休日の過ごし方を描く依頼
●なんでもなーい休日のなんでもなーい風景
ユアワ・ナビ子(nCL2000122)の朝は遅い。
お昼のニュース番組が終わった頃になってのっそりと布団をはいで、スマホを起動しつつ布団の中でツイートを見るのが日課である。
といってもこれは、休日の日課だ。
「おー、たわわにみのってらっしゃる。月曜日はこれだけが楽しみで……」
どーでもいいことを言いながらむっくり起き上がる。ファイヴの夢見にカレンダーは無いが、休日くらいはある。はずだ。ナビ子は基本的に仕事をサボるので『安心してサボれる日』でしかないのだが。
「さーて今日はなにするかね。一日中アニメみながらソシャゲに明け暮れてもいいし、ファミレスでだらだらしてもいいしー」
冷蔵庫を開く。
スライスチーズとシリカゲルしか入っていない。
「とりまメシかな……」
ファーストフードがいいなーとかいいながらテキトーな服に袖を通し、キャップを被っていざ外出。
今日は休日。
予定はナシ。
なにげない一日の始まりである。
ユアワ・ナビ子(nCL2000122)の朝は遅い。
お昼のニュース番組が終わった頃になってのっそりと布団をはいで、スマホを起動しつつ布団の中でツイートを見るのが日課である。
といってもこれは、休日の日課だ。
「おー、たわわにみのってらっしゃる。月曜日はこれだけが楽しみで……」
どーでもいいことを言いながらむっくり起き上がる。ファイヴの夢見にカレンダーは無いが、休日くらいはある。はずだ。ナビ子は基本的に仕事をサボるので『安心してサボれる日』でしかないのだが。
「さーて今日はなにするかね。一日中アニメみながらソシャゲに明け暮れてもいいし、ファミレスでだらだらしてもいいしー」
冷蔵庫を開く。
スライスチーズとシリカゲルしか入っていない。
「とりまメシかな……」
ファーストフードがいいなーとかいいながらテキトーな服に袖を通し、キャップを被っていざ外出。
今日は休日。
予定はナシ。
なにげない一日の始まりである。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.休日を過ごす
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
休日になにをしているのか、今回はちょこっと考えてみましょう。
日頃ファイヴのお仕事で悪い奴と戦ったりオバケ退治したりで飛び回る皆さんですが、休日になればただのヒト。
アルバイトをしてみたり、友達と遊んでみたり、ショッピングに興じてみたり、域の抜き方もさまざまでしょう。
示し合わせるでもなければ完全に個別のパート構成になると思いますので、相談では今まで見た中でおもしろかった映画とか語り合っててください。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
6/6
公開日
2017年03月20日
2017年03月20日
■メイン参加者 6人■

●『ベストピクチャー』蘇我島 恭司(CL2001015)と『スピードスター』柳 燐花(CL2000695)の休日
二人がけのソファに身を沈めた日曜日。
窓からさす光が暖かい季節になって、肩の出やすいセーターなんかも着やすい時期になってきた。
しかし、『肩を出すとどう見られるだろうか』なんてことを考えるのは、季節ゆえとは思えない。
燐花はそんな風に考えながら、スマートホンの画面をおそるおそるつついていた。
「はは、そんなに強くつつかなくていいんだよ。軽く触れるだけで反応するからさ」
横で軽々と親指スワイプをする恭司に、燐花はどこかしゅんとした表情をした。
表情というか、耳がわずかに動くのだが。
「まあ、慣れないものを扱うと加減に困るよねえ」
苦笑する恭司。
思えば彼はいつも苦笑しているように思う。苦そうなコーヒーを飲んで、苦そうな煙草を吸って、苦そうな顔をするのだ。
大人の象徴のようで、男の象徴のようでもあった。
思えばリビングで煙草を吸わなくなったのは、いつからの話だろうか……?
「うん? なんだい?」
振り向かれて、燐花は自分が顔を近づけすぎていたことに気づいた。
引っ込めるように身体を戻す。
「すみません、手元をみようとして、つい」
つい、なんだろう。
言葉を探してから、再び手元を見やった。
「慣れて、いらっしゃるんですね」
「まあね。海外じゃ持ってて当たり前だし、僕みたいな仕事をしてると必須アイテムになるからね。仕事の連絡がこっちに来ることもあるんだよ?」
日本向けに発売された『スマートホン用有線LANポート接続タップ』とかいうガラパゴスの極みめいたアイテムは、今の日本に必要ない。
なんでも主要携帯会社は電波妨害時代にも地道に基地局の設置に努めていたらしく、電波妨害が解除されたとみるや急ピッチで各公共機関への接続も完了させたとかなんとかいう話である。いつか霧が晴れることを期待していたのか、先を見据えた情報強者が居たのか、どちらにせよありがたい話である。
本来スマートホンなんてものは、燐花のような女子中学生が持っていて当たり前のアイテムなのだ。
「私に使いこなせるでしょうか……」
「別に隅々まで使いこなさなくていいんじゃないかな。メールと電話と、あといくつか好きなアプリが使えれば充分だよね。ツイートSNSとか」
「つ、つい……?」
「ごめん、電話だけでも充分価値があると思うよ」
あとはおいおい知っていけばいいよ、と言って燐花のスマートホンに自分の電話番号を登録した。
『よく使う番号』に恭司の名前が表示されていることに奇妙な高揚を感じつつも、燐花はスマートホンを両手で持って翳した。
「あの、一度お電話してみたいのですが」
「ここでかい?」
「……構いませんか?」
新しいガジェットを手に入れてテンションが上がっているのだろうか。などと考えつつ、恭司は快く頷いた。
「じゃあ僕から電話をかけるから、燐ちゃんは二階に行ってみてね」
燐花は思い立ったら早い子である。飛ぶように立ち上がると早歩きで二階まで上がっていった。
足音が充分遠ざかったことを確認して、登録した番号の中から燐花の項目をタップしてダイヤルする恭司。
今時『ダイヤル』って言葉のニュアンスが通じる子供いるんだろうか。回転入力式の黒電話とか博物館にあるアイテムぞ。歴史資料ぞ。
……とか思っていると、初期設定された着信のベルがこっちに向かって近づいてきた。
リビングの扉があき、燐花が耳と片目だけをのぞかせる。
「あの……どうやってお応えしたらいいのでしょう」
ああ。
そういえば初めてスマホを持ったときも似たことで慌てたなあと、恭司は頷いた。
燐花、十五歳。
生まれたときから電波妨害が日本にあって、携帯電話などなくて当たり前の生活を送っていた娘である。
手のひらに収まるような板を耳に当て、自宅の固定電話のように扱えるなど……なかなかに想像を絶する経験だろうと思う。
そんなわけで、初体験はこんな形になった。
「もしもし、燐ちゃん」
「はい……こんばんわ」
ソファで二人並んで座り、互いの顔を見て話す。耳にスマートホンを当てて、重なる声を聞いていた。
「まだ日は高いよ、燐ちゃん」
「じゃあ……こんにちは、でしょうか」
「そうだね」
他に何が話せようか。
奇妙なシチュエーションに緊張して話題が見つからない。
二人はスマートホンを耳に当てたまま、見つめ合った。
互いに何を考えているかなど、わからぬままに。
●『スーパー事務員』田中 倖(CL2001407)の休日
スイーツバイキングを知っているか。
ケーキにパフェに和菓子にチョコレート、ついでにカレーやスパゲッティまで食べ放題になるちょっとやけくそなくらい幸せなお戯れである。女子のお戯れである。
心が女子な田中倖。誰に幼少時みゆきちゃんと呼ばれていない彼のこと、女子のお戯れことスイーツバイキングにも精通していた。
何かと遊びに行くショッピングモールのデパートエリアでイチゴずくしのスイーツバイキングフェアをやるという。
「この時期は、はやりイチゴですね……」
新聞をハサミでちょきちょきスクラップしながらデパートのチラシに目を落とした。
早起きは三文の得というが、日頃昼まで眠っているはずの休日に早起きしたかいがあるというものだ。
従姉妹のジャージ娘が小声で『めがねめがねっていえ』と呟いているのを軽くスルーしながらコーヒーを一口。
新聞に目を落とすと、格安SIM事業やインターネット光回線の広告が新聞の広告欄を埋めていた。産業欄では海外から流入した携帯電話会社が株価を爆上げし続けているという記事でもちきりだ。一足遅れたITバブルがやってきているのだろうか。投資でもして老後の資産を確保してみようか、などと思いつつ……やはり目はスイーツバイキングのチラシへ移った。
三十年先の資産より、今日のスイーツである。休日くらい、そんな風にすごさねば。
今の時代、日曜日に出かける場所と言えばショッピングモールである。
バブル経済の時代と違って遊園地に好き放題行けるわけじゃないというのもまああるが、最近のショッピングモールが妖や隔者犯罪に対するシェルターを兼ねた造りを採用しはじめたことも理由にあった。シェルターモールは今の世におけるちょっとしたブームだった。
安全な休日というのは、人々の心を豊かにするものだ。
今日などは、特に。
日用品を買ったり映画館の前で予告ムービーを眺めたりUFOキャッチャーに軽く千円吸い込まれたりとのんびりした時間をすごしてから、倖はお目当てのスイーツバイキングショップへと向かった。
既にできている行列に加わり、じっと待つこと三十分。
……倖はお皿片手にバイキング棚を前に立っていた。
さあ見よ、この素晴らしきホールケーキの列。
ピンク色のムースを四段構造にしたイチゴとジャムのムースケーキや、大胆にイチゴをぎゅうぎゅう詰めにしたタルト。オーソドックスだが贅沢なショートケーキに、ぱりぱりに焼いたイチゴのシュークリーム。
「やはりここのケーキは格別……」
しかもそれぞれのケーキには使用したイチゴの品種が書かれ、多種多様なイチゴを味わうことができた。
「まるで博覧会です。素晴らしい」
倖は早速ケーキをお皿にとって、至福の時間に胸を高鳴らせた。
●賀茂 たまき(CL2000994)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の休日
恋は全てを壊し、愛は全てを造るという。
ゆえに恋愛は破壊と創造の間にある人生再生のドラマなのだ。
公園に出かけようと言ったのはどちらからだったか。
奏空はいそいそと自転車を走らせ、公園の駐輪場にとめた。
長袖のシャツに軽めのパーカーを羽織って、下をジーパンとスニーカーで無難かつちょっぴり清潔にまとめた奏空である。その清潔さから、今日の特別さが垣間見えていた。なんならベースボール式キャップでも被っていてもいいくらいだが、それはちょっとやり過ぎな気もした。
いそいそと腕時計で時間を見てはポケットに手を入れ、数分もたたずにまた腕時計を見る。そんなことを繰り返していると、遠くから小走りにやってくる人影をみつけた。
少しばかり大きめのバッグを肩からさげたたまきがやってくる。
赤を基調にしたニットワンピースにいつもの黒いハイサイソックス。靴はなんだかふわっとしたアイボリーカラーのパンプスだった。なんかつま先の所がひつじさんの顔になっているというかわいさしかない靴である。
ジェリービーンズというメーカーのひつじパンプスというアイテムなのだが、奏空にとっては『可愛い子が可愛いのはいてるやばい』が全てである。
良すぎるものを見ると語彙力が死ぬタイプなのだ。
なんで自分『Dzungarian Master』とかプリントされたシャツきちゃったんだろと思うまである。だってモルみたいな顔したハムスターのプリントがかわいかったんだもの。
そしてたまきは言うのだ。
「奏空さん、こんにちわ。待ちましたか?」
「い……いまきたことろ!」
噛んじゃった。
お日様の気持ちよい公園のベンチで、二人してお弁当を広げること。
この良さを知るには、実際に体験するほかない。
身体の暖かさと心の温かさを、ただゆっくりと流れゆく雲を見ながら噛みしめる時間である。
しかも真の良さは十年ほど経ってから感じるときた。
お弁当はたまきの力作だった。五目稲荷とちらし寿司。でもって卵焼きにタコさんのウィンナーにほうれん草のごま和え、菜の花の昆布締めである。あとミニトマト。
メニューが十五歳女子の域を余裕で超えているが、普通に作ろうとすると昆布締めとか混じる辺りが彼女の育ちを表わしていた。
なにげに栄養バランス完璧だしね。
そんな時間の中で、奏空はしばらくぼんやりとしていた。
あまりにぼんやりとしすぎるのでたまきが不思議そうに顔を覗き込むと、奏空ははハッとしてたまきの肩を掴んだ。
「お、俺、こんどはずっと一緒に居たい!」
「その……」
急におかしなことを言ったと自覚してカタカタ震え始める奏空に、たまきは困ったように笑った。
「ありがとうございます。私のほうこそ、ずっとそばにして欲しいです」
「えっと……ごめん、急に」
「いいえ、ちゃんと言って頂けて……私は、とっても幸せですよ」
たまきは照れ隠しでもするように、奏空の口にミニトマトを放り込んだ。
たとえばの話をする。
十五歳の少年少女が急に将来を誓い合ったとして、素直に祝福できる大人はそう多くはない。
大体の人間が二十歳を超える頃に幼き日の約束を忘れるからだ。
しかしごくまれに、きわめて純粋な愛を貫き、恋が愛に変わるまで保ち続ける少年少女が存在する。
それを世は純愛と呼び、その全てを恋愛と呼ぶ。
「将来、俺のお嫁さんに……なってくれますか」
「私の気持ちとしては、喜んで……です」
クローバーを指輪がわりにして、手を繋いで座る二人。
これ以上のことを、書き記す必要があろうか?
●『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)の休日
プロ兵法家の朝は早い。
井戸水で顔を洗い、武道着をきて庭に出る彼は坂上懐良。天才兵法家である。
――外は寒いのに大丈夫ですか?
「最初は寒いですが、すぐに慣れます。それに……トレーニングが終わった頃には汗だくですからね」
笑う彼の顔には、十九歳とは思えない大人の輝きがあった。
一時間後。クールかつアバンギャルドなスタイリッシュトレーニングを終えた懐良は、シャワーを浴びてガウン姿で現われる。
戦に向かう戦士の、目。
今日は天才兵法家坂上懐良の休日に密着した。
(※オープニングムービーは編集でカットしております)
坂上懐良、十九歳。
五麟市に暮らす学生である。
バイトはせず、ファイヴで時折依頼を受けることでその代わりとしているという。
――実戦に出るのは恐くありませんか?
「学ぶだけで兵法は育ちません。実戦に出てこそはじめて生きる知恵と技術ですからね。こういう機会は大事にしないと」
そう言いながらスマートホンをマルチスピーカーに接続すると、お気に入りのミュージックに包まれながら身支度を始めた。
「きれいめのファッションをあえて崩して、タイトに決めるのがオレ流なんです」
形にとらわれない姿に、才能が光る。
彼がまず向かったのは王手コーヒーチェーン。
――いつもここへ来るんですか?
「オレの頭と身体を動かすには、ここじゃあないとノってこなくて」
そう語る彼がカウンターに立てば、慣れた調子の店員がカウンター越しにほほえみかけた。
「いつものベーグルと、ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームラテを頼む」
注文に一切のよどみもない。
熟練の、技。
――慣れてますね。
「勝手知ったるなんとやら、ですよ。あの女の子、俺に惚れてるな……」
相手の心情さえも見抜く、天才の眼力。
懐良は輝くような笑みを店員に向けると、テラス席に腰掛けて本を開いた。
「優れた戦術を生むには豊かな感性が必要なんです。こうしてテラスで本を読むだけでも、いろんなものが見えてくる」
このあと懐良はカラオケいったりライブでフリースタイルラップでバトルしたりギターたたき壊したりして深夜まで遊んでから友達んちで寝た。
終盤面倒くさくなったのは天才レポートのテイを守るのにネタが切れたからである。
「やっぱ自分で編集するのはダメだな……」
パソコンの前でマウスをカチカチやって、懐良はばたんと仰向けにぶっ倒れた。
二人がけのソファに身を沈めた日曜日。
窓からさす光が暖かい季節になって、肩の出やすいセーターなんかも着やすい時期になってきた。
しかし、『肩を出すとどう見られるだろうか』なんてことを考えるのは、季節ゆえとは思えない。
燐花はそんな風に考えながら、スマートホンの画面をおそるおそるつついていた。
「はは、そんなに強くつつかなくていいんだよ。軽く触れるだけで反応するからさ」
横で軽々と親指スワイプをする恭司に、燐花はどこかしゅんとした表情をした。
表情というか、耳がわずかに動くのだが。
「まあ、慣れないものを扱うと加減に困るよねえ」
苦笑する恭司。
思えば彼はいつも苦笑しているように思う。苦そうなコーヒーを飲んで、苦そうな煙草を吸って、苦そうな顔をするのだ。
大人の象徴のようで、男の象徴のようでもあった。
思えばリビングで煙草を吸わなくなったのは、いつからの話だろうか……?
「うん? なんだい?」
振り向かれて、燐花は自分が顔を近づけすぎていたことに気づいた。
引っ込めるように身体を戻す。
「すみません、手元をみようとして、つい」
つい、なんだろう。
言葉を探してから、再び手元を見やった。
「慣れて、いらっしゃるんですね」
「まあね。海外じゃ持ってて当たり前だし、僕みたいな仕事をしてると必須アイテムになるからね。仕事の連絡がこっちに来ることもあるんだよ?」
日本向けに発売された『スマートホン用有線LANポート接続タップ』とかいうガラパゴスの極みめいたアイテムは、今の日本に必要ない。
なんでも主要携帯会社は電波妨害時代にも地道に基地局の設置に努めていたらしく、電波妨害が解除されたとみるや急ピッチで各公共機関への接続も完了させたとかなんとかいう話である。いつか霧が晴れることを期待していたのか、先を見据えた情報強者が居たのか、どちらにせよありがたい話である。
本来スマートホンなんてものは、燐花のような女子中学生が持っていて当たり前のアイテムなのだ。
「私に使いこなせるでしょうか……」
「別に隅々まで使いこなさなくていいんじゃないかな。メールと電話と、あといくつか好きなアプリが使えれば充分だよね。ツイートSNSとか」
「つ、つい……?」
「ごめん、電話だけでも充分価値があると思うよ」
あとはおいおい知っていけばいいよ、と言って燐花のスマートホンに自分の電話番号を登録した。
『よく使う番号』に恭司の名前が表示されていることに奇妙な高揚を感じつつも、燐花はスマートホンを両手で持って翳した。
「あの、一度お電話してみたいのですが」
「ここでかい?」
「……構いませんか?」
新しいガジェットを手に入れてテンションが上がっているのだろうか。などと考えつつ、恭司は快く頷いた。
「じゃあ僕から電話をかけるから、燐ちゃんは二階に行ってみてね」
燐花は思い立ったら早い子である。飛ぶように立ち上がると早歩きで二階まで上がっていった。
足音が充分遠ざかったことを確認して、登録した番号の中から燐花の項目をタップしてダイヤルする恭司。
今時『ダイヤル』って言葉のニュアンスが通じる子供いるんだろうか。回転入力式の黒電話とか博物館にあるアイテムぞ。歴史資料ぞ。
……とか思っていると、初期設定された着信のベルがこっちに向かって近づいてきた。
リビングの扉があき、燐花が耳と片目だけをのぞかせる。
「あの……どうやってお応えしたらいいのでしょう」
ああ。
そういえば初めてスマホを持ったときも似たことで慌てたなあと、恭司は頷いた。
燐花、十五歳。
生まれたときから電波妨害が日本にあって、携帯電話などなくて当たり前の生活を送っていた娘である。
手のひらに収まるような板を耳に当て、自宅の固定電話のように扱えるなど……なかなかに想像を絶する経験だろうと思う。
そんなわけで、初体験はこんな形になった。
「もしもし、燐ちゃん」
「はい……こんばんわ」
ソファで二人並んで座り、互いの顔を見て話す。耳にスマートホンを当てて、重なる声を聞いていた。
「まだ日は高いよ、燐ちゃん」
「じゃあ……こんにちは、でしょうか」
「そうだね」
他に何が話せようか。
奇妙なシチュエーションに緊張して話題が見つからない。
二人はスマートホンを耳に当てたまま、見つめ合った。
互いに何を考えているかなど、わからぬままに。
●『スーパー事務員』田中 倖(CL2001407)の休日
スイーツバイキングを知っているか。
ケーキにパフェに和菓子にチョコレート、ついでにカレーやスパゲッティまで食べ放題になるちょっとやけくそなくらい幸せなお戯れである。女子のお戯れである。
心が女子な田中倖。誰に幼少時みゆきちゃんと呼ばれていない彼のこと、女子のお戯れことスイーツバイキングにも精通していた。
何かと遊びに行くショッピングモールのデパートエリアでイチゴずくしのスイーツバイキングフェアをやるという。
「この時期は、はやりイチゴですね……」
新聞をハサミでちょきちょきスクラップしながらデパートのチラシに目を落とした。
早起きは三文の得というが、日頃昼まで眠っているはずの休日に早起きしたかいがあるというものだ。
従姉妹のジャージ娘が小声で『めがねめがねっていえ』と呟いているのを軽くスルーしながらコーヒーを一口。
新聞に目を落とすと、格安SIM事業やインターネット光回線の広告が新聞の広告欄を埋めていた。産業欄では海外から流入した携帯電話会社が株価を爆上げし続けているという記事でもちきりだ。一足遅れたITバブルがやってきているのだろうか。投資でもして老後の資産を確保してみようか、などと思いつつ……やはり目はスイーツバイキングのチラシへ移った。
三十年先の資産より、今日のスイーツである。休日くらい、そんな風にすごさねば。
今の時代、日曜日に出かける場所と言えばショッピングモールである。
バブル経済の時代と違って遊園地に好き放題行けるわけじゃないというのもまああるが、最近のショッピングモールが妖や隔者犯罪に対するシェルターを兼ねた造りを採用しはじめたことも理由にあった。シェルターモールは今の世におけるちょっとしたブームだった。
安全な休日というのは、人々の心を豊かにするものだ。
今日などは、特に。
日用品を買ったり映画館の前で予告ムービーを眺めたりUFOキャッチャーに軽く千円吸い込まれたりとのんびりした時間をすごしてから、倖はお目当てのスイーツバイキングショップへと向かった。
既にできている行列に加わり、じっと待つこと三十分。
……倖はお皿片手にバイキング棚を前に立っていた。
さあ見よ、この素晴らしきホールケーキの列。
ピンク色のムースを四段構造にしたイチゴとジャムのムースケーキや、大胆にイチゴをぎゅうぎゅう詰めにしたタルト。オーソドックスだが贅沢なショートケーキに、ぱりぱりに焼いたイチゴのシュークリーム。
「やはりここのケーキは格別……」
しかもそれぞれのケーキには使用したイチゴの品種が書かれ、多種多様なイチゴを味わうことができた。
「まるで博覧会です。素晴らしい」
倖は早速ケーキをお皿にとって、至福の時間に胸を高鳴らせた。
●賀茂 たまき(CL2000994)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の休日
恋は全てを壊し、愛は全てを造るという。
ゆえに恋愛は破壊と創造の間にある人生再生のドラマなのだ。
公園に出かけようと言ったのはどちらからだったか。
奏空はいそいそと自転車を走らせ、公園の駐輪場にとめた。
長袖のシャツに軽めのパーカーを羽織って、下をジーパンとスニーカーで無難かつちょっぴり清潔にまとめた奏空である。その清潔さから、今日の特別さが垣間見えていた。なんならベースボール式キャップでも被っていてもいいくらいだが、それはちょっとやり過ぎな気もした。
いそいそと腕時計で時間を見てはポケットに手を入れ、数分もたたずにまた腕時計を見る。そんなことを繰り返していると、遠くから小走りにやってくる人影をみつけた。
少しばかり大きめのバッグを肩からさげたたまきがやってくる。
赤を基調にしたニットワンピースにいつもの黒いハイサイソックス。靴はなんだかふわっとしたアイボリーカラーのパンプスだった。なんかつま先の所がひつじさんの顔になっているというかわいさしかない靴である。
ジェリービーンズというメーカーのひつじパンプスというアイテムなのだが、奏空にとっては『可愛い子が可愛いのはいてるやばい』が全てである。
良すぎるものを見ると語彙力が死ぬタイプなのだ。
なんで自分『Dzungarian Master』とかプリントされたシャツきちゃったんだろと思うまである。だってモルみたいな顔したハムスターのプリントがかわいかったんだもの。
そしてたまきは言うのだ。
「奏空さん、こんにちわ。待ちましたか?」
「い……いまきたことろ!」
噛んじゃった。
お日様の気持ちよい公園のベンチで、二人してお弁当を広げること。
この良さを知るには、実際に体験するほかない。
身体の暖かさと心の温かさを、ただゆっくりと流れゆく雲を見ながら噛みしめる時間である。
しかも真の良さは十年ほど経ってから感じるときた。
お弁当はたまきの力作だった。五目稲荷とちらし寿司。でもって卵焼きにタコさんのウィンナーにほうれん草のごま和え、菜の花の昆布締めである。あとミニトマト。
メニューが十五歳女子の域を余裕で超えているが、普通に作ろうとすると昆布締めとか混じる辺りが彼女の育ちを表わしていた。
なにげに栄養バランス完璧だしね。
そんな時間の中で、奏空はしばらくぼんやりとしていた。
あまりにぼんやりとしすぎるのでたまきが不思議そうに顔を覗き込むと、奏空ははハッとしてたまきの肩を掴んだ。
「お、俺、こんどはずっと一緒に居たい!」
「その……」
急におかしなことを言ったと自覚してカタカタ震え始める奏空に、たまきは困ったように笑った。
「ありがとうございます。私のほうこそ、ずっとそばにして欲しいです」
「えっと……ごめん、急に」
「いいえ、ちゃんと言って頂けて……私は、とっても幸せですよ」
たまきは照れ隠しでもするように、奏空の口にミニトマトを放り込んだ。
たとえばの話をする。
十五歳の少年少女が急に将来を誓い合ったとして、素直に祝福できる大人はそう多くはない。
大体の人間が二十歳を超える頃に幼き日の約束を忘れるからだ。
しかしごくまれに、きわめて純粋な愛を貫き、恋が愛に変わるまで保ち続ける少年少女が存在する。
それを世は純愛と呼び、その全てを恋愛と呼ぶ。
「将来、俺のお嫁さんに……なってくれますか」
「私の気持ちとしては、喜んで……です」
クローバーを指輪がわりにして、手を繋いで座る二人。
これ以上のことを、書き記す必要があろうか?
●『侵掠如火』坂上 懐良(CL2000523)の休日
プロ兵法家の朝は早い。
井戸水で顔を洗い、武道着をきて庭に出る彼は坂上懐良。天才兵法家である。
――外は寒いのに大丈夫ですか?
「最初は寒いですが、すぐに慣れます。それに……トレーニングが終わった頃には汗だくですからね」
笑う彼の顔には、十九歳とは思えない大人の輝きがあった。
一時間後。クールかつアバンギャルドなスタイリッシュトレーニングを終えた懐良は、シャワーを浴びてガウン姿で現われる。
戦に向かう戦士の、目。
今日は天才兵法家坂上懐良の休日に密着した。
(※オープニングムービーは編集でカットしております)
坂上懐良、十九歳。
五麟市に暮らす学生である。
バイトはせず、ファイヴで時折依頼を受けることでその代わりとしているという。
――実戦に出るのは恐くありませんか?
「学ぶだけで兵法は育ちません。実戦に出てこそはじめて生きる知恵と技術ですからね。こういう機会は大事にしないと」
そう言いながらスマートホンをマルチスピーカーに接続すると、お気に入りのミュージックに包まれながら身支度を始めた。
「きれいめのファッションをあえて崩して、タイトに決めるのがオレ流なんです」
形にとらわれない姿に、才能が光る。
彼がまず向かったのは王手コーヒーチェーン。
――いつもここへ来るんですか?
「オレの頭と身体を動かすには、ここじゃあないとノってこなくて」
そう語る彼がカウンターに立てば、慣れた調子の店員がカウンター越しにほほえみかけた。
「いつものベーグルと、ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームラテを頼む」
注文に一切のよどみもない。
熟練の、技。
――慣れてますね。
「勝手知ったるなんとやら、ですよ。あの女の子、俺に惚れてるな……」
相手の心情さえも見抜く、天才の眼力。
懐良は輝くような笑みを店員に向けると、テラス席に腰掛けて本を開いた。
「優れた戦術を生むには豊かな感性が必要なんです。こうしてテラスで本を読むだけでも、いろんなものが見えてくる」
このあと懐良はカラオケいったりライブでフリースタイルラップでバトルしたりギターたたき壊したりして深夜まで遊んでから友達んちで寝た。
終盤面倒くさくなったのは天才レポートのテイを守るのにネタが切れたからである。
「やっぱ自分で編集するのはダメだな……」
パソコンの前でマウスをカチカチやって、懐良はばたんと仰向けにぶっ倒れた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
