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死は誰にでも平等に訪れる、なんてのはやはり生者の言葉であるわけで。多様に文化発達した社会ではその思考ひとつにしても無限にカテゴライズされるだろ う。己一個の生にに拘る者も居れば、子々孫々という経脈に尽力を賭す者も居る。生命を物理学的に解明しようとする傍ら、死を寿命ではなく認知度であると捉 える者も居る。
死は多様である。ある者にとって、死は絶望である。かと言って、絶望はおいそれと容認できるものでもないのだ。嗚呼、ないのだ。ないのだとしたら、死は終点ではない。認められなければ、恨んででも現世にしがみつくしかないのであれば、そうあるしかない。だから。
「誰を恨んでいいがわがらんばい、誰も彼もを恨っで見るしかながろうもん」
周りの彷徨う死者共を眺め、その女は聞き取りにくい言葉で呟いた。安いドラマに登場する方言キャラのような違和感。つまりはそういうものを見て彼女、ミリアルデは日本語を学んだのだろう。
取り囲む群れ。肉か、霊か、定かではない。そういえば、この国は火葬主義であったか。ならば肉はあるまい。精々が骨であろう。ゾンビーはこの小さな先進国の文化には存在しないのだ。昨今はよく逆輸出もしていると聞いてはいるが。少しだけ、思考がぶれる。
「けんど、目的も意志もなぐふらふらと。男子のやってええことではなか。成仏、させちゃるき―――」
瞬間、ミリアルデは吠えた。暗闇の中でよく響く。犬の遠吠えは魔除けである。市井がそれを聞いて戸を固めるように、人ならざる者にも咆哮は恐れるべき攻撃性の示唆なのだ。それに効果の程があったかは定かでないが、そのひとつで彼女は己を獣にスイッチさせる。
肉食獣の足。彷徨う者共の中を駆ける。駆ける。本身を抜き振れば、炎を纏った刃が夜闇を舞った。
斬る。斬る。斬り払う。斬り撫でる。斬り刻む。斬り裂かれた死者が燃えていく。傷口が、刀傷が、切断面が燃えていく。インフェルノ。死者に炎獄となれば、地獄も先取りというものだろう。
赤と橙の焔。断末魔の呻きさえ焼き払い、駆け抜けた奇跡を炎熱が示している。
「まあ、往生しいや」
納刀の金属音。静けさを取り戻す夜。指先に出した小さな灯火。それが消えた後には、細巻きの点灯だけが闇の中で揺らめいていた。
