遊泳するお洋服。或いは、ゴシック&ロリータドレス。
●大量のひらひら
オープン間近のショッピングモール。メインを占めるのは女性向けの洋服店。特にこのモールの目玉は、全店舗のうち、およそ4割を占めるゴシック&ロリータテイストの店舗の数々である。
全7フロアのうち、地下1階を含む下4フロアは比較的、大衆向けの有名アパレルの店舗。上階3フロアには、ゴシック&ロリータ、パンク、ゴシックパンクに、クラシカルロリータ、マニアックなものになるとスチームパンクや、現代風にアレンジされた和服の専門店などもある。
異変が起きたのは、開店3日前の早朝。守衛室に詰めた警備員が2人以外には誰もいない、静まりかえったモールの最上階。非常灯以外の灯はない。その一角で、ゴトリと鈍い音が鳴る。
監視カメラの設置は明日。今日この日、監視カメラが設置されていたとしたら、警備員は1人でに動く、トルソーを見ただろう。
ピンクや白を基調とした、少女趣味全開のドレスが着せられたトルソーだ。
どっさりとパニエを仕込まれたスカートのシルエットは、開花する直前の蕾にも似ている。
ゆらり、と。
スカートが、袖が、レースの飾りが風もないのに揺れている。
その数、3つ。
ピンクのロリータドレス。
白を基調としたクラシカルドレス。
赤と黒のゴシックドレス。
どれも、普段使いの洋服として着るには些か値の張る洋服で、オープン直後の目玉商品となる予定のものである。
ひらりと。
ラックに吊るされた洋服や、立ち並ぶトルソーの間を縫うようにドレス達は跳びまわる。
時折、蝶が羽を休めるように、まだ洋服の着せられていないトルソーに取り付いたりもする。
観客のいない早朝のファッションショー。
妖と化したドレスの存在を知る者はいない。
●憧れのお姫さま生活
「うぅん。こういう服着たいけど、高いんだよねー」
かわいいのにね。
なんて、瞳を輝かせながら久方 万里(nCL2000005)はモニターを見つめる。頼りない、非常灯の光のその中を、3枚のドレスが泳いでいく。
野を舞う蝶か、水中の魚か、優雅に優雅に。
「ただの布じゃなくて、物質系の妖だね。なんだっけ、こういうのいたよねー?」
一反木綿? と、首を傾げて問いかける。綺麗で可愛らしい洋服を見て、気分が高揚しているのか、頬が赤く紅潮していた。
「遠距離からの特殊属性の攻撃を行うみたいねー。たぶん、見えない布みたいなものでこちらの動きを邪魔するような感じの攻撃かな? どういうわけか、人間に敵意を抱いているみたいね」
とはいえ、相手は(妖)である。相手からすれば遊びでも、人間の身でそれを受けては最悪命にも関わるだろう。
「全てランク1の妖で、デザインの違いこそあれどれも遠距離特殊単体攻撃を使うみたいっ。それ以外だと、周囲の布を有る程度操つる能力を持っているから、目くらましとか、身を隠すのに使われると面倒かも?」
周囲には、似たようなデザインの服も多い。
こういったジャンルの洋服に、ある程度造形が深くなければ見失うことも十分に有り得る。
「ランダムで(負荷)(痺れ)(睡眠)(混乱)(不運)のうちどれかを付与されることもあるから、気を付けてねっ。建物の中を自在に泳ぎ回るし、相手は布だし、周囲はお洋服ばっかりだし、ゲリラ戦みたいね」
なんて、万里は気楽に言って退ける。
彼女は実戦に出たことがないので、分からないのだろうが、姿を隠し、遠距離からちまちまと攻撃されることのなんと鬱陶しい事か。
唯一の救いは、相手が綺麗な洋服であるという点くらいのものである。
「F.i.V.E.の存在がばれないように。慎重にね?」
オープン間近のショッピングモール。メインを占めるのは女性向けの洋服店。特にこのモールの目玉は、全店舗のうち、およそ4割を占めるゴシック&ロリータテイストの店舗の数々である。
全7フロアのうち、地下1階を含む下4フロアは比較的、大衆向けの有名アパレルの店舗。上階3フロアには、ゴシック&ロリータ、パンク、ゴシックパンクに、クラシカルロリータ、マニアックなものになるとスチームパンクや、現代風にアレンジされた和服の専門店などもある。
異変が起きたのは、開店3日前の早朝。守衛室に詰めた警備員が2人以外には誰もいない、静まりかえったモールの最上階。非常灯以外の灯はない。その一角で、ゴトリと鈍い音が鳴る。
監視カメラの設置は明日。今日この日、監視カメラが設置されていたとしたら、警備員は1人でに動く、トルソーを見ただろう。
ピンクや白を基調とした、少女趣味全開のドレスが着せられたトルソーだ。
どっさりとパニエを仕込まれたスカートのシルエットは、開花する直前の蕾にも似ている。
ゆらり、と。
スカートが、袖が、レースの飾りが風もないのに揺れている。
その数、3つ。
ピンクのロリータドレス。
白を基調としたクラシカルドレス。
赤と黒のゴシックドレス。
どれも、普段使いの洋服として着るには些か値の張る洋服で、オープン直後の目玉商品となる予定のものである。
ひらりと。
ラックに吊るされた洋服や、立ち並ぶトルソーの間を縫うようにドレス達は跳びまわる。
時折、蝶が羽を休めるように、まだ洋服の着せられていないトルソーに取り付いたりもする。
観客のいない早朝のファッションショー。
妖と化したドレスの存在を知る者はいない。
●憧れのお姫さま生活
「うぅん。こういう服着たいけど、高いんだよねー」
かわいいのにね。
なんて、瞳を輝かせながら久方 万里(nCL2000005)はモニターを見つめる。頼りない、非常灯の光のその中を、3枚のドレスが泳いでいく。
野を舞う蝶か、水中の魚か、優雅に優雅に。
「ただの布じゃなくて、物質系の妖だね。なんだっけ、こういうのいたよねー?」
一反木綿? と、首を傾げて問いかける。綺麗で可愛らしい洋服を見て、気分が高揚しているのか、頬が赤く紅潮していた。
「遠距離からの特殊属性の攻撃を行うみたいねー。たぶん、見えない布みたいなものでこちらの動きを邪魔するような感じの攻撃かな? どういうわけか、人間に敵意を抱いているみたいね」
とはいえ、相手は(妖)である。相手からすれば遊びでも、人間の身でそれを受けては最悪命にも関わるだろう。
「全てランク1の妖で、デザインの違いこそあれどれも遠距離特殊単体攻撃を使うみたいっ。それ以外だと、周囲の布を有る程度操つる能力を持っているから、目くらましとか、身を隠すのに使われると面倒かも?」
周囲には、似たようなデザインの服も多い。
こういったジャンルの洋服に、ある程度造形が深くなければ見失うことも十分に有り得る。
「ランダムで(負荷)(痺れ)(睡眠)(混乱)(不運)のうちどれかを付与されることもあるから、気を付けてねっ。建物の中を自在に泳ぎ回るし、相手は布だし、周囲はお洋服ばっかりだし、ゲリラ戦みたいね」
なんて、万里は気楽に言って退ける。
彼女は実戦に出たことがないので、分からないのだろうが、姿を隠し、遠距離からちまちまと攻撃されることのなんと鬱陶しい事か。
唯一の救いは、相手が綺麗な洋服であるという点くらいのものである。
「F.i.V.E.の存在がばれないように。慎重にね?」

■シナリオ詳細
■成功条件
1.ターゲットの殲滅
2.組織の存在の秘匿
3.なし
2.組織の存在の秘匿
3.なし
初めましての方も、そうでない方も、いらっしゃいませ。
今回の戦場は、早朝のショッピングモールになります。
非常灯の灯がありますので、視界に苦労はしないでしょうが、場所によっては光の届かないエリアも存在します。また、相手の操る洋服によって死角を作りだされることもあるでしょう。
それでは、以下詳細。
●場所
早朝のショッピングセンター。
非常灯のおかげで視界は確保されているが、決して見通しの良いものではない。
ショッピングセンターということもあり、障害物は多い。足場は問題ない。エスカレーターやエレベーターは起動していない。
地下1階を含め、全7フロア。1階には警備員の詰め所がある。
4、5、6階にはターゲットに似たデザインの服が多い。
●ターゲット
物質系(妖)ドレスフィッシュ×3
ランク1
1つはピンクのロリータドレス。
1つは白を基調としたクラシカルドレス。
1つは赤と黒のゴシックドレス。
3着の妖化したドレスで、空中を自在に泳ぎ回る。ゲリラ戦法に似た、ヒット&アウェイの行動を取る傾向にある。
また、布である為か近距離物理攻撃に対して非常に高い回避能力を誇る。
【シークレットクロス】→特遠単(負荷)or(痺れ)or(睡眠)or(混乱)or(不運)
見えない布による攻撃。音もなく身体に纏わり付き、締めあげる
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
金:0枚 銀:0枚 銅:3枚
相談日数
7日
7日
参加費
100LP[+予約50LP]
100LP[+予約50LP]
参加人数
7/8
7/8
公開日
2015年09月21日
2015年09月21日
■メイン参加者 7人■

●遊泳するドレスフィッシュ
オープン間近のショッピングモール。メインを占めるのは女性向けの洋服店。数多ある有名ブランドの中でも、特に目玉としているのは、全店舗のうち、およそ4割を占めるゴシック&ロリータテイストのテナントである。地下を含め7フロアあるうちの、6、5、4階はそういったブランドが占有していた。
故に、俗にロリィタや、ゴスロリと呼ばれる服の愛好家達の間では、オープン前から注目を集めている。
オープンまで、指折り数えるまでとなったある日の夜に、それは目覚めた。
6階の店舗に並べられていた洋服のうち3着が、妖と化し、動き始めたのである。
現在、建物内には警備員が2人いるのみ。早朝という時間帯もあってか、その2人もうとうととまどろみはじめていた。監視カメラの設置は明日の予定だ。現在、建物内の監視は、数時間置きに行われる巡回のみとなっている。
妖として覚醒し、自由気ままに空中を泳ぐ洋服(ドレスフィッシュ)の存在に、彼らはまだ気付いていない。
「女性向けの洋服店か。こう言った場所に立ち入る事になるとはな、こんな依頼が無ければ俺には一生無縁の場所だろうな」
店内を覗きこみながら天明 両慈(CL2000603)がそう呟いた。警備員の姿がないことを確認し、一同は、鍵をこじ開けた非常口から建物内へと侵入する。喜々として駆け込んで行く『ママは小学六年生(偽)』迷家・唯音(CL2001093)の身体を、『深緑』十夜 八重(CL2000122)が後ろから慌てて抱きかかえた。翼の因子を持つ八重の背中には、大きな翼が生えている。その翼を羽ばたかせ、飛行することのできる彼女は、足音もないままに唯音を抱えて通路を進む。
彼女の通った後には風が舞う。店内に飾られたスカートの裾が、ふわりと揺れた。
「わー広くて綺麗!素敵なお洋服たくさん ゆいねも着てみたい! ……お仕事なのはわかってるけど、そーゆーのぬきでお買い物にきたかったなあ」
八重に抱きかかえられた状態で、視線をきょろきょろと動かしながら唯音が言う。
それを見て、八重はくすりと微笑んだ。
「ふふ、飛び心地はどうですか? お空の旅です。誰かと飛ぶのも楽しいですね」
これから戦闘が控えているとは思えない和やかな雰囲気で、会話を交わす2人とは正反対に、両慈は難しい表情を浮かべている。
「アレ? 両慈、どうかシマシ……ハッ!?」
「あぁ、他の奴らは浮いたりしのびあし等の足音を立てずに進む事が出来るが俺は不可能だ。不本意だが誰かの力を借りておぶさるか担いで貰うしかないか……なんだリーネ」
建物内の移動は、出来るだけ物音をたてないようにしたい。警備員に気付かれては、後々面倒だからだ。特に、ドレスフィッシュを討伐するまでは。万が一にも、警備員がドレスフィッシュに襲われることになれば、最悪の場合命を落とすことも十分に在り得る。
難しい顔をした両慈の眼前で期待に頬を赤く染めたリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が両腕を広げて、満面の笑みを浮かべていた。
「そう言えば両慈は飛べませんデシタネ!? でもワタシにお任せデース! さ、両慈♪」
「………………………梅崎、肩をかしてくれ」
そうして一同は、自前の翼や、守護使役の能力、或いは仲間の手を借りて、ゆっくりと、物音を立てないよう慎重に、ドレスフィッシュの出現場所である上階へと昇っていった。
●ファッションショーは唐突に
「らーらちゃんのさくせんでごー! ごー! さくせん!」
守護使役の能力で空中に浮遊したまま、ククル ミラノ(CL2001142)が大きな声でそう叫んだ。今回の作戦の名前を、彼女は勝手にそう名付けたらしい。
「声が大きいですよ、ククルさん。でも、オープン前のお店を見る機会ってなかなかないですよね。物が壊れて、後でお店の人ががっかりしないように気をつけないと」
こちらもまた、守護使役の能力で足音を消しながら『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がククルの後を追う。通路の奥へと視線を向けて、ククルの声が警備員にばれていないか、心配そうな顔をしていた。
1階には、ドレスフィッシュの気配はない。
彼女達がターゲットと遭遇するのは、もう少し後になりそうだ。
F.i.V.E.の一行が丁度4階に差しかかった頃、休憩を取りに行った警備員の1人が異変に気付いた。
建物の非常口が、ほんの僅かに開いているのを確認したのである。近寄ってよくよく観察して見れば、扉の近くに数人分の足跡がある。
F.i.V.E.の一行が侵入した際に、確かにドアは閉めたはずだ。だが、問題はその後。このショッピングモールの非常口は、鍵がかかりにくいという欠陥があった。
一度無理矢理に開かれた非常口の扉は、空気の流れに押されほんの僅かにだが開いてしまっていた。
「し、侵入者……!? えらいこっちゃ。俺達の責任問題になっちまう!」
侵入を許した時点で、責任を問われることは間違いないだろう。だが、犯人を取り逃がすのと、捕まえるのでは話が違ってくる。
それに、まだ建物内に人が侵入したと決まったわけではない。
警備員は、相棒の元へと駆けもどる。
彼らが、ショッピングモール内の捜索に出発するまで、5分と時間はかからないだろう。
5階。窓のないこのフロアは、電灯が灯っていないこの時間帯は暗い。非常灯の薄緑の光源だけでは、フロアの全体に光を行き渡らせることはできない。
「素敵なお洋服ばっかりね。おかーさんけちんぼだしゆいねのお小遣いじゃ買えないけど……」
4階から上は、ゴスロリやロリィタ、クラシカルロリータの服を扱うテナントばかりだ。瞳をきらきらと輝かせながら、唯音はトルソーに着せられた洋服を眺めている。
「ん? …………来たぞ!」
両慈の第六感が警鐘を鳴らす。仲間へ、注意を歓喜するのとほぼ同時、両慈と同じく後方を進んでいた『真夜中の羊飼い』梅崎 冥夜(CL2000789)の身体に、見えない何かが巻き付いた。
「んぐっ!?」
ギシ、と冥夜の骨が軋んだ。
何かに掴まれ、冥夜の身体が宙へと持ち上げられる。
舌打ちを一つ。両慈の手にした書物から放たれた紫電が、冥夜の身体を掴む何か射抜く。布の焦げる臭いが、鼻を刺す。
煙の軌跡を残しながら、見えない何か……ドレスフィッシュの見えない布が引き戻される。
店のラックに吊るされた洋服の中の1つ、白を基調としたクラシカルドレスが宙へと跳び出し、一同とは正反対の方向へと逃げて行った。
「洋服というものはヒトが纏って初めて真の美しさを発揮するもの。その纏い手、ましてや私が愛してやまないゴシック&ロリータの愛好家を傷つけようとする妖……許すわけにはいかないねェ」
ゲホゲホと咳き込みながら、冥夜が背中に背負ったライフルを構える。
エスカレーターを昇っていくドレスへと照準を合わせ、ゆっくりと引き金を引いた。
「決して、決して生かしてはおけぬ……!」
フロアに鳴り響く銃声。硝煙の臭いと、爆ぜた火薬の閃光。放たれた弾丸は1発。
ドレスのボディを、弾丸が射抜く。
空中では、ほんの僅かなベクトルの変化が命取りだ。エスカレーターの手すりにぶつかり、ドレスフィッシュは空中でもだえる。布とは言え、妖化した以上、命はあるし、意思もある。
綺麗な洋服を汚すことになるのは心が痛むが、いたしかたない。
布に掴まれた際に(負荷)の状態異常を負ったらしい冥夜がその場に膝を突いた。
唯音を床へ降ろした八重が、冥夜へ駆け寄る。床へと着地した唯音とククルがドレスフィッシュ目がけて駆け出した。
唯音の手には水鉄砲。色を付けた水を、ドレスフィッシュのスカートへと命中させる。
体勢を立て直し、逃げ出そうとするドレスフィッシュの右肩部分へ、猫のように変化したククルの拳が叩きこまれた。
「空飛ぶ洋服ドレスフィッシュ……!! すごい! 見たかったの!」
ドレスフィッシュは、ククルの打撃を受け5階の床へと落下。
当のククルは、空中で器用に姿勢を立て直すとエスカレーターの手摺に着地してみせた。
落下したドレスフィッシュが再び宙へと舞い上がった、その刹那。炎に包まれた唯音のステッキが、ドレスフィッシュの背に突き刺さった。
逃げることも叶わず、炎に包まれたドレスフィッシュがもがく。見えない布が唯音の首へと巻き付いた。
「お洋服汚すのも燃やすのも抵抗あるけど、そうでもしなきゃ止まらないよね……」
およそ1分の間、もがき続けたドレスフィッシュだが、炎に焼かれて炭と化す。床に散らばった灰を見降ろし、唯音が呟く。
その場に膝をついた唯音は、そのまま静かな寝息をたてはじめた。(睡眠)の状態異常だ。
「お疲れ様デス。なにはともあれ、1体撃破デスネー!」
そう言ってリーネは、静かな寝息をたてる唯音の身体をそっと抱き上げた。
「大丈夫ですか? 落ち着く良い匂いですよ? あ、気分が高揚する匂いの方が良かったでしょうか…・・・?」
目を覚ました唯音が最初に見たのは、優しい笑みを浮かべた八重の顔だった。唯音の隣では、同じようにククルに治療を施されている冥夜の姿。周囲には、甘い、どこか安心する香りが漂っていた。八重の清廉香の香りだ。
「残る2体は6階のようですね。目が覚めたなら、移動を開始しましょうか」
八重の肩に、エスカレーターの上から降りてきた、彼女の守護使役であるカイナが降り立つ。[ていさつ]のスキルを使って、上階の様子を探っていたらしい。
7人は、陣形を整えエスカレーターを昇っていく。先ほど倒したドレスフィッシュの残骸は、既に掃除済みである。
戦闘を進んでいたリーネが6階へと足を踏み入れた、その時。
「あっ! おい! お前ら、何をしてるんだっ!!」
階段を上がって来た2人の警備員が、一行の姿を見つけて声を上げる。
その声に反応し、6階を泳いでいたドレスフィッシュは、あっという間に近くのラックや、ショーケースへと姿を隠す。
「その、すみません……。危ないので下がっていてくださいね?」
「ドレスフィッシュは、フロアの奥と、階段の傍だ! ちっ……。お前らは先へ行け」
超視力で捉えたドレスフィッシュの居場所を仲間へ伝え、八重と両慈は階段を降りる。警備員をこのまま上の階へと上げる訳にはいかない。足止めと護衛の為に、2人は警備員の元へと駆け出した。
●暗闇のランウェイ
「みらのはいぱ~~~~~~しゅかんきおくっ!! おぼえたっ!」
「かくれんぼと鬼ごっこなら現役小学生に分がある!」
フロアの奥へと駆けて行ったククルと唯音は、トルソーに取り付き他の服に紛れていたピンクのロリィタドレスを見つけ出し、ステッキを振り上げる。困惑したように、ドレスフィッシュはトルソーから離れ、宙を泳いで、2人から逃げる。
一方、階段の傍へと移動した冥夜は、ラックの中にいたゴスロリドレスを見つけ出し、ライフルを構える。
「他の洋服に紛れたか。だが、ゴシックファッションのデザイナーでありこのジャンルに造詣の深い私が見分けてみせよう。ん? 少し裾が汚れているな? 妖はその、袖の広がった三段フリルのドレスだ!」
「B.O.T.の連打デース! 妖が倒れるまで撃ち続けマース!」
「妖とはいえ、綺麗な洋服を攻撃するのはなんだか心が痛みます……」
リーネの放った波動弾が、ロリィタドレスを撃ち抜いた。逃げるロリィタドレスは、唯音とククルに追い回され、リーネの射程圏内へと追い込まれたのである。
冥夜の見つけたゴスロリドレスは、冥夜のライフル弾でラックから追い出され、更にラーラの放った火炎弾に裾を焼かれる。
だが、ドレスフィッシュもやられっぱなしでいるわけではない。
見えない攻撃は厄介だ。ロリィタドレスが天井付近まで舞い上がる。するり、と壁伝いに下降し地面を滑る見えない布が、唯音の脚を絡め取って、床へと叩きつけた。
ゴキン、という鈍い音は唯音の膝関節が外れた音だ。
「あ………っぐぅ! な、なに……? わ、分からない」
闇雲に振り回された唯音のステッキが、ククルの胴へと叩きつけられた。(混乱)しているのか、唯音は闇雲に炎を纏わせたステッキを振り回す。
「えぇ!? ちょ、いたっ! いたい! おちついてよ唯音ちゃん! もう! みらのさいしゅうおーぎ! ちょう! みらのあたっく!」
唯音のステッキを、メイスで受け止めるラーラ。その隙に、ドレスフィッシュは建物の暗がりへと逃げこみ、そのままどこか、別のテナントへと移動したようだ。
リーネが、騒ぎ立てる2人を仲裁に行くべきか、それともドレスフィッシュを追うべきか迷っているうちにドレスフィッシュを見失ってしまう。
だが、唯音を止めに行ってしまうと自分も戦線から外れることになる。
「りょ、両慈~! どうしマショー!」
その場にいない想い人の名を呼んで、リーネはドレスフィッシュを追うことにした。
一閃。小太刀の峰で、警備員2人の首裏を叩き、その意識を刈り取った八重は「ふぅ」と小さな溜め息を零す。倒れた2人の頭の上に、両慈の守護使役である七兎が跳び乗る。七兎の能力である[すいとる]で、2人の記憶を消しているのだ。
「一件落着ですね。ところで、ドレスも倒しちゃえばただの布なんでしょうか?」
「……どうでも良い事だ。さっさと依頼を終わらせて戻るぞ」
意識を失った警備員を、安全な場所へと移動させ2人は6階へと視線を向ける。
「うぅ……。私は後衛ナノニ!」
何故、前に出てドレスフィッシュを捜索しているのか。溜め息を零し、本を広げるリーネ。
暗がりの中、ドレスフィッシュの姿を探す彼女の背後で何かが動く気配がした。素早く後ろを振り向いて、本を広げるリーネだが、そこでふと嫌な予感が彼女の脳裏を横切った。
背後からの攻撃を無視し、体を反転。リーネの視線は、まっすぐエスカレーターへ。そこには、地面を這うようにして下のフロアへと逃げようとするロリィタドレスの姿があった。
下のフロアには、両慈と八重がいるはずだ。ドレスフィッシュの狙いは、分散している少人数の方から攻撃し、戦闘不能にすることだと、直感的にリーネは理解する。
「本命はそっちですね! でも、やらせマセン! 両慈の命は私の命デース!」
胸に巻き付いた見えない布が、リーネのアバラ骨を圧迫する。呼吸ができない。遠ざかる意識を無理矢理繋ぎとめ、リーネは波動弾を放った。
ドレスフィッシュの背中に、数発の波動弾が命中。ドレスフィッシュの身体が無残な布切れと化すと同時に、リーネの身体を包んでいた見えない布も消滅した。
残るドレスフィッシュは、ゴスロリドレス1体だけ。
「冥夜さんは、そこで待機を! 私が追いこみます! さぁ、良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
経典片手に、ラーラはゆっくり目を閉じる。感覚を研ぎ澄まし、手の平に熱が集まるのを意識する。目を開いたラーラの眼前には、見えない悪意が迫りくる。
見えない布が、ラーラの身体を捉える寸前、経典から吹きあがった炎がそれを焼いた。
次いで、轟音と共に放たれる火炎の弾丸が、見えない布を燃やしながらドレスフィッシュへと迫る。
ドレスフィッシュは、上空へ舞い上がることでそれを回避。
だが、即座にラーラの放った追撃の火炎弾がドレスフィッシュを襲う。
狙いが甘い。ドレスフィッシュは、右へと身体を揺らすことでそれを回避した。
ドレスフィッシュの袖が、壁を擦る。
「なるほど……。嗚呼、腹立たしき妖ども、キミ達は美しい。だが纏い手を傷付けることを選んだ以上、所詮キミ達はただの布きれなのだよ……!」
冥夜がそっと、引き金を引いた。羽を拾うように、優しい手つき。ほんの僅かな力で、銃の引き金は引かれ、撃鉄は落ちる。弾丸の底を撃鉄が叩き、火薬が爆ぜた。
放たれた弾丸は、空中に召喚された雨雲を貫き、紫電を纏う。
バチバチと放電しながら、冥夜の放った弾丸がドレスフィッシュの胸を撃ち抜く。弾丸に導かれるような落雷。ドレスフィッシュは、黒焦げになって床へと落ちて、動かなくなった。
薄暗がりの中、テナントを覗きこみながら大騒ぎするリーネの姿がそこにはあった。
「れも可愛いデース♪ あ、これも着たら、両慈の心をガシッと掴めるかもしれまセーン! この今着てる私の服も軍服ワンピースと言って……!」
なんて、興奮した様子のリーネを両慈は呆れたような顔で、八重は笑みを浮かべて眺めていた。
「ピンクの服がもし元に戻ったら、きてみたかったな」
「わ、私も少しだけそういう服を着てみたいな、なんて」
「……ホントはね、これ着てファッションショーしたかったの」
トルソーに着せられた洋服を見上げ、ククル、ラーラ、唯音の傍へ、冥夜がゆっくりと歩み寄る。
彼女達の肩にそっと手を乗せ、冥夜は言った。
「お嬢さん方、こういう洋服に興味はあるかい? もしよければ……私が見立てて差し上げたいのだが…どうだろうか?」
あわよくば、そのまま彼女達とお茶会を、なんて。
そんなことを想像しながら、冥夜は少女達へ、自身がデザインした洋服について語り始めた。
オープン間近のショッピングモール。メインを占めるのは女性向けの洋服店。数多ある有名ブランドの中でも、特に目玉としているのは、全店舗のうち、およそ4割を占めるゴシック&ロリータテイストのテナントである。地下を含め7フロアあるうちの、6、5、4階はそういったブランドが占有していた。
故に、俗にロリィタや、ゴスロリと呼ばれる服の愛好家達の間では、オープン前から注目を集めている。
オープンまで、指折り数えるまでとなったある日の夜に、それは目覚めた。
6階の店舗に並べられていた洋服のうち3着が、妖と化し、動き始めたのである。
現在、建物内には警備員が2人いるのみ。早朝という時間帯もあってか、その2人もうとうととまどろみはじめていた。監視カメラの設置は明日の予定だ。現在、建物内の監視は、数時間置きに行われる巡回のみとなっている。
妖として覚醒し、自由気ままに空中を泳ぐ洋服(ドレスフィッシュ)の存在に、彼らはまだ気付いていない。
「女性向けの洋服店か。こう言った場所に立ち入る事になるとはな、こんな依頼が無ければ俺には一生無縁の場所だろうな」
店内を覗きこみながら天明 両慈(CL2000603)がそう呟いた。警備員の姿がないことを確認し、一同は、鍵をこじ開けた非常口から建物内へと侵入する。喜々として駆け込んで行く『ママは小学六年生(偽)』迷家・唯音(CL2001093)の身体を、『深緑』十夜 八重(CL2000122)が後ろから慌てて抱きかかえた。翼の因子を持つ八重の背中には、大きな翼が生えている。その翼を羽ばたかせ、飛行することのできる彼女は、足音もないままに唯音を抱えて通路を進む。
彼女の通った後には風が舞う。店内に飾られたスカートの裾が、ふわりと揺れた。
「わー広くて綺麗!素敵なお洋服たくさん ゆいねも着てみたい! ……お仕事なのはわかってるけど、そーゆーのぬきでお買い物にきたかったなあ」
八重に抱きかかえられた状態で、視線をきょろきょろと動かしながら唯音が言う。
それを見て、八重はくすりと微笑んだ。
「ふふ、飛び心地はどうですか? お空の旅です。誰かと飛ぶのも楽しいですね」
これから戦闘が控えているとは思えない和やかな雰囲気で、会話を交わす2人とは正反対に、両慈は難しい表情を浮かべている。
「アレ? 両慈、どうかシマシ……ハッ!?」
「あぁ、他の奴らは浮いたりしのびあし等の足音を立てずに進む事が出来るが俺は不可能だ。不本意だが誰かの力を借りておぶさるか担いで貰うしかないか……なんだリーネ」
建物内の移動は、出来るだけ物音をたてないようにしたい。警備員に気付かれては、後々面倒だからだ。特に、ドレスフィッシュを討伐するまでは。万が一にも、警備員がドレスフィッシュに襲われることになれば、最悪の場合命を落とすことも十分に在り得る。
難しい顔をした両慈の眼前で期待に頬を赤く染めたリーネ・ブルツェンスカ(CL2000862)が両腕を広げて、満面の笑みを浮かべていた。
「そう言えば両慈は飛べませんデシタネ!? でもワタシにお任せデース! さ、両慈♪」
「………………………梅崎、肩をかしてくれ」
そうして一同は、自前の翼や、守護使役の能力、或いは仲間の手を借りて、ゆっくりと、物音を立てないよう慎重に、ドレスフィッシュの出現場所である上階へと昇っていった。
●ファッションショーは唐突に
「らーらちゃんのさくせんでごー! ごー! さくせん!」
守護使役の能力で空中に浮遊したまま、ククル ミラノ(CL2001142)が大きな声でそう叫んだ。今回の作戦の名前を、彼女は勝手にそう名付けたらしい。
「声が大きいですよ、ククルさん。でも、オープン前のお店を見る機会ってなかなかないですよね。物が壊れて、後でお店の人ががっかりしないように気をつけないと」
こちらもまた、守護使役の能力で足音を消しながら『エピファニアの魔女』ラーラ・ビスコッティ(CL2001080)がククルの後を追う。通路の奥へと視線を向けて、ククルの声が警備員にばれていないか、心配そうな顔をしていた。
1階には、ドレスフィッシュの気配はない。
彼女達がターゲットと遭遇するのは、もう少し後になりそうだ。
F.i.V.E.の一行が丁度4階に差しかかった頃、休憩を取りに行った警備員の1人が異変に気付いた。
建物の非常口が、ほんの僅かに開いているのを確認したのである。近寄ってよくよく観察して見れば、扉の近くに数人分の足跡がある。
F.i.V.E.の一行が侵入した際に、確かにドアは閉めたはずだ。だが、問題はその後。このショッピングモールの非常口は、鍵がかかりにくいという欠陥があった。
一度無理矢理に開かれた非常口の扉は、空気の流れに押されほんの僅かにだが開いてしまっていた。
「し、侵入者……!? えらいこっちゃ。俺達の責任問題になっちまう!」
侵入を許した時点で、責任を問われることは間違いないだろう。だが、犯人を取り逃がすのと、捕まえるのでは話が違ってくる。
それに、まだ建物内に人が侵入したと決まったわけではない。
警備員は、相棒の元へと駆けもどる。
彼らが、ショッピングモール内の捜索に出発するまで、5分と時間はかからないだろう。
5階。窓のないこのフロアは、電灯が灯っていないこの時間帯は暗い。非常灯の薄緑の光源だけでは、フロアの全体に光を行き渡らせることはできない。
「素敵なお洋服ばっかりね。おかーさんけちんぼだしゆいねのお小遣いじゃ買えないけど……」
4階から上は、ゴスロリやロリィタ、クラシカルロリータの服を扱うテナントばかりだ。瞳をきらきらと輝かせながら、唯音はトルソーに着せられた洋服を眺めている。
「ん? …………来たぞ!」
両慈の第六感が警鐘を鳴らす。仲間へ、注意を歓喜するのとほぼ同時、両慈と同じく後方を進んでいた『真夜中の羊飼い』梅崎 冥夜(CL2000789)の身体に、見えない何かが巻き付いた。
「んぐっ!?」
ギシ、と冥夜の骨が軋んだ。
何かに掴まれ、冥夜の身体が宙へと持ち上げられる。
舌打ちを一つ。両慈の手にした書物から放たれた紫電が、冥夜の身体を掴む何か射抜く。布の焦げる臭いが、鼻を刺す。
煙の軌跡を残しながら、見えない何か……ドレスフィッシュの見えない布が引き戻される。
店のラックに吊るされた洋服の中の1つ、白を基調としたクラシカルドレスが宙へと跳び出し、一同とは正反対の方向へと逃げて行った。
「洋服というものはヒトが纏って初めて真の美しさを発揮するもの。その纏い手、ましてや私が愛してやまないゴシック&ロリータの愛好家を傷つけようとする妖……許すわけにはいかないねェ」
ゲホゲホと咳き込みながら、冥夜が背中に背負ったライフルを構える。
エスカレーターを昇っていくドレスへと照準を合わせ、ゆっくりと引き金を引いた。
「決して、決して生かしてはおけぬ……!」
フロアに鳴り響く銃声。硝煙の臭いと、爆ぜた火薬の閃光。放たれた弾丸は1発。
ドレスのボディを、弾丸が射抜く。
空中では、ほんの僅かなベクトルの変化が命取りだ。エスカレーターの手すりにぶつかり、ドレスフィッシュは空中でもだえる。布とは言え、妖化した以上、命はあるし、意思もある。
綺麗な洋服を汚すことになるのは心が痛むが、いたしかたない。
布に掴まれた際に(負荷)の状態異常を負ったらしい冥夜がその場に膝を突いた。
唯音を床へ降ろした八重が、冥夜へ駆け寄る。床へと着地した唯音とククルがドレスフィッシュ目がけて駆け出した。
唯音の手には水鉄砲。色を付けた水を、ドレスフィッシュのスカートへと命中させる。
体勢を立て直し、逃げ出そうとするドレスフィッシュの右肩部分へ、猫のように変化したククルの拳が叩きこまれた。
「空飛ぶ洋服ドレスフィッシュ……!! すごい! 見たかったの!」
ドレスフィッシュは、ククルの打撃を受け5階の床へと落下。
当のククルは、空中で器用に姿勢を立て直すとエスカレーターの手摺に着地してみせた。
落下したドレスフィッシュが再び宙へと舞い上がった、その刹那。炎に包まれた唯音のステッキが、ドレスフィッシュの背に突き刺さった。
逃げることも叶わず、炎に包まれたドレスフィッシュがもがく。見えない布が唯音の首へと巻き付いた。
「お洋服汚すのも燃やすのも抵抗あるけど、そうでもしなきゃ止まらないよね……」
およそ1分の間、もがき続けたドレスフィッシュだが、炎に焼かれて炭と化す。床に散らばった灰を見降ろし、唯音が呟く。
その場に膝をついた唯音は、そのまま静かな寝息をたてはじめた。(睡眠)の状態異常だ。
「お疲れ様デス。なにはともあれ、1体撃破デスネー!」
そう言ってリーネは、静かな寝息をたてる唯音の身体をそっと抱き上げた。
「大丈夫ですか? 落ち着く良い匂いですよ? あ、気分が高揚する匂いの方が良かったでしょうか…・・・?」
目を覚ました唯音が最初に見たのは、優しい笑みを浮かべた八重の顔だった。唯音の隣では、同じようにククルに治療を施されている冥夜の姿。周囲には、甘い、どこか安心する香りが漂っていた。八重の清廉香の香りだ。
「残る2体は6階のようですね。目が覚めたなら、移動を開始しましょうか」
八重の肩に、エスカレーターの上から降りてきた、彼女の守護使役であるカイナが降り立つ。[ていさつ]のスキルを使って、上階の様子を探っていたらしい。
7人は、陣形を整えエスカレーターを昇っていく。先ほど倒したドレスフィッシュの残骸は、既に掃除済みである。
戦闘を進んでいたリーネが6階へと足を踏み入れた、その時。
「あっ! おい! お前ら、何をしてるんだっ!!」
階段を上がって来た2人の警備員が、一行の姿を見つけて声を上げる。
その声に反応し、6階を泳いでいたドレスフィッシュは、あっという間に近くのラックや、ショーケースへと姿を隠す。
「その、すみません……。危ないので下がっていてくださいね?」
「ドレスフィッシュは、フロアの奥と、階段の傍だ! ちっ……。お前らは先へ行け」
超視力で捉えたドレスフィッシュの居場所を仲間へ伝え、八重と両慈は階段を降りる。警備員をこのまま上の階へと上げる訳にはいかない。足止めと護衛の為に、2人は警備員の元へと駆け出した。
●暗闇のランウェイ
「みらのはいぱ~~~~~~しゅかんきおくっ!! おぼえたっ!」
「かくれんぼと鬼ごっこなら現役小学生に分がある!」
フロアの奥へと駆けて行ったククルと唯音は、トルソーに取り付き他の服に紛れていたピンクのロリィタドレスを見つけ出し、ステッキを振り上げる。困惑したように、ドレスフィッシュはトルソーから離れ、宙を泳いで、2人から逃げる。
一方、階段の傍へと移動した冥夜は、ラックの中にいたゴスロリドレスを見つけ出し、ライフルを構える。
「他の洋服に紛れたか。だが、ゴシックファッションのデザイナーでありこのジャンルに造詣の深い私が見分けてみせよう。ん? 少し裾が汚れているな? 妖はその、袖の広がった三段フリルのドレスだ!」
「B.O.T.の連打デース! 妖が倒れるまで撃ち続けマース!」
「妖とはいえ、綺麗な洋服を攻撃するのはなんだか心が痛みます……」
リーネの放った波動弾が、ロリィタドレスを撃ち抜いた。逃げるロリィタドレスは、唯音とククルに追い回され、リーネの射程圏内へと追い込まれたのである。
冥夜の見つけたゴスロリドレスは、冥夜のライフル弾でラックから追い出され、更にラーラの放った火炎弾に裾を焼かれる。
だが、ドレスフィッシュもやられっぱなしでいるわけではない。
見えない攻撃は厄介だ。ロリィタドレスが天井付近まで舞い上がる。するり、と壁伝いに下降し地面を滑る見えない布が、唯音の脚を絡め取って、床へと叩きつけた。
ゴキン、という鈍い音は唯音の膝関節が外れた音だ。
「あ………っぐぅ! な、なに……? わ、分からない」
闇雲に振り回された唯音のステッキが、ククルの胴へと叩きつけられた。(混乱)しているのか、唯音は闇雲に炎を纏わせたステッキを振り回す。
「えぇ!? ちょ、いたっ! いたい! おちついてよ唯音ちゃん! もう! みらのさいしゅうおーぎ! ちょう! みらのあたっく!」
唯音のステッキを、メイスで受け止めるラーラ。その隙に、ドレスフィッシュは建物の暗がりへと逃げこみ、そのままどこか、別のテナントへと移動したようだ。
リーネが、騒ぎ立てる2人を仲裁に行くべきか、それともドレスフィッシュを追うべきか迷っているうちにドレスフィッシュを見失ってしまう。
だが、唯音を止めに行ってしまうと自分も戦線から外れることになる。
「りょ、両慈~! どうしマショー!」
その場にいない想い人の名を呼んで、リーネはドレスフィッシュを追うことにした。
一閃。小太刀の峰で、警備員2人の首裏を叩き、その意識を刈り取った八重は「ふぅ」と小さな溜め息を零す。倒れた2人の頭の上に、両慈の守護使役である七兎が跳び乗る。七兎の能力である[すいとる]で、2人の記憶を消しているのだ。
「一件落着ですね。ところで、ドレスも倒しちゃえばただの布なんでしょうか?」
「……どうでも良い事だ。さっさと依頼を終わらせて戻るぞ」
意識を失った警備員を、安全な場所へと移動させ2人は6階へと視線を向ける。
「うぅ……。私は後衛ナノニ!」
何故、前に出てドレスフィッシュを捜索しているのか。溜め息を零し、本を広げるリーネ。
暗がりの中、ドレスフィッシュの姿を探す彼女の背後で何かが動く気配がした。素早く後ろを振り向いて、本を広げるリーネだが、そこでふと嫌な予感が彼女の脳裏を横切った。
背後からの攻撃を無視し、体を反転。リーネの視線は、まっすぐエスカレーターへ。そこには、地面を這うようにして下のフロアへと逃げようとするロリィタドレスの姿があった。
下のフロアには、両慈と八重がいるはずだ。ドレスフィッシュの狙いは、分散している少人数の方から攻撃し、戦闘不能にすることだと、直感的にリーネは理解する。
「本命はそっちですね! でも、やらせマセン! 両慈の命は私の命デース!」
胸に巻き付いた見えない布が、リーネのアバラ骨を圧迫する。呼吸ができない。遠ざかる意識を無理矢理繋ぎとめ、リーネは波動弾を放った。
ドレスフィッシュの背中に、数発の波動弾が命中。ドレスフィッシュの身体が無残な布切れと化すと同時に、リーネの身体を包んでいた見えない布も消滅した。
残るドレスフィッシュは、ゴスロリドレス1体だけ。
「冥夜さんは、そこで待機を! 私が追いこみます! さぁ、良い子に甘い焼き菓子を、悪い子には石炭を……イオ・ブルチャーレ!」
経典片手に、ラーラはゆっくり目を閉じる。感覚を研ぎ澄まし、手の平に熱が集まるのを意識する。目を開いたラーラの眼前には、見えない悪意が迫りくる。
見えない布が、ラーラの身体を捉える寸前、経典から吹きあがった炎がそれを焼いた。
次いで、轟音と共に放たれる火炎の弾丸が、見えない布を燃やしながらドレスフィッシュへと迫る。
ドレスフィッシュは、上空へ舞い上がることでそれを回避。
だが、即座にラーラの放った追撃の火炎弾がドレスフィッシュを襲う。
狙いが甘い。ドレスフィッシュは、右へと身体を揺らすことでそれを回避した。
ドレスフィッシュの袖が、壁を擦る。
「なるほど……。嗚呼、腹立たしき妖ども、キミ達は美しい。だが纏い手を傷付けることを選んだ以上、所詮キミ達はただの布きれなのだよ……!」
冥夜がそっと、引き金を引いた。羽を拾うように、優しい手つき。ほんの僅かな力で、銃の引き金は引かれ、撃鉄は落ちる。弾丸の底を撃鉄が叩き、火薬が爆ぜた。
放たれた弾丸は、空中に召喚された雨雲を貫き、紫電を纏う。
バチバチと放電しながら、冥夜の放った弾丸がドレスフィッシュの胸を撃ち抜く。弾丸に導かれるような落雷。ドレスフィッシュは、黒焦げになって床へと落ちて、動かなくなった。
薄暗がりの中、テナントを覗きこみながら大騒ぎするリーネの姿がそこにはあった。
「れも可愛いデース♪ あ、これも着たら、両慈の心をガシッと掴めるかもしれまセーン! この今着てる私の服も軍服ワンピースと言って……!」
なんて、興奮した様子のリーネを両慈は呆れたような顔で、八重は笑みを浮かべて眺めていた。
「ピンクの服がもし元に戻ったら、きてみたかったな」
「わ、私も少しだけそういう服を着てみたいな、なんて」
「……ホントはね、これ着てファッションショーしたかったの」
トルソーに着せられた洋服を見上げ、ククル、ラーラ、唯音の傍へ、冥夜がゆっくりと歩み寄る。
彼女達の肩にそっと手を乗せ、冥夜は言った。
「お嬢さん方、こういう洋服に興味はあるかい? もしよければ……私が見立てて差し上げたいのだが…どうだろうか?」
あわよくば、そのまま彼女達とお茶会を、なんて。
そんなことを想像しながら、冥夜は少女達へ、自身がデザインした洋服について語り始めた。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
