イメージシーン




 夜の彼方が燃えている。

 白線の消えたアスファルトの上だった。遥か、彼方、大きな赤い炎が空を駆けてやって来る。
 それを、悠然とした佇まいの黒軍服の男――メルクール・T・リリエンクローンは道のど真ん中で眺めていた。
「妖(アヤカシ)……Irrlicht、この国のお言葉では鬼火、ですかな?」
 思い返すのは《儚(ひとゆめ)の因子》を持つ未来予報者の言葉。告げられた『未来』を、メルクールは思い返す。

 ――あれを放置すれば、たくさんの被害者が出る。

「然らば、倒さねばなりませんな」
 相変わらずメルクールはその場から一歩も動かない。その間にも鬼火が迫る、真正面から全てを燃やし尽くさんと迫り来る。それでも男は落ち着き払っていた。

 何故なら彼は、《械(からくり)の因子》を持つ覚者(トゥルーサー)なのだから。

 キリ、と。
 男の手足から音がした。黒服の下、メルクールの手足は《械の因子》特有の球体関節人形の如くと成っている。それがキリキリ。キリキリキリ。明らかな駆動音。
 瞬間、だった。
 メルクールの右腕が巨大な機関銃に。左腕が大磁力砲に。

 戦闘形態へと変形する。

「械(ロボット)は変形する、とお家で習いませんでしたかな? さて……科学と神秘の超融合、しかとその目に焼き付けるが良いですぞ!」
 向けた右腕。並んだ大口径。発砲。一斉。大量の弾丸が嵐の如く鬼火へと襲いかかる。銃声は饒舌。これぞ正しき『マシンガン』トーク。がなる。がなる。
 その弾丸は彼が自らの異能――五行術式の土の力を用いて作り出した、大地の弾丸。たかが石や砂鉄達、けれども、超圧縮され超速度で撃ち出されればその破 壊力は一般の弾丸を軽く上回る。かの隕石だって突き詰めれば『物凄い速さの石ころ』だ。そして何より、土さえあれば弾切れなんて起こらない。
 砂嵐ならぬ石嵐。メルクールの猛襲に鬼火の姿が揺らいだ。崩れる。否――それは数多の火の蝶が集まって形成されていたのだ。赤い蝶が弾丸を掻い潜り、男を取り囲み、四方八方、炎の翅で。
 だが、妖が彼を傷つける事は能わず。
 先ほどは弾丸となった大地を、今度は堅固な鎧としてメルクールが纏ったからだ。
「ここが地球である限り。この世の全ては私の武器庫であり、戦場であり、手中ですぞ」
 纏った大地で銃剣を取り付けた兵器腕を振るい、周囲の蝶を薙ぎ払い。また一つの火となった妖へ、メルクールは左腕を向けた。
 大磁力砲が赤く光る。ごうんごうん。奇怪な駆動音が響き、発射されるのは魔的磁力波――その神秘を強いて科学で変換するなら電子レンジが妥当だろう。もっと分かり易く言うならば、『当たった奴はタダでは済まない』。
 その言葉通り、破壊の波動を当てられた鬼火は――花火の如く、爆裂して夜の中に消え散った。永遠に。

「任務完了」

 踵を返した軍靴の音が、夜に響く。



ここはミラーサイトです