世界は落ち着きを取り戻し、その後に結婚した水部 稜（CL2001272）と天野 澄香（CL2000194）は大きな窓から暖かい朝日が差し込むダイニングで朝食を取っていた。
「お食事がちゃんと終わってからにしないと、書類汚しちゃいますよ？」
　食べ終えた食器を全て重ねてテーブルの中央に退けて書類に目を通している稜を見て、澄香が笑みを浮かべながら注意すると彼は声がした方へ顔を向ける。
「すまん、今日の裁判で必要な資料が揃っているか、間違いがないか、と気になってな」
　真剣な表情のまま書類をテーブルの上に置くと、稜は少し冷めたコーヒーを飲み干した。
「コーヒー、おかわりします？」
「いただこう」
　澄香が手にしているコーヒーサーバーを指しながら言うと、稜は空になったティーカップを差し出しながら小さく笑みを浮かべた。
　初めの頃は、新生活に慣れずに恥ずかしくて視線を逸らしながら食事や会話をしていたのに、今ではもう熟年夫婦の様だ。
「ありがとう」
　澄香がティーカップにコーヒーを注ぐと、稜は封筒に書類を仕舞いながら優しい声色で礼を言う。
「いいえ、水部さん……稜さん！」
「相変わらずだな」
　思わず名字で呼んでしまう澄香は頬を赤らめながら慌てて訂正する姿を稜は、世界が変わっても、結婚して慣れた生活でも、彼女はあの頃から変わらないな、と思う。
　この日常が、ありふれた平穏が、ただ幸せだという事に間違いはないのだと二人には言えるであろう。