姉弟は雪の下に
姉弟は雪の下に


●泥棒少年
「待ちなさい! 坊主!」
 しんしんと降り積もった雪に彩られた道を少年が一人駆けていく。彼がそれまでいた薬屋から老爺が彼を追うべく出てくるものの、少年は既に手の届くところにはいない。
 盗られたにもかかわらず老爺は駆けていく少年の姿を少し寂しそうに見やる。
「薬がないなら、病状位話せば相談にものるというに……」
 既に何度か盗みに入られているのだが、盗っていく薬に統一性がなく、その時手の届く範囲のものだけを持っていくのだ。
 降り積もる雪に足跡は徐々に埋められていく。
 今朝方はちらほらと降っていた程度の雪だが、徐々に降雪量が増えてきている。
「こりゃ吹雪くかもしれんなぁ……。坊主が無事におればよいが……。婆さんや食事の支度じゃが――」
 少年の家族を案じつつ老爺は薬屋の奥へと踵を返す。自分にも愛する家族がいるのだ。少年の走り去っていった方角にある山を見やるとそこには暗雲というにはあまりにも黒い雲が広がっていた。

●病床の姉
 とある山中に一つ洞穴がある。茂みなどで隠されたその入り口はそうと知らねば見つけにくいだろう。中は雪と風からから避難でき、広さも生活を行うのに十分なほどだ。盗人少年はそこまで来ると周囲を見渡し誰もついてきていないことを確認する。
 周囲に降る雪はさらに強くなり、既に視界を狭めるようになっている。これならば追ってきたとしても、ここに洞穴があることなど誰も気づきはしないだろう。
そのまま中へと足を進めるとそこには横たわるメスの狸の姿があった。
「紺姉ぇちゃん、薬、貰ってきたよ」
 そういうと少年は持ってきた薬瓶を床に並べると、その姿を狸へと変じる。人間の服がその場にどさりと落ち、中から狸へと変じた少年が這い出してくる。服のポケットからは冬だというのにどこかから持ってきた僅かな食糧が転がる。
「タン……。ありがとうね……」
「ヘヘッ」
 ゴンと呼ばれた狸は姉のためを思って薬等を持ってきている。致命的なことと言えば、その字が読めない事だ。対して姉はといえば字も読めるし、彼が盗んできたことも分かっている。しかし、自分を想い盗んできたことを咎めることなどできない。

●白い闇
 外はすっかり吹雪き始めていた。山の天気は変わりやすいとは言うがそれにしたって急変している。それも尋常な降雪量ではない。
 立ち上がるのもやっとな紺だが、弟に支えられながら体を起こし薬瓶に目を通す。彼女には風邪ではないことは分かっている。むしろ、病気というよりも衰弱に近いのだ。
 この時期は餌もなく、力も強くない紺たち姉弟にはあまりにも厳しいものだった。しかし、それにしても今年の冬は冷え込みが厳しいものとなっている。
 このままでは二人とも共倒れ、そう紺には確信が持てていた。何より、遠方からこちらへと近づいてくる妖力を彼女は感じていたのだ。
「タン、人間達の使う鉄の箱に乗って、もっと人里に近い方へ行きなさい」
 隠してあった硬貨を取り出し、弟へと渡しながらそう切り出す。
「なんで!?」
 狼狽えたタンの足元で彼に蹴られた薬瓶が音をたてて転がっていく。彼には何故そんなことを言われたのかわからなかった。
「よく聞きな。遠くから何かが向かって来ているの。この寒さもそれが原因だと思う。姉さんは――」
「紺姉ぇさんを置いてなんか行けないよ!」
 タンはその眼に涙を浮かべ訴えかける。どうにか弟だけでも生き延びる道を取ってほしい紺が再び口を開こうとする。
 その時洞穴の入り口から突風が吹きこみ、姉弟たちのところへと雪が吹きつけてくる。入り口に立ち現われたのは雪と暗雲が人の上半身だけを形成したような異形のバケモノだ。それは生ある者を見つけた喜びか、咆哮とも思える豪風を吹かせると姉弟を凍りつかせると麓の村へと向かっていく。

●冬将軍
「最近ある地方で妙に降雪量が増えてるんだ」
 夢の内容を話しながら地図を取り出してきたのは久方相馬(nCL2000004)だ。電波障害の緩和から各地の異常気象がわかりやすくなって今回気付けたのだという。
 そして、それは徐々に勢力を拡大しながらとある村へと向かっているのだという。
「相手になるのは気象を操る自然系の敵だと思う。今まで気付かれなかったおかげでかなり力をつけてるみたいだから、気をつけてくれよな。特に、寒さな! 下手すると凍りそうだぜ」
 そして覚者達に申し訳なさそうにしながら一言加える。
「それと、できれば夢に出てきた古妖の子供だとおもう妖狐の子供二人を助けてあげらんないかな? 頼む!」
 勢いよく相馬が両の手を合わせると周囲に音が反響する。
「なんていうか、こういう話弱いんだよ。自分に照らしちゃうんだよな。できそうならでいいから、な?」


■シナリオ詳細
種別:通常
難易度:普通
担当ST:鹿之助
■成功条件
1.妖の撃破
2.妖狐の姉弟の救出
3.なし
本格的に寒くなってまいりましたね。鹿之助です。

今回は自然系妖との戦いとなります。
敵を殲滅して狸の姉弟を助けてあげられるといいですね。

●状況
皆さんが現場に到着するタイミングは、オープニングでいうところの●泥棒少年の直後に当たります。
山道へと向かうのであれば直ぐに少年へと化けた狸(タン)は見つかるでしょう。
時刻は昼頃ですが、厚い雲に覆われ薄暗いです。

戦闘中は敵の作りだしている豪雪に視界が遮られ、遠距離攻撃の命中率は下がります。

●敵
雪と暗雲の塊(自然系ランク2)
形状は上半身だけの人間の様な姿をしています。
巨大な両の手で地を掴み、体を移動させます。水泳のクロールや匍匐前進近い感じです。
攻撃としまして
◎豪雪圏生成:[攻撃] A:特遠敵全 小ダメージ【凍傷】
◎雪崩:[攻撃] A:特遠単[貫3] 中ダメージ【鈍化】 [貫:100%,60%,30%]
◎殴りつける:[攻撃] A:物近単 大ダメージ
を使用します。
バッドステータスを与える範囲攻撃が2種、大ダメージを与える単体攻撃というものです。
また、この敵が存在している限り、視界が悪くなり遠距離攻撃の命中精度は低下します。

●その他
命中率の低下は技能:超視力などで軽減・無効化は可能です。

また、これは戦闘とは関係ないですが
紺(妖狸の姉)は衰弱しています。助ける場合、十分な食事などがひつようになるかもしれません。
食品などの持ち込みは可能ですので、持ち込みたい方はプレイングにご記入をお願いします。
また、狸の姉弟は戦闘能力は皆無です。戦闘に参加することはありません。
状態
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:1枚 銅:0枚
(0モルげっと♪)
相談日数
6日
参加費
100LP[+予約50LP]
参加人数
5/8
公開日
2017年01月06日

■メイン参加者 5人■


●妖狸少年
 山の麓に広がる村の風景は雪化粧をした美しいものだ。
 山道を通る覚者達の目にもその光景はよく見える。
 しかし、上空に広がる雲は暗く、降雪量は徐々に増している。あまり時間がないことを予感させる。
 風景に気を取られることなく覚者達は一歩一歩確実に前に進む。もし遅れた場合、これから助ける命だけでなく麓で生きる人々にも被害が及ぶのだから。
「どうですか? 何か感じ取れましたか?」
 宮神 羽琉(CL2001381)は木に手を当て、植物との対話を試みている『ホワイトガーベラ』明石 ミュエル(CL2000172)へと声をかける。
「えぇ……この先に向かって行ったみたい。近そうよ」
 そう指さす方へと目を向けると言われなければ気付かなかった程に小さな足跡が続いている。一行はそのまま急ぎ足で足跡の主を追いかける。ほどなくタンを発見することができた。
 見知らぬ者たちを怖がるタンは草葉の陰へと隠れるも大辻・想良(CL2001476)の天にあっさりと発見されてしまう。
「大丈夫……助けに来たよ…‥」
「なんだよ、おまえら!」
 草むらに隠れていたタンの頭と耳に同じ声で同じ文言が響く。ミュエルが念話をしただけなのだが、バレてるのを知ったタンは威勢よく飛び出してくる。しかし飛び出した拍子でポケットに突っ込んでいた薬瓶が辺りに転がってしまう。
「あっ、あぅあぁ……」
 少年は自分が盗んだものを見られてしまったことに慌てふためく。しかし、覚者達は何を言うでもなくまずその薬瓶を全て拾い彼に手渡していく。
「ほら、これで最後の一個だ」
 『百戟』鯨塚 百(CL2000332)が最後の一瓶を彼に返してやると、敵ではないと感じたのだろう。小さな声で「あ、ありがとう」と呟きながら小さく頷く。

●雪の化身
「ボク等はこれからこの山に居るらしい妖を退治しに行くんだ。この寒さも妖のせいらしいけど、妖が居そうな場所はわかるかな?」
 全てをタンが受け取ったのを確認すると『五行の橋渡し』四条・理央(CL2000070)がそう話を切り出す。百が「このあたりにでっかい化け物が出るから倒しにきたんだ」と付け加えるも彼は首を横に振る。
「うぅん、オレは知らないけど、姉ぇさんなら知ってるかなぁ?」
 タンは小首を傾げ、中空に視線をやるも何も思い浮かばない様子だ。
「それなら……最近力を感じたり、嫌な気配がするとか……雲が流れてくる方向とかはありますか?」
 想良の言葉に何か思うふしがあったのか「それなら、姉ぇさんがあっちにいくなって」と彼が指差した方向を見やると山の頂上付近に周囲より一層黒ずんだ雲がこちらへと迫ってきていた。
「あれが……そのバケモノなの?」
「大丈夫……。アタシ達が……やっつけるから。安心してお姉さんと待ってて」
 得体のしれない、それでいて身近に迫る脅威に少しの怯えを見せるタンの頭をミュエルが撫でる。
「そうだぜ! オイラ達がなんとかしてくるから、安心して紺さんを診ててくれよな!」
 百がそういってタンを励ますと覚者達は暗雲立ち込める方へと急行していく。
 残されたタンは今度こそ薬瓶を落とすまいとしっかりと抱え込みながらもぽつりとつぶやく。
「なんで姉ぇさんの名前を……?」

●白い闇
 ソイツはこちらからは見通しにくい闇の中にいた。
 日光を遮る雲のせいで暗いのもあったが、視界を埋めるように降る雪の影響が強かった。雪は自然に降るよりも速く、強風でまるで叩きつけるかのようにして覚者達に襲い掛かってきていた。
 ゴァァオオオ――
 雪と雲でできた体を持つソレが風の音とも咆哮ともつかない声を上げる。
 その両の手で地を掴みこちらへと体を引きずって向かってくる。
「でぇやああ!」
 雄叫びと共に百が踏込み、渾身の一撃をその大きな図体に叩き込む。赤熱化した百の体には雪は辿り着く前に溶けていき、熱を帯びた釘撃ち機が敵の体を穿つ。貫くと共に敵の体の一部を蒸発させるも、すぐさま足りなくなった部分を補っていく。だが、若干サイズが小さくなったところを見るに効果はあるようだ。
 しかしその勢いが落ちたわけではない。妖は怒ったのか、叩きつけるような暴風と凍気を周囲にまき散らす。
「ぐっ……っ!」
(足を……!!)
 中距離に位置していた羽琉は襲いくる冷気から片足に凍傷を負ってしまう。しかし、それに気を取られることなく反撃の姿勢を構えその手に雷を集める。今は、怯えている姿ではなく、がんばっている姿を憧れの人に見せたいから。
(でも……今回は……あの人の前なんだ!)
「雷の矢よ、貫けぇ!」
 羽琉の叫びと共に放たれた矢は敵の暗雲を消し飛ばし、その勢いを弱らせる。
 すぐさま想良が羽琉の救援に入る。
「羽琉さんはこの中でも正確に狙えるんですね……。援護します。攻撃……お願いします」
 想良の術で羽琉が片足に負った凍傷は消え去っていく。羽琉は感謝もしながら再び敵を見据える。
 敵はその両の手を振り上げ、至近距離にいた百に向かって振り下ろされる。

●心を燃やして
 組まれ、振り下ろされた両手はさながらハンマーのように叩きつけられ、百と衝突すると凄まじい衝撃音が周囲に響く。鉄に凄まじい質量の物体が衝突した、そんな音だ。
「ォォオオオッ!」
 百が攻撃をナックルで受け止め、両脚で踏ん張っている隙にミュエルが相手の脇腹部分へと一撃を叩き込む。
 たまらず怯んだ妖はその手で撃ちこまれた箇所を押さえるようにして飛び退く。毒を入れられたらしく、その部位の組織結合が緩み、濁った液体が傷口からこぼれ出していく。
 続けざまに彼らの後方にいた想良、羽琉の二人も支援攻撃を行う。
「理央さん、今のうち……です」
 ミュエルの言葉を受け理央は懐から符を一枚とりだす。
「百君、大丈夫? すぐ元気になるからね」
 理央が符に念を込める。護符は淡い水色を放ったかと思えば柔らかな水流へと変じる。その水が百の体を優しく包み込むと、百の体に再び活力が戻っていく。
「ありがと理央さん! よ~し、反撃だっ!」
 体勢を立て直したのは何も百だけではない。攻撃を受け怯んでいた妖も周囲の冷気をその手に集中させ始める。やがて冷気は雪の塊へと変じ、まるで波のように放たれる。
 怒涛の勢いで押し寄せる雪崩が覚者の目前に迫る。
 ミュエルの脚部が変じた車輪が高速回転を始め、周囲の雪を吹き飛ばし地面を露わにする。ミュエルは安定した地表に立ち、先頭で雪崩を抑えるかのように構える。
「アタシが守るの……。みんなを……!」
 全員の先頭に立ったミュエルは雪崩の威力全てをその身に受ける。吹き飛んでしまいそうな激しいエネルギーの衝突にミュエルの体から悲鳴が上がる。
 雪崩の勢いをその身で抑えるも、勢いに負け流されそうになる。
(あぅ……。だめ……)
 トンッ――
 白の波に押し負け、そのまま吹き飛ばされそうになったになったミュエルの背中を羽琉が支える。
「ミュエルさん、僕が支えます! だから……がんばって!」
 その言葉で再び心に活をいれ、二人でその波を抑え込む。二人の人を守る意思がエネルギーへと昇華し、放たれた雪崩はついにその流れを止めることとなった。

●焦熱の弾丸
 放たれた雪崩は完全に動きを止めた。そのことに驚きを隠せなかったのは妖本人であった。こんなことが今までなかったのか狼狽えた様子だ。
「今です百さん……私の力、託します」
「おう! オイラに任せてくれ! 吹雪野郎、オイラの炎で溶かしてやるぜ!」
 想良の力が百へと流し込まれ、百の体から炎が溢れる。咆哮と共に百は敵へと一直線に突き進んでいく。
 百の身体は灼熱化し、雪を切り裂いて進む様はさながら焦熱の弾丸。狼狽えていた妖がその一撃を避けられるはずもなく、その身に炎の一撃を叩き込まれる。
 腹部を貫かれた妖はついにその形を保つことができなくなり、その場にドロドロと溶けていく。やがてその体を形成していた雪は溶け、雲は霧散していく。
「どんなもんだい!」
 振り向き貫いた相手に向かってVサインを決める百。妖はごく普通の水へと戻っていったようだった。
「二人とも大丈夫かな? すぐ傷を癒やすからね」
「ありがとう……委員長さん……」
「委員長じゃありません! もう……無事でよかった」
 敵が完全に消失したのを受け、ダメージが元でミュエルが座りこんだところに理央が回復をしにくる。ミュエルの言葉に生真面目に返しつつもミュエルと羽琉の傷を癒やしていく。
「では……あとはタンさんと、そのお姉さんを見つける……ですね?」
 想良の発言に全員が頷く。怪我の処置などが終わると再び一行は歩きはじめる。
 妖を倒した影響なのだろう。空から暗雲は消え去り、太陽が顔をのぞかせていた。

●狸の姉弟
 洞窟の中。空を覆っていた雲が無くなったため、外からの日差しが入る。少年の姿をしたままタンは姉の看病に勤しんでいたのだが、急に明るくなったことに驚く。
「姉ぇちゃん! 外、晴れたよ! 言ってた人たちが本当にバケモノ退治してくれたんじゃないかな」
「本当に……。タンの話が本当なら、予知してきたんでしょうねぇ」
「予知!? そんなことできるの?」
 外が晴れたことに喜ぶタンは姉の発言にさらに驚きを隠せないでいた。バケモノ退治ができるような人たちだとしても、未来を知ることができる。そんなとんでもない力がこの世にあるなんて到底考えることができなかったからだ。狸の姿のまま紺は床に伏したまま言葉を続ける。
「なんでも、事件が起きそうな時に都合よく動ける『FiVE』っていう人間の組織があるって死んだ母さんが言っててね。未来が見えてるんじゃないかって言ってたわ」
 もはやタンには理解が及ばなかった。姉も、母親も持っていない未来を見通す力、相手を打倒できる強さがどんなものなのか分からなかった。だが、彼らがバケモノを打倒したことだけは晴れ渡った空が証明してくれていた。

●救援
 ガサリ――
 洞窟を隠すように生えていた植物をのけながら覚者一行が洞窟内へと足を踏み入れる。
「あぁー! 姉ぇさん! この人! この人たちだよ!」
 先ほどの話もあってか、テンションが上がってタンは大声をあげる。その言葉に驚き紺は狸の姿のまま立ち上がろうとするもそのまま足元から崩れてしまう。
「弟がお世話に……、あぁ……申し訳ありません、このような姿で……」
 立ち上がることもできず、どうにか失礼のないようにしようとする紺へと想良が毛布を掛ける。
「事情は、分かってます。無理……しないで」
 紺は自分の名前がいい当てられたこと、準備よく様々な器具や食べものが出てきたことに彼らは人だけでなく自分たちをも助けに来たのだと悟る。
 嗚咽混じりに感謝の言葉を幾度もならべ、出された食事をゆっくりと食べていく。
 ぎゅるぎゅるぎゅる~
「ぁぅ……」
 目の前にある食事を眺め、それを食べる姉を見つめ、鳴ってしまった腹の音に赤面するタン。
「ふふっ。さっ、キミもお食べ」
 そういって簡易的な鍋を作っていた理央は彼にも料理をふるまう。しかし、彼は首を振って「これは姉ぇさんの分でだから。オレは、いいよ……」と言う。しかしその腹の音は物欲しそうな声を上げる。
「タンも腹減ってんだろ? 二人とも食えるうちにメシ食っとけ!」
「そうだよ。それにこの量の鍋は病床の人一人で食べきれる量じゃないよ」
 百と理央がそう勧めると、タンは一気に食べ始める。よほどおいしかったのか、あるいは飢えていたのか、一気に食事をかきこむと今度は喉に詰まらせる。咳き込む背中を羽琉がさすりミュエルがスープを渡す。
 忙しく食事をする弟とは違い、なるべくゆっくり食べる紺が困らないよう想良は丁寧にサポートをしていく。
 そんな幸せな食事はしばらく続いた。

●安住の地
「この悪坊主め! だが、そういうことなら……しかたないのぅ。もうするんじゃないぞ」
 覚者達は薬屋の店主に今までのいきさつを説明すると納得をしてもらえ、そのうえでタンを会わせる。お叱りを受けしゅんとするタンを見やりながらしかし彼ら姉弟に同情の意思を老爺は示す。
「まぁ、じゃがこの坊主らも身寄りがないのじゃろ? せめて姉さんの方が回復するまでの間だけでもウチで面倒を見」
「本当ですか!?」
 ことさら親身に話をしていた羽琉は誰よりも先に反応する。それに対し老爺も頷きながら「まぁ、彼らが承知すればの話じゃがの」と、タンを見る。
「いいのか、じいちゃん。オレ達、人間じゃないんだぞ」
「まぁ、老人二人の寂しい家じゃて。腹空かせて死にかけるのなんざ、そこらの犬と変わらん変わらん。恐くもないわ。はっはっは」
 豪快に笑って見せる老爺はあっさりと姉弟を受け入れる。憎まれ口にも聞こえるそれを話すもその口調は柔らかく、心底このタンを心配していたことを窺わせる。
 両者の了解の元、この古妖姉弟はこの老夫婦に保護されることとなった。
「ありがとな、いろいろ」
「へへっ。いいっていいって」
 帰り支度を済ませた覚者達は駅にいた。タンは恥ずかしそうに鼻を擦りながら感謝を言う。百は誇らしげにそれに応じる。
「それじゃ……お姉さんと、店主さん夫婦と仲良く、ね?」
 ミュエルの言葉と共に駅に電車が入ってくる。タンはそれに頷いて返すのを見ると覚者達は電車に乗り込んでいく。
 タンは感謝の言葉と共に手を振り続けた。覚者達を運ぶ鉄の箱が見えなくなるまで。

■シナリオ結果■

成功

■詳細■

軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし



■あとがき■

ご参加ありがとうございました!
クリスマスごろにOPを出したというのに
もうすっかり年が変わってしまいました。

魅力的な皆さんのキャラクター達とは
また違う物語でも会いたいです!
それではまた次の機会に




 
ここはミラーサイトです