柄だが、いのりは好きで相馬をそう呼んでいる。
「撮影、どうだった? 子役は大成しないとかよく言われるけど、お兄ちゃんも正念場だよね」
「……ハハッ。手厳しいッスね」
「私も子役のままで終わる気はないし『真由美さん』みたいに活躍できる女優さんになりたいもん。お互い頑張ろうね!」
 素のいのりは、誰に対してもズケズケとものを言う性格だ。無駄に敵を増やす性格と言ってもいいだろう。そんな彼女も、相馬にはつい本音を漏らしてしまう。
「さて、それじゃ私も他の皆やスタッフさんに挨拶回りしてくるかな!」
 グラスのジュースに口をつけると、いのりは相馬の服を引っ張りながら、スタッフの人込みへ入っていった。
「ねぇねぇ、『バロックナイト』の新作もうプレイした?」
「ステージ2の初見殺しボスで詰まったままッスね」
「ああ、あのボスはね……」


「おつかれさまでした」
「お疲れ様でしたー! やっぱり『澄香ちゃん』のクッキーは美味しいね!」
 『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)を演じた少女が、『運命の切り札』天野 澄香(CL2000194)役の少女からプレゼントされたクッキーを笑顔で頬張った。
 劇中では大学生を演じたふたりだが、役者としての彼女達は、どちらも中学生。お菓子を食べながら談笑するその姿は、年頃の少女そのものだ。
「『澄香ちゃん』、演じてみてどうだった?」
「難しかったです。見た目はそのままで、中身は大人ってところが……」
「そうなの? 澄香ちゃん子役でキャリア長いから、意外かも」
「親の趣味なんですよお。児童劇団に入れられてずーっと」
 小さなため息とともに、澄香はテーブルに突っ伏した。
「普通の学生生活送ってた方が、演技の引き出し増えそうなのになあ」
 思い切って子役のイメージを変えようと、偶然舞い込んだアラタナル出演のオファーに飛びついた澄香だが、なかなか思うようにはいかないようだ。
「『ミュエルちゃん』はどうでしたか? 演じてみて」
「私は特に苦労しなかったけど……あえて言うならアクションシーンかな」
 そう言ってミュエルは、短く切り揃えた金髪をさわさわと撫でた。
「私、地毛がショートヘアだから、ロングだとカメラ映りがぜんぜん違って。最初は慣れなくって大変だったよ」
「ミュエルちゃん、大人っぽいキャラですよね。頼れるお姉さんっていうか」
「そうかな? 等身大の女の子って感じで、私は安心して演じられたよ。成長するミュエルを演じてると、私もお姉さんになれたみたいで楽しくって!」
 えへへと笑うミュエルを見て、こういうところは真似できないと澄香は感嘆の溜息をつく。役になり切る憑依型のミュエルとは違い、澄香は技術や理論が先行するタイプなのだ。
「カントクが、『自分の理想のお姉さんになったつもりで』って言ってくれたから、そんな感じで優しいお姉さんにしたつもりだったけど、上手くできてたかなあ」
「もちろん! 私、凄く勉強になったもん」
 目を輝かせて言うミュエルに、澄香はくすりと笑う。入った当初はスタッフと上手くいくか不安だったが、有難いことにミュエルも他の役の人達も、素敵な人達ばかりだった。
「役作りで助かったのは、『澄香』が料理得意って所。あたしも、お菓子は作るの得意なんです!」
「澄香ちゃんが実際に作ってきてくれたケーキが一番おいしかったなぁ」
「あたし、自分のシーンの消えモノ(※撮影で使われる消耗品のこと。料理も含まれる)とか、全部手作りだったんじゃないかな?」
「回が進むにつれて、どんどんレパートリー増えてったよね。澄香ちゃんのクッキーって、食べてるとほっとするよ」
 アラタナルでは調理師の資格を持つ澄香だが、実際の彼女も料理の腕はプロ顔負けである。料理好きな彼女のことだ、きっと他のスタッフの分も持ってきていることだろう。
「そういえば澄香ちゃん、相馬君にはクッキー渡したの?」
「まだです。どこにいるかな~?」
「あ、あそこにいるよ!」
 ミュエルが指差した先を見ると、いのりに引きずられるように歩く相馬の姿が見えた。


「『アラタナル』の撮影完了を祝い、乾杯……と」
 薄紫色の髪の男が、洒落た仕草でグラスのワインを掲げた。
 彼の名前は宇佐見・亨(うさみ・わたる)。『相棒捜索中』瑛月・秋葉(CL2000181)を演じた役者だ。舞台畑の人間で、下ネタ交じりのトークが大得意。三十路は超えたその眼には、子供のような悪戯っぽい光がある。
「さーて、と。一人で飲んでてもつまらんし、挨拶回りといきますか……おや?」
 グラスを手に会場をぶらついていると、亨の見知った顔が見えた。共演者に挨拶しつつ、会場の隅で黙々と食事をしている男だ。『花守人』三島 柾(CL2001148)を演じた俳優で、本名を片倉皐月(かたくら さつき)という。
「皐月ちゃーん、お久しぶり~」
「………………どうも」
 亨の声を聞いて、皐月はヘビに出くわしたカエルのような顔になった。彼は劇団の先輩である亨が大の苦手なのである。
「大声で呼ばんといてくれ、俺の名前」
「そんな目で見ないでー。僕は皐月って名前好きよ? 可愛いし」
「ほんまあんたはうっさい」
 マイペースで絡む亨に辟易した顔で、皐月は眉をしかめた。
(人多いなぁ。はよ、帰りたい)
 熱血漢である柾のキャラとは正反対に、素顔の皐月はインドア派である。亨と違い、こういう華やかな場所は苦手でならない。出来ることと言えば、極力目立たず、料理を黙々と口に運ぶくらいだ。
「にしても皐月ちゃん、ほんとここのメシは旨そやなあ。目移りするわ」
「嘘つけ。さっきから全然別の方見とるクセに」
「バレた? ん~目の保養ですわ、若さとか胸とか胸とか」
 亨が視線を送っているのは、皐月の向かいに座る、『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215) を演じた女優である。
「あら、こんばんは。『秋葉くん』」
「こんばんは、先生。女教師というジャンルは発明やと思いますねえ。宇佐見です」
「シルフィアさん。先輩の言う事、あんまり気にせんといて下さい」
「堅物やねえ。モテへんよ、皐月ちゃん」
「いいじゃない。私、堅物の男性って好きよ」
 シルフィアが教師の顔で、にっこりと笑う。清楚と妖艶が同居した、ぞくりとする色気だった。最初こそ演技の「え」の字も分からなかった彼女も、ここ最近めきめきと力をつけている。
「シルフィアさん、確かグラビアさんでしたよね。慣れないことも多かったんとちゃいますか?」
 顔を赤くする皐月に、シルフィアは小さくかぶりを振る。
「全然。宇佐見さんには色々教えてもらいましたから。本当に色々」
「えっ」
 反射的に声をあげ、すぐさま皐月は後悔した。
 恐る恐る横に視線を送ると、亨が笑っているのが見えた。それはもう、愉しそうに。
「皐月ちゃん、何想像しとるん。スケベやなあ」
「…………」
 皐月は己の迂闊さを呪った。思い返せば、確かに亨は教えていた。
『新人との仕事は、僕にとっても刺激になる』
 そう言って、亨がシルフィアを含む沢山の新人キャスト達に、現場の指導係を進んで買って出ていたのを、今の今まですっかり忘れていたのだ。
(ま、まあ面倒見のいい先輩なのは確かやし。俺も昔は色々世話に――)
「シルフィアの普段着はえっちぃ、うさみん知ってる」
「オイィ!?」
「もう、皐月ちゃん。冗談に決まってるやないの」
 笑いながら肩に腕を回してくる亨を見て、皐月は悟った。完全な絡みモードだ。役者として尊敬している部分も多い亨だが、彼の絡みだけは全く慣れることができない。
(ほんまに、これさえなければなあ……気にかけてもらえるのは有難いやんけど)
「てなわけで! 弄りがいある後輩なんで皆さんどんどん! つっこんでいきましょ!」
「……『皆さん』?」
 嫌な予感を覚え、亨の視線をそっと追いかける皐月。するとそこには――
「飲み物、足りなさそうッスね。すぐ取って来るッス」
 空気を読んで、さっと離れる相馬。
「私、難しい話は分かんない。あ、お兄ちゃん、私も一緒に行っていい?」
 全開で猫を被りつつ、ちらちらと皐月と亨に視線を送る、いのり。
「大丈夫です、何も聞いてませんから。あ、クッキー食べますか?」
 にっこりと笑顔で微笑む澄香。
「これがいわゆる『男は狼』ってやつだね。凄い!」
 目をキラキラと輝かせ、真顔で言い放つミュエル。
(あかん、やられた)
 皐月は恨みがましい目で、亨を見た。
 この先輩の、こういうところが、本当に苦手なのだ――


「……てなワケで」
 面子が揃ったのを見届けて、亨が話を切り出した。話題に上げたのは、撮影時の思い出である。
「どうやったん? 皐月ちゃん」
「どうやったんって、何が」
「『三島サン』ですよ。きみみたいな大人しいコにはしんどかったんちゃう?」
「熱血タイプキャラは滅多にやらんからな。しんどい部分はあったけど、出られて良かった思うね。戦闘シーンはいまだに苦手やけど」
「戦闘は僕も大変やった。両腕で20kgぐらいの武器つけとったし。ほんまに重くてなあ」
 撮影のあった次の日は、筋肉痛でしんどかったわ――そう言って笑う亨の話にいのりが加わる。
「戦闘シーン、皆楽しそうだったわね。私は覚醒時は別の人が演じてたから……シルフィアさんとか、どうだったの?」
「私も同じかな。撮影は日常パートがメインだったし。ただ、飛行シーンの撮影は緊張したわ」
 飛行シーンの話題に、澄香がうんうんと頷く。
「あたしも。最初は高くて怖かったですけど、いざ羽を外していい、って言われると寂しいですね」
「そうか、澄香ちゃんとシルフィアさんは翼人やったねえ。ミュエルちゃんは?」
「私は全然! 守護使役のレンゲさんが凄く可愛くて、毎回楽しみだったよ!」
 本物そっくりのマスコットを取り出してみせた。ファンの子が作ってくれたらしい。ストラップ、ぬいぐるみ、枕……最近では、色々なグッズを貰うという。
「ドラマに出てから、ファンの子がプレゼントをくれる機会が増えたんだよ」
「羨ましいッス。俺なんか、毎回ラーメン屋の割引チケットとかッスよ。パスタ派なのに」
「あー。役と役者がイコールに間違われる話は、よう聞くねえ」
 頭を抱える相馬を、そっと皐月が慰めた。熱血キャラを演じた皐月にとっても、他人ごとではない話だ。
「しかし皆、プロやなー。すごい役者さんぎょうさん出てくるドラマやったから、俺も勉強になる部分が多くてありがたいわ」
「ほんまやね。その点皐月ちゃんは生真面目だから、録画とか見直して、その日の晩に『こことかこうすれば上手く演じられたのにうわあああ』とか頭抱えてるんちゃう?」
「宇佐美さん、酒なくなってますよ」
「あー、図星かあ。皐月ちゃん」
「うるさいわ」
「グスン。なら、つれない後輩は置いといて。皆は役作り、どうやった? 澄香ちゃんとか」
「大変でした。すっごく」
「意外やねえ。なんで?」
 即答する澄香に、亨は興味を抱いた。彼女は役とのギャップをあまり感じない方だが、どんな苦労があったのだろうか。
「だって、あたし大学とか行った事ないんですよ! 学校見学に行ってみたりもしたけど、実際の学生じゃないからなんか現実的じゃないって言うか」
「見学か。優等生やねえ、澄香ちゃんは」
 亨はカラカラと笑った。彼女は本当に真面目な人間のようだ。ふと澄香の顔に、皐月の拗ねた顔が重なって見えた。
「鬱陶しい親がいない、時間は自由に作れる、手にした金も好きに使える。僕やったら、授業なんかよう行かんなあ」
「じゃあ、どこに行くんです?」
「知りたい? ほんなら、その辺をじっくりと――」
「宇佐見さん、子供に変なこと吹き込まんと」
「つれないなあ、皐月ちゃんたら。うさみんって呼んでなぁ~」
「こんな大人になったらあかんよ、君達」
「ヒドッ! 皐月ちゃん」
「真面目な話、あんたはどうなん? 秋葉演じてみて」
「秋葉は演じやすかったですね。気さくなお兄さん! 普段の僕そのものやないですか」
「ハハッ」
「何その返し!? ……まあ真面目な話、現場の空気も、舞台とはまた違っていて新鮮でした。やり直しがきくって素晴らしい。その分納得がいくまでやらせてもらいました」
 もう少し秋葉の趣味である歌舞伎鑑賞を生かした台詞を入れたかった――というのは亨の弁だ。
 それを聞いたシルフィアが、悩ましげにため息をつく。
「私は演技は素人だし、全部手探りだったわ。俳優とか女優の皆は、ほんと凄いわよねぇ……」
 後で知った話だが、シルフィアにオファーが来たのは、キャラ設定に合う人材が彼女しかいないという理由だったという。
「スタイルが良くて、低身長で、日本語が達者で酒が飲める外人なんて、そうそういないわよね。ウチの社長は大喜びだったけど」
 ちなみにシルフィアの日本語は、祖父から教わったものだ。祖父は日本人ではないが、日本文化に精通しており、時代劇などが大好きなのだという。
 それを聞いて、ミュエルが目をきらきらと輝かせた。
「そういえばシルフィア先生ってグラビア出てるんでしょ!? 凄い! 私でも買える雑誌かな?」
「もちろん。青年誌のグラビアだから、コンビニや書店に行けば誰でも買えるわよ」
 シルフィアの話では、ちかぢか出るグラビア誌に小さくだけど載るらしい。興味があったら買ってみてね、と営業努力を忘れないのは流石といったところか。
「いいなー。私も大人になったらシルフィア先生みたいな体型になりたいなー」
 羨望の眼差しを向けるミュエルの背後では、会場を後にするスタッフがちらほらと見え始めた。どうやら、そろそろ宴もお開きのようだ。
(終わっちゃうのなんだか寂しい……また、会えるかな)
 しんみりした気持ちで澄香がクッキーを配ると、ミュエルがにっこりと手を振った。
「澄香ちゃん、今度一緒に遊ぼうねっ!」
「はい。また競演できたらよろしくお願いします!」
 亨や皐月、いのりにシルフィア、相馬も笑顔で席を立った。
「今日は楽しかったわ。ほな」
「お疲れ様です。ぜひまた一緒に」
「次は必ず、主役で出てやるわ!」
「グラビアの方も、興味あったらよろしくね♪」
「皆さん、お疲れ様ッス!」

 こうして彼らの嘘夢嘘夢楽しい嘘夢嘘夢嘘夢夜は嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢そっと嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢その幕を嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢下ろした嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢


嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢
嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢嘘夢

「はっ!」
 ふと気づくと、あなたはいつもの寝床で朝を迎えていた。
 役者ではない、FiVEの覚者として。
(あの夢は、一体……)
 夢というにはあまりにリアルな現実感。気づけば、寝間着が寝汗で濡れている。
(早く忘れよう。あれはただの夢。自分はFiVEの覚者なのだ)
 あなたは疑念を振り払い、朝の支度を始めた。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし




 
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