桜降り注ぐ並木道で
青空に大きく放った枝は、うっすらと色づいた桜花で埋め尽くされていた。
ただ、ただ美しく……。
過ぎ去ったいくつもの春が、新しい香りに満ちて、わたしたちの胸の内にふたたび花ひらいたのだ。
「うわぁ、すごいですね」
賀茂 たまき(CL2000994)が桜を見上げて声をあげる。手にしているのは、苺と生クリームのクレープだ。
「ええ……。すごくきれいですね」
ブルーベリーと生クリームのクレープを片手に十夜 八重(CL2000122)あいづちを打てば、蘇我島 燐花(CL2000695)も微笑みを返す。
椿 那由多(CL2001442)は、静かにみんなをみつめた。
この一瞬を永遠に切り取りたくて、瞬きを繰り返す。
美しく、気高い横顔……。これからもう二度と、影を帯びることがないように、と願う。思いがしみじみ胸から溢れだし、言葉になって、那由多の唇から零れ落ちた。
「平和ですねえ」
「……ほんとうに。平和ですね」
燐花はチョコバナナのクレープをひと口齧った。
世界中から源素による災いが消え去った訳ではない。むしろ、災いの種子は世界中にばらまかれ、炎をあげている。だけど……。
「だけどそれは、人と人の戦い。これって、私たちが源素のない世界を選んだとしても――」
消えていく語尾を八重がしっかり受け止める。
「なくならなかったでしょうね。
私たちはその冬の記憶を胸に抱きつつ、春の日を迎えました。戦いの……いいえ、青春の回想を記憶のなかに、一種の光として残しましょう」
ああ、とたまきが明るい声を上げた。
「これまで日本は、ううん、世界は古い時のなかに閉じ込められていたけれど、これからは未来に向かう新たな時がはじまる……ということですね」
「ところで」、と八重が那由多へ視線を向ける。
「なんです?」
「抹茶クレープ、早く食べないと桜クレープになってしまいますよ」
あら、と小さく驚いて、那由多は抹茶のクレープ生地から桜の花びらをはがしとりはじめた。
ひらり、ひらり。
桜の花弁が舞い落ちて、四人が歩く道を点々と、淡く、美しく染める。
「それで、お味は?」
三人が声を揃えてたずねる。
「美味しいですよ。とっても。生クリームが甘くて。……下のほうにほろ苦い抹茶クリームが入っているそうやけど、それも楽しみです」
誰が言い出しっぺなのか……少しずつ、クレープを齧りあって味見をした。
「また四人で集まりましょうね」
「ええ、また」
「約束ですよ」
「それでは、みんなで輪になりましよう――」
それぞれがクレープをグラスに見立てて持ち、大真面目な顔で、ちょん、ちょん、と触れ合わせる。
燐花がぽつりと漏らした。
「クレープの誓い、ですか。いいですね、なんとなく」
みんなで目を合わせ合う。
咲顔(えがお)が四つ、ほころんだ。明るい笑い声に吹きあげられ、桜の花びらが空高く舞いあがった。
四人は桜の花の下で、将来の計画を立て、未来のありかたを想像する。
それはきっと、素晴らしいものにちがいない。
ただ、ただ美しく……。
過ぎ去ったいくつもの春が、新しい香りに満ちて、わたしたちの胸の内にふたたび花ひらいたのだ。
「うわぁ、すごいですね」
賀茂 たまき(CL2000994)が桜を見上げて声をあげる。手にしているのは、苺と生クリームのクレープだ。
「ええ……。すごくきれいですね」
ブルーベリーと生クリームのクレープを片手に十夜 八重(CL2000122)あいづちを打てば、蘇我島 燐花(CL2000695)も微笑みを返す。
椿 那由多(CL2001442)は、静かにみんなをみつめた。
この一瞬を永遠に切り取りたくて、瞬きを繰り返す。
美しく、気高い横顔……。これからもう二度と、影を帯びることがないように、と願う。思いがしみじみ胸から溢れだし、言葉になって、那由多の唇から零れ落ちた。
「平和ですねえ」
「……ほんとうに。平和ですね」
燐花はチョコバナナのクレープをひと口齧った。
世界中から源素による災いが消え去った訳ではない。むしろ、災いの種子は世界中にばらまかれ、炎をあげている。だけど……。
「だけどそれは、人と人の戦い。これって、私たちが源素のない世界を選んだとしても――」
消えていく語尾を八重がしっかり受け止める。
「なくならなかったでしょうね。
私たちはその冬の記憶を胸に抱きつつ、春の日を迎えました。戦いの……いいえ、青春の回想を記憶のなかに、一種の光として残しましょう」
ああ、とたまきが明るい声を上げた。
「これまで日本は、ううん、世界は古い時のなかに閉じ込められていたけれど、これからは未来に向かう新たな時がはじまる……ということですね」
「ところで」、と八重が那由多へ視線を向ける。
「なんです?」
「抹茶クレープ、早く食べないと桜クレープになってしまいますよ」
あら、と小さく驚いて、那由多は抹茶のクレープ生地から桜の花びらをはがしとりはじめた。
ひらり、ひらり。
桜の花弁が舞い落ちて、四人が歩く道を点々と、淡く、美しく染める。
「それで、お味は?」
三人が声を揃えてたずねる。
「美味しいですよ。とっても。生クリームが甘くて。……下のほうにほろ苦い抹茶クリームが入っているそうやけど、それも楽しみです」
誰が言い出しっぺなのか……少しずつ、クレープを齧りあって味見をした。
「また四人で集まりましょうね」
「ええ、また」
「約束ですよ」
「それでは、みんなで輪になりましよう――」
それぞれがクレープをグラスに見立てて持ち、大真面目な顔で、ちょん、ちょん、と触れ合わせる。
燐花がぽつりと漏らした。
「クレープの誓い、ですか。いいですね、なんとなく」
みんなで目を合わせ合う。
咲顔(えがお)が四つ、ほころんだ。明るい笑い声に吹きあげられ、桜の花びらが空高く舞いあがった。
四人は桜の花の下で、将来の計画を立て、未来のありかたを想像する。
それはきっと、素晴らしいものにちがいない。
