<魂振りの地>幻想鉱石の共鳴歌
●遺跡の誘い
悠久の時を微睡むように過ごし、彼の遺跡は忘却の彼方へと追いやられていた。かつては鮮やかな色彩であったのだろう、壁に描かれた幾何学模様は色褪せ――石段もすっかり苔生して、崩れかけた柱はびっしりと蔦で覆われている。
――古代の神秘も、大いなる自然に呑まれゆく運命なのか。けれど遺跡の深部では今もなお、不可思議な煌めきを宿す鉱石が、祭壇の上で仄かに光を放っていた。
(ちりん、ちりん――)
何処からか吹き付ける風が、或いは大地の鼓動が、鉱石を震わせ共鳴を起こしているのだろうか。その石は歌うようにして、孤独な鈴の音を響かせる。
(……りぃん――)
――それはまるで、魂を振り起こす再生の響き。魂振りと呼ばれる儀式を思わせた。
此処へおいでと誘うように、大切な誰かを待ち望むように、石は歌いながらまろうどを待ち続ける。
『常闇の洞を越えて、鬼に見つからないようにそっと足音を忍ばせて』
『……深淵に挑んで戻って来られたら、汝に路は開かれる』
●月茨の夢見は語る
「夢を見たの……不思議な夢。忘れられた鉱石が、うたを歌う夢だった」
未だ夢の名残を引きずっているのか、ちょっぴり切なげな表情をした『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)が、夢見で視た光景を語り始めた。
其処は、緑に呑まれゆく太古の遺跡――その奥の祭壇に安置された鉱石が、覚者たちを呼ぶように輝き、澄んだ音を響かせていたのだと言う。
「気になるのは、夢を見たのはあたしだけじゃないってことかな」
どうやら瞑夜以外にも、遺跡に関する予知をした夢見が居り、『研究所所長』御崎 衣緒(nCL2000001)の元へも調査の依頼があったのだとか。
「見つかった遺跡は三つ。どれも近畿地方にあるから、何らかの関連があると思うの」
皆にはその内のひとつ――瞑夜が夢見で見つけた遺跡に向かってもらい、最深部にある祭壇まで辿り着いて欲しい。其処に眠る不可思議な鉱石は、神秘を解明する手掛かりになってくれる筈だ。
「遺跡はかなり古いもので、ひとが立ち入らなくなって大分経っているみたい。でも、大昔の仕掛けは今も活きているから、注意して探索してね」
――石造りに緑が生い茂る遺跡を進むと、先ず立ちはだかるのは常闇の洞だ。其処では一切の灯りが役に立たず、自分の姿さえも見通せない程だと言う。
しかし、神秘による灯は闇を照らすことが出来、複雑な路も迷わずに進めるだろう。そうして次に待ち受けるのは、遺跡の番人――物音を察知して動き出す石像が設置された広間だ。
「仕掛けと言うか、石像自体が古妖のような存在なんだと思う。少しの物音にも反応して、広間を通ろうとする者の行く手を阻むみたい」
この石像は攻撃をすることは無いものの、その反面如何なる攻撃も無力化してしまう。その為、壊して進むと言う選択肢は無く、『全く音を立てずに』石像の仕掛けを解除するスイッチに辿り着かなくてはならない。
「そして、最後は……水が満たされた、深い湖」
その先に祭壇へ通じる扉があるのだが、扉には鍵がかかっている。その鍵が沈んでいるのが、深い湖の底なのだ。
「鍵は大きいし、きらきら輝いて見えるから……探すのはそう難しくないと思う。でも湖は深くて、普通に潜るのだと息が続かない――」
其処まで説明をした瞑夜は、みんなも気づいていそうだけど――と前置きして、遺跡へ挑む為の助言をする。
「この三つの仕掛け、守護使役の助けがあれば乗り越えられそうだよね。もし、対応する能力を使えるひとが居たら、是非調査に協力して欲しいんだ」
ある程度ならば覚者としての技能でも対応出来るが、守護使役の力を借りた方が確実だと言う。更に、守護使役と上手く連携し呼吸を合わせることで、普段以上の能力を発揮出来るらしい。
「何だか、あたし達の絆が試されているみたいだけど……みんななら、きっと困難も乗り越えられるって信じているから」
これをきっかけに自分の守護使役と向き合い、心を通わせてみるのも良いだろう。彼はどんな風にあなたに寄り添い、共に日々を過ごしているのだろうか。
――さあ、準備が出来たら相棒と共に向かうとしよう。石が導く、魂振りの地へ。
悠久の時を微睡むように過ごし、彼の遺跡は忘却の彼方へと追いやられていた。かつては鮮やかな色彩であったのだろう、壁に描かれた幾何学模様は色褪せ――石段もすっかり苔生して、崩れかけた柱はびっしりと蔦で覆われている。
――古代の神秘も、大いなる自然に呑まれゆく運命なのか。けれど遺跡の深部では今もなお、不可思議な煌めきを宿す鉱石が、祭壇の上で仄かに光を放っていた。
(ちりん、ちりん――)
何処からか吹き付ける風が、或いは大地の鼓動が、鉱石を震わせ共鳴を起こしているのだろうか。その石は歌うようにして、孤独な鈴の音を響かせる。
(……りぃん――)
――それはまるで、魂を振り起こす再生の響き。魂振りと呼ばれる儀式を思わせた。
此処へおいでと誘うように、大切な誰かを待ち望むように、石は歌いながらまろうどを待ち続ける。
『常闇の洞を越えて、鬼に見つからないようにそっと足音を忍ばせて』
『……深淵に挑んで戻って来られたら、汝に路は開かれる』
●月茨の夢見は語る
「夢を見たの……不思議な夢。忘れられた鉱石が、うたを歌う夢だった」
未だ夢の名残を引きずっているのか、ちょっぴり切なげな表情をした『月茨』浮森 瞑夜(nCL2000119)が、夢見で視た光景を語り始めた。
其処は、緑に呑まれゆく太古の遺跡――その奥の祭壇に安置された鉱石が、覚者たちを呼ぶように輝き、澄んだ音を響かせていたのだと言う。
「気になるのは、夢を見たのはあたしだけじゃないってことかな」
どうやら瞑夜以外にも、遺跡に関する予知をした夢見が居り、『研究所所長』御崎 衣緒(nCL2000001)の元へも調査の依頼があったのだとか。
「見つかった遺跡は三つ。どれも近畿地方にあるから、何らかの関連があると思うの」
皆にはその内のひとつ――瞑夜が夢見で見つけた遺跡に向かってもらい、最深部にある祭壇まで辿り着いて欲しい。其処に眠る不可思議な鉱石は、神秘を解明する手掛かりになってくれる筈だ。
「遺跡はかなり古いもので、ひとが立ち入らなくなって大分経っているみたい。でも、大昔の仕掛けは今も活きているから、注意して探索してね」
――石造りに緑が生い茂る遺跡を進むと、先ず立ちはだかるのは常闇の洞だ。其処では一切の灯りが役に立たず、自分の姿さえも見通せない程だと言う。
しかし、神秘による灯は闇を照らすことが出来、複雑な路も迷わずに進めるだろう。そうして次に待ち受けるのは、遺跡の番人――物音を察知して動き出す石像が設置された広間だ。
「仕掛けと言うか、石像自体が古妖のような存在なんだと思う。少しの物音にも反応して、広間を通ろうとする者の行く手を阻むみたい」
この石像は攻撃をすることは無いものの、その反面如何なる攻撃も無力化してしまう。その為、壊して進むと言う選択肢は無く、『全く音を立てずに』石像の仕掛けを解除するスイッチに辿り着かなくてはならない。
「そして、最後は……水が満たされた、深い湖」
その先に祭壇へ通じる扉があるのだが、扉には鍵がかかっている。その鍵が沈んでいるのが、深い湖の底なのだ。
「鍵は大きいし、きらきら輝いて見えるから……探すのはそう難しくないと思う。でも湖は深くて、普通に潜るのだと息が続かない――」
其処まで説明をした瞑夜は、みんなも気づいていそうだけど――と前置きして、遺跡へ挑む為の助言をする。
「この三つの仕掛け、守護使役の助けがあれば乗り越えられそうだよね。もし、対応する能力を使えるひとが居たら、是非調査に協力して欲しいんだ」
ある程度ならば覚者としての技能でも対応出来るが、守護使役の力を借りた方が確実だと言う。更に、守護使役と上手く連携し呼吸を合わせることで、普段以上の能力を発揮出来るらしい。
「何だか、あたし達の絆が試されているみたいだけど……みんななら、きっと困難も乗り越えられるって信じているから」
これをきっかけに自分の守護使役と向き合い、心を通わせてみるのも良いだろう。彼はどんな風にあなたに寄り添い、共に日々を過ごしているのだろうか。
――さあ、準備が出来たら相棒と共に向かうとしよう。石が導く、魂振りの地へ。
■シナリオ詳細
■成功条件
1.遺跡を探索し、最深部に眠る石の元へ到達する
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
●遺跡探検のしおり
最深部まで辿り着くためには、三つの仕掛けを突破する必要があります。
更に道中にて、ランク1の妖数体との戦闘が予想されますので、そちらの対処もお願いします(然程強い敵ではないようです)
1・常闇の洞
一切の灯りが照らせない闇に包まれた迷路です。灯り無しでは全く視界が効きません。しかし、竜系の『ともしび』など、覚者の力による光源ならば闇を照らせます。
2・石像広間
僅かな物音にも反応し、行く手を塞ぐ石像に守られた広間です。音を立てないと石像は動かないので、猫系の『しのびあし』などの出番です。出口付近のスイッチを押せば石像は動かなくなり、足音を立てても問題なく進めます。
3・深淵
深い水が湛えられた、人口の湖です。水底に扉の鍵が沈んでいますが、深さがかなりあるので素潜りは危険です。魚系の『せんすい』があれば制限を受けません。
●補足
技能で代用も出来ますが、守護使役の能力の方が効果が高いようです。更に守護使役と協力し、触れ合うことで探索が有利になります(技能を使用する場合、プレイングを工夫しないとちょっぴり大変になります)
普段なかなか触れる機会の無い、守護使役との交流にも触れられたらと思います。貴方の守護使役はどんな子でどう接しているのか、教えて下されば嬉しいです。それではよろしくお願いします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2017年03月11日
2017年03月11日
■メイン参加者 8人■
●守護使役と挑む遺跡
夢見の予知により、明らかとなった古代の遺跡群――それと時を同じくして、政府からもF.i.V.E.へ依頼が持ち込まれる。遺跡に眠る不思議な鉱石の歌声といい、何やら運命めいたものを感じた覚者たちは、その遺跡の一つへと調査に赴いていた。
(忘れられた鉱石が歌を歌う夢、か)
随分ロマンチックな夢見もあったものだと『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は、苔むした遺跡を眺めながら静かに溜息を吐く。三人の夢見によって予知された、三つの遺跡――となると、無関係とは思えない訳だが。
(……物には魂が宿るという。福をもたらすか禍をもたらすかは、そいつ次第だが)
何にせよ調査する必要があるだろうと結唯が結論づけたその時、遺跡に張り巡らされた木の根を器用に飛び越える『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)がおお、と歓声をあげた。
「謎の遺跡かぁ、こんなもんが近畿にあるとは知らんかったわ!」
「うむ、守護使役と力を合わせて未知の遺跡を大冒険……たまにはこんな依頼もいいよなぁ」
そう――『ファイヴ村管理人ふわもこ担当』ゲイル・レオンハート(CL2000415)の言う通り、この遺跡に仕掛けられた罠を突破する為には、守護使役の持つ力が必要になってくる。力を合わせて頑張るぞと守護使役の小梅に頷くゲイルだが、ついでにきゃっきゃうふふしようと、ときめきを隠せなかったりもして。
「そうそう、洞窟探検なんて心踊るなぁ。頑張ろうねー雪ちゃん!!」
一方で『カミサマの声』新堂・明日香(CL2001534)は全身で守護使役らぶを表現して、猫の使役――雪ちゃんの白くてまんまるな体を、力一杯ぎゅーっと抱きしめる。
「あああやっぱり可愛い、愛してる結婚しよう! でもでも、他のみんなの守護使役たちの雄姿も目に焼き付けちゃうよ~」
そう決意して明日香が目を向ければ、同じ猫系の守護使役でも随分性格が違うようだ。結唯の使役である黒琥珀は、その名の通り琥珀色の瞳にビロードのような黒い毛並みをしていて気位が高そうだし――ゲイルの小梅はパートナーが大好きな甘えん坊、凛のにゃんたはと言えば、気の合う相棒みたいな感じだろうか。
「不思議な呼ばれるような夢か、興味あるな。お前もそう思う?」
竜の守護使役――まもりの様子を窺う東雲 梛(CL2001410)は、卵の殻からそっと顔を出してそわそわしている使役を、優しく撫でてやって。同じ竜の守護使役も居るし、まもりの人見知りも落ち着くかなと思っていた梛だったが――『風に舞う花』風織 紡(CL2000764)たちの姿が目に入った瞬間、思わず硬直していた。
「……今まで、もちの存在をナチュラルに忘れていた気がしますが。まぁ普段もちもちしてたんですけどね!」
竜の守護使役であるもちを、もちもちとクッションのようにぎゅうぎゅう引っ張っている紡は色々と容赦の無い感じだ。しかし、当のもちはもちもちされるのが嫌いではないようで、手荒なスキンシップにも喜んでいるらしい。
「もちが、もちもち……うーん、訳が分からなくなってきたので、更にもちもちしときます」
「……まもりは、ああいう感じのは好きか?」
紡たちの様子を眺める梛が、一応使役に訪ねてみるが――まあ、守護使役との関係も人それぞれだと納得することにした。
「うーん……誰が何の為に作ったのか分からないけど、もしかしたらずっと昔、ボクたちみたいに守護使役と一緒に過ごしてた人がいたのかな」
遺跡の様子を観察しつつ、遥か過去に想いを馳せる丹羽 志穂(CL2001533)の後ろを、すぃと滑るように追いかけていくのは魚の守護使役であるシシャモだ。石造りの扉を開いて遺跡内部へ足を踏み入れた一行であったが、其処で柱の陰に潜む存在を察知した『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)が、直ぐに皆へと注意を促し鎖鎌を構えた。
「気を付けて下さい、何かいます……!」
――警戒するように守護使役のイブキが、美しい魚のヒレを揺らめかせる。その先に見えたのは、きぃきぃと甲高い声をあげながら、一斉に翼を広げて飛び立つもの達の姿だった。それが蝙蝠の妖であると気付いた梛は、仇華浸香の芳香を生み出して、押し寄せる妖の群れを一気に弱体化していく。
「数は、六……いや七体か」
遺跡に潜む異形へ素早く対応出来たのも、彼の持つ超直観故のことか。そう強力な個体ではないようだが、それなりに数が多いのが厄介か――しかし多数の敵相手への手段も講じていた凛は、朱焔の銘持つ刀を閃かせ、踊るような足運びで続けざまに妖たちを薙ぎ払う。
「メインは遺跡の探索です、手早く片付けてしまいましょう」
敵が怯んだ其処へ、容赦なく迫るのは灯の刃。地を這うような軌跡で影鎖が襲い掛かると、跳ね上がる闇刈の鎌が更なる追い打ちをかける。瞬く間に前衛の妖たちを仕留めた仲間の力を見て、志穂は思わず吐息を零すものの――油断せずに行こうと頷き、鍛え上げた拳を存分に振るうべく間合いを詰めた。
「やんちゃをする子には、ちゃんとお灸を据えてやらないとね」
おっとりとした佇まいに反し、ボクシングスタイルで華麗なストレートを決める志穂は何とも勇ましい。新手の蝙蝠たちも超音波を放って抵抗するものの、戦いで負った傷はゲイルの癒しの術によって回復していった。
「時間に限りがある訳でもない、今回は怪我しないことを重視しよう」
「よし、この力も雪ちゃんがくれた力!」
暦の因子に覚醒した明日香の髪は、眩いばかりの銀――青く輝く瞳と共に、その色彩は守護使役のものとお揃いだ。明日香の喚んだ稲妻が辺りに迸る中、結唯の生み出した岩の破片が次々に降り注ぎ、残された妖たちもじわじわと追い詰められていく。
「さてさて、それでは一気に掃除といきましょうか」
神具を纏った紡の、白いワンピースがふわりと揺れて――その素顔を鉄の仮面で隠した彼女は素足を踊らせながら、両の手に握りしめた刃を無造作に振り下ろした。
――英霊の力を引き出した紡の剣技は冴えわたり、唸りをあげる斬撃が妖の肉体を両断する。鮮やかに飛び散った血飛沫に、ぞわりとした感覚が沸き起こるが、紡は平静を装って剣を収めた。
「これで妖は、全部倒したか」
静寂を取り戻した周囲を見渡してゲイルが頷き、簡単に治療をしてから一行は遺跡の奥へと歩みを進めていく。その先に待ち受ける第一の関門――それは一切の灯りが役に立たないと言う、常闇の洞だった。
●試練之一~常闇の洞
「本当真っ暗だね」
洞の中へと足を踏み入れた途端、まるで質量を持ったかのような暗闇が梛たちを迎え入れる。念の為と結唯が土の心に働きかけて、周囲の地形を把握しようとするものの――常ならば感じ取れる感覚が、今は酷く頼りない。
「いままでこんな事なかったのですが……」
灯は発光を用いて辺りを照らそうとするも、かろうじて自分の周囲の様子が把握出来る位だ。このまま暗闇が自分を呑み込んでしまう気がして、灯がそっと己を掻き抱く中――小さな炎の塊がぽっと、皆を導くように辺りへ光を灯した。
「……これで大丈夫か」
「さぁ、最後の華ですよ、もち!」
梛のまもりと紡のもち――ふたりの竜の守護使役たちが生んだともしびは、濃厚な闇さえも退け行く先を照らす。洞窟は複雑な通路になっているようだったが、分かれ道に設置された燭台をともしびの炎が照らすと、正しい道の燭台に火が灯って迷いを払っていった。
「グルグル回って、待ちきれない? 君の番は、もうすぐだから、待っててね」
自分も早く役に立ちたいと言わんばかりに空を泳ぐシシャモに、優しく言い聞かせているのは志穂。その後ろを付いていく凛は、暗視で妖への警戒を行っているようだが、灯りが届かない場所は見通しが効かない様子だった。
「うーん……流石に遺跡の仕掛けまでは、妖もやって来れんのかな」
そんな中、梛と紡は適度に距離を取って、皆が歩きやすいようにと気を配っている。使役のまもりともちは、ふたりとも控えめな性格のようだったが――こうして皆の役に立てる状況に、頑張ろうと張り切っているようだ。
(何だかんだで、いつもそばにいてくれたんですよね)
――もちの存在に気付いた最初は、かなり冷たく接していた紡だったが、ストレス発散とばかりにもちもちしている内に受け入れるようになっていた。
「まぁ、もちはもちもちしているからもちな訳で」
何だか早口言葉のようになっている紡の呟きに、そっと口角を上げた梛は、ころころと転がるように懐いてくるまもりを労わるように撫でる。
「まもりって名前はなんとなく。まもりって感じがしたから」
――やがて常闇の洞は終点を迎え、ともしびに照らされた出口がゆっくりと近づいてきた。お疲れ、と告げた梛に向かい、まもりはころんと卵の殻から顔を覗かせたのだった。
●試練之二~石像広間
「よっしゃ、次はあたしらの出番やで、にゃんた!」
洞を抜け、遺跡を進んでいった一行の前に続けて立ちはだかるのは、遺跡の番人が守る石像広間だ。此処が活躍どころと見て取った凛は、守護使役に向けて気合を入れるが――向こうは僅かな物音にも反応して行く手を阻むことを思い出すと、慌てて口元を押さえた。
「あ、でも広間に入らないと大丈夫なのかな?」
入口からそっと広間を覗く明日香の言葉通り、未だ石像たちが動く気配はない。しかし広間はかなりの広さがあり、一定の間隔で整然と並ぶ石像たちは、古代の兵馬俑を思わせる見事さだ。
「じゃあ、此処は猫の使役さん達にお任せして、ボク達は音を立てないよう静かにしてないとね」
シシャモにもしーっと合図をして、志穂が一歩下がって仲間たちの邪魔をしないように待機する中、梛は緊急の連絡があった場合、送受心・改を持つ自分に声を出さずに伝えてくれたらと伝言をしていた。
(石像の隙間を縫って行くから、ぶつからないように別々に進むか)
ゲイルが視線で皆に合図をした後、音が出るものを持っていないことを確認してから、守護使役の小梅がしのびあしを発動させる。これで全く足音を立てずに移動が可能になる――但し制限時間もあるから、ゆっくりし過ぎる訳にはいかないけれど。
(流石に衣擦れレベルの音には反応しないだろうが、物音を立てないことに越したことはない)
――そして無用な体力も使うべきでもないと、結唯がしなやかな身のこなしで石像の間を通り抜けていって。凛はと言えば、ひらひら靡く袴の裾を押さえながら、足を取られないように優れた平衡感覚を発揮していた。
(……思えば剣士として、どっちかというと正面から敵とぶつかる事が多いからなぁ。あんまし使ってやる機会がなかったけど、やっぱり自分の出番があるとにゃんたも嬉しそうやな♪)
煙のような尻尾を揺らしながら、ころころと転がるようにして凛の後ろをついてくるにゃんたは、やっぱり可愛い。ちなみに小梅と一緒に仕掛けに挑むゲイルは、焦らず騒がずと決意していたものの――つぶらな瞳で見上げてくる小梅の姿に思わずきゅんとなって、抱きしめたくなる衝動と必死に戦っていたりした。
(姿を見れるようになったのは、ごく最近だけど……生まれた頃からずっと一緒だったんだよね)
使役の雪ちゃんと目配せをしつつ、そろりそろりと音を立てずに歩く明日香は、大切なパートナーのことに想いを巡らせる。
(あたしはきみと会えて凄く嬉しかった)
――これからもずーっと、一緒にいて。一緒に過ごして、楽しんで。ずーーーっと先の未来まで、雪ちゃんと歩んでいこう。
(だから、雪ちゃん。何度も言った言葉だけどね。あたしは雪ちゃんのこと、大好きだよ!)
最高の笑顔を浮かべながら、明日香は雪ちゃんの白い毛並みに頬ずりするが――ああ、試練中じゃなかったら声に出せたのにと悶絶していた。けれど彼女の想いは、確かに守護使役へと伝わった筈。気が付けば石像たちをすり抜けて、一行は壁に埋め込まれたスイッチの前まで辿り着いていた。
(これを……よいしょ、っと)
不思議な紋様に彩られたスイッチを押し込むと、石像たちの瞳が一瞬光った後で不意に消える。念の為に壁を叩いてみたけれど、もう物音に反応して動き出すことはないようだ。
「あー……もう、叫んじゃいたいけど……妖呼びそうだから我慢シマス」
――とりあえず、次の試練に挑む前に押し殺していた声を張り上げたいと思ったのは、明日香だけでなく此処に居る全員の願いだったのかもしれない。
●試練之三~深淵
「ここに来るまでに、みんなの守護使役のことを知れて楽しかったね」
――しみじみと呟く志穂が見据えるのは、最後の試練となる深い人造湖。透き通った水面が鏡のような輝きを放つ其処から、螺旋階段がぐるりと伸びて最奥の扉に続いている。あとは自分たちの出番――水底に沈む鍵を見つけられれば、この遺跡の探検も終わりだ。
「ううむ、何や神秘的な雰囲気で、妖の気配もせぇへんな」
最後まで気を抜かないようにと決意する凛だったが、結局入口に居た以外の妖とは遭遇しなかった。その分守護使役と触れ合ったりと余裕もあり、結唯も珍しく黒琥珀を消さずにおいたようだ。
「他の奴らや守護使役と、どう関わろうとこいつの勝手だ」
但し、基本的に放置の方向でいた彼女は、他の仲間たちに比べれば随分と淡泊のように見えた。しかしそれも、はっきりとした信念故のものらしい。
――曰く、神秘の存在とは言え、本質は普通の猫と変わらない。故に、自分がどうこう言って縛れるものではないだろう、と。
(妙なことにはならないだろう、多分)
だから黒琥珀が、意味ありげなまなざしで魚の使役たちを見つめているのも、猫の本質――だと思われる。そんな感じで仲間たちが見守る中、水着に着替えた灯と志穂はせんすいを発動し、深い深い湖へと身を踊らせた。
「さぁ私達の出番ですね。イブキ、お願いね」
「じゃ、行こうか。シシャモ」
透明な泡たちの群れに逆らって、ふたりは魚と一緒に何処までも潜っていく。ゆらゆらと揺れる水面から、陽光のように差し込む灯りは――梛のまもりが生んだともしびだろう。上からざっと見当をつけておいた志穂は、踊るように水の中を回るシシャモと一緒に、くるくると楽しそうに戯れながら鍵を探していた。
(せっかくのきれいな湖。泳ぐなら楽しんで、だね)
これも人工のものか、或いは神秘が形を成したものか――水晶の珊瑚がきらきらと光を反射して、志穂たちを更なる深みへと誘う。けれど大丈夫、使役たちのお陰で息は出来るから、溺れて沈むことはない。
(何だか、懐かしいですね)
一方の灯は、無邪気にじゃれてくるイブキと湖の底目指して競争だ。そう言えば岬の灯台に住んでいた頃は、こうしてよく海で素潜りをして遊んでいた――。
(そうなると、頭上のともしびは……灯台の光、になるのでしょうか)
不意に灯が瞳を細めたその時、水底できらりと金色の光が煌めく。やがてそれは発光の輝きも反射すると、眩いばかりに此処に居ることを訴えて――ふわりと湖底に降り立った灯は、それが杖ほどの大きさをした金の鍵であることを知った。
(これをひとりで抱えて戻るのは大変なので、丹羽さんと協力して運びましょう)
――そうして、二人が帰ってくるのを待っているゲイルはと言えば、自分の着流しに忍ばせた小梅ともふもふタイムを楽しんでいる。
「小梅たん、どうだ。気持ち良いか?」
誰も聞いていないだろうと思って愛称で呼びかけるゲイルだったが、その時足元にころころと雪ちゃんが転がって来た。――と、皆と打ち解けて来たまもりも、後を追いかけるようにころころ転がって。まさか彼らに聞かれたかと思ったゲイルの戌耳は、先っぽまで真っ赤になっていたのだった。
●魂振りの絆
無事に手に入れた金の鍵を使って、最後の扉は開き――遂に一行は遺跡の最深部へと辿り着く。其処には石舞台と思われる巨石に護られた祭壇があり、その上では不思議な輝きを放つ鉱石が、澄んだ鈴の音を響かせていた。
「これが……忘れられた鉱石が歌ううたですか」
りぃん、と空気を震わせる調べに耳を澄ませる灯は、自分たちが観客としてこの地に招かれたのかもしれないと思う。その音が響くたび、心の奥底が揺さぶられるような気がして、凛は思わず声をあげていた。
「なぁ、何であたしらを呼んだんや?」
――けれど石は答を返すことは無く、それでも此処に来たるべきもの達がやって来たことに気付いたのだろうか。魂振りの音が不意に止んで、仄かな輝きもふっと消えていく。それと共にかたん、と――鉱石を固定していた台座が外れていった。
「これは……ここから出して欲しいって、言っているのかな」
一抱えほどもある石に手を伸ばした志穂は、光の加減で微妙に色合いを変える様子に目を奪われつつも、ゆっくりと皆に問う。自分たちが見た限りでは良く分からないが、F.i.V.E.で調査をすれば何か分かるかもしれない。
「それでも、先ずはおもろい冒険をさせてもろてありがとう、やな」
にっと微笑む凛に頷く明日香も、ありがとうと囁いてそっと石を撫でる。あなたがあたし達を呼んで、守護使役の力を借りて此処まで辿り着けた。
「雪ちゃんはね、あたしの大切なパートナー。此処に来たことで、改めて実感できた気がする」
だから、ありがとうと――魂振りの地で確かめた絆は、其々の心へ確かに宿っていた。
夢見の予知により、明らかとなった古代の遺跡群――それと時を同じくして、政府からもF.i.V.E.へ依頼が持ち込まれる。遺跡に眠る不思議な鉱石の歌声といい、何やら運命めいたものを感じた覚者たちは、その遺跡の一つへと調査に赴いていた。
(忘れられた鉱石が歌を歌う夢、か)
随分ロマンチックな夢見もあったものだと『鴟梟』谷崎・結唯(CL2000305)は、苔むした遺跡を眺めながら静かに溜息を吐く。三人の夢見によって予知された、三つの遺跡――となると、無関係とは思えない訳だが。
(……物には魂が宿るという。福をもたらすか禍をもたらすかは、そいつ次第だが)
何にせよ調査する必要があるだろうと結唯が結論づけたその時、遺跡に張り巡らされた木の根を器用に飛び越える『緋焔姫』焔陰 凛(CL2000119)がおお、と歓声をあげた。
「謎の遺跡かぁ、こんなもんが近畿にあるとは知らんかったわ!」
「うむ、守護使役と力を合わせて未知の遺跡を大冒険……たまにはこんな依頼もいいよなぁ」
そう――『ファイヴ村管理人ふわもこ担当』ゲイル・レオンハート(CL2000415)の言う通り、この遺跡に仕掛けられた罠を突破する為には、守護使役の持つ力が必要になってくる。力を合わせて頑張るぞと守護使役の小梅に頷くゲイルだが、ついでにきゃっきゃうふふしようと、ときめきを隠せなかったりもして。
「そうそう、洞窟探検なんて心踊るなぁ。頑張ろうねー雪ちゃん!!」
一方で『カミサマの声』新堂・明日香(CL2001534)は全身で守護使役らぶを表現して、猫の使役――雪ちゃんの白くてまんまるな体を、力一杯ぎゅーっと抱きしめる。
「あああやっぱり可愛い、愛してる結婚しよう! でもでも、他のみんなの守護使役たちの雄姿も目に焼き付けちゃうよ~」
そう決意して明日香が目を向ければ、同じ猫系の守護使役でも随分性格が違うようだ。結唯の使役である黒琥珀は、その名の通り琥珀色の瞳にビロードのような黒い毛並みをしていて気位が高そうだし――ゲイルの小梅はパートナーが大好きな甘えん坊、凛のにゃんたはと言えば、気の合う相棒みたいな感じだろうか。
「不思議な呼ばれるような夢か、興味あるな。お前もそう思う?」
竜の守護使役――まもりの様子を窺う東雲 梛(CL2001410)は、卵の殻からそっと顔を出してそわそわしている使役を、優しく撫でてやって。同じ竜の守護使役も居るし、まもりの人見知りも落ち着くかなと思っていた梛だったが――『風に舞う花』風織 紡(CL2000764)たちの姿が目に入った瞬間、思わず硬直していた。
「……今まで、もちの存在をナチュラルに忘れていた気がしますが。まぁ普段もちもちしてたんですけどね!」
竜の守護使役であるもちを、もちもちとクッションのようにぎゅうぎゅう引っ張っている紡は色々と容赦の無い感じだ。しかし、当のもちはもちもちされるのが嫌いではないようで、手荒なスキンシップにも喜んでいるらしい。
「もちが、もちもち……うーん、訳が分からなくなってきたので、更にもちもちしときます」
「……まもりは、ああいう感じのは好きか?」
紡たちの様子を眺める梛が、一応使役に訪ねてみるが――まあ、守護使役との関係も人それぞれだと納得することにした。
「うーん……誰が何の為に作ったのか分からないけど、もしかしたらずっと昔、ボクたちみたいに守護使役と一緒に過ごしてた人がいたのかな」
遺跡の様子を観察しつつ、遥か過去に想いを馳せる丹羽 志穂(CL2001533)の後ろを、すぃと滑るように追いかけていくのは魚の守護使役であるシシャモだ。石造りの扉を開いて遺跡内部へ足を踏み入れた一行であったが、其処で柱の陰に潜む存在を察知した『希望を照らす灯』七海 灯(CL2000579)が、直ぐに皆へと注意を促し鎖鎌を構えた。
「気を付けて下さい、何かいます……!」
――警戒するように守護使役のイブキが、美しい魚のヒレを揺らめかせる。その先に見えたのは、きぃきぃと甲高い声をあげながら、一斉に翼を広げて飛び立つもの達の姿だった。それが蝙蝠の妖であると気付いた梛は、仇華浸香の芳香を生み出して、押し寄せる妖の群れを一気に弱体化していく。
「数は、六……いや七体か」
遺跡に潜む異形へ素早く対応出来たのも、彼の持つ超直観故のことか。そう強力な個体ではないようだが、それなりに数が多いのが厄介か――しかし多数の敵相手への手段も講じていた凛は、朱焔の銘持つ刀を閃かせ、踊るような足運びで続けざまに妖たちを薙ぎ払う。
「メインは遺跡の探索です、手早く片付けてしまいましょう」
敵が怯んだ其処へ、容赦なく迫るのは灯の刃。地を這うような軌跡で影鎖が襲い掛かると、跳ね上がる闇刈の鎌が更なる追い打ちをかける。瞬く間に前衛の妖たちを仕留めた仲間の力を見て、志穂は思わず吐息を零すものの――油断せずに行こうと頷き、鍛え上げた拳を存分に振るうべく間合いを詰めた。
「やんちゃをする子には、ちゃんとお灸を据えてやらないとね」
おっとりとした佇まいに反し、ボクシングスタイルで華麗なストレートを決める志穂は何とも勇ましい。新手の蝙蝠たちも超音波を放って抵抗するものの、戦いで負った傷はゲイルの癒しの術によって回復していった。
「時間に限りがある訳でもない、今回は怪我しないことを重視しよう」
「よし、この力も雪ちゃんがくれた力!」
暦の因子に覚醒した明日香の髪は、眩いばかりの銀――青く輝く瞳と共に、その色彩は守護使役のものとお揃いだ。明日香の喚んだ稲妻が辺りに迸る中、結唯の生み出した岩の破片が次々に降り注ぎ、残された妖たちもじわじわと追い詰められていく。
「さてさて、それでは一気に掃除といきましょうか」
神具を纏った紡の、白いワンピースがふわりと揺れて――その素顔を鉄の仮面で隠した彼女は素足を踊らせながら、両の手に握りしめた刃を無造作に振り下ろした。
――英霊の力を引き出した紡の剣技は冴えわたり、唸りをあげる斬撃が妖の肉体を両断する。鮮やかに飛び散った血飛沫に、ぞわりとした感覚が沸き起こるが、紡は平静を装って剣を収めた。
「これで妖は、全部倒したか」
静寂を取り戻した周囲を見渡してゲイルが頷き、簡単に治療をしてから一行は遺跡の奥へと歩みを進めていく。その先に待ち受ける第一の関門――それは一切の灯りが役に立たないと言う、常闇の洞だった。
●試練之一~常闇の洞
「本当真っ暗だね」
洞の中へと足を踏み入れた途端、まるで質量を持ったかのような暗闇が梛たちを迎え入れる。念の為と結唯が土の心に働きかけて、周囲の地形を把握しようとするものの――常ならば感じ取れる感覚が、今は酷く頼りない。
「いままでこんな事なかったのですが……」
灯は発光を用いて辺りを照らそうとするも、かろうじて自分の周囲の様子が把握出来る位だ。このまま暗闇が自分を呑み込んでしまう気がして、灯がそっと己を掻き抱く中――小さな炎の塊がぽっと、皆を導くように辺りへ光を灯した。
「……これで大丈夫か」
「さぁ、最後の華ですよ、もち!」
梛のまもりと紡のもち――ふたりの竜の守護使役たちが生んだともしびは、濃厚な闇さえも退け行く先を照らす。洞窟は複雑な通路になっているようだったが、分かれ道に設置された燭台をともしびの炎が照らすと、正しい道の燭台に火が灯って迷いを払っていった。
「グルグル回って、待ちきれない? 君の番は、もうすぐだから、待っててね」
自分も早く役に立ちたいと言わんばかりに空を泳ぐシシャモに、優しく言い聞かせているのは志穂。その後ろを付いていく凛は、暗視で妖への警戒を行っているようだが、灯りが届かない場所は見通しが効かない様子だった。
「うーん……流石に遺跡の仕掛けまでは、妖もやって来れんのかな」
そんな中、梛と紡は適度に距離を取って、皆が歩きやすいようにと気を配っている。使役のまもりともちは、ふたりとも控えめな性格のようだったが――こうして皆の役に立てる状況に、頑張ろうと張り切っているようだ。
(何だかんだで、いつもそばにいてくれたんですよね)
――もちの存在に気付いた最初は、かなり冷たく接していた紡だったが、ストレス発散とばかりにもちもちしている内に受け入れるようになっていた。
「まぁ、もちはもちもちしているからもちな訳で」
何だか早口言葉のようになっている紡の呟きに、そっと口角を上げた梛は、ころころと転がるように懐いてくるまもりを労わるように撫でる。
「まもりって名前はなんとなく。まもりって感じがしたから」
――やがて常闇の洞は終点を迎え、ともしびに照らされた出口がゆっくりと近づいてきた。お疲れ、と告げた梛に向かい、まもりはころんと卵の殻から顔を覗かせたのだった。
●試練之二~石像広間
「よっしゃ、次はあたしらの出番やで、にゃんた!」
洞を抜け、遺跡を進んでいった一行の前に続けて立ちはだかるのは、遺跡の番人が守る石像広間だ。此処が活躍どころと見て取った凛は、守護使役に向けて気合を入れるが――向こうは僅かな物音にも反応して行く手を阻むことを思い出すと、慌てて口元を押さえた。
「あ、でも広間に入らないと大丈夫なのかな?」
入口からそっと広間を覗く明日香の言葉通り、未だ石像たちが動く気配はない。しかし広間はかなりの広さがあり、一定の間隔で整然と並ぶ石像たちは、古代の兵馬俑を思わせる見事さだ。
「じゃあ、此処は猫の使役さん達にお任せして、ボク達は音を立てないよう静かにしてないとね」
シシャモにもしーっと合図をして、志穂が一歩下がって仲間たちの邪魔をしないように待機する中、梛は緊急の連絡があった場合、送受心・改を持つ自分に声を出さずに伝えてくれたらと伝言をしていた。
(石像の隙間を縫って行くから、ぶつからないように別々に進むか)
ゲイルが視線で皆に合図をした後、音が出るものを持っていないことを確認してから、守護使役の小梅がしのびあしを発動させる。これで全く足音を立てずに移動が可能になる――但し制限時間もあるから、ゆっくりし過ぎる訳にはいかないけれど。
(流石に衣擦れレベルの音には反応しないだろうが、物音を立てないことに越したことはない)
――そして無用な体力も使うべきでもないと、結唯がしなやかな身のこなしで石像の間を通り抜けていって。凛はと言えば、ひらひら靡く袴の裾を押さえながら、足を取られないように優れた平衡感覚を発揮していた。
(……思えば剣士として、どっちかというと正面から敵とぶつかる事が多いからなぁ。あんまし使ってやる機会がなかったけど、やっぱり自分の出番があるとにゃんたも嬉しそうやな♪)
煙のような尻尾を揺らしながら、ころころと転がるようにして凛の後ろをついてくるにゃんたは、やっぱり可愛い。ちなみに小梅と一緒に仕掛けに挑むゲイルは、焦らず騒がずと決意していたものの――つぶらな瞳で見上げてくる小梅の姿に思わずきゅんとなって、抱きしめたくなる衝動と必死に戦っていたりした。
(姿を見れるようになったのは、ごく最近だけど……生まれた頃からずっと一緒だったんだよね)
使役の雪ちゃんと目配せをしつつ、そろりそろりと音を立てずに歩く明日香は、大切なパートナーのことに想いを巡らせる。
(あたしはきみと会えて凄く嬉しかった)
――これからもずーっと、一緒にいて。一緒に過ごして、楽しんで。ずーーーっと先の未来まで、雪ちゃんと歩んでいこう。
(だから、雪ちゃん。何度も言った言葉だけどね。あたしは雪ちゃんのこと、大好きだよ!)
最高の笑顔を浮かべながら、明日香は雪ちゃんの白い毛並みに頬ずりするが――ああ、試練中じゃなかったら声に出せたのにと悶絶していた。けれど彼女の想いは、確かに守護使役へと伝わった筈。気が付けば石像たちをすり抜けて、一行は壁に埋め込まれたスイッチの前まで辿り着いていた。
(これを……よいしょ、っと)
不思議な紋様に彩られたスイッチを押し込むと、石像たちの瞳が一瞬光った後で不意に消える。念の為に壁を叩いてみたけれど、もう物音に反応して動き出すことはないようだ。
「あー……もう、叫んじゃいたいけど……妖呼びそうだから我慢シマス」
――とりあえず、次の試練に挑む前に押し殺していた声を張り上げたいと思ったのは、明日香だけでなく此処に居る全員の願いだったのかもしれない。
●試練之三~深淵
「ここに来るまでに、みんなの守護使役のことを知れて楽しかったね」
――しみじみと呟く志穂が見据えるのは、最後の試練となる深い人造湖。透き通った水面が鏡のような輝きを放つ其処から、螺旋階段がぐるりと伸びて最奥の扉に続いている。あとは自分たちの出番――水底に沈む鍵を見つけられれば、この遺跡の探検も終わりだ。
「ううむ、何や神秘的な雰囲気で、妖の気配もせぇへんな」
最後まで気を抜かないようにと決意する凛だったが、結局入口に居た以外の妖とは遭遇しなかった。その分守護使役と触れ合ったりと余裕もあり、結唯も珍しく黒琥珀を消さずにおいたようだ。
「他の奴らや守護使役と、どう関わろうとこいつの勝手だ」
但し、基本的に放置の方向でいた彼女は、他の仲間たちに比べれば随分と淡泊のように見えた。しかしそれも、はっきりとした信念故のものらしい。
――曰く、神秘の存在とは言え、本質は普通の猫と変わらない。故に、自分がどうこう言って縛れるものではないだろう、と。
(妙なことにはならないだろう、多分)
だから黒琥珀が、意味ありげなまなざしで魚の使役たちを見つめているのも、猫の本質――だと思われる。そんな感じで仲間たちが見守る中、水着に着替えた灯と志穂はせんすいを発動し、深い深い湖へと身を踊らせた。
「さぁ私達の出番ですね。イブキ、お願いね」
「じゃ、行こうか。シシャモ」
透明な泡たちの群れに逆らって、ふたりは魚と一緒に何処までも潜っていく。ゆらゆらと揺れる水面から、陽光のように差し込む灯りは――梛のまもりが生んだともしびだろう。上からざっと見当をつけておいた志穂は、踊るように水の中を回るシシャモと一緒に、くるくると楽しそうに戯れながら鍵を探していた。
(せっかくのきれいな湖。泳ぐなら楽しんで、だね)
これも人工のものか、或いは神秘が形を成したものか――水晶の珊瑚がきらきらと光を反射して、志穂たちを更なる深みへと誘う。けれど大丈夫、使役たちのお陰で息は出来るから、溺れて沈むことはない。
(何だか、懐かしいですね)
一方の灯は、無邪気にじゃれてくるイブキと湖の底目指して競争だ。そう言えば岬の灯台に住んでいた頃は、こうしてよく海で素潜りをして遊んでいた――。
(そうなると、頭上のともしびは……灯台の光、になるのでしょうか)
不意に灯が瞳を細めたその時、水底できらりと金色の光が煌めく。やがてそれは発光の輝きも反射すると、眩いばかりに此処に居ることを訴えて――ふわりと湖底に降り立った灯は、それが杖ほどの大きさをした金の鍵であることを知った。
(これをひとりで抱えて戻るのは大変なので、丹羽さんと協力して運びましょう)
――そうして、二人が帰ってくるのを待っているゲイルはと言えば、自分の着流しに忍ばせた小梅ともふもふタイムを楽しんでいる。
「小梅たん、どうだ。気持ち良いか?」
誰も聞いていないだろうと思って愛称で呼びかけるゲイルだったが、その時足元にころころと雪ちゃんが転がって来た。――と、皆と打ち解けて来たまもりも、後を追いかけるようにころころ転がって。まさか彼らに聞かれたかと思ったゲイルの戌耳は、先っぽまで真っ赤になっていたのだった。
●魂振りの絆
無事に手に入れた金の鍵を使って、最後の扉は開き――遂に一行は遺跡の最深部へと辿り着く。其処には石舞台と思われる巨石に護られた祭壇があり、その上では不思議な輝きを放つ鉱石が、澄んだ鈴の音を響かせていた。
「これが……忘れられた鉱石が歌ううたですか」
りぃん、と空気を震わせる調べに耳を澄ませる灯は、自分たちが観客としてこの地に招かれたのかもしれないと思う。その音が響くたび、心の奥底が揺さぶられるような気がして、凛は思わず声をあげていた。
「なぁ、何であたしらを呼んだんや?」
――けれど石は答を返すことは無く、それでも此処に来たるべきもの達がやって来たことに気付いたのだろうか。魂振りの音が不意に止んで、仄かな輝きもふっと消えていく。それと共にかたん、と――鉱石を固定していた台座が外れていった。
「これは……ここから出して欲しいって、言っているのかな」
一抱えほどもある石に手を伸ばした志穂は、光の加減で微妙に色合いを変える様子に目を奪われつつも、ゆっくりと皆に問う。自分たちが見た限りでは良く分からないが、F.i.V.E.で調査をすれば何か分かるかもしれない。
「それでも、先ずはおもろい冒険をさせてもろてありがとう、やな」
にっと微笑む凛に頷く明日香も、ありがとうと囁いてそっと石を撫でる。あなたがあたし達を呼んで、守護使役の力を借りて此処まで辿り着けた。
「雪ちゃんはね、あたしの大切なパートナー。此処に来たことで、改めて実感できた気がする」
だから、ありがとうと――魂振りの地で確かめた絆は、其々の心へ確かに宿っていた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『魂振りの絆~雪ちゃん』
取得者:新堂・明日香(CL2001534)
『魂振りの絆~まもり』
取得者:東雲 梛(CL2001410)
『魂振りの絆~もち』
取得者:風織 紡(CL2000764)
『魂振りの絆~黒琥珀』
取得者:谷崎・結唯(CL2000305)
『魂振りの絆~小梅』
取得者:ゲイル・レオンハート(CL2000415)
『魂振りの絆~にゃんた』
取得者:焔陰 凛(CL2000119)
『魂振りの絆~イブキ』
取得者:七海 灯(CL2000579)
『魂振りの絆~シシャモ』
取得者:丹羽 志穂(CL2001533)
取得者:新堂・明日香(CL2001534)
『魂振りの絆~まもり』
取得者:東雲 梛(CL2001410)
『魂振りの絆~もち』
取得者:風織 紡(CL2000764)
『魂振りの絆~黒琥珀』
取得者:谷崎・結唯(CL2000305)
『魂振りの絆~小梅』
取得者:ゲイル・レオンハート(CL2000415)
『魂振りの絆~にゃんた』
取得者:焔陰 凛(CL2000119)
『魂振りの絆~イブキ』
取得者:七海 灯(CL2000579)
『魂振りの絆~シシャモ』
取得者:丹羽 志穂(CL2001533)
特殊成果
なし








