「ふぅ～～～～～～～～いい湯だ」
「ああ、本当にな」
　すっかり日も暮れ、のんびりと温泉を楽しんでいたのは辰巳とゲイル。
　実はこの二人つい先ほどまで行われていた卓球大会では、お互いをバリバリに意識し、双方が力でねじ伏せんとばかりに死闘を繰り広げていたのだが。
　そんな雰囲気は今は微塵も感じさせず、ゆっくり月を眺めながら余韻を楽しんでいるようだった。
「それにしても……この素晴らしい紅葉を見ながらの温泉は格別だな」
「全くだ。そしてそんな景色を見ながらの酒もまた……美味い」
　お猪口をぐびりと飲み干した辰巳にゲイルが程よく温まった酒をとくとくと注ぐ。
「しかし見事だった。温泉卓球では誰にも負けぬ自信があったんだがな」
「いや、今日はこちらに軍配が上がった。ただそれだけさ」
　お互い酒も進み饒舌になっていく。以前ゲイルが辰巳に今の日本を説明したときとは違う、もっと近く、もっとフランクな会話が弾む。
「しかしこんな日が本当に来るとはな」
「ああ。少し前までなら想像もできなかったな」
　そう言うと二人は顔を見合わせて笑う。
「今日はとことん付き合ってもらうぜ」
　酒の肴になりそうな話はいくらでもある。ゲイルの顔はそういっている。
「ああ、第２ラウンドだ。呑み比べなら負けはせん」
　こうしては夜は更けていく。二人の楽しげなやり取りは明け方まで続いたという。