≪初夢語≫ナックルウォーキング・デッド
≪初夢語≫ナックルウォーキング・デッド


●すべてがG(ゴリラ)になる
 ――終わりの日は、突然やって来た。巡る月日に置き去りにされる運命を呪い、彼らは新たな年の到来に抗おうとしたのか。或いは、地獄に満たされた死者が溢れ出し、地上に這い出してきたとでも言うのだろうか。
 分かっているのは、或る日を境に世界が変わってしまったこと。地上が密林に呑み込まれ、人類の文明は滅び――『彼ら』、即ちゴリラが闊歩する終末が訪れたのだ。
「ウイルスか呪いか……『感染』した生物はゴリラの仲間になってしまう。そうなれば本能のままに振る舞い、バナナを求めてドラミングを繰り返す」
 幸いにも、密林(バナナの木)の侵食を逃れたショッピングモールでは、生き残った者たちが懸命にゴリラの襲撃を凌いでいた。その間にいろいろ分かったことを報告し合い、皆は何とかして現状の打破を試みていたのだ。
「噛みつかれるなどして、傷口からゴリラに感染するみたいだが……くそっ、此処へ来るまでに友人が犠牲になって……!」
「幸い武器や食料は調達出来たけど、ずっと留まる訳にもいかないよね。ここから離れた場所になら、まだ無事な人たちが居るかもしれない」
 廃墟となったテナントの一角で、バリケードを作って夜を過ごす一行は悟っていた――恐らく明日の夜明けが勝負になるだろうと。押し寄せるゴリラをどうにかして躱し、裏口から駐車場に出て車を調達出来れば、安全な場所へと向かえるかもしれない。
「なあ……今まで仲違いとか、色々あったけどさ。お前らとの付き合いも悪くなかったぜ」
 ――と、焚き火の炎を見つめながらぽつりと呟いたのは、事あるごとに仲間に突っかかって来た男だった。遠い目で過ぎ去りし日々を思い起こす彼は、ふと仲間たちに問いかける。
「そうだ、此処を無事に脱出出来たら何がしたい? 俺は……そう、荒れ果てた地に花を植えたいんだ。故郷で待ってるあいつに、プロポーズもしたいし」
 そうして彼が懐から取り出した写真には、仲睦まじく寄り添う男女の姿があって――。

●始まりのご挨拶
 新年早々、ホラー映画あるあるが展開されているが、これは古妖『獏(バク)』が見せる初夢である。申年を惜しんだゴリラが暴れまわっているものの、何をやろうと現実世界には一切影響を及ぼさないので安心して欲しい。
 ――そんなわけで。あるあるのお約束を交え、どきりとする死亡フラグを立てたりへし折ったりして物語を盛り上げつつ、思う存分このシチュエーションを堪能してほしい。
 そう、このムービーの主演俳優は貴方――ならば日本中が震撼し、涙する結末を迎えるのだ!


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:簡単
担当ST:柚烏
■成功条件
1.初夢の物語を盛り上げ、素敵な結末を迎える
2.死亡フラグやあるあるネタなど、ベタ展開ならなお素敵
3.なし
 柚烏と申します。新年あけましておめでとうございます! 年明け早々、今年もあの古妖さんが夢を見せにやってきたみたいです。

■初夢依頼について
この依頼は参加者全員が見ている同じ夢の中での出来事となります。
その為世界観に沿わない設定、起こりえない情況での依頼となっている可能性がありますが全て夢ですので情況を楽しんでしまいしょう。
またこの依頼での出来事は全て夢のため、現実世界には一切染み出す事はありません。
※要約すると一夜限りの夢の出来事なので思いっきり楽しんじゃえ! です。

●初夢の舞台
終末感漂う世界が舞台です。突如として生物がゴリラ化する災厄に見舞われ、暴れまわる彼らとバナナの密林によって文明は崩壊してしまいました。そんな中でも生き残ったのが皆さんです。
ぶっちゃけますと、ゾンビ映画のゾンビがゴリラになったようなシチュエーションとなります。

●ゴリラについて
噛みつかれるとウイルスに感染し、ゴリラになってしまいます。ゴリラは本能のままにウホウホ言ってドラミングをしたりバナナを食べたりしつつ、仲間を増やしていきます。また不死身に近く、頭部を破壊しない限り動き続けます。

●物語の流れ
郊外のショッピングモールに避難した皆さんは、最後の希望を求めて新天地へと向かうことになります。リプレイは決戦前夜からスタートしますので、先ず自分の生い立ちや将来の夢などを語りつつ盛り上げてください。
そうして夜明けと同時に裏口の駐車場目指して行動、車に乗り込み脱出出来ればハッピーエンドです。
※しかし結末が面白ければ良いので、ドラマチックなら全滅してアンハッピーエンドになっても成功になります。

●あるあるネタ
「あ、こいつ死にそう」的な死亡フラグを立てるなど、ホラー映画のお約束を盛り込めば判定が有利になります。しかしやりすぎると本当に死んで終わってしまうので、最後まで生き残りたいのであれば注意が必要です。
(例)
・俺、ここから脱出したら結婚するんだ……。
・押し寄せるゴリラの群れの中に、生き別れの兄弟が!
・自分はゴリラに感染してしまった……貴方を襲う前に殺してくれ!
・お前らと一緒に行動できるか、俺は一人でも生き残ってやるぜ→そう言いつつ、仲間のピンチに颯爽と駆けつける。
・この先の様子を見てくる。何、すぐに戻るさ……。
・唐突なシャワーシーン。
・「やったか!?」

●補足
ショッピングモールで調達出来る範囲で、自由に装備を揃えられます。ゴリラの着ぐるみなんかもあります。また、ゴリラはバナナにおびき寄せられる性質もあるみたいです。

●NPCについて
古妖『獏』はリプレイに登場しません。なお、当STの担当するNPCであれば、エキストラとして夢に出すことも出来ます(指定がなければ出てきません)。「ウホホイ!」とゴリラ化したジョシュアを、火炎放射器で撃退するのも乙なものです。

 昨年に引き続き、年始からテンションの高さを求めてしまいますが「まあ夢だし」の気持ちで弾けてみては如何でしょうか。シリアスとギャグ、紙一重になりそうな予感が致しますが、よろしくお願いします。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
(2モルげっと♪)
相談日数
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
8/8
公開日
2017年01月13日

■メイン参加者 8人■

『月々紅花』
環 大和(CL2000477)
『天を翔ぶ雷霆の龍』
成瀬 翔(CL2000063)
『探偵見習い』
賀茂・奏空(CL2000955)
『エリニュスの翼』
如月・彩吹(CL2001525)
『天を舞う雷電の鳳』
麻弓 紡(CL2000623)
『隔者狩りの復讐鬼』
飛騨・沙織(CL2001262)
『悪食娘「グラトニー」』
獅子神・玲(CL2001261)

●ろくでもない世界の、ささやかな夜
 世界は変わってしまった。映画や小説で幾度となく描かれた終末が突然訪れ、ひとびとは運命に翻弄されつつ、ただ生き伸びることを目指すしかなかった。
 終末の運び手の名はG――名を呼ぶことすら恐れられるその真名は、ゴリラと言った。
「この世界は混沌としてしまったわ……」
 ぱちぱちと焚き火の爆ぜる音に耳を澄ませながら、『月々紅花』環 大和(CL2000477)は嘗ての懐かしい日々を思う。平和だったあの頃、「かっぱ」と鳴く温泉が大好きな古妖――温泉かっぱ達と触れ合った日々が、酷く遠い出来事のようだった。
「かぱちゃん……無事でいるといいのだけれど」
 その中でもちまっこく、大和に良く懐いていたかっぱが居た。既に彼もゴリラになってしまった――そう言う人もいたけれど、彼女には確信があったのだ。
(かぱちゃんはひとりで震えて待っている、そんな気がするわ)
「そう、大丈夫だ。今までだって何とかなったじゃないか」
 其処で、ちょっぴり不安な周囲を励まそうと、凛とした声を響かせたのは『エリニュスの翼』如月・彩吹(CL2001525)だ。夏の夜空を思わせる瞳を煌めかせて、彩吹は備蓄されていた缶詰をえいやと開ける――素手で。
「明日のことだってきっと『あの時は大変だった』と笑って話せるようになるよ」
 中身のパイナップルをもしゃもしゃと食しつつ、爽やかに笑う彼女に『探偵見習い』工藤・奏空(CL2000955)も頷いて、手打ちうどんをずずいと啜った。
「うんうん、大丈夫! きっと地域は無事で、今頃ゴリラウイルスに対抗する特効薬を開発してるって!」
 俺達はそこへ行けばいいんだよ、と皆を明るく励ます奏空。その能天気な明るさは、時折慎重派の仲間と衝突することもあったが、彼は意識して元気なキャラを演じてきていた。そう、奏空は最後まで明るさを捨てなかった――捨てるわけには、いかなかったのだ。
 そんなこんなで終末の世を生き残ろうと、彼らは設備の整ったショッピングモールで籠城を続けていたのだが、其処にも遂にゴリラ達が押し寄せて脱出を余儀なくされた。恐らく明日が勝負だろうと判断した一行は、決戦に向けて英気を養っているのだ。
「しっかし、なんでこんな事になった? ゴリラが嫌いな訳じゃねーんだけど、人間やめたくはねーんだよな、オレ」
 そうぼやきつつ、オムライスをぺろりと平らげていく『小さなヒーロー』成瀬 翔(CL2000063)は、Jリーガーやヒーローにも未だなってねーしと唇を尖らせる。そんな年相応の無邪気さを覗かせる翔を見守る『彼誰行灯』麻弓 紡(CL2000623)は、相棒である彼が無事だったことにほっと胸を撫でおろしていた。
(……あれ、でも誰か忘れてるよう、な?)
 それは、何やかんやではぐれてしまったプリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)のことであったが、まあ思い出せないなら大した存在ではないだろうと割り切ることにする。
「それでも、ゴリラとは言え元はヒト……撃っていいのかな」
 皆の会話を聞きながら、無意識の内に腰へ下げた銃をなぞった紡であったが――もう悩む時間も余裕もないのだと、彼女は己に言い聞かせた。此処に来るまでに、自分を守って目の前でゴリラになってしまった双子の弟――彼の犠牲を無駄にしない為にも、意思を固めなければならない。
(自分にはもう出来ない望みだから、せめて翔と妹ちゃんを合流させなきゃ……)
 どうやら翔は妹の無事を確かめたいらしく、何としてでも生き延びると決めているようだ。彼のように家族と離れ離れになった者は他にも居り、『隔者狩りの復讐鬼』飛騨・沙織(CL2001262)は先に避難した家族と合流する為、親友の『悪食娘「グラトニー」』獅子神・玲(CL2001261)と此処までやって来ていた。
「遂に明日が、この逃走劇の終わりになるかな?」
 小太刀を携えぽつりと呟く沙織に、もぐもぐと大量の保存食を口にしている玲は「んむ」と頷く。これが最後の晩餐だとは思いたくないが、明日は大事な一戦――だから一杯食べなければと思うと同時、こうやっておどけて沙織の心を軽く出来たらと願いながら。
「……そうだね。僕はここから逃げれたら……ここの皆と一緒にご飯を食べたい」
 相変わらずな親友の答えを聞いて、沙織の表情が和らいだのが分かった。これでいい、と玲は思う。沙織は精神的に弱い所があるから、少しは明るい未来を夢見てくれればいい――。
「ゴリラなんか気にせずに皆で楽しく食事を楽しむ……それって素敵な事です」
「ん、私は……無事に逃げられたら、先に逃げてる筈の家族を探したいな」
 ――特に弟の直斗は危なっかしいから、お姉ちゃんの私がしっかりしないと。そう呟いて家族を案じる沙織だったが、愛を知らずに生きてきた玲には、その気持ちが良く分からずにいた。
「それで……玲の事もちゃんと紹介したいし……私の大切な存在だって」
 其処で――もじもじと顔を赤らめて、此方の瞳を覗き込んでくる沙織の様子に、玲は「ああ」と彼女との絆を再確認する。家族以上にあなたのことも大事なのだと、不器用に告げる沙織――そんな彼女の豊かな胸にむにっと抱き着いて、玲は子犬のように頬を寄せた。
「こうして皆が集まったのも何かの縁だ……皆で生き残って、新天地でまた会おう」
 ――やがて夜も更け、明日に備えて休む前に沙織が檄を飛ばして。そうして眠りに就いた彼女の頬の傷痕を愛おしげに撫でながら、玲はひとり密かな決意を抱いていた。
(沙織……無理はしないでね。大丈夫、いざとなったら僕が沙織を守るから)

●湯煙ゴリラ道中
 運命の朝を迎え、気持ちが昂っていたのだろうか――早くに目を覚ました彩吹は辺りを見回し、未だ時間はありそうだと廃墟の奥へ足を運んでいた。
(朝は体も冷えるし、だいぶくたびれてきたからね……)
 ――もうもうと湯気が立ち込める中、辺りに響くのは雨音のようなシャワーの調べ。ひたひたと床を流れる水の音に混じり、時折彩吹の素足がぱしゃんと水溜まりを蹴る音が聞こえてきた。
「……子供たちだけでも、逃がさないと、ね」
 濡れた長い髪が背中をつたい、湯気の中からはちらちらと、白磁の肌が姿を覗かせる。すらりとした脚に、くびれた腰――見事なプロポーションを惜しげもなく晒しながらも、彩吹の呟く声は真剣だった。
 と――彼女がふと伏せた顔を上げた時、何と其処には無言で立ちはだかるゴリラが居たのだ!
「…………」
 じっと見つめ合う乱入者と娘。しかし彩吹は、ほんの少し恥ずかしそうに頬を染めて、にこりと蠱惑的な笑みを浮かべながら獣に手を伸ばした。
「……こんな所まで入ってくるなんて、困ったひとだな。そんなに私と遊びたかったの?」
 水に濡れた指先が、誘うようにゴリラの頬を撫でてから確りと添えられ、ふたりの影が湯気の中で重なっていく――と思ったその時。彩吹の微笑みが一気に獰猛な捕食者のものへと変わり、彼女は綺麗な回し蹴りをゴリラ目掛けて叩き込んだ。
「あいにく、何の警戒もなしに寛ぐほど間抜けじゃない」
 盛大な音を立てて倒れるゴリラは、首が変な方向に曲がっており、きわどい彩吹の姿も湯気とか泡とか諸々で確りと隠されている。
「イブちゃん、何今の音――って、え?!」
 其処で、騒ぎを聞きつけて駆けつけた紡ら女性陣に、ふうと溜息を吐いた彩吹は怒られて――ごめんなさいと首をすくめた彼女は、直ぐにバスタオルで身体をガードした。
「……女の子だから、ね? ……ね?」
「うーん、やっぱりこのシャンプーがまずかったかなぁ」
 何度も念を押す紡に向かい、彩吹が差し出したシャンプーの香りは、お約束と言うべきか『バナナ』のものであったと言う。

●ゴリパニック・ムービー
 ――と、お色気シャワーシーンを満喫した所で、一行は準備を終えて遂にショッピングモールからの脱出を開始した。
「ウホウ、ウホウホウホッ!!」
 バリケードを破壊して押し寄せるゴリラの群れは、さながら黒い津波のようだ。バナナの密林をかき分け、仲間たちは一丸となって突破を図り――中でも奏空は皆の目となり耳となり、次々にゴリラを回避していく。
「大丈夫、きっと脱出できる!」
 背中に背負ったリュックを一瞥して、意味ありげに翔が頷く間にも、沙織は双刀を振りかざしてばっさばっさとゴリラを斬り捨てていった。その背後からは玲が消火器を使って視界を奪っていき、ついでにゴリラの頭部を潰す鈍器としても有効活用している(残虐なシーンなのでモザイクがかかっていた)。
「でも、これはちょっと……数が多い、かな」
 携行していた狙撃銃でヘッドショットを決めた紡だったが、その言葉通りゴリラ達は倒した先から次々に数を増やしていった。その多さはGと言う名の、黒光りして台所でカサカサ言ってるアレにも通じるものがある。
 ――しかし、救世主とは遅れてやって来るものなのだ。
「民が無事でよかった。余にも手伝わせてくれ」
 一体何処から現れたと言うのか、寡黙で無駄の無い動きで登場したのはプリンス。歴戦の勇士を思わせる風貌で、彼がガッツポーズを取った――と思ったら、紡の放り投げたバナナに当たって転びそうになっていた。
「バカ殿、おっそい」
 そう言って彼の頭をひっぱたく紡だったが、その顔は綻んでおり、二人は息の合った様子でハイタッチを交わす。
「安心したまえ。今の余はプリンスっていうか、アーノルドオブシュワルツネブルだから!」
 どうやらその言葉に嘘は無いようで、プリンスは洗練されたナックルウォークで素早く退路を確保――まるで見てきたかのようにゴリラ達の裏を掻いていった。
 しかし、棒と階段とバナナの実験はゴリラじゃなくてチンパンジーじゃないのかとか、実際に『ゴリラ』なるアクション映画であの俳優が主演してたよねとか、仲間たちは色々プリンスの言動に突っ込みたいことがあるようだった。
『ゴリラブームの去ったこのご時世に、ゴリラに詳しすぎる』
『あいつ本当はゴリラなんじゃないか?』
 ――嗚呼、そんな民の声が彼には聞こえてくるようだ。バナナを見る目つきが尋常じゃなさすぎるし、あと頻繁に竜田揚げと紡を間違えているのは何でだとか、ツッコミ出したらきりがない。
 だからプリンスは、ただ一言こう呟いたのだ――『トラスト・ミー』と(訳・余を信じて欲しい。そして敬愛して。あわよくば妃にもなって、あと昨日借りた千円だけど……)。
「って、民が減ってる!?」
「さっきから他の皆が足止めに残ってくれてたんだけどね……?」
 竜田揚げに向かって語り掛けるプリンスを見て、紡は「こいつもう駄目だな」と思った。果敢に戦う沙織と玲や、奏空もバナナを取り出して囮になった――そして今、目の前のゴリラに対し翔が立ち向かおうとしているのだ。
「ここはオレに任せて先に行けっ!! 大丈夫、すぐ追いつく!!」
「あ、じゃ遠慮な……ぐぶっ」
「翔……ボクは相棒、でしょ?」
 翔の言葉にそそくさと引っ込むプリンスへ肘鉄をかまし、紡は笑顔で首を横に振る。行くべきかと迷っていた大和と彩吹も覚悟を決めたらしく、彼らの作ってくれたチャンスを無駄にしない為に駆けだした。
「貴方も生きて! 後で必ず会いましょう!」
「そうだ、全員で生きてここを出るんだ!」
 ――そんな中でも一緒に戦うことを決めた紡に、翔は苦笑して。オレから絶対離れるなよと叫びながら、ふたりは背中合わせになってゴリラ達を迎え撃った。
「さあ、こっちに来い! バナナ、好きだろう!」

●ゴリラ・フォーエバー
 今まで何体のゴリラを斬り捨ててきただろう――血とバナナの汁に塗れた双刀を握りしめ、肩で大きく息をする沙織の元へ、その時思いがけない光景が飛び込んできた。
「……そんな……父さん、母さん……直斗……どうして皆G化してるんだ……ッ!」
 ウッホウホ言っているゴリラ達の中に、懐かしい家族の面影を見出した彼女。けれどその事実を受け止める前に、沙織は襲って来た彼らを反射的に撃退してしまう。
「……嘘だ……私が……家族を殺した……そんな……」
 翻った刃は三つの首を刎ね――己のしたことに呆然とする沙織の元へ、新手のゴリラが襲い掛かった!
「ゴリラが! 危ない! 沙織!!」
 ――しかし彼女を慰めようと近づいた玲が、咄嗟に庇いに入ってゴリラに噛まれ、そのままゆっくりと地面に崩れ落ちていく。
「……ッ! なんで! なんで私を庇ったんだ、玲! 私は玲まで失ったら……!」
 親友の身体をひしと抱きしめて、震える声で語り掛ける沙織。それでも玲は、沙織に怪我が無かったことに安堵したようで――一つお願いをしたい、と唇を開いた。
「ねぇ、沙織……もう僕は助からない……既にバナナは食べたいし、ドラミングしたい気分だ。だから、このままゴリラになって沙織を襲うぐらいなら……沙織の手で殺して欲しい」
 そんな玲の悲痛な願いを聞いて、沙織はゆるゆると首を振る。大好きな玲を殺すなんて無理で、それならいっその事、一緒にGになって殺してくれ、と――。
「なら、沙織……僕の分も生きて……幸せになっておくれ」
 覚悟を決めた玲は、最後の力を振り絞って立ち上がった。その手にバナナを持ってゴリラの群れへと特攻――やがて彼女が向かった先から大爆発が起きる。
「……ッ! 玲……! 玲ー!!」

「ほらゴリラども! こっちだ! バナナがあるぞ!」
 一方でバナナを持って囮になった奏空は、廃墟を走りながら過去を思い出していた。まだ平和だった頃、動物園に居た一頭のゴリラ。とてもひょうきんだった彼を、奏空は好きになったのだ。
 よく会いに行ったし、友達になれたと思った。なのに――どうしてこんな世界になったんだろう?
(ゴリラは本当は狂暴じゃない……。ウイルスがゴリラを狂暴にしたんだ……)
 どうしようもないのならこうするしかないと、奏空はモールで調達した花火の火薬で作った爆弾を取り出し、一気に点火した。
「……一緒に逝こう」
 無数のゴリラに奏空が囲まれた瞬間、辺りを閃光が埋め尽くし、そして――。

(かぱー……)
 脱出を図りながらも、懸命にかぱちゃんを探していた大和は、ロッカールームの中から懐かしいかっぱの鳴き声がしたのに気づく。急いでロッカーを開ければ、其処にはぷるぷる震えながら隠れていたかぱちゃんが居た。
「大丈夫? 怖くなかったかしら? 一緒に逃げましょう」
「かぱ!」
 ひしと抱き着くかぱちゃんをそっと撫でて、大和は急いで出口へと向かう。しかし、その手前でゴリラの群れに囲まれてしまったのだった。
「かぱちゃん……貴方だけでも逃げて!」
 ゴリラの破壊した瓦礫の下敷きになった大和は、何とかかぱちゃんを逃がそうとするが――彼はちまっこい手足で何とか瓦礫から大和を助け出そうと、その場を動くことをしない。
「わたしはもうダメ、お願い。かぱちゃんを一緒に連れて行って!」
 ならばと大和は、其処を通りかかった彩吹へかぱちゃんを託すことにした。ちなみに絶好の狙われチャンスであったのだが、ゴリラ達はしっかり空気を読んで手出しをしないでいた。

「あの、リボン……まさか……」
 紡と一緒にゴリラに立ち向かう翔は、その中に見覚えのあるリボンをつけたゴリラが居ることに気づいていた。
(まさかとっくに……こんな近くで……!)
 たった一人の妹の顔がゴリラに重なって、術を放とうとした翔の手が止まる。その一瞬の躊躇が仇となったのだが――其処で彼を庇ったのは紡だった。
「翔、ごめん。ボク、もう駄目かも……だから、翔を襲っちゃう前に……!」
「馬鹿な事言うな! 逃げるぞ!」

 その頃プリンスは、ゴリラウイルスの根源である白ゴリラの亡骸を見下ろしていた。ジョシュアとか何とか名乗っていた気がするそのゴリラは、修羅となった沙織によって斬られており――元凶を滅したことでプリンスは、遂に己の正体を明かす。
「余は人とゴリラが永遠に戦い続ける未来から、類人猿の融和を願って時間遡行した、人の皮を被ったゴリラなんだ……」
 ――そして過去は変わったが、戦いの根源たるウイルスゴリラの最後の一匹であるプリンスは未だ存在する。だから彼は、己を滅するべく自ら溶鉱炉へと沈んでいった(何故ショッピングモールにあったのかは不明)。
「私は、生きなきゃ……」
 満足げな笑みを浮かべて消えていったプリンスの最期を看取り、沙織は親友の為にも生きることを誓う。
 やがてゴリラウイルスの支配から解き放たれたゴリラは、ある者は奏空を庇って命を落とし、またある者は翔に「行け」と言うように、皆が向かった方向を指さしてその背中を見送ったのだった――。
「……さんきゅ」
 ――ちなみに瓦礫に挟まれていた大和は、彩吹の蹴りによって無事に救出されたと言う。

●新たなる年へ
 生き残った皆は、無事だった車に乗り込み新天地を目指し始めた。見上げる空には太陽が昇り、鳥たちが先導するように彼方へと羽ばたいていく。
 皆の隣をサイドカー付きのバイクで疾走する紡は、新たな年の始まりを感じて心ときめかせ――最後にぽつりと、締めの言葉を呟いた。
「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ……だね」

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
『かぱちゃんといっしょ』
取得者:環 大和(CL2000477)
『不屈のヒーロー』
取得者:成瀬 翔(CL2000063)
『Gのスーヴニール』
取得者:工藤・奏空(CL2000955)
『シャンプーはバナナの香り』
取得者:如月・彩吹(CL2001525)
『導きの鳥』
取得者:麻弓 紡(CL2000623)
『アイル・ビー・バック』
取得者:プリンス・オブ・グレイブル(CL2000942)
『憤怒の修羅』
取得者:飛騨・沙織(CL2001262)
『最後の晩餐』
取得者:獅子神・玲(CL2001261)
特殊成果
なし




 
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