バレンタイン&ホワイトデー2018 SS

 


 ふと、見上げると時計の針が午後九時を回っていた。
 水部 稜(CL2001272)はイスに座ったまま、背筋を伸ばした。
 つい先ほどまでたくさんの同僚が残って仕事をしていたが、今日がバレンタインデーと言うこともあって全員が帰宅していた。残っているのは稜一人である。
 この時間ともなると、昼間の喧騒が嘘のように事務所内には物音一つ入ってこなくなるのだが、今夜は違った。
 室内に響くノックの音――。
(「こんな時間に……だれだ?」)
 ドアを開けると、天野 澄香が(CL2000194)立っていた。
「どうした、こんな時間に? ……まあ、中に入れ」
 とりあえず、応接間に通す。澄香を来客用のソファに座らせると、自分も対面のソファに腰かけた。
 どうにも気まずい。
「そうだ。お茶を――」
「今日は……バレンタインデーなので……」
 腰を空に浮かせたまま固まっていると、澄香はカバンの中から赤いリボンのついた包みを取り出して差し出してきた。
「あ、ああ。そうか、今日は……。毎年気を遣わせてすまんな」
 ソファに腰を落とすと、ぽすっと間の抜けた音がなった。
ありがとう、と礼を言って包みに手を伸ばす。
「違います!」
「え?」
 澄香が顔を真っ赤にして立ち上がった。
 とくん、と心臓が跳ねる。
「違います。気を遣ったんじゃなくて……その、ほ……本命チョコなんですっ」
 胸の内で心臓が暴れ出した。ドキドキやかましい。
 ああ、そうか。そうだったんだ。
稜はゆっくりと立ち上がった。
「――――」
 彼女の思いと一緒に本命チョコを受け取りながら、いま自分が何と言ったのか。
高鳴る胸の鼓動に邪魔されて聞こえなかった。

●発注キャラクター●
天野 澄香
水部 稜

担当ST:そうすけ
イラスト:moufu

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