プロローグ



●2008年(昭倭八十三年)――御崎衣緒(みさき・いお)
 御崎衣緒が床一面の紅色を血と認識するのに、時間を要した。
 理由は血を見慣れていないということもあり、同時にそれが血だと信じたくないということもある。
 理解すれば、それが致死量だということに気付く。医学は専門ではないが、素人目に見ても傷は深く助からないのは明らかだ。助からない。助けられない。二人を。久方一馬(ひさかた・かずま)と久方美優(ひさかた・みゆう)を。幼き頃からの親友を。
 傷は肩から走る複数の切り傷。だが切り傷の方向は同ベクトルだ。人間の力ではありえない傷跡だ。刃物ではない。重量で押しつぶしたような崩れた傷跡。例えるなら巨大な爪で裂いたような傷。一馬も、美優も似たような傷跡だ。
 妖-アヤカシ-。
 人ではない存在。二十年前に存在が確認され、今なおその生態が知れない存在。わかっているのはそれが人を襲うということと、人間を超える能力を持つということ。個体差は様々だが、この傷跡はそうとしか思えない。
 近くにその妖がいるかもしれない。ここから離れるか、それとも誰かに連絡を取る為に玄関に備え付けてある電話に走るか。それが賢明だ。だが、御崎が取った行動はそのどちらでもなかった。頭のどこかでその選択肢の正しさを認めながら――親友のほうに手を指し伸ばす。
「……衣緒……?」
 その気配に気付いたのか、美優が手を動かす。震える手がただ浮き上がっただけだが、その手を御崎は握り締める。もう力なく、冷たくなってきているその手を。
「何……貴方、泣いているの……?」
「当たり前じゃない……だって、だって一馬と美優、貴方達……」
 もう助からない。御崎はそう口走りそうになって嗚咽が漏れる。その事実を口にすれば、そのまま泣き崩れてしまいそうだ。
「ふふ……いつも無表情だからそういう感情がないのかな、って心配してたけど……そうでもなかったのね」
 力なく微笑む美優。命の灯火が見えるわけではないが、最後が近づいていることは明白だった。
 だから命尽きる前に、御崎に頼まなければならないことがある。何かにつけて研究ばかり、普通とは程遠い生き方をする友。だけど、信用できる友。三十年間の幼馴染。彼女になら、任せられる。ううん、彼女にしか任せられない。
「ねえ、衣緒……お願いがあるの。さいごの、おねがい」
「最後だなんていわないで……!」
「私たちの子を……真由美(まゆみ)と相馬(そうま)と……万里(ばんり)を……おねが、い」
「美優……?」
 ことり、と御崎の手から美優の手が零れ落ちる。
 ――後のことはよく覚えていない。事情徴収を受けて、気がつくとベットの上だった。どうやら一日近く眠っていたようだ。
 新聞の記事が、夢ではないことを教えてくれる。一馬と美優の葬儀を手伝い、彼らの三人の子供を引き取る。親族との間で揉めそうかと思っていたが、あっさりと快諾してくれた。
「……その子たちは、気持ち悪い」
「『目覚めた』人間と一緒にいると、怪我をする」
「ましてやその子達の『因子』は未来を――」
 人々が見せる奇異な視線。親族であっても自分とは異なる能力を持つものは恐ろしいのか。
 ……いや、怖がらない自分のほうが異様なのだ。御崎はそれを認める。『因子』に目覚めた『覚者』は人間ではないという考えを持つ者も少なくない。全ての人間がそうというわけではないが、確かにそういった考え方は存在する。
 かくして久方真由美、相馬、万里の親権は御崎に移る。この後、御崎は研究と子育ての多忙な生活を来ることになる。とはいえ長女の真由美はこの時十三歳。元々しっかり者だった彼女のサポートもあり、大きなトラブルもなく三人の子供達は育っていく。
「御崎さんって結婚しないの? 俺たちに気兼ねする必要ないのに」
「衣緒は相手がいないんだよ」
「しっ、万里ちゃん。そんなこと言っちゃだめよ」
「よーしおまえ達そこに直れ」
 両親を失った傷は時間と共に少しずつ癒えていく。
 それでもその傷は、確実に三人の子供達の心の中に残っている。

●1989年(昭倭六十四年)――始まりの覚者
 声が聞こえる。目覚めよ、と。
 今まで以上に世界に対する感度が高まり、今まで気付かなかったことが見えてくる。
 自分の体の中に特殊な『因子(いんし)』があることに気付く。それは人間を超える可能性。誰もが持っていて、だけど気付かなければ眠っているもの。遺伝子? 魂? エーテル? 運命? どこにあるかは分からない。だけどそれは確かに存在する。
 そして『源素-ゲンソ-』。この世界を構成する五つの力。
 木行、春に彩る花々や芽吹く植物の力。
 火行、夏に日出る太陽の熱や燃え盛る炎を示す力。
 土行、季節の変わり目を告げる万物育成の力。
 天行、秋の収穫を表す雷雲や激しい風雨の力。
 水行、冬の冷気を示す生命の源泉、全てを癒す力。
 それがあることは皆知っている。地球が丸いことを誰もが習うように、常識レベルで知っている。それを基礎とした学問も存在する。
 だがそれを直接手にして、操ることができることを始めて知った。人の意志と動作だけで『源素』を操り、形にする。それが真実に目覚めし者『覚者(トゥルーサー)』と呼ばれる者。
 この力はなんだろう?
 この力に何の意味がある?
 この力をどう使おう?

 その後、様々な『覚者』が生まれていく。
 ほぼ同時期に発生した『妖』と呼ばれる存在に対する対抗手段として力を振るうものもいた。
 自らの欲望の為に力を振るうものもいた。
 力を極めるために山に篭るものもいた。
 自らの力に溺れ、暴走するものもいた。
 様々な『因子』が存在することが分かり、様々な『源素』の使い方が分かってきた。
 だが、分からないことも多い。
 全ての『覚者』は日本を離れると、何故か力が使えなくなるのだ。
 これは日本にある何かが起因しているものだと思われるが、それがなんなのかは未だわかっていない。
 だが、それを知ろうと思うものは少しずつ減ってくる。大多数の組織が巨額の金をかけるも手がかりすら見出せない状態なのだ。なによりも世間の状況がそれを行う余裕をなくしている。
 人を襲う妖の存在。『覚者』の力による事件。その事件に対する一般人から『覚者』へのヘイト。
 力の正体などどうでもよかった。日々の安全を優先する為に、力の原理を解明しようとする重要性は後ろ回しになっていく。引き金を引けば弾が出る。それだけで十分だった。

●2010年(昭倭八十五年)――防人裕次郎(さきもり・ゆうじろう)
 防人裕次郎はデスクの上で多くの書類の処理をしていた。書類の内容は日本各国の妖の事件や、それに関わる被害報告などである。被害の中には器物破損から人的被害も含まれ、頭を悩ましている事項の一つである。
 AAA(トリプルエー。Anti-Ayakasi-Association)……妖対策局の仕事は、妖から人間を護ることにある。それは凶暴な妖の矢面 に立つ事であり、命の危険も当然存在する。同僚は戦闘のダメージで引退したか、墓の下か。生きている自分が奇跡的なのだろう。
 第二次妖討伐抗争で受けた傷により、防人自身も前線脱退を余儀なくされた。そのときの功績もあり、今では指揮と後方支援の両方を担っている。これはこれで重要な役割で、ここが滞ると実際に妖と戦っている人間に情報や物資が届かない事になる。
 そして防人が常日頃から感じていることは、
「手が足りんな」
 その一言に尽きる。AAAは巨大な組織であるが、様々な問題が山積みだった。
 先ず妖の行動。徒党を組む者もいれば、個体で動くものもいる。その生態は正直把握し切れていないのが現状だ。妖が始めて発見されたが昭倭六十三年。それから二十年近く経つのに、それを詳しく研究できているものは少ない。
 次いで環境。妖対策で武装する組織も増えてきたが、その矛先が全て妖に向いているわけではない。武装した集団が犯罪に走るなどで治安悪化の要因となっている。互いの利権の違いにより、各組織で足を引っ張り合う状況になっていた。
 そして最大の問題が人材。日本全国でゲリラ的に起こっている妖事件に対し、動因できる隊員の数が少なすぎる。妖に対抗する精鋭を教育するのに時間がかか ることもあるが、組織内の派閥争いが柔軟な対応を難しくしている。AAAは巨大な組織だが、それゆえに人も多く、その分争いも存在する。
 今はなんとか対応できる。先の第二次妖討伐抗争において野心的な妖は地に潜ったからだ。だが散発的に妖は出没している。事件はどこかで起きているのだ。神出鬼没の妖の動きを予測することは難しく、基本的に事件が起きてからの後手対応になる。
 表向きは妖の事件は減ってきているが、妖が勢力を盛り返せばどうなる? 大妖の一角を崩したとはいえ、全てを倒したわけではないのだ。それを思うと防人は暗澹とした表情を浮かべる。杞憂であればいいのだが。
 思考はデスクの電話が鳴ることで現実に引き戻された。ディスプレイに表示された文字を見て、陰鬱な気分が加速するがそれでも出ないわけには行かない。三度目のコールで受話器を取る。
『防人二等、今よろしいか?』
 電話の声は堅く、そして大きい声。受話器を少し耳から離し、防人は口を開く。
「問題ありません、東野二等」
 自分の担当とは異なる区域の指揮官だ。彼のチームは妖撃破率は高いが、部隊の損害も必要以上に高かった。AAAを軍隊と勘違いしているのか、必要以上に部下に無茶を強いることもあるという。
『防人二等は地方の妖対策として『現地対妖組織との情報共有』を具申したようだな』
「ええ。AAAと地方の団体との連携により情報収集を強化し、同時に交流を重ねることで――」
『防人二等、AAAは民衆の盾にして矛だ。それが民と手を結ぶなど言語道断!』
 予想通りの返事だ。防人は苦笑しながら反論を続ける。
「しかし手が足りないのは事実です。それに我々では知りえない情報を得ることができるかもしれません。現にそのお陰で解決できた事件もあります」
『そんなものはAAAだけでも解決できた。出来ないというのなら鍛練が足りんのだ!』
 東野はAAAのみで妖を退治すべきだ、という思想に浸っている。無論可能ならそうあるべきだ。だがそれが容易ではないという現実を、努力不足と理由付けて目をそらそうとしている。
 とはいえそのスパルタにより部下が鍛えられて事件が解決する一面もあり、一概に否定はできない。事実、彼のような考え方をするAAA職員も少なくない。
『とにかく! この件については一旦保留させてもらおう。情報収集なら効率のいい諜報の教育方法を考えたほうがいい。以上だ』
 受話器から通話を切った音が聞こえ、防人は肩をすくめて受話器を戻す。東野の情熱は素晴らしいが、それで妖の被害を防げるかというと別問題だ。
 彼はまだいいほうで、中には露骨に自分の派閥に有利になるような意見を議題に上げるものもいる。組織間の連携がうまくいかなければいけないのに。
 今のままでは妖対抗は遅々として進まない。それは明白だった。AAAの組織力がなければ現状維持は難しい。だが巨大組織のデメリットが足を引っ張っている。已む無きことだが、だからといってこのままでいいわけがない。
 妖の情報に詳しく、且つAAAに依らない妖に対抗する組織。それがあれば理想なのだが……。

●2013年(昭倭八十八年)――御崎衣緒と防人裕次郎
 始まりの覚者から四半世紀たった今でも、『源素』に関する研究はあまり進んでいない。
 その数少ない源素の研究所に『五燐大学考古学研究所』がある。若くしてその所長に就任した御崎衣緒の元に一通のメールが届けられる。

『○月×日 13:00 京都駅のカフェで』

 実際の集合は一時間ほど遅れることになった。先に来ていた御崎は暇そうに二杯目の珈琲をおかわりする。相手の仕事上、予定通りにいかないのは先刻承知だ。
 こういうとき個人で連絡がつく携帯用の通信機があればいいのだが、と思う。昔どこかの会社が開発していたらしいのだが、妖発生と同時に奇妙な電波が散乱し、通信用電波が除去不能なノイズまみれになったとか。そんなことを思い出す。
「あー、スマン。遅れた」
 疲れが含まれた声に振り向けば、そこにはコートを着た一人の男。防人裕次郎だ。
「いいのよ。どうせ仕事が入ったとかそんな理由でしょう。一時間は許容範囲だわ」
「会議が無駄に長引いてな」
 店員に珈琲を頼みながら、防人は席に座る。そういう役職だからとはいえ、日に何度も会議をすれば気も滅入る。通常の業務も滞っているのに。
「AAAの二等様も大変ね。高給に見合うだけの仕事みたいで」
「ああ、最近は会議と書類で手一杯だ」
 防人は店員が持ってきた珈琲を口に含む。独特の香が鼻腔をくすぐり、脳がすっきりして眠気が薄れていく。
 御崎と防人の関係は俗に言う幼馴染だ。幼少のころからの付き合いで、共に激動の時代を駆け抜けてきた。就職を期に会う機会も減ったが、それでも年に何度か時間を見つけて会うことはある。そんな関係だ。
「本当に大打撃だったみたいね。第三次妖討伐抗争は」
 御崎が告げる言葉に言葉が止まる防人。そのニュースは記憶に新しく、メディアもその話題で持ちきりだ。
 第三次妖討伐抗争。大妖の一角である《『新月の咆哮』ヨルナキ》とその一派を討とうと大規模な人数を投入した戦いだ。AAAはこの戦いで敗北を喫した。ダメージを受けたAAAが組織再編にかなりの時間がかかることは、第三者の御崎でも分かる。
「まあな」
 渋面を隠そうともせず、短く答える防人。AAAの敗退は世間に広く知られている。今日の情報伝達速度を考慮すれば、下手な情報規制は混乱を招く。その判断が功をなしたか混乱は予想以上に早く収まり、世間は妖に対する自衛を高める方向に進んでいる。
「……本当はおまえのヨタ話の為に時間を割くのも惜しいんだがな」
「失礼ね、ヨタだなんて。私はいたって本気よ」
 御崎は唇を笑みの形に変える。知っているさ。こいつは勝利を確信したはこんな笑い方をするんだ。防人は額に手を当てる。時間がないといいながらやってきた時点で、詰みへの道が決まっているのだ。
「『F.i.V.E.』(ファイヴ)……五燐大学の考古学施設の中にそんなものを作ろうだなんてな。職権乱用にも程がある。多くの『覚者』を集めた組織を施設内に作り、様々な活動を行うとはな」
 防人は事前に御崎に見せられた資料をカバンから出す。そこには大学内にある様々な施設の説明が書かれてあった。様々な『覚者』を擁するための宿泊施設や 研究の為の器具。そして各種協力者の名前など。一朝一夕では為しえないほどの組織である。おそらく彼女は、ここ数年をこの為に費やしていたのだろう。
「名目はあくまで『力の根源を解明すること』よ。かつて『覚者』と思われるものがいた文献もある。つまりこの力のルーツは大昔にある。
 確かに証拠のないヨタ話だけど、調べてみる価値はある――」
「ああ、そこまでならいい。正直理解の外だが、学説なら好きなだけ挙げてくれ。『遺跡発掘』『覚者の捜索、確保』……成程納得はしよう。問題はその後だ。
 何故活動内容に『妖などの討伐』が含まれる? はっきり言って危険すぎる」
 防人の言葉に、御崎は指を三つ立てて……薬指を折って二本にした。
「理由は三つ……いいえ二つあるわ。
 一つは『覚者』の登場と同時に多くの妖が発生したこと。なんらかの因果関係があるのは確かだけど、それを解明するにはやはり妖と相対する必要がある」
「あいつらは人間の敵だ」
 AAAの二等はにべもない。
「そうね。その認識は正しいのかもしれない。間違っているのかもしれない。それを調べるのも目的よ。
 二つ目は自衛の為ね。昔の遺跡を調べて呪い殺されたりそこに住んでるモンスターに襲われる、って言うのは良くあるパターンだし。『死の翼触れるべし』とか『全ての希望を捨てよ』とかそういうヤツよ」
「……お前は映画の見すぎだ」
「今まで伝承だった妖が跋扈しているのよ。実際、遺跡発掘中に妖に襲われたケースもあるわけだし」
 それは人気のない遺跡で少数でいたら襲いやすいからだろうが、その危険性を排除できない。危機感を抱くこと自体は悪くないのだ。
「で、裕次郎に協力して欲しいのよ。AAAの情報を渡せとは言わないけど、妖を退治した時の便宜を図って欲しいの。なんならあなたの手柄にしてもいいわ」
 防人はAAAの現状を思い出しながら、御崎の言葉を反芻する。数年前に危惧した通り、妖が勢力を盛り返して大打撃を受けた。AAAはその回復と再編で手一杯だ。手が足りないの状態から猫の手でも借りたい状態になったといえよう。渡りに船とはこのことか。
 だが、確認しなければならないことはある。
「その前に一つ答えろ、衣緒。さっき理由は三つと言いかけて二つに訂正したな。
 三つ目の理由は存在するが言えない。そういうことか?」
「たいした理由じゃないから下げただけよ」
「――久方の子供達か?」
 時々この男は核心をついてくる。御崎はカップを持つ手を震わせ、平静を装った。ばれてはいるのだろうが。
「『覚者』と一般人の軋轢。それをどうにかしようとしているな、衣緒。あの子達が平和に過ごせるように」
 真由美、相馬、万里。久方の子供達のことは防人も知っている。親を妖に殺された子供達。御崎が引き取り、長女はもうすぐ成人だったか? 『因子』に目覚めたことで奇異の目で見られることもある。
「いいや、あの子達だけじゃない。『覚者』全てを助けようとしているんだろう。
『覚者』を使って妖から人々を守り、そうすることで両者の壁を崩すために。そのために何年もかけて、組織を作ろうとしたんだろう。そのために誰もが敬遠する危険な妖退治をやろうとしているのか」
「ビラを配って声を上げるだけじゃ、差別は消えないわ」
 返す御崎の言葉は、冷徹だった。現実を知った人間の覚悟の現れ。
「不公平と叫ぶだけじゃ現実は変わらない。不幸と嘆くだけで英雄は現れない。だからやるのよ。この『F.i.V.E.』で
 ああ、勿論『力の根源の解明』もやるわ。全部纏めて片付けるのよ」
 御崎はその覚悟の眼差しで防人を見る。その視線に諦めのため息をつき、防人は答えを返した。
「分かった。実際のところ渡りに船だ。協力してやる。
 だがあくまで協力体制だ。そっちに俺の部下を出向させて指導する形を取らせてもらう」
 防人は立場上AAAを離れるわけにはいかない。そのために信用できる者をアドヴァイザーの形で任命し、連絡体制をとるのだ。妖と対抗するなら、相応の経験者がいたほうがいいだろう。
 よし勝った。心の中で勝利を喜ぶ御崎に、防人が一つ条件を追加する。
「後もう一つ、無茶はするな。いいな!」
「はいはい」
 ……完全勝利とはいかなかったか。思わぬ一言に釘を指された気分になり、平面で適当に相槌をうつ御崎。
 ただまぁ、本気で心配してくれる幼馴染の言葉に若干嬉しくもあったのだが。

●2015年(昭倭90年)以降――あなた
 様々な理由の元に『F.i.V.E.』にやってきた『覚者』。
 力の謎を知りたいもの。
 力を試したいもの。
 力により迫害を受けたもの。
 力で何かをなし得たいもの。
 理由は様々だ。
 不安も大きいが、同様に期待も大きい。この先どんなことが待っているのだろうか?
 二つの気持ちと自分だけの理由を胸に秘め、貴方は『五燐大学考古学研究所』の門をくぐった。




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