【攫ワレ】邪魔な覚者の迎撃を
●霧山・譲という男
とある森の中。
1人の青年が5人の黒装束の人影を従え、ゆっくりと歩く。
彼の名は霧山・譲。『黒霧』の長となり、『濃霧』を亡くなった父親から引き継ぐ形で七星剣幹部となった男だ。
「まさか、僕が静永のフォローをすることになるとはね……」
静永という男は、組織でうまく覚者としての力と、持ち前の知識、手腕で組織に莫大な利益をもたらし、若くして先代の『濃霧』に尽くしていた男だ。
組織の長の息子だからと甘えは許されない。霧山自身も幼くして、『黒霧』の一員として活動させられていた。
同じ組織内においても味方などいなかった。手柄を横取りされ、失態を押し付けられ。組織内でも裏切りなど日常茶飯。彼も生きる為、それを幼い時からその身に叩き込んできた。
「黒霧……」
『黒霧』の歴史は長い。古くから、様々な場所において暗部で傭兵のような活動を繰り返し、富を得ていた。25年前に覚者として発現する者が出だすと、組織員は皆、覚者に成り代わって行ったそうだ。
霧山も親と同じく子供の頃に発現し、親に『黒霧』に放り込まれることとなる。小さいときは力も弱く、メンバーに騙され、虐げられていたことも多々あった。
そんな中、霧山は父親のお付きまでのし上がった静永に目をかけてもらうこととなる。自身が常日頃からその身を狙われていたからこそ、息子にも厳しくしていたのかもしれないが、組織で孤立する息子にせめて味方をと、父親は親心を見せたのだろう。
ビジネスライクだったかもしれないが、静永は霧山が幼少の頃から覚者の力の使い方を教えてくれた。
発現が幼少時と早かった為か、霧山は他の所属員よりも早く力を使いこなす。そうして、彼が成長するに合わせ彼に反発する所属員は減っていく。
そんな折だ。霧山の父親、霧山・貰心が亡くなったのは。
死因は心不全という話だが、暗殺された可能性が高いと霧山は踏んでいる。それもあり、彼は黒霧の一員として自らの任務をこなしながら、黒霧内の闇を自ら晴らしていく。……自身の意に従わぬ者を暗殺しながら。
そうして、父親亡き後、黒霧を牛耳り始めた男を、静永が闇討ちした。同時に、霧山自身は他メンバーを次々に力で屈服させていき……、ようやく、父の跡を本当の意味で継ぐに至った。
「実に長かったよ。ここまで」
頭上を見上げる霧山。ただ、これで終わりではない。自身の力を示すことで、今は黒霧所属員を従わせている状態。そして、他七星剣幹部の動きもある。だから、黒霧のトップとして、自らの力を示さねばならない。
自身の身の安全の為にも、あまり表に出たくはない霧山だが、こうして父の希望通りに黒霧を掌握した今なら、表に出るのもやむを得ないか。彼は小さく溜息をつく。
「静永を助けないとね。それに……」
彼は覚醒し、髪と瞳の色を金色に染めた。
「……この先、色々と邪魔になるF.i.V.E.は、潰しておかないとならないしね」
不敵な笑みを浮かべる霧山のそばには、数人の黒霧メンバーが従えている。彼はそのままこの場に待機し、F.i.V.E.の接近を待つのだった……。
とある森の中。
1人の青年が5人の黒装束の人影を従え、ゆっくりと歩く。
彼の名は霧山・譲。『黒霧』の長となり、『濃霧』を亡くなった父親から引き継ぐ形で七星剣幹部となった男だ。
「まさか、僕が静永のフォローをすることになるとはね……」
静永という男は、組織でうまく覚者としての力と、持ち前の知識、手腕で組織に莫大な利益をもたらし、若くして先代の『濃霧』に尽くしていた男だ。
組織の長の息子だからと甘えは許されない。霧山自身も幼くして、『黒霧』の一員として活動させられていた。
同じ組織内においても味方などいなかった。手柄を横取りされ、失態を押し付けられ。組織内でも裏切りなど日常茶飯。彼も生きる為、それを幼い時からその身に叩き込んできた。
「黒霧……」
『黒霧』の歴史は長い。古くから、様々な場所において暗部で傭兵のような活動を繰り返し、富を得ていた。25年前に覚者として発現する者が出だすと、組織員は皆、覚者に成り代わって行ったそうだ。
霧山も親と同じく子供の頃に発現し、親に『黒霧』に放り込まれることとなる。小さいときは力も弱く、メンバーに騙され、虐げられていたことも多々あった。
そんな中、霧山は父親のお付きまでのし上がった静永に目をかけてもらうこととなる。自身が常日頃からその身を狙われていたからこそ、息子にも厳しくしていたのかもしれないが、組織で孤立する息子にせめて味方をと、父親は親心を見せたのだろう。
ビジネスライクだったかもしれないが、静永は霧山が幼少の頃から覚者の力の使い方を教えてくれた。
発現が幼少時と早かった為か、霧山は他の所属員よりも早く力を使いこなす。そうして、彼が成長するに合わせ彼に反発する所属員は減っていく。
そんな折だ。霧山の父親、霧山・貰心が亡くなったのは。
死因は心不全という話だが、暗殺された可能性が高いと霧山は踏んでいる。それもあり、彼は黒霧の一員として自らの任務をこなしながら、黒霧内の闇を自ら晴らしていく。……自身の意に従わぬ者を暗殺しながら。
そうして、父親亡き後、黒霧を牛耳り始めた男を、静永が闇討ちした。同時に、霧山自身は他メンバーを次々に力で屈服させていき……、ようやく、父の跡を本当の意味で継ぐに至った。
「実に長かったよ。ここまで」
頭上を見上げる霧山。ただ、これで終わりではない。自身の力を示すことで、今は黒霧所属員を従わせている状態。そして、他七星剣幹部の動きもある。だから、黒霧のトップとして、自らの力を示さねばならない。
自身の身の安全の為にも、あまり表に出たくはない霧山だが、こうして父の希望通りに黒霧を掌握した今なら、表に出るのもやむを得ないか。彼は小さく溜息をつく。
「静永を助けないとね。それに……」
彼は覚醒し、髪と瞳の色を金色に染めた。
「……この先、色々と邪魔になるF.i.V.E.は、潰しておかないとならないしね」
不敵な笑みを浮かべる霧山のそばには、数人の黒霧メンバーが従えている。彼はそのままこの場に待機し、F.i.V.E.の接近を待つのだった……。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.霧山を退ける
2.黒霧メンバーの討伐
3.なし
2.黒霧メンバーの討伐
3.なし
カーヴァを拘束しようとする静永を邪魔させじと、
霧山・譲と彼の率いる黒霧が邪魔をしてきますので、
応戦を願います。
●隔者
○霧山・譲……19歳。七星剣幹部の1人。
『濃霧のユズル』という二つ名を持っており、
『黒霧』という組織を率いていますが、こちらは詳細不明です。
暦の因子、天行。鋭聴力、面接着を所持。
持っている飛苦無には、麻痺効果のある液体が塗られています。
以下のスキルをメイン使うことが確認されていますが、
それ以外にも体術、術式を使う可能性があります。
・鎧通し……体術中級・物近単貫2(50・100%)
重厚な鎧をも貫通する練り上げた気を両手から発出します。
・脣星落霜……特遠敵全
星のように輝く光の粒を降らし、敵を攻撃します。
・霧隠れ……体術・特近列・流血
濃い霧を噴射して自身と近場の敵を包み込み、連続して苦無で切りかかってきます。
覚者の皆様より格上の相手ですので、くれぐれもご注意を。
○黒霧所属員×5
暗部活動を行う組織の末端メンバーで、全員が黒装束を纏っております。
個々ですらも皆様に引けを取らぬ実力があります。最近覚醒した者も取り込んでいるようです。
男×4、(彩×土、怪×木、翼×水、現×天)、女×1(獣(狐)×火)。
ナイフ、飛び道具を所持。遠近両方に対応してきます。順に、結界、ジャミング、超視力、暗視、韋駄天足のスキルを持ち、今回はグループ行動を行います。
●状況
夜、見通しの悪い森の中に潜む
コーディ・カーヴァを発見した静永が自律人形と共に、
カーヴァの暗殺を目論んでおります。
霧山はその妨害にと現れるであろうF.i.V.E.を警戒し、
黒霧のメンバーと共に待ち伏せしております。
なお、戦闘終了時、
敵は全員、この場から消えるように離脱します。
●注意!
同タイミングの作戦である為、
現在同時に出ている【攫ワレ】シナリオの両方に
参加することはできません。
どちらか一方のみの参加となります。
重複して参加した場合は、両方の依頼の参加を剥奪し、
LP返却は行われませんので注意して下さい。
また、状況によっては、
2シナリオが互いに影響を及ぼす可能性があります。
こちらのシナリオで敵を逃がすと、
あちらに援軍として、霧山、黒霧が登場し、
あちらの展開次第では、
こちらの戦場に援軍として覚者の子供達、静永が現れる可能性などがあります。
その結果、片方のみ失敗、両方失敗という結果もありえますので、
予めご了承くださいませ。
それでは、よろしくお願いいたします。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
金:1枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
6日
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2017年02月27日
2017年02月27日
■メイン参加者 7人■

●闇の中現れる霧の集団
夜――。
その森は日の光がほとんど入らず、かなり見通しが悪い。
この状況は、先行きがどうなるか分からぬ今回の作戦を暗示しているようにさえF.i.V.E.のメンバー達には思えて。
暗視を活性化させた上、葦原 赤貴(CL2001019)は超視力も使って出来る限り敵の出現に備える。
現れる敵は、闇の仕事に特化した集団『黒霧』。そして、それを率いるのは、F.i.V.E.の内情をある程度把握している七星剣幹部、霧山・譲。今回は堂々と現場に現れ、待ち伏せをしているという。
「相変わらず、厄介なヤツだ」
「ある種の真っ向勝負、不意打ちされるよりか遥かにマシだね」
赤貴の呟きに、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)が言葉を返す。彼女は腰に灯りを下げることで、両手を塞がぬようにしていた。
「霧山の人とは、紫雨が馬鹿な事をやった時以来ですか……」
『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)はしばらくぶりとなる敵との邂逅を思い出す。普段は車椅子での移動を行う槐だが、今回は足場の悪い森の中での移動ということもあり、最初から覚醒状態で依頼に臨み、自身の足で歩いている。
「あの時と比べると、今回は実にシンプル。……つまりは、どちらも向こう側の邪魔をさせたくない訳なのです」
時を同じくして、この森の中では1人の男を巡る攻防戦が繰り広げられているはず。
「目的が一致しているのでしたら、お茶会でもしていれば良かろうなのですが」
F.i.V.E.はその男を確保する為。霧山は腹心の男の仕事を果たさせる為。しかし、先々を考えれば、別の形のパーティー……互いの潰し合いとなるのは致し方ないことと、槐は結論付ける。
「まぁ、せいぜい嫌がらせをしてやるさ」
好意でF.i.V.E.を取り込もうとした戦争屋の男を思い出しつつ、赤貴はそっけなく告げる。相手の顔を見て、互いに嫌そうな面をするなら上々と言えるだろう。
そんな会話の間に、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は面白くなさそうに周囲を懐中電灯を照らす。『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役ペスカの力を借りて足音を消し、暗視で視界を確保していたようだ。
足場の悪い中でハイバランサーを使って先行し、メンバーを引っ張っていたのは、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)だ。彼女も守護使役きららの力を借り、ともしびで照明を確保する。
予知だと敵は待ち伏せているというが、渚は奇襲してくる可能性も否めないと第六感を働かせる。
「みんな、ちょっと待って」
渚が突然足を止め、正面を警戒したまま後方の仲間に呼びかけた。
「待ち伏せ……私達の邪魔して楽しいですか?」
ラーラは現れた相手に言葉をかけながら、その能力の解析を試みる。
「楽しくはないが、君達を通すのはもっと面白くない」
現れたのは、5つの黒衣の人影を従えた青年だ。
(人数は微妙にこっちの方が多い……だけど)
渚が考えるように、厳しい戦いになるのは間違いない。
「悪いけど、貴方達を退けて通らせて貰うよ」
「この期に及んでまた介入してくる辺り、テイクから始まる一連の事件に相当深く関わってきているようね、ユズル」
覚醒して戦闘態勢に入る理央。『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)もまた髪を紅く染め、青年……霧山・譲へと言い放つ。
「否定はしないよ」
霧山はエメレンツィアの姿を認め、苦笑すらしていた。
「あれが、七星剣の幹部……。そういえば、自分自身の目で見たのって2人目かも」
渚が言うように、彼こそが七星剣幹部、『濃霧のユズル』である。
「幹部だか、なんだか知らんが……。お前達に倒される程度の組織じゃあないんだ」
ジャックは霧山に『霧積』とあだ名をつけ、不機嫌そうな顔で呼びかけた。
「なあ、殺しは、暗躍は、楽しいかよ?」
「……考えたこともないな」
少し考え、霧山は答える。しかしながら、ジャックはその答えが気に入らない。
「いつまでも俺は、争いは嫌いやわ」
感情すら抱かず、人を殺すその行為。それが理解できようはずもない。
「アナタ達が何を企んでいるかはわからないけど……」
エメレンツィアは取り出した国事詔書のページを捲る。
「カーヴァの研究はもうここで終わりよ。例え、アナタが何を企んでいようと、ね!」
「どうかな。止められるなら、止めてみなよ」
不敵に笑う霧山が髪と目を金色に光らせてその手に飛苦無を握って構えると、従える『黒霧』のメンバー達もまた、ナイフや苦無を手にして戦闘態勢へと入った。
彼らの情報を探っていたラーラは髪を銀色に変色させて、煌炎の書を広げる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「……慎重に行くよ」
保健委員の腕章をびしっと掲げてポーズをとる渚。彼女は巨大注射器を取り出し、迫り来る敵に立ち向かうのである。
●迫り来る黒霧
迫り来る黒霧。そして、『濃霧』霧山・譲。
槐が仲間に治癒力を高める香りを振りまく中、英霊の力を引き出して自身を強化するラーラが敵の情報を分析していく。
そうして、得られた情報を踏まえ、F.i.V.E.メンバーは戦いにおける指針を決める。まず、狙うは火行、獣憑の女性だ。
後方にいるジャックは古妖の血を解放する。それは、周囲の血をも取り込み、自らの力とする技。彼はその力をもって空中の水分を集めて荒波となし、黒霧へと浴びせかけていく。
その手前の渚も、続けて仕掛ける。手にする大きな注射器を相手へと叩きつけて行くのが、看護士のタマゴたる渚の戦闘スタイルだ。
攻めくる黒霧達。元々、一撃必殺で相手を仕留める戦法だが、覚者相手となれば、彼らも因子や術式を使って攻撃を行う。
敵の布陣は、彩、唯一の女性である狐の獣憑が前衛。その後ろに怪と現。翼の男と霧山が後方に控える形だ。
(霧山を優先しづらい以上、他の数や火力を削らねば)
赤貴としては霧山を叩きたいのだが、黒霧がそれを許さないだろう。彼は仲間と足並みを合わせ、火力となる狐の獣憑を削ろうと足元から岩槍を隆起させる。
多少の攻撃は翼人……水行の黒霧に回復されてしまう。実際、そいつは癒しの力を同じ黒霧メンバーへと振舞っていた。
理央もまたラーラの分析に合わせ、攻撃を重ねる。彼女は氷柱を飛ばし、火行の女性はもちろんのこと、後ろの水行も合わせて撃ち抜く。
(霧隠れ……乱発されるとヤバいのです)
霧山を自由にさせると後衛が狙われ、瞬く間にこちらの布陣を崩されかねないと槐は感じていた。
彼女は後方にいる霧山の攻撃を後ろに通さないようにと壁となり、敵陣に混乱の感情を呼び起こす。霧山は事も無げに躱し、黒霧メンバーも抵抗していたが、後方の2人を惑わせていたようだ。
「それにしても、思い切った手段に出たわね。アナタがシズナガの尻拭いだなんて」
エメレンツィアは力を引き出し、前線の仲間に神秘の力を振りまく。
以前までの作戦で、静永がカーヴァよりも重要ポストにいることは、彼女も予測していたようだが。
「まさかアナタが後詰めに来るほどとは、さすがに予想できなかったわね」
その間にも、F.i.V.E.と黒霧のメンバー達は武器を交える。
今回の目的の1つは黒霧メンバーの討伐。ジャックは友人帳の力を使い、積極的に相手を叩いてトドメを狙う。
(ただ殴るだけで勝てる相手ではない)
敵はチームで効率よく、こちらの嫌がる戦略を練ってくる。後方の敵はこちらの力を霧で弱め、足元に蔓を巻きつけて動きを封じ、火力となるメンバーが叩くといった戦法だ。
赤貴はそんな敵の動きを先読みし、立ち位置を変えながら個別に沙門叢雲を振るって切りかかることとなる。結果的に、彼は敵と同様の動きをしていることに気づく。
(だが、コイツらに負けるのは、もっと気に入らん。見栄えなぞ気にする暇があるか)
例え、地を這おうが手足がもげようが、相手に噛み付く術はあるのだ。
「残らず、殺す」
赤貴の大剣が狐の獣憑の腹を掻っ切る。そいつは一言呻き、暗い森の中へと崩れ落ちて行く。
仲間達が交戦している間に、ラーラは敵の分析を進めていた。
「次は……」
後方の回復役が面倒だが、立ち塞がる彩、土行の男が面倒だ。ラーラの指示に合わせ、覚者達は改めてターゲットを絞って攻撃を行うのである。
1体倒れて空いた穴は、霧山自らが前に出て塞いでくる。
「さあ、行こうか」
霧山は自らの体から霧を噴射し、それに紛れて苦無で斬り付けて来た。その攻撃を、槐が率先して抑える。
彼は笑みこそ浮かべているが、戦いに関して手を抜いている様子はない。気を抜けば、あっさりと地面を這うことになりそうだ。
(立っていることが第一なのです)
まずは、耐えねばならない。槐は身を固め、継戦能力を確保して戦線の維持に努める。
その間に、F.i.V.E.メンバーは次なる目標、彩の男の攻略に当たっていた。
前に立つ男はさほど回避力が高いわけではなさそうだ。理央は炎の玉と合わせて、急成長させた種で敵を拘束しつつ棘でその体力を蝕む。
回復も考える理央だが、仲間がうまく動いてくれている。その分、彼女は攻撃を続けて、敵の回復が及ばぬほどに押し切らんと炎の玉を飛ばす。その一撃で彩の男は炎上し、倒れ伏したのだった。
次は、回復手の水行。ただ、怪、現がそれぞれ前に出て布陣を埋めてくる。ジャックはそれでも、翼人の回復が厄介と、右目から怪光線を発してそいつを射抜く。
攻撃を仕掛けるうち、敵は自らの回復に手が回らなくなり、ジャックが放つ幾度目かの怪光線に射抜かれて力尽きて行った。
渚は前に出てきた怪の男に注射器を叩きつけていた。敵の攻撃が多彩なこともあり渚は不浄を取り払うことも想定し、仲間の中心に位置取るよう気兼ねながら攻撃を仕掛ける。
長引く交戦の中、徐々に敵が減っていたこともあり、黒霧メンバーの消耗は大きくなっていく。
敵が仲間の攻撃で蹲ったタイミングで、渚はそいつの頭を力いっぱい殴り、卒倒させてしまう。倒したタイミングで、彼女は回復に当たろうと戦法を切り替えていたようだった。
覚者達は黒霧を順調に倒しているように見えるが、槐の負担はあまりに大きい。最大限の守りをその身に施す彼女は、仲間が敵の数を減らすことを信じてじっと耐える。
エメレンツィアは全体的に仲間の回復へと当たっていたが、霧山の攻撃を見て、出来る限り自身の動くタイミングを後にずらして癒しの滴を槐へと落としていた。
黒霧メンバーも、霧山を除けば現の男を残すのみ。ラーラはそいつへと炎の球を連続して浴びせかけていくと、ついにそいつも膝をつく。
そこで、赤貴が霧山へと殴りかかった。しかし、その狙いは奥の現の男。貫通させた威力はそいつに集中し、炸裂した衝撃を受けて最後の黒霧配下は地を這ったのである。
F.i.V.E.メンバーは黒霧の所属員を全員倒し、残るは霧山ただ1人。
「さすが、F.i.V.E.といったところかな」
黒霧メンバーが倒れども、霧山が動じる様子はない。長引く戦いに、覚者達もかなり疲弊していたのだ。
霧山が攻め込んでくるのに合わせ、踏み込んだ赤貴は彼の体を投げ落とそうとする。しかし、霧山は地面には落ちず、軽やかに着地して見せた。
「誘拐事件の裏にあなたがいたの、分かってるんです。絶対許してあげません」
ラーラは守護使役ペスカに預けた金色の鍵で、魔導書の封印を解く。力を解放した彼女は、拳大の炎を連続して放ちながら、霧山へと告げる。
「あの組織のせいで沢山の覚者が攫われて、今もまだ見つかってない方だっているんです」
「……実際に動いていたのは、テイクだろう。僕の知ったことではない」
炎を浴びながらもとぼける霧山へと槐は張り付き続け、彼の一挙一動を注視する。今は、別チームが静永の対処をしていることを感づかれるわけにはいかない。
エメレンツィアがうまく言葉を引いてくれてはいたが、やはり、霧山を1人で抑えるのは厳しい。危険を感じた彼女は防御態勢をとるものの。霧山の握る苦無が槐の体深くに食い込む。
もう1人、盾役がいたら変わったかもしれないが……。槐は命を砕きつつ、さらに彼の前に立ち塞がる。
「……ところで、シズル」
エメレンツィアは自身の抱く疑問を霧山にぶつけた。
「アナタが一番恐れている事は、シズナガの無事かしら?」
こうして、霧山が自ら戦いの表舞台に出てきた理由がエメレンツィアには気になっていた。
「それとも、カーヴァの研究内容が流出すること? それとも、ヒノマルを退けた私達F.i.V.E.の存在?」
続く戦いの中、彼女の問いかけはメンバーが一息つく時間を作ることにもなる。
「……それとも、自らが手中に収める前に、私達F.i.V.E.が誰かに迎合されることかしら?」
F.i.V.E.と取り込もうとした暴力坂。全てが俺のものだと前線に出ていた紫雨。では、霧山は……。
「君はずいぶん、僕に関心を持っているようだね」
両手を上げる霧山を、少し離れた場所からジャックが見つめていた。
(一度でいい。届かせろこの拳)
これ以上先には行かせない、理解してほしい。ジャックが強い思いを拳に込め、霧山へと迫り……胸倉を掴んでその頬を殴りつける。
「残念だが、お前の企ては全て、このF.i.V.E.が止めていくことを必ず証明する」
他の七星にも言っておけというジャックを、霧山は微笑を浮かべたままで見つめていた。
●敵は霧のように……
残る敵は、霧山のみ。
人を殴るのが嫌いなジャック。しかし、彼は敢えて殴りかかりながら自らの主張を続ける。
「退け!! 部下の命は消耗品なんかじゃねえ、俺達が殺してしまう前に、退け!!」
精神を不安定にさせたジャックは、わめくように言葉をぶつけていく。
悠然と構える敵は、練り上げた気を前に出たジャック、そして、すぐ後ろの理央へと気を叩き込む。理央は呻いてやや顔を顰めるが、それ以上に連続して攻撃を叩き込まれたジャックは、命を砕くこととなる。
理央はジャックを含め、仲間達の傷と気力の回復を繰り返す。
合間を見て、理央は炎と絡みつく棘を投げつけるのだが、目の前の男はその名の通り霧のようで、まるで手応えを感じさせない。
「霧積! お前にとって、人は駒か? 人形か?」
一方、なおも、ジャックは言葉を止めず。
「あまり人の命を弄ぶな!! 俺個人の信条でお前に食いつくがな!! 命を粗末にするんなら、俺は俺の命をかけてお前を止めてやる!!」
だが、ジャックの言葉は霧山には届かない。いつの間にかジャックの真横に現れた霧山は、容赦なくジャックの体を苦無で刻む。
「賢しいな」
ジャックを攻撃する霧山の前に、槐は立ち塞がった。
「これ以上、やらせないのです」
その身を術式で構成した鎧で固める槐が身構える。彼女の体力がなくなってきていたことを懸念し、エメレンツィアは癒しの滴を振りまく。
「ねえ、アナタの本音を聞かせて下さらない?」
「カーヴァの研究に興味はないが、他は許容することはできないね」
つまり、静永を失うこと、それに七星剣他幹部にF.i.V.E.が倒されることは、霧山にとって面白くないということか。
「F.i.V.E.……実に邪魔な存在だ」
霧山は、覚者全員へと光の粒を降らしてくる。攻撃に備えてはいたはずだが、光はエメレンツィアの後頭部に直撃し、彼女は命を砕いて堪える事となっていた。
「痛くたって、一歩も退かないよ!」
やられてばかりではない。渚はその最中に地を這う連撃を叩き込んでいく。
ラーラも炎を飛ばし続け、霧山を攻め立てる。仲間に合わせて赤貴は霧山の体を再び投げ飛ばし、続けて沙門叢雲の刀身を叩きつけた。
「くっ……」
霧山が呻く。赤貴が今回、一矢報いた形だ。
「……なるほど、その力、本物だね」
初めてF.i.V.E.に土を付けられ、霧山の顔からすっと笑いが引く。
そこに、現れる静永・高明の姿。応急処置はされていたものの、彼は大きな傷を負っていた。
「若、予想通り、こちらに追っ手が……」
それを聞き、霧山の表情がさらに陰る。この作戦にF.i.V.E.が2チーム参加していたことに気づいたのだ。それならば、F.i.V.E.に援軍が駆けつけるのも時間の問題と霧山は考える。実際は、向こうもすぐに動けぬ事情があったのだが……。
「……これは引くしかなさそうだ」
霧山は懐から煙幕弾を取り出して地面に叩きつける。濃い煙が発生し、敵は倒れるメンバーを含めて全員、姿を消してしまった。赤貴は舌打ちをして覚醒状態を解く。
「今はまだ届かなくても、必ず一矢報いて見せます」
ラーラは拳を握り締め、渾身の一撃を見舞うことを誓う。
「覚えておけ!!」
深手を負いながらも、目覚めたジャックは森へ消えた霧山と黒霧に向かって叫ぶ。
「俺の名前は切裂ジャック。霧を切り裂き、必ず、お前等黒霧の全てを解体して止めてやる――!!」
それを目にし、槐は嘆息する。
「何事も暴力で解決するのが一番だと、考えているのが多過ぎるのです」
「……野望がなくちゃ、長にはなれないもの。ねぇ?」
エメレンツィアは何か思うことがあったのか、先ほどまで霧山がいた場所を見つめてくすりと笑うのだった。
夜――。
その森は日の光がほとんど入らず、かなり見通しが悪い。
この状況は、先行きがどうなるか分からぬ今回の作戦を暗示しているようにさえF.i.V.E.のメンバー達には思えて。
暗視を活性化させた上、葦原 赤貴(CL2001019)は超視力も使って出来る限り敵の出現に備える。
現れる敵は、闇の仕事に特化した集団『黒霧』。そして、それを率いるのは、F.i.V.E.の内情をある程度把握している七星剣幹部、霧山・譲。今回は堂々と現場に現れ、待ち伏せをしているという。
「相変わらず、厄介なヤツだ」
「ある種の真っ向勝負、不意打ちされるよりか遥かにマシだね」
赤貴の呟きに、『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)が言葉を返す。彼女は腰に灯りを下げることで、両手を塞がぬようにしていた。
「霧山の人とは、紫雨が馬鹿な事をやった時以来ですか……」
『偽弱者(はすらー)』橡・槐(CL2000732)はしばらくぶりとなる敵との邂逅を思い出す。普段は車椅子での移動を行う槐だが、今回は足場の悪い森の中での移動ということもあり、最初から覚醒状態で依頼に臨み、自身の足で歩いている。
「あの時と比べると、今回は実にシンプル。……つまりは、どちらも向こう側の邪魔をさせたくない訳なのです」
時を同じくして、この森の中では1人の男を巡る攻防戦が繰り広げられているはず。
「目的が一致しているのでしたら、お茶会でもしていれば良かろうなのですが」
F.i.V.E.はその男を確保する為。霧山は腹心の男の仕事を果たさせる為。しかし、先々を考えれば、別の形のパーティー……互いの潰し合いとなるのは致し方ないことと、槐は結論付ける。
「まぁ、せいぜい嫌がらせをしてやるさ」
好意でF.i.V.E.を取り込もうとした戦争屋の男を思い出しつつ、赤貴はそっけなく告げる。相手の顔を見て、互いに嫌そうな面をするなら上々と言えるだろう。
そんな会話の間に、『黒い太陽』切裂 ジャック(CL2001403)は面白くなさそうに周囲を懐中電灯を照らす。『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)は守護使役ペスカの力を借りて足音を消し、暗視で視界を確保していたようだ。
足場の悪い中でハイバランサーを使って先行し、メンバーを引っ張っていたのは、『天使の卵』栗落花 渚(CL2001360)だ。彼女も守護使役きららの力を借り、ともしびで照明を確保する。
予知だと敵は待ち伏せているというが、渚は奇襲してくる可能性も否めないと第六感を働かせる。
「みんな、ちょっと待って」
渚が突然足を止め、正面を警戒したまま後方の仲間に呼びかけた。
「待ち伏せ……私達の邪魔して楽しいですか?」
ラーラは現れた相手に言葉をかけながら、その能力の解析を試みる。
「楽しくはないが、君達を通すのはもっと面白くない」
現れたのは、5つの黒衣の人影を従えた青年だ。
(人数は微妙にこっちの方が多い……だけど)
渚が考えるように、厳しい戦いになるのは間違いない。
「悪いけど、貴方達を退けて通らせて貰うよ」
「この期に及んでまた介入してくる辺り、テイクから始まる一連の事件に相当深く関わってきているようね、ユズル」
覚醒して戦闘態勢に入る理央。『霧の名の鬼を咎める者』エメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)もまた髪を紅く染め、青年……霧山・譲へと言い放つ。
「否定はしないよ」
霧山はエメレンツィアの姿を認め、苦笑すらしていた。
「あれが、七星剣の幹部……。そういえば、自分自身の目で見たのって2人目かも」
渚が言うように、彼こそが七星剣幹部、『濃霧のユズル』である。
「幹部だか、なんだか知らんが……。お前達に倒される程度の組織じゃあないんだ」
ジャックは霧山に『霧積』とあだ名をつけ、不機嫌そうな顔で呼びかけた。
「なあ、殺しは、暗躍は、楽しいかよ?」
「……考えたこともないな」
少し考え、霧山は答える。しかしながら、ジャックはその答えが気に入らない。
「いつまでも俺は、争いは嫌いやわ」
感情すら抱かず、人を殺すその行為。それが理解できようはずもない。
「アナタ達が何を企んでいるかはわからないけど……」
エメレンツィアは取り出した国事詔書のページを捲る。
「カーヴァの研究はもうここで終わりよ。例え、アナタが何を企んでいようと、ね!」
「どうかな。止められるなら、止めてみなよ」
不敵に笑う霧山が髪と目を金色に光らせてその手に飛苦無を握って構えると、従える『黒霧』のメンバー達もまた、ナイフや苦無を手にして戦闘態勢へと入った。
彼らの情報を探っていたラーラは髪を銀色に変色させて、煌炎の書を広げる。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
「……慎重に行くよ」
保健委員の腕章をびしっと掲げてポーズをとる渚。彼女は巨大注射器を取り出し、迫り来る敵に立ち向かうのである。
●迫り来る黒霧
迫り来る黒霧。そして、『濃霧』霧山・譲。
槐が仲間に治癒力を高める香りを振りまく中、英霊の力を引き出して自身を強化するラーラが敵の情報を分析していく。
そうして、得られた情報を踏まえ、F.i.V.E.メンバーは戦いにおける指針を決める。まず、狙うは火行、獣憑の女性だ。
後方にいるジャックは古妖の血を解放する。それは、周囲の血をも取り込み、自らの力とする技。彼はその力をもって空中の水分を集めて荒波となし、黒霧へと浴びせかけていく。
その手前の渚も、続けて仕掛ける。手にする大きな注射器を相手へと叩きつけて行くのが、看護士のタマゴたる渚の戦闘スタイルだ。
攻めくる黒霧達。元々、一撃必殺で相手を仕留める戦法だが、覚者相手となれば、彼らも因子や術式を使って攻撃を行う。
敵の布陣は、彩、唯一の女性である狐の獣憑が前衛。その後ろに怪と現。翼の男と霧山が後方に控える形だ。
(霧山を優先しづらい以上、他の数や火力を削らねば)
赤貴としては霧山を叩きたいのだが、黒霧がそれを許さないだろう。彼は仲間と足並みを合わせ、火力となる狐の獣憑を削ろうと足元から岩槍を隆起させる。
多少の攻撃は翼人……水行の黒霧に回復されてしまう。実際、そいつは癒しの力を同じ黒霧メンバーへと振舞っていた。
理央もまたラーラの分析に合わせ、攻撃を重ねる。彼女は氷柱を飛ばし、火行の女性はもちろんのこと、後ろの水行も合わせて撃ち抜く。
(霧隠れ……乱発されるとヤバいのです)
霧山を自由にさせると後衛が狙われ、瞬く間にこちらの布陣を崩されかねないと槐は感じていた。
彼女は後方にいる霧山の攻撃を後ろに通さないようにと壁となり、敵陣に混乱の感情を呼び起こす。霧山は事も無げに躱し、黒霧メンバーも抵抗していたが、後方の2人を惑わせていたようだ。
「それにしても、思い切った手段に出たわね。アナタがシズナガの尻拭いだなんて」
エメレンツィアは力を引き出し、前線の仲間に神秘の力を振りまく。
以前までの作戦で、静永がカーヴァよりも重要ポストにいることは、彼女も予測していたようだが。
「まさかアナタが後詰めに来るほどとは、さすがに予想できなかったわね」
その間にも、F.i.V.E.と黒霧のメンバー達は武器を交える。
今回の目的の1つは黒霧メンバーの討伐。ジャックは友人帳の力を使い、積極的に相手を叩いてトドメを狙う。
(ただ殴るだけで勝てる相手ではない)
敵はチームで効率よく、こちらの嫌がる戦略を練ってくる。後方の敵はこちらの力を霧で弱め、足元に蔓を巻きつけて動きを封じ、火力となるメンバーが叩くといった戦法だ。
赤貴はそんな敵の動きを先読みし、立ち位置を変えながら個別に沙門叢雲を振るって切りかかることとなる。結果的に、彼は敵と同様の動きをしていることに気づく。
(だが、コイツらに負けるのは、もっと気に入らん。見栄えなぞ気にする暇があるか)
例え、地を這おうが手足がもげようが、相手に噛み付く術はあるのだ。
「残らず、殺す」
赤貴の大剣が狐の獣憑の腹を掻っ切る。そいつは一言呻き、暗い森の中へと崩れ落ちて行く。
仲間達が交戦している間に、ラーラは敵の分析を進めていた。
「次は……」
後方の回復役が面倒だが、立ち塞がる彩、土行の男が面倒だ。ラーラの指示に合わせ、覚者達は改めてターゲットを絞って攻撃を行うのである。
1体倒れて空いた穴は、霧山自らが前に出て塞いでくる。
「さあ、行こうか」
霧山は自らの体から霧を噴射し、それに紛れて苦無で斬り付けて来た。その攻撃を、槐が率先して抑える。
彼は笑みこそ浮かべているが、戦いに関して手を抜いている様子はない。気を抜けば、あっさりと地面を這うことになりそうだ。
(立っていることが第一なのです)
まずは、耐えねばならない。槐は身を固め、継戦能力を確保して戦線の維持に努める。
その間に、F.i.V.E.メンバーは次なる目標、彩の男の攻略に当たっていた。
前に立つ男はさほど回避力が高いわけではなさそうだ。理央は炎の玉と合わせて、急成長させた種で敵を拘束しつつ棘でその体力を蝕む。
回復も考える理央だが、仲間がうまく動いてくれている。その分、彼女は攻撃を続けて、敵の回復が及ばぬほどに押し切らんと炎の玉を飛ばす。その一撃で彩の男は炎上し、倒れ伏したのだった。
次は、回復手の水行。ただ、怪、現がそれぞれ前に出て布陣を埋めてくる。ジャックはそれでも、翼人の回復が厄介と、右目から怪光線を発してそいつを射抜く。
攻撃を仕掛けるうち、敵は自らの回復に手が回らなくなり、ジャックが放つ幾度目かの怪光線に射抜かれて力尽きて行った。
渚は前に出てきた怪の男に注射器を叩きつけていた。敵の攻撃が多彩なこともあり渚は不浄を取り払うことも想定し、仲間の中心に位置取るよう気兼ねながら攻撃を仕掛ける。
長引く交戦の中、徐々に敵が減っていたこともあり、黒霧メンバーの消耗は大きくなっていく。
敵が仲間の攻撃で蹲ったタイミングで、渚はそいつの頭を力いっぱい殴り、卒倒させてしまう。倒したタイミングで、彼女は回復に当たろうと戦法を切り替えていたようだった。
覚者達は黒霧を順調に倒しているように見えるが、槐の負担はあまりに大きい。最大限の守りをその身に施す彼女は、仲間が敵の数を減らすことを信じてじっと耐える。
エメレンツィアは全体的に仲間の回復へと当たっていたが、霧山の攻撃を見て、出来る限り自身の動くタイミングを後にずらして癒しの滴を槐へと落としていた。
黒霧メンバーも、霧山を除けば現の男を残すのみ。ラーラはそいつへと炎の球を連続して浴びせかけていくと、ついにそいつも膝をつく。
そこで、赤貴が霧山へと殴りかかった。しかし、その狙いは奥の現の男。貫通させた威力はそいつに集中し、炸裂した衝撃を受けて最後の黒霧配下は地を這ったのである。
F.i.V.E.メンバーは黒霧の所属員を全員倒し、残るは霧山ただ1人。
「さすが、F.i.V.E.といったところかな」
黒霧メンバーが倒れども、霧山が動じる様子はない。長引く戦いに、覚者達もかなり疲弊していたのだ。
霧山が攻め込んでくるのに合わせ、踏み込んだ赤貴は彼の体を投げ落とそうとする。しかし、霧山は地面には落ちず、軽やかに着地して見せた。
「誘拐事件の裏にあなたがいたの、分かってるんです。絶対許してあげません」
ラーラは守護使役ペスカに預けた金色の鍵で、魔導書の封印を解く。力を解放した彼女は、拳大の炎を連続して放ちながら、霧山へと告げる。
「あの組織のせいで沢山の覚者が攫われて、今もまだ見つかってない方だっているんです」
「……実際に動いていたのは、テイクだろう。僕の知ったことではない」
炎を浴びながらもとぼける霧山へと槐は張り付き続け、彼の一挙一動を注視する。今は、別チームが静永の対処をしていることを感づかれるわけにはいかない。
エメレンツィアがうまく言葉を引いてくれてはいたが、やはり、霧山を1人で抑えるのは厳しい。危険を感じた彼女は防御態勢をとるものの。霧山の握る苦無が槐の体深くに食い込む。
もう1人、盾役がいたら変わったかもしれないが……。槐は命を砕きつつ、さらに彼の前に立ち塞がる。
「……ところで、シズル」
エメレンツィアは自身の抱く疑問を霧山にぶつけた。
「アナタが一番恐れている事は、シズナガの無事かしら?」
こうして、霧山が自ら戦いの表舞台に出てきた理由がエメレンツィアには気になっていた。
「それとも、カーヴァの研究内容が流出すること? それとも、ヒノマルを退けた私達F.i.V.E.の存在?」
続く戦いの中、彼女の問いかけはメンバーが一息つく時間を作ることにもなる。
「……それとも、自らが手中に収める前に、私達F.i.V.E.が誰かに迎合されることかしら?」
F.i.V.E.と取り込もうとした暴力坂。全てが俺のものだと前線に出ていた紫雨。では、霧山は……。
「君はずいぶん、僕に関心を持っているようだね」
両手を上げる霧山を、少し離れた場所からジャックが見つめていた。
(一度でいい。届かせろこの拳)
これ以上先には行かせない、理解してほしい。ジャックが強い思いを拳に込め、霧山へと迫り……胸倉を掴んでその頬を殴りつける。
「残念だが、お前の企ては全て、このF.i.V.E.が止めていくことを必ず証明する」
他の七星にも言っておけというジャックを、霧山は微笑を浮かべたままで見つめていた。
●敵は霧のように……
残る敵は、霧山のみ。
人を殴るのが嫌いなジャック。しかし、彼は敢えて殴りかかりながら自らの主張を続ける。
「退け!! 部下の命は消耗品なんかじゃねえ、俺達が殺してしまう前に、退け!!」
精神を不安定にさせたジャックは、わめくように言葉をぶつけていく。
悠然と構える敵は、練り上げた気を前に出たジャック、そして、すぐ後ろの理央へと気を叩き込む。理央は呻いてやや顔を顰めるが、それ以上に連続して攻撃を叩き込まれたジャックは、命を砕くこととなる。
理央はジャックを含め、仲間達の傷と気力の回復を繰り返す。
合間を見て、理央は炎と絡みつく棘を投げつけるのだが、目の前の男はその名の通り霧のようで、まるで手応えを感じさせない。
「霧積! お前にとって、人は駒か? 人形か?」
一方、なおも、ジャックは言葉を止めず。
「あまり人の命を弄ぶな!! 俺個人の信条でお前に食いつくがな!! 命を粗末にするんなら、俺は俺の命をかけてお前を止めてやる!!」
だが、ジャックの言葉は霧山には届かない。いつの間にかジャックの真横に現れた霧山は、容赦なくジャックの体を苦無で刻む。
「賢しいな」
ジャックを攻撃する霧山の前に、槐は立ち塞がった。
「これ以上、やらせないのです」
その身を術式で構成した鎧で固める槐が身構える。彼女の体力がなくなってきていたことを懸念し、エメレンツィアは癒しの滴を振りまく。
「ねえ、アナタの本音を聞かせて下さらない?」
「カーヴァの研究に興味はないが、他は許容することはできないね」
つまり、静永を失うこと、それに七星剣他幹部にF.i.V.E.が倒されることは、霧山にとって面白くないということか。
「F.i.V.E.……実に邪魔な存在だ」
霧山は、覚者全員へと光の粒を降らしてくる。攻撃に備えてはいたはずだが、光はエメレンツィアの後頭部に直撃し、彼女は命を砕いて堪える事となっていた。
「痛くたって、一歩も退かないよ!」
やられてばかりではない。渚はその最中に地を這う連撃を叩き込んでいく。
ラーラも炎を飛ばし続け、霧山を攻め立てる。仲間に合わせて赤貴は霧山の体を再び投げ飛ばし、続けて沙門叢雲の刀身を叩きつけた。
「くっ……」
霧山が呻く。赤貴が今回、一矢報いた形だ。
「……なるほど、その力、本物だね」
初めてF.i.V.E.に土を付けられ、霧山の顔からすっと笑いが引く。
そこに、現れる静永・高明の姿。応急処置はされていたものの、彼は大きな傷を負っていた。
「若、予想通り、こちらに追っ手が……」
それを聞き、霧山の表情がさらに陰る。この作戦にF.i.V.E.が2チーム参加していたことに気づいたのだ。それならば、F.i.V.E.に援軍が駆けつけるのも時間の問題と霧山は考える。実際は、向こうもすぐに動けぬ事情があったのだが……。
「……これは引くしかなさそうだ」
霧山は懐から煙幕弾を取り出して地面に叩きつける。濃い煙が発生し、敵は倒れるメンバーを含めて全員、姿を消してしまった。赤貴は舌打ちをして覚醒状態を解く。
「今はまだ届かなくても、必ず一矢報いて見せます」
ラーラは拳を握り締め、渾身の一撃を見舞うことを誓う。
「覚えておけ!!」
深手を負いながらも、目覚めたジャックは森へ消えた霧山と黒霧に向かって叫ぶ。
「俺の名前は切裂ジャック。霧を切り裂き、必ず、お前等黒霧の全てを解体して止めてやる――!!」
それを目にし、槐は嘆息する。
「何事も暴力で解決するのが一番だと、考えているのが多過ぎるのです」
「……野望がなくちゃ、長にはなれないもの。ねぇ?」
エメレンツィアは何か思うことがあったのか、先ほどまで霧山がいた場所を見つめてくすりと笑うのだった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
死亡
なし
称号付与
特殊成果
なし

■あとがき■
リプレイ、公開です。
MVPは敵の情報を分析し、
敵の早期撃破に一役買ったあなたへ。
F.i.V.E.を敵視し始めた霧山は、
必ず皆様の前に再び姿を現すことでしょう。
今回は本当にお疲れ様でした。
MVPは敵の情報を分析し、
敵の早期撃破に一役買ったあなたへ。
F.i.V.E.を敵視し始めた霧山は、
必ず皆様の前に再び姿を現すことでしょう。
今回は本当にお疲れ様でした。
