真夜中に、血の雨降らす鎧武者
●夜を歩くもの
草木も眠る丑三つ時、静かに夜に響いていた虫の音がやんだ。
がしゃり。
遠くから聞こえる音。硬い何かがこすれあう音
がしゃり。がしゃり。
脛当、佩楯(はいだて)、胴、篭手、そして鬼を思わせる装飾の兜。
がしゃり。がしゃり。がしゃり。
それは鎧。時代にすれば安土桃山時代の具足。戦場において飛んでくる矢や刀剣の類から身を守るために打たれた戦闘武具。その中身はなく、魂無き武具が彷徨っている。その傍らを護るように宙を舞う刀剣。
妖。
古ぼけた鎧が妖化し、夜の町を歩く。その先にあるのは人の営み。かつては戦場だった場所に鎧は進む。戦いの有無など関係ない。
そこに命あるなら、斬る。物言わぬ鎧武者だが、向けた槍とその雰囲気が鋭く語っていた。
●FiVE
「みなさ~ん。おはようございます~」
集まった覚者を前に、間延びした口調で久方 真由美(nCL2000003)が出迎える。人数分の粗茶とお茶請け。それが置かれたテーブルに全員が座ったことを確認し、真由美は説明を開始した。
「真夜中に鎧の妖が出ます。何も手を出さなければ、二十名近くの死者を出す大事故になるわ」
夢で見た惨劇を思い出しながら真由美は覚者に説明する。家屋に侵入する鎧武者。血飛沫舞う部屋。子供の悲鳴、そして静寂。それが複数回。未来を見た真由美はその光景を鮮明に記憶していた。
「……大丈夫です。続けますね」
お茶を一杯飲んで、気持ちを落ち着かせてからバインダーをテーブルに置く。地図と妖が向かってくる方角。そしてその攻撃方法が記されていた。
「鎧の妖は槍を使ってきます。一直線に並ぶとまとめて攻撃を受けるわ。あと気合を飛ばしてくるみたい。
それに付き添うように三本の刀が飛び交っているわ。こちらは普通に切りかかったり、風の刃を飛ばしたりするの」
真由美の説明に覚者たちは互いを見回す。敵の能力は知れた。後は自分たちが何をできるかを知り、どう対応していくかだ。
「中さんが言っていたけど、まだFiVEのことは皆に宣伝しないでって」
FiVEは出来てまだ日が浅く、組織としては強固とは言えない。余計な敵を増やさない為には、可能な限り自分たちを秘する必要がある。今は、まだ。
「皆がこの未来をただの夢にしてくれると信じてるわ」
だからお願いします、と真由美は頭を下げる。それに答えるのが覚者の勤めだ。
惨劇の未来を変える為に、覚者たちは席を立った。
草木も眠る丑三つ時、静かに夜に響いていた虫の音がやんだ。
がしゃり。
遠くから聞こえる音。硬い何かがこすれあう音
がしゃり。がしゃり。
脛当、佩楯(はいだて)、胴、篭手、そして鬼を思わせる装飾の兜。
がしゃり。がしゃり。がしゃり。
それは鎧。時代にすれば安土桃山時代の具足。戦場において飛んでくる矢や刀剣の類から身を守るために打たれた戦闘武具。その中身はなく、魂無き武具が彷徨っている。その傍らを護るように宙を舞う刀剣。
妖。
古ぼけた鎧が妖化し、夜の町を歩く。その先にあるのは人の営み。かつては戦場だった場所に鎧は進む。戦いの有無など関係ない。
そこに命あるなら、斬る。物言わぬ鎧武者だが、向けた槍とその雰囲気が鋭く語っていた。
●FiVE
「みなさ~ん。おはようございます~」
集まった覚者を前に、間延びした口調で久方 真由美(nCL2000003)が出迎える。人数分の粗茶とお茶請け。それが置かれたテーブルに全員が座ったことを確認し、真由美は説明を開始した。
「真夜中に鎧の妖が出ます。何も手を出さなければ、二十名近くの死者を出す大事故になるわ」
夢で見た惨劇を思い出しながら真由美は覚者に説明する。家屋に侵入する鎧武者。血飛沫舞う部屋。子供の悲鳴、そして静寂。それが複数回。未来を見た真由美はその光景を鮮明に記憶していた。
「……大丈夫です。続けますね」
お茶を一杯飲んで、気持ちを落ち着かせてからバインダーをテーブルに置く。地図と妖が向かってくる方角。そしてその攻撃方法が記されていた。
「鎧の妖は槍を使ってきます。一直線に並ぶとまとめて攻撃を受けるわ。あと気合を飛ばしてくるみたい。
それに付き添うように三本の刀が飛び交っているわ。こちらは普通に切りかかったり、風の刃を飛ばしたりするの」
真由美の説明に覚者たちは互いを見回す。敵の能力は知れた。後は自分たちが何をできるかを知り、どう対応していくかだ。
「中さんが言っていたけど、まだFiVEのことは皆に宣伝しないでって」
FiVEは出来てまだ日が浅く、組織としては強固とは言えない。余計な敵を増やさない為には、可能な限り自分たちを秘する必要がある。今は、まだ。
「皆がこの未来をただの夢にしてくれると信じてるわ」
だからお願いします、と真由美は頭を下げる。それに答えるのが覚者の勤めだ。
惨劇の未来を変える為に、覚者たちは席を立った。

■シナリオ詳細
■成功条件
1.妖四体の討伐。
2.なし
3.なし
2.なし
3.なし
アラタナルの世界へようこそ。
●敵情報
・鎧武者(×1)
物質系の妖です。ランク2。
どこかの土蔵に保管されていた古ぼけた日本風の鎧。それが妖になりました。長柄の槍を手にしており、戦場と虐殺を求め、街に向かいます。
攻撃方法
払う 物近列 槍を横に払い、敵を一掃します。
突く 物近単[貫2] 槍を一突きし、その後ろにいる者にもダメージを与えます。
喝! 特遠単 気合を飛ばし、相手の足を止めます。[鈍化]
・刀(×3)
物質系の妖です。ランク1。
鎧武者に付き添うように宙を飛び交っています。鎧武者が倒されても、意に介さず戦い続けるでしょう。
攻撃方法
斬る 物近単 鋭い刃で切りかかってきます。[出血]
風刃 特遠単 風の刃を放ち、離れた敵を切り裂きます。
飛行 P 常に飛行状態です。
【妖:物質系】
物体に念や力が宿り意思を持ったもの。
元の物体よりも巨大化攻撃的な見た目であることが多い。
動きは遅めのものが多いが術式は効きづらく耐久力に優れている。
討伐する事で依り代となった物体へ戻る事もある。
●場所情報
街に入る山道。もう少し進めば街に入るだろう地点。そこで妖を待ち構えます。
時刻は夜。明かりは街灯があるため不要。道幅も十分な広さで、足場もしっかりしています。時刻的に人が来る可能性は皆無です。
戦闘開始時、「鎧武者」「刀(×3)」は全て前衛に布陣しています。PC達が戦闘開始時何処に布陣するかは、ご相談の上お決めください。
事前付与は一度だけ可能とします。
皆様のプレイングをお待ちしています。
状態
完了
完了
報酬モルコイン
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
金:0枚 銀:0枚 銅:0枚
相談日数
7日
7日
参加費
0LP[+予約0LP]
0LP[+予約0LP]
参加人数
8/8
8/8
公開日
2015年08月16日
2015年08月16日
■メイン参加者 8人■

●
夜の静寂。黒のカーテンの下を八人の覚者が歩いていた。その表情は様々だ。
「初の実戦、流石に緊張しますね」
とても緊張を感じさせない笑顔で『瑞光の使徒”エル・モ・ラーラ”』新田・茂良(CL2000146)が口を開く。その手には手で抱えるほど大きな壺が一つ。そこからあふれる水を蓋で押さえながら言葉をつづけた。
「ですがこの戦いは確実に皆様の勝利に終ります。なぜなら、このエル・モ・ラーラの加護があるからです!」
「そうですか。私も私の奉ずる神の元に頑張りますね」
言って手を合わせる『プライヤー』帝逢・衣栖(CL2000218)。両親はこういったことには慣れていたのだろうか? 自分はうまくやれるのだろうか? 様々な不安を祓うように手を合わせ、心静かに祈る。
「ここで私達が阻止できなければ多くの犠牲が出てしまうのですよね……」
「うむ。すべき事を為す。言葉にするは容易なれど、現とするは容易からず」
重々しく頷く『卑金の魂』藤城・巌(CL2000073)。妖を倒す。悲劇を止める。それが容易でないことはよくわかっている。自分に才なきことは痛感させられてきた。だからこそ、ここで為す。その意思を込めてこぶしを握った。
「全身の全霊を。いや、それ以上の覚悟と気合を入れねば……うぉおおおおお!」
「おう、気合入ってきたぜ! 待ちに待ってた妖とのバトルだからな!」
戦いの前の高揚を示すように鹿ノ島・遥(CL2000227)が自分の手のひらに拳を合わせる。ぱん、と小気味いい音が響いた。人外の存在。その恐怖よりも先に高揚が出てしまう。頭の中で相手をイメージしながら歩を進める。
「槍相手ってのは初めてだからな。道場仲間に対槍の稽古をしてもらったんだ」
「異形の槍使い。魂なき存在なれど、相手にとって不足はない」
『紅胡蝶』と『緋那菊』。二刀の鞘を軽く握りながら『閃華双剣』太刀風 紅刃(CL2000191)が口を開く。彼女にとって剣術は異形に対抗する術。そのために研鑽を積んできた。その剣が通じるか。夜の空気を吸い込み、心を静める。
「私の剣がどこまで通ずるか、試させてもらおうか」
「下されたオーダーは敵の殲滅。ただそれだけです」
戦いを前に憤る者たちの横で、静かにそう告げるのは『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)だ。顔は無表情だが、その耳としっぽが如実に感情を示している。戦う前の犬のごとく、尾はピンと立っていた。
「予見された未来を、ただの悪い夢といたしましょう」
「そうじゃのぅ。頑張るとするか」
スーツ姿にハットの『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)がハットを押さえながら道を進む。若者が元気がいいのは気分がいい。自分にできることはそのあと押しだ。心の中でそう告げて、真正面を見る。そろそろ妖が現れるころだ。
「聞こえてきたぞ。あれか」
「怖そうな顔だね、お姉ちゃん。……あれ? お姉ちゃんいない」
鎧の面を見て『C』七十里・神無(CL2000028)がのんびり告げる。いつもそばにいる姉を思わず探し、そういえば今はいないんだっけと思い直した。刀を抜いて垂らすように構える。緩やかに見えるが、逆に言えば柔軟な構え。
「妖は倒さなきゃだめ、ってお姉ちゃんが言っていたわ」
この妖を逃せば、惨事が生まれる。その予知を覆すために八人の覚者はここに集う。
知性なき妖はなぜ彼らがここにいるかなど、想像すらしない。ただ、彼らが敵であることは理解できた。敵なら倒す。槍を構え、刀が宙を舞う。
星の天幕の下、覚者と妖の戦いの火ぶたが切って落とされた。
●
戦闘開示と同時に、覚者は二チームに分かれる。
茂良、クー、姫路、遥のチームと、紅刃、巌、神無、衣栖のチーム。二陣に分かれての挟撃の形である。
「一番槍はもらったぜ!」
真正面から敵陣に向かう遥。右の手のひらに黄色の文様が光り、手にした布が稲光る。その名は『白溶裔』。それは遥の意志に反応し、ふわりと体にまとわりつく。遥の気を伝道し、武器に防具にと多彩に変化していく。
しっかり足を踏み込み、拳を構える。幾年も鍛えてきた空手の構え。呼吸をするように拳を引き、宙を舞う刀を目にとらえる。呼気と同時に半歩踏み込み、拳を突き出した。やや斜め下に突き出す稲妻を纏った中段突き。その一撃が刀を捕らえる。
「土の鎧を纏うなど、この国に来るまで思いもしませんでした」
クーは自らに土の鎧をまといながら、その奇異さにまず驚く。そして想像以上に体になじむ鎧に再度驚いた。自らの動きを阻害することなく、それでいて高い硬度の防具。これが源素か、とその精度の良さに頷いた。
両手に構えた刃が振るわれる。一度目は刀の行く先を止めるように。そして二度目で刀の腹をクーの刃が打つ。金属音が鳴り響き、刀が地面に叩きつけられ――る前にクーの足が刀を蹴り上げる。鍛えられた二刃と獣の足技。それが彼女の戦闘スタイル。
「汝に災いあれ、転じて我らの瑞祥と成そうぞ!」
宙を舞う刀を逃さないと茂良の翼が羽ばたいた。覚醒した茂良の肩口から広がる黄色い羽根。わずかに宙に浮き、壺を持つ姿はまさに使徒。天より降りて人を導く天使の如き。人々の平和を守るため、妖に災いを与えるべく翼をはためかせた。
夜風が吹く。それは圧縮されてゆく空気の流れ。頬を撫でる夏の空気を感じながら、茂良の瞳が刀を捕らえる。静かに羽を動かせば、風が災いを与えるべく妖刀に向かって飛ぶ。その一撃で刀は折れ、地面に転がった。
「災禍を断つ矜持こそが我が刃なり。双天の剣に斬れぬモノは無い」
二本の刀を構え、紅刃が鎧武者に刃を向ける。断片的に思い出される前世の記憶。その影響か、それとも積み重ねた剣術の鍛錬からか。戦いの中にあっても体は自然と動いてくれる。槍の間合い半歩前から、一気に踏み込んで。
繰り出される槍を右手の刀で弾いて逸らす。その衝撃を流すように体を回転させながら、妖に迫る。脇をしっかりと締め、足のつま先を相手に向けて、左手の刀を繰り出した。風を断つ双剣。それが紅刃の一族が伝える剣術の名。刃は風を切り、そして災禍を切る。
「遍く災禍を砕く槌が一、藤城巌! いざ参る!」
大声とともに鎧武者に向かう巌。体内の炎を燃やし、握った拳に炎を纏わせる。繰り出される槍の一撃に太ももを傷つけられるが、構わず歩を進めた。痛い。だから何だ。ここを通せばこれ以上の痛みが生まれるのだ。それを思えばどうということはない。
翻る妖の槍。穂先ではなく石突の部分で殴打しようとする妖の一撃を、その右腕で受ける。攻撃に生まれた隙を逃すことなく、巌は拳を打ち出した。その一撃、まさに槌のごとく。心の炎と源素の火、それを共に乗せた一撃。
「大丈夫ですか? 今癒しますね」
傷ついた覚者たちを見て、衣栖が背筋を伸ばす。心穏やかにするために呼吸を整え、小川のせせらぎをイメージする。悠久の時を経て変わることなく、されど日々変わり続ける水の流れ。自然への敬意こそが、巫女の本懐。
源素で生んだ水の滴を玉串に乗せ、天に掲げる。その恵みに感謝しつつ、傷の深い覚者に向けて玉串を祓った。滴は光を反射しながら宙を舞い、怪我をしている部位に降り注ぐ。癒しの力持つ源素の水が、覚者の傷を癒していく。
「私は刀よりお肉のほうが好きだなあ」
指先を咥えながら神無が不満げに告げる。さすがに刀は食べれないかなぁ。守護使役の『もぐ』なら食べることができるかなぁ。そんなことを考えながら、妖と相対する。多少思考がずれてはいるが、行動は決してずれていない。
どこからともなく取り出した植物の種。それを手のひらに乗せて、唇をすぼめて息を吹きかける。種は神無の吐息に乗って飛び、急成長して鋭い刺となって鎧武者に突き刺さる。ふふ、と柔らかくほほ笑む神無。
覚者は妖を挟んでの陣取りに成功する。挟撃は功をなし、槍によって一網打尽にされることはなくなった。
されど妖は戦意を喪失しない。逃亡を思考するだけの知性がないのか、それとも不利な戦場を望んだのか。
夜の戦いは加速していく。
●
挟撃は功をなす。その効果はてきめんだ。鎧は四方を囲まれ、その対応に追われている。刀も主を守ることはせず、ただ近隣の覚者に襲い掛かるのみ。
だが、二分した陣形は長所ばかりではない。戦力分散というデメリットも存在する。妖はまず一角を崩すために茂良、クー、姫路、遥のチームに迫る。宙を舞う刀が一閃し、鎧武者の槍が振るわれた。
「……ぬかったか……!?」
その猛攻を受けて、姫路が膝を屈する。とどめとばかりに振るわれた槍の一撃に割って入るクーと遥。その隙に茂良が姫路を避難させる。
「どうした妖! 自分の拳に臆したか! うおおおおおお!」
巌が叫び、拳を振るう。怒声は仲間の救出を助ける為と妖の気を引く為に。端的に言えば無駄な行為だ。事実、妖は声に反応することなく淡々と刃を振るっている。だが、たとえ無駄だとしも仲間のために行動しないわけにはいかない。それが巌という男なのだ。
もう巌に炎を生む力は残っていないが、まだこの拳と体がある。頑丈な鉄の鎧に拳を突き立てる。雨垂れが岩を穿つように、何度も何度も。
「さあ、遣り合おうか!」
同じく拳を構え、遥が鎧武者に挑む。対槍の模擬戦から推測される槍の動き。全く知らないことと、僅かでも知っていることの差は大きい。間合いがどれぐらいか。攻撃の起点はどこか。注視すべき場所はどこか。0と1の差が遥の思考を速めていく。
遥は繰り出される槍のダメージを最小限で受け流し、真正面で構えてまっすぐ拳を穿つ。思考を止めるな。血を滾らせろ。今は戦いの場なのだ。
「ただ暴れ、殺めるだけならば、大人しく錆びつき、朽ち果てて行きなさい」
クーは日本の鎧を知識でしか知らない。かつては称賛された戦の心も今となっては時代錯誤だ。そのような鎧など要らない。ここで止めて惨劇の悪夢をただの夢にするのだ。それが下されたオーダー。この戦いは主の意なれど、自分の意思で受諾した命令。
クーの両腕が十字を描く。刹那の差で繰り出される二つの刃。鎧を刻む小気味いい二連撃が響き、鎧の小手と佩楯に傷口が生まれる。
「神聖なる壺の加護を皆様に!」
崩れそうになった戦線を支えたのは茂良の壺……に張り付けた術符。壺からあふれる水が渦を巻き、霧となる。霧は熱くなった体を冷やし、そして傷の熱を癒していく。神聖なる壺の加護はさておき、茂良の術が戦線を支えていた。
鎧武者の動きに注意し、その槍の構えから仲間に指示を出す茂良。同時に衣栖と連携を取り、傷の深い仲間を癒すために動いていた。
「わたしの刀も勝手に飛ぶようにならないかしらー」
そうしたら振り回さなくてよくて楽なのに。億劫そうにつぶやく神無。刀を持つのも面倒とばかりに刀の柄から手を放し――覚醒して鳥となった足でつかんで真上に振り上げる。人の手よりも強く、そして素早い一撃。
翼となった左腕で羽ばたき姿勢を制御する。その一閃は三日月を思わせる刀の軌跡。獣のごとく獰猛に、月のように美しく。
「祓い給え、清め給え……」
印を切り、仲間をいやす衣栖。戦いの初めから最後まで仲間のために祈り続ける衣栖。妖という不浄を祓い、平和な人の営みを清めていく。災禍よ立ち去り給え、ここより先は人の領域。汝、踏み入ることかなわず。
祈りは強く、されど神に頼るだけではない。その癒しが戦線を支える。水の力が仲間に届き、妖に受けた傷が小さくなっていく。
「この一振りで終わらせる。跡形残らず滅するが良い」
鎧武者に二刀をもって迫る紅刃。跳ね上げるような槍の軌跡を二刀を重ねて受け止める。その衝撃に血を流しながら、流れるような動きで鎧武者に迫った。二刀の鍔に描かれた胡蝶と雛菊が、ひらり夜の戦場を舞う。
「これで終わりだ。今は安らかに眠れ」
刀から確かな手ごたえが紅刃に伝わり、二刀は鎧武者の面と小手を同時に切った。面が二つに割れ、槍を持つ籠手が宙を舞う。
からん。
二つに割れた面と槍が地面に落ちる。それを追うように鎧武者も地面に崩れ落ちた。
●
残った刀の掃討にはそれほど時間がかからなかった。一体一体狙って潰して行き、大きな怪我もなく残存の妖は倒れていく。
「俺は『十天』の鹿ノ島! 冥土の土産に覚えとけ!」
戦闘後、死出に旅立つ妖に向けて遥が名乗りを上げる。全身槍の傷で血だらけだが、それでも気丈に声をあげる。FiVEの初陣は無事勝利で終わった。これからの戦いはどうだろうか。それを思うとまた胸が躍る。
「皆様は大丈夫ですか?」
倒れた姫路を癒しながら、他の仲間の心配をする衣栖。人々を守り、救う。まだ非力な自分にできるのだろうか。少なくとも今回は、惨劇を防ぎ切った。その事実に今は安堵する。未熟を理解し、そして前を見る。
「問題ありません。血の雨は悪い夢になりました」
服についた埃を払いながらクーが一礼した。首から下げた懐中時計で時間を確認する。真由美が予知した時間だ。だが町に妖は訪れなかった。静かな夜の静寂が、クーの金色の瞳に映る。
「やっぱりたべちゃだめー?」
物欲しそうに神無が妖だったものを見る。折れた刀とぼろぼろの和式鎧。それを食べたいと意思表示する。だがそれは他の仲間によって止められた。刀剣や鎧を食べるのを断念し、神無は全身でため息をついた。
「妖が宿る程の品物ですからね。研究の糧にしてもらいます」
茂良が鎧と刀を回収しながら、神無をやんわりと押しとどめた。FiVEの目的は神秘解明だ。妖を見聞きし交戦した報告もそのデータになるが、こういった回収品もデータになるだろう。
「…………」
紅刃は納刀後、手を合わせて鎧と刀に向かい黙祷を捧げていた。妖化していたとはいえ、元は火との思いがこもった武具なのだ。古の武人に敬意を表し、その魂を弔うために静かに祈る。
「しかし、共に戦うともがらの何と心強い事か。非才のこの身一つでは出来ぬ事も、これなれば為せる。いや、成さねばならぬ!」
勝利をかみしめるように巌が大声で叫んだ。自分がやらなければならないことを意識し、それでも仲間とともになら乗り越えられると手ごたえを感じたのだ。この戦いのように、一丸となれば戦える。
勝利の声は、高らかに戦場に響いていた。
FiVEでの初陣は、傷だらけになったが大きな怪我人もなく無事に終わりを告げる。
華々しいその戦果は、今は世間に知られることはなく夜は更けていく。だが平和な朝が来ること自体が彼らの報酬だ。
鎧武者を退け、明日の朝を守った覚者達。
彼らは誰知られることもなく、彼らの日常に戻っていくのであった。
夜の静寂。黒のカーテンの下を八人の覚者が歩いていた。その表情は様々だ。
「初の実戦、流石に緊張しますね」
とても緊張を感じさせない笑顔で『瑞光の使徒”エル・モ・ラーラ”』新田・茂良(CL2000146)が口を開く。その手には手で抱えるほど大きな壺が一つ。そこからあふれる水を蓋で押さえながら言葉をつづけた。
「ですがこの戦いは確実に皆様の勝利に終ります。なぜなら、このエル・モ・ラーラの加護があるからです!」
「そうですか。私も私の奉ずる神の元に頑張りますね」
言って手を合わせる『プライヤー』帝逢・衣栖(CL2000218)。両親はこういったことには慣れていたのだろうか? 自分はうまくやれるのだろうか? 様々な不安を祓うように手を合わせ、心静かに祈る。
「ここで私達が阻止できなければ多くの犠牲が出てしまうのですよね……」
「うむ。すべき事を為す。言葉にするは容易なれど、現とするは容易からず」
重々しく頷く『卑金の魂』藤城・巌(CL2000073)。妖を倒す。悲劇を止める。それが容易でないことはよくわかっている。自分に才なきことは痛感させられてきた。だからこそ、ここで為す。その意思を込めてこぶしを握った。
「全身の全霊を。いや、それ以上の覚悟と気合を入れねば……うぉおおおおお!」
「おう、気合入ってきたぜ! 待ちに待ってた妖とのバトルだからな!」
戦いの前の高揚を示すように鹿ノ島・遥(CL2000227)が自分の手のひらに拳を合わせる。ぱん、と小気味いい音が響いた。人外の存在。その恐怖よりも先に高揚が出てしまう。頭の中で相手をイメージしながら歩を進める。
「槍相手ってのは初めてだからな。道場仲間に対槍の稽古をしてもらったんだ」
「異形の槍使い。魂なき存在なれど、相手にとって不足はない」
『紅胡蝶』と『緋那菊』。二刀の鞘を軽く握りながら『閃華双剣』太刀風 紅刃(CL2000191)が口を開く。彼女にとって剣術は異形に対抗する術。そのために研鑽を積んできた。その剣が通じるか。夜の空気を吸い込み、心を静める。
「私の剣がどこまで通ずるか、試させてもらおうか」
「下されたオーダーは敵の殲滅。ただそれだけです」
戦いを前に憤る者たちの横で、静かにそう告げるのは『Queue』クー・ルルーヴ(CL2000403)だ。顔は無表情だが、その耳としっぽが如実に感情を示している。戦う前の犬のごとく、尾はピンと立っていた。
「予見された未来を、ただの悪い夢といたしましょう」
「そうじゃのぅ。頑張るとするか」
スーツ姿にハットの『自称サラリーマン』高橋・姫路(CL2000026)がハットを押さえながら道を進む。若者が元気がいいのは気分がいい。自分にできることはそのあと押しだ。心の中でそう告げて、真正面を見る。そろそろ妖が現れるころだ。
「聞こえてきたぞ。あれか」
「怖そうな顔だね、お姉ちゃん。……あれ? お姉ちゃんいない」
鎧の面を見て『C』七十里・神無(CL2000028)がのんびり告げる。いつもそばにいる姉を思わず探し、そういえば今はいないんだっけと思い直した。刀を抜いて垂らすように構える。緩やかに見えるが、逆に言えば柔軟な構え。
「妖は倒さなきゃだめ、ってお姉ちゃんが言っていたわ」
この妖を逃せば、惨事が生まれる。その予知を覆すために八人の覚者はここに集う。
知性なき妖はなぜ彼らがここにいるかなど、想像すらしない。ただ、彼らが敵であることは理解できた。敵なら倒す。槍を構え、刀が宙を舞う。
星の天幕の下、覚者と妖の戦いの火ぶたが切って落とされた。
●
戦闘開示と同時に、覚者は二チームに分かれる。
茂良、クー、姫路、遥のチームと、紅刃、巌、神無、衣栖のチーム。二陣に分かれての挟撃の形である。
「一番槍はもらったぜ!」
真正面から敵陣に向かう遥。右の手のひらに黄色の文様が光り、手にした布が稲光る。その名は『白溶裔』。それは遥の意志に反応し、ふわりと体にまとわりつく。遥の気を伝道し、武器に防具にと多彩に変化していく。
しっかり足を踏み込み、拳を構える。幾年も鍛えてきた空手の構え。呼吸をするように拳を引き、宙を舞う刀を目にとらえる。呼気と同時に半歩踏み込み、拳を突き出した。やや斜め下に突き出す稲妻を纏った中段突き。その一撃が刀を捕らえる。
「土の鎧を纏うなど、この国に来るまで思いもしませんでした」
クーは自らに土の鎧をまといながら、その奇異さにまず驚く。そして想像以上に体になじむ鎧に再度驚いた。自らの動きを阻害することなく、それでいて高い硬度の防具。これが源素か、とその精度の良さに頷いた。
両手に構えた刃が振るわれる。一度目は刀の行く先を止めるように。そして二度目で刀の腹をクーの刃が打つ。金属音が鳴り響き、刀が地面に叩きつけられ――る前にクーの足が刀を蹴り上げる。鍛えられた二刃と獣の足技。それが彼女の戦闘スタイル。
「汝に災いあれ、転じて我らの瑞祥と成そうぞ!」
宙を舞う刀を逃さないと茂良の翼が羽ばたいた。覚醒した茂良の肩口から広がる黄色い羽根。わずかに宙に浮き、壺を持つ姿はまさに使徒。天より降りて人を導く天使の如き。人々の平和を守るため、妖に災いを与えるべく翼をはためかせた。
夜風が吹く。それは圧縮されてゆく空気の流れ。頬を撫でる夏の空気を感じながら、茂良の瞳が刀を捕らえる。静かに羽を動かせば、風が災いを与えるべく妖刀に向かって飛ぶ。その一撃で刀は折れ、地面に転がった。
「災禍を断つ矜持こそが我が刃なり。双天の剣に斬れぬモノは無い」
二本の刀を構え、紅刃が鎧武者に刃を向ける。断片的に思い出される前世の記憶。その影響か、それとも積み重ねた剣術の鍛錬からか。戦いの中にあっても体は自然と動いてくれる。槍の間合い半歩前から、一気に踏み込んで。
繰り出される槍を右手の刀で弾いて逸らす。その衝撃を流すように体を回転させながら、妖に迫る。脇をしっかりと締め、足のつま先を相手に向けて、左手の刀を繰り出した。風を断つ双剣。それが紅刃の一族が伝える剣術の名。刃は風を切り、そして災禍を切る。
「遍く災禍を砕く槌が一、藤城巌! いざ参る!」
大声とともに鎧武者に向かう巌。体内の炎を燃やし、握った拳に炎を纏わせる。繰り出される槍の一撃に太ももを傷つけられるが、構わず歩を進めた。痛い。だから何だ。ここを通せばこれ以上の痛みが生まれるのだ。それを思えばどうということはない。
翻る妖の槍。穂先ではなく石突の部分で殴打しようとする妖の一撃を、その右腕で受ける。攻撃に生まれた隙を逃すことなく、巌は拳を打ち出した。その一撃、まさに槌のごとく。心の炎と源素の火、それを共に乗せた一撃。
「大丈夫ですか? 今癒しますね」
傷ついた覚者たちを見て、衣栖が背筋を伸ばす。心穏やかにするために呼吸を整え、小川のせせらぎをイメージする。悠久の時を経て変わることなく、されど日々変わり続ける水の流れ。自然への敬意こそが、巫女の本懐。
源素で生んだ水の滴を玉串に乗せ、天に掲げる。その恵みに感謝しつつ、傷の深い覚者に向けて玉串を祓った。滴は光を反射しながら宙を舞い、怪我をしている部位に降り注ぐ。癒しの力持つ源素の水が、覚者の傷を癒していく。
「私は刀よりお肉のほうが好きだなあ」
指先を咥えながら神無が不満げに告げる。さすがに刀は食べれないかなぁ。守護使役の『もぐ』なら食べることができるかなぁ。そんなことを考えながら、妖と相対する。多少思考がずれてはいるが、行動は決してずれていない。
どこからともなく取り出した植物の種。それを手のひらに乗せて、唇をすぼめて息を吹きかける。種は神無の吐息に乗って飛び、急成長して鋭い刺となって鎧武者に突き刺さる。ふふ、と柔らかくほほ笑む神無。
覚者は妖を挟んでの陣取りに成功する。挟撃は功をなし、槍によって一網打尽にされることはなくなった。
されど妖は戦意を喪失しない。逃亡を思考するだけの知性がないのか、それとも不利な戦場を望んだのか。
夜の戦いは加速していく。
●
挟撃は功をなす。その効果はてきめんだ。鎧は四方を囲まれ、その対応に追われている。刀も主を守ることはせず、ただ近隣の覚者に襲い掛かるのみ。
だが、二分した陣形は長所ばかりではない。戦力分散というデメリットも存在する。妖はまず一角を崩すために茂良、クー、姫路、遥のチームに迫る。宙を舞う刀が一閃し、鎧武者の槍が振るわれた。
「……ぬかったか……!?」
その猛攻を受けて、姫路が膝を屈する。とどめとばかりに振るわれた槍の一撃に割って入るクーと遥。その隙に茂良が姫路を避難させる。
「どうした妖! 自分の拳に臆したか! うおおおおおお!」
巌が叫び、拳を振るう。怒声は仲間の救出を助ける為と妖の気を引く為に。端的に言えば無駄な行為だ。事実、妖は声に反応することなく淡々と刃を振るっている。だが、たとえ無駄だとしも仲間のために行動しないわけにはいかない。それが巌という男なのだ。
もう巌に炎を生む力は残っていないが、まだこの拳と体がある。頑丈な鉄の鎧に拳を突き立てる。雨垂れが岩を穿つように、何度も何度も。
「さあ、遣り合おうか!」
同じく拳を構え、遥が鎧武者に挑む。対槍の模擬戦から推測される槍の動き。全く知らないことと、僅かでも知っていることの差は大きい。間合いがどれぐらいか。攻撃の起点はどこか。注視すべき場所はどこか。0と1の差が遥の思考を速めていく。
遥は繰り出される槍のダメージを最小限で受け流し、真正面で構えてまっすぐ拳を穿つ。思考を止めるな。血を滾らせろ。今は戦いの場なのだ。
「ただ暴れ、殺めるだけならば、大人しく錆びつき、朽ち果てて行きなさい」
クーは日本の鎧を知識でしか知らない。かつては称賛された戦の心も今となっては時代錯誤だ。そのような鎧など要らない。ここで止めて惨劇の悪夢をただの夢にするのだ。それが下されたオーダー。この戦いは主の意なれど、自分の意思で受諾した命令。
クーの両腕が十字を描く。刹那の差で繰り出される二つの刃。鎧を刻む小気味いい二連撃が響き、鎧の小手と佩楯に傷口が生まれる。
「神聖なる壺の加護を皆様に!」
崩れそうになった戦線を支えたのは茂良の壺……に張り付けた術符。壺からあふれる水が渦を巻き、霧となる。霧は熱くなった体を冷やし、そして傷の熱を癒していく。神聖なる壺の加護はさておき、茂良の術が戦線を支えていた。
鎧武者の動きに注意し、その槍の構えから仲間に指示を出す茂良。同時に衣栖と連携を取り、傷の深い仲間を癒すために動いていた。
「わたしの刀も勝手に飛ぶようにならないかしらー」
そうしたら振り回さなくてよくて楽なのに。億劫そうにつぶやく神無。刀を持つのも面倒とばかりに刀の柄から手を放し――覚醒して鳥となった足でつかんで真上に振り上げる。人の手よりも強く、そして素早い一撃。
翼となった左腕で羽ばたき姿勢を制御する。その一閃は三日月を思わせる刀の軌跡。獣のごとく獰猛に、月のように美しく。
「祓い給え、清め給え……」
印を切り、仲間をいやす衣栖。戦いの初めから最後まで仲間のために祈り続ける衣栖。妖という不浄を祓い、平和な人の営みを清めていく。災禍よ立ち去り給え、ここより先は人の領域。汝、踏み入ることかなわず。
祈りは強く、されど神に頼るだけではない。その癒しが戦線を支える。水の力が仲間に届き、妖に受けた傷が小さくなっていく。
「この一振りで終わらせる。跡形残らず滅するが良い」
鎧武者に二刀をもって迫る紅刃。跳ね上げるような槍の軌跡を二刀を重ねて受け止める。その衝撃に血を流しながら、流れるような動きで鎧武者に迫った。二刀の鍔に描かれた胡蝶と雛菊が、ひらり夜の戦場を舞う。
「これで終わりだ。今は安らかに眠れ」
刀から確かな手ごたえが紅刃に伝わり、二刀は鎧武者の面と小手を同時に切った。面が二つに割れ、槍を持つ籠手が宙を舞う。
からん。
二つに割れた面と槍が地面に落ちる。それを追うように鎧武者も地面に崩れ落ちた。
●
残った刀の掃討にはそれほど時間がかからなかった。一体一体狙って潰して行き、大きな怪我もなく残存の妖は倒れていく。
「俺は『十天』の鹿ノ島! 冥土の土産に覚えとけ!」
戦闘後、死出に旅立つ妖に向けて遥が名乗りを上げる。全身槍の傷で血だらけだが、それでも気丈に声をあげる。FiVEの初陣は無事勝利で終わった。これからの戦いはどうだろうか。それを思うとまた胸が躍る。
「皆様は大丈夫ですか?」
倒れた姫路を癒しながら、他の仲間の心配をする衣栖。人々を守り、救う。まだ非力な自分にできるのだろうか。少なくとも今回は、惨劇を防ぎ切った。その事実に今は安堵する。未熟を理解し、そして前を見る。
「問題ありません。血の雨は悪い夢になりました」
服についた埃を払いながらクーが一礼した。首から下げた懐中時計で時間を確認する。真由美が予知した時間だ。だが町に妖は訪れなかった。静かな夜の静寂が、クーの金色の瞳に映る。
「やっぱりたべちゃだめー?」
物欲しそうに神無が妖だったものを見る。折れた刀とぼろぼろの和式鎧。それを食べたいと意思表示する。だがそれは他の仲間によって止められた。刀剣や鎧を食べるのを断念し、神無は全身でため息をついた。
「妖が宿る程の品物ですからね。研究の糧にしてもらいます」
茂良が鎧と刀を回収しながら、神無をやんわりと押しとどめた。FiVEの目的は神秘解明だ。妖を見聞きし交戦した報告もそのデータになるが、こういった回収品もデータになるだろう。
「…………」
紅刃は納刀後、手を合わせて鎧と刀に向かい黙祷を捧げていた。妖化していたとはいえ、元は火との思いがこもった武具なのだ。古の武人に敬意を表し、その魂を弔うために静かに祈る。
「しかし、共に戦うともがらの何と心強い事か。非才のこの身一つでは出来ぬ事も、これなれば為せる。いや、成さねばならぬ!」
勝利をかみしめるように巌が大声で叫んだ。自分がやらなければならないことを意識し、それでも仲間とともになら乗り越えられると手ごたえを感じたのだ。この戦いのように、一丸となれば戦える。
勝利の声は、高らかに戦場に響いていた。
FiVEでの初陣は、傷だらけになったが大きな怪我人もなく無事に終わりを告げる。
華々しいその戦果は、今は世間に知られることはなく夜は更けていく。だが平和な朝が来ること自体が彼らの報酬だ。
鎧武者を退け、明日の朝を守った覚者達。
彼らは誰知られることもなく、彼らの日常に戻っていくのであった。
■シナリオ結果■
成功
■詳細■
MVP
なし
軽傷
なし
重傷
なし
死亡
なし
称号付与
なし
特殊成果
なし
