クリスマスSS 2016
ビアカフェMaltは本日貸し切り。
窓の外には夜の帳。
硝子の向こうは風が冷たそうだけれども店の中は温かい。
シャンパングラスの並んだテーブルの上には、クリスマスの定番料理が並んでいる――のだけれど、いくらか物足りない。
「これで料理は揃ったでしょうか?」
「今持ってきてくれたのがあるから、あとは大物だけだろう」
茶色のタートルネックの肩にクリーム色のカーディガンを羽織ると指差して料理を数えていた藤 壱縷の視線が止まる。る。カトラリーを並べていた志賀 行成は、壱縷がそわそわし始めた先に目を向ける。特に変わったところはないように思うが、近寄ると違和感があった。
よくよく見れば、誰かがぶつかったのだろうかバランスを崩したツリーの星。なるほど、背の高いツリーの一番上には壱縷の手は届きそうにない。適材適所、これはこちらの仕事だろう。行成は星を頂上に飾り直すと、窓に背を預けてくつろいだ笑みを浮かべる。
運んできたチキンレッグの皿をテーブルに置いたついでのように、飾り棚のスノーマンの頭を撫でた三島 柾が、磁器に金属の当たる音――要は食器のカチャカチャ音――に気がついた。
「何を食べてるんだ?」
「先に味見させてもらってるぜ」
成瀬 翔はフォークの先に残っていたスポンジを、名残惜しそうに口に運ぶ。一口サイズのミニケーキはこれですっかりお腹の中。その一方で柾に今左手に掴んだものは何だ、と突っ込まれてニッと笑った。美味しそうなものはできたてから確保しておきたい、それが食いしん坊系男子の本能ってものだ。口がもぐもぐ動いてるのはもうひとり。
「生クリームが残っちゃったらもったいないですからね!」
めかしこんだ工藤・奏空の、ちょっと大人ぶった感じの装いはその手にした料理とにんまり笑顔で相殺されている。生クリームと一緒に溶いた卵を薄く焼いて包んだその上に、ケチャップ文字がXmasと踊る、店主特製オムライスはなかなかのお味。
白いリブニットセーターに赤い、ミニ丈のハイウエストスカートで上品ながらもクリスマス感のあるコーデに身を包んだ三峯・由愛は、そわそわとした様子でキッチンの方を見守っていたが、それに気づくと手を打ち鳴らして楽しそうな声を上げた。
「みなさん、主役が来たみたいです!」
皆が一斉に、同じ場所へと顔を向ける。ちょうどMaltの店長である阿久津 亮平が入ってきたところだ。焦げ茶のソムリエエプロンを巻いた彼の、頭に被っているのは赤白はっきりした色合いのサンタ帽。手にした大きな銀色のトレイの上には、これもまた赤白のコントラストが美しい、苺をふんだんに使った亮平お手製クリスマスケーキが載せられている。
「ほう、これは凄い」
「うわー!」
「可愛らしいです」
……などなど口々に騒ぐ面々に、大きなトレイを手にした亮平は「もうちょっと待ってね」と微笑み、ケーキをそっとテーブルに置いた。
ケーキは、昨日の朝から準備を始めたものだ。ケーキに使うスポンジは焼きあがったばかりのものよりも、それくらい寝かせた物の方が良い。それを生クリームとイチゴでデコレーションして、仕上げにチョコのプレートと砂糖菓子のサンタを乗せた、渾身の一品。
「美味しそうだね、これってすぐに切り分けちゃうのかな?」
ケーキを覗き込んで感嘆の声を上げた京極 千晶は、トナカイだった。見た目的な意味で。よく量販店で売っているものよりちょっと良質な作りをしたトナカイデザインのルームウェアは、薄手ながらにフリース素材が温かく、耳とツノには芯が入った本格派。
「すぐに食べるよりも、少し置いてからの方が生クリームが馴染んで美味しいからね。これは、デザートのとっておき……かな」
なるほど、と料理の得意でないものはうなずき、料理を得意とするものや手伝ったものは期待に笑みを零す。
さあ、これで今日のメニューはすべてそろった。
テーブルの上に並ぶ皿を見回すと、亮平がゆっくりと頷く。
「じゃあそろそろ、始めようか」
「やったー!」
「もう腹ペコだぜ!」
「さっきのチキンはどうしたんだ」
「グラスは行き渡っていますか?」
「大丈夫だろう。中身もみんな入っているな」
「うふふ、どれも、とっても美味しそうです!」
「それじゃ、パーティーの始まりだねー!」
千晶が言うと同時に引いた、宴の始まりを告げるクラッカーの音も高らかに。
『Merry Christmas!』
8人の声が揃い、グラスが掲げられて。
クリスマスパーティーのはじまりはじまり。
未成年もいるので、中身がいつものメニューにあるアップルソーダなのはご愛嬌。
お酒の用意もあるけれど最初はみんな一緒で、ね。
窓の外には夜の帳。
硝子の向こうは風が冷たそうだけれども店の中は温かい。
シャンパングラスの並んだテーブルの上には、クリスマスの定番料理が並んでいる――のだけれど、いくらか物足りない。
「これで料理は揃ったでしょうか?」
「今持ってきてくれたのがあるから、あとは大物だけだろう」
茶色のタートルネックの肩にクリーム色のカーディガンを羽織ると指差して料理を数えていた藤 壱縷の視線が止まる。る。カトラリーを並べていた志賀 行成は、壱縷がそわそわし始めた先に目を向ける。特に変わったところはないように思うが、近寄ると違和感があった。
よくよく見れば、誰かがぶつかったのだろうかバランスを崩したツリーの星。なるほど、背の高いツリーの一番上には壱縷の手は届きそうにない。適材適所、これはこちらの仕事だろう。行成は星を頂上に飾り直すと、窓に背を預けてくつろいだ笑みを浮かべる。
運んできたチキンレッグの皿をテーブルに置いたついでのように、飾り棚のスノーマンの頭を撫でた三島 柾が、磁器に金属の当たる音――要は食器のカチャカチャ音――に気がついた。
「何を食べてるんだ?」
「先に味見させてもらってるぜ」
成瀬 翔はフォークの先に残っていたスポンジを、名残惜しそうに口に運ぶ。一口サイズのミニケーキはこれですっかりお腹の中。その一方で柾に今左手に掴んだものは何だ、と突っ込まれてニッと笑った。美味しそうなものはできたてから確保しておきたい、それが食いしん坊系男子の本能ってものだ。口がもぐもぐ動いてるのはもうひとり。
「生クリームが残っちゃったらもったいないですからね!」
めかしこんだ工藤・奏空の、ちょっと大人ぶった感じの装いはその手にした料理とにんまり笑顔で相殺されている。生クリームと一緒に溶いた卵を薄く焼いて包んだその上に、ケチャップ文字がXmasと踊る、店主特製オムライスはなかなかのお味。
白いリブニットセーターに赤い、ミニ丈のハイウエストスカートで上品ながらもクリスマス感のあるコーデに身を包んだ三峯・由愛は、そわそわとした様子でキッチンの方を見守っていたが、それに気づくと手を打ち鳴らして楽しそうな声を上げた。
「みなさん、主役が来たみたいです!」
皆が一斉に、同じ場所へと顔を向ける。ちょうどMaltの店長である阿久津 亮平が入ってきたところだ。焦げ茶のソムリエエプロンを巻いた彼の、頭に被っているのは赤白はっきりした色合いのサンタ帽。手にした大きな銀色のトレイの上には、これもまた赤白のコントラストが美しい、苺をふんだんに使った亮平お手製クリスマスケーキが載せられている。
「ほう、これは凄い」
「うわー!」
「可愛らしいです」
……などなど口々に騒ぐ面々に、大きなトレイを手にした亮平は「もうちょっと待ってね」と微笑み、ケーキをそっとテーブルに置いた。
ケーキは、昨日の朝から準備を始めたものだ。ケーキに使うスポンジは焼きあがったばかりのものよりも、それくらい寝かせた物の方が良い。それを生クリームとイチゴでデコレーションして、仕上げにチョコのプレートと砂糖菓子のサンタを乗せた、渾身の一品。
「美味しそうだね、これってすぐに切り分けちゃうのかな?」
ケーキを覗き込んで感嘆の声を上げた京極 千晶は、トナカイだった。見た目的な意味で。よく量販店で売っているものよりちょっと良質な作りをしたトナカイデザインのルームウェアは、薄手ながらにフリース素材が温かく、耳とツノには芯が入った本格派。
「すぐに食べるよりも、少し置いてからの方が生クリームが馴染んで美味しいからね。これは、デザートのとっておき……かな」
なるほど、と料理の得意でないものはうなずき、料理を得意とするものや手伝ったものは期待に笑みを零す。
さあ、これで今日のメニューはすべてそろった。
テーブルの上に並ぶ皿を見回すと、亮平がゆっくりと頷く。
「じゃあそろそろ、始めようか」
「やったー!」
「もう腹ペコだぜ!」
「さっきのチキンはどうしたんだ」
「グラスは行き渡っていますか?」
「大丈夫だろう。中身もみんな入っているな」
「うふふ、どれも、とっても美味しそうです!」
「それじゃ、パーティーの始まりだねー!」
千晶が言うと同時に引いた、宴の始まりを告げるクラッカーの音も高らかに。
『Merry Christmas!』
8人の声が揃い、グラスが掲げられて。
クリスマスパーティーのはじまりはじまり。
未成年もいるので、中身がいつものメニューにあるアップルソーダなのはご愛嬌。
お酒の用意もあるけれど最初はみんな一緒で、ね。
