≪初夢語≫天空城の鐘楼~幸福の音~
●
「???」
確かこたつで、あるいはホットカーペットの上で、うたた寝をしていたはず……。
気がつくと、貴方はほかの覚者たちと一緒に雲の上で夜の天空城を仰ぎ見ていた。
え、雲の上!?
「ムフフ~ン。明けましておめでとう。ボクは古妖・獏。いきなりだが、キミたちは共通の初夢の中にいる」
突如、目の前に現れた古妖に慌てる貴方たち。
獏(バク)と名乗った古妖は、落ち着いて、と静かに語りかける。
「雲の上に乗れているだろ? それは夢だからさ」
貴方が頷くと、獏はムフフ~ン、と笑った。
「よしよし。では本題。ここは天使たちが住まう天空城。さて、あちらに見える城の鐘楼に注目~」
獏はすっと短い腕を振って、貴方たちの視線を鐘楼へ導いた。
●
天空城のてっぺん。三日月の真下に、鐘楼はあった。
「よく見てごらん。屋根はあっても肝心の鐘がないだろう?」
獏は、天空城の鐘は太陽と月の運行に重要な役割を果たしている、と言った。これまでは荘厳華麗な音を世界中の空に響かせ、時を告げていたのだ。
鐘が無ければ時間が分からない。時間が分からなければ、天使たちはいつ太陽を神殿から出せばいいのか分からない。
「つまり、はやく鐘を見つけないとだね。このままずっと夜が続くことになるんだな~。そこでキミたちにお願い」
初夢効果で人語を話せる守護使役と一緒に、『鐘』を探して鐘楼にどしてほしい、と獏は言った。
「ムフフ~ン。守護使役に頼めば人の姿になってくれるかもね。なにせ夢の中だし。まあ、無理強いはしないようにね」
ちなみに、『鐘』には羽が生えている。なんと、自由に動き回れるのだ。
「なんかね、いま、うつらしいんだ。『鐘』が。希望が抜けて透明になっているんだって。あ、鐘楼にはないから。念のため確認してもいいけどね~」
『鐘』は夢や希望、愛などの強く温かい感情をぶつけてやると実体化するらしい。
守護使役と一緒に、今年一年の抱負や叶えたい夢を語りながら、天空城の中や周辺を探してみるといい。好きな人がいれば守護使役相手に恋バナもいいだろう。
「じゃあ、頼んだね」
「???」
確かこたつで、あるいはホットカーペットの上で、うたた寝をしていたはず……。
気がつくと、貴方はほかの覚者たちと一緒に雲の上で夜の天空城を仰ぎ見ていた。
え、雲の上!?
「ムフフ~ン。明けましておめでとう。ボクは古妖・獏。いきなりだが、キミたちは共通の初夢の中にいる」
突如、目の前に現れた古妖に慌てる貴方たち。
獏(バク)と名乗った古妖は、落ち着いて、と静かに語りかける。
「雲の上に乗れているだろ? それは夢だからさ」
貴方が頷くと、獏はムフフ~ン、と笑った。
「よしよし。では本題。ここは天使たちが住まう天空城。さて、あちらに見える城の鐘楼に注目~」
獏はすっと短い腕を振って、貴方たちの視線を鐘楼へ導いた。
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天空城のてっぺん。三日月の真下に、鐘楼はあった。
「よく見てごらん。屋根はあっても肝心の鐘がないだろう?」
獏は、天空城の鐘は太陽と月の運行に重要な役割を果たしている、と言った。これまでは荘厳華麗な音を世界中の空に響かせ、時を告げていたのだ。
鐘が無ければ時間が分からない。時間が分からなければ、天使たちはいつ太陽を神殿から出せばいいのか分からない。
「つまり、はやく鐘を見つけないとだね。このままずっと夜が続くことになるんだな~。そこでキミたちにお願い」
初夢効果で人語を話せる守護使役と一緒に、『鐘』を探して鐘楼にどしてほしい、と獏は言った。
「ムフフ~ン。守護使役に頼めば人の姿になってくれるかもね。なにせ夢の中だし。まあ、無理強いはしないようにね」
ちなみに、『鐘』には羽が生えている。なんと、自由に動き回れるのだ。
「なんかね、いま、うつらしいんだ。『鐘』が。希望が抜けて透明になっているんだって。あ、鐘楼にはないから。念のため確認してもいいけどね~」
『鐘』は夢や希望、愛などの強く温かい感情をぶつけてやると実体化するらしい。
守護使役と一緒に、今年一年の抱負や叶えたい夢を語りながら、天空城の中や周辺を探してみるといい。好きな人がいれば守護使役相手に恋バナもいいだろう。
「じゃあ、頼んだね」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.守護使役に今年の抱負などを熱く語る
2.『鐘』を鐘楼に戻す
3.戦闘はしない
2.『鐘』を鐘楼に戻す
3.戦闘はしない
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性が
ありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ!です。
●制限時間
元旦中に鐘楼へ『鐘』を戻してください。
まずはいろんな場所で、夢や希望を熱く語って『鐘』を実体化させましょう。
●探索場所
・空中庭園
虹の橋が架かる空中の庭園です。
いまは夜。星の欠片が流れる川を虹の橋の下に見ることができます。
大きな大きな鳥の木もあります。
世界中のいろんな鳥が羽を休めています。
※鳥系の守護使役を連れている人以外は、鳥たちと会話できません。
・雲の端
夜の大都市が見下せます。
不思議なことに、見下せる都市は人によって異なります。
※浮遊系の守護使役を連れている人と翼持ち以外は、雲の外側に立つことができません。
・天空城
謁見の間や、舞踏会城、調理室、食糧庫、武器庫、鐘楼などなど。広いです。
どこでも自由に出入りできますが、残念ながら天空城の王さまには会えません。
・太陽の神殿
扉は硬く閉じられています。
筋肉がすごいムキムキ天使が扉番をしています。
・月の神殿
扉は開かれていますが、中に月はいません。
●特殊ルール
初夢効果で普段は話せない守護使役と会話ができます。
プレイングに必ず以下の一行を書き入れてください。
【守護使役の名前】…(性別・年/一人称と貴方の呼び方、口調)
守護使役を擬人化させる場合は、次の行に擬人化時の外見と服装を。
書かれていない場合は擬人化できません。
なお、以前にそうすけの『≪嘘夢語≫守護使役が働くお店 ~精霊の花茶碗~(ID:529)』にご参加いただいていた場合は、守護使役の外見特徴を省くことができます。
【前回参加】とだけご記入ください。
●特殊ルール2
夢のかなでもスキルは自由に使えますが、戦闘行為は厳禁です。
他の仲間との連絡は送受心で取りあってください。
夢の中なので、通心距離が無制限になっています。やったね。
擬人化しても守護使役の能力はそのまま使えます。
※鳥系と浮遊系の守護使役を連れている人以外は、雲の外側に立つことができません。
※鳥系の守護使役を連れている人以外は、鳥たちと会話できません。
落ちてもダメージは受けませんが、強制的に目覚めてしまいます。
●『鐘』
羽が生えていて、自分の意思で動き回れるやっかいなやつ。
ストレスがたまると透明になる。
夢や希望、愛などの強く温かい感情をぶつけると実体化します。
●STより
アナザー依頼で擬人化した守護使役の姿が頼めますよ~いかがですか~(宣伝)。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
3/6
3/6
公開日
2017年01月18日
2017年01月18日
■メイン参加者 3人■

●
新年早々。めでたい初夢の中でどつきあう二人の男がいた。どちらも白髪頭のいいお爺ちゃんである。
「誰が呆けジジィや!」
「てめぇのこった、この呆けジジイが!」
「なんやと、いきなり人を捕まえて呆けジジイいうほうがボケとるんや、この呆けジジイ!」
太陽の神殿前でぽかすか殴りあうのは光邑 研吾(CL2000032)御年72歳と、その守護使役の玉竜――。
ちょっとこの守護使役の名前を気に留めておいていただきたい。
理由はすぐに分かる。
「だいたいやな、お前、何を根拠に俺が呆けとるいうてんのや!」
「おう、教えてやるよ。研吾、俺の名前をもういっぺん呼んでみぃ」
「お安い御用や。竜玉――」
その瞬間、玉竜の膝が研吾の顔面に入った。見た目はジジィだが、そこはさすがの守護使役。K1ファイターも驚きの飛び膝蹴りを見舞った。
研吾は鼻血を吹き出してよろめいた。
「な、なにすんのや、竜玉! もう、腹立ったで。止めるリサもおらんし、とことんやったる!」
「おう! やれるもんならやってみな。呆けジジイに倒されるほど、この玉竜、ヤワじゃねえよ!」
その辺の妖と一緒にするなよ、と玉竜が袖をまくったところで太陽の神殿の警備をしていたムキムキ天使が間に割って入った。
放置していると、術まで使いだしそうだったからである。
ぶっとい腕に阻まれつつも、研吾を挑発する玉竜。
一方、研吾はといえば首を捻っていた。袖の中に手を引っ込め、ハンカチを取りだして鼻血をぬぐう。
「…………んむ?」
「んむ、じゃねえや。やっと気づいたか。お前、さっきから俺の名前をひっくり返して呼んでたんだぜ。だいたい、玉竜ってのは二十六年前に、研吾、お前がつけたんだろうが!」
「そやった。竜玉やない、玉竜や。すまんすまん」
大事なことを、さらっとしれっと流す研吾。
これには玉竜もあきれ果てて、だらりと腕をさげた。
「ああ、天使さん。すんませんな。お騒がせしました」
二体の天使たちと新年のあいさつもかわし、太陽の神殿に顔をむけた。
「太陽はんは……ああ、こんな程度の騒ぎでは目が覚めまへんか。やっぱり本物の鐘の音やないと、しゃきっと目が覚めへんのやな。他に変わりはない唯一無二の存在か。いや、そないに思われてるとは羨ましい話やで。ほな、逃げた鐘を捕まえにいきますわ。さ、玉竜。いこか」
とくに見るべきところなし、と判じて太陽の神殿前を早々に退散する。
「しっかしなぁ。新年早々、お役目放り出して行方不明とは……なんぎなやっちゃな。何をスネとるか知らんけど、はやいこと見つけて連れ戻さんと」
「俺に言わせりゃ、難儀なのは研吾のほうだ。まったく……宮大工としての腕はぴか一なのによぅ」
守護使役の愚痴には聞こえないふりをして、天を仰ぎ見た。
「お月さんは時間外労働中か。大変やな。そやけどお月さんが頑張ってはるから、世の中が真っ暗にならんですんでる。ありがたいこっちゃで。俺らも人々の希望と生活の支えになれるよう、細々とでも妖退治を頑張らなあかんな」
「そうはいっても出ずっぱりは辛いだろうよ。はやいとこ太陽と交代させてやらねえと……。太陽も月も同じぐらい、人にとって大切な存在。どっちが欠けてもダメだ」
「そやな。玉竜は俺にとってリサと同じぐらい大事な存在なんとおんなじことやな。もちろん、子供や孫たちも大切に思うてるで」
「へっ、名前を言い間違えたやつが何言ってやがるんだか……」
照れてそっぽを向いた玉竜の後ろの方で、小さく鐘の音が鳴った。
●
「おー、すげえ。大和、見てみろよ!」
『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は雲の端にうつぶせになると、遥か下を指さした。
眼下に広がるは夜の五麟市――。
「あの辺りが五麒駅だな。それで、あっちが五麒学園で、あの山の上にじいちゃんたちとオレの家……」
「おい、早く鐘を探さねえとダメなんじゃねえのかよ」
一悟の隣に、白地に赤い炎の波飾りというデザインのパーカーを着た若い青年が、胡坐を組んで座った。破れジーンズに底の厚いエアシューズを履く青年は、一悟と同年代。背の高さや体型もよく似ている。青年は、一悟の守護使役、大和が擬人化した姿だった。
大和は犬耳がついたフードを手で後ろへ払い落すと、ウルフカットされた赤い髪に一房だけ混じる白い毛へ指をやった。
「固い子というなよ。ちょっとぐらいならいいじゃんか。それより……なあ、春から走る新しいルートの検討をしようぜ」
しょうがねえな、といいつつ、大和も一悟の隣に横になり、夜の五麟市を見下した。
二人で普段走っているルートを指でなぞって確認する。
「上り坂よりも下り坂でタイムが落ちるんだよな~。やっぱもっと体力つけないとダメか。大和はどう思う?」
「それなら、ルートを変えるよりも公園での筋トレの時間を増やした方がいいんじゃね?」
一悟は、うーん、と唸って体を反転させた。大和も寝返りをうつ。
しばらく、ふたり無言で空に浮かぶ月と星を数えた。
「あの光の中に鐘がいるかもしれねえな。一悟の夢、聞かせてみろよ」
「鐘に聞かせる夢な……」
一悟はがばっと体を起こした。胡坐をかいて座ると、真面目な顔して腕を組む。
「そりゃ、やっぱり日本代表に選ばれて海外の大きな大会で優勝することかな。日本の外に出りゃ、覚者としての力はまったく使えないからな。本当の実力が試される……。一度、国外に出て正式なタイムを計ってみたいぜ」
電波障害が解消されたといっても、まだまだ海外旅行は難しい。
日本から海外に行く航空便はこれから数が増えるだろう。しかし、飛行機を落とす妖が依然として空を飛んでいた。海もだ。それら悪事を働く妖――中には古妖も混じっているをどうにか退治しないと、安心して旅行になんていけやしない。
「そのためにも、日本ははやく神秘解明して26年前の状態に戻さなきゃな。毎日、オレにできることからこつこつとやっていくか!」
「コツコツと、毎日続けられるって、マジ偉いと思うぜ。誇りを持って戦い続けろよ。……でもさ、26年前の状態に戻ったら、俺はもう……」
「しんみりすんなよ。たとえ見えなくなったとしても、大和のことはちゃんと感じられるさ。オレたちは一生、一緒だぜ! 」
「おう、約束だぜ!」
感極まって鼻をすすっていた大和だったが、急に体を強張らせたかと思うと空中庭園へ顔をむけた。
一悟も微かにベロが触れて立てた小さな鐘の音を聞きとった。口元に手をあてて、遠ざかっていくシルエットに大きな声で叫ぶ。
「ああ、そうだ。鐘も、毎日頑張っていい音をだせよ、な!」
カランコロン……。
一、 二の三で、跳ね起きると、一悟は大和と一緒に逃げていく鐘を追いかけた。
走るうちに、鐘を捕まえることを忘れ、どこまでもどこまでも、太ももを高く上げて雲の上を駆ける。星屑を蹴り上げながら。
「楽しいな、大和!」
「ああ、楽しいな一悟!」
ふたりは一つ。なにがあっても離れることはない。いつまでも、いつまでも。
●
「この姿ではお初にお目にかかりますね、久永様。お会いできて嬉しゅうございます」
女は紺地にいぶし金で源氏香図をあしらった帯を締め、目を糸のようにほそめて微笑んでいた。濃紺地の着物から抜け出た白い顔は、きめ細やかな肌をしており、濃く紅を引いた口の形がよい。締麗に結い上げた黒髪と、澄んだ漆黒の瞳が凛とした和風美人に見せている。
『白い人』由比 久永(CL2000540)は、いまを盛りの花を月下に見ているような気がした。
「……はて? いや、そなたとは長い付き合いだが、女人だとは思わなかった」
守護使役のかひごは、袖で口元を隠してふふふ、と笑った。
なんともいえず、久永はつい、とかひごから目をそらすと、草履の先を雲にかかる橋へむけた。
太鼓のように大きく反った橋を、うしろをついてくるかひごを気遣いながら、そろりと上がる。
鐘が隠れていないか、と欄干から身を乗り出して下を見た。
「おぉ、かひご。星の欠片が流れておるぞ。これが天の川というやつか? 一体どこまで流れていくのか……」
朱色の欄干に手をかけて、流れゆく光を目で追いながらぽつりと呟く。
かひごが肩が触れ合う近さで隣に並んだ。
「かつて星の光が、さまよう魂を大地の果てにある楽園へ導くと信じられたことがありました。遠い、遠い日のことでございます。これはわたくしの勝手な想像ですが、この川は地上に暮らすすべての人々の喜びや悲しみのすべてを写し取って、極楽浄土まで流れていくのではないでしょうか」
「極楽浄土……か。あるいはこの星の欠片たちはそこから流れて来たのかも」
頬に感じた視線に引かれて横を向くと、当のかひごはもう川の流れに目を戻していた。
橋に置かれた明り取りの灯籠が、淡く微笑むかひごの輪郭を黄金で縁取っている。
(「かひごの姿、どこかで……いや、誰かに似ているように思えるのだが……気のせいかの」)
夜の静けさが深さを増し、ふいにその静寂の底から、永く、本当に永く忘れていた面影が浮んできた。
動棒が胸を絞り上げてきて、久永は思わず手で胸を押さえた。自分は母を知らない。記憶にない。ないと、いままで思っていた。だが――。
「わたくしの顔に何かついておりますか、久永様?」
「いや、何もついておらぬ。かひごがあまりにも美しいから、つい……みとれてしまったのじゃ。許せ」
まあ、といってかひごは頬を赤らめた。
「わたくしは貴方様の守護使役ですよ。お世辞なんて……でも、嬉しゅうございます」
久永はこほん、とひとつ、咳払いした。
「あちらに見えるのが、鳥ノ木だな。同じく翼のある者として、少し邪魔させてもらおうか」
「はい」
ふたりは鳥たちを驚かせないように、空いている場所にそっと腰かけた。
頭の上に張りだした枝には、色とりどり、姿も大きさも異なる鳥たちが仲良く並んでいた。
「あなや、これは驚いたな。図鑑でしか見たことのないものばかりだ」
一羽ずつ指さしながら、かひごに鳥の名を教えていく。
「久永様は物知りでございますね。守護使役として、とても誇らしく思います」
「知識ばかりが先行して経験が伴わぬが……。今年は……いや、今年ももっと沢山の経験をしてみたいと思っている」
美味しい物も食べたい、美しい景色もこの目で見たい。
「本の中だけでは分からぬこと、感じられぬことを余はもっと知りたいのだ。無論、その時はかひごも一緒だぞ」
「はい。どこまでもお供致します。あ、久永様。あれを――」
かひごが、つい、と白い手をあげて、夜空に浮かんだ黄金の鐘を指示した。
「おお、実体化したのなら、気が晴れたということだろう」
久永は送受心で一悟と研吾の二人に鐘発見の報を入れた。
それからそっと腰をあげて、鐘に近づく。
「鐘楼に戻ってくれぬか? その荘厳華麗な音、余も聞いてみたい。いや、是非、聞かせてくれ。のう、かひご。かひごも聞きたいであろう?」
「久永様とともに……荘厳華麗な鐘の音を聞きながら、天空城から夜明けを迎えとうございます」
きっと、永遠に忘れられない思い出になる。
久永は翼を広げると、左手にかひごの手を、右手に黄金の鐘を持って空へ上がった。
●
天空城のてっぺん。
鐘楼では研吾と玉竜、一悟と大和の二組が鐘が戻ってくるのを待っていた。連絡を受けてすぐ、上がってきていたのだ。
「あ、来たぜ、じいちゃん! 鐘の到着だ」
「おお、由比さん。お手柄やったな」
玉竜と大和は少し下がって、久永たちが降り立つ場所を空けた。
「全員の思いが鐘に希望を拭き込んだのだ、余たちだけの手柄ではない。のう、かひご」
笑って頷くかひごに見とれ、口をぽかんと開けた玉竜の脇腹に、研吾が肘を入れる。
それを見た大和が笑い声をあげると、ピカピカに輝く鐘に反響して微かに音がなった。
「こら、大和。静かにしてろよ。お日様がフライングスタートしちまうじゃねえか」
ふん、と横を向いた大和の後ろを、月がそろりと自分の神殿に向かって降りて行った。
「……これでよし」
久永が鐘を定位置に取りつけた。
全員、鐘から少し下がって、太陽の神殿に体を顔を向ける。
「今年も良きことがたくさんありますように。みなに等しく幸福が訪れますように……この鐘の音とともに」
願いを込めて合わせられた手が黄金色に染められていく後ろで、荘厳華麗な鐘の音が高らかに天空を響き渡る。
新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
新年早々。めでたい初夢の中でどつきあう二人の男がいた。どちらも白髪頭のいいお爺ちゃんである。
「誰が呆けジジィや!」
「てめぇのこった、この呆けジジイが!」
「なんやと、いきなり人を捕まえて呆けジジイいうほうがボケとるんや、この呆けジジイ!」
太陽の神殿前でぽかすか殴りあうのは光邑 研吾(CL2000032)御年72歳と、その守護使役の玉竜――。
ちょっとこの守護使役の名前を気に留めておいていただきたい。
理由はすぐに分かる。
「だいたいやな、お前、何を根拠に俺が呆けとるいうてんのや!」
「おう、教えてやるよ。研吾、俺の名前をもういっぺん呼んでみぃ」
「お安い御用や。竜玉――」
その瞬間、玉竜の膝が研吾の顔面に入った。見た目はジジィだが、そこはさすがの守護使役。K1ファイターも驚きの飛び膝蹴りを見舞った。
研吾は鼻血を吹き出してよろめいた。
「な、なにすんのや、竜玉! もう、腹立ったで。止めるリサもおらんし、とことんやったる!」
「おう! やれるもんならやってみな。呆けジジイに倒されるほど、この玉竜、ヤワじゃねえよ!」
その辺の妖と一緒にするなよ、と玉竜が袖をまくったところで太陽の神殿の警備をしていたムキムキ天使が間に割って入った。
放置していると、術まで使いだしそうだったからである。
ぶっとい腕に阻まれつつも、研吾を挑発する玉竜。
一方、研吾はといえば首を捻っていた。袖の中に手を引っ込め、ハンカチを取りだして鼻血をぬぐう。
「…………んむ?」
「んむ、じゃねえや。やっと気づいたか。お前、さっきから俺の名前をひっくり返して呼んでたんだぜ。だいたい、玉竜ってのは二十六年前に、研吾、お前がつけたんだろうが!」
「そやった。竜玉やない、玉竜や。すまんすまん」
大事なことを、さらっとしれっと流す研吾。
これには玉竜もあきれ果てて、だらりと腕をさげた。
「ああ、天使さん。すんませんな。お騒がせしました」
二体の天使たちと新年のあいさつもかわし、太陽の神殿に顔をむけた。
「太陽はんは……ああ、こんな程度の騒ぎでは目が覚めまへんか。やっぱり本物の鐘の音やないと、しゃきっと目が覚めへんのやな。他に変わりはない唯一無二の存在か。いや、そないに思われてるとは羨ましい話やで。ほな、逃げた鐘を捕まえにいきますわ。さ、玉竜。いこか」
とくに見るべきところなし、と判じて太陽の神殿前を早々に退散する。
「しっかしなぁ。新年早々、お役目放り出して行方不明とは……なんぎなやっちゃな。何をスネとるか知らんけど、はやいこと見つけて連れ戻さんと」
「俺に言わせりゃ、難儀なのは研吾のほうだ。まったく……宮大工としての腕はぴか一なのによぅ」
守護使役の愚痴には聞こえないふりをして、天を仰ぎ見た。
「お月さんは時間外労働中か。大変やな。そやけどお月さんが頑張ってはるから、世の中が真っ暗にならんですんでる。ありがたいこっちゃで。俺らも人々の希望と生活の支えになれるよう、細々とでも妖退治を頑張らなあかんな」
「そうはいっても出ずっぱりは辛いだろうよ。はやいとこ太陽と交代させてやらねえと……。太陽も月も同じぐらい、人にとって大切な存在。どっちが欠けてもダメだ」
「そやな。玉竜は俺にとってリサと同じぐらい大事な存在なんとおんなじことやな。もちろん、子供や孫たちも大切に思うてるで」
「へっ、名前を言い間違えたやつが何言ってやがるんだか……」
照れてそっぽを向いた玉竜の後ろの方で、小さく鐘の音が鳴った。
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「おー、すげえ。大和、見てみろよ!」
『五麟マラソン優勝者』奥州 一悟(CL2000076)は雲の端にうつぶせになると、遥か下を指さした。
眼下に広がるは夜の五麟市――。
「あの辺りが五麒駅だな。それで、あっちが五麒学園で、あの山の上にじいちゃんたちとオレの家……」
「おい、早く鐘を探さねえとダメなんじゃねえのかよ」
一悟の隣に、白地に赤い炎の波飾りというデザインのパーカーを着た若い青年が、胡坐を組んで座った。破れジーンズに底の厚いエアシューズを履く青年は、一悟と同年代。背の高さや体型もよく似ている。青年は、一悟の守護使役、大和が擬人化した姿だった。
大和は犬耳がついたフードを手で後ろへ払い落すと、ウルフカットされた赤い髪に一房だけ混じる白い毛へ指をやった。
「固い子というなよ。ちょっとぐらいならいいじゃんか。それより……なあ、春から走る新しいルートの検討をしようぜ」
しょうがねえな、といいつつ、大和も一悟の隣に横になり、夜の五麟市を見下した。
二人で普段走っているルートを指でなぞって確認する。
「上り坂よりも下り坂でタイムが落ちるんだよな~。やっぱもっと体力つけないとダメか。大和はどう思う?」
「それなら、ルートを変えるよりも公園での筋トレの時間を増やした方がいいんじゃね?」
一悟は、うーん、と唸って体を反転させた。大和も寝返りをうつ。
しばらく、ふたり無言で空に浮かぶ月と星を数えた。
「あの光の中に鐘がいるかもしれねえな。一悟の夢、聞かせてみろよ」
「鐘に聞かせる夢な……」
一悟はがばっと体を起こした。胡坐をかいて座ると、真面目な顔して腕を組む。
「そりゃ、やっぱり日本代表に選ばれて海外の大きな大会で優勝することかな。日本の外に出りゃ、覚者としての力はまったく使えないからな。本当の実力が試される……。一度、国外に出て正式なタイムを計ってみたいぜ」
電波障害が解消されたといっても、まだまだ海外旅行は難しい。
日本から海外に行く航空便はこれから数が増えるだろう。しかし、飛行機を落とす妖が依然として空を飛んでいた。海もだ。それら悪事を働く妖――中には古妖も混じっているをどうにか退治しないと、安心して旅行になんていけやしない。
「そのためにも、日本ははやく神秘解明して26年前の状態に戻さなきゃな。毎日、オレにできることからこつこつとやっていくか!」
「コツコツと、毎日続けられるって、マジ偉いと思うぜ。誇りを持って戦い続けろよ。……でもさ、26年前の状態に戻ったら、俺はもう……」
「しんみりすんなよ。たとえ見えなくなったとしても、大和のことはちゃんと感じられるさ。オレたちは一生、一緒だぜ! 」
「おう、約束だぜ!」
感極まって鼻をすすっていた大和だったが、急に体を強張らせたかと思うと空中庭園へ顔をむけた。
一悟も微かにベロが触れて立てた小さな鐘の音を聞きとった。口元に手をあてて、遠ざかっていくシルエットに大きな声で叫ぶ。
「ああ、そうだ。鐘も、毎日頑張っていい音をだせよ、な!」
カランコロン……。
一、 二の三で、跳ね起きると、一悟は大和と一緒に逃げていく鐘を追いかけた。
走るうちに、鐘を捕まえることを忘れ、どこまでもどこまでも、太ももを高く上げて雲の上を駆ける。星屑を蹴り上げながら。
「楽しいな、大和!」
「ああ、楽しいな一悟!」
ふたりは一つ。なにがあっても離れることはない。いつまでも、いつまでも。
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「この姿ではお初にお目にかかりますね、久永様。お会いできて嬉しゅうございます」
女は紺地にいぶし金で源氏香図をあしらった帯を締め、目を糸のようにほそめて微笑んでいた。濃紺地の着物から抜け出た白い顔は、きめ細やかな肌をしており、濃く紅を引いた口の形がよい。締麗に結い上げた黒髪と、澄んだ漆黒の瞳が凛とした和風美人に見せている。
『白い人』由比 久永(CL2000540)は、いまを盛りの花を月下に見ているような気がした。
「……はて? いや、そなたとは長い付き合いだが、女人だとは思わなかった」
守護使役のかひごは、袖で口元を隠してふふふ、と笑った。
なんともいえず、久永はつい、とかひごから目をそらすと、草履の先を雲にかかる橋へむけた。
太鼓のように大きく反った橋を、うしろをついてくるかひごを気遣いながら、そろりと上がる。
鐘が隠れていないか、と欄干から身を乗り出して下を見た。
「おぉ、かひご。星の欠片が流れておるぞ。これが天の川というやつか? 一体どこまで流れていくのか……」
朱色の欄干に手をかけて、流れゆく光を目で追いながらぽつりと呟く。
かひごが肩が触れ合う近さで隣に並んだ。
「かつて星の光が、さまよう魂を大地の果てにある楽園へ導くと信じられたことがありました。遠い、遠い日のことでございます。これはわたくしの勝手な想像ですが、この川は地上に暮らすすべての人々の喜びや悲しみのすべてを写し取って、極楽浄土まで流れていくのではないでしょうか」
「極楽浄土……か。あるいはこの星の欠片たちはそこから流れて来たのかも」
頬に感じた視線に引かれて横を向くと、当のかひごはもう川の流れに目を戻していた。
橋に置かれた明り取りの灯籠が、淡く微笑むかひごの輪郭を黄金で縁取っている。
(「かひごの姿、どこかで……いや、誰かに似ているように思えるのだが……気のせいかの」)
夜の静けさが深さを増し、ふいにその静寂の底から、永く、本当に永く忘れていた面影が浮んできた。
動棒が胸を絞り上げてきて、久永は思わず手で胸を押さえた。自分は母を知らない。記憶にない。ないと、いままで思っていた。だが――。
「わたくしの顔に何かついておりますか、久永様?」
「いや、何もついておらぬ。かひごがあまりにも美しいから、つい……みとれてしまったのじゃ。許せ」
まあ、といってかひごは頬を赤らめた。
「わたくしは貴方様の守護使役ですよ。お世辞なんて……でも、嬉しゅうございます」
久永はこほん、とひとつ、咳払いした。
「あちらに見えるのが、鳥ノ木だな。同じく翼のある者として、少し邪魔させてもらおうか」
「はい」
ふたりは鳥たちを驚かせないように、空いている場所にそっと腰かけた。
頭の上に張りだした枝には、色とりどり、姿も大きさも異なる鳥たちが仲良く並んでいた。
「あなや、これは驚いたな。図鑑でしか見たことのないものばかりだ」
一羽ずつ指さしながら、かひごに鳥の名を教えていく。
「久永様は物知りでございますね。守護使役として、とても誇らしく思います」
「知識ばかりが先行して経験が伴わぬが……。今年は……いや、今年ももっと沢山の経験をしてみたいと思っている」
美味しい物も食べたい、美しい景色もこの目で見たい。
「本の中だけでは分からぬこと、感じられぬことを余はもっと知りたいのだ。無論、その時はかひごも一緒だぞ」
「はい。どこまでもお供致します。あ、久永様。あれを――」
かひごが、つい、と白い手をあげて、夜空に浮かんだ黄金の鐘を指示した。
「おお、実体化したのなら、気が晴れたということだろう」
久永は送受心で一悟と研吾の二人に鐘発見の報を入れた。
それからそっと腰をあげて、鐘に近づく。
「鐘楼に戻ってくれぬか? その荘厳華麗な音、余も聞いてみたい。いや、是非、聞かせてくれ。のう、かひご。かひごも聞きたいであろう?」
「久永様とともに……荘厳華麗な鐘の音を聞きながら、天空城から夜明けを迎えとうございます」
きっと、永遠に忘れられない思い出になる。
久永は翼を広げると、左手にかひごの手を、右手に黄金の鐘を持って空へ上がった。
●
天空城のてっぺん。
鐘楼では研吾と玉竜、一悟と大和の二組が鐘が戻ってくるのを待っていた。連絡を受けてすぐ、上がってきていたのだ。
「あ、来たぜ、じいちゃん! 鐘の到着だ」
「おお、由比さん。お手柄やったな」
玉竜と大和は少し下がって、久永たちが降り立つ場所を空けた。
「全員の思いが鐘に希望を拭き込んだのだ、余たちだけの手柄ではない。のう、かひご」
笑って頷くかひごに見とれ、口をぽかんと開けた玉竜の脇腹に、研吾が肘を入れる。
それを見た大和が笑い声をあげると、ピカピカに輝く鐘に反響して微かに音がなった。
「こら、大和。静かにしてろよ。お日様がフライングスタートしちまうじゃねえか」
ふん、と横を向いた大和の後ろを、月がそろりと自分の神殿に向かって降りて行った。
「……これでよし」
久永が鐘を定位置に取りつけた。
全員、鐘から少し下がって、太陽の神殿に体を顔を向ける。
「今年も良きことがたくさんありますように。みなに等しく幸福が訪れますように……この鐘の音とともに」
願いを込めて合わせられた手が黄金色に染められていく後ろで、荘厳華麗な鐘の音が高らかに天空を響き渡る。
新年、明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
