お前なんか大っ嫌いだ!
お前なんか大っ嫌いだ!



 冬の寒空に少年が一人ブランコに座っている。真昼間の公園だというのに他には人っ子一人いない。それもそのはず今は平日、本来なら学校に行ってる時間だ。白息は大気に吸い込まれていく。その様子を観察しながらブランコを揺らしもしないで見上げる少年。十歳ほどの年齢の少年は彼の何やら物憂げに座っていた。
「お前、なんでついてくるんだよ」
 息が吸い込まれた空の先、誰にも見えないはずのその存在はビクリと体を震わせる。
 ――守護使役。
 小さなお面をつけたそれは常に彼と共にあった。発現と同時に見えるようになっただけ。しかしそんなことは少年の知るところではない。
 少年は袖をまくり、うろこ状に変化した自分の皮膚を眺める。獣の因子、蛇の特徴だった。
「お前が現れたからこうなっちゃったんだぞ! どうすんだよ!」
 涙ながらに訴える声は大気に溶けていく。少年は妖の仕業ではないかと考えていた。目の前にいる浮遊する存在の出現と共にこの症状が起きた。だとすれば、目の前のそいつが犯人に間違いはないだろう、そう考えたのだ。
 怒りから少年はむんずと掴んだ小石を浮かんでいるそれへと投げつける。


 何度かそれを続けていると、慌てて回避するそれが怖がっていることに気付いた少年はやがて石を投げるのを止める。
「……なんで、なんで悲しんでるんだよ! ヤなのはこっちの方だよバーカ!」
 悪態をつく少年だが、その言葉で尚更悲しむ守護使役の気持ちが伝わってくる。やるせない気持ちだけが彼の心を支配していった。鱗に包まれた腕に涙が落ちる。
 ブランコから降りて、うずくまった少年は行き場のない不安に襲われてついに泣き出してしまう。
 自分はこれからどうなってしまうのかわからなかった。妖になってしまうんじゃないか、はたまた何かの病気で死んでしまうのではないか。
 話すこと自体に恐怖を感じ誰にも相談できなかった。話してしまえば自分が自分でなくなってしまいそうな気がしたからだ。
 その時背後の草むらがガサリと音を立てる。
 ビクリと飛び上がり、慌ててそちらを見る少年。目の前には大蛇……というにはあまりにも大きい蛇がいた。
「あ……あ……あや……かし!」
 ちろちろと舌を出し、シューッという独特の音と共に這い寄る大蛇。少年の怯えた眼は釘付けになる。呼吸さえも忘れ、震える様はまさに蛇に睨まれた蛙だ。
 バクリと口を開いた大蛇は一瞬のうちに少年を丸呑みにする。大蛇の胴体が膨れ上がり、何かが中で蠢くのが外からでも見て取れる。しかし、やがてその動きもなくなり、大蛇は満足げにずるずると闇の中へと帰っていく。
 乾いた音が響き、守護使役の着けていたお面が転がる。最後に残ったそれも溶けるようにして世界に消えていった。

「皆、今回も事件だ! 救出任務だぜ」
 久方相馬(nCL2000004)はそう言いながら部屋の中へと入ってくる。
「ただ、救出って言っても、今回は一般人じゃない。覚者になりたての存在っぽいんだ。でも、まだ自分の力がなんなのか、どんな力なのかも理解してないような感じだ」
 相馬の話では少年は『加賀千明』という子供のようだ。少年の様子を付け加えながら、場所の説明なども加えていく。
「守護使役も見えてるし腕には蛇の鱗、間違いなく覚者だと思う。でも、まだ特別能力を使ってる感じじゃなかったな。使い方がわからないのか、使えないのかはわからないけど……」
 そういって小首を傾げながら考える相馬だが、気を取り直して説明に戻る。敵の資料として蛇のおもちゃを取り出して説明をしていく。
「まぁ、細かいことはその場で判断してくれ。敵は蛇の姿をしてる。実際には十メートルくらいのサイズだけど……まぁ、見た目の通り鋭い牙には毒があるから注意な。ただ、毒液だけを飛ばすって器用なこともできるみたいだ」
 手元の蛇の大あごを開けさせながら続ける。
「最後に、丸呑みには気をつけてくれ。一発喰われたら出てこれるかどうかもわかんねぇからさ」
 シャーっと自分の口で言いながら蛇のおもちゃを覚者達へと向ける相馬。このくらい可愛ければいいんだけどな、と言いながらそれを鞄に無造作に突っ込んでいく。
「それじゃ皆、千明の事よろしく頼むぜ! 特に、守護使役の事はきっちり教えてやってくれよな。自分の分身のことを嫌ったまんまじゃ悲しいもんな!」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:鹿之助
■成功条件
1.妖の撃破
2.加賀千明の救出
3.千明に覚者に関する説明を行う
こんにちは。鹿之助です。
今回は目覚めたばかりの少年の話です。
誤解の解消が今回の目的の最終目標になります。

【妖】大蛇:妖生物系ランク2
攻撃手段
毒牙:A:物近単 +【猛毒】+【二連】
毒液噴射:A:遠遠列+【毒】
丸呑み:A:物近単+【必殺】(特大ダメージ)

【少年】
加賀千明、11歳の小学五年生。長袖で隠しているが両腕には蛇鱗。
鱗が生えたことを妖化しているのではと考えており
浮遊系の守護使役がその原因だと誤解している。
本来は外で遊ぶのが大好きな活発な少年だが、今は体の異変を受け塞ぎこんでいる。
発現したのはつい最近。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年02月19日

■メイン参加者 6人■

『優麗なる乙女』
西荻 つばめ(CL2001243)
『ホワイトガーベラ』
明石 ミュエル(CL2000172)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『天からの贈り物』
新堂・明日香(CL2001534)


 大蛇が顎が外れるほどに口を開き、少年へと襲いかかる。その時、大蛇の片目目掛けて刃が襲い掛かる。大蛇はどうにかその首を捻り、『優麗なる乙女』西荻 つばめ(CL2001243)。による斬撃を額に当てさせる。
 奇襲の失敗に怯むことなく大蛇の鼻を機械化した左脚で蹴り、宙で一回転してからつばめは加賀千明の前に降り立つ。
「怪我はないかしら?」
 それまで目を瞑っていた千明はその声でやっと目を開け、つばめの姿を確認する。腰を抜かしていた千明は首を縦にカクカク振るのみで言葉は返せない様子だ。
「セーフ! さ、危ないから下がろう」
 つばめに続き、その俊足で駆け付けた『翼に笑顔を与えた者』新堂・明日香(CL2001534)が千明の前へと盾になるように割り込むと彼を、立ち上がらせる。千明は不安そうにしており、助けが来たことをようやく理解したのか明日香の腕にすがりつく。
「さ、こっち!」
「新堂さん!」
「えっ……ひゃあ!」
 駆け出そうとした二人へ大蛇が襲い掛かる。つばめの声で危機を察知した明日香は千明を抱きかかえながら横っ飛びに攻撃を回避しようとする。脚に激痛が走ったかと両足に鋭利な刃物で切られたような傷ができ、そこからは血に紛れて薄黄色い液体が流れている。毒だ。
 苦痛に顔を歪ませそうになるも、千明を不安にさせまいと痛みを押し殺し体制を立て直す。再び明日香と千明を襲おうとする大蛇に雷撃が浴びせられる。
「無事か!? 化け蛇! 獲物はこっちだぞ!」
 『白き光のヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)の声と共に覚者達が現れる。すかさず翔が明日香と大蛇の間に立ち塞がる。翔が手にした端末からは半透明の刃が形成され、それを正眼に構える。
 新手を歓迎するかのように大蛇は舌なめずりをする。相手や状況をその舌で捉えるというのは普通の蛇のすること。しかし、目を細め、口を開く妖の仕草は、常識的なそれではなく、餌を目の前にした捕食者の余裕を表していた。


 鎌首をもたげ顎が外れんばかりに口を開けたかと思えば一気に明日香と千明に襲い掛かる妖。
「走れ! オレがどうにかする!!」
 翔の声を合図に明日香が駆けだす。振り返ることなく一直線に後方へと駆け出す。千明の守護使役は右往左往として判断できていないようだ。
 一方大蛇は翔を食おうと襲いかかる。翔は霊刀で上顎を押しとどめようとするも徐々に力で押される。
(や、やべぇ……!)
 抑えている二つの牙からは毒が滴り、口の奥には闇が広がっている。口内には異質な臭気も漂っていて集中力がそがれる。
 歯を食いしばりいっそう踏ん張って耐えようと足に力を入れた瞬間に、足に蛇の舌が絡まり一気に口内に引き込まれる。
「ぉわぁあ!?」
 翔には一瞬何が起きたのかわからなかったものの、周囲が闇に包まれ全身を包む粘液、異臭、高速で奥まで流し込まれそうになるのを感じどんな状況にあるのかを知る。
「吐きだせ!」
 『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)が大蛇の腹を大きく切りつけ、さらに大きく体を捻り、回し蹴りを叩き込む。
 大蛇がえずいたかと思うと、粘液塗れの翔が投げ出される。翔は肩で息をしながら片膝立ちで構え直す。
「た、たすかったぜ……」
「翔、大丈夫かしら?」
 三島 椿(CL2000061)が水術で傷を癒やすのと同時に体中の粘液を洗い流していく。体勢を立て直しつつ椿に礼をするついでに後方を確認する翔。
 自分が身代わりになることで千明と明日香は既に前線を離れることに成功していた。
 仲間の無事を確認すると彩吹は手をひらひらと千明の守護使役へ振り、千明と共に逃げるようにジェスチャーを送る。
 それまで狼狽えていた守護使役も慌てて主人の近くへと飛んでいく。


 餌を吐きださせた彩吹へと大蛇は怒りの目線を向ける。
「あら、貴方のお相手は彼女だけではなくてよ?」
 つばめが鬼丸を自在に操り、大蛇の顔目掛けて斬りかかる。鼻先に、牙にと斬撃が叩き込まれる。
「これで……っ!」
 『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)は痛みから狂ったように暴れる大蛇の懐に飛び込み、相手の動作を活かして手にした杖を突き刺す。そこからは毒々しい色をした液体が大蛇の腹部に注ぎ込まれていく。
 たまらず体をうねらせミュエルの体を弾き飛ばす。ミュエルは宙で体を捻り、着地するのと同時に車輪と化した足で上手く元居た位置まですべり戻る。
 怒り狂った大蛇は再び矛先を彩吹へ向け直すとその体に牙でもって食らいつこうとする。
 金属音と共に双牙が三本の刀に防がれる。彩吹の双刀と翔の霊刀がその牙を止める。
「さっきは助けられたもんな! 今度はオレの番だ!」
「助かる。押し返すよ!」
 二人でその牙を抑え、徐々に徐々にとその牙は持ち上げられていく。
 二人は叫び声と共に腕に力を籠め、地にめり込むほどに踏ん張る。彩吹の刀には闘気が、翔の刃には波動が纏わりつき、裂帛の気合と共に振り抜かれた二人の刃が妖の頭を弾き返す。
 流石にこの事態には驚きを隠せない妖は目を白黒させながら頭部を地面へ叩きつけられる。
「チャンス!」
 その隙に椿は高密度の空気を砲弾のように放つ。地面にひっくり返る様にして打ち付けられた妖の頭部は引きずられるように地面をすべり、公園の木々へと直撃する。
「今のうちに加賀君を」
 椿は大きい隙ができたのを確認し明日香と千明にさらに下がる様に指示を出す。だが、千明は先ほど自分たちを庇って危うい事態になった翔のことを思い出し不安げな顔を浮かべる。
「で、でも……」
 みんな逃げたほうが、そう言いかけた千明の頭を椿が撫でる。
「……私達なら大丈夫。加賀君はお姉さんについていけばいいわ」
 明日香に連れられ千明は完全に戦場を離脱する。その様子を見終えると再び椿は構え直す。既に大蛇は鎌首をもたげ、体勢を立て直している。そのタフさにさらに気を引き締める。この場所こそが最前線で最終防衛戦なのだから。


 千明をつれ、公園の端までやってくる明日香。遠目には大蛇と覚者達が闘っている様子が見える。
「ここまでくれば安全かな。じゃあ、アレを倒すまで此処で待っててね。後できちんと説明するから」
 膝立ちの体勢で目線を千明と同じに合わせる明日香。そんなところに千明の守護使役が現れる。
「っ……! こ、こいつ、まだ……!」
 それを見ると千明は怯えた様に明日香の陰に隠れるように逃げる。
「大丈夫。君の味方だよ。この子は守護使役って言って。生まれた時からずっと、あたし達の傍で見守ってくれてたんだよ」
 そういって自分の守護使役である雪ちゃんを見せてやる。「ね? 可愛いでしょ?」と自慢げにする。
「この子たちが見えるようになるのは、特別な力を手に入れた時。発現っていうんだけど――」
 それから守護使役の事、覚者の事を手短に話していく。千明はこの緊迫した状況故にほとんど頷くばかりだったが、守護使役が敵ではなく、自分の能力も少し受け入れることができたようだ。
 説明している間に遠目に仲間たちが苦戦しているのが見える。戦闘に復帰しなければならない。
「いろいろあって混乱しちゃうと思う。でもね、これだけは忘れないで」
 千明の守護使役を見つめ、優しい声音で続ける。
「この子は君の事をずっと守ってきたの。君の事が大好きだからね。だから信頼してあげて。ずっと守ってきた子に嫌われたら、きっと、凄く悲しいよ?」
 それじゃあもう行かなきゃ、と弓を手に立ち上がる明日香。「二人で待っててくれる?」という問いに千明は自分の守護使役を見ながらおずおずと頷く。
「よーし、雪ちゃん行くよー!」
 駆けだす明日香と雪ちゃんを見送り、千明は自分の守護使役を見る。
 最初の一言を出すことがどれだけ難しかっただろうか。
 自分の行いが守護使役を苦しめたのは説明されてわかった。でも、自分の身に降りかかった事の恐怖を誰かに押しつけなければ、自分が押し殺されそうだった。
 周囲には覚者のような特殊能力者は居ない。日常に居ないものと言えば見たこともない妖くらい。それゆえに発現を妖化の片鱗と考え、その原因が唐突に表れた守護使役のせいだと思い込まずにはいられなかった。だが、今なら心に伝わってくる感情がなんなのか理解できる。
「その……ゴメンな。しゅご……しえき、だっけ……。いままでアリガト、な」
 千明は自分の守護使役を抱きしめ、遠くで自分たちを守るために駆けつけてくれた覚者達を見守る。明日香も合流し、戦いは激しさを増している。
「がんばれー! おねえちゃんたちー!」


「あぁして応援されては、より一層気張らなくてはいけませんわね」
「そうだね……、もうひと踏ん張りっ……」
 彩吹と入れ替わり前衛に移動したミュエルとつばめはお互いを励まし合う。そんな二人目掛けて大蛇が毒液を吹きかける。薄黄色い液体が噴霧され彼女らに降りかかってくる。これまで受けた傷口から体を侵さんと入り込む。
 毒の霧を振り払おうとする二人の間を稲妻が駆け抜け、毒の幕を切り裂く。
「そんじゃ、一気に畳んじまおうぜ!」
 翔が得意げに霊刀を肩に担ぐ。彼は左手で五芒星を描き出すとミュエルとつばめの体を青白い光が包み、毒素が分解されていく。
 その傍らでミュエルと交代した彩吹が椿からの治療で復帰する。体の各所にあった打撲や切り傷が椿の術でみるみる治癒されていく。さらに、戦線に戻った明日香が祝福を授ける。
「さぁ、これでもう大丈夫よ」
「私の分もやっちゃって!」
「任せて。っと……いくよっ!」
 翼をはためかせ、少し浮いたかと思うと双刀を構え、低空を弾丸飛行する彩吹。大蛇と入れ違いになるタイミングで牙へ一太刀、空中で反転し、さらにもう一撃の斬撃を頭部に浴びせる。
 椿の高速飛行を捉えんとする大蛇の体に蔦が巻き付き無数の花が咲き乱れる。そこから漂う香気が妖の体から力を奪う。
「西荻さん……!」
 体中に絡まった蔦を気にしていないのか無視をしてか、体を大きくうねらせ、大蛇が大口を開けてつばめへと襲いかかる。ミュエルが声を上げ注意を促すもつばめはそのまま大蛇へと突っ込んでいく。
 一度大きく踏み込んだつばめは刀を手にその場で左脚を軸に一回転し、ちょうど目前に迫る大蛇の牙目掛けて刃を振り下ろす。
 度重なる攻撃を受け続けた大蛇の牙はつい斬り飛ばされる。そのまま空中へ飛び上がったつばきは大蛇の脳天にその刃を突き立てる。
 その一撃でもって大蛇は大きく仰け反り、その体を横たえる。完全にその活動を停止させる。


 周囲には静寂が訪れ、覚者達はその刃を収める。そんな彼らに歓声を上げて千明が駆け寄ってくる。
「すごいや! 本当に妖を倒しちゃったんだね!」
「えぇ、私達なら大丈夫っていったでしょう?」
 やってきた千明へと椿が笑顔を向ける。彼の顔にはもう不安はなさそうだ。
「オレは、成瀬翔、お前の一つ上、六年生だぜ。お前と同じ覚者なんだ。覚者って分かるよな?」
 そう言いながら元の姿に戻った翔を見て千明は目を白黒させる。目の前にいた大人ほどはあろうかという青年が唐突に子供になったかと思ったら自分は六年生だというのだ。
「うわぁ、本当にこういう人いるんだぁ……」
 目の前で起きたことに本心のまま言葉が出てしまう。マズイと思ったのか口を手で隠す千明。それを笑い飛ばす翔は「気にすんなって」と彼の背中を叩く。照れたように千明もまた笑う。そんな様子を眺めながら覚者達も覚醒を解いていく。その変化の度に千明は驚きの声を上げる。
「成瀬さんの言うとおり……アタシ達は覚者だよ……」
 ミュエルは自分の脚を指し示す。彼女の脚は膝から下が人間の柔らかなものではなく、陶器のようなものになっている。
「覚者になるとね、それまでとは体の一部が変化するの……。アタシは……足がこんな風に変化したよ……。でも妖になんてなってないよ……。ちゃんと人間のまま……」
「私の場合は翼が生えたわ。そして、貴方の場合はこの蛇の鱗。これは蛇の覚者の証なのよ」
 ミュエルに続いて自分の変化を指で示しながら伝える椿が千明の袖をまくる。明日香から先に説明を受けたとはいえ、先ほどの激しい戦闘を勝ち残った人たちと自分が同じと言われてもそこまでピンとは来てないようだ。
「でも、みんなみたいな“力”……持ってないよ?」
「それはそうですわ。わたくしたちも最初からこんなにも力が扱えたわけではありませんもの。でも、貴方にもそういう“力”があるのもまた事実ですわ」
 そういうつばめだが少しきつい顔をしながら続ける。
「ですが、『心の在り方』によってはその力は暴走を始めてしまいますわ」


 その言葉に若干の恐れを抱く千明。彼は不安げに自分の守護使役へと視線を送る。まだ名前も知らない自分の分身はものこそ言わないが千明に寄り添うように身を寄せる。
「でも、大丈夫。自分の力と真っ直ぐ向き合えば、暴走なんかしないよ。君も向き合えるかい?」
 なかなか頷けないでいる千明。自分の中に秘められた力をどう扱えばいいのか、さっぱり考えつかないからだ。
「一人で悩んでも答えは出ないわ。その答えを出すお手伝いは……私たちがする」
 そういって椿が自分の連絡先を渡す。
「私はFiVEの覚者、三島椿。FiVEなら貴方の力がどういうものか教えられる。でも、最後に向き合うのは貴方と守護使役の二人よ」
「コイツと……?」
 椿の連絡先を受け取りながら守護使役を見つめる千明。
「私達が教えられるのは力の使い方だけ。その力と向き合うことは自分でなんとかするしかない」
「でも、守護使役だけは違うの。常に一緒に悩んだり、喜んだりしてくれる、大切な存在なんだよ」
 翔と明日香の言葉を受け覚者達は自分の守護使役を呼び出しては紹介をしていく。全員が全員それぞれに違う守護使役を連れている。ただ一人、つばめの守護使役だけが千明と同じ姿をしていた。
「夢路と貴方の守護使役は姿形こそ似ているけどまた違う存在。名前もそうだけれど、この子はわたくしのパートナー、貴方の子は貴方のパートナーなのよ。わかるかしら?」
 つばめの問いに頷きで返す千明。姿は同じだけど違う存在。それは千明にも感じ取ることができた。夢路からは何のイメージも読み取れないが、自分の守護使役からは先ほどから何を思っているかのイメージが伝わってくる。
 やっと、受け入れられそうだ。
「うん、向き合えるかもしれない……」
 自分の体の変化には恐怖しかなかった。でも、自分の事を常に心配し、石を投げられてもなお寄り添ってくれた守護使役を裏切るようなまねはできない。彼も、自分の力も、受け入れよう、そう心に決める。
「だったらさ、千明もそいつに名前を付けてやったらどうだ?」
 翔にそう言われてきょとんとする千明。守護使役が自分の名前を教えてくれると思い込んでいたのだ。他の者に聞いても、自分で名前を付けていたようだ。


「そっか……。うん、じゃあ、決めた! お前の名前は――」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『守護使役愛好家』
取得者:新堂・明日香(CL2001534)
特殊成果
なし



■あとがき■

今回は起きてしまいそうな大きな誤解ということで
守護使役と少年の話となりました。
最終的に千明少年がFiVEに来るかはわかりません。
ですが、皆さんの声のおかげで
自分と、守護使役と向きあっていくことでしょう。
それでは、また皆さんと物語を紡げる時を楽しみに待っています。
ご参加、ありがとうございました!




 
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