チョコレート防衛戦線
●
二月が目前に迫り多くの人々の関心がある方向へと傾いていた。
好きな人にチョコレートと共に意中の人へと思いを告げる日。バレンタインデーがもう目前に迫りつつあった。
御菓子屋は新作開発に勤しみ、女性陣は手作りをするか買って済ますか考え、男性陣の多くは愛しのあの子からチョコを貰えないかと妄想しながら過ごしていた。
しかし、このイベントに最も大事なアイテム、チョコレートを狙う者がいた。
●
一台の輸送トラックが深夜の道路を単独で走行していた。運転手は暇なのか欠伸をしながらハンドルを握っている。
夜空に星々が寂しげに輝き、月もその姿を隠す新月の時。定期的に表れる街灯の明りと周囲に他の車両がないことが眠気を助長する。電波障害は直ったものの、ラジオの普及などがなく、退屈なドライブだ。
大量のチョコレート等の菓子類を五麟市へと運ぶそれがちょうど県境の道に入ったところだった。そのトラックの目の前に人間達が飛び出してきたのだ。
「へぇぁあ!?」
少し間の抜けた声を上げながら運転手は急ブレーキをかける。しかし、車の勢いは止まらず、そのまま衝突する。
ひしゃげたのは車だった。衝突音と共に車の前方部分は不可視の壁にでもぶつかったかのように潰れてしまう。ふわりと衝突したはずの人間達が、いや、足の無いそれらは浮き上がり、フロントガラスを通り抜けて車両内へと侵入してくる。
「ひっひっ……ぁ……ひぇ……!」
運転手は目の前に迫る青白い姿をした妖を前に正常な思考ではいられなくなる。
「チョコ……」
「幸せそうな者共……」
「カップル……」
「アベック……」
「みなみな死すべし……」
よくよく見れば男女様々な顔をしたそれらは口々に呪詛のような言葉を運転手へと言い捨てる。その言葉、思念波に襲われてか運転手は狂乱状態に陥り、奇声を上げながら座席を飛び出しその場を走り去っていく。
その姿を見もせずに怨念たちはトラックの積み荷へと向かう。彼らが呪詛を口にし、触れるだけで積荷はみるみる腐敗していった。五麟市に運び込まれるはずだった多くのチョコレートは無残な姿へと変貌した。
その様に満足したのかこの幸せへの恨み言を告げる集団は五麟市へと移動を始める。
●
妖の出現を予期した久方 真由美(nCL2000003)は覚者の面々へと挨拶をするとともに事の次第を説明し始める。
「今回の妖はどうやら恋人関係の未練か……バレンタインへの恨み? の念を持っているようです」
今回の妖の犯行動機が動機なだけに真由美も困り顔でそう告げる。彼女の説明通りであるならばこのバレンタインデーを無茶苦茶にするのが彼らの目的らしい。その第一目標としてチョコレートを運送していたトラックを襲撃した、とのことだ。
「被害者の方を助けるのももちろん大事ですが……」
そこまで言って言いよどむ真由美。少々頬を赤らめながら本音を続ける。
「このままでは五麟市にチョコレートが入ってこなくなってしまいます。私も自分で御菓子を作ろう……と思っていたのですが……チョコレートがないの……では話になりませんし……その、みんな……困ってしまいます……」
後半になるにつれて徐々に勢いが落ちていった。この場で私情を挟むべきではないと思いながらも言ってしまい、一度詰まると視線が気になりさらに恥ずかしくなっていったのだろう。最後の方は特にか細い声になっていった。
「と、とにかく! 妖の退治、よろしくお願いしますねっ」
二月が目前に迫り多くの人々の関心がある方向へと傾いていた。
好きな人にチョコレートと共に意中の人へと思いを告げる日。バレンタインデーがもう目前に迫りつつあった。
御菓子屋は新作開発に勤しみ、女性陣は手作りをするか買って済ますか考え、男性陣の多くは愛しのあの子からチョコを貰えないかと妄想しながら過ごしていた。
しかし、このイベントに最も大事なアイテム、チョコレートを狙う者がいた。
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一台の輸送トラックが深夜の道路を単独で走行していた。運転手は暇なのか欠伸をしながらハンドルを握っている。
夜空に星々が寂しげに輝き、月もその姿を隠す新月の時。定期的に表れる街灯の明りと周囲に他の車両がないことが眠気を助長する。電波障害は直ったものの、ラジオの普及などがなく、退屈なドライブだ。
大量のチョコレート等の菓子類を五麟市へと運ぶそれがちょうど県境の道に入ったところだった。そのトラックの目の前に人間達が飛び出してきたのだ。
「へぇぁあ!?」
少し間の抜けた声を上げながら運転手は急ブレーキをかける。しかし、車の勢いは止まらず、そのまま衝突する。
ひしゃげたのは車だった。衝突音と共に車の前方部分は不可視の壁にでもぶつかったかのように潰れてしまう。ふわりと衝突したはずの人間達が、いや、足の無いそれらは浮き上がり、フロントガラスを通り抜けて車両内へと侵入してくる。
「ひっひっ……ぁ……ひぇ……!」
運転手は目の前に迫る青白い姿をした妖を前に正常な思考ではいられなくなる。
「チョコ……」
「幸せそうな者共……」
「カップル……」
「アベック……」
「みなみな死すべし……」
よくよく見れば男女様々な顔をしたそれらは口々に呪詛のような言葉を運転手へと言い捨てる。その言葉、思念波に襲われてか運転手は狂乱状態に陥り、奇声を上げながら座席を飛び出しその場を走り去っていく。
その姿を見もせずに怨念たちはトラックの積み荷へと向かう。彼らが呪詛を口にし、触れるだけで積荷はみるみる腐敗していった。五麟市に運び込まれるはずだった多くのチョコレートは無残な姿へと変貌した。
その様に満足したのかこの幸せへの恨み言を告げる集団は五麟市へと移動を始める。
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妖の出現を予期した久方 真由美(nCL2000003)は覚者の面々へと挨拶をするとともに事の次第を説明し始める。
「今回の妖はどうやら恋人関係の未練か……バレンタインへの恨み? の念を持っているようです」
今回の妖の犯行動機が動機なだけに真由美も困り顔でそう告げる。彼女の説明通りであるならばこのバレンタインデーを無茶苦茶にするのが彼らの目的らしい。その第一目標としてチョコレートを運送していたトラックを襲撃した、とのことだ。
「被害者の方を助けるのももちろん大事ですが……」
そこまで言って言いよどむ真由美。少々頬を赤らめながら本音を続ける。
「このままでは五麟市にチョコレートが入ってこなくなってしまいます。私も自分で御菓子を作ろう……と思っていたのですが……チョコレートがないの……では話になりませんし……その、みんな……困ってしまいます……」
後半になるにつれて徐々に勢いが落ちていった。この場で私情を挟むべきではないと思いながらも言ってしまい、一度詰まると視線が気になりさらに恥ずかしくなっていったのだろう。最後の方は特にか細い声になっていった。
「と、とにかく! 妖の退治、よろしくお願いしますねっ」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖の撃破
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
今回はチョコレート等のお菓子と恋人たちを狙う妖です。
個人的にはむしろ男性諸氏からのヘイトの方が高いと思っています。
冗談はさておき。
●妖(心霊系ランク1)
バレンタインへの怨念×8
呪詛:特近単 【混乱】
テレキネシス:特遠単
という集団です。
弱めの敵が群れで襲いかかってくるイメージですね。
●特筆事項
特にバレンタインデーのチョコレートを狙った存在ですので
是非、バレンタインデーに対する熱い思いをこの妖達にぶつけていただければと思います。
皆さんの寒さに負けない熱いプレイングをお待ちしています
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
6/8
6/8
公開日
2017年02月12日
2017年02月12日
■メイン参加者 6人■

●
「な、なんだってー!?」
「なによそれぇ!?」
「わ、私に言われても……」
会議室に男女の大声が響く。
夢見の内容に叫び声をあげたのは『弟をたずねて』風織 紡(CL2000764)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の二人だ。暴れ出しかねない二人を『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が落ち着くように諭しながら抑える。
「ダメ、絶対ダメ! あたしの、友達の、いや全国の女子の! 弟の! チョコを潰そうって奴は!」
「今年のバレンタインは彼女との約束があるんだよ!? それを台無しにしようって奴は!」
「――この手でたたきつぶす!!」
感極まり叫ぶ二人はガシリと強くその手を取り合い、声音高々に宣言する。こうしてはいられないとすぐさま準備に取り掛かろうと二人は飛び出して行ってしまう。大嵐が去った後の会議室は静まり返る。
「……。今回の妖の件ですけど、チョコひとつでこのようなことになってしまうのでしたらチョコの配布会とか定期的に催したほうがいいのでしょうか……」
立ち去って行った二人が開け放った扉を呆然と眺めながら『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)がそう呟く。
「……それを目的にされるようになっても困ってしまいますが……ガス抜きの一環としてはアリだと思います」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)がそう返しながら「今回の件で男性の皆さんに反省の色が見えないと、ですけどね」と付け加え苦笑いを浮かべる。
かくして各自は今回の騒動に様々な思いを胸に一時解散する。
●
新月の夜。月が姿を隠し、周囲は街灯と僅かな星明りで照らされている。冬の寒空の下に集まった覚者達の中にはやたら怒りのボルテージが高まっている二人がいた。
「二人とも気合……入ってますね……」
「まぁ、腐抜けたやつらに喝を入れてぇ気持ちは俺もあるがな。ありゃあ私怨というかなんというか」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が義高へと耳打ちをする。その瞳の先にいる紡と奏空の姿は臨戦態勢そのものだ。二人とも既に武器を構え敵が来るのを今か今かと待ち構えている。義高もまた二人に聞こえないように小声で返す。
「あれ? それはなんですか?」
義高が綺麗に包装された小包を抱えていることに気付いたラーラが義高に聞くと、人差し指を口に当て「サプライズさ」とウィンクで返される。
「トラックが来ます! 皆さん気をつけて!」
道路の彼方から近づく音を御菓子はその聴力で捉え、敵の襲来に備えるよう指示を出す。全員が身構え、周囲を警戒する。周囲には歩行者も往来する車もない。徐々に近づく輸送車の音だけが響く。
「シャアアアアア!」
奇声と共に暗がりから義高の抱える小包目掛けて妖が跳びかかる。義高は人間を遙かに凌駕した直感でその攻撃を足でいなし、斧で振り払うと距離を取る。
「そう来ると思ったぜ! お前らこれを見ろ!」
義高がそう叫び妖の一匹が飛び出した暗がりに見せつけるように小包に入ったチョコを突きだす。呻き声や恨み言と共に一匹、また一匹と暗がりから妖達が顔を出していく。
●
「幸せな時間を邪魔させるかぁ!」
敵が全員顔を顕にする前に奏空が先制攻撃を仕掛ける。暗所でも視界が安定している奏空は敵が現れずともその場所を正確に把握できている。
「二連詠唱、轟け雷撃!」
妖達に水分が纏わりついていったかと思うと、激しい轟音と共に天空から雷撃が奔る。湿り気を帯びた怨念達の体を激しい稲妻が貫いていく。
「五麟市のチョコは俺が守る!!」
熱く燃えたぎる闘志を決め台詞と共に妖にぶつける。その瞳に宿る熱い恋心を見透かしたのか攻撃を受けた妖達は標的を奏空に定めた様に一様にそちらを向く。
「人の恋路を邪魔する人は、馬にけられて地獄への超特急便ですよっ!」
奏空に注意が向いた隙に結鹿は愛刀を構え猛進する。剣先に行くにつれ両刃に変ずる独特の形状をした刀を手に、結鹿が敵の懐に入り込むと一瞬のうちに三連撃を入れる。激しい斬撃を見舞われた一匹も一度は地に伏すも、すぐに起き上がり狂乱のまま襲いかかる。
「おぉぉぉぉんんんんなあああああああ」
「ぅオラァ!」
結鹿に襲いかかろうとした妖へと義高の豪斧が襲い掛かる。脳天に斧の腹を叩きつけられその動きを完全に停止させる。
「そうしてキョロキョロと目先の事に囚われやがって! そんなんだから誰からも相手にされないんだ!」
義高は再び小包を掲げる。そこから漏れ出るチョコの匂いを嗅ぎつけたのか、女性を守る姿を恨めしく思うのか妖達は再び義高に狙いを付けると飛びかかっていく。
●
妖は義高を狙う者とそれ以外という大きな区分で分かれることになった。最も近くにいた妖達は義高に飛びかかったり近くにあったブロックやガードレールなどを叩きつけようと飛ばしてくる。
「皆さん! 敵を道路から追いやってください! トラックが来ます!!」
咆哮と共に義高が掴みかかってきていた妖達を吹き飛ばし、奏空と結鹿が道路わきに追いやっていく。
輸送トラックの運転手は目の前での戦闘行為をみるや慌てふためくものの、ラーラが炎を手元で操りまるで手に誘導棒を持つかのようにしてジェスチャーを送る。
「今の内です! 早く!」
ラーラの叫びを聞き、運転手はアクセルを全開にして一気にその場を離脱する。これでもう心配することはない。
「これでわたしのおやつタイム……いえ、バレンタインは守られましたね」
ラーラはトラックを見送りつつそう呟く。ふと見ると戦闘態勢に入った紡が目に入る。輸送トラックが去り、攻撃に転じるのかと思ったがそれだけではないようだ。
「てめぇら、ただで済むと思わねぇ事です」
ゆらりゆらりと敵に近づく紡の表情は仮面に隠れて判断がつかない。しかしそこからわずかにのぞかせる視線、声音、そして何よりもオーラが激しい怒りを湛えているのは誰の目にも明らかだった。
紡は鉄仮面を整え、ナイフを静かに構える。ぐぐっと姿勢を低くしたかと思うと一気に駆け出す。妖とすれ違い様に一撃斬りつけ、背面に回り込み、抉るかのように怨念の体にナイフを突き立てる。
執拗に既に戦う力を失った敵に斬撃を浴びせる。その攻撃からは激しい怒りがにじみ出ていた。仮面越しに見える瞳が鈍く光る。
「……てめぇらの悪逆非道、ゆるしておけねーです。てめぇらの行いは女子の社会的立場を危うくすることそのもの! 許さない!!」
そう叫んだ紡は飛びかかるようにして敵陣に斬り込んでいく。
●
「アベック許すまじ……!」
「チョコをよこせぇえええええ!!」
数は減っても、その怨念の勢いは弱まらない。やがてその声は周囲の人間達の精神を汚染していく。あまりにも幸福を憎むその声が奏空の頭脳を侵す。
「ぐ、ぐぐぐっ」
奏空の頭にあった彼女といちゃつくビジョンは徐々に振られるビジョンに押しつぶされていく。好意を憎悪に変え、幸福は絶望に堕ちていく。燃えたぎる情熱は一度変わってしまえば業火となりその心を焦がしていく。
「そ、そんな、そんなことないっ! ありえない!」
頭を振り乱し、幻想を頭から引きはがそうとするも、一度こびり付けられた妄執は簡単に拭うことができない。やがて彼の目から涙が零れ、歪んだ視界の先にいる相手に闇雲に刃を振り回す。目の前にいたそれは手に持った刃を振るい襲ってくる双刀を上手くさばいていく。
(こんな、こんな奴らの術にっ……)
心には術中に嵌った屈辱、術とわかっていながら湧き出してしまう振られる恐怖、様々な感情が溢れだし、涙が流れる。
そんな思いで埋め尽くされていく心が澄んだ水音と共に静まっていく。
「落ち着いて。それは幻影、真実じゃないわ」
騒乱に満ちたはずの戦場。その音は奏空の耳には入らなかった。ただその澄んだ声だけが聞こえてきた。ハッとしたように顔を上げた目の前に結鹿がいた。いつの間にか幻影しか見えなくなっていた奏空は彼女に刃を向けていたようだ。
「大丈夫ですよ、もう」
よろよろと後ずさりをし、しりもちをつく。呆気にとられた顔で声のしたほうを見ると御菓子がいた。
「術中に嵌ってしまいましたね。でも、もう大丈夫ですよ」
にこりと笑う御菓子と結鹿は自分の事を正気に戻すために奮戦していたのであろう。こと結鹿には自分がつけたと思われる切傷ができていた。
「ごめん、結鹿ちゃん、御菓子先生。おれ……」
「気にしないでください。わたし、この通りなんともないですから」
結鹿は笑顔で返し、腕を振ってアピールをするとすぐにまた前線に戻っていく。その姿を眼で追いながら立ち上がると御菓子の手が肩におかれる。
「謝るのは後で、ね? 奏空くん、がんばって。頼りにしてます」
声援に頷いて答えた奏空は先ほどより強い思いで刃を構える。駆け出した奏空はさながら旋風の如き速さは忍のそれだった。
●
「ぅおらぁッ!」
気合一閃、掛け声とともに念動力で飛ばされたブロックをその身に受けてなお、義高はひるむことなく大斧を敵の脳天目掛けて振り下ろす。もう片手に持ったチョコが傷をつかぬように戦うのは困難であり、その分被弾は増えている。しかし、そんなことは意に介さない。威風堂々と立ちふさがるその姿は誰よりも男らしかった。
それだけに怨念達からのヘイトも高い。特に彼への攻撃は苛烈に行われていた。
しかし、これは作戦だった。大斧で防御をしながら義高はラーラへとアイコンタクトを送る。怨念達の視線の多くが義高に向いている。つまり、まとめて葬るチャンスだ。
アイコンタクトを受け取ったラーラは守護使役であるペスカから黄金に光る鍵を受け取り、持っていた魔導所の封印を解除する。
「纏めていきます! ビスコッティの秘術、いきますよ!」
魔導書を封じていた鎖は解けたかと思えば赤熱していく。ラーラの足元に現れた魔方陣からは炎が吹き上がり瞬く間に火柱へと勢いを増していく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
詠唱と共に放たれた火柱は天空へと舞い上がり、燃え上がる毛並みを持つ猫へと姿を変え敵へと襲いかかる。灼熱に呑まれた妖達は瞬く間に蒸発するかのように消えていく。
燃え盛るか炎に呑まれたのは三匹。そのうち一匹は辛くも生き残りその場でバタバタと暴れはじめる。その口からは呪詛ではなく苦悶の声が上がる。その場から逃げ出そうとするそいつを義高は見逃さなかった。
「ぶっ飛びなっ!」
大きく踏み込んだ足を軸に、斧を怨念目掛けてフルスイングする。脳天にくらった一撃の勢いで妖の体は大きく打ち上げられる。
「ガァァァ……ァァァ……ァ……」
やがて夜の闇に消えるか消えないかあたりの場所で声は途切れ、この世から完全にそいつは消え去った。
●
立ち直った奏空が二振りの刀を交差するように構えると、徐々に刀身が青白く発光し稲光を放ち始める。
「今度は俺の番だ! もう想いは、歪ませやしない! 俺のも、みんなのもだ!」
上段に刀を振り上げ右手の刃を勢いよく振り抜き、続けざまに左手の雷刃も放つ。二つの雷撃が時間差で妖の体を穿つ。雷撃を浴びた妖は絶叫し、肉の無いはずのその体から煙をふきあげその場に倒れる。
「もし来世があるようなら、“チョコを欲しがる人”ではなく、“チョコを上げたくなる人”になってくださいね!」
結鹿は顔の横で地面と平行になるかのように刀を構える。相手にまっすぐ切っ先を向け、相手に狙いを付ける。
「ハッ!」
気魄に満ち、凄まじい闘気と共に真っ直ぐ踏み込んだ鋭い突きが怨念の体を貫通する。狙い澄ました必殺の突きは闘気を力に変え、刃が止まってなお衝撃波を後方の敵へと放つ。刃が突きなら放たれた衝撃もまた突き。矢の如き衝撃波が一瞬の内に背後の敵をも貫きその動きを射止める。
結鹿は敵から刀を引き抜き、ワンステップで後方へ下がる。ぐらりと体勢を崩した一匹は地に倒れ伏し消え去る。重傷を負ったもう一匹へは凶刃が迫る。
「てめぇで最後です」
「ぐ……バレンタイン……死すべし……」
「最後の言葉までそれじゃあ、救いようねーです、よっ!」
最後の一声と共にナイフで妖の胴部を突き刺す。鉄仮面の下の眼光が光り、トドメと言わんばかりにグッとナイフに力を込める。怨念の体が一度少し持ち上がったかと思えば一転ズルリと崩れ落ちた。
●
覚醒状態を解いた紡の顔は晴れやかだった。ストレスか何か、そういうのが無くなった解放感に満ちた顔だった。少し伸びをした彼女は弟への初めての手作りチョコを作るからと足早に去っていく。
「彼らも生まれ変わることができるのなら、次はバレンタインを楽しむことができますように」
「優しいな、お前は」
義高の言葉に笑みで返すラーラ。
義高がふと「そういえば」と言い御菓子へと視線を向ける。
「会議室での、チョコの配布会がどうのって話、どうにかやってくれねぇかな。今回の件がバレンタインへの恨み辛みで起きたことだったら今後も……それこそバレンタイン当日にでも再発するかもしれねぇだろ? だからさ……」
そんな義高の言葉に御菓子と結鹿は顔を見合わせくすくすと笑い始める。
「わたし達もやろうと思っていたんです」
「まだ詳しいことは決めてませんけどね」
血筋ということで似ているのか、それとも既に計画を立てていたのか。もうその気のようだ。自分が言う必要もなかったのを知り笑い出しながら頭をかく義高。
「だったらせっかくだし協力させてくれよ。こっちが言い出した手前、少しは手伝えると思うぜ」
義高の申し出を快諾し、三人は今後の事を話し始めそうになる。
「あのっ! 結鹿ちゃんと、御菓子先生には、迷惑かけちゃって……ごめんなさい!」
それを止めたのは奏空だ。言い出せない空気になる前に言い出すことにしたのだ。
「だいじょうぶ、平気だよ」
「奏空くんにも、結鹿ちゃんにも怪我がなくて何よりよ。だからそんなに気落ちしないで。そんな顔じゃ、彼女さんには見せられないよ」
結鹿と御菓子に励まされ奏空は元の調子に戻っていった。
日常に戻っていく覚者達。彼らが守ったバレンタイン、もうじきその当日がやってくる。
守った覚者達にもバレンタインは訪れる。
渡し渡されるのは果たして、友か、愛か、それとも――
「な、なんだってー!?」
「なによそれぇ!?」
「わ、私に言われても……」
会議室に男女の大声が響く。
夢見の内容に叫び声をあげたのは『弟をたずねて』風織 紡(CL2000764)と『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)の二人だ。暴れ出しかねない二人を『花屋の装甲擲弾兵』田場 義高(CL2001151)が落ち着くように諭しながら抑える。
「ダメ、絶対ダメ! あたしの、友達の、いや全国の女子の! 弟の! チョコを潰そうって奴は!」
「今年のバレンタインは彼女との約束があるんだよ!? それを台無しにしようって奴は!」
「――この手でたたきつぶす!!」
感極まり叫ぶ二人はガシリと強くその手を取り合い、声音高々に宣言する。こうしてはいられないとすぐさま準備に取り掛かろうと二人は飛び出して行ってしまう。大嵐が去った後の会議室は静まり返る。
「……。今回の妖の件ですけど、チョコひとつでこのようなことになってしまうのでしたらチョコの配布会とか定期的に催したほうがいいのでしょうか……」
立ち去って行った二人が開け放った扉を呆然と眺めながら『中学生』菊坂 結鹿(CL2000432)がそう呟く。
「……それを目的にされるようになっても困ってしまいますが……ガス抜きの一環としてはアリだと思います」
『音楽教諭』向日葵 御菓子(CL2000429)がそう返しながら「今回の件で男性の皆さんに反省の色が見えないと、ですけどね」と付け加え苦笑いを浮かべる。
かくして各自は今回の騒動に様々な思いを胸に一時解散する。
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新月の夜。月が姿を隠し、周囲は街灯と僅かな星明りで照らされている。冬の寒空の下に集まった覚者達の中にはやたら怒りのボルテージが高まっている二人がいた。
「二人とも気合……入ってますね……」
「まぁ、腐抜けたやつらに喝を入れてぇ気持ちは俺もあるがな。ありゃあ私怨というかなんというか」
『赤き炎のラガッツァ』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)が義高へと耳打ちをする。その瞳の先にいる紡と奏空の姿は臨戦態勢そのものだ。二人とも既に武器を構え敵が来るのを今か今かと待ち構えている。義高もまた二人に聞こえないように小声で返す。
「あれ? それはなんですか?」
義高が綺麗に包装された小包を抱えていることに気付いたラーラが義高に聞くと、人差し指を口に当て「サプライズさ」とウィンクで返される。
「トラックが来ます! 皆さん気をつけて!」
道路の彼方から近づく音を御菓子はその聴力で捉え、敵の襲来に備えるよう指示を出す。全員が身構え、周囲を警戒する。周囲には歩行者も往来する車もない。徐々に近づく輸送車の音だけが響く。
「シャアアアアア!」
奇声と共に暗がりから義高の抱える小包目掛けて妖が跳びかかる。義高は人間を遙かに凌駕した直感でその攻撃を足でいなし、斧で振り払うと距離を取る。
「そう来ると思ったぜ! お前らこれを見ろ!」
義高がそう叫び妖の一匹が飛び出した暗がりに見せつけるように小包に入ったチョコを突きだす。呻き声や恨み言と共に一匹、また一匹と暗がりから妖達が顔を出していく。
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「幸せな時間を邪魔させるかぁ!」
敵が全員顔を顕にする前に奏空が先制攻撃を仕掛ける。暗所でも視界が安定している奏空は敵が現れずともその場所を正確に把握できている。
「二連詠唱、轟け雷撃!」
妖達に水分が纏わりついていったかと思うと、激しい轟音と共に天空から雷撃が奔る。湿り気を帯びた怨念達の体を激しい稲妻が貫いていく。
「五麟市のチョコは俺が守る!!」
熱く燃えたぎる闘志を決め台詞と共に妖にぶつける。その瞳に宿る熱い恋心を見透かしたのか攻撃を受けた妖達は標的を奏空に定めた様に一様にそちらを向く。
「人の恋路を邪魔する人は、馬にけられて地獄への超特急便ですよっ!」
奏空に注意が向いた隙に結鹿は愛刀を構え猛進する。剣先に行くにつれ両刃に変ずる独特の形状をした刀を手に、結鹿が敵の懐に入り込むと一瞬のうちに三連撃を入れる。激しい斬撃を見舞われた一匹も一度は地に伏すも、すぐに起き上がり狂乱のまま襲いかかる。
「おぉぉぉぉんんんんなあああああああ」
「ぅオラァ!」
結鹿に襲いかかろうとした妖へと義高の豪斧が襲い掛かる。脳天に斧の腹を叩きつけられその動きを完全に停止させる。
「そうしてキョロキョロと目先の事に囚われやがって! そんなんだから誰からも相手にされないんだ!」
義高は再び小包を掲げる。そこから漏れ出るチョコの匂いを嗅ぎつけたのか、女性を守る姿を恨めしく思うのか妖達は再び義高に狙いを付けると飛びかかっていく。
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妖は義高を狙う者とそれ以外という大きな区分で分かれることになった。最も近くにいた妖達は義高に飛びかかったり近くにあったブロックやガードレールなどを叩きつけようと飛ばしてくる。
「皆さん! 敵を道路から追いやってください! トラックが来ます!!」
咆哮と共に義高が掴みかかってきていた妖達を吹き飛ばし、奏空と結鹿が道路わきに追いやっていく。
輸送トラックの運転手は目の前での戦闘行為をみるや慌てふためくものの、ラーラが炎を手元で操りまるで手に誘導棒を持つかのようにしてジェスチャーを送る。
「今の内です! 早く!」
ラーラの叫びを聞き、運転手はアクセルを全開にして一気にその場を離脱する。これでもう心配することはない。
「これでわたしのおやつタイム……いえ、バレンタインは守られましたね」
ラーラはトラックを見送りつつそう呟く。ふと見ると戦闘態勢に入った紡が目に入る。輸送トラックが去り、攻撃に転じるのかと思ったがそれだけではないようだ。
「てめぇら、ただで済むと思わねぇ事です」
ゆらりゆらりと敵に近づく紡の表情は仮面に隠れて判断がつかない。しかしそこからわずかにのぞかせる視線、声音、そして何よりもオーラが激しい怒りを湛えているのは誰の目にも明らかだった。
紡は鉄仮面を整え、ナイフを静かに構える。ぐぐっと姿勢を低くしたかと思うと一気に駆け出す。妖とすれ違い様に一撃斬りつけ、背面に回り込み、抉るかのように怨念の体にナイフを突き立てる。
執拗に既に戦う力を失った敵に斬撃を浴びせる。その攻撃からは激しい怒りがにじみ出ていた。仮面越しに見える瞳が鈍く光る。
「……てめぇらの悪逆非道、ゆるしておけねーです。てめぇらの行いは女子の社会的立場を危うくすることそのもの! 許さない!!」
そう叫んだ紡は飛びかかるようにして敵陣に斬り込んでいく。
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「アベック許すまじ……!」
「チョコをよこせぇえええええ!!」
数は減っても、その怨念の勢いは弱まらない。やがてその声は周囲の人間達の精神を汚染していく。あまりにも幸福を憎むその声が奏空の頭脳を侵す。
「ぐ、ぐぐぐっ」
奏空の頭にあった彼女といちゃつくビジョンは徐々に振られるビジョンに押しつぶされていく。好意を憎悪に変え、幸福は絶望に堕ちていく。燃えたぎる情熱は一度変わってしまえば業火となりその心を焦がしていく。
「そ、そんな、そんなことないっ! ありえない!」
頭を振り乱し、幻想を頭から引きはがそうとするも、一度こびり付けられた妄執は簡単に拭うことができない。やがて彼の目から涙が零れ、歪んだ視界の先にいる相手に闇雲に刃を振り回す。目の前にいたそれは手に持った刃を振るい襲ってくる双刀を上手くさばいていく。
(こんな、こんな奴らの術にっ……)
心には術中に嵌った屈辱、術とわかっていながら湧き出してしまう振られる恐怖、様々な感情が溢れだし、涙が流れる。
そんな思いで埋め尽くされていく心が澄んだ水音と共に静まっていく。
「落ち着いて。それは幻影、真実じゃないわ」
騒乱に満ちたはずの戦場。その音は奏空の耳には入らなかった。ただその澄んだ声だけが聞こえてきた。ハッとしたように顔を上げた目の前に結鹿がいた。いつの間にか幻影しか見えなくなっていた奏空は彼女に刃を向けていたようだ。
「大丈夫ですよ、もう」
よろよろと後ずさりをし、しりもちをつく。呆気にとられた顔で声のしたほうを見ると御菓子がいた。
「術中に嵌ってしまいましたね。でも、もう大丈夫ですよ」
にこりと笑う御菓子と結鹿は自分の事を正気に戻すために奮戦していたのであろう。こと結鹿には自分がつけたと思われる切傷ができていた。
「ごめん、結鹿ちゃん、御菓子先生。おれ……」
「気にしないでください。わたし、この通りなんともないですから」
結鹿は笑顔で返し、腕を振ってアピールをするとすぐにまた前線に戻っていく。その姿を眼で追いながら立ち上がると御菓子の手が肩におかれる。
「謝るのは後で、ね? 奏空くん、がんばって。頼りにしてます」
声援に頷いて答えた奏空は先ほどより強い思いで刃を構える。駆け出した奏空はさながら旋風の如き速さは忍のそれだった。
●
「ぅおらぁッ!」
気合一閃、掛け声とともに念動力で飛ばされたブロックをその身に受けてなお、義高はひるむことなく大斧を敵の脳天目掛けて振り下ろす。もう片手に持ったチョコが傷をつかぬように戦うのは困難であり、その分被弾は増えている。しかし、そんなことは意に介さない。威風堂々と立ちふさがるその姿は誰よりも男らしかった。
それだけに怨念達からのヘイトも高い。特に彼への攻撃は苛烈に行われていた。
しかし、これは作戦だった。大斧で防御をしながら義高はラーラへとアイコンタクトを送る。怨念達の視線の多くが義高に向いている。つまり、まとめて葬るチャンスだ。
アイコンタクトを受け取ったラーラは守護使役であるペスカから黄金に光る鍵を受け取り、持っていた魔導所の封印を解除する。
「纏めていきます! ビスコッティの秘術、いきますよ!」
魔導書を封じていた鎖は解けたかと思えば赤熱していく。ラーラの足元に現れた魔方陣からは炎が吹き上がり瞬く間に火柱へと勢いを増していく。
「良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
詠唱と共に放たれた火柱は天空へと舞い上がり、燃え上がる毛並みを持つ猫へと姿を変え敵へと襲いかかる。灼熱に呑まれた妖達は瞬く間に蒸発するかのように消えていく。
燃え盛るか炎に呑まれたのは三匹。そのうち一匹は辛くも生き残りその場でバタバタと暴れはじめる。その口からは呪詛ではなく苦悶の声が上がる。その場から逃げ出そうとするそいつを義高は見逃さなかった。
「ぶっ飛びなっ!」
大きく踏み込んだ足を軸に、斧を怨念目掛けてフルスイングする。脳天にくらった一撃の勢いで妖の体は大きく打ち上げられる。
「ガァァァ……ァァァ……ァ……」
やがて夜の闇に消えるか消えないかあたりの場所で声は途切れ、この世から完全にそいつは消え去った。
●
立ち直った奏空が二振りの刀を交差するように構えると、徐々に刀身が青白く発光し稲光を放ち始める。
「今度は俺の番だ! もう想いは、歪ませやしない! 俺のも、みんなのもだ!」
上段に刀を振り上げ右手の刃を勢いよく振り抜き、続けざまに左手の雷刃も放つ。二つの雷撃が時間差で妖の体を穿つ。雷撃を浴びた妖は絶叫し、肉の無いはずのその体から煙をふきあげその場に倒れる。
「もし来世があるようなら、“チョコを欲しがる人”ではなく、“チョコを上げたくなる人”になってくださいね!」
結鹿は顔の横で地面と平行になるかのように刀を構える。相手にまっすぐ切っ先を向け、相手に狙いを付ける。
「ハッ!」
気魄に満ち、凄まじい闘気と共に真っ直ぐ踏み込んだ鋭い突きが怨念の体を貫通する。狙い澄ました必殺の突きは闘気を力に変え、刃が止まってなお衝撃波を後方の敵へと放つ。刃が突きなら放たれた衝撃もまた突き。矢の如き衝撃波が一瞬の内に背後の敵をも貫きその動きを射止める。
結鹿は敵から刀を引き抜き、ワンステップで後方へ下がる。ぐらりと体勢を崩した一匹は地に倒れ伏し消え去る。重傷を負ったもう一匹へは凶刃が迫る。
「てめぇで最後です」
「ぐ……バレンタイン……死すべし……」
「最後の言葉までそれじゃあ、救いようねーです、よっ!」
最後の一声と共にナイフで妖の胴部を突き刺す。鉄仮面の下の眼光が光り、トドメと言わんばかりにグッとナイフに力を込める。怨念の体が一度少し持ち上がったかと思えば一転ズルリと崩れ落ちた。
●
覚醒状態を解いた紡の顔は晴れやかだった。ストレスか何か、そういうのが無くなった解放感に満ちた顔だった。少し伸びをした彼女は弟への初めての手作りチョコを作るからと足早に去っていく。
「彼らも生まれ変わることができるのなら、次はバレンタインを楽しむことができますように」
「優しいな、お前は」
義高の言葉に笑みで返すラーラ。
義高がふと「そういえば」と言い御菓子へと視線を向ける。
「会議室での、チョコの配布会がどうのって話、どうにかやってくれねぇかな。今回の件がバレンタインへの恨み辛みで起きたことだったら今後も……それこそバレンタイン当日にでも再発するかもしれねぇだろ? だからさ……」
そんな義高の言葉に御菓子と結鹿は顔を見合わせくすくすと笑い始める。
「わたし達もやろうと思っていたんです」
「まだ詳しいことは決めてませんけどね」
血筋ということで似ているのか、それとも既に計画を立てていたのか。もうその気のようだ。自分が言う必要もなかったのを知り笑い出しながら頭をかく義高。
「だったらせっかくだし協力させてくれよ。こっちが言い出した手前、少しは手伝えると思うぜ」
義高の申し出を快諾し、三人は今後の事を話し始めそうになる。
「あのっ! 結鹿ちゃんと、御菓子先生には、迷惑かけちゃって……ごめんなさい!」
それを止めたのは奏空だ。言い出せない空気になる前に言い出すことにしたのだ。
「だいじょうぶ、平気だよ」
「奏空くんにも、結鹿ちゃんにも怪我がなくて何よりよ。だからそんなに気落ちしないで。そんな顔じゃ、彼女さんには見せられないよ」
結鹿と御菓子に励まされ奏空は元の調子に戻っていった。
日常に戻っていく覚者達。彼らが守ったバレンタイン、もうじきその当日がやってくる。
守った覚者達にもバレンタインは訪れる。
渡し渡されるのは果たして、友か、愛か、それとも――

■あとがき■
ご参加ありがとうございました。
バレンタイン企画は≪Vt2017≫と付くのですが
今回はその企画の前日譚ということになります。
なので、ついてません。
この後、バレンタインをキャラクター達がどう楽しむのか
わたしも楽しみにしています。
あ、現実のバレンタインも楽しんでいきましょう!
それではまたの参加お待ちしています!
バレンタイン企画は≪Vt2017≫と付くのですが
今回はその企画の前日譚ということになります。
なので、ついてません。
この後、バレンタインをキャラクター達がどう楽しむのか
わたしも楽しみにしています。
あ、現実のバレンタインも楽しんでいきましょう!
それではまたの参加お待ちしています!
