<魂振りの地>屍人護りし地の底で
●
近畿地方のとある山中。
2人の男が洞窟を前に騒いでいた。
「こういうのはやっぱり探してみるもんだな。本当にあったじゃねぇか」
「いやー、妖も出る場所って聞いていましたけど、ラッキーっすね」
「これでもっともらしい由来とかをでっち上げれば、面白いことになりそうだ」
騒いでいるのは、地元の弱小出版社の社員達。オカルト雑誌の編集を行っていると言えば聞こえはいいが、実際のところはやらせでまかせ何でもありのインチキ出版だ。
この度は政府が調査を行っているという遺跡のうわさを聞きつけてやってきていたが、幸運にも古びた祠といわくありげな洞窟を見つけた。
そうなればやることは1つしかない。なんのかんのと、源素やら覚者いうのは売れるネタなのだ。絡んでいることにして記事を書けば、雑誌の発行部数は伸びる。
本来ならば、正式な研究機関に報告を行うことが筋であろう。むしろ、歪んだ形で情報が伝わることで、まともな研究は遅れてしまうに違いない。しかし少なくとも、彼らはそういうことを考える人種ではなかった。
「へっへっへ、これはボーナスが期待できそうだ」
「その時には俺の方にもお願いしますよ」
頭の中で全て終わったような気になって、皮算用を始める男たち。
彼らは知らない。
その洞窟の先に眠るものの本当の価値を。
同じく眠りにつく邪悪な存在のことを……。
●
「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。何故か珍しく浮遊系守護使役のナナカマドと一緒にふわふわと浮かんでいる。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、今日はちょっと変わったお話なんだ。遺跡に向かってそこの妖を倒してほしいの」
先日、政府から御崎・衣緒(nCL2000001)に依頼があった。近畿地方に存在する遺跡にいる妖の討伐だ。
政府としては強力な覚者を擁するFIVEに危険を任せたいということなのだろう。今までの活動でFIVEは国内で勇名を轟かせているので、その辺は評価を受けているともいえる。
だが、ただただ利用されてやるわけではない。先に遺跡を調査出来るというメリットもある。
「大変なのは妖のことだけじゃないの。いくつか困ったこととか、遺跡の中にも障害があるんだよね」
麦の話によると、彼女が夢に見たのは遺跡と妖の存在。他の2か所と類似点が多いので同じ由来の遺跡と推測されている。
そういうわけなので、まずこの遺跡の正確な場所は判明しておらず、現地で直接探さなくてはいけない。理由があって効率よく探す必要もある。
その理由というのも、先んじて遺跡を発見してしまったもの達がいるなのだ。彼らを放置すれば、調査の邪魔をされてしまうし、何より大きな危険を呼び込む可能性が高い。
また、遺跡内部では、一部通路の道が扉でふさがれている箇所がある。そこは、天井に隠されたスイッチを見つけて起動させることで開くようだ。
ちょっとした冒険だ。うかつに捜索が長引けば邪魔者を呼び込んでしまうし、力技で押しとおろうとすると大事な資料が危険にさらされる。
「でも、覚者のみんなだったら大丈夫!」
ナナカマドと一緒に麦はポーズを決める。
いくつかある障害だが、守護使役の力を使えば容易に解決できるはずだ。
鳥系守護使役であれば、遺跡の場所を正確に探し出すことが出来る。
植物系守護使役であれば、付近にいる困った一般人の記憶を忘れさせることが出来る。
浮遊系守護使役であれば、操作しづらい場所に設置された遺跡の内部で奥に進むための仕組みを難なく起動させることが出来る。
守護使役の力以外でも解決は可能だろうが、よほどの理由がない限りは守護使役の力を使うのが良いだろう。
「中にいるのは物質系妖だよ。こっちにも気を付けてね」
遺跡の最奥部にはランク2の物質系妖――妖と化した死体の姿がある。中には周りに支援を行う個体もいるようなので油断は禁物だ。
だが、覚者と守護使役の絆があれば、どんな障害も敵も乗り越えられることだろう。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
●
誰からも忘れ去られた地の底で、「それ」は祭壇に祭られていた。
石舞台にはかつて立派な装飾がなされていたのだろうが、月日の流れによって頽廃している。祈りを捧げた者たちも、その意味を忘れて久しい。
それどころか、いまや彼らは人ではない、邪悪なものへと変異していた。
そんな中、りぃんと澄んだ鈴の音が寂しげに響く。
『天空よりの眼で祠を見つけ』
りぃん。
『木々の葉で邪なる想いを禊ぎ』
りぃん。
『見えぬ友と共に扉を開いたのなら』
それは、今でも魂振りの時を待っている。
屍人の護る地の底で、絆を示すものの訪れを待っている。
近畿地方のとある山中。
2人の男が洞窟を前に騒いでいた。
「こういうのはやっぱり探してみるもんだな。本当にあったじゃねぇか」
「いやー、妖も出る場所って聞いていましたけど、ラッキーっすね」
「これでもっともらしい由来とかをでっち上げれば、面白いことになりそうだ」
騒いでいるのは、地元の弱小出版社の社員達。オカルト雑誌の編集を行っていると言えば聞こえはいいが、実際のところはやらせでまかせ何でもありのインチキ出版だ。
この度は政府が調査を行っているという遺跡のうわさを聞きつけてやってきていたが、幸運にも古びた祠といわくありげな洞窟を見つけた。
そうなればやることは1つしかない。なんのかんのと、源素やら覚者いうのは売れるネタなのだ。絡んでいることにして記事を書けば、雑誌の発行部数は伸びる。
本来ならば、正式な研究機関に報告を行うことが筋であろう。むしろ、歪んだ形で情報が伝わることで、まともな研究は遅れてしまうに違いない。しかし少なくとも、彼らはそういうことを考える人種ではなかった。
「へっへっへ、これはボーナスが期待できそうだ」
「その時には俺の方にもお願いしますよ」
頭の中で全て終わったような気になって、皮算用を始める男たち。
彼らは知らない。
その洞窟の先に眠るものの本当の価値を。
同じく眠りにつく邪悪な存在のことを……。
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「はーろろん♪ みんな、今日は集まってくれてありがとー!」
集まった覚者達に元気に挨拶をするのは、『イエロー系女子』大岩・麦(nCL2000116)。何故か珍しく浮遊系守護使役のナナカマドと一緒にふわふわと浮かんでいる。そして、全員そろったことを確認すると、彼女は発生した事件の説明を始めた。
「うん、今日はちょっと変わったお話なんだ。遺跡に向かってそこの妖を倒してほしいの」
先日、政府から御崎・衣緒(nCL2000001)に依頼があった。近畿地方に存在する遺跡にいる妖の討伐だ。
政府としては強力な覚者を擁するFIVEに危険を任せたいということなのだろう。今までの活動でFIVEは国内で勇名を轟かせているので、その辺は評価を受けているともいえる。
だが、ただただ利用されてやるわけではない。先に遺跡を調査出来るというメリットもある。
「大変なのは妖のことだけじゃないの。いくつか困ったこととか、遺跡の中にも障害があるんだよね」
麦の話によると、彼女が夢に見たのは遺跡と妖の存在。他の2か所と類似点が多いので同じ由来の遺跡と推測されている。
そういうわけなので、まずこの遺跡の正確な場所は判明しておらず、現地で直接探さなくてはいけない。理由があって効率よく探す必要もある。
その理由というのも、先んじて遺跡を発見してしまったもの達がいるなのだ。彼らを放置すれば、調査の邪魔をされてしまうし、何より大きな危険を呼び込む可能性が高い。
また、遺跡内部では、一部通路の道が扉でふさがれている箇所がある。そこは、天井に隠されたスイッチを見つけて起動させることで開くようだ。
ちょっとした冒険だ。うかつに捜索が長引けば邪魔者を呼び込んでしまうし、力技で押しとおろうとすると大事な資料が危険にさらされる。
「でも、覚者のみんなだったら大丈夫!」
ナナカマドと一緒に麦はポーズを決める。
いくつかある障害だが、守護使役の力を使えば容易に解決できるはずだ。
鳥系守護使役であれば、遺跡の場所を正確に探し出すことが出来る。
植物系守護使役であれば、付近にいる困った一般人の記憶を忘れさせることが出来る。
浮遊系守護使役であれば、操作しづらい場所に設置された遺跡の内部で奥に進むための仕組みを難なく起動させることが出来る。
守護使役の力以外でも解決は可能だろうが、よほどの理由がない限りは守護使役の力を使うのが良いだろう。
「中にいるのは物質系妖だよ。こっちにも気を付けてね」
遺跡の最奥部にはランク2の物質系妖――妖と化した死体の姿がある。中には周りに支援を行う個体もいるようなので油断は禁物だ。
だが、覚者と守護使役の絆があれば、どんな障害も敵も乗り越えられることだろう。
説明を終えると、麦は覚者達を元気良く送り出す。
「無事に帰って来てね? みんなのこと信じているから!」
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誰からも忘れ去られた地の底で、「それ」は祭壇に祭られていた。
石舞台にはかつて立派な装飾がなされていたのだろうが、月日の流れによって頽廃している。祈りを捧げた者たちも、その意味を忘れて久しい。
それどころか、いまや彼らは人ではない、邪悪なものへと変異していた。
そんな中、りぃんと澄んだ鈴の音が寂しげに響く。
『天空よりの眼で祠を見つけ』
りぃん。
『木々の葉で邪なる想いを禊ぎ』
りぃん。
『見えぬ友と共に扉を開いたのなら』
それは、今でも魂振りの時を待っている。
屍人の護る地の底で、絆を示すものの訪れを待っている。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の討伐
2.何らかの成果を得る
3.なし
2.何らかの成果を得る
3.なし
それいけ冒険者、KSK(けー・えす・けー)です。
今回はちょっと探検に向かっていただきたいと思います。
●場所
近畿地方のとある山中です。
そこにある遺跡にいる妖の討伐及び、遺跡の探索を行っていただきます。
●ギミック
遺跡の内部に入りこむには、【1】と【3】を成功させる必要があります。
【2】が行われなかった場合、調査の際に邪魔が発生するので得られる成果に悪影響が出ます。
守護使役の特殊技能を使う際、絆を感じさせるプレイングがあると捜索などの判定にボーナスが入ります。他の手段でも妥当なプレイングであれば成功します。
あれもこれもと行おうとするより、1人1ギミックの解決にプレイングを集中した方が良い結果が得られます。
【1】祠の捜索
山中で遺跡の存在する洞窟を探す必要があります。捜索に当たっては入口の祠や、洞窟を見つけてしまった一般人を捜索するのが良いでしょう。
【2】一般人への対処
洞窟を見つけてしまった一般人に口止めを行う必要があります。無力化したり多少の脅しといった手では、後で情報拡散しますし、監禁や殺害などは止められています。何らかの手段で記憶を操作してごまかすのが良いでしょう(こちらは許可アリ)。
【3】仕掛けの起動
最奥部への道は扉で封じられています。大規模な仕掛けを利用したもので簡単には開きません。扉のある場所の天井にある複数のスイッチを見つけて起動させる必要があります。スイッチは見つかれば、起動させることは難しくありません。
●戦場
洞窟の最奥部に遺跡があり、石舞台と祭壇が存在します。
遺跡の中には蠟燭が灯されており、不便を感じない程度に明るいです。
足場に問題はありません。
●妖
遺跡の最奥部にいる妖達です。
・しかばね巫女
物質系の妖でランクは2。中衛に2体います。
巫女のような姿をしていますが、かつてどのような人間だったのか分かりません。
能力は下記。
1.癒しの祈り 特遠味単 回復、BSリカバー
2.力の祈り 特遠味単 攻撃力・防御力+
3.光の矢 特遠単
・屍人
物質系の妖でランクは1。前衛に4体います。
能力は下記。
1.殴りかかる 物近単
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年03月11日
2017年03月11日
■メイン参加者 8人■

●
重く音を立てながら扉が開いていく。
それに合わせて、覚者達は警戒を高める。
ゆっくりと燭台に火が灯り、覚者達の姿が照らされた。そして、同じように部屋の中にいる屍人達、妖の姿も明らかになる。
「これで最後、キッチリ調査して何かしらの成果を得たいね」
因子の力を覚醒させながら、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は手元の術符を握り締める。
目覚めた力を探求するため、過去の歴史を調査する理央にとって、この度の依頼は渡りに船と言うべきものだった。この手の遺跡を探索する依頼だったら大歓迎。断るなんてもってのほかだ。
そして、そのためにも目の前の明白な邪魔者を排除しなくてはならない。
行く手を阻むように立つ屍人達は、歪んだ祈りを受けてその力を増し、鬼のような形相をしていた。
だが、覚者の側にもその壁を貫く刃があった。鬼の名を持つ双刀。『優麗なる乙女』西荻・つばめ(CL2001243)の握る鬼丸が、妖共を切り捨てるべく光を放つ。
「先ずは薙ぎ払わせていただきます。この程度の相手は……」
2本の刀を巧みに操り、つばめは妖達の囲む中を舞うように戦う。その動きは恐れなど微塵も感じさせない。
こちらの動きを邪魔するような小技を使う相手なら、警戒もしよう。だが、相手は妖の手に入れた力だけで暴れる相手だ。致命傷を避ければ、痛み等どうと言うことは無い。
元より、自分がやると決めたことは貫く性質だ。
そして、刃を振り抜き、妖達を背にして燕は薄く笑う。
「斬り捨てるのみですわ」
刃を手にするつばめの姿は、まさしく優麗なる乙女にして凛然とした剣士だった。
●
「頼むぜ相棒! 空から周り見せてくれ!」
時はわずかばかり遡る。
『白き光のヒーロー』成瀬・翔(CL2000063)の明るい声に従って、守護使役の空丸は良く澄み切った青空に向かって羽ばたいていく。
今日の依頼は普段とちょっと違う。
妖の討伐という体でやっては来たが、本当に重要なのは遺跡の探索を行うことだ。そう思うと、少年の中にある冒険心も弾んでくるというもの。
「まず洞窟の場所見つけなきゃだし、頑張って探そうな、空丸!」
守護使役の空丸に向かって、翔は呼び掛ける。
空丸も軽く返事を返してきた。
鳥系守護使役の能力は、周囲の偵察だ。高度から辺りを見渡すことが出来るため、広範囲の捜索に向いている。
そして、今回の場合は心強いことに、『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)、鈴白・秋人(CL2000565)、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と鳥系の守護使役を従える覚者が集まっていた。
「ベアトリーチェ、貴方はあっち側を『ていさつ』して頂戴」
シルフィアの命令に従って、彼女の守護使役であるベアトリーチェは空丸とはまた別の方向へと飛んでいく。
鳥系守護使役は1体でもそこそこ広範囲を見渡すことが出来る。それが複数いるのなら、まとめて使うより、ばらばらに動いた方が効率は良くなる。簡単な算数の話だ。
「近畿って古墳や遺跡って多いのかしらね? 古都だったこともあるぐらいだし」
ベアトリーチェを飛ばせてから、シルフィアはそんなことを思う。
覚者としての顔とは別に持っている、古文教師のシルフィアが刺激を受けたのだ。
「遺跡調査かー。どっかの探検隊みたいだね。お宝とかあるのかな? みぃちゃんも一緒に頑張ろうねー☆」
楠瀬・ことこ(CL2000498)は守護使役のみーちゃんと一緒に気合を入れている。『ていさつ』が出来るわけではないが、こういうのは気分の問題だ。
東西南北に散って守護使役達は、近くの様子の偵察を行う。そして、彼らが見たものは覚者達にも伝わる。
そして、そんな守護使役達の姿を思いながら、奏空は自分が覚者として目覚めたとき、発現した時のことを思い出していた。
他愛のない遊びで木登りをして、落ちて大けがをしたことを切欠に因子が発現した。意識が覚めて、すぐ近くで見守っていてくれたのが守護使役のライライさんだった。
それからずっとそばにいる、戦闘の時でも力を貸してくれる、とてもとても心強い奏空のパートナーだ。
(今日も君の力を貸してね!)
4体の守護使役は、主の言葉に従いそれぞれに空を翔ける。こうすれば、かなりの広範囲をカバーすることが出来る。
「あれ? あっちの方から声がするみたい」
「あぁ、ちょうど俺も匂いをかぎ取ったよ。ピヨ、ちょっと見てきてもらっていいかな」
『天使の卵』栗落花・渚(CL2001360)の言葉に頷くと、秋人は守護使役のピヨに命じる。
渚も秋人も、守護使役の力だけでなく自分たちも手伝った方がいいだろうと考えた覚者だ。はたして、その効果はあった。
「話に聞いてた通りに、騒いでいる人たちがいるね。まだ見つけたばかりみたいだし、十分間に合うかな。それと……」
ピヨからもたらされる景色で、問題の記者たちを見つけることが出来た。そして同時に、夢見の告げた予知通りに分かったことも1つある。
「例の洞窟を、見つけたよ」
こうして、覚者達は最初の関門を突破した。
●
「んー。微妙に統率取れてるし、補助も回復もこなすなんてちょっと厄介だよね」
戦いの中で渚はため息をつく。
ここは薄暗い洞窟の中。不気味に立ち塞がる妖達は、決して戦闘力の高い部類ではない。だが、バランスの良い能力構成をしているため、思ったよりも苦戦を強いられる形となった
弱音を吐くつもりはないが、少しこぼしたくもある。
そんな時、守護使役のきららが小さく光を灯す。明かりをつけるその能力は、この遺跡においてはそれほど役に立たないはずだ。それでも、自分も一緒に戦っているとばかりに辺りを照らす。
懸命な相棒の姿に渚はやる気を取り戻す。
「きらら、見ててね、良いとこ見せられるように頑張ってくるから!」
手にした巨大な注射器をぶんぶんと振り回し、渚は妖達を殴りつける。刺突用の武器ではなく、打撃用の武器だ。こう見えても強化ガラスをしており、見た目よりよっぽど威力がある。
渚の攻撃の威力に怯む妖達。
後ろに控えた妖が回復の力を使おうとするが、それよりも早く翔が動く。
「物質系だけど、全然効かねー事は無いだろう! 喰らえ、雷獣だ! 痺れてしまえ!!」
大人の姿になった翔の導引に応じて、雷が降り注いで妖達を焼く。回復に回ろうとした妖は動きを封じられてしまう。
物質系の妖は術式が効きづらい傾向はあるが、動きを封じるだけならそれほど問題はない。それに、思ったよりも効果はあったようだ。
「頑張ったな、もう休んでいいんだぜ。今楽にしてやるからな!」
この場にいる妖達も、元はここにいた何者かだ。それが何を行っていたのか、知るすべはない。だが、妖と化した身を滅ぼし、魂を救うことは出来る。
だったら、その救済を行うことこそ陰陽師としての翔の使命だ。
●
守護使役の導きに従って、遺跡への入り口を見つける。そして予知の通り、洞窟の前には記者たちがいてはしゃいでいる。まだ、予知の光景通りに見つけた直後なのだろう。写真などの記録を残している気配もない。当たり前だ。鳥系守護使役4体がかりという大盤振る舞いの捜索を行ったのだから。
そこで、まず奏空が声を掛ける。
「あれ? おじさん達ここで何してるの?」
「なんだ、坊主?」
「そっちこそ、なんでこんなところにいるんだ、帰った帰った」
奏空の声で生まれた隙だけで十分だった。ことこと理央の前に、それぞれの守護使役みぃちゃんとリーちゃんが姿を現れ、虚を突かれた記者たちに力を発揮する。
どちらもちゃん付けなのはただの偶然だ。
「さ、みぃちゃんの出番だよっ」
「回れ右して帰って貰うよ。FIVEの活動のジャマになるからね」
植物系守護使役の能力は、一定時間内の記憶を忘れさせるというものだ。もっとも、意識のある相手には抵抗される可能性もある。また、一度使用した相手には24時間経過しないと再度使用できないため、失敗すると何かと不便な点もある。
だが、今回は違った。
「あっ。ことこっていいます☆ そのうちビッグになるから覚えておいてね」
早口でまくしたてて、ことこはみいちゃんの能力のサポートを行う。
(みぃちゃん頑張れっ。このヒトたちの記憶、ちゅっと吸い取っちゃってー!)
ことこの頑張りが通じたのだろう。みいちゃんも普段以上の力で能力を使う。
理央も冷静な振る舞いであるが、内心ではリーちゃんのことを応援していた。なにせ、この手のことを行うのは久しぶりなのだ。
FIVEが本格的に活動し始めた頃は、組織を表に出さない為によく記憶を吸って貰っていた。だが、最近は大々的に活動しているので、記憶を吸う必要と機会がめっきりと減ってしまった。
良いことではあるのだが、悲しくもある。
だからこそ、共に力を振るえる時には頑張ってほしい。
そして、彼女らの願いは守護使役達に通じた。
「あれ? 俺たち、ここに何しに来てたんだっけ?」
何か抜け落ちたような表情に変わる記者たち。どうやら、幸いなことにここに来た経緯から消えてくれたようだ。
そこで奏空は上手くごまかして、街へ向かうように仕向ける。
何か腑に落ちない顔をして街へと帰る記者たちの背中を眺めつつ、ことこはみいちゃんのことを思い切り抱きしめる。
「これからも、宜しくね」
理央もそっとリーちゃんの労をねぎらった。
●
巫女の姿をした妖が祈りを捧げると、前に立つ妖の怪我が消えていく。それによって、必然的に長期戦となる。だが、覚者達にはそれに対する備えもあった。
「さて、やろうかしらね」
海のベールを纏ったシルフィアが、傷ついたつばめに癒しの滴を与える。この状態であるのなら、自身の消耗も抑えることが出来るわけだ。相手が多少の長期戦に備えていようと、十分対応できる。
理央の降らせた恵み雨と相まって、覚者達の布陣は妖の側以上に盤石だった。
それに、妖は基本的に動物程度の知性しか見せない。しかし、人は知性のない獣ではないのだ。
「弱っているのは、右の奴よ」
眼鏡を光らせて、シルフィアは妖の状況解析を行う。彼女の瞳の前では、妖達は裸にされたも同然だ。
「行くぞ、ピヨ」
守護使役のピヨに呼び掛けると、秋人は術符を天に掲げる。
すると、その手元にエネルギーの塊が生まれた。先ほどまでは回復に回っていたが、今はその必要もない。
秋人は戦闘においても、探索においても器用なタイプの覚者だ。出来ることはかなりの広範に及ぶ。人によっては、それを器用貧乏と呼ぶだろう。だが、言いたいものは言えばいい。
これが鈴白秋人の戦い方だ。
そして、現れた波動弾は目の前の屍人ごと、後ろに立っていた妖を貫いていった。
●
覚者達無事に遺跡を発見し、人払いにも成功した。そうなると、残るは遺跡内の妖退治と探索を行うだけだ。警戒をしつつ奥へと進んでいく。
そして、奥に見えてきたのは巨大な扉だった。
「それでは、わたくしはわたくしの出来る事をしてゆきますわ」
つばめが守護使役の夢路の姿を現す。すると、彼女はすぅっと空中に浮かび上がった。
浮遊系守護使役の能力は、主に浮遊移動を可能とさせるもの。扉を開くための装置は天井に隠されているのだという。まさか、この洞窟の中に梯子を持ち込んで調べるわけにはいかない。いや、時間があれば出来るかもしれないが、ここには妖がいるのだ。
同じようにシルフィアやことこも、背中の翼を広げて天井の調査を始める。同じように飛行手段を持つ覚者ならば、そういうことも出来る。
「守護使役の力が大事になる遺跡って不思議だよね。覚者が現れたのってそんなにずっと昔じゃないはずだし……守護使役のことを知ってる人たちがいたってことなのかなぁ」
そんな様子を渚は、守護使役のきららを抱きしめながら少しうらやましそうに見ていた。
守護使役の力が有効に働くようになっている場所だ。記者たちの存在に関しては偶然かもしれないが、それすらも何か不思議な力が働いたように思える。
だから、ほんのちょっぴりだけ寂しい感じがする。
「でも、大事なのは一緒にいることだもん。こういう場所の探検ってどきどきするよね。きららはどう?」
渚の声に応えるように、きららは頷いた。
それからしばらくして、つばめがスイッチを見つけて起動させる。
「気を付けて。中の妖もこっちが来たことに気付いたようだ」
秋人が仲間たちに警告を飛ばす。
そして、魂振りの地への道を阻む、最後の扉は開かれる。
●
いくつかの障害はあったものの、こうして覚者達は遺跡の最奥部にたどり着いた。多少の障害も、覚者と守護使役の絆があれば乗り越えられる。
そして、同様に目の前の妖達においても例外ではない。扉の奥に潜んでいた妖と覚者の戦いも相応の苦戦はあったが、最終的には覚者優勢のものとなる。いよいよ、残った妖達も2体だけだ。
「みぃちゃんが頑張ったん。だから、ことこもがんばる!」
翼を広げたことはは、空気の弾丸を屍人に叩きつける。攻撃を受けて弱り切っていた妖は、そのまま壁に叩きつけられて動きを止める。今度こそ、安らかな眠りを得られたはずだ。
だが、ことこの表情には複雑なものが浮かんでいる。
「ヒトだったものの変わり果てた姿なんだよね……。祠の奥でこのヒト達はさみしくなかったかなぁ」
妖という存在に同情は出来ないが、元となった人たちには同情の念も湧く。それは甘いことかもしれないが、ことこはアイドルだ。出来れば、一緒に笑いたいと思う。
ここを守ってきた彼らに思うことはある。だが、世界を知るために覚者は戦う。
「教えてください……貴方達は何を守っていたのですか? それを俺達に託してくださいませんか? 俺達は守護使役の導きによってここまで来ました」
奏空の言葉に返事はない。だから、迷いを払い、刃を振るう。
「それでも拒むのなら……ごめんね、先に行かせて貰うよ」
奏空が念じると、雷帝インドラが持つヴァジュラの力を神具に宿る。そして、激しい雷光と共に強烈な一撃が、最後の妖に叩き込まれた。
物言わなくなった妖に奏空は祈りを捧げる。
この場で何かを守っていた彼らに敬意を表するため。そして、それを受け継ぎ、未来へ繋いでいくために。
●
戦いが終わって、これで覚者達は捜索を始められるようになった。
その前にと言って、ことこは倒された妖達、いやこの場を守っていた者たちに手を合わせて祈りを捧げる。どんな相手にだって笑顔と幸せを届けるのがアイドルの仕事だ。
皆、祈りを終えると遺跡の捜索を始める。
念のためにとそれぞれ、隠された仕掛けがないかと探ってみるが、どうもそれらしいものはないようだ。
そこで、渚は交霊術を行使する。死者と言葉を交わすことが出来る能力だ。残留思念の強さによって得られる情報量は変わるが、ここには間違いなく守っていた者たちがいる。
それに、ここまで来たのだ。きららにだって、良いところを見せたい。
(この遺跡がいつ、どんな風に出来たのか、あなた達は知ってる? ここにいたあなた達は何者だったの? もし分かったら……覚えてたら教えて欲しいな)
屍人の護る地の底で、彼らの想いを拾うために渚は念じる。すると、1つはっきりと祭壇に祀られている石に惹かれるものがあるように感じた。
「これだな、よーし」
周囲に罠がないことを透視で確認して、翔が手に取る。たしかに、はっきりとは言えないが「力」のようなものを感じる。屍人達が守り、思念も示した代物だ。何かあるのは間違いないだろう。
「あとは祠堂さんに調べてもらえば何か分かるかもね」
これでひとまずの調査は区切ることとなった。これで「成果」はあったと言えるし、より本格的な調査も行われれば、明らかになることもあるだろう。
神秘の解明において、まだ明らかになっていないことは多い。
だから、覚者達はこうして世界を明らかにしていくのだ。
重く音を立てながら扉が開いていく。
それに合わせて、覚者達は警戒を高める。
ゆっくりと燭台に火が灯り、覚者達の姿が照らされた。そして、同じように部屋の中にいる屍人達、妖の姿も明らかになる。
「これで最後、キッチリ調査して何かしらの成果を得たいね」
因子の力を覚醒させながら、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)は手元の術符を握り締める。
目覚めた力を探求するため、過去の歴史を調査する理央にとって、この度の依頼は渡りに船と言うべきものだった。この手の遺跡を探索する依頼だったら大歓迎。断るなんてもってのほかだ。
そして、そのためにも目の前の明白な邪魔者を排除しなくてはならない。
行く手を阻むように立つ屍人達は、歪んだ祈りを受けてその力を増し、鬼のような形相をしていた。
だが、覚者の側にもその壁を貫く刃があった。鬼の名を持つ双刀。『優麗なる乙女』西荻・つばめ(CL2001243)の握る鬼丸が、妖共を切り捨てるべく光を放つ。
「先ずは薙ぎ払わせていただきます。この程度の相手は……」
2本の刀を巧みに操り、つばめは妖達の囲む中を舞うように戦う。その動きは恐れなど微塵も感じさせない。
こちらの動きを邪魔するような小技を使う相手なら、警戒もしよう。だが、相手は妖の手に入れた力だけで暴れる相手だ。致命傷を避ければ、痛み等どうと言うことは無い。
元より、自分がやると決めたことは貫く性質だ。
そして、刃を振り抜き、妖達を背にして燕は薄く笑う。
「斬り捨てるのみですわ」
刃を手にするつばめの姿は、まさしく優麗なる乙女にして凛然とした剣士だった。
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「頼むぜ相棒! 空から周り見せてくれ!」
時はわずかばかり遡る。
『白き光のヒーロー』成瀬・翔(CL2000063)の明るい声に従って、守護使役の空丸は良く澄み切った青空に向かって羽ばたいていく。
今日の依頼は普段とちょっと違う。
妖の討伐という体でやっては来たが、本当に重要なのは遺跡の探索を行うことだ。そう思うと、少年の中にある冒険心も弾んでくるというもの。
「まず洞窟の場所見つけなきゃだし、頑張って探そうな、空丸!」
守護使役の空丸に向かって、翔は呼び掛ける。
空丸も軽く返事を返してきた。
鳥系守護使役の能力は、周囲の偵察だ。高度から辺りを見渡すことが出来るため、広範囲の捜索に向いている。
そして、今回の場合は心強いことに、『おっぱい天使』シルフィア・カレード(CL2000215)、鈴白・秋人(CL2000565)、『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)と鳥系の守護使役を従える覚者が集まっていた。
「ベアトリーチェ、貴方はあっち側を『ていさつ』して頂戴」
シルフィアの命令に従って、彼女の守護使役であるベアトリーチェは空丸とはまた別の方向へと飛んでいく。
鳥系守護使役は1体でもそこそこ広範囲を見渡すことが出来る。それが複数いるのなら、まとめて使うより、ばらばらに動いた方が効率は良くなる。簡単な算数の話だ。
「近畿って古墳や遺跡って多いのかしらね? 古都だったこともあるぐらいだし」
ベアトリーチェを飛ばせてから、シルフィアはそんなことを思う。
覚者としての顔とは別に持っている、古文教師のシルフィアが刺激を受けたのだ。
「遺跡調査かー。どっかの探検隊みたいだね。お宝とかあるのかな? みぃちゃんも一緒に頑張ろうねー☆」
楠瀬・ことこ(CL2000498)は守護使役のみーちゃんと一緒に気合を入れている。『ていさつ』が出来るわけではないが、こういうのは気分の問題だ。
東西南北に散って守護使役達は、近くの様子の偵察を行う。そして、彼らが見たものは覚者達にも伝わる。
そして、そんな守護使役達の姿を思いながら、奏空は自分が覚者として目覚めたとき、発現した時のことを思い出していた。
他愛のない遊びで木登りをして、落ちて大けがをしたことを切欠に因子が発現した。意識が覚めて、すぐ近くで見守っていてくれたのが守護使役のライライさんだった。
それからずっとそばにいる、戦闘の時でも力を貸してくれる、とてもとても心強い奏空のパートナーだ。
(今日も君の力を貸してね!)
4体の守護使役は、主の言葉に従いそれぞれに空を翔ける。こうすれば、かなりの広範囲をカバーすることが出来る。
「あれ? あっちの方から声がするみたい」
「あぁ、ちょうど俺も匂いをかぎ取ったよ。ピヨ、ちょっと見てきてもらっていいかな」
『天使の卵』栗落花・渚(CL2001360)の言葉に頷くと、秋人は守護使役のピヨに命じる。
渚も秋人も、守護使役の力だけでなく自分たちも手伝った方がいいだろうと考えた覚者だ。はたして、その効果はあった。
「話に聞いてた通りに、騒いでいる人たちがいるね。まだ見つけたばかりみたいだし、十分間に合うかな。それと……」
ピヨからもたらされる景色で、問題の記者たちを見つけることが出来た。そして同時に、夢見の告げた予知通りに分かったことも1つある。
「例の洞窟を、見つけたよ」
こうして、覚者達は最初の関門を突破した。
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「んー。微妙に統率取れてるし、補助も回復もこなすなんてちょっと厄介だよね」
戦いの中で渚はため息をつく。
ここは薄暗い洞窟の中。不気味に立ち塞がる妖達は、決して戦闘力の高い部類ではない。だが、バランスの良い能力構成をしているため、思ったよりも苦戦を強いられる形となった
弱音を吐くつもりはないが、少しこぼしたくもある。
そんな時、守護使役のきららが小さく光を灯す。明かりをつけるその能力は、この遺跡においてはそれほど役に立たないはずだ。それでも、自分も一緒に戦っているとばかりに辺りを照らす。
懸命な相棒の姿に渚はやる気を取り戻す。
「きらら、見ててね、良いとこ見せられるように頑張ってくるから!」
手にした巨大な注射器をぶんぶんと振り回し、渚は妖達を殴りつける。刺突用の武器ではなく、打撃用の武器だ。こう見えても強化ガラスをしており、見た目よりよっぽど威力がある。
渚の攻撃の威力に怯む妖達。
後ろに控えた妖が回復の力を使おうとするが、それよりも早く翔が動く。
「物質系だけど、全然効かねー事は無いだろう! 喰らえ、雷獣だ! 痺れてしまえ!!」
大人の姿になった翔の導引に応じて、雷が降り注いで妖達を焼く。回復に回ろうとした妖は動きを封じられてしまう。
物質系の妖は術式が効きづらい傾向はあるが、動きを封じるだけならそれほど問題はない。それに、思ったよりも効果はあったようだ。
「頑張ったな、もう休んでいいんだぜ。今楽にしてやるからな!」
この場にいる妖達も、元はここにいた何者かだ。それが何を行っていたのか、知るすべはない。だが、妖と化した身を滅ぼし、魂を救うことは出来る。
だったら、その救済を行うことこそ陰陽師としての翔の使命だ。
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守護使役の導きに従って、遺跡への入り口を見つける。そして予知の通り、洞窟の前には記者たちがいてはしゃいでいる。まだ、予知の光景通りに見つけた直後なのだろう。写真などの記録を残している気配もない。当たり前だ。鳥系守護使役4体がかりという大盤振る舞いの捜索を行ったのだから。
そこで、まず奏空が声を掛ける。
「あれ? おじさん達ここで何してるの?」
「なんだ、坊主?」
「そっちこそ、なんでこんなところにいるんだ、帰った帰った」
奏空の声で生まれた隙だけで十分だった。ことこと理央の前に、それぞれの守護使役みぃちゃんとリーちゃんが姿を現れ、虚を突かれた記者たちに力を発揮する。
どちらもちゃん付けなのはただの偶然だ。
「さ、みぃちゃんの出番だよっ」
「回れ右して帰って貰うよ。FIVEの活動のジャマになるからね」
植物系守護使役の能力は、一定時間内の記憶を忘れさせるというものだ。もっとも、意識のある相手には抵抗される可能性もある。また、一度使用した相手には24時間経過しないと再度使用できないため、失敗すると何かと不便な点もある。
だが、今回は違った。
「あっ。ことこっていいます☆ そのうちビッグになるから覚えておいてね」
早口でまくしたてて、ことこはみいちゃんの能力のサポートを行う。
(みぃちゃん頑張れっ。このヒトたちの記憶、ちゅっと吸い取っちゃってー!)
ことこの頑張りが通じたのだろう。みいちゃんも普段以上の力で能力を使う。
理央も冷静な振る舞いであるが、内心ではリーちゃんのことを応援していた。なにせ、この手のことを行うのは久しぶりなのだ。
FIVEが本格的に活動し始めた頃は、組織を表に出さない為によく記憶を吸って貰っていた。だが、最近は大々的に活動しているので、記憶を吸う必要と機会がめっきりと減ってしまった。
良いことではあるのだが、悲しくもある。
だからこそ、共に力を振るえる時には頑張ってほしい。
そして、彼女らの願いは守護使役達に通じた。
「あれ? 俺たち、ここに何しに来てたんだっけ?」
何か抜け落ちたような表情に変わる記者たち。どうやら、幸いなことにここに来た経緯から消えてくれたようだ。
そこで奏空は上手くごまかして、街へ向かうように仕向ける。
何か腑に落ちない顔をして街へと帰る記者たちの背中を眺めつつ、ことこはみいちゃんのことを思い切り抱きしめる。
「これからも、宜しくね」
理央もそっとリーちゃんの労をねぎらった。
●
巫女の姿をした妖が祈りを捧げると、前に立つ妖の怪我が消えていく。それによって、必然的に長期戦となる。だが、覚者達にはそれに対する備えもあった。
「さて、やろうかしらね」
海のベールを纏ったシルフィアが、傷ついたつばめに癒しの滴を与える。この状態であるのなら、自身の消耗も抑えることが出来るわけだ。相手が多少の長期戦に備えていようと、十分対応できる。
理央の降らせた恵み雨と相まって、覚者達の布陣は妖の側以上に盤石だった。
それに、妖は基本的に動物程度の知性しか見せない。しかし、人は知性のない獣ではないのだ。
「弱っているのは、右の奴よ」
眼鏡を光らせて、シルフィアは妖の状況解析を行う。彼女の瞳の前では、妖達は裸にされたも同然だ。
「行くぞ、ピヨ」
守護使役のピヨに呼び掛けると、秋人は術符を天に掲げる。
すると、その手元にエネルギーの塊が生まれた。先ほどまでは回復に回っていたが、今はその必要もない。
秋人は戦闘においても、探索においても器用なタイプの覚者だ。出来ることはかなりの広範に及ぶ。人によっては、それを器用貧乏と呼ぶだろう。だが、言いたいものは言えばいい。
これが鈴白秋人の戦い方だ。
そして、現れた波動弾は目の前の屍人ごと、後ろに立っていた妖を貫いていった。
●
覚者達無事に遺跡を発見し、人払いにも成功した。そうなると、残るは遺跡内の妖退治と探索を行うだけだ。警戒をしつつ奥へと進んでいく。
そして、奥に見えてきたのは巨大な扉だった。
「それでは、わたくしはわたくしの出来る事をしてゆきますわ」
つばめが守護使役の夢路の姿を現す。すると、彼女はすぅっと空中に浮かび上がった。
浮遊系守護使役の能力は、主に浮遊移動を可能とさせるもの。扉を開くための装置は天井に隠されているのだという。まさか、この洞窟の中に梯子を持ち込んで調べるわけにはいかない。いや、時間があれば出来るかもしれないが、ここには妖がいるのだ。
同じようにシルフィアやことこも、背中の翼を広げて天井の調査を始める。同じように飛行手段を持つ覚者ならば、そういうことも出来る。
「守護使役の力が大事になる遺跡って不思議だよね。覚者が現れたのってそんなにずっと昔じゃないはずだし……守護使役のことを知ってる人たちがいたってことなのかなぁ」
そんな様子を渚は、守護使役のきららを抱きしめながら少しうらやましそうに見ていた。
守護使役の力が有効に働くようになっている場所だ。記者たちの存在に関しては偶然かもしれないが、それすらも何か不思議な力が働いたように思える。
だから、ほんのちょっぴりだけ寂しい感じがする。
「でも、大事なのは一緒にいることだもん。こういう場所の探検ってどきどきするよね。きららはどう?」
渚の声に応えるように、きららは頷いた。
それからしばらくして、つばめがスイッチを見つけて起動させる。
「気を付けて。中の妖もこっちが来たことに気付いたようだ」
秋人が仲間たちに警告を飛ばす。
そして、魂振りの地への道を阻む、最後の扉は開かれる。
●
いくつかの障害はあったものの、こうして覚者達は遺跡の最奥部にたどり着いた。多少の障害も、覚者と守護使役の絆があれば乗り越えられる。
そして、同様に目の前の妖達においても例外ではない。扉の奥に潜んでいた妖と覚者の戦いも相応の苦戦はあったが、最終的には覚者優勢のものとなる。いよいよ、残った妖達も2体だけだ。
「みぃちゃんが頑張ったん。だから、ことこもがんばる!」
翼を広げたことはは、空気の弾丸を屍人に叩きつける。攻撃を受けて弱り切っていた妖は、そのまま壁に叩きつけられて動きを止める。今度こそ、安らかな眠りを得られたはずだ。
だが、ことこの表情には複雑なものが浮かんでいる。
「ヒトだったものの変わり果てた姿なんだよね……。祠の奥でこのヒト達はさみしくなかったかなぁ」
妖という存在に同情は出来ないが、元となった人たちには同情の念も湧く。それは甘いことかもしれないが、ことこはアイドルだ。出来れば、一緒に笑いたいと思う。
ここを守ってきた彼らに思うことはある。だが、世界を知るために覚者は戦う。
「教えてください……貴方達は何を守っていたのですか? それを俺達に託してくださいませんか? 俺達は守護使役の導きによってここまで来ました」
奏空の言葉に返事はない。だから、迷いを払い、刃を振るう。
「それでも拒むのなら……ごめんね、先に行かせて貰うよ」
奏空が念じると、雷帝インドラが持つヴァジュラの力を神具に宿る。そして、激しい雷光と共に強烈な一撃が、最後の妖に叩き込まれた。
物言わなくなった妖に奏空は祈りを捧げる。
この場で何かを守っていた彼らに敬意を表するため。そして、それを受け継ぎ、未来へ繋いでいくために。
●
戦いが終わって、これで覚者達は捜索を始められるようになった。
その前にと言って、ことこは倒された妖達、いやこの場を守っていた者たちに手を合わせて祈りを捧げる。どんな相手にだって笑顔と幸せを届けるのがアイドルの仕事だ。
皆、祈りを終えると遺跡の捜索を始める。
念のためにとそれぞれ、隠された仕掛けがないかと探ってみるが、どうもそれらしいものはないようだ。
そこで、渚は交霊術を行使する。死者と言葉を交わすことが出来る能力だ。残留思念の強さによって得られる情報量は変わるが、ここには間違いなく守っていた者たちがいる。
それに、ここまで来たのだ。きららにだって、良いところを見せたい。
(この遺跡がいつ、どんな風に出来たのか、あなた達は知ってる? ここにいたあなた達は何者だったの? もし分かったら……覚えてたら教えて欲しいな)
屍人の護る地の底で、彼らの想いを拾うために渚は念じる。すると、1つはっきりと祭壇に祀られている石に惹かれるものがあるように感じた。
「これだな、よーし」
周囲に罠がないことを透視で確認して、翔が手に取る。たしかに、はっきりとは言えないが「力」のようなものを感じる。屍人達が守り、思念も示した代物だ。何かあるのは間違いないだろう。
「あとは祠堂さんに調べてもらえば何か分かるかもね」
これでひとまずの調査は区切ることとなった。これで「成果」はあったと言えるし、より本格的な調査も行われれば、明らかになることもあるだろう。
神秘の解明において、まだ明らかになっていないことは多い。
だから、覚者達はこうして世界を明らかにしていくのだ。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
