古妖の絵本『超正義☆桃太郎』
古妖の絵本『超正義☆桃太郎』


●平穏の為に平和を乱す
「討ち取ったー!」
 最後の鬼を仕留めた桃太郎は刀を高々と掲げました。
「これでもう村を襲う鬼もいないはずだ……どうした?」
 達成感に浸っていた桃太郎を呼ぶように、犬が吠えています。何か見つけたのかと思って桃太郎が犬が示す岩を動かしてみると、隠し通路がありました。
「こんなところに道が……鬼の奴らめ、まだ隠れているな!」
 三匹のお供を連れて彼が駆け抜けた先は山の中になっていて、眼下では京の都と見間違えるほどの立派な町で、鬼たちが幸せそうに暮らしています。それを目にした桃太郎は打ち震えました。
「まだこんなに鬼がいたなんて……三匹とも、覚悟はいいな!?」
 切っ先を向け、彼は正義感を燃え上がらせました。
「たとえここで散ろうとも、鬼を一人残らず根絶やしにするまで帰れると思うな!」
 こうしてひっそりと暮らしていた鬼たちは、桃太郎一行に虐殺され、その首を土産に持ち帰られてしまうのでした。

●全ては誤解の上に
「ていうのが、今回の話だ」
 説明を終えた久方 相馬(CL2000004)は複雑な顔をする。
「長く続く物語の、表には出てこない所を描こうとする古妖がいたんだが、こいつ、人に自分が考えた物語を見て欲しくて人を巻き込むんだ。でも、桃太郎は自分以外を全部鬼だと思ってるから、絵本に取り込まれた一般人は斬り殺されちまう。そうなる前に古妖を説得してくれ」
 ここまではよくある話だが、彼の表情が晴れない辺り、厄介な続きがあるらしい。
「で、可能なら本を焼いたりせずに、一旦本の中に入って直接古妖を説得して欲しいんだが……その前に桃太郎を何とかしなきゃならん。面倒なのは、鬼の方は悪事を働いた連中はいわゆる盗賊で、他の鬼達は静かに暮らしたいだけなんだよ。でも、桃太郎はそれが分からず皆殺しにしちまう」
 大体察した覚者達が遠い目になったところで相馬もため息。
「まずは桃太郎を傷つけない程度に戦って、鬼は皆が皆悪者じゃないって説得して欲しい。これに成功すると虐殺は止められるが、古妖の方が勝手にシナリオを変えられて、姿を見せるはずだ。こいつをボコれ。まずは殴って分からせないと話を聞かないワガママ野郎だからな」
 苦労した後に、ストレス発散……良い方向に解釈してごまかす一同。今日も今日とて、はた迷惑なお仕事が始まる……。


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:残念矜持郎
■成功条件
1.桃太郎の虐殺阻止
2.ワガママな古妖をボコ……もとい、説得(物理)する
3.なし
●現場状況

空き地に本が一冊

人払いなどは必要なく、触れれば絵本の中へ

入った後は鬼の都に出現し、しばし時間が経つと桃太郎が現れます

なお、鬼の方は皆さんに対して友好的です

●ワガママ古妖『偽桃太郎』

鬼は斬る(物理、近単)
お供、突撃!(物理、近列)

●STより


まずは桃太郎をいい感じにいなし、その後古妖と対決になります

ちなみに、二人の戦術は共通しております

……あと、鬼の都は平和です、甘味処もあります

つまり……戦闘前にちょっと美味しい想いしても、いいのよ?
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(1モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/6
公開日
2017年02月06日

■メイン参加者 6人■

『風に舞う花』
風織 紡(CL2000764)
『ストレートダッシュ』
斎 義弘(CL2001487)
『聖夜のパティシエール』
菊坂 結鹿(CL2000432)
『赤き炎のラガッツァ』
ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)
『見守り続ける者』
魂行 輪廻(CL2000534)

●若干一名、敵にしか見えない
「虐殺桃太郎……物騒ですね」
 ふわり、絵本の世界へ取り込まれて白いワンピースを揺らす『弟をたずねて』風織 紡(CL2000764)だが、裸足まではまぁ問題ない。何だその仮面は!? 目だしになった虫っぽいような騎士っぽいような、とにかくまず善人には見えない仮面はどうかと思うんだ!?
「悪くないやつまで殺すやつは悪いのでぶっ倒しますけど……その前に!」
 為すべきことでもあるのかと思わせる気迫に、一同が身構えて。
「甘味処ですよ!」
「えぇ!?」
 素っ頓狂な声を上げたのは『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)。
「ちょ、何言ってるんですか!?」
 事前に情報を貰った段階で、既に今回の敵に対してやりきれないというか、面倒な性格というか、いかにも人の話を聞いてくれない残念な人なんだろなーと遠い目をしていた結鹿としてはそれどころではない。
「そうですよ! 先にやらなくちゃいけない事があるでしょう!?」
 だからこそ、同じく否定の声を上げた『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)に頷き、続く言葉にズッコケる。
「甘味処の前に観光しなくちゃもったいないじゃないですか!!」
「二人とも……!」
 頭痛を覚えた結鹿の肩を赤坂・仁(CL2000426)がぽむっと。
「まぁ落ち着け。先に町を巡っておくことで、桃太郎の出現位置の推測に戦場の把握、説得の鍵になるであろう町人達の生活の情報を得ることができる。これもまた、必要なことだ」
「観光なんかが役に立ちますかね……」
 むぅ、ソッポを向く結鹿に対して他の面子は割とノリノリ。
「観光だって、そんなに悪い物じゃないと思うが?」
 斎 義弘(CL2001487)は町を歩く傍ら、きょろきょろと見回して、一本隣の大通りを示す。
「こうして歩き回っているおかげで、桃太郎の出現位置に予想がつく」
「はい? 山から出てくるって情報はもうありましたよね?」
 既にこの場所から前方に、大きな山が見えている。今更何が分かるというのか、と首を傾げる結鹿へ、義弘が微笑んで……こいつ、結構面倒見いいな。
「桃太郎はこの町の、どの『道』に現れるんだろうな?」
「……あっ」
 敵の出現位置で把握できているのは山中であり、町のどこか、ではない。鬼の都と呼ばれるだけあって広大なこの町で、一体どこで待ち構えればいいというのだろうか。義弘が示したのは、山の方へ向かう大通りのうち、特に人通り……鬼通りの多い商店街のような道。桃太郎の目的が虐殺である以上、十中八九ここに現れるだろう。一見無駄な時間に見えるこの観光で、自分たちが時間を潰すべき場所に見当がつけられた。これがなければ、何人か殺されてから現場に駆け付ける事になったかもしれない。
「さ、早速ごちそうになっちゃうわよん」
 それを知ってか知らずか、『ドキドキお姉さん』魂行 輪廻(CL2000534)が先導して入って行ったのは旅人向けの、町の玄関口に近い甘味処だった。

●見た目は悪いがいいお菓子です
「これが……ジャパニーズケーキ……?」
 何かを勘違いしているラーラは一体何を形作ったのかさっぱりわからない、茶色いフワフワした塊を口に運ぶ。
「ほわ……」
 感嘆の声を漏らした彼女が食べたのは人形焼き。どう見てもただの歪な球体だけど人形焼き。生地は柔らかくしっとりとしつつもほんのり甘味を感じさせる焼き菓子で、中に込められた餡子は丁寧に潰されたこしあん。舌に触れただけでとろけるような絶妙な加減に調整されたそれは、一度噛みしめただけで生地がふわりと消えるように、中から現れる餡子は口の中に優しくも濃厚な甘みを広げて……。
「お、ここのお団子うまいなぁ。作り方を聞いておかなければ」
 おにぎり染みた握り跡くっきりの団子を頬張る義弘は、見た目と味のギャップに目を見開く。サイズこそ普通の団子だが、見た目が御世辞にも丸いとは言えないそれは生地に何か練り込んであるらしく、見た目は三色で色『は』鮮やかに、味は一つ一つ異なる香りを運んで、春を思わせる。
「これ、何を混ぜてるんだ?」
「へい、赤は小豆、緑はヨモギ、白は砂糖と塩の秘密の調合でさぁ。そこにそれぞれ桜をほんのり混ぜさせていただいてやす」
「く、一部は企業秘密か……!」
 気のいい鬼の主人はヘラヘラしつつ、追い詰められた雰囲気で和菓子を作り続けている。と、いうのも。
「あ、次は餡団子と白玉餡蜜と抹茶わらび餅と栗羊羹と苺最中と~」
 注文しながら両手サイズの桜餅を頬張る輪廻に、修行中を思しき若い鬼が涙目で注文を受け続ける。主人と二人で対応してどうにか追いつくレベルというとんでもない量に、娘らしい鬼がお盆で顔を隠して固まってしまった。信じられない物を見る彼女の視線に気づいた輪廻が、にこっ。
「ん? そんなに食べて太らないのかですって? やぁねぇ♪ 栄養が何処に行ってるか、一目瞭然でしょ?」
 たゆん。微笑みながら、胸を張って大きな膨らみを揺らす輪廻に、甘味処の娘はプルプルと震えながら自分の絶壁を見下ろした。
「このしょうゆ味の甘いたれに、香ばしく焼いた餅がとってもおいしいです。次は普通の団子頼みます!」
「はい……」
 娘が逃げ出すように奥に引っ込むのを見送り、紡は食べ終えたみたらし団子の串をおきつつ、ふとどれもこれも味は良いのに見栄えが悪い事が気になるもよう。
「やっぱり、気になるよな?」
 ずず、渋みの中に深い香りを放ち、団子の甘味を数倍に跳ね上げる抹茶をすする義弘が難しい表情で今なお輪廻の注文の追われて目が死んで来た主人の手元を見る。
「味は良いあたり、腕は確かなんだが手先が不器用すぎる……鬼ってのはそんなもんなのかね?」
 普段甘味処で働いている身としては、指導したいし味の出し方を学びたいしでうずうず。
「……来たか」
 実は表情一つ変えずにゆっくりとお汁粉を堪能していた仁は、最初で最後の一杯を飲み干して、器に残ったお餅をもきゅ。小豆の甘さを引き立たせるために練り込まれた塩と、それにより引き出された餅そのものの甘味に舌鼓を打ちながら、猛然と突っ込んでくる若武者をサングラス越しに睨んだ。
「え、待って、まだお饅頭と大福とどら焼きとたい焼きときなこ餅を食べてないのよーん!」
 あぁん! 寂し気な悲鳴を上げる輪廻だが、敵は待ってくれないのが実情である。

●盲目な正義に鉄槌を
「あー、来ちゃいましたか」
 最近自立の為か、自分で稼いで自分で使うスタンスの紡は事前にこの世界に合わせた貨幣を用意しており、きっちり勘定を済ませてから仮面をつけ直す。
「鬼ですよ~殺したくなるでしょ~? あー、退屈してたんですよぉ、ちょっくら殺し合いしませんか?」
「はぁ!?」
 両手の人差し指を立てて角に見立てる紡に、桃太郎がぷっつん。
「挑発とはいい度胸だ貴様から斬り捨ててくれる!」
 踏み込んでくる彼の射線を遮るように義弘が割り込んで盾を振るい、剣戟を逸らすようにして一撃を弾いた。
「桃太郎、俺達が鬼に見えるのか? 俺達は人間だが、ここの鬼達は俺達に親切だったぞ。この町の鬼達は、人間と変わらず普通に暮らしているだけだ。それをお前は、悪事を働いた鬼達と同じ様に斬るのか?」
「嘘つけ! 鬼でないのなら、なんでお前が私の名前を知っている!?」
 しまった、義弘が苦い顔になる。こちらはあちらを知っているが、向こうは知らないのだ。それを全てが敵だと思っている桃太郎にしてみれば、鬼の盗賊の残党だと思われるのが筋というモノ。
「お前が鬼退治に出かけたと有名だったから知っていたんだ。だが、やり過ぎるのではないかと心配になって先回りしてきた。この町を見てみろ!」
 義弘は、動こうとするお供の前に火柱を並べて上げ、壁を打ち立てて牽制しながら怯えてこちらを見つめる鬼達を示す。
「人間にだって、いい奴も悪い奴もいるだろう。鬼だって、それと変わらんのだ。平和に暮らしたいのだって同じこと、お前の村の略奪は、一部の奴らの身勝手に過ぎない!」
「そんなことを信じられるか! 鬼とは怪力を振るう粗野な者共。さすれば根絶やしにしなければまた同じ悲劇を繰り返す!」
「正義を成しに来たなら、ちゃんと相手を選ぶ冷静さくらい持ってやってくださいねっ!今の姿はあなたも強盗と変わりませんよっ!!」
父から受け継いだ刀を抜いた結鹿の姿が変わる。ブラウンの瞳は青みを帯びた黒に染まり、艶やかな黒髪は透き通る白銀へ。レースをあしらったブラウスが動きを妨げないよう、青いコルセットで止めて襟元にブルーリボンが結ばれる。オレンジのスカートを揺らす彼女は凍てつかせるような闘気を放ち、桃太郎の周辺を白い粘性と見紛うほどの霧で包み込む。
「これは……妖術か!?」
「いいえ、お仕置きですっ!!」
 鋭利な氷柱を生み出しておきつつ、怪我をしないよう横薙ぎに足元をひっかけてスッ転ばせる結鹿はプンスコ、しばらく怒りは収まりそうにない。
「女、子ども、老人の鬼を殺すなんて心が痛まないですか?」
 倒れた桃太郎の腹を踏みつけて、グリグリと体重をかける紡は、鬼は鬼でも殺人鬼臭い仮面で桃太郎と顔を突き合わせる。
「人間と同じです、鬼にも個性があります。皆がみんな悪い奴じゃないんですよ。そこの店主だって、不器用ながら必死にお菓子作ってくれてたんですよ?」
「あ、やっぱり見た目悪いんだ……人間の技術が遠い……」
 巻き添えで心が折れかけた店主はさておき、桃太郎が体に反動をつけた瞬間、吹き飛ばされる前に離れた紡と起き上がった桃太郎が睨み合う。
「それがなんだ? 同じように生きている村人からこいつらは……!」
「だーかーら!」
「人の話を聞け……!」
「おぶっ!?」
 案の定、話を聞こうともしない桃太郎が踏み込んだ瞬間、手の中に込めた気力を弾倉に装填。鉛弾に炎の力を練り込んだ仁による射撃で弾が爆ぜ、金属片と化した弾丸が彼の足元にばら撒かれて足を止めざるを得なくなる。その瞬間にラーラの手の上で紅い書物の錠前が吹き飛んだかと思えば、次の瞬間には顔面を炎の掌でひっぱたかれた桃太郎が地面に転がり、呆れかえった様子の仁の前、右手に魔書を開いて左手を腰に添えたラーラがご立腹。
「鬼さん達の声に、ちゃんと耳を傾けたことはありますか? 確かに中には悪い鬼さんもいたのかもしれません。でも、全部の鬼さんが悪者だって言い切れますか? 問答無用で殺してしまうなんて……絶対にだめです」
「村人の懇願を踏みにじり、家財を根こそぎ奪っていったこいつらの話を聞けだと……!?」
「実際に接してみるとほんとにいい方たちです……問答無用で虐殺なんて許せません」
 歯ぎしりして殺意に血走る瞳を向ける彼は、もはや復讐の鬼と化していた。そんな彼に歩みより、ラーラは肩を掴んで真っ直ぐに目を合わせる。
「私には鬼さん達よりあなたの方がよっぽど怖くて、邪悪に見えます。仮にも正義の味方を名乗るのなら、今すぐここで目を覚ましてください!」
「目を覚ますのはおま……」
「まだ! 分かって! ないんですか!?」
「え、ちょ、待っ!?」
 右、左、右! 素早い三連ビンタで桃太郎の頭を揺さぶった結鹿は蒼龍を下に向けて、冷ややかな目でそこに直れ、と無言の圧を迎える。身の危険を感じた桃太郎がそっと正座すると、彼女は深呼吸。
「あなた一体何を考えているんですか本来の目的は鬼退治であったかもしれませんがそれは悪い事をした鬼限定の話だったはずでしょう鬼に村を襲われて怒ったあなたが悪い鬼と同じことをしてどうするんですかおじいさんとおばあさんから自分がされて嫌なことは他人にしちゃいけないって教わってないんですか大体悪い鬼の一味はやっつけたんですよねそれならもう十分じゃないですか皆殺しにする意味ありますかそれともここにいる鬼を皆殺しにして自分達以上の悲しみを味わせたかったんですかそれこそ人と鬼の理解の壁を作ることにつながり下手したら戦争ですよもっとたくさんの悲しい事が起こりますよそこまでちゃんと考えてたんですよねねぇねぇねぇ!?」
「……誠に、申し訳ございません」
 ツラツラと続く結鹿の説教を前に、改心したかどうかはさておき、心が折れた桃太郎が刀を納めて土下座。
「ん~! 楽しい依頼だったわねぇ♪」
 そんな様子を眺めながらきなこ餅に黒蜜をかけて頬張る輪廻にラーラがじー。
「ずるいです、私もまだ食べたい物があったのに……」
「ここからが本番なんだが?」
 やれやれ、こめかみに手を当てる義弘に輪廻がくすり。
「え? まだ終わってなかったかしらん? ……やぁねぇ冗談よん♪」
 オイコラ、と言わんばかりの仁のジト目(グラサン)に輪廻はけらけら。桃太郎の影から浮き出してくるもう一人の桃太郎を見つめて、スッと目を細める。
「解ってる、解ってるわよん♪」
 力尽きた店主が作り上げたきびだんごを頬張り、彼女は軽く拳を握る。
「じゃ、桃退治の開始と行きましょうか♪」

●殺意より怒気の方が凄かったです
「ちょっと、僕の物語に何を……」
「このストーリーで何を訴えるつもりなんだぁ~っ!」
 スパァン! 出現と同時っていうか、出現しきる前に結鹿からハリセンを顔面にもらって吹っ飛んだ古妖へ、ラーラが手を翳す。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
 宣言と共に、ラーラの体が炎に包まれ燃え盛る。それはやがて、彼女の左手に集約し、煌々と輝く火球へ。
「全く、桃太郎の物語になんてことを……はこちらの台詞です。あんな偏見に満ちたヒーローがいてたまるもんですか」
 憤慨する彼女の掌、小さな太陽はジリジリと周囲を灼く。
「ヒーローには弱いものを助けるために戦って欲しいんです。こんな物語、子どもには見せられません。それに、これじゃあ、あなたの物語を見た人だって居なくなっちゃうじゃないですか。めっ!」
 子どもを叱るように火球を投げ、古妖の足元に着弾。
「……ですよ!」
 人差し指を突きつけた目の前で、天高く火柱が上がり、雲を越えた古妖が落ちてくるのを遠目に眺め、輪廻の気配が変わる。
「こっちは手加減しなくていいのよねん♪」
 特に何かするでもない。
「まずは地面を踏みしめ、敵の重心めがけて体重移動かしらん?」
 基本を押さえ、しかし速度を落とさず、真っ直ぐに力を伝える。落ちてきた古妖を迎え撃つように拳を突き上げて腹を穿ち、衝撃が逃げぬよう抉り込む。
「次にそのままだと力が逃げちゃうからベクトルを回してぇ」
 捻じった力のままに、吹き飛びそうになる力を下に落下する力に変えて地面に叩きつけた。
「トドメは流れるように、派手に思いっきり叩き込めばいいのよねん♪」
 反動で跳ねあがる体をすくい上げる様に軽く蹴り上げて、腰骨と背骨の接続部分めがけて思いっきり膝を打ち上げる!
「……見たかしらん?」
「いや」
 膝蹴りなんかするから輪廻の裾が思いっ切り跳ね上がったけど、白い肌の太腿の奥が見えたような気がしたけど、義弘はソッポ向いてるし仁はグラサンだし、誰も何も見ていない。
「……あら?」
 古妖が動かないのを確認した輪廻がへにょん、一点集中の火力を放った反動で脱力してしまった。
「お説教は終わってませんよ!」
 既に虫の息の古妖を結鹿がてちてち。意識があるっぽいのを確認した紡が仮面の下でニコニコ。
「悪い奴といい奴がいるのはわかりますか? 鬼にも、盗賊と子どもがいるの、理解できますか? 女と子ども、殺す。これがどういう意味かわかりますか?」
 あ、これヤバい方の笑顔だ。察した古妖は発声する気力も残っていないらしく、ただただ震える。
「弱いものを殺す、あたしが一番嫌いなことです!!」
 すっと、仮面を外した彼女の顔はなんていうかもう、狂気。
「いっぺん死んでこい、やがれです!!」
 光のない虚ろな三白眼で頭を掴まれ、びっくぅ!? 跳ねた古妖をそのまま正座させる。
「自分勝手に物語を改変させるの、悪いこととは思いません、あたしは。だけど! 皆殺しとか、相手に個性がないことを決めつけて物語を悪変させるのはナンセンスです! 中学二年生でももっとマシなの書きますよ!」
「なるほど……中学生を参考にいたたたた!?」
 ちょっとずつ回復してきた古妖が余計な事を考えたらしいので、紡は容赦なく手を握り込む。さっすがムギさん! 既にボロボロの古妖の頭を握り潰そうとするとか、弟以外には容赦ないっすね!!
「まぁ、ともかく、だ」
 事態があらぬ方向に混迷する前に、仁が問う。
「悪事を働いた鬼は兎も角、悪事を働いてない鬼まで手にかければそれは悪事だろう。桃太郎は悪事を働いた鬼だけ討伐したから童話として成り立つ。その桃太郎に無辜の民を殺人ならぬ殺鬼させてどうする?」
 なんかもう可哀想に見えてきたけど、あえてグラサンの奥で目を閉じて心を鬼に。
「自分の改変がそもそものシナリオから大きく逸れてしまった事は分かったな? これはもう桃太郎じゃないし、見せられた側も迷惑だ。もうこんな事はするんじゃないぞ?」
 古妖がもはや半泣きで首を縦にブンブン振り、無事に? 事件は幕を降ろすのだった。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『甘い物なら底なしよん♪』
取得者:魂行 輪廻(CL2000534)
特殊成果
なし




 
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