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 春風は肌に心地よく、まるで心に染み入るよう。
 夜空はまるで吸い込まれるように暗く、そこの浮かぶ星が美しい。
 それは平和な春の一夜。
 だが、それでも妖怪は跋扈する。夜は彼らの領域だから。
「月に群雲、花に風……じゃな」
 榊原・源蔵はゆらりと歩きながら目の前の妖に向かって口を開く。
 カマイタチの三兄姉弟。三位一体の風の妖。そのカマで人を傷つけるモノ。
 名月に雲がかかる様に、花に風が吹き散らすように。人の営みを切り刻もうとする妖。
「ま、おぬしらにも色々あるんじゃろうが止めさせてもらうぞ」
 カマイタチがこのまま進めば、直進上にある家で惨劇が起きる。
 夢見が見た未来、それを夢にするためにトンファーを構える。腰を僅かに下ろし、足をカマイタチの方に向けた。
 手の甲に淡く光る炎の紋様。春の穏やかな空気が、熱気孕んだ戦場のものに変わる。
 その空気を感じたか。あるいは源蔵の闘気に押されたか。
 カマイタチは三匹同時に動き出す。長兄が転ばそうと足を狙い、次男が転んだ隙を突いて一閃。長女がサポート。まさに三位一体の連携だった攻め。
 初見なら間違いなく食らっていただろう攻撃は、
「ほ。万里嬢ちゃんのいうとおりじゃな」
『未来』を知る源蔵にはお見通しだった。迫る長兄の攻撃を前に出ることでかわし、間合いをつめられた次男に向かいトンファーを振るう。回転させて遠心力を加えた一撃がカマイタチの腹部に穿たれる。
 崩れた連携は、しかしすぐに立て直される。この連携こそがカマイタチの強み。
 されど『すぐに』の狭間を許さぬが達人。源蔵の紋様が強く光り、トンファーが炎に包まれる。トンファーを中心に螺旋を描くように炎が走り、源蔵の一撃を強化する。
 一撃。さらに一撃。炎のトンファーが舞う。武器は拳の延長。そう思わせるほど自然にトンファーを振るう源蔵。その一撃ごとに確実に次男は弱っていった。
 五行と武の一体化。彩(いろどり)の因子を持つ精霊顕現と呼ばれる覚者(トゥルーサー)の闘い方の一つ。
「まだやるか?」
 言葉が通じるとは思わないが、挑発の意図は読めたようだ。カマイタチは源蔵の言葉に牙を剥く。
 炎と風の夜舞踏。それは始まったばかりだ。



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