イメージシーン



「わぁぁぁぁぁあああ! やめてください虐めないでくださぁいぃーうわーあ!」
 白髪の少女が雪道を駆けていた。
 ……と、表現するには状況が特殊すぎる。詳しく述べておこう。
 少女の肩甲骨辺りにはミニマムな翼がついていて、どうも肉体から直接生え出ているものらしく、時折ぱたぱたとネコのしっぽよろしく揺れていた。
 名を文鳥つらら。翼(ハバタキ)の因子をもった翼人(ツバサビト)なる者である。
 それが気に入らないというわけでもあるまいに、少女の後方それも高度10mほどの高さを氷塊でできた怪鳥が追尾していた。人間大はある大きな鳥である。鳥は奇怪な泣き声と共に周囲の空気を凍らせては氷の柱を作り出し、少女に向けて次々と放っていた。
「うわぁぁぁ私は食べても美味しくな――ほびゃあ!?」
 柱の一本が少女の後頭部に直撃。もんどりうって転倒し、顔で雪道を数メートルほど滑走した。
 がばりと身体を起こし、首を振る。雪やら土やらが辺りに散った。
「うえぇ、なんで私ばっかり虐められるんですか、何が悪いんですか日本の政治が悪いんですか。あぁぁぁダメダメこんなことしてたら教授に怒られるぅ……はうわ!?」
 大きな影が自らの真下を覆ったことに気づき、少女ははっと振り返った。
 先刻の倍ほどもある氷の柱が飛来したのだ。
 柱は地面に突き刺さり、周囲の土やら雪やら雑草やらをまき散らした。
 あわや少女は冷凍ハンバーグかと思いきや。
「うぅえーえ、ごめんなさいごめんなさい!」
 少女は頭を抱え、空を鳥のごとく飛んでいた。
 背部の翼は先刻の倍以上に広がり、強く激しく羽ばたいている。
 少女は両腕をばたばた動かし、柱か何かの形を作る。
 すると手元に身の丈ほどの氷の柱が出現した。特殊な現象によって固定された溶けない氷である。これが彼女の武器であり、いわゆる魔法の杖である。
 仮に、氷柱御柱(つららおんばしら)と呼んでおこう。
「えっと、こうして、こうして……こう!」
 少女が杖を振り回すやいなや、周囲に氷の槍が次々に出現した。
 彼女のあやつる水の術式がなせるわざである。
 空中で氷の柱と柱が無数にぶつかり合い、そして。
 氷と翼の空中戦が、今まさに始まろうとしていた。



ここはミラーサイトです